酸化スズゾルとラテックスを用いたパーコレーション転移の実験は、パーコレーション転移の制御にケミカル因子とプロセス因子がどのように関係するのか整理するのに便利である。
ラテックスは、数10nmから数100nm、酸化スズゾルは1nm前後の一次粒子が金魚のウンコのようにつながった粒子で、どちらも一定の大きさを持ったコロイドである。またラテックスのTgが80℃以上の高分子ラテックスであれば、乾燥過程で両者の粒子が壊れることがない。
ラテックスに酸化スズゾルを凝集しないように添加してよく撹拌する。この手順だけでもパーコレーション転移の制御因子が幾つか含まれている。例えばラテックスのpHや溶液の温度制御などの因子でパーコレーション転移は影響をうける。何も制御しないでこの作業を行った場合に、沈殿や凝集といった現象が起きる場合もあるが、詳細はコンサルティング内容になるので省略する。
実は二種以上のコロイド溶液を安定に分散する技術は難度の高い技術である。運良く沈殿が生じていないように見えても、混合時に小さな凝集体ができたりしている。目視で見えない凝集体をどのように観察するのかも容易ではないがこのあたりも含め、研究を行いパーコレーション転移とは異なる分野で写真学会から賞を頂いた。
この手順において幸運にも沈殿や凝集がまったく発生せず均一に安定に分散した二元系のコロイド溶液が得られたところから話を続ける。ワイヤーバーを使用して、表面処理されたPETやTACなどのフィルムにこのコロイド溶液を塗布する。この段階でもパーコレーション転移は影響を受ける。
塗布後の乾燥条件もパーコレーション転移に影響を与える因子だ。乾燥後の熱処理でもパーコレーション転移は影響を受け、冷却過程を得て帯電防止薄膜となるのか単なる微粒子分散薄膜になるのかは処方次第である。
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バインダー高分子と導電性微粒子の二元系シミュレーターでも分散パラメーターを導入すると実際に生じるパーコレーション転移の現象に近づけることができる。現実系との関係が希薄なパラメーターを導入して行うシミュレーションにどのような意味があるのか、という疑問がわくかもしれない。
パーコレーション転移は微粒子のクラスターのつながり具合で物性が大きく影響を受ける現象である。クラスターの構造と現象との関係を知るだけでも大きな意味がある。例えば一次粒子の凝集体が分散して生じるパーコレーション転移を考えてみる。
凝集体が均一の場合と不均一の場合の二通りが考えられ、それぞれ特徴あるパーコレーション転移が生じる。詳細はコンサルティング内容となるのだが、この結果が分かるだけでも材料設計に有用な情報となる。
写真会社で製品化された技術の特許がすべて公開されているので詳細は特許をご覧頂きたいが、酸化スズゾルを用いたときに生じるパーコレーション転移について無知であったためにおかしな事が起きていた。
小西六出願の特公昭35-6616は、透明導電体を写真フィルムの帯電防止材として活用した世界で初めての大変重要な特許だが、この出願後ライバルの写真会社からアンチモンドープの酸化スズを用いた発明が20世紀末まで大量に出願されている。
1991年に転職した会社では、酸化スズの技術はライバル会社の技術と信じている人ばかりであった。そしてライバル会社の特許に書かれているように酸化スズゾルには導電性が無いために帯電防止材として使用できない、という伝説ができていた。
ゴム会社でセラミックスの研究開発をしてきたおかげで、セラミックス粒子に関する心眼があったので、伝説に疑問を持ち特許を整理してみた。そして古いライバル会社の特許から特公昭35-6616の存在を知った。またその頃の特許にはゆず肌とか粒子の凝集とか分散に関わる用語が多く、パーコレーション転移の問題で苦しんでいることが伺われた。
古いライバル会社の特許に書かれた比較例の実験結果と特公昭35-6616の実施例の結果との違いをシミュレーションで考察するためにプログラムを組んでみたところ、酸化スズゾルに導電性があるという結果を出せた。
すなわちライバル会社の特許の思想は、酸化スズゾルに導電性が無いためにアンチモンドープの酸化スズが好ましい、という構成であったが、それはパーコレーション転移という現象を隠して特許を成立させるための方便だったのだ。
パーコレーション転移については古くから数学者により議論されていたので、パーコレーション転移をよりどころに容易性でいくつかの特許の成立を防ぐこともできた、と思われる。技術が無いために実験で現象の再現を難しい時にはコンピューターシミュレーションが極めて有効である。知財戦略担当者は参考にして欲しい。。
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導電性粒子を高分子バインダーに分散して生じる現象について考えようとすると、とたんに難しくなる。例えば導電性粒子がカーボンでバインダーがPPSの場合を考えてみる。PPSはカーボンをカミコミにくい樹脂として知られている。PPSの分子構造からはカーボンとの濡れが良さそうなイメージを受けるがベテランに尋ねるとカーボンとの相性が良くない樹脂、という。
カミコミの悪い樹脂にカーボンを分散するには分散剤を添加する、という技術手段がとられる。バインダーと粒子という二元系の問題が三元系の問題になってゆく。このような状態になってくると、コンピューターの中のパーコレーションのように科学的な確率で議論できる明確な問題ではなくなってくる。
バインダーである高分子と、添加剤、カーボンの三元系でそれぞれの相互作用を考慮してシミュレーションを行う、というアイデアが浮かぶが、経験からそれぞれの相互作用を考慮しただけでは説明できない現象が思い浮かぶ。
例えば導電性微粒子を分散したフィルムを押し出したときに表面と裏面でカーボンの分散状態が異なる現象が起きる。プロセス因子が絡んでいるのである。溶融状態の対流現象や冷却過程における熱伝導などを考慮しても実際のプロセスは非平衡の場合が多く、現象の数学的扱いが困難になる。
科学的なシミュレーションが困難でも、フィルム成形やベルト成形などの押出成形やゴムの加硫、射出成形、塗布などのフィルムの表面処理等微粒子分散系について多くの成形加工プロセスを経験すると現象を頭の中に再現することが可能になってくる。E.S.ファーガソンの言葉を借りると心眼で見えるようになってくる。
不思議なことだが、この心眼が働くようになるとコンピューターシミュレーションを活用してアイデアを導き出す事が可能になる。すなわち二元系のシミュレーターに心眼で見えた分散を再現できるようにプログラムを組み、コンピューター実験を行うのである。
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1991年10月1日にゴム会社から写真会社へ転職した。前日までゴム会社に勤務していたのでこの月は給与明細書が2通ある。年金も両方の会社から支払われている。高純度SiCの事業を諦め趣味でその研究を続けながら、新たに高分子科学の勉強を始めた。たまたま最初に東工大住田教授の論文を読んだところ、シミュレーションプログラムを趣味で作成していたパーコレーションの話が書かれていた。
転職するきっかけとなったERFでは、粒子がクラスターを作り、そのクラスターの性質で機能が制御されるところはパーコレンションそのもの。30年前にプログラミング言語Cに興味を持ち、LatticeCという処理系を使ってプログラミングの勉強をしていた。勉強を進めるため、パーコレーション転移のシミュレーター開発を趣味で日曜日に自宅で楽しんでいた。
転職後帯電防止技術を担当することになり、その技術にパーコレーション転移が関係している、と直感的にひらめいた。高分子の専門家でないことが幸いした。作りかけていたプログラムを早く完成させるために会社でもプログラミングを始めた。管理職として転職したので数ヶ月は自由な時間を取ることができた。
シミュレーターが完成後、帯電防止層の導電性のシミュレーションに応用したところ現象をうまく表現できた。パーコレーション転移をコンピューターの中で再現するのは簡単である。導電性粒子間に相互作用が働かないときには確率過程で生じる現象だからである。ゆえにこの条件でパーコレーション転移がどのような挙動をとるのか科学的にコンピュータを使用して調べることができる。
パーコレーションの理論についても40年以上前に数学者についてボンド問題とサイト問題として議論されn次元のパーコレーションまで解かれている。すなわちその現象が科学的にほとんど解明され、スタウファーによる優れた教科書も発売されている。しかしこれはあくまで導電性粒子間に相互作用が無い、という前提である。
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高純度SiCをフェノール樹脂とポリエチルシリケートから製造する技術は、前駆体の合成から高純度SiCの合成成功までたった4日でできあがった技術である。現在の製造方法は有機酸触媒が当時のスルフォン酸系からカルボン酸系に変更されたくらいである。
さらに技術構想や綿密に練られた事業シナリオが最初にあったわけではない。フェノールフォーム天井材の開発テーマが完了したときに、大量のフェノール樹脂を処分するつまらない作業を面白くするために遊びでフェノール樹脂のネットワークに分子レベルのシリカ成分を固定する作業をしていて思いついた。
たまたま世間でセラミックスフィーバーが起こり、会社の事業方針にファインセラミックス事業が設定され、無機材質研究所に派遣される、という状況で鼻歌まじりにゴミ捨て作業をしていた過程で技術シーズが生まれた。鼻歌を歌いながらSiCダイオードはじめ新規事業を推進する姿を想像しながら楽しんではいたが興奮するようなレベルまで至らなかった。
高純度SiCの事業をライフワークとして決意したのは無機材質研究所のI先生始め多くの先生方が真っ黄色のSiCをご覧になられて驚いたからである。1年前の白日夢が現実になったのである。留学前に無機材質研究所長と高純度SiCの事業の夢を語りあっても動機づけにはなったが、黄色い粉を見たI先生の「君はすごいよ」という一言ほどのインパクトは無かった。
もっともI先生の御指導を受けるためにI先生に高純度SiCの夢を入所前の面接で語ったが、語る本人も夢として語り、聞かれているI先生も若僧の背伸び程度に捉えていたと思う。ただ、実験に成功してからは、事業シナリオだけでなく学位取得に向けて研究シナリオも真剣に考えた。もしゴム会社で相手にされなかったとしても当時の状況から高純度SiCの技術を事業化したいメーカーが声をかけてくれる可能性が高いと期待できた30年前のことである。
Lely法は昔から知られており、SiCダイオードを開発するためにはSiCの結晶成長機構を解明する必要があった。当時諸説あったシリカ還元法の反応機構を解析すれば、ヒントが得られるのではないかと考えた。当時知られていたイビデンの縦型炉よりも高純度化に優れた電気炉を開発しなければならないと思った。一ヶ月ほどでおもしろい技術シナリオを作り上げることができたが、ゴム会社の研究所の管理職からは評価されなかった。
当時の人事部長はじめ本社の方々のご尽力がなければ、社長へ直接プレゼンテーションを行う機会も生まれなかった。周囲の方々の期待と努力を感じたのでゴム会社のためにJVを立ち上げるまで6年間頑張ることができた。そのため、研究所でFDを壊されるという妨害を受けたときに犯人捜しをしたことを今でも悔やんでいる。
長いサラリーマン生活で不測の事態が生じたら頭を隠して災難が通り過ぎるまでじっとしているのが一番である、と母親から教えられた。しかし研究の妨害をする犯人を黙認して許すことができなかった。静かにしていたら一度ならずも三度壊してきたのである。しかし企業内のこのような事件はうやむやになり、騒いだ人間が損をするのが日本社会である。事件を公にした結果ライフワークを諦めなければいけない事態になった。その数年後、この事件とは別の管理職による社長室乱入割腹事件がゴム会社で起きた。この事件は転職先の会社で臨時ニュースを見て知った。衛星放送でケネディー暗殺のニュースが伝えられたときよりもショックであった。
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高純度SiCの最もホットな用途は、SiCウェハーの原料である。SiCウェハーは、パワー半導体用基板として6インチウェハーが販売され、その競争は激化している。一年半前ゴム会社はSiCウェハー事業から撤退した。このニュースは、世界的に買収競争が激しくなっていた時期だけに驚いた。この分野ではトップのCree社と新日鉄住金が国内で提携したニュースが流れた直後だった。
SiCウェハーは、改良Lely法で主に生産されているが、新しい方法として液相から結晶成長する製造プロセスやCVDと同様の方法が知られている。液相から製造する方法は開発途上だが、結晶成長速度は改良Lely法並の1mm/hまで到達した。
改良Lely法では、昇華させるSiCに高純度原料を必要とする。この原料にはゴム会社で開発された高純度SiCの製造方法が最も経済的な方法として知られている。原料はフェノール樹脂とポリエチルシリケートであり安価である。さらに、昇華しやすい超微粒子をカーボンでサポートした原料も製造可能で改良Lely法の原料として優れている。
また、改良Lely法で種結晶の設置位置を上部ではなく下部にした製造方法の特許がゴム会社から出願公開されたが、これは結晶成長に必要なガス濃度の制御のしやすさも改善され良い方法である。ただ技術的な難しさは、上部に昇華させる原料を成形して設置しなければならない問題である。しかし、この問題も前駆体高分子を用いる高純度SiC製造方法であれば容易に解決できる。
このように現在SiCウェハー製造方法として主流の改良Lely法はノウハウの蓄積によりさらに改良され、液相法など新しい方法が登場してきてはいるが、まだ改良の余地があり技術の発展が期待される方法である。
液相法であるが、これはSi溶液にCrなどの金属を溶解させカーボンの溶解度を上げた液相を用いるが、Siウェハーと同様に種結晶を回転させて結晶成長させる。最近その回転を100rpm以上の高速で行うと成長速度が速くなるという技術が発表された。液相法は新日鉄住金が先行しているが将来改良Lely法を凌ぐ方法にまでなるかどうか不明である。理由は、結晶成長させる温度が100℃程度低いだけで高いエネルギーを必要とする。
しかし、技術開発では、際だった特徴が見つかると一気にその方向へ動くので、液相法も含め他の結晶成長技術から目が離せない。このような技術の過渡期にゴム会社が撤退した判断は、勇気ある正しい判断だったのか。ただ、開発の進め方として、半導体冶工具ではS社とJVですばやく事業立ち上げを行っているのに対し、SiCウェハーの開発では技術が先行しながらなかなか市場に出てこなかった不思議な戦略だった。学会賞の受賞でSiCウェハーの技術を公開していたにも関わらず、市場展開を積極的に行わなかったのが不思議である。
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前駆体を用いたシリカ還元法では、反応速度の解析により拡散律速でSiCが生じていることを示すことができた。有機物前駆体を炭化して得られた混合物を分析したところシリカとカーボンの混合物であることもわかっていた。ただシリカ粒子の大きさはナノオーダー以下(分子レベルと推定)で高解像度の電子顕微鏡観察(TEM)を行ってもシリカ粒子は見えなかった。
また恒温測定による熱重量分析で得られた重量減少曲線には、核生成過程と推定される重量減少が生じない時間が観察され、Si-Oの熱運動で構造が変わり、それが核に生成しているらしい様子まで現れていた。この生成した核へカーボンが拡散しCOを発生しながらSiC化してゆくのである。あるいは、拡散しているのはOやSiである、という議論も当時行っている。
恒温測定で得られた値、さらに精度をあげるため等速昇温測定まで行って得られた値などを比較し見積もると、400kJ/mol前後というカーボンの活性化エネルギーに相当する値が見積もられたので、この議論ではカーボンが拡散しているという結論になった。
この結果はSiCウェハーの製造に一般的に用いられている改良Lely法にも参考になる。改良Lely法で発生しているガス成分を調べると、SiやSi2Cであり、このまま析出したのではカーボンが不足する。しかし、反応をカーボンルツボ中で行っているので周囲にはカーボンが豊富に有り、活性化されたカーボンが拡散し結晶成長に使われていると思われる。すなわち、改良Lely法ではこのカーボンの拡散に着目したアイデアが重要で関心のある方は問い合わせていただきたい。
高純度SiCを有機物前駆体で製造するにあたり、その品質管理を熱重量分析で行う事を思いついたのだが、研究を進めたところSiCの結晶成長のヒントまで得られた。当時シリカ還元法のSiC化の機構では、気相のSiO生成が重要視され、カーボンを大過剰に用いるとともに、それをペレット化し、SiOガスが無駄にならないようにすることがノウハウとして知られていた。
しかし、新たに考案されたフェノール樹脂とポリエチルシリケートから製造される有機物前駆体を用いるとシリカとカーボンが化学量論比において反応させることができる。さらに従来法で悩まされていたウィスカーの副生も無い。3Cタイプの結晶だけを選択して製造することが可能である。
さらに分子レベルのSiCが分散したカーボンまで合成することが可能で、これは改良Lely法の最良の原料となる。面白いことに1700℃以上2000℃未満では、3Cのみ生成する。ただしこの温度領域でできる結晶の最大粒径は、4時間反応させても500ミクロン前後である。
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シリカ還元法の反応速度論を研究するには、1600℃以上の高温度で恒温測定が可能な熱重量天秤が必要になる。1600℃から2000℃の分析装置を設計するときに困ったのは部品の材料である。この高温度に曝される材料に酸化物を用いることはできない。理由は酸素の拡散が生じ反応に影響を与えるためである。
カーボンが最も安価な材料で加工しやすいが強度が不足する。試料セルだけ加熱でき、周囲の部品が1000℃未満であれば、石英やアルミナを周囲の部品に使用可能である。なんやかんやと30年以上前に真空理工(株)の担当者と議論し、YAGレーザーで加熱する方式を考案した。
すなわち光熱変換して加熱するのである。電気ヒーターとの違いは、電気ヒーターでは、電極を通じて熱が伝わるので周辺の設計が難しくなるが、レーザー加熱ならば高温度になる領域を試料系だけにできる。実際に組み立てて実験を行うと熱量が不足し温度が1500℃まで上がらない。
そこで赤外線イメージ炉との組み合わせで加熱する方式を考案した。赤外線イメージ炉で1000℃前後まで雰囲気を加熱しておき、試料セル近傍だけを1秒以内に2000℃まで昇温することに成功した。恒温測定を行うには十分なスピードである。
完成した熱天秤は、汎用の熱天秤の3倍の大きさになった。レーザー発信器や安全なエリアを確保するために装置が大きくなった。しかし、苦労した甲斐があり、実験データは狙い通りの結果が得られ、前駆体の品質評価に使用可能である。当時室温から2000℃まで加熱重量減少を計測可能な装置がなかったので特許出願まで行った。
この熱重量天秤を用いたSiCの反応速度解析では予期せぬ実験結果も得られた。すなわち前駆体の高次構造が異なると反応機構が変化する。SiOが関与する2段階反応はともかくもアブラミの式で整理できない反応も観察された。
詳細は省略するが、前駆体が均一にできていれば、均一素反応で反応が進行するが、前駆体が不均一の時に2種以上の反応機構が存在することも分かってきた。この装置を用いた反応速度論の論文を10年後発表したが、この論文についても苦い思い出がある。論文を見て頂けば分かる。
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フェノール樹脂とポリエチルシリケートを用いた高純度SiCの前駆体合成法は、第三者から見ると簡単に見える。しかし、ノウハウの塊で同じような反応物ができても良好な前駆体が合成されたわけではない。それでも1600℃以上で熱処理すれば高純度SiCとなり、問題が無いように見える。しかし、良好な前駆体を用いると粒度や結晶化度まで揃った高純度SiC粉末になる。
この技術を20年前学位論文にまとめたが、前駆体のノウハウについて記載していない。良好な前駆体ができたところから論文は始まっている。良好な前駆体を用いると均一素反応の取り扱いができ、SiC化の反応解析をできるのである。すなわち良好な前駆体とは、フェノール樹脂とポリエチルシリケートが分子レベルで均一に合成され、1000℃で熱処理を行ったときには、シリカとカーボンが分子レベルで化学量論的に均一に混合された状態を作り出す前駆体である。
この前駆体ができるまで、シリカ還元法によるSiC化の反応機構ではSiOの関与が示されていたが、良好な前駆体ではSiOを経由せず、直接SiC化まで進行することが解明された。すなわち、SiCの結晶成長はシリカを核として生じる。そしてSiC化の反応は拡散律速過程で進み、反応しながら結晶成長が進む。これはレーリー法でSiCウェハーを製造するときと同様の機構である。昇華法で結晶成長させるときには核がシリカと異なるだけである。
この研究成果を利用すると前駆体の品質管理が可能となる。すなわち良好な前駆体の場合にはSiC化の反応がアブラミの式で示される重量減少のプロファイルを示すが、うまく合成されなかった前駆体の場合には、従来のシリカ還元法の反応機構で反応が進行する重量減少を示す。
不良品ではどこが問題になるのか。それは不良品の状態によるが、1.副生成物としてウィスカーが生成、2.粒度分布が不均一、3.不純物酸素が残るなどの問題がある。このなかで3は、SiCウェハーの原料として使用するときに問題となる。
すでに基本特許の権利が無くなった技術であるが、多くのノウハウのためこの技術を実施している企業は少ない。特許情報によると某セメント会社はアルコール溶媒を用いて前駆体合成を行っているようだが、無溶媒で行う技術を開発できなかった可能性がある。
溶媒を使用すると経済性が悪くなる。本前駆体の原料価格は量産レベルで驚くべき低価格となる。ポリエチルシリケートは高純度であればゴミのシリケートでよく、フェノール樹脂もその原料は100円以下である。SiCウェハーの原料となる高純度SiCを、原料調達手段と合成ノウハウさえあれば、驚くべき低価格で合成できる。
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SP値あるいはフローリー・ハギンズのχは、二種の高分子の混合状態を予測するときに用いられるが、混合しようとする系で反応を伴うときには、これらの理論は当てにならない。リアクティブブレンドでもこれらのパラメータは重要だ、と言われるが、重要視しすぎるとアイデアを否定するパラメーターとなる。これらのパラメーターを扱う時には少し経験が必要である。
液状のフェノール樹脂にSiOユニットを含む様々な化合物を分散しながら、フェノール樹脂が固まるまでの変化を観察した。同じような大きさのχなのに樹脂の中のドメインサイズが様々に変化する。それが目視で分かる程度の変化である。シリカのドメインサイズの大きいフェノール樹脂の中には空気中で燃え続ける組成も存在した。
ミクロンオーダーのシリカ粒子の分散ではフェノール樹脂の難燃性を改善できないことが分かっていたが、すべて空気中で自己消火性を示した。空気中で燃え続けるフェノール樹脂は、廃棄物処理の実験で初めての体験である。シリカの分散状態で難燃性が大きく変化する現象を観察して、これをSiC合成の前駆体に用いることとその反応機構を解析すると前駆体の品質管理を容易にできる、という2つのアイデアが同時に浮かんだ。
開発テーマが終了し、不要となった材料の処理を行いながら面白いアイデアが浮かんだので処分に手間をかけて良かった。また、フェノール樹脂とポリエチルシリケートの混合は、うまくゆかなかった経験があり諦めていたが、放置しても5時間程度は相分離しない液体が得られたり、透明のまま固化した組み合わせが得られたり、予想以上の実験成果がでた。
再現性の問題や、材料の同定など行っていないので研究発表できるレベルの成果ではないが、フェノール樹脂と珪素成分を含む材料との混合について概略の傾向を把握する事ができた。しかし、概略の傾向であって、実験結果を統一的に説明できる成果では無い複雑な点が多い。おそらくその目的のために実験計画を組み実験を行っても見落とす可能性が高い。
この廃棄物処理の実験の半年後、同様の実験を行うことになるのだが、この日の実験の再現性の無さに悩まされることになる。すなわち同一条件でフェノール樹脂とポリエチルシリケートを混合しても相分離し、シリカが析出したのだ。
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