高分子の高機能化には一次構造の設計と複合化による設計の2種あり、開発の容易性において後者の方が経済的な視点から優位である。
一次構造の設計では重合条件が障害となる。すなわち机上で理想的な一次構造を設計できたとしても重合できなければ、あるいは側鎖の化学修飾にしても合成できなければその機能性を確認できない。
それに対して複合化による材料設計は、混練機が手元にあればおおよその検討をつける実験を容易にできる。但し、それが量産で再現できるかどうかは別の問題だが、とりあえず機能の確認をするためのモノを作ることができる。
複合化で高機能化が期待できる結果が得られたならば、タグチメソッド(TM)を行うとロバストの高い高機能性高分子ができる。
高分子の重合特許よりもコンパウンディングに関する特許の方が圧倒的に出願件数が多いのはこのような容易性からも説明ができる。
高分子の高機能化において工業的にはコンパウンディング技術が重要になってくるが、実はこの技術に関する形式知は少ない。論文を読んでもそこに書かれた結果を手元の混練機で再現できない場合も存在する。
また混練プロセスにおいて、バンバリーとロールの組み合わせによるバッチプロセスは、連続プロセスよりも高性能のコンパウンディングが可能である。しかし、この経験知はあまり知られていない。また樹脂をロールで混錬すると説明した時に笑う技術者もいるから面白い。
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20年近く前、すなわち早期退職前に担当した中間転写ベルトの開発は、データサイエンスを積極的に取り込んだモデルベース開発の集大成となった。
数理モデルにより、開発ターゲットのふるまいを企画段階に考察する手法は、研究開発を成功させる有効な方法である。数理モデルとしてどのようなものを考えるかは、技術者の力量によるが、力量が高ければ、アジャイル開発も可能となる。
タグチメソッドや多変量解析による考察は数理モデルで設計する一手法である。中間転写ベルトでは、6年近く前任者が国内トップメーカーと共同開発を続けたデータが存在したので、当初これらのデータを多変量解析で処理している。
その結果、コンパウンドに問題があるとの結論に至り、カオス混合をコンパウンドメーカーへお願いすることになるのだが、QMSの仕組みもあり、量産まで半年という状態で頭を抱えた思い出がある。
そこでパコレーションシミュレーションをみなおし、6ナイロン相にカーボンを分散させ、それをPPSに分散させたベルトを押出成形してモデルベースデザインを実証するのだが、必死だった。
カオス混合装置を手作りし、それでPPSと6ナイロンが相溶し、わずかにスピノーダル分解が起きる機能で形成されたカーボンのクラスターがドメインをつくり分散した理想的なコンパウンドを創造した。
センター長に予算交渉し、コンパウンド開発のために中途採用1名と職人1名、当方含めて3名でコンパウンド工場立ち上げプロジェクトグループを立ち上げた。
その後は以前書いているので省略するが、モデルベース開発は、研究開発を著しく加速する。企画から量産立ち上げまで半年で、コンパウンドだけでも数億円の利益の出る技術が完成できるのだ。
数理モデルで現象を考察するコツは、ただ、ひたすら黙って現象を観察すればよい。会議で「素人は黙っとれ」とコンパウンドメーカー部長に言われたのだが、その結果当方を黙らせるために工場見学の機会ができた。
ところが、二軸混練機のラインが稼働しているだけの何の工夫もない工場だったので、これでは歩留まりをあげるコンパウンドを生産するまでに時間がかかると納得している。今タイヤ工場の見学が難しくなったが、ゴム工場のコンパウンドラインは技術を感じることができるラインである。
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導電性微粒子を絶縁体高分子に分散し半導体高分子を設計するときに、導電性微粒子の導電性が銅と同じくらい高いと10の9乗Ωcmの材料を安定に製造することが難しくなる。
これを昨日書いたようなシミュレーターで考察すると、半導体高分子を安定に製造するためのアイデアが容易に見えてくる。数式でシミュレーションしていたのでは直感的にアイデアへつながらない。
すなわち、非科学的なシミュレーターであっても良いアイデアが出てくるのだ。むしろ数式で考えるよりも良いのかもしれないと思っている。科学的にこだわっていてもアイデアが出なければ仕方がない。
詳しくはこのホームページで募集してるセミナーを受講していただきたいが、希望者がいれば土日に開講することも可能である。土日であれば一人でも特別サービスで1万円で講義を行っている。
平日が3万円なのに土日が1万円であることを不思議に思われるかもしれないが、平日は企業の方の受講を想定し、土日は個人のスキルアップを目標に受講されるのではないかと期待している。
当方は企業を退職するまで土日に勉強していたが、このようなセミナーがあれば便利だと思っていた。自分が受講したいと思っていたので、今それを実現している。土日はストレス解消に弊社のセミナーを受講してみてはいかがでしょうか。是非お問い合わせください。
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高純度酸化スズゾルを用いた透明導電薄膜の技術が科学的に否定された背景には、パーコレーションという現象が1990年頃材料技術者に知られていなかった問題がある。
パーコレションという現象は数学者により1950年代から議論されてきたが、それが材料の混合技術において分散現象と関わる重要な議論と広く材料技術者に知られるようになったのは、1990年以降である。
その原因は、材料の混合分散について混合則(あるいは複合則)で議論されてきたからである。また、スタウファーにより体系化された浸透理論をそのまま材料技術者が理解するには難しすぎた。
また、数式により表現されてもそれをそのまま現象理解に結び付けられるかどうかは、データサイエンスで材料技術のアイデアを練る手法理解で要求される「苦痛」を我慢できるかどうか、という問題と似ているところがあった。
ここで「苦痛」と表現したのは、科学の方法こそ技術開発で許される唯一の方法と信じている人には、データサイエンスで示された答えを受け入れるだけでも耐えがたい感覚になる人がいるからである。
当方はそのような人が引き起こした事件のために新事業をゴム会社で起業しながらも転職しなければいけない状態に追い込まれている。
データサイエンスの研究は科学であっても、それを材料技術に応用する、あるいは問題解決法として利用するときに非科学的という感覚になる人がいる。
また、タグチメソッドは1990年代に普及が始まったが、30年以上経った今でもその手法をご存知ない方が多い。これは、指導側の問題もあると思い、弊社ではデータサイエンスの視点で学びやすくした教材を用意している。
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高純度酸化スズゾルを用いた透明帯電防止層の製造は科学的に不可能、と否定証明が展開された論文により、写真フィルムの透明帯電防止層の材料として高純度酸化スズゾルが否定されたので、イオン導電性高分子が写真会社で使用されていた。
ATOやITOなどの材料が研究対象として選ばれなかったのは、ライバル会社から多数の特許出願が成されていたからである。ライバル会社からは組み合わせ特許も含め3000件近い発明が公開されていた。
この多数の発明を整理してみようと思い、特許を取り寄せ読み込んでいったところ、1980年代の中ごろから戦略出願されていることに気がついた。
すなわち、それらより以前に出願された特許には、特公昭35-6616が登場するのだが、戦略出願されるようになってからは、その存在が隠されるような表現になっていた。
今となっては笑い話にもできるが、当時小西六工業時代の特許を詳しく知っている技術者が一人もいなかったのだ。特許庁まで出向き、その周辺も含め特許を調べたところ、その特許1件だけがぽつんと出願された状態だったことに驚いた。
また、出願企業を見て衝撃を受けている。転職先の図書室で過去の研究報告書を調べたところ、ホコリをかぶっていた廃棄予定の段ボール箱の中から、写真業界における帯電防止技術と書かれた冊子を見つけた。
その冊子には番号が付けられ、限定された数だけ社内に配布されたとあった。しかし、その限定版が廃棄予定の箱の中から出てきたのだ。これ以上は書かないが、帯電防止の基盤技術が社名の変更とともに無くなったことを知った。
さて、このような状態で否定証明された酸化スズゾル技術を再度企画として提案するにはどうしたらよいのか。この答えは日本化学工業協会から技術特別賞を受賞した年に日本化学会春季年会で「温故知新の技術」として問題解決法も含め講演している。
否定証明された企画を再度復活するには、プレゼンテーション能力だけで解決できない問題が発生する。この酸化スズゾル技術の復活企画をしているときに、自費で会社で使用するノートPCを購入しなければいけない状態(注)になっている。
(注)MS-DOSの時代に、職場のPCは1台を数人で共同使用する状態だったので、データを職場のPCのハードディスクに保存することができなかった。しかし、企画途中のデータがFD数枚になったのでハードディスクなしに作業ができなかった。これ以上は書かないが、否定証明された企画を復活するときには、それなりのリスクが存在することは知っておいてほしい。
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金属酸化物は酸素欠陥を生成しやすいので、その電気物性を科学的に議論するときには単結晶の測定データが用いられる。しかし、公開されているデータの中には、単結晶の合成が難しい、という理由で多結晶体の測定結果があるので注意する必要がある。
酸化スズの電気物性について科学的に正確なデータが測定されたのは1980年代である。無機材質研究所で構造欠陥の無い単結晶が製造されて、高純度酸化スズが絶縁体であることが確認された。
ゆえにITOやATOに導電性があるのは、不純物の添加により酸素欠陥が生成するためであり、それにより半導体領域から導電体領域までの電気特性が発現する。
1980年代に初めてこれが証明されたのだが、透明導電体は1960年代から蒸着法で製造されたITOが実用化されていた。また、このころ世界で初めて非晶質高純度酸化スズゾルの導電性が今は存在しない小西六工業(株)の研究者により発見されている。
小西六工業(株)からは特公昭35ー6616という特許が公開されるやいなや、写真界の巨人イースタマンコダックや当時セルロース製造会社から生まれたばかりの会社から技術に追いつこうと特許が多数出願されている。
小西六工業(株)は静電気の研究でトップを走っており、当時今でも通用する帯電防止に関する技術体系が生まれている。ゼロックスから複写機が発表されてすぐにユービックスを商品化できたのはその基盤技術が存在したからである。
日本が帯電防止の研究で世界トップレベルだったことを知ったのは、ゴム会社から転職し、酸化スズゾルの導電性について否定証明が成された社内研究論文を読んだことがきっかけである。
無機材研の研究成果を知っていたにもかかわらず、その社内研究報告書に疑問を感じたのは、当方の転職の原因が電気粘性流体耐久性問題に関する否定証明をひっくり返し、その結果当時推進していた住友金属工業とのJVの業務妨害を受けるようになったトラウマからである。
すなわち、「また、否定証明か」というデジャブのような気持ち悪さからである。酸化スズ透明導電薄膜の研究に初めて接したにもかかわらず、その否定証明の論理展開に恐怖さえ感じている。
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SiCの合成法については、エジソンがダイヤモンドを作ろうとして石英るつぼでカーボンを蒸し焼きにしたところSiCを製造できた話は有名である。弟子のアチソンがそれを実験してダイヤモンドに次ぐ硬さの材料を発明したので、アチソン法と呼ばれている。
また、その材料はカーボランダムと呼ばれたのだが、今も昔もこの方法が主流である。但し、アチソン法はαSiCを製造する方法で、βSiCを製造する方法はシリカ還元法だと主張する人もいる。アチソン法もシリカ還元法とみなせるので話がややこしい。
ただ、高純度SiCの製造法になると、1980年代まで経済的な方法は存在しなかった。SiCの高純度化はレイリー法で実験的に行われていた。当方が発明した前駆体を無機材質研究所で処理し高純度SiCを製造したのが世界初であり、基本特許が出願されている。
その後、けい素源となるけい素の低分子化合物とアセチレンを気相で反応させる研究が盛んに行われ、一部新日鉄で実用化されたが、コストは当方の方法よりも高かった。
ポリエチルシリケートは、大量に購入すればkgあたり1000円以下であり、高純度フェノール樹脂も低価格なので、高純度SiCは、kgあたり5000円前後で合成可能となった。大量に合成すれば価格は下がる。
この前駆体法の優れているところは、この欄で書きにくいが、ひと手間かけるとSiCウェハーの原料となることだ。ご興味のあるかたはお問い合わせください。
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5年以上研究開発が行われ、量産試作段階でも歩留まり10%未満の押出成形による部品があった。時折30%近く歩留まりが上がることもあったので、量産が決まったのだが、半年後には80%以上の歩留まりにしなければ、大赤字になることが予想されていた。
コンパウンドを外部の国内一流コンパウンドメーカーから購入し、押出成形を内製化しており、コンパウンドを外部から購入するサプライチェーンと配合の変更は、QMSの仕組み上不可能だった。
そのような段階でリーダー交代を引き受けた。さて、どのように問題を解決したらよいのか。このような問題では、故ドラッカーが著書に書いていたように、正しい問題を明らかにすることが重要である。
経験知から、押出成形では、コンパウンドの出来が悪ければ、絶対に良い成形体ができない、といわれているので、たとえ世界的に有名なメーカーのコンパウンドであっても出来が悪いのは明らかだった。
5年以上の開発期間で採取されたデータをデータサイエンスにより解析してみても、コンパウンドのロットばらつきが大きいことが示され(注)、コンパウンドを改良しなくてはゴールを実現できないことは明らかだった。
過去のデータを解析すると、さらに現在の配合のままでもコンパウンドの構造ばらつきを制御すれば目標の表面比抵抗を実現できることが示された。ゆえに配合処方を変更しなくても大丈夫であることは、多数のデータから確信できた。
ゆえにコンパウンドメーカーが高次構造を制御するためプロセシングを変更してくれれば、歩留まり80%以上の実現が可能と見通すことができたので、リーダーの交代を引き受けている。これはデータサイエンスの成果である。
過去データの解析以外に、プロセシングを変更した時のコンパウンドについてその高次構造も含めたゴールを明確にする必要があった。さて、どうしたらよいか?これもやはりデータサイエンスで解答を導くことが可能であり、データサイエンスによる問題解決法のセミナーでその手法を公開している。
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(注)単相関で眺めていても気がつかない問題だった。
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マテリアルズインフォマティクスが騒がれて7,8年経った。最近は高分子と機械学習を短絡的に結びつける発想に疑問を持つ人も多くなった。
当たり前である。高分子物性の変化あるいは機能の発現は線形モデルで議論できる場合が多い。SSカーブでさえ線形モデルで扱い、タグチメソッド(TM)を行っても、最適な制御因子を選ぶことが可能だ。
また、当方は50年近く前から多変量解析を使用し、高分子材料の開発を行ってきたので、データサイエンスに関する開発事例を多数持っている。
データサイエンスを材料研究に用いることが非科学と否定されても、それが日科技連の新QC7つ道具に書かれているという理由で、迫害に近い妨害を受けても使い続けた筋金入りのデータサイエンス研究者である。
結局命が惜しくて転職しているが、材料科学にデータサイエンスを用いて問題解決することが、それほど他の研究者に嫌がられた時代があったのだ。信じられないかもしれないが、転職した当方がその証である。
データサイエンスそのものの研究は、科学でも、それを用いた材料の研究は、非科学となる。そのような時代がかつてあった。データサイエンスを用いて材料科学の問題を解くのはTM同様に技術の「メソッド」である。
このような視点で、材料科学だけでなく、食品や医療分野などすべての科学分野で用いるときに同様の観点でとらえるべきである。
また、データサイエンスを学ぶときにもそのような姿勢で学ぶべきである。それが、科学を科学として成立させるために必要である。
もっとも、科学と非科学の境界は時代とともに変化するというイムレラカトシュの言葉もあるので、TMはじめデータサイエンスによる材料科学の問題解決を科学の方法とするのも一つの考え方であるが、故田口先生は、科学の研究を行うぐらいなら基本機能の研究を行え、と言われていた。
だいたい、人類の文明がすべて科学の成果という考え方が間違っており、科学の成立していなかった時代にも科学と異なる方法による成果で文明が進歩してきた歴史に気がつくべきである。
E.S.ファーガソンは、「技術屋の心眼」の中で科学以外の方法による成果に目を向ける必要性を指摘している。科学をさらに進歩させるためには、科学以外の方法による技術開発の手法も体得すべきである。
大型コンピュータを活用し50年近く前から材料科学に応用されていたことをご存知ない方が多い。弊社は豊富な成功事例を活用したセミナーを問題解決法として展開しています。ご相談ください。
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高分子を不燃化することはできないので、その難燃化技術が1970年代から盛んに研究され、リン酸エステル系難燃剤や臭素系難燃剤が1990年ごろまで多数開発された。
2000年前後までこの難燃剤開発は続けられたが、最近は新難燃剤の話題を聞かない。起業後PH01という難燃助剤に相当する材料を開発している。
ただ、難燃剤よりも高い価格なので普及していない。原料価格から大量に生産すれば価格が下がると思っている。中国のローカル企業がこの性能に興味をもってコロナ禍前にいろいろと検討してくれたが、価格がネックとなり用途が広がっていない。
その検討過程でPPSの結晶化抑制剤としての機能が発見され、その実用化が進んだが、使用量が少なく価格を下げるまでに至っていない。
難燃剤の話に戻るが、昔難燃剤は安いものなら200円/kg程度のリン安があったが、その添加剤としての機能から用途が限られた。ホスファゼンは2000円/kgであり10倍の価格にもかかわらず、万能だったので盛んに検討された。
しかし、その価格がネックとなり電子部品分野以外の用途に広がっていない。汎用樹脂の難燃剤は、高いものでも1000円/kg未満の材料が選ばれている。
素材分野ではコストパフォーマンスで用途が決まるので、多数の難燃剤がこの50年間に開発されたにも関わらず淘汰が始まっている。商品として残しておいてほしい化合物がいくつかあり、市場原理に悩んでいる。
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