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2013.04/24 成功する技術開発(1)

材料開発をセラミックスから有機高分子まで32年間研究開発した経験から、科学的に完璧に否定されない限り、技術開発は新しいことにチャレンジすべきだ、という考え方に至った。現代の科学で完璧に否定される技術はおそらく実現する可能性は低いが、科学で完璧に否定されない技術は実現する可能性がある。さらにその技術が完成したときに新しい科学の世界が広がるので挑戦的技術開発は人類にとって大歓迎すべき活動である。

 

昨年ノーベル賞を受賞したiPS細胞を創る技術は、それが実現するまでできるのかどうか科学的に不確かな世界であった。一つ一つの細胞について確認する作業が続けられている時にトリッキーな実験で一気にヤマナカファクターが完成した。ただしこの時点でそれはiPS細胞を創り出す技術であったが、ヤマナカファクターの研究が進むにつれて科学として完成しつつある。iPS細胞を創り出す技術ができあがってみると、ヤマナカファクターが4個の遺伝子の組み合わせであったので科学的アプローチをまじめに続けていたら膨大な時間がかかったであろうことが理解された。だから山中博士が最初に行った非科学的な実験を否定する人は誰もいない。むしろそのチャレンジ精神を称えている。

 

ヤマナカファクターには及ばないが、高純度SiC合成技術に用いる前駆体高分子の発明も非科学的方法で開発された。ポリエチルシリケートとフェノール樹脂はフローリーハギンズの理論から相溶しない組み合わせと言われていた。フローリーハギンズの理論を科学的に完璧であると認めるとこの組み合わせで均一なポリマーアロイを合成することは不可能なので技術開発しても成功の可能性は極めて低い。しかし、フローリーハギンズ理論は未だに科学的理論とは言いがたい。ゆえにポリエチルシリケートとフェノール樹脂を均一に混合したポリマーアロイの技術開発は成功する可能性があり、それが成功すると新たなポリマーアロイの技術の世界が広る。また、この技術の成功で、もしフローリーハギンズ理論が科学的に正しいならば、科学的な理論として不足している部分を明らかにできる。

 

高純度SiC前駆体の発明を行った時代にリアクティブブレンド技術はポリウレタンRIMのような低分子どおしの反応で用いられていた。これを高分子で行ったらどうなるか考えてチャレンジしたところたった1日で成功した(注)。山中先生と同じでただひたすら反応条件を変えて実験を行い均一になる条件を探したのである。300種以上の組み合わせ実験を行い、最適条件を見いだした。この30年前の実験の成功でフローリーハギンズ理論に対する疑問とカオス混合技術の可能性が結びついた。(明日に続く)

 

(注)ポリエチルシリケートとフェノール樹脂、反応触媒の3種類を混合し、透明な物質になる条件を求めれば良いので、1処方について実験開始から1分で結論は出る。実験準備も含め1日で500種類実験ができるという計算で実験を開始したが、朝9時から始め、ただひたすら撹拌実験を行い技術が完成したのは夜10時であった。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2013.04/20 高分子半導体材料とインピーダンス

多くの高分子は絶縁体で、その体積固有抵抗は10の12乗Ωcm以上である。この高分子を10の8乗から10の11乗Ωcmの領域で材料設計を行う場合、パーコレーション転移という現象を理解していないと材料の品質安定化が難しい。

 

低コストで材料設計を行おうとする場合にカーボンが用いられるが、一般に市販されているカーボンの体積固有抵抗は10Ωcm未満である。少し特殊なカーボンでも100Ωcmである。このレベルの体積固有抵抗のカーボンを高分子に分散し、例えば10の10乗Ωcmの材料に設計しようとすると10の7乗から10の10乗まで偏差が現れる場合がある。場合がある、と書いたのは、偏差が小さくなる幸運も起きるからである。これはパーコレーション転移の怖い点である。

 

実験室や試作段階で偏差が小さくとも量産が始まったとたんに偏差が大きくなったりする。これを一度経験するとパーコレーション転移という現象を正しく理解できる。パーコレーション転移という現象の難しさは、確率過程で発生する現象なので、運良く発生しなければ大きな問題と感じないからである。一度痛い目に遭うと、導電性粒子を分散した高分子中で生じるクラスターの重要性に着目し、その制御技術開発を真剣に行うようになる。

 

パーコレーション転移の検出には、表面比抵抗の測定や体積固有抵抗の測定がよく用いられる。これでも測定しないよりはましで、このデータだけでも正しく評価すれば、パーコレーション転移の制御は可能である。多くの場合、これらの抵抗測定をいい加減に行うので、うまく材料設計できない場合がある。例えば、表面比抵抗と体積固有抵抗は相関するはずで、その係数は測定した材料の厚みと関係する。厚みと関係する、と書いたのは、ここがミソだからである。詳しくはここで書かないが、表面比抵抗と体積固有抵抗の関係を示したグラフを見てどのように感じるかで運の分かれ道となる。どのように考えるか、と表現していない点に気をつけて欲しい。適当な考察をして失敗した人を見てきたからである。

 

パーコレーション転移を科学的に正確に考察しようとするならば、大変なコストがかかる。そこまでコストをかけて考察するならば間違った考察とならないが、適当なデータで、似非科学的考察を行うと失敗する。科学的ではないが、表面比抵抗と体積固有抵抗の関係のグラフを見て不安に感じたら、インピーダンスの測定を行うと良い。定性的ではあるが、インピーダンス変化をクラスター形成の数値シミュレーションで説明することに成功しているからだ。福井大学で客員教授をしていた時代に行った研究だが、パーコレーション転移のクラスター形成過程を直流で抵抗測定するよりもうまく捉えることができる。パーコレーション転移に対して感度が高い、と表現できる測定方法である。

 

しかし、このインピーダンス測定法による評価でさえも非科学的であることを知っておくべきである。元東京理科大学古川先生からパーコレーション転移が起きたあと、導電性微粒子の充填率が高くなった時のインピーダンス変化について科学的な評価結果を教えて頂いた。ただ、その問題は直流測定で検出できるので実技では大きな問題とはならないが、インピーダンス計測とパーコレーション転移を科学として論じる場合には、古川先生ご指摘の通りである。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.04/19 複写機の中間転写ベルト

カラーレーザープリンターやカラー複写機には、中間転写ベルトという部品が使われている。高級機には溶融成膜によるポリイミド製の半導体ベルトが使用されているが、廉価版には押出成形による樹脂ベルトが使用されている。成形技術の観点から言えば、溶融成膜よりも押出成形が低コストである。また環境の視点でも溶媒を使用しないので押出成形の中間転写ベルトがLCA的に優れている。経済効果で表せば3倍以上の差がある。

 

このように押出成形が優れているのに未だに溶融成膜によるポリイミドベルトが使用されている背景は、力学特性と電気特性に差があるからだ。ベルトの押出成形では樹脂の合流部(ウェルド)が少なくとも1ケ所できるのでその部分の電気特性が他の部分と異なる宿命を持つ。すなわち溶媒を用いた溶融成膜では均一性に優れたベルトを製造できるが押出成形ではウェルドの存在のため均一性が劣ったベルトしかできないのである。

 

しかしウェルド部分について押出成形で用いる樹脂の均一性が影響していることに気がつくと、均一なコンパウンドを用いればウェルドの影響を小さくできるのではないか、と期待する。ところがこの均一なコンパウンドというのが現在一般に使用されている混練技術では難しい。

 

中間転写ベルトは、樹脂にカーボンを分散させ半導体領域の電気抵抗に調節し、製造する。要求される電気抵抗は、10の9乗から10の11乗Ωcmの均一なベルトであるが、カーボンは10Ωcmよりも抵抗の低い材料である。パーコレーション転移が生じれば、一気に樹脂の抵抗は10000Ωcm未満に下がってしまう。ゆえに樹脂にカーボンを分散させた樹脂を用いて中間転写ベルトを製造する技術はものすごく難易度の高い技術である。

 

10の5乗Ωcm前後の半導体粒子を用いれば技術の難易度は一気に下がる。しかし、その領域の半導体粒子は一般に10,000円/kg前後するので技術の難易度が下がるがコスト上昇する。溶融成膜技術は押出成形に比較してパーコレーション転移の制御を行いやすい。すなわち溶液状態で均一にカーボンを分散することができ、溶媒の乾燥条件を制御してその均一性を保つように製造すれば良いからだ。しかし押出成形では、仮に均一なコンパウンドを用いてもウェルドの存在を克服する技術が必要になる。各社それぞれの技術を用いて、押出成形でもベルトの面内の抵抗偏差が1桁程度のベルトを作る技術ができている。ただし、ポリイミドベルトの0.5桁前後の偏差には追いついていない。

 

活動報告ですでに紹介した新しい混練技術は、すでに3年前から特許が公開されたので特許を読まれた方もいるかと思うが、二軸混練機を用いてもコンパウンドの均一性を劇的に上げる効果がある。この混練技術を用いて製造されたコンパウンドを使用して押出成形でベルトを作ると、面内の抵抗偏差が0.5桁未満のベルトができる。

 

コンパウンドの均一性というのはわかりにくい因子であるが、中間転写ベルトのような電子部品では、コンパウンドの均一性という因子の重要性が明確になる。

 

*本内容は、特許とコニカミノルタテクニカルレポートにすでに公開済。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.04/18 カラーレーザープリンター

カラーレーザープリンターの画像形成は次のようなプロセスで行われる。レーザーで感光体上に情報を書き込むと、感光体上には情報が帯電した状態として記録される。そこへトナーが静電気力で付着し画像が形成される。そのトナーを今度は中間転写ベルトへ画像が崩れないように静電気力で転写する。これをYMCKの4色行い、カラー画像が中間転写ベルト上に形成される。この中間転写ベルト上に形成された画像を紙へ転写する。このときにも静電気力が使用される。紙へ静電気で付着したトナーは最後に定着プロセスで加熱され、トナーは溶融し紙に定着される。

 

すなわちカラーレーザープリンターの情報書き込み機構で静電気は重要な役割を担っており、エンジンの各部品は、すべて導電性が精密に制御された半導体部品が使用される。特に中間転写ベルトの面内における抵抗偏差は1桁未満で設計され、高級機ではそれが0.5桁未満となる。中間転写ベルトの段階で紙へ直接書き込む方式もあるが、その場合でも導電性が制御された半導体ベルトが紙の搬送用に使用される。但しカラープリンターの高級機には、中間転写ベルトが使用されている。

 

カラーレーザープリンターで画像が紙に転写され、定着されるまでを初めて1段階ずつ見たときには感動した。コンピューターで情報を送りレーザープリンターで印刷される様子を30年近く見てきて、当たり前と考えていたことが、一段階づつ各部品の仕事ぶりを見た時に大変新鮮であった。レーザープリンターの仕組みを30年前に本で読んで知っていたにもかかわらず、技術開発の余地が未だに残されていることに気がつきうれしく感じた。

 

静電気力でトナーを転写しているだけ、という単純な工程ではあるが、フィルムの帯電防止で苦労してきた経験があったので、美しい画像出力を出す技術を100点満点のレベルで完成することは容易でないことはすぐにわかった。また、その理解は、ライバル会社も含め開発に関わる技術者が正しくその機構を理解しプリンターを設計しているのか、という疑問に変わった。おそらく開発の最後には気合いで造り込んでいるのであろう、と思われる部分が他社品解析をしていると出てくる。レーザープリンターは科学の塊のように思っていたが、静電気でトナーが搬送される各ステップを観察すると気合いの塊のような装置に見えてくる。

 

科学ですべて解析でき、設計通りにできあがる装置は、今の時代資本があればどこでも作ることができる。しかし、ノウハウが無ければ製造できない製品は、その会社を丸ごと買収するか技術者を数人引き抜くかしなければ作ることができない。レーザープリンターもそのような製品の一つである。静電気の性質を理解するとその難しさが見えてくる。

 

 

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.04/16 SiC繊維

SiC繊維は故矢島教授により発明されたセラミックス繊維である。炭素繊維は空気中高温度で使用できないが、SiC繊維は1200℃前後の空気中でも使用可能である。SiCの焼結体は1400℃前後まで使用可能であるが、SiC繊維は繊維内部に構造欠陥ができるため1200℃前後までである。この耐熱性を上げるために長年努力がなされ、短時間であれば焼結体に近い温度まで使用可能な繊維となった。

 

このSiC繊維はポリジメチルシランを炭素繊維と同様のプロセスで処理して合成される。原料が高価なので炭素繊維より収率が高いにもかかわらず高価である。SiC繊維が炭素繊維よりも優れている点は、空気中における耐酸化性と表面の性質である。例えばアルミの補強材に炭素繊維を使用すると金属間化合物が生成し界面が脆くなるがSiC繊維の場合にはその問題が無くなる。炭素繊維に関するこれらの欠点は表面の性質を変性することができれば解決できる。

 

フェノール樹脂繊維のカイノールはその性能に比較し安価でコストパフォーマンスが高い繊維である。この繊維にTEOSを含浸させると繊維内部にTEOSが分解しながら拡散し、表面から内部にかけてTEOSの分解物が傾斜組成で分散する。これを1600℃前後で焼成するとSiCが傾斜組成で分散した炭素繊維ができる。但し、反応途中でシリカの還元反応がおきるので焼成条件を見つけるのが大変である。

 

このような複雑な焼成条件を見つけるには熱重量分析(TGA)を利用すると便利である。速度論の解析まで行うことができれば、焼成条件を理論的に机上で決めることが可能となる。多くの場合TGAで得られた曲線の形から速度論的解析結果も予測可能なのでTGAのデータだけでも反応条件を決めることは可能である。

 

カイノールへTEOSを含浸させるにはTEOSとカイノール両者の良溶媒を用いると良い。両者の良溶媒を用いるとカイノールへ効率よくTEOSを含浸させることができる。TEOS100%の溶液へカイノールを浸漬させても傾斜組成の繊維はできるが、傾斜組成となっているのは表面付近だけである。

 

傾斜組成のSiC繊維の強度は、内部までTEOSを含浸させた条件が最も良かった。この条件で製造したSiC繊維とアルミ粉を用い、ホットプレスでSiC補強アルミニウムを製造したところ、文献で報告されているSiCウィスカーで補強したアルミニウムと同等以上の物性を持った複合材料が得られた。

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2013.04/15 炭素繊維

炭素繊維はピッチ系炭素繊維が安価にもかかわらずPANから製造される炭素繊維の品質が良好のため、最も普及している。その価格も下がってきた。日本を代表する化学技術の一つである。かつて高純度SiCのパイロットプラントを立ち上げ後、半導体のマーケットを探索して死の谷を6年間歩いていた時、毎年新しい企画を提案しながら研究予算を工面していた。そのころ、このPAN系炭素繊維に匹敵する品質の炭素繊維をフェノール樹脂繊維(カイノール)から製造することに成功した。

 

カイノールから炭素繊維を製造するのは簡単だが、PAN系炭素繊維と同等の引張強度が出ないのが難点。PANよりも残炭素率が高いにもかかわらず、難黒鉛化炭素ができてしまうので引張強度がPAN系炭素繊維の半分程度となる。曲弾性率にはあまり差がみられないにもかかわらず引張強度が低いのは、炭素繊維の高次構造がPAN系に比較し無秩序でどこかに強度を低下させる欠陥があるためと思われる。

 

カイノールを易黒鉛化するためには、PANのように加熱時に延伸し芳香環を整列させれば良いが、カイノールでは高次構造が3次元化しているので、延伸しても芳香環をPANのように整列できない。その結果難黒鉛化炭素が構造としてできる。延伸力を上げると炭化が開始する温度で繊維が切れる問題があるので延伸力を上げられない。

 

面白いのは延伸力の大きさで切断する温度が不規則に異なるのである。この現象を発見し、昇温速度を一定にして延伸力を調節しながらカイノール繊維を炭素化したところ、引張強度がPAN系並みに向上した。恐らくカイノールでは3次元化していたフェノール樹脂の構造が300℃から450℃にかけて変化し、この構造変化に呼応して延伸力を調節してやると芳香環をうまく整列させることができるのであろう。またこの温度領域で延伸力との組み合わせでカイノール繊維は軟化するような挙動をとる。三次元化していた構造が二次元化するためと推定しているが、研究報告は無い。

 

これはそれなりに面白い実験結果だと思ったが、上司からSiCでは無いので意味が無い、と言われた。特許部からも特許出願には費用がかかるので出願しない、ということになり、せっかくの成果が無駄になる。SiCならば評価してもらえるのか上司に尋ねたら、SiC繊維で炭素繊維並みの価格ならば意味がある、との回答。当時矢島先生が発明した、ポリジメチルシランを前駆体高分子に用いたSiC繊維が販売されていた。しかし高価であった。また炭素繊維を置き換えるほどの魅力が少なく価格が下がる見込みが無かった。

 

そこでカイノール繊維から炭素繊維を製造する実験結果を活かすために炭素繊維同等の価格を目標にSiCとCとの複合繊維開発の企画を立案、1年間研究開発を行い、繊維補強アルミニウムを開発することに成功した。明日SiCとCとの傾斜組織複合繊維について書く。

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2013.04/14 フラクトグラフィー

材料の破壊について波面観察を行い、破壊に至るメカニズムを解析する手法にフラクトグラフィーと呼ばれる手法がある。金属材料の分野で発展した破壊の解析方法だが、セラミックス分野でもその手法は有効であることが確認された。しかし高分子分野では大学で教えない手法である。非科学的手法と言われる先生もいる。

 

確かに高分子分野では非科学的手法かもしれないが、金属やセラミックス材料同様にゴムや樹脂材料でもうまく破壊機構を説明できる。金属やセラミックスで実績のある手法という理由だけで無く、飛行機の墜落事故の場合に裁判資料として採用されたりした実績のある方法なので高分子材料分野でも普及しても良いと思う。

 

この手法で重要なことは、破壊した面が新鮮でなければならない。新鮮な破壊面を顕微鏡観察して破壊の起点を探す。慣れれば簡単であるが、破壊の起点では破壊エネルギーの伝播速度が最も早くなっているので、そのようなところを探す。コツは破壊エネルギーの伝播速度の早いところでは破壊面はなめらかになっている。そしてなめらかになっている面に放射状のシワが観察され、そのシワの幾つかがある一点を起点に放射状に広がっていることに気がつく。そのある一点が破壊の起点である。

 

破壊の起点が見つかると材料がどのように破壊したのかがわかる。破壊の起点がもともと存在していた大きなボイドであったり、クラックであったり、フィラーの界面であったり、と観察結果に忠実に解析していけばほとんどの場合に破壊の原因について推定がつく。

 

フラクトグラフィーは便利な手法である。例えば、樹脂でできた成形体では、ネジ止めして組み立てたときにボスが割れたりする。それが設計ミスなのか、成形ミスなのか、あるいは他の原因なのか、フラクトグラフィーにより判別できる。耐久試験を行っている時にも使える場合があるが、それは破壊直後の時だけである。破壊直後で無い場合には、破壊の起点を探すのに苦労する。破壊面に他の時間的要因が加わるからである。

 

非科学的方法であるにもかかわらず、フラクトグラフィーは、高分子材料でも重宝する。一度そのコツをマスターすれば簡単に誰でもできる手法なので大学の材料科学の時間に取り上げても良いように思う。

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2013.04/12 PENフィルムの巻き癖(質問回答)

スペシャリティーポリマーであるPENについては、昨日で終了予定でありましたが、質問が来ましたので回答します。ガラス転移温度以上の熱処理とガラス転移温度以下の熱処理の違いについて説明して欲しいという質問です。

 

高分子を射出成形あるいは押出成形などで成形すると内部に歪みが残ることがあります。この残留歪みが緩和現象と組み合わさり、成形体が変形したりします。この歪みをとるには、一般にガラス転移温度以下で熱処理を行います。ガラス転移温度以上で行うと、ガラス状態にあった分子が運動するために成形体が歪んでしまうから、とその方面の教科書には書かれています。

 

しかし実際に熱処理を行うと、ガラス転移温度付近で長時間成形体を保持した場合には、ガラス転移温度以下でも成形体は歪んでしまうことがあります。実験を行ってこの状態を観察したときに疑問を持つかどうかで高分子材料に対する知識を実験から吸収できるかどうかが分かれます。

 

ライバル会社の技術者も恐らく同様の実験結果を経験したと思います。ガラス転移温度以下でも成形体が歪むのは温度分布の偏差のため、と自分を納得させ、アニール条件は、成形体が歪まない温度を試行錯誤で決めていった、と推定しています。熱処理の実験を行っている人に、期待した温度で期待した実験結果が得られなかったときに質問すると、必ず温度の偏差を理由に挙げます。有機材料の研究者が抱えるこの問題についても言及したいですが、とりあえず質問の答だけに焦点を合わせます。

 

問題が残っていることを承知の上での回答です。ガラス転移温度以下では、ガラス状態になっているため高分子の分子運動性が拘束されていますが、自由体積周辺では高分子は運動性を持っています。ゆえに、この部分だけが熱処理によりガラス転移温度近辺で熱処理した温度における平衡状態になり、熱歪みが解消されガラス転移温度近くの熱処理した温度領域まで耐熱性があがります。

 

ガラス転移温度以上の熱処理では、ガラス状態にあった分子の運動性が活発になり、自由体積部分だけでなく、ガラス状態にあったところまでその温度の平衡状態へ至ります。このとき動く部分が多くなるのでガラス転移温度以上では、成形体が大きく歪む、と教科書には書かれています。

 

この解答には問題があります。しかし、一般的にはこのように言われており、この説明を信じる限りにおいては、高温短時間熱処理というアイデアは生まれません。高温短時間熱処理は、まだ科学的に実証されていない非平衡における現象を扱った非科学領域のアイデアです。弊社では、このような非科学領域まで取り込んだアイデア創出法を提供しています。

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2013.04/11 PENフィルムの巻き癖(4)

ライバル技術では長時間アニールというプロセス手段を用いて、高次構造の制御を行い、巻き癖を解消していた。長時間アニールで密度がわずかに上がり、応力緩和しにくくなった。この密度上昇が高次構造を制御した結果というのがライバル技術で、その説明にはPENの結晶部分と非晶部分において、非晶部分の自由体積のパッキングが進んだためと書かれていた。

 

高分子の長時間アニールは一般にガラス転移温度以下で行われる。ゆえに特許に書かれている熱処理温度の領域は、高分子技術の観点で公知領域となるが、PENの巻き癖と結びつけた技術は初めてなので特許として成立する可能性が高かった。

 

ところで弊社の問題解決法を当時すでに実戦で使用していた。さっそくホワイトボードにあるべき姿のマンガを書いた。詳細は省略するが、コーチングを行いながら、高温度短時間アニール技術が問題解決した解答として得られた。

 

ガラス転移温度以上で熱処理を行うと樹脂では変形が生じる。フィルムならばでこぼこのフィルムになる。ゆえにガラス転移温度以上のアニールは非常識な結論である。このような結論を頭の良い社員に納得させるためには、自ら解答を出したと満足できるコーチングが最良の方法である。

 

コーチングは効果的で、すぐに工場で試作をしようと頭の良い社員は言い出した。火はついたが燃焼を制御できない状態になった。社内のルールではパイロットプラントで試作を行ってから工場の試作に移るのだが、頭の良い社員は、技術内容がパイロットプラントのデータを活用できない”キワモノ”であることに気がつき、工場で試作した方が早い、と言いだした。失敗すれば1000万円が無駄になるが、若い熱意に動かされ、いきなり工場試作を行う決断をした。しかし、基礎データも何も無く、いきなり工場で実験という手順については社内調整が大変だった。硬直した会社では不可能な調整である。

 

しかしこの写真会社の風土はこのような場合に良い方向に働く。若い人に評判の良い会社である。山を乗り越え、1日工場を借り切って実験を行ったら、大成功であった。ライバル技術の特許に抵触しない巻き癖のつきにくいPENフィルムが高温短時間アニールで完成し、量産試作に成功したのである。”キワモノ技術”と心配したが、面白いことに試作ラインで後から実験を行っても、きちんと再現する”科学的な”技術であった。また、できあがったPENの高次構造がライバル技術のプロセスで作られる高次構造と異なっていることも分析データで得られた。

 

高分子の高次構造制御を解説している教科書は多い。そこには実際に見てきたようなマンガが書かれていたりする。この開発ではそのマンガが大変役にたった。工場試作を行う前に頭の中でマンガが展開されたのである。そしてできたような気になって、若い人の心に火がついたのである。

 

技術開発では”成功する”と信じる熱意がまず重要である。熱意はスピードを生みだす。これほど短時間の技術開発は、ゴム会社で行った高純度SiCの開発以来である。科学的に未解明の領域の技術は、高純度SiCの開発経験で生まれた弊社の問題解決法が効果的に働く。

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2013.04/10 PENフィルムの巻き癖(3)

PENの巻き癖とその高次構造の関係については、科学的な香りをつけた報告がライバル会社から発表されていた。やや胡散臭い論理で技術の正当性が説明されていた。発表内容を読む限りにおいては、唯一のすごい科学技術でそれに取って代わる技術開発は不可能に思われた。学会賞の審査員もそのように思ったに違いない。

 

技術内容は熱処理により高分子の高次構造を制御する“もすごく高度な”技術と言われていた。しかし、熱処理技術は高分子材料分野よりも金属やセラミックス材料分野のほうが進歩している。温度というパラメーターが強度因子であり、容量因子であるエネルギーと異なることの重要性を高分子材料の研究者はあまり考えない。PENの巻き癖解消技術についてもライバル特許は大きな穴を残していた。恐らく気がついていなかったはずである。

 

大量の特許群を整理してみると大穴があいていた。しかもその大穴は長時間アニールする必要が無く、ロールtoロールで巻き癖解消が可能な生産効率の高い技術領域で、むしろ学会賞の技術よりも好ましい領域である。技術開発で注意しなければいけないのは、自分たちの技術が科学的に完璧で唯一の技術とうぬぼれてしまうことである。

 

科学とは技術の世界に包含されることを忘れている。非科学的な技術という領域があることを技術者は、いつも忘れないことである。非科学的な技術とは科学的に解明されていないか、あるいは科学的に否定される技術のことである。

 

実は学会賞を受賞していたが、ライバル会社の説明には科学的に怪しい内容が多数含まれていた。怪しい内容をさも科学的であるがごとく現象をうまく説明していた。学会賞を取るにはこのようなプレゼンテーション能力が重要である。その結果、技術者全員がそれを信じたのだろう。そのおかげで特許に大穴が残されることになった。

 

弊社の問題解決法ではこのような似非科学の技術に対抗するアイデアをうまく考え出すことが可能な方法を提供している。すなわち科学的に完璧に説明されないかぎり、どこかに穴を見いだすことができるのである。科学的に完璧な場合には弊社の問題解決法でも太刀打ちできない。それでも、非科学的技術で解決できる余地が残っている場合には弊社の問題解決法でアイデアをうまく導き出すことが可能である。このPENの巻き癖解消技術でも科学的考察ではなく問題解決法で技術手段を見つけ出した。

 

<明日に続く>

 

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