N社F100の裏蓋フックは、クリープ破壊で壊れた可能性が高い。それはフラクトグラフィーにより、明らかだった。フラクトグラフィーとは、御巣鷹山の飛行機事故の裁判でも墜落原因を特定するために使われた科学的方法である。
御巣鷹山の飛行機事故では、重要部品の圧力隔壁が壊れこれが飛行機の制御系を壊し、制御不能となった飛行機は御巣鷹山の峰に衝突した、という原因が解明されている。
圧力隔壁が壊れた原因について解明するためにフラクトグラフィーが使われ、墜落した飛行機がかつて羽田で尻もち事故を起こした時の修理方法が悪く、疲労破壊を速めた、というところまで明らかになっている。
フラクトグラフィーという手法では破壊した個所の観察が重要で、その破壊した個所に現れる材料特有の模様から、破壊に至る過程を明らかにしてゆく。
N社F100のフックの破断面をD2Hへマクロレンズをつけて接写して、拡大して得られた画像を見たところ、ゆっくりゆっくり破壊が進行したところと急速に破壊が進行したところが連続的につながっていた。
すなわち、最初に何らかの原因で、ピシッとヒビが入り(この時急速に破壊が進行した波面の状態となる)、樹脂はそれを何とか持ちこたえたが、その後クリープでゆっくりゆっくり破壊していった破壊の様子が一つ思い浮かぶ。
しかし、カメラは防湿庫に静置されていたので、最初の破壊原因としてピシッとヒビが入る情景を想像しにくい。それよりも、裏蓋フックには常時それを開けようとするスプリングの負荷がかけられている。この機構ゆえにフックが外れると裏蓋が勢いよく開く。
すなわち、フックに応力が常時かかっていたが樹脂密度が低いためフック全体のクリープ速度が速くなり、わずかに変形して応力集中が起きたところからゆっくりゆっくりとクリープ破壊が進行した。
その後、裏蓋を開けようとするスプリングの強度に持ちこたえられなくなったところで、ピシッと割れた、という破壊機構の方が波面の模様を説明するために妥当性がある。
すなわち、新たに購入したN社フラッグシップD2Hを使用するようになったため、1年以上防湿庫にF100は眠っている状態となった。この眠っていた間に裏蓋フックの樹脂の分子はバネの応力でクリープを起こし、破壊に至ったのである。
おそらくF100を使い続けていたら、もっと早くフックは破壊し、使用条件の悪い使い方か、製品の設計が悪いために破壊したのか原因不明となっていたかもしれない。しかし、1年以上使わずに放置していて壊れたのである。設計ミスか製造時の品質管理ミスかは明らかだった。
ラインに流れる裏蓋フックに関しフックの密度が低いことを見落としていたならば製造側の品質管理ミスである。もし、スペックで決められたバネの応力が強すぎた、あるいはフックの成形体密度について仕様が決められていなかったならば、これは製品設計におけるミスである。
いずれにせよ消費者の責任ではない。1年以上防湿庫に放置していて重要機能部品が勝手に壊れる様な製品を作っていてはだめだ。ますます製品の売れゆきは悪くなる可能性が高いのですぐに弊社に相談してほしい。設計段階からのロバストを高める手法を伝授します。
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ラテックスを塗布し形成された薄膜を観察すると、セラミックスのような粒界が観察されるときがある。そしてその構造のサイズは、ほぼラテックス粒子の大きさと同じである。
このような電子顕微鏡写真を得るためには観察用の良好な剥片が必要だ。さらに四酸化オスミウムなどの染色をしなければいけない。
ラテックスから形成される薄膜は、おそらく皆このような高次構造の薄膜になっているのだろう。面白いのはこの薄膜をさらに熱処理をしてやると粒界が無くなる場合と高次構造が変化しない場合とがある。
ところが薄膜物性を評価してやるとどちらも似ており、玉の性質は消えて紐で現象をとらえた方が説明しやすい場合がほとんどだ。
ならば、樹脂のラテックスとゴムのラテックスを混ぜたらどうなるか(樹脂成分は30wt%未満の配合である)実験してみた。アクリル系ラテックスであれば、このような実験が容易となる。
pHを揃えて合成できる樹脂とゴムのラテックスを別々に合成後、混ぜて塗布液を調整する。この塗布液で薄膜を形成すると、樹脂球がゴム球の中に分散している構造の薄膜となる。これを加熱処理しても観察される構造は変わらない。
おもしろいのはこのように製造された薄膜でも弾性率が上がる。ゴム会社の新入社員テーマで樹脂補強ゴムを製造した時のことを思い出した(この時は樹脂成分は20wt%未満の範囲で実験している)。
この時、目標としたゴールは樹脂の海にゴムの島ができている高次構造だったが、ゴムと樹脂の組み合わせが悪い場合には、ゴムの海の中に樹脂の島が分散している高次構造となった。面白いのはこの高次構造の差は弾性率で比較しても観察されなかったことだ。
弾性率に差は出なかったが、樹脂が島の場合には引張強度に大きな差が現れた。樹脂が海の高次構造の樹脂補強ゴムの方が引張強度はじめ多くの点で優れた物性を示した。
ところが、PETフィルムに樹脂ラテックスとゴムラテックスの混合物を塗布して薄膜を形成すると、樹脂が島構造となっていても、薄膜物性は良好だった。おそらく、樹脂補強ゴムにおける樹脂の島相のサイズが大きく機能していた可能性が高い。
このような現象を考えるときに、紐か玉かどちらが良いのか悩む。およそ妄想の世界でアイデアを練る限界かもしれないが、高分子材料の設計をする場合に科学的に考えているよりも、このようなモデルでイラストを頭に描いて考えた方がアイデアが豊富に出てくる。
こうしたアイデアの大半は科学的ではないが、実現できる場合がある。半導体無端ベルトの押出成形技術を完成させたときのアイデアはこうして生まれている。そしてカオス混合技術を開発することができた。
技術とは必ずしも科学的である必要は無い。それを伝承するためには科学的である方が容易ではあるが、機能を実現するためには非科学的技術であってもロバストさえあればよいのである。科学で固まった頭を少し柔らかくしていただきたい。
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ラテックスとはゴムや樹脂のコロイド状水分散物である。コロイドとは微小な液滴あるいは粒子がある媒質中に分散している分散系で、粒子の大きさが、約1μmから1nmの範囲にある場合をいう。
コロイド分散系は、分子コロイド、ミセルコロイド、分散コロイドの3種が存在し、コロナウィルスは気相に分散している分散コロイドである。
高分子のツボでは、高分子を組み紐で表現し現象をとらえると分かり易い、と説明してきたが、同じ高分子でもラテックスの扱いは難しい。
それは、例えばラテックスが塗布されて薄膜を形成した場合には組み紐のイメージを想像して現象を考えても良くあてはまるが、塗布前の乳濁液では組み紐よりも玉の扱いで考えやすくなる。
ただ注意しなければいけないのは、親水性部分を持っているラテックスである。その挙動はよくわかっていない。ラテックスにおいて分かり易いのは球の扱いができる場合で、このモデルで説明がつく現象については、難しくても何とか問題解決できる。
しかし、親水性の部分を持ったゴムあるいは樹脂の場合に厄介なのは、組み紐状に広がって分散している場合もあるからである。これはいろいろなラテックスを合成し、このような分子コロイドができたと思われるときにその後のプロセス性が悪かった経験から述べている。
歯切れの悪い書き方になるが、水に分散している状態をうまく分析評価できないのでこのような表現になる。ただ、このような分子コロイドをスピンコーターにたらしてから顕微鏡観察すると球体が見つからないので水中で球状ではない可能性が高いと想像している。
このような場合、10%程度に希釈しても粘度が高いので塗布液として使いにくいが、コーティング液として使えないわけではない。ワイヤーバーを使って無理やりコートすることができ、薄膜の評価も可能である。
ネットで検索して得られるラテックスの説明にはゴムの分散液程度の説明しかないが、乳化重合により樹脂が水に分散したラテックスはじめ様々な高分子重合体のラテックスを頭の中では製造可能である。その中には実際に実用化されたラテックスも多い。
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フィルムカメラF100の裏蓋フックはプラスチック製だった。樹脂の材質は不明だが、壊れた断面は、典型的なクリープ破壊の破断面を示していた。
すなわち、その破断面を観察すれば、裏蓋を押し上げるためのスプリング強度が強すぎたためフックのクリープ速度が速くなり、フックが壊れたと理解できる。
ただし、これはフックが常に目標スペック通りにできていた前提の仮説である。
1970年代の低密度ポリエチレンのクリープ速度に関する研究では、密度が0.02大きくなると、クリープ耐性が2倍になるという報告がある。すなわち、密度が大きくなるとクリープ耐性が非常に大きくなるのだ。
これは逆に密度がたった0.02小さくなっただけでクリープ耐性が著しく弱くなることを意味している。スプリング強度が仕様通りだったとすると、F100の樹脂製裏蓋フックの成形体密度がばらつきで小さくなっていた可能性がある。
樹脂の成形体密度は0.02程度のばらつきを生じる場合があり、注意を要する。低密度ポリエチレンのクリープ速度と樹脂強度との関係を調べた研究の動機でもある。
ところで、このF100の裏蓋フックについて高分子材料のツボを読んでいた技術者ならばおそらく密度のばらつきに注意が向いたはずである。
そして組み紐のモデルを思い出し、密度が下がれば著しくクリープ速度が速くなる可能性があるとの想像ができて、品質問題を未然に防げた。
なぜなら密度が低いということは、自由体積の部分が多い樹脂成形体を意味しており、自由体積部分では高分子がぴくぴくと運動している。高分子の運動にレピュテーション運動というのがあるが、これは分子の鎖方向にウナギの如くくねくねと動く運動である。
自由体積が多くなり、レピュテーション運動も活発にでき、そして外力がかかったならどうなるか。紐がずるずるとほどけてゆく様子を頭に描くことができる。クリープ破壊とはこのように進行する。
ただしこれは当方の妄想であり、科学的ではないことを注記しておく。但し、高分子材料開発ではこのような妄想が重要な場面として役に立つケースが多い。品質問題という悪夢と思いたい現実に遭遇するよりも妄想を描きながら慎重に材料開発を進めた方が精神衛生上よい。
後日、中間転写ベルトでは頭に浮かんだ妄想からカオス混合装置を開発した実話を紹介する。科学的な知識では否定証明となってしまう場面でも妄想により掻き立てられた開発欲求により、科学を超越した発明が生まれる可能性が高いのは高分子分野である。
健全な妄想により、悪夢のような現実を起こさないように進むのが、大人の技術開発である。不健全な盲目的科学崇拝では現実否定ばかりしている場合にも、健全な妄想は希望の光を見つけ出す。健全な妄想は健全な精神と誠実で前向きな生き方により生まれる。健全な肉体は、ここぞという勝負時に必要である。
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高分子材料の成形体密度は、金属の成形体密度に比較してばらつきが大きい。これは高分子材料のツボで説明したように部分自由体積の影響であるが、この密度のばらつきの上限と下限を知る方法があるのか実験した経験がある。
配合処方と射出成形条件を一定にして成形体を作ると、密度のばらつきは一定の範囲に入るので、上限と下限を決めることができそうに見える。
ところがコンパウンドのロットが変わると、この上限と下限が狭くなったり広がったりするケースがある。PC/ABSのような多成分のポリマーアロイでこうした現象を観察することができる。
すなわち、同一二軸混練機で同一条件により混練していても原材料が異なるロットを用いると密度のばらつきが影響を受けるということだ。密度のばらつきが影響を受ければ、密度と相関するその他の物性ばらつきも影響を受ける。
例えば、弾性率や誘電率、屈折率などもそのばらつきに密度の影響が現れる。その結果、例えばコンパウンドメーカーが試作段階でコンパウンドの仕様として成形体密度を決めていたならば、ロットアウトとなる場合が出てくる。
ここまで説明すると数年前あるコンパウンドメーカーが仕様書を捏造していた問題を思い出す人がいるかもしれない。そしてその問題では自動車メーカーが一斉に社内の品質検査で問題が無かった、と声明を出す不可思議なことが起きている。ここではこれ以上書かない。もし気になられた方は弊社にご相談ください。
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高分子材料について組み紐を用いて説明しているが、混練プロセスを考える時にもこのモデルは便利である。高分子材料を混練するときに混練温度をどのように設定するのかは、良好なストランドを引くために重要である。
吐出された樹脂をストランドとして押出しペレット化(ペレタイズ)するプロセス以外に吐出された樹脂をそのままペレットとするプロセスもあるが、ここではストランドとして押し出すプロセスを考えてみる。
混練するときに多くは高分子のTmを基に混練温度が決められるそうで、この温度よりも低い温度で混練すると分子が断裂するので好ましくない、とよく言われている。
当方は、この考え方は現象をよく見ていない人の考え方だと思う。分子の断裂よりも混練機のトルクオーバーを心配しなくてはいけない。しかし、分子の断裂や混練機のトルクオーバーを起こさず、Tm以下の温度でどのように混練するのかは、ここで明確に説明しない。
それは組み紐モデルを眺めておれば気がつくことだからだ。もしアイデアを思い浮かばないならば弊社にご相談いただきたいが、Tm以下で混練してみるとTm付近の混練物とはレオロジー特性の異なるコンパウンドが得られびっくりする。
高分子材料の混練については分配混合と分散混合で説明されているが、40年以上前には溶融高分子に着眼した考察が行われていた。少なくともゴムの混練ではこの視点であり、その時Tm以下でも高分子は流動する前提があった。
乱れた組み紐を眺めていると今にも流動しそうに見えてくる。また、溶融温度以下では乱れたまま混練される姿を想像できる。退職してからこの10年も様々な高分子をコンパウンディングしてきたが、Tm以上の温度で混練した経験は無い。
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低分子有機化合物の構造解析には、UVやIR,NMRが使われる。化学系の大学では卒業までに構造解析の実習あるいは、試験があるので皆身に着けている。ところが高分子に関する構造解析について当方の時代には低分子に準じるとごまかされていた。
確かにIRやUVにより高分子に含まれる官能基を知ることができるが、NMRを計測しても低分子のようにわかりやすいスペクトルは得られない。また、高分子では分子量分布も問題になる。分子量だけならば粘度測定でおおよそ知ることができるがやはりGPCを計測しその分布も知りたい。
分光学的方法と比較すると熱分析は大学でも分析の授業で触れられるだけで、それを使用した解析方法は詳しく授業で取り扱わない。少なくとも当方の時代には熱分析装置の原理までで高分子材料の分析への展開について説明はなかった。
しかし、TGAやDSC、TMAは、実務で活用分野が広い。TMAについては粘弾性を測定可能な装置も発売されている。当方はポリウレタンの難燃化技術開発でこれら熱分析装置の威力を学んだ。
もし高分子の種類が分かっているならば、分光学的方法よりも熱分析手法の方が実務では役立つのではないかと思っている。ただJISでこれらの測定法を読むと残念なのは、TGAとDSCで昇温速度が異なっていることだ。
確かにDSCでは20℃/minでも情報を得ることができるが、TGAではこの昇温速度では早すぎて一部の情報を得ることができない。TGAの昇温速度は速くても10℃/min前後が限界と考えた方が良い。
JISに従って測定データを取得していると、TGAとDSCで異なる昇温速度のデータを比較することになる。これは熱分析では不都合なことなのだ。このあたりを解説すると長くなるので、これ以上説明しないが知りたい方は問い合わせていただきたい。
JISにDSC測定の昇温速度が20℃/minと書かれていても10℃/min.で計測されることをお勧めする。それは何か問題が起きたときにTGAを10℃/minで測定することになるからだ。同じ昇温速度のデータで熱分析結果は比較すべきである。
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現象をシミュレーションする方法には、現象のモデルを数値解析し得られた数式で行う方法とコンピューターの中でモデルを動作させて計算を進める方法がある。
科学の世界では現象について数学で記述することを目指している。現象を数式で表現できれば未来予測も簡単である。数学を得意とする人ならば数式と現象がダイレクトにつながり、理解できるかもしれないが、凡人にはそれが難しい。
ゆえに現象をすべて数学で表現するのではなく、現象をモデル化して、出来上がったモデルを少しずつ変化させて計算する方法が直感で理解しやすい。
有限要素法では、物体を三角形の要素に分割し、例えば応力がかかった時の変形については、三角形の変形した座標を頼りに計算を積み上げてゆく。
現象についてすべて数式で記述されるよりもこの有限要素法的シミュレーションの方が凡人は理解できるかどうかは別にして安心できる。
ただし、この方法はコンピューター無しではシミュレーションは難しい。換言すればコンピューターが登場したから可能となった現象理解の方法である。
高分子も分子1本の解析結果を積み上げシミュレーションする技法が開発されている。ただ、複雑な分子になってくるとコンピューター資源が大量に必要となるので複雑な部分を簡略化して計算を進める手法が開発されている。
高分子とコンピューターとの関係などどうでもよい、と思っている人は時代遅れである。マテリアルインフォマティクスでは人間の頭でやったほうが良い場合があるのにAIを使ってデータマイニングする方法が検討されている。
昔TRIZやUSITが流行った時代があったが当たり前の結果しか出ないので相手にされなくなった。マテリアルインフォマティクスもAI一辺倒だと当たり前の結果しか得られなくて誰も相手にしなくなる、という懸念がある。
何でもコンピューターに放り込む、という姿勢もどうかと思う。昔電卓で微分方程式を解かれていた方は、大型コンピュータを操作できるスキルを持っていた。しかしそれでも電卓を使った理由は、それを使うことにより新しいアイデアが湧くからと言われていた。この言葉は今の時代にも参考になる。
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40年以上前に化学系の学部で学んだ高分子科学は重合反応が中心で高分子物性論の授業が無かった。おそらく今の化学系の学部ではOCTAの話なども出てくるのではないかと思う。OCTAでは、高分子の分子1本からの積み上げでシミュレーションを行っている。
20世紀末に分子1本のレオロジーに関する研究報告を聞いた。当時、ダッシュポットとバネのモデルによる粘弾性論が破綻し、新しいレオロジーについて議論が活発化していた。
新入社員のときの指導社員はレオロジストであり、ダッシュポットとバネのモデルで粘弾性解析を行うのを得意としていた。電卓で微分方程式を解かれている姿はかっこよかった。
その指導社員が自分の行っている方法はもうすぐ学問ではなくなる、と予言されていた。その20年後高分子のレオロジーに関する研究ではダッシュポットとバネのモデルが時代遅れとなった。
しかし、高分子材料を設計するときにこのダッシュポットとバネのモデルを頭に描くと便利なことが多い。特に粘弾性試験機で測定されたデータを理解するときには、このようなモデルは重宝する。
高分子材料の表に現れる物性は、分子1本づつの積み重ねの結果であるが、力学物性の場合には高次構造が関係している場合が大半である。するとダッシュポットとバネのモデルでとらえた方が理解しやすくなる。
もっとも、今の若い人は大学でダッシュポットとバネのモデルを学ばないだろうから、意味のない話ではある。しかし、経験知としてこのモデルは大切にした方が良いと思っている。
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フックの法則は、バネに力を加えると歪が正比例の関係で変化する、という法則である。ただしこの時バネに大きな力を加えると正比例の関係から崩れる。正比例の関係が成り立つ領域を線形領域と呼び、そこから外れた場合には非線形領域と呼ぶ。
金属のバネでは線形領域が大きいが高分子は狭い。さらに架橋したゴムと樹脂では、架橋したゴムの方が線形領域は広い。これについて、頭に組み紐が思い浮かんだ人はすぐに理解できるかもしれない。
すなわち、高分子材料では、分子の一次構造の方向に動きやすいので、分子どおしが架橋されていない場合に滑りが生じ線形領域が狭くなる、とすぐに理解できる。また、加硫ゴムよりも樹脂のバネばかりの方が壊れやすいことも理解できる。
また線形領域でバネばかりとして使っていても、金属よりも高分子材料のバネばかりは緩和速度が速いので、線形性が崩れるのが早くなることを容易に理解できる。
クリープとは物質に一定の外力を加えることにより変形(歪)が進行する過程を言う。また応力緩和とは、物体に一定の歪を与えることにより生じた応力が低下する過程を言う。高分子材料の力学物性を考察するときに緩和速度を意識することは重要である。
また応力をかけて一定歪を与えたときに応力が初期の1/eになる時間を緩和時間と称するがこうした用語も現象と結び付けて正しく記憶しておくことは品質問題の解決にあたる時に役立つ。
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