軟質ポリウレタンフォームをホスファゼン誘導体で変性したところ、他のリン酸エステル系難燃剤と異なり、燃焼後の残渣へリンが多量に残っている現象が観察された。また、ホスファゼン変性ポリウレタンの燃焼時の特徴として、発煙が少ないとか、ドリッピングが少ないとか他のリン酸エステル系難燃剤に見られない特徴があった。また、難燃効果もリンの含有率で比較してみると20%程度向上していた。しかし、この難燃効果については、プレポリマーで添加した場合であり、粉末として添加した場合には、他のリン酸エステル系難燃剤と同様の難燃効果であった。
この難燃効果については分散状態の差としてとらえると理解できる。すなわち分子レベルまで分散できた時の難燃効果は粉末の場合よりも20%程度向上する、と見積もれる。粉末で添加した場合に、発煙が少ないとかドリップしにくいという性質は見られ、残渣にリンが多量に残っている現象も同じであったので、純粋に分散状態の差として見てよいだろう。
以上は30年以上前の実験結果であるが、定年退職前にPETの難燃化を検討するチャンスがあった。さっそくホスファゼンを添加し、難燃効果を調べてみたら、他のリン酸エステル系難燃剤に比較して僅かに(LOIで5%以下の差)よい程度であった。二軸混練機でミキシングしたので、ポリウレタンの場合と同様の結果と解釈することができる。ゆえにホスファゼン誘導体の難燃化機構は、リン原子による炭化促進効果であろう、と推定される。また、ドリッピングの改善に効果があるのは、他のリン酸エステル系難燃剤と異なり、燃焼時の系内に留まり続ける為、増粘効果が発揮されドリッピングしにくくなるためと推定される。
このドリッピングに対する効果は添加量が少なくなると無くなるので、フッ素樹脂系のドリッピング抑制効果と明らかに異なる。ドリッピングを抑制するために必要なフッ素樹脂は、1%前後であり、また燃焼時の観察からフッ素樹脂は燃焼し溶融した樹脂の表面で薄膜を形成しドリッピングを抑制しているがホスファゼン誘導体ではそのような現象は見られない。ただしここまでの話に出てくるホスファゼンはすべてノンハロゲン誘導体であり、フッ素樹脂で変性したホスファゼンならば界面活性効果が異なるので、フッ素樹脂と同様の効果を期待できるかも知れない。
高分子シミュレーターOCTAを用いて難燃剤の分散を評価し整理してみると難燃剤の側鎖基により、樹脂の分散状態が異なる。SP値が変わるので当たり前の結果であるが、ホスファゼン誘導体の側鎖基を変化させることは容易なので、10%前後の難燃剤としての性能アップをホスファゼンで狙いたいときには、側鎖基のSP値をポリマーのSP値に合わせてやればよい。特にPC/ABSなどの多成分系ポリマーアロイではこの手法は有効と思われる。ただしコストの問題が残っているがーーー
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パーコレーション転移は導電性微粒子を絶縁体である高分子に分散した時に観察される現象ですが、高分子に微粒子を「制御して」分散する技術は難易度が高いプロセシング技術です。この技術で微粒子のサイズが小さくなるとさらに難易度はあがります。パーコレーション転移は微粒子が凝集する傾向にあれば生じやすくなりますが、制御しなければ分散不良の凝集粒子として観察されることになります。
パーコレーション転移という現象は、微粒子とマトリックスの高分子との間に相互作用がなければ確率過程で生じますが、両者には相互作用が必ず存在するので、パーコレーション転移が高分子物性に影響を及ぼすのであれば制御技術を開発する必要があります。この時、微粒子サイズが小さくなれば、微粒子間の相互作用も強くなるので超微粒子を用いてパーコレーション転移を制御するには工夫が必要です。
超微粒子を高分子マトリックスに分散する時にパーコレーション転移が全く生じないようにする技術、すなわち超微粒子の凝集を防ぎ、1個づつの超微粒子が分離した状態を作り出す方法として、2種類の技術を開発しました。
一つは高純度SiCの合成で用いたリアクティブブレンドでもう一つはゾルをミセルに用いたラテックス重合技術です。前者は、高分子と超微粒子の組み合わせに制約がありますが、後者はゾルさえできれば超微粒子が凝集しない分散状態を作り出すことができます。生成物はラテックスですので薄膜の用途であればそのまま使用できます。バルクで使用するためにはスプレードライプロセスで水から分離することができますのでコストも抑えることが可能です。
ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術は1994年にコニカで開発された技術で、2000年の学術雑誌にイギリスの研究者からゾルをミセルに用いたオイル分散の報告が世界初として発表されていますから、その6年前に本当の世界初の技術ができていたことになります。
面白いのは、2000年の高分子学会賞審査会でこの技術を出願した特許をもとに世界初として報告したら、審査員として出席していた某著名私大の先生が「だれでも合成できる」と一言言われました。その結果大した技術ではないと判断されたのでしょうか、落ちました。学会賞を受賞できませんでしたので技術の詳細を公開する機会を失いましたが、技術者は特許以外にも積極的に論文発表を行うべき、という反省をしております。
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絶縁体である高分子に導電性粒子を分散すると、導電性粒子の添加量に応じて抵抗が下がるが、この抵抗の下がり方が、高分子と導電性粒子との相互作用や、導電性粒子の形状など分散状態に影響を与える因子に大きく影響を受ける。さらに、ある添加量のところで急激に抵抗が変化する現象が生じる。この現象をパーコレーション転移といい、この転移が生じる添加量はパーコレーション転移の閾値と呼ばれている。また、パーコレーションという呼び名も急激に電気が流れる現象からコーヒーのパーコレーターになぞられてつけられている。
パーコレーション転移については、数学や物理の分野で古くからボンド問題やサイト問題として研究されてきた。これは小さな立方体を組み合わせてできた大きな立方体について、小さな立方体の中心に粒子を入れていった場合と、小さな立方体の陵に粒子をおいた場合で粒子のつながりができ始める確率が異なることから研究が進められた。計算科学として研究が進められたが、材料科学分野に知られるようになったのは、バブルがはじける1990年前後である。材料科学分野では、パーコレーション転移の理論の代わりに混合則というものがあり、粒子を高分子に分散した時にはこの混合則で議論されてきた。
高純度SiCを武器に住友金属工業とのジョイントベンチャーを立ち上げ、サブテーマとして担当していた電気粘性流体でも成果を出し意気揚々と仕事をしている時にFDを壊されるという事件に巻き込まれた。事件の被害者であったが事件の収拾の仕方に疑問があり転職を決意した。セラミックスを研究してきたので、会社の規定に従いセラミックス以外の会社へ転職することにしたが、その転職先で最初に担当した帯電防止技術がパーコレーション転移の問題に関わる技術でした。
最初に混合則で問題を扱わず、パーコレーション転移の問題として素直に考えることができたのは、趣味のプログラミングのテーマとしてボンド問題やサイト問題の論文を読んでいたからで、芸が身を助け、ではないが趣味のおかげで、転職してすぐに成果を出すことができた。面白いと感じたのは、実際の材料の分散とよく一致するパーコレーションのシミュレーションプログラムを作成し論文発表しようと過去の論文を調査したところ、同じ時期に同じコンセプトのシミュレーションプログラムの論文が発表されていたこと。この時論文調査をさらに進めましたところ、材料分野への応用論文は3報ほどであったので、おそらく混合則からパーコレーション転移への概念の転換点だったのだろうと思います。
学際という言葉の重要性が叫ばれるようになったのは1970年代で、境界領域の学問の重要性が注目を集めた。パーコレーション転移はまさに学際領域の技術で、この材料分野における研究は1990年代から活発になる。材料の導電性の変化だけでなく、強度変化についてもパーコレーション転移で議論されるようになった。思想や技術、あるいは重要なコンセプトが一般に普及し常識になるには20年前後かかる、と言われているが、パーコレーション転移は学問が生まれてから普及までに30年程度かかっています。時間がかかった理由として初期の理論展開は材料技術者には難しく、すぐに材料物性の示す現象との関係に結び付けることができなかったため、と思われます。しかしコンピューターが普及し、理論内容を可視化できる現代においては直感で理解できる理論のように思います。
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昨日セミナー会社の依頼を受け、ブロッキング防止と滑り性付与の講演をしてきました。複数の講師による講演会でトリとして講演を1時間半行いました。
この分野の講演で困るのは、聴講者が対象としている商品に必要な物性が様々であること。例えば写真分野であれば、感材の支持体の表面処理までの過程ではブロッキングが問題となりますが、半製品の状態ですので工程の一時的対策が取れれればよいわけで、マット剤だけで対応できます。しかし、写真フィルムに完成した状態では、レントゲン用フィルムと35mmフィルムでは表面の設計が異なります。後者では、現像処理まで機能があれば何とかなりますが、レントゲン用フィルムの場合には保管され、時々取り出して観察する、という取り扱いがされますので、数年は表面設計した機能が発揮されなければなりません。
常時こすられている摺動部分の表面になると、写真フィルムと異なる材料設計と評価技術が要求されます。学術的には物質の拡散や相溶まで考えるべき、ともいわれますが、厳しい使用条件になればなるほど、学術的な話が心細くなるのがこの分野であり、説明する側から見れば難しい課題です。一応約50年前誕生したトライボロジーという学問がありますが、約100年前の技術者が軸受けの研究を行いまとめたStribeck曲線をしのぐ成果が出ていません。技術として理解し割り切って開発するのが寛容な分野であります。
しかし、学術の世界を全く知らなくてもよいのか、というと、どのような技術分野でもそうですが、科学の正しい知識は重要で、この分野でも知っている場合と知らない場合とでは、品質問題のとらえ方が異なります。ただし、必要な知識を正しく知っていることが大切で、生半可な知識であれば無いほうがましで、中途半端な知識で失敗した若いときの事例などをお話ししました。このような失敗を防ぐために最低限の正しい知識を短時間に整理する、というコンセプトで「高分子材料のツボセミナー」を販売していますのでご活用ください。
実務で高分子材料科学を活用する視点でまとめました。 高分子科学の全体像について学べますので、専門外の技術者にも学生にも役立ちます。
本書は高分子に関する知識を持っていない人の為に、写真と絵を中心に分かり易くまとめました。項目毎に穴埋め式の復習問題もあるので、学習内容の確認もできます。
また、電子書籍ならではの特徴として、購読者様からの質問を受け付けその回答が毎月反映されていきます。是非ご活用ください。
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高分子の難燃化技術は、科学的に開発を進めることができる部分と非科学的なプロセスが必要となる場面があります。
例えば評価技術。研究者により意見が異なるかもしれませんが、実火災の全体像を科学的に再現できる評価技術は存在しません。例えば空気中で燃えやすいか燃えにくいかを試験する極限酸素指数(LOI)には温度依存性があり、その依存度は高分子材料により異なります。ゆえに高分子材料のLOI評価では温度を一定に保ち実験を行う必要があります。しかし実火災の温度の高いところでは500℃以上になるので、ザイロンなど一部の高分子を除き大半の高分子材料でLOIの差はこの温度領域においてほとんど無くなります。このような理由から実験データの再現性や線形性に優れた方法でも実火災に対する高分子の難燃性を保証できる万能評価技術になっていません。
しかし、実火災を想定した高分子材料の評価技術は材料開発に必要なので、使用状況、用途に応じた難燃規格が各業界に存在します。1980年頃からUL規格が注目され、この規格を採用している業界は多い。UL規格には測定条件が細かく規定され、実験データの再現性をあげる努力が見られます。この規格は30年以上の実績があり、難燃性の規格として信頼できるのですが、実火災との関係において評価手順がすべて科学的に裏づけられているのか、というと疑問の余地は残ります。それでも使用されているのは、UL規格のこれまでの採用実績にあると思っています。
高分子の難燃性評価技術の開発は現在でも行われていますが、すべての実火災に適用でき、評価プロセスの意味をすべて科学的に裏付けできる評価技術はできていません。このような理由から高分子の難燃化技術には、どうしても非科学的プロセスが入ってきます。
すべての実火災を実験室で再現することは不可能、と感覚的に理解でき、無意識のうちに非科学的プロセスを容認していますが、高分子の難燃性評価技術以外に製品開発における様々なシーンで非科学的プロセスが使われていることをどれだけの技術者が認識しているのでしょうか。非科学的プロセスを科学的ではないから、と言う理由で否定するのではなく、科学的プロセスを尊重しつつうまく活用する「技」が不確実性の時代に新しい技術を生み出すために大切と思っています。そのためのヒントは「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」に書かれています。ご一読ください。
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軟質ポリウレタンフォームの難燃化技術を開発しました時に、1.高分子を炭化促進して難燃化する方法と、2.燃焼の熱で高分子を溶融させドリッピング現象を発生させて難燃化する方法があることを知りました。1の場合には高分子を炭化促進するための触媒の添加が不可欠で、通常はリン酸エステル系難燃剤や気相に滞留し炭化を促進するハロゲン系難燃剤などが用いられます。2の場合には、溶融しやすいように可塑剤や低分子の添加が検討されますが、これだけでは不十分で1と同様の難燃剤を併用します。
1の方法で、可燃性高分子の大半を燃焼時に炭化できる技術があれば、2の手法の出番は無くなりますが、高分子の物性を損なわないように高い難燃化レベルを達成することは不可能なので、現実的な技術開発を可能とするように用途に応じた難燃化規格が設定されており、この難燃化規格を前提として2の手法の経済的優位性が出てくる場合があります。
やや乱暴な表現ではありますが、大半の高分子は実火災では燃えてしまうので、高温にさらされた時に火源とならない程度の難燃化レベル(例えばUL94-V2)の高分子材料を使用できる用途では、1の手法よりも2の手法により難燃剤の添加を減らすことができるのでコストを削減することが可能となり技術的に優れた手法ということもできます。
軟質ポリウレタンフォームをドリッピング手法で自己消化性となるように難燃化設計しました時に少量の難燃剤添加が必要で、TCPPであれば10%ほど添加しなければなりませんでした。この時LOIは19程度であり、ドリッピング手法で材料設計されていなければ空気中では自己消化性を示さないレベルです。類似処方でドリッピング促進していない軟質ポリウレタンフォームの場合には、TCPPを10%添加するとLOIは19程度なので自己消化性を示しません。TCPPを25%ほど添加しますとLOIは21となり、自己消化性を示すようになります。この比較からドリッピング手法で材料を変性すると難燃剤の添加が半分以下で自己消化性になる、と理解していました。
PETの難燃化を検討するチャンスがありましたので、ドリッピング手法で難燃剤レスにより自己消化性樹脂ができないかチャレンジしてみました。UL94-V2レベルであれば、炭化しやすい樹脂をブレンドすることで難燃剤レスによる自己消化性樹脂ができることが分かりました。燃焼している試料の下に置かれた硝化綿を燃焼させてはいけないUL規格で、ドリッピング手法による難燃化樹脂を検討するには勇気が必要でしたが、軟質ポリウレタンフォームの難燃化経験がありましたので自信はありました。技術開発では過去の経験が自信につながるので、若い技術者の成功体験は新しい技術にチャレンジできる技術者育成のために重要です。
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高分子の難燃化技術から、高純度SiCの新しい合成プロセスが生まれましたが、両者の技術的な共通点は、物質の熱分解反応をどのように制御してゆくのか、という点です。科学的には、現在でも完全に解明されていない現象です。例えば燃焼時に高分子の熱分解をどのように制御するのか、と科学的に考えようとしても、考えなければいけない不確定要因が多く、完璧な議論が難しいためです。通常のリン酸エステル系難燃剤を用いた場合に、燃焼後の残渣にリン酸がほとんど残っていなくても、リン酸のユニットが高分子の炭化促進に機能している、という仮説が信じられているのは、リン酸エステル系難燃剤を用いたときに炭化物の生成が多いことと、縮合リン酸の触媒機能から推定される反応機構が知られているからです。
しかし、シリカ還元法、すなわち炭素とシリカの混合物を1600℃以上に加熱して生じる熱分解については、かなり科学的に解明されており、高分子前駆体法が登場するまでは、気相と固相の両方の反応で熱分解が進行しSiC化の反応が起きている、というのが定説でした。そして気相反応でSiC化が進行した場合には、低温度領域が存在すると、SiCウィスカーが生成する現象まで解明されていました。この科学的成果から、SiCウィスカーを選択的に合成できる技術も当時はできつつありました。すなわちシリカ還元法における熱分解反応について、気相を経由する反応の利用は、科学的な情報から技術開発できる段階にありました。しかし、シリカと炭素を化学量論比で反応させたときに気相反応を抑制できる技術は無く、炭素を大過剰に用いてSiOガスを反応系外に出さないようにする工夫以外に方法はありませんでした。
シリカ還元法について固相反応だけで進行する系が見つかっていなかったためですが、高分子前駆体法は、その唯一の系を提供できたわけです。これは、高分子前駆体法で合成される、シリカと炭素の混合物が原子レベルで均一に混合されているため、と電子顕微鏡写真から推定しましたが、実際に超高温熱天秤でSiC化の反応をモニターしますと化学反応式通りのプロファイルが得られますので、この仮説は正しいと思っています。
高温度における物質の熱分解は、分子の活性が高いために副反応が多くなり解析が難しくなります。しかし、系の純度が上がり均一になるだけで副反応が無くなる熱分解に接したときに、有機合成反応を研究していたころを思い出し、化学反応における系の純度と均一さの重要性を再認識いたしました。
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商品を技術開発するときに、商品に搭載される技術に関しすべてに精通していることが望ましい。しかし、実際には商品の主要機能が関係する技術分野は広いので、一つの商品を開発するときに必要な技術分野の人材でチームを形成し、商品開発を行う。ほとんどの商品には、高分子材料が使用されているので、メンバーにはたとえ専門家ではなくても高分子に詳しい人材が加わると思います。その方に受講して頂きたいのが「高分子材料のツボ」セミナーです。
転職前セラミックス開発を担当していた講師が、転職後の会社で高分子分野のリーダーを勤めることになりましたので、アカデミアの諸先生方の指導を受けながら研究開発を行いながら作成したメモを基に企画しましたのが、本セミナーです。転職前の会社がゴム会社でしたので高分子に関する知識を持っていましたが、実際に技術開発を担当する場合には力不足を感じていました。関係学会や高分子自由討論会に参加しながら勉強し、技術開発に必要な先端知識も含め、頭の中に入れているとアイデアの基になる知識を中心にメモを作成しました。わざわざ教科書の抜き書きのようなメモを作成した理由は、教科書の内容が間違いではないが、アイデアを出すには不適切な解説の場合が多く、目の前の現象についてアカデミアの先生から直接指導を受けました考え方でメモを作成する必要を痛感したからです。
すなわち高分子科学は、市販されている高分子の種類を見ていると進歩が無いように感じますが、この30年大きく進歩しました。特に高分子物理に関しては分子1本のレオロジーを論じることができるくらいの進歩です。教科書も少しずつ書き換えられてはいますが、教科書という性格から大幅な書き換えは行われていないようです。
また、このような科学の進歩の側面以外に教科書では絶対に説明していない材料の寿命と靱性の結びつきも、実用商品では重要な考え方なのであえて取り上げています。すなわち「高分子材料のツボ」セミナーは、技術の観点でまとめたメモを基にした内容ですので、受講後すぐに実務に生かすことができます。また受講時間も2時間前後ですので、高分子材料の専門家の方も短時間に材料からプロセシングまで知識の整理ができます。是非ご利用ください。
このセミナーへの橋渡し役の本も先日出版しました。「誰でもわかる高分子」というタイトルで、「成長する絵本」というコンセプトで企画しました。すなわち読者からの質問を基に今後この本を成長させてゆく予定ですので、是非ご一読後質問をお寄せください。
本書は高分子に関する知識を持っていない人の為に、写真と絵を中心に分かり易くまとめました。項目毎に穴埋め式の復習問題もあるので、学習内容の確認もできます。
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加熱しながら物質の重量変化をモニターする分析装置を熱重量天秤あるいは熱天秤(TGA)と言います。TGAでは、一定速度で昇温しながら物質の重量減少を測定したり、一定温度における物質の重量減少を測定したりできる。また、コンピューター制御できるTGAであれば、この両者を組み合わせた複雑な温度パターンにおける重量減少を測定することも可能となる。
物質は高い温度に曝せば分解する。その分解速度を計測することで物質が高温度でどのような変化をしているのか推定することが可能である。熱分解で発生してくる物質までモニターできれば便利で、そのようなTGAも開発されている。例えば炭素と二酸化珪素(シリカあるいは石英などで、以下シリカで代用)を用いて還元反応を1600℃以上で行いSiCを合成するシリカ還元法では、固相反応だけで進行するならばCOガスを発生しSiC化する。しかし、固相反応以外に気相反応も経由すると、COガス以外にSiOガスも発生する。すなわち、シリカ還元法で重量減少をモニタリングすることにより、発生ガスがCOだけなのかSiOガスの発生もあるのか、など重量減少から予測でき、さらにその反応速度を解析することにより、反応機構までわかる。
反応機構を調べ論じるだけならば、これは科学の研究であり、りっぱな学位論文となる。しかし、この研究結果は技術開発において次の2点で重要な意味を持つ。一つは、SiC化の反応を高分子前駆体を用いたならば固相反応だけでSiC化できる、ということと、もう一つは、SiC化の反応機構が反応温度でどのように変化するのか、という2点を明らかにできる。
当時報告されていたシリカ還元法の反応機構は、気相反応経由と気相反応と固相反応の両方を経由する反応が知られており、固相反応だけでSiC化の反応が進行する系は知られていなかった。気相反応を伴うので、還元剤である炭素をシリカ還元法では大過剰に用いる必要があり、SiC合成後炭素を燃焼により除去する必要があった。その結果SiCの一部が酸化され、シリカ不純物として生成物に含まれていた。また、SiOガスがSiC内部に閉じ込められる場合も報告されており、シリカ還元法では酸素不純物を完全に取り除くことができない、とされていた。
もしSiC化の反応が有機物の反応のように、均一相で単純な反応で進行したならば、酸素不純物までも残らない100%高純度のSiCを合成できるはずである。すなわち均一固相反応でSiC化できる前駆体を発明できれば、半導体分野に使用可能な100%純度のSiCを大量合成できるプロセスを開発できる。また、この均一固相反応で進行する温度領域が明確になれば、プロセス設計も容易になり、そのロバストネスも予想できる。
すなわち、SiC化の反応機構を調べる研究は、科学の研究であると同時に技術開発にも重要な研究で、もし数ミリグラムの試料でプラント建設の情報が得られるならば、数千万円かけてでも実施する価値のある研究である。もし高分子前駆体を用いる反応が均一固相反応で進行する系であることが証明されれば、高純度SiC合成プロセスの本命であることもわかり、事業の未来も明るくなる。無機材質研究所へ留学する前にTGAについて調査しましたが、SiC化の反応をモニター可能なTGAは市販されていませんでした。しかし赤外線イメージ炉が微小領域ならば2000℃前後まで加熱可能な熱源として知られていました。超高温熱重量天秤の開発は、逆向きの推論(1)から導き出された企画です。
<参考情報>
(1)「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」、あるいは「問題は「結論」から考えろ!セミナー」をご覧ください。
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SiCの線膨張率測定を行いながら、YAGレーザー加熱により得られる高温度が、極めて安定であることにびっくりしました。SiCの単結晶は、逆向きの推論(1)を用いて開発したばかりの接着剤で空間に固定され、透明石英管の中にアルゴン封入された状態であり、断熱材は使用していません。YAGレーザーで単結晶に供給されるエネルギーと外部に放出されるエネルギーのバランスが釣り合っているため、と推定されますが、YAGレーザーのパワー30%程度で簡単に2000℃の環境が得られます。
この実験は、留学後予定していたシリカ還元法の反応速度論研究に用いる実験装置の大きなヒントになりました。すなわち、シリカ還元法は1600℃以上の高温度でシリカを炭素で還元する方法であり、その反応をモニターするには、1600℃以上の高温度を瞬時に安定的に発生できる熱源と天秤が必要です。天秤は温度変化で誤差を生じますので熱源を可能な限り小さく設計する必要があります。実は、固相反応だけで進行するシリカ還元法の研究開発の戦略はできていたのですが、このときの実験で使用する超高温熱重量天秤の熱源について、逆向きの推論(1)から得られた、可能な限り狭い領域だけを加熱できる赤外線イメージ炉を採用する予定でおりました。しかし、赤外線イメージ炉よりもさらに狭い領域を安定に加熱できる熱源のヒントが、この実験から得られたわけです。
科学では、ある仮説の正しさを証明するために実験を行なわなければならない場合があります。いくら仮説が正しくとも、仮説を支持しない実験データが得られたならば、その仮説の信頼性は下がります。ゆえにどのような実験を行うのか、実験計画や実験に使用する装置が重要になってきます。重量減少をモニターし、反応速度を求める実験では、時々刻々と変化する重量を精度良く測定できる天秤が必要で、室温から1500℃までの温度変化程度ならば、精度の高い重量変化を追跡できる熱重量天秤が開発されておりましたが、SiCの反応温度1600℃以上で重量減少を計測できる超高温熱重量天秤については、新たに開発する必要がありました。
このSiCの線膨張率測定実験を開始してから1年半後、2000万円かけてYAGレーザーと赤外線イメージ炉を併用した2000℃まで測定可能な超高温熱重量天秤の開発に成功しますが、研究開発における実験の位置づけを考えると、実験装置の設計は研究者自ら行う必要があり、また、ユニークな実験方法であれば、それがまた新たなアイデアを生み出す基になりますので、実験そのものも自ら率先して行うことの重要性を学びました。高温度におけるセラミックス単結晶の線膨張率を直接計測する装置は、井上善三郎博士の考案によるもので、大変ユニークな研究者でした。ただ、ユニークな装置も2000℃という高温度まで耐える接着技術が世の中に存在しなかったために、1000℃までの実験装置として使わなければなりませんでした。そのような状況で、逆向きの推論(1)を用いて、2000℃以上まで耐えられる接着技術を開発し貢献できましたので、超高温熱重量天秤にYAGレーザー加熱を組み合わせるアイデアの使用を許可して頂きました。
<参考情報>
(1)「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」、あるいは「問題は「結論」から考えろ!セミナー」をご覧ください。
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