活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2020.09/13 高分子の誘電率制御(5)

高分子の誘電率を分子設計で制御するときに、科学的で有名なClausius–Mossottiの式がある。光学では屈折率に置き換えた、ローレンツ・ローレンツ式として知られている。

 

この制約から、誘電率を高分子の誘電率を上げるときにも下げるときにも制約を受けることになるのだが、上げる方についてはペロブスカイトでも混ぜてやれば高分子単体で実現できない領域まで上げることが可能となる。

 

しかし、2.5より下げる場合には結構むつかしい。これは、セラミックスでも難しく、low k 物質が2000年前後に話題となった。

 

この時にはシリコーン系の発泡体で実用化されているのだが、高分子でも空隙を入れて低誘電率化する以外に科学的には方法がない。

 

しかし、周波数領域を限定してやれば方法がありそうにも思われる。どのようなアイデアがあるかは、火曜日のセミナーでお話しするので弊社にお問い合わせください。

カテゴリー : 学会講習会情報 宣伝 電気/電子材料 高分子

pagetop

2020.09/12 高分子の誘電率制御(4)

材料の誘電率制御について、これまでHighkからLowk材料への流れが20世紀末から21世紀にかけて起きている。

 

当時は特に高分子材料に限定されていなくて、シリカの空隙材料が注目された。そして層間絶縁膜として実用化された。

 

今、高分子の低誘電率化が技術ニーズとして注目されている。そして低誘電率ポリイミドが開発されたりしている。

 

高分子の高誘電率化では、フッ化ビニリデンの類で実用的な材料が商品化されたが、低誘電率化については、誘電率が3前後の材料が限度で、誘電率2以下となると空隙材料以外では実現が難しい。

 

ところが、負の誘電率が21世紀になって真剣に議論されるようになり、数年前から特許も出始めている。

 

負の誘電率については、当方も帯電防止剤の開発や中間転写ベルトの開発で実際に測定してびっくりしている。アカデミアの先生にご相談したら「キワモノ」的だ、とのアドバイスがあったので、インピーダンスに絶対値をつけて発表した。

 

負の誘電率の「偶然」開発体験から、高分子の低誘電率化の可能性を高める技術になるのではないかとの予感をしている。詳しくは来週火曜日に開催される技術情報会のセミナーで説明するのでご興味のあるかたは問い合わせていただきたい。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

pagetop

2020.09/11 高分子の誘電率制御(3)

シリコーンオイルに傾斜機能粉体を分散した電気粘性流体の比誘電率は100Hz前後で10程度であり、強誘電体である。

 

高周波数領域では誘電緩和速度が遅いためにシリコーンオイルの誘電率に近い3前後まで低下する。

 

これは低周波数領域では、粒子の分極速度が十分に早く双極子対が形成されクラスター形成に至るが、高周波数領域ではシリコーンオイルの粘度もあり、見かけ上誘電緩和が遅くなるため、と推定される。

 

電気粘性流体についてはバブルがはじける直前に研究のブームがあり、そのレオロジー特性は十分研究されたが、電気的性質に関しては、多くない上にデバイス設計上のノウハウとして公開されていない。

 

電気粘性流体では、半導体を高分子オイルに分散し、電場がかかった時に生成する半導体粒子の双極子対で強誘電性となったが、それは低周波数領域だけの現象だった。

 

ペロブスカイトのような強誘電体を分散すると高周波数領域まで誘電率が高い電気粘性流体となるが、電気粘性効果は小さかったり応答性が悪かったりと、性能が悪い流体となる。

 

面白いのは、強誘電体の添加率を増やしてゆくとパーコレーションが観察される現象である。これはポリウレタン樹脂で実験した結果であるが、ペロブスカイト粒子を体積分率で10%程度まで添加すると、高周波数領域の誘電率は上がってゆくが、15%では下がる現象が観察された。

 

高分子の誘電率を制御しようとしたときに、周波数依存性や温度依存性、不純物の影響などややこしくて難しい問題が存在する。詳細は来週技術協会主催で開催されるセミナーでお話しします。開催日等についてはお問い合わせください。日にちが迫っていますので弊社へ申し込んでいただいても結構です。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2020.09/10 高分子の誘電率制御(2)

ヒューリスティックな手法は、難しい手法ではないが、知らない人には、マジックのように不思議に見えるようだ。

 

頭の良い人ほどその手法を受け入れられないかもしれない。実績では偏差値40前後の高校生から社会人になった人を指導して大発明ができている。

 

要は現象をどうとらえ、そこに存在する機能をモデル化して頭の中でそれ動かすことができればよく、将棋や囲碁の打ち手を考えるより易しい。

 

しかし、頭の良い人は現象を科学的に捉えようとして、その手法の有効性をなかなか理解できない。科学で何でも解決できると思っているその頭がおかしいことに気がつかない。

 

自然科学で解決できていない現象は、まだたくさん存在する。素粒子物理学でも今ようやくその果てが見えてきたところではないか。

 

完成したと言っている物理学者もいるが、素粒子物理学の完成は、それを自然物理学や化学などの世界とシームレスに体系化できた時である。化学では、未だ怪しい錬金術師が活躍できる分野である。

 

当方が今月無料セミナーを開催するのでそれを聴講していただければご理解いただけるが、当方が指導するヒューリスティックな手法は科学的である。

 

科学的な手法で科学で解明されていない問題を解くことが可能である。ただし、そこで得られた解は、科学的かどうか検証する必要があるが。

 

話が脱線したが、電気粘性流体で設計した傾斜組成の粒子に対しても他の人からそれでできたと言われても使えない、と一流企業ではよくある評論家的意見が出てきたので少し科学で味付けした。

 

意外にも誘電体超微粒子分散微粒子やコンデンサー分散微粒子は、すんなり理解された。創作した当方にしてみれば、この二つの粒子の方が怪しい。怪しいだけでなく、傾斜組成粒子よりも少し性能が劣る。

 

非科学的な傾斜組成粒子のほうが性能が良く、製造方法も管理可能で量産性があった。コンデンサー分散型粒子は、インタカレーショーンなど時間のかかる現象を駆使して材料を製造しなければいけないのでコストアップすることは見えていた。

 

非科学的な傾斜組成粒子については、5μm程度のモデル粒子を実際に製造し、それを輪切りにして電子顕微鏡写真を撮影したり、表面と中心部、およびその中間の導電性を測定し、傾斜組成になっていることを確認している。

 

しかし残念ながらFD問題隠蔽化に納得できず転職してしまった。そのため公開されたデータ特許に掲載された傾斜組成の写真だけである。

 

カテゴリー : 高分子

pagetop

2020.09/09 高分子の誘電率制御(1)

絶縁体セラミクスの中でペロブスカイトと呼ばれる一群の結晶は、強誘電体として知られ、周波数依存性があってもコンデンサー用材料として欠かせない部材である。

 

高分子ではフッ化ビニリデンはじめ一部のフッ素系或いはシアネート基を有する材料が強誘電ポリマーとして知られている。これらは、側鎖基も含めて電荷の偏りで発生する大きな双極子モーメントにより強誘電体としての性質を示す。

 

また、ペロブスカイト同様に圧電性も示す。今は昔となってしまったが、オーディオ業界の雄、パイオニアがフッ化ビニリデンを振動板として用いたヘッドフォーンやツイーターを発売した実績がある。

 

フッ化ビニリデンを振動板として用いたヘッドフォーンは能率が悪かったが、SN比の高い自然な響きをしていた。ヘッドフォーンで音楽を聴くのは苦手であったがこの美しい音に惚れて購入した。

 

ところで電気粘性粒体という材料が20年以上前に盛んに研究され、あの日産自動車ではサスペンションまで試作された。

 

電気粘性流体とは、絶縁油に半導体粒子を分散した液体であり、電場のONとOFFでそのレオロジー特性を流体から固体にまで制御可能な物質である。

 

この流体に電場をかけると、各粒子に双極子が生じ、その相互作用のため、粒子が電場と同じ方向に並んだクラスターを作る。

 

ONセットとOFFセットの応答性の良い電気粘性流体を設計するためには、半導体微粒子の設計が重要で、電場を受けると帯電しやすく、電場が無くなると帯電した電荷を速やかに無くす仕組みが重要である。

 

このような材料は科学的に考えていては、山中先生ではないが生きているうちに創り出すことはできない。ヒューリスティックな手法で、傾斜組成粒子や超微粒子分散粒子、コンデンサー分散粒子など瞬間芸的に生み出した。

 

この創造力は訓練すればだれでもできるのだが、当時のプロジェクトリーダーからどうしてそのような情報を仕入れたのか教えろ、と会議室で詰め寄られた。

 

頭を指さしたら、切れたので怖くなって会議室を飛び出したが、そのくらいインパクトのある発明だったようだ。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2020.08/17 コンセプト(10)

粒子の凝集体でできたドメインの分散状態について、パーコレーション転移が考えられる。ドメイン内部も同様にパーコレーション転移が起きていたほうが抵抗が安定する。

 

すなわち、凝集体のパーコレーション転移を制御して、その制御された凝集体の分散についてもパーコレーションを制御するというと難しそうに見えるが、混練の教科書には簡単にできそうに書いてある。

 

だから間違っているのである。分配混合を行えばそれができる、と言ってもそれは教科書の中での出来事であって、実際の現象を制御しようとなると、知恵が必要になる。

 

方法は2つある。6ナイロン相に全てのカーボンを分散し、6ナイロン相の中でパーコレーション転移を完結させておく。そうすればカーボン量に応じて、10の6乗から10の4乗までの体積固有抵抗の半導体相を形成できる。

 

そしてこれをPPSに分散するのが一つの方法で、これは最初に6ナイロンとカーボンを混練し、それをPPSと混練するという分割プロセスで簡単に実現できる。

 

もう一つの方法は、PPSに6ナイロン相を相溶させて、そこにカーボンを分散すると、6ナイロン相がスピノーダル分解を起こし、相分離するときに、PPS相で安定に分散しないカーボンは、6ナイロンに引きずられて凝集粒子相を形成する。

 

これは、かなりの難易度というよりも科学で否定される禁じ手である。ただ、高分子の世界では、科学で解明されていない現象が多いという理由で、このアイデアを積極的に考えると、新技術を生み出せる可能性がある。

 

ただこのようなチャレンジが許される風土であるかどうかが問題となるが、幸運なことに写真会社が合併したカメラ会社の風土は、それが許される風土だった。

 

最もこの無謀なPPS中間転写ベルトの押出成形技術はそのような風土だったから6年も続いていたテーマだった。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2020.08/15 コンセプト(8)

Wパーコレーション転移による抵抗の安定化が、このときのヒューリスティックな解であり、コンセプトであった。しかし、これは科学的に証明された解ではなかったし、それを証明するためには数値解析も必要となるので、科学的な解について退職後の楽しみに残しておくことにした。

 

余談だが、2011年3月11日に早期退職して最初に着手したのが、会社設立とこのWパーコレーションの数値シミュレーションによる研究である。ソフト開発も含めほぼ一年かかっている。

 

Wパーコレーション転移を制御できれば、ベルトの周方向の抵抗偏差を小さくできることは、日本化学工業協会から賞を頂いた酸化スズゾルのパーコレーション転移の研究から容易に想像できた。

 

この経験があったので、ヒューリスティックな解を簡単に得ることができ、その解がほぼ正しいこともすぐに確信した。

 

すなわち、カーボンの導電性が高いために、カーボンが分散している樹脂でパーコレーション転移が発生すると、樹脂の抵抗変動は大きくなる。

 

もしカーボンの導電性を悪くすることができれば、パーコレーション転移が発生してもカーボンが分散している樹脂の抵抗変動を小さくできる。

 

カーボン材料を変更することができないので、どのように樹脂に分散している粒子の導電性を悪くするのかが難しい問題となるが、これもヒューリスティックな解を材料開発のプロであれば簡単に見つけることが可能だ。

 

逆にこの解をすぐに見出せない材料技術者は、もっと勉強する必要がある。勉強の必要な技術者は弊社へご相談ください。特訓をしてこのような問題のヒューリスティックな解を容易に見出すコツを指南します。

 

断っておくが、ヒューリスティックな解とど素人の山勘や第六感とは、その質において大きく異なる。後者でもヒューリスティックな解と言えなくもないが、正しい答えとなる確率は低い。

 

正しい確度の高い解を得る方法があり、それが弊社の研究開発必勝法である。弊社の問題解決必勝法は、確度の高いヒューリスティックな解を得る手法というAIの時代にAIではできないヒューリスティックな問題解決法である。

 

人間の人間による人間のための問題解決法である。感染症の専門家をこの手法で鍛えれば、コロナ禍の問題を即座に解決できる。

 

さて、導電性の高いカーボンについて、ふわふわな凝集状態で体積固有抵抗を測定すると10の6乗程度の半導体としての抵抗を示す。

 

このふわふわに凝集している状態へ均等に圧力をかけてゆくと、みかけ比重は0.9から1.6程度まで上がる。さらに静水圧加圧(CIP)を行うと1.95から2.0程度まで密度を上げることが可能だ。

 

横軸にカーボンのみかけ比重をとり、それぞれのみかけ比重の時の体積固有抵抗を測定するとほぼ1Ωcmまで下がる。すなわち、カーボンを凝集粒子とするとその凝集粒子の密度で体積固有抵抗を制御できることになる。

 

ここまで書くと勘のいい人ならば、Wパーコレーション転移の制御というコンセプトをすぐに理解できるかもしれない。

 

カーボンを凝集粒子としてPPSと6ナイロンで形成されるマトリックスに分散すればよいだけである。

 

凝集粒子の中で起きたパーコレーション転移とその凝集粒子が分散して生じるパーコレーション転移の二つのパーコレーション転移を制御すれば、ベルトの周方向で抵抗が安定したベルトを得ることが可能となる。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2020.08/13 コンセプト(7)

ベルト生産を終了し、押出機内に残っていたコンパウンドを清掃するために、クリーニング樹脂で押し出すのだが、早く作業を終えるために押出機のスクリュー回転速度を上げたのだ。

 

その結果、金型内では樹脂流動の剪断速度が上がる。PPSと4,6ナイロンのコンパウンドについて剪断速度が上がると4,6ナイロンがPPSに相溶し、透明になったという研究論文が東工大から発表されていた。

 

この研究論文によれば、フローリー・ハギンズ理論によるχが0より大きいPPSと4,6ナイロンが剪断流動状態でその速度が速い時には相溶することを意味している。すなわち、フローリー・ハギンズ理論では、χ>0では相溶しない、とされるが、特殊な条件下では、相溶が起きることが示された。

 

東工大と同様の視点、あるいはコンセプトを当方は、ポリオレフィンとポリスチレンの組み合わせで確認していた。この組み合わせもχ>0であるにもかかわらず、ある条件で相溶し、透明になるのだ。

 

某会社の研究者に当方のコンセプトを信頼していただき、様々なポリスチレンをそこから供給していただいた。

 

データ駆動型開発を進め16番目に提供していただいたポリスチレンで透明になった時には、まっ黄色な高純度SiCが得られた時ほどではないが、うれしかった。

 

これらの実験データから、低周波数の雑音を発生したベルトについて分析し、PPSと6ナイロンが相溶しているかどうか確認することがアクションとして重要となる。

 

そのアクションで相溶していることが確認されたら、押出成形プロセスを使って、PPSと6ナイロンが相溶したコンパウンドを製造し、それでベルトを生産したら面白いことが起きるかもしれない。

 

ただし、これをすぐに実行してはいけない。面白いことが起きなかった場合の対策が必要で、その対策のシナリオが確実に遂行できるように根回しが次のアクションとして必要となる。

 

そのために、面白いことが起きた場合と起きなかった場合を包含可能なコンセプトを練り上げる必要があった。

 

本来なら、研究開発期間を半年程度とり、人材を投入して十分なデータを集め研究として完成させてからテーマとして行うべきところだが、製品化までに残された時間がたった半年である。ヒューリスティックな解によるコンセプトを練り上げない限り、間に合わない。どうするか。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2020.08/11 コンセプト(6)

妄想は、時としてヒューリスティックな問題解決法につながる。PPSと6ナイロン、カーボンの3成分からなるコンパウンドが、押出成形でベルトに変わる。

 

その瞬間、PPSは結晶化してベルトは金属音を放つ。フローリー・ハギンズ理論の正しさを示すかのように6ナイロンがPPSに相溶せず、溶融状態のPPS分子が折れ曲がり、ラメラを形成後それが集まり球晶となる。

 

その結果、6ナイロンは島相として、PPSの海に分散する。これは妄想ではなく高分子化学の教科書に書かれていても良い話である。

 

島状に分散した6ナイロンもパーコレーション転移を起こせば、カーボンもパーコレーション転移を生じる。だから、カーボンは6ナイロンの分散の影響を受け様々な分散状態となる。この辺りから妄想の領域に入ってゆく。

 

ベルトの押出金型には必ず中子が必要で、中子をどのように固定するのかで金型形状が異なるが、固定部分でウェルドが発生する問題がある。

 

固定部分があっても流動状態が均一であれば大きな問題にならないが、6ナイロンの油滴やカーボン粒子が流動を不均一にする。その結果ウェルド部分は他と異なるパーコレーション転移を起こす。

 

妄想が少しずつ膨らんで行くが、もし6ナイロンがPPSに相溶して流れていたらどうなるか、とか、相溶しない組み合わせだから、金型を出てサイジングダイに接触した瞬間にスピノーダル分解を起こす、とか、スピノーダル分解して6ナイロンが析出するときに6ナイロンと相性の良いカーボンは6ナイロン相の島に集まってくるとか、までたどり着くと、カーボンの分散状態を制御してベルト抵抗を均一に安定化するヒントも見えてくる。

 

ものすごい妄想であるが、白日夢を見ているかのようにボーとしていた瞬間、低周波数音が聞こえてきたのである。

 

6ナイロンがPPSに相溶したままならば、PPSは結晶化せず、ベルトは金属音とならない。また、相溶という現象は、非晶質相だけで起きる現象、というのは科学の世界の話である。

 

低周波数の音を発生しているベルトでは、PPSに6ナイロンが相溶するという信じられない現象が起きているかもしれない、と思っても、妄想は妄想として扱い、現実に取るべきアクションを冷静に考えなければいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カテゴリー : 高分子

pagetop

2020.08/07 コンセプト(3)

始末書をまとめているときに、ホウ酸エステルを合成し、それをポリウレタンの変性材として使用する実験を行ってみた。

 

ホウ酸エステルを持ち出したのは「温故知新」という行動である。始末書でごたごたしているときに新しいアイデアを考えているゆとりなど無い。

 

当時は高分子技術において難燃化技術の関心が高まっていた時代であり、古代の難燃化技術について書かれたコラム記事が研究室の隅に放置されていた。

 

この状態は誰かがそれをすでに検討してダメだったことを示している。すぐに検討された人に尋ねたら、ホウ素系の化合物には高い難燃効果は無いという実験結果だったらしい。

 

幸運だった。ダメな実験結果から予見される、ダメな実験をやらなくても済んだからである。「温故知新」とは、過去を振り返りそのまま実行することではなく、「新しいコンセプトの下で過去の知見を見直すこと」なのだ。

 

古きをたずねて、古い技術をそのまま見ていても、古いだけである。新しきを知るためには、過去と異なる視点を持たなければならない。過去と異なる視点とは新しいコンセプトで見つめなおすことである。

 

すぐにホウ酸エステルが過去に難燃剤として検討されていないことに気がついた。ホウ酸エステルに着眼したのは、無機アルコキシドからガラスを合成する研究が当時の花形テーマだったからで、当方の独創というよりも、情報として周囲にあふれていたからである。

 

当時の先端の情報をもとに古い現象を見なおした。この段階で、まだ、新しいコンセプトは生まれていない。

 

自己評価するときに、無能かどうかという能力の捉え方の方が努力目標を設定した時に実現可能性が高くなる、と思っている。

 

とかく有能であらんとすると高い目標設定をしがちであるが、無能ではないかと自己を見つめるときに、無能にならないように努力する行動を起こすことができる。

 

ホウ酸エステルについて難燃剤としての検討が過去にされていなかったので、複雑に考えることなく、まずそれを合成することにした。ここで大学4年の時に有機金属合成化学の研究室で学んだ経験が生きた。

 

配位子という視点で、エステル化反応にジエタノールアミンを用いたのである。未経験者ならばホウ酸エステルの合成にグリセリンとかを選んでエステル化の研究として行うかもしれない。

 

有機金属化学を1年間学んだ経験があり、当時の研究室の諸先輩の顔を思い出し、無能と笑われないために、迷わずジエタノールアミンとホウ酸の組み合わせを実験している。

 

そして合成された化合物とリン酸エステルとを組み合わせて加熱する実験を行い、ボロンホスフェートを簡単に合成できることを見出している。

 

この実験結果は、ホウ酸エステルとリン酸エステルをポリウレタンに添加しておけば、燃焼時の熱で容易に反応してボロンホスフェートができることを示している。

 

あとはボロンホスフェートの難燃効果を調べれば、新しい難燃化システムの完成である。

 

たった2日間の実験で、「燃焼時の熱でガラスを生成し、高分子を難燃化する」というコンセプトが生まれた。

 

新しいコンセプトは、温故知新と学生時代に厳しいがレベルの高い研究室で学んだ知的財産と、実験という体力勝負をいとわない愚直さで生み出された。

 

学会で発表した時の懇親会で多くの先生が褒めてくださったが、能力というよりも始末書騒動から始まった業務に対する姿勢の変化が大きいと思った。

 

新しい発明を行うには、コンセプトが重要となるが、汗を流すことをいとわない心がけで、コンセプトを見出したならば、すぐにそれを具体化する行動を起こす必要がある。

 

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

pagetop