活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2013.03/31 三菱製ハイブリッド車の蓄電池問題

WEB上のニュースを調べていたら、三菱製ハイブリッド車のLi二次電池が焼け焦げた原因は生産ラインで金属片などの異物が入ったため、と報じられていた。新聞ではそこまで明らかにされていないが、三菱製ハイブリッド車の蓄電池は三菱自動車とGSユアサの共同出資で設立された会社で製造されている、という情報は公開されている。簡単に異物が混入するような蓄電池の製造ラインをGSユアサの技術者が設計するとは思えないが、もし異物混入が原因とするとボーイング社の蓄電池問題も再燃しかねない。ゆえに金属片混入のニュースはGSユアサ側了解の情報ではないだろう。

 

Li二次電池の構造は電極間にセパレーターが入っており電極間のショートが起きないようになっている。1980年代にはLi金属を負極に用いる研究が盛んに行われたが、Li金属を用いるとデンドライトの析出でこのセパレーターが破れLi二次電池が爆発した。ソニーが両電極をLiイオンのインタカレーションで充放電を行うLi二次電池を発売し、それがLiイオン二次電池元年とされている。

 

また、ソニーもLi二次電池の危険なイメージを払拭するためにわざわざLi「イオン」二次電池という名前で商品化している。すなわちLiは金属で存在せずイオンの形式で存在しているので安全である、と言いたかった。電解質に可燃性有機物を用いている以上危険であるにもかかわらず、Liがイオンで存在しているから安全、と言うには多少無理があるが。

 

昔ながらのマンガン電池やニカド電池では液漏れの事故で悩まされた。ただこれらの電池は電解質が水なので液漏れによる被害は爆発に至らず装置の電池室を汚染するぐらいである。Li二次電池では電解質が有機物なので液漏れは火災に直結する。ゆえに最近の電池は難燃剤を添加するか、あるいは不燃性化合物を用いている。しかし、それでも有機物なので高温で酸素に触れれば炭化する。

 

興味深いのはボーイング社でも三菱自動車の事故でも爆発炎上まで至っていないことである。これはGSユアサの技術力を示している。万が一のことがあっても爆発しない蓄電池ができている。液体の電解質を用いる以上電池で液漏れを100%防げないのでこれはすばらしいことなのだ。蓄電池分野のテーマで固体電解質の研究が40年以上続けられているのはそのためである。NaS電池は固体電解質を用いることに成功したが昨年爆発事故を起こしている。電解質は固体になったが、金属Naを用いた危険性を忘れている。

 

蓄電デバイスというものはエネルギーを貯めるデバイスなのでいくら設計が良くても使い方が悪ければ、基本的に爆発する危険性がある。3V程度で使用している限りにおいては大事に至らないが、複数重ねて高電圧で用いるときには、完成されたパワーマネジメントシステムが必要である。しかし特許を見ている限り化学屋を満足させるシステムはまだ無い。今世の中は蓄電池のエネルギー密度を上げることに必死になっているが、力を入れなくてはいけないのは蓄電デバイスのパワーマネジメントシステムの開発である。

 

 

カテゴリー : 電気/電子材料

pagetop

2013.03/30 パワーマネジメントシステム

昨日の記事及び過去の記事に関して問い合わせを頂いた。当方の業務にも関わるので詳細は省略するが、一口に言えば理想的な蓄電池のパワーマネジメントシステムとは何か、という質問である。この回答は蓄電池にやさしいパワーマネジメントシステムとなる。

 

蓄電池にやさしい、とは蓄電池に負荷をかけない、とか蓄電池を痛めないという意味である。例えば蓄電池は過充電あるいは通電し続けると劣化を早める。初期のLi二次電池は、インタカレーションタイプであり過充電に強い、と言われたが、それでも過充電を繰り返したなら劣化は早まる。

 

昨日のPC用蓄電池が膨らむ問題は原因が不明だが、店員からPCを100V電源につなぎぱなしにしたために膨らんだ、と教えて頂いたから、恐らく同様のクレームが多いのだろうと思う。また、そのような場合に充電を行わない、という仕組みが、リンゴのマークのPCに備わっていないのだろうと思った。専門店の店員の言葉なので、メーカーからのマニュアルがある可能性も高い。もしそうならば、何らかの理由でパワーマネジメントシステムに手抜きをしているのだろう。

 

蓄電池一つのセルの放電電圧は、充電されたLiイオン二次電池であれば3V-3.5Vなので、CPUを駆動する6Vとか12Vの電圧が必要ならば2つ以上のセルを組み合わさなければならない。もし家庭用の100Vのバックアップ電源として使用するならばさらに多くのセルが必要になる。

 

蓄電池それぞれに性能ばらつきがあるものを複数個重ねて使用するのでセル一つ一つを管理する仕組みが必要になる。すなわち蓄電デバイスの信頼性は、蓄電池一つの信頼性で決まらず、パワーマネジメントシステムととの組み合わせで決まる。

 

製品寿命の予測には最弱リングモデルから導かれたワイブル統計がよく用いられる。最近の蓄電池の信頼性データを持っていないので間違っているかもしれないが、仮に蓄電池を10個直列につないだデバイスを1セルずつ管理するパワーマネジメントシステムがある場合と無い場合とで寿命比較をしたならば10倍以上寿命に差が出るのではないか。

 

手元にパナソニック製の軽量ノートパソコンがある。8年前S社の軽量ノートパソコンが2年もしないうちに電池がだめになったので買い換えた製品だが、このパナソニックの製品は未だに電池は健在で、2時間以上100V電源無しで使用可能である。今時8年間も同じPCを使う人はいないと思うが、講演で持ち歩くのに重宝している。パワーポイントのバージョンがデスクトップPCと2世代異なっている点が不便なだけであるが、電池が壊れるまで使い続けたいと思っている。

 

消費者は実験のために複数同じ製品を購入することは極めて稀である。1台購入しそれがダメならば100%だめ、と判断するし、当たりの製品の場合には信頼性100%になる。このような心理的な影響はあるが、60年間の人生の記憶でも松下製やナショナル製、パナソニック製のテレビや冷蔵庫、電球の信頼性に対する印象は良い。

 

話がそれたが、蓄電デバイスの寿命を決めるのは、蓄電池の信頼性と同様にパワーマネジメントシステムの出来映えにも大きく依存する。蓄電池のパワーマネジメントシステムの重要性を知ったのは、ニコン製のカメラD2HをD3に買い換えたときである。充電器にキャリブレーション機能がついたのと、カメラ本体が電池の劣化度を示してくれる。さらにD2Hで派手に連射をしたときに電池が熱くなったが、D3ではそれが無くなった。特許を調べてみて電池よりもそちらのシステム開発の重要性を認識した次第。まだ技術革新の余地がある分野である。

カテゴリー : 電気/電子材料

pagetop

2013.03/29 三菱自動車のハイブリッド車問題

三菱自動車はかつてリコール隠しを行い、国内でシェアーを大きく落としそのまま回復していないメーカーである。そのメーカーのハイブリッド車のバッテリーが異常を起こして問題となっている。バッテリーは、ボーイング787のバッテリー問題で有名になったGSユアサのLi二次電池である。

 

原因の分かっていない段階でバッテリーのメーカー名まで明確に公開されてGSユアサも大変だろうと思う。現在のところ原因が不明ならば、バッテリーのメーカー名をふせるべきではないかと思う。自動車部品の問題はまず自動車メーカーの責任である。トヨタはバッテリーの問題が起きたときに必要が無ければバッテリーのメーカー名を公表しない。あくまで自社の責任として対応している。潔い。

 

三菱自動車はランサーエボリューションのような自動車好きには歓迎される車を最近作っているが、かつて一世を風靡したミラージュの復活では失敗している。新しいミラージュは安いだけで魅力の無い車だったから、と言われている。ハイブリッドブームで出した車で今回の問題である。外から見ていると会社の企画部隊に大きな問題がありそうな気がする。

 

トヨタ自動車は、ハイブリッド車を出すにあたり、Li二次電池採用に慎重であった。コストの問題、と思っていたらかつてアメリカで販売したプリウスでバッテリー火災を起こしており、それを扱った論文を見つけた。国内ではニッケル水素電池搭載車が販売されていたが、同じ時期に海外でLi二次電池車が販売されていた、と知って、トヨタ自動車の戦術のうまさに感心した。

 

有機電解質が使用されているLi二次電池に比較してニッケル水素二次電池の方が遙かに爆発リスクは小さいと言われている。このあたりの感覚は実際に開発を担当した人とそうでない人の間で差が大きいと思う。ブリヂストンではいち早くホスファゼン系難燃剤の特許出願を行っている。電気粘性流体用絶縁オイルの技術が生きた。

 

そもそも蓄電池というデバイスはエネルギーを貯めるデバイスなので爆発リスクを抱えている。電解質が水の場合には発熱で膨張するリスクぐらいであるが、有機電解質の場合には酸化して燃焼というリスクを考えなければならない。

 

Li二次電池の特許にはこのリスクの問題回避に関する内容が多い。例えば電解質に難燃剤を添加したり、不燃性のイオン性液体を用いたりする技術が公開されている。GSユアサのLi二次電池も同様の技術を採用しているようで、発火爆発という大事には至ってないようだ。まだそのようなニュースを聞いていない。この点でGSユアサはそれなりの技術蓄積を持っており信頼できるメーカーだと事故の新聞報道を読んだ今でも思っている。

 

一般的に二次電池の事故の場合に二次電池そのものが原因なのか使用方法が原因なのかわかりにくい。リンゴのマークのノートPCのバッテリーが春先に大きく膨らみ始めたので、クレームとして店頭に持って行ったら当方の使用方法に問題があったから有償修理だという。お客さんが悪い、と言うのである。当方はパワーマネジメントの仕組みが悪いと思っているが大人の対応をした。

 

PCを家庭用電源につなぎぱなしで使用してはいけない、と注意書きに書いてある、と言われた。分厚い注意書きだけの冊子など2年前に捨てたので記憶にないが、二次電池のことが分かっていたので素直に納得した。ようするにリンゴのマークのPCのパワーマネジメントシステムでは、過充電対策がされていないのであろう。

 

10年以上前に超薄型のノート、ということで飛びついて購入したら同様の体験をした。液晶で揺れているメーカーの製品だが、二度とそこのPCを購入しないことにしている。これら以外に二次電池の品質問題には何度も遭遇しており、その時対応が良かったのはパナソニックだけである。2年前のバッテリーでも異常の状態を見て無償交換してくれた。パナソニックは信頼できるメーカーの一つである。

 

三菱自動車のハイブリッド車では、まだ原因が解明されていない。ボーイング社の場合には二次電池に問題の無いことを早々と公表した。事故の状態から賢明な処置だと思う。今後三菱自動車がどのような対応を行うのか興味深い。対応の仕方が悪ければお客は二度とそこの製品を購入しなくなる。GSユアサの責任にするのかどうかが注目ポイント。もしGSユアサの責任となればLi二次電池の市場からGSユアサははじき出される可能性もある。GSユアサは日本を代表する蓄電池メーカーである。

カテゴリー : 電気/電子材料

pagetop

2013.03/28 樹脂と油のケミカルアタック

樹脂と油の組み合わせで生じるケミカルアタックに限定してのべる。

 

樹脂と油のSP値が近いと付着した油が樹脂に拡散し、可塑剤として働き弾性率の低下を引き起こしたり、成形時の歪みが残っている場合には高分子の緩和が促進され、ひどいときには内部に破壊の起点となり得るボイドが発生したりする。

 

油が付着していた部分に力がかかっていなければ破壊に至ることが少なくケミカルアタックに気がつかないが、応力がかかっていた場合にはケミカルアタックにより材料の破壊が生じる。これはUVや酸化により引き起こされる高分子材料の劣化とは明らかに異なる劣化現象である。

 

油の分子量が大きければ拡散速度も遅くなるのでケミカルアタックの問題に気がつくのが遅れる。高分子量のグリースの場合には数年後にケミカルアタックと気がつく場合もある。低分子量の場合には拡散が早いので1週間程度でケミカルアタックに気がつく。しかし低分子量の油の場合には揮発もするのでケミカルアタックに至らない場合もある。

 

応力がかかっていて短期間で破壊し油の付着していない場合にはケミカルアタックかそうで無いかの判別が難しい場合がある。そのような場合にはフラクトグラフィーを用いると良い。フラクトグラフィーを行い、破壊の起点が判明した場合には、ケミカルアタックで無い場合がほとんどである。作業現場で油を使っていないならば、ほぼケミカルアタックでは無い、と断言できる。

 

ケミカルアタックなのかコンパウンドが悪いために故障が起きたのか分からない場合がある。しかし、作業現場や装置内に油が無ければケミカルアタックは起きないので作業現場の5Sや、使用している油の管理を徹底することがケミカルアタックを防止するために重要である。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

pagetop

2013.03/27 高分子材料の劣化(ケミカルアタック)

樹脂部品にグリースなどの油成分が付着していると力学物性の劣化速度が速まる、という現象が生じる。ケミカルアタックと呼ばれる現象で、付着した油成分が樹脂内に拡散し、クレーズを発生させ靱性を低下させたり、樹脂を可塑化し弾性率を低下させるために起きる。

 

ケミカルアタックは樹脂と油成分とのSP値の関係で決まるので、機械油を使用する場合にはSP値が異なる材料の組み合わせを選ぶように、とその分野の教科書には書かれているが、言葉足らずである。例えば樹脂に表面処理された無機フィラーが添加されていた場合である。

 

本来樹脂に分散しにくい表面を持った無機フィラーを表面処理して樹脂に分散しているのだから、無機フィラーの表面のSP値に相当する性質は、樹脂のSP値から離れている。もし無機フィラーが油成分と濡れ性が良い場合には、油成分が無機フィラーと樹脂の界面に分散し、クレーズを発生させる場合がある。

 

油ではないが水分の場合でも物性劣化を引き起こす場合がある。例えば樹脂レンズの場合に樹脂の添加剤にわずかに親水性を有する化合物が添加されていた場合には、水分で樹脂レンズが曇りやすくなる。例えばわずかに残っている未反応の二重結合などは親水性が有るのでレンズの曇りを促進する原因になり得る。これは透過率の低下が引き起こされたケミカルアタックとして考えるべきではないか。

 

またわずかに残った二重結合やUVに反応しやすい化学構造がある高分子材料でブリーレイ用の対物レンズを製造するとブルーレイで高分子緩和が促進される。緩和現象は物理現象であるが、その緩和を引き起こしているのは化学構造と物理因子である。これもケミカルアタックの仲間に入れても良いように思うが、これには異論のある方が多い。しかし、高分子の主鎖そのものには劣化が生じていないが、材料には劣化と同様の現象が化学構造で引き起こされているので、ケミカルアタックとして議論されても良いように思う。

 

このようにケミカルアタックは高分子の主鎖の断裂が起きていない場合でも高分子材料の劣化という現象を引き起こす。やっかいなのはこのケミカルアタックという現象が揮発性の油で引き起こされている場合である。明日は樹脂と油により引き起こされるケミカルアタックに絞り説明する。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

pagetop

2013.03/23 自動車用材料

自動車用途に使用可能な材料の判断基準はコストである、と先輩社員から教えられた。今はどのように教えられているか知らないが、400円/kgは新素材の目標価格であった。

 

カーボンが200円/kg前後であり、当時は天然ゴムが合成ゴムよりも高く350円/kgだった。一般のタイヤは400円/kg以下の材料でできていたが、高級タイヤには1000円/kg以上の高価な新素材も採用されることもあり、何を根拠に設定されたのか分からない400円/kgという数字に悩まされた。

 

材料技術を職業にするつもりで社会に出たが、400円/kgの壁にぶつかった。この価格を目標に新素材を設計するのは容易ではない。新たな生産設備を揃えたならば、固定費がかさみ、新素材を設計するために選択できる原料など無くなってしまう値である。

 

12年間勤めた会社で、独力でこの壁を超えることができたのは、難燃剤として設計した硼酸エステルだけだった。研究開始から6ケ月で試作段階へ、その後採用された。入社して1年後提案した新規ホスファゼン誘導体ではコストが高い材料研究を行った、という理由で始末書を書かされただけにうれしかった。また、材料メーカーから依頼される新素材評価の業務とは異なる達成感を味わうことができ、その後の進路に自信を持つことができた。

 

自動車用材料ではコストに苦しむことになるので、電子材料分野の企画を行うことにした。半導体用高純度SiCを有機無機ハイブリッドで合成する新技術について先行投資を受け試作ラインを立ち上げたが、市場が無かったために6年近く死の谷を歩いた。最近ハイブリッド車などに使用されるインバーターにSiCが使用され始めたがこの材料は400円/kg以上の材料である。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

pagetop

2013.03/22 導電性微粒子分散系フィルムのインピーダンス

絶縁体高分子に導電性微粒子を分散し成形したフィルムは低周波数領域の電気特性が導電性微粒子の添加量に応じて大きく変化する。500Hz未満の周波数依存性を調べると無添加のフィルムに比較して周波数依存性が大きくなっている。そしてその変化が導電性微粒子の添加量に応じて変化している。また、この変化の仕方はパーコレーション転移とも関係している。

 

高周波数領域では大きな変化が生じていないのでこの変化は、導電性微粒子の電荷二重層の影響であることが想像される。この点に気がつくとマトリックスを構成している高分子との組み合わせや、添加剤の影響をうけることも推定できる。粒子の充填量が増加しクラスターを形成するようになるとそのクラスターの効果が大きく出ることも推定されパーコレーション転移との関係が見えてくる。

 

こうした想像は実験データを揃えてみると間違っていないことが分かってくる。そしてマトリックスの高分子をコンデンサーに見立て、導電性微粒子を抵抗で置き換え、コンデンサーと抵抗との接続モデルを組み立て数値シミュレーションを行うと実験データによくあう結果となる。このシミュレーションは2次元で行っても実験で観察される現象をうまく表現できる。これはクラスターの成長効果の影響が大きいためで、パーコレーション転移とインピーダンスの関係を見積もるシミュレーションであることに気がつく。

 

この導電性微粒子分散系フィルムの低周波数領域におけるインピーダンス変化が重要になってくるデバイスとしてカラーレーザープリンターやカラー多機能複写機に使用されている中間転写ベルトや帯電防止フィルムがある。しかし、これらのデバイス評価を表面比抵抗や体積固有抵抗だけの測定で済ませていないだろうか。インピーダンスと諸特性の関係を調べると今まで見えていなかった世界が見えてくる。研究開発のおもしろさである。

 

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

pagetop

2013.03/21 加熱系の設計

30年程前にレーザー加熱による熱天秤を発明した。セラミックスフィーバーの嵐が吹き荒れている時代に、世界で初めてポリエチルシリケートとフェノール樹脂を用いて有機無機ハイブリッドの合成に成功し、その応用分野としてSiC前駆体を考えていたからである。もし無機高分子と有機高分子が分子レベルで均一に混合されていたならば、反応速度論でSiC化の反応を議論できるはずである、という仮説を考えた。この仮説を実証するためにはSiC化の反応が生じる1600℃まで短時間に加熱可能な熱天秤が必要であった。

 

当時赤外線イメージ炉による急速加熱天秤が存在したが、加熱範囲が広いために、天秤を構成する材料の耐熱性の問題を抱えており、加熱できる上限は1500℃だった。サンプルだけ2000℃まで加熱できる熱源があれば、当時商品化されていた急速加熱天秤をそのまま使用できる、と考えた。YAGレーザーとその天秤を組み合わせ実験を行ったところ、30秒以内に2000℃まで昇温できることが確認された。しかし、YAGレーザーが照射されている部分では、炭素の昇華が生じていることが分かった。重量減少が起きていたのである。

 

YAGレーザーの直接加熱では、加熱部分が高温度になりすぎるので試料セルの近くに炭素のブロックを置き、その炭素を加熱して試料を温めることにした。しかし単純にブロックをYAGレーザーで加熱する方法は、ヒーターで加熱する方法と差異が無く試料の温度がなかなか高くならない。

 

炭素のブロックの形状を試行錯誤で工夫してみたら、YAGレーザーの同じエネルギーレベルで試料の温度が大きく変化する現象を見いだした。難しい現象では無く、熱伝導も光と同じで直進する、という事実を見落としていただけである。炭素のブロック形状を工夫し、間接的に試料加熱する方法で2000℃まで30秒以内に昇温できることがわかった。

 

直接加熱と間接加熱で昇温速度が同じかというと実際には差があるのだが、センサーの検知速度が遅いだけである。すなわち室温から2000℃までセンサーの温度が上がるのが30秒近くかかっていることが熱容量の計算からわかった。

 

試行錯誤ではあったが何とか2000℃まで30秒以内に昇温可能な熱天秤ができたのでSiCの反応速度を解析したところ均一素反応としての取り扱いが可能で、反応機構と完全に一致する測定値が得られた。すなわちSiCの前駆体は分子レベルの均一性を達成していたのである。超微粒子シリカなどを添加すると気相反応が生じ均一素反応から外れることも観察された。

 

この熱天秤の加熱系の経験は他の分野にも生かせる。例えば電子写真(レーザープリンター)の定着系は急速加熱ができれば使用時に通電することが可能となり省エネにつながる。現在のシステムは急速加熱が難しいのであらかじめ温めなければならない。定着ベルトをヒーターとする面状発熱体の考え方もあるが、この天秤の加熱方法と同様のベルトを間接的に急速加熱するアイデアも使えるのではないか。そのときに重要となるのは、熱天秤で工夫した内容である。

カテゴリー : 電気/電子材料

pagetop

2013.03/18 帯電防止技術と電子写真システム

商品の帯電防止は難しい。導電性を向上させれば帯電を防げるのかというとそうではない。金属でも帯電するからである。すなわち静電気は電気をためる条件が揃うとそこに滞留する現象で、導電性を上げた場合には他の物質の静電気をもらう現象が生じる。ライデン瓶は、導体がガラス瓶の表面に塗られていることにより電気を貯めることができる。

 

帯電防止を行うには、表面比抵抗を10の6乗から10の11乗までの半導体領域に設計するのが経験的に好ましいとされる。研究結果によればインピーダンスの値で設計した方が実際の静電気故障とよく対応する。この結果は研究報告が少ないので特許ネタに使える。どのようにインピーダンスを測定したかにも依存し、それが特許のクレーム表現として使える。単なるパラメータ特許は成立しにくいが一ひねりすると商品に合わせた面白い特許になる。実際には科学的に同じ技術であっても、科学的な証拠が無いためにできる特許の権利書という側面を活用するネタである。

 

帯電防止技術に近い商品として電子写真システムがあるが、面白いのは電子写真システムに科学的に説明できない部分が未だに存在する点である。原理が説明できているから科学的に完成された商品、と思っている方も多い。しかし科学的に完璧に説明された商品であれば、教科書にもとづき製品設計を行うことができるはずだが、それができないのである。未だに経験に基づく部分が残っており、怪しい特許を量産できる分野となっている。

 

同じ画像形成システムであるが、後発のインクジェット(IJ)プリンターが普及したのは電子写真システムよりも機構が単純で科学的に解明しやすくコストダウンが容易だったためである。しかし、科学的にIJプリンターの限界が見えており、電子写真システムが今後も残っていく可能性が高いと思われる。電子写真プリンターの便利なところは、どのような紙に印刷しても同等品質が得られる点で、この長所は未だに他の方式がまねできないところである。

 

電子写真システムの科学的な解明が進まない点は、画像形成に使用するトナーを静電気で紙に転写している、電子写真のキモの部分である。大雑把には帯電防止技術と同様に半導体領域の材料でエンジン部分は設計されるが、その導電性と画質との関係は未だ経験の必要な世界である。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

pagetop

2013.03/17 電気粘性流体を用いた画像形成装置

電気粘性効果(ER効果)をインクに使用して画像形成可能な実用装置ができそうなことを昨日書きました。ER効果は1mmあたり1kV以上の電圧が必要ですが、小さなドットを駆動するのであれば低電圧で可能である。しかし、インクには絶縁オイルを用いる必要があり、これが環境問題を考慮するとネックになる。

 

すなわち環境問題をクリアするためには、絶縁オイルが不揮発性でなければならない。揮発性であるならばインクを完全に回収できるシステムが必要になる。このシステムをどのように設計するかが技術者の腕にかかってくる。火災の問題も解消できるシステムになるとその装置の構造は限定されてくる。このあたりの特許出願はまだされていないのでこの活動報告を読まれた方は幸運である。

 

実は絶縁オイルが揮発性であろうと不揮発性であろうとオイル除去装置が必要になる。オイルを除去する前提になると揮発性絶縁オイルのほうがシステム設計を行いやすい。また、インクの定着機構も単純にできる。すなわちコーティング技術のノウハウをそのまま利用できる。不揮発性オイルであれば中間転写方式となる。すなわち一度絶縁オイルを含んだまま中間媒体に画像形成し、その中間媒体で絶縁オイルを吸収し粒子だけの画像とする。その後紙にこの画像を転写する方式となる。

 

完全密閉システムが可能ならば、揮発性オイルを用いても商用印刷以外に商品展開できる。医用の熱現像システムでは、現像時に感光層から若干の揮発物が出てくる。当初は脱臭剤でごまかす技術で対応していたが、脱臭装置の工夫でシステム外に揮発物が出てこないことが確認された。プリンターの完全密閉システムは意外と簡単なのに驚いた。特許出願される方を考慮して詳細を省略したが、アイデアをご希望の方はご連絡ください。電気粘性流体をインクに用いた場合には、現在のIJのようなノズルずまりの問題を解消できるIJプリンターを設計可能である。おそらく30年近く前にエプソンが電気粘性流体の不完全なアイデア特許を多数出願した背景と思います。

カテゴリー : 電気/電子材料

pagetop