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2019.10/04 材料技術(4)

今月特別にセミナー(info@kensyu323.com へ問い合わせてほしい)のテーマとしてとりあげた高分子の難燃化技術や混練技術、帯電防止技術は、形式知で説明しにくい分野の技術である。どうしても経験知を用いることになる。

 

この時大切なのは、経験知も形式知同様に体系化されているとわかりやすいだけでなく、現場で活用した時に新たな経験知を生み出せる可能性がある。

 

注意しなければいけないのは、経験知と形式知をごちゃ混ぜにして解説するやりかたである。市販されている教科書にはこのようなものが多い。

 

混練の教科書の中には、分配混合と分散混合で巧みに解説し、科学で完璧に説明できない現象について、すでに自明となった現象として解説している場合がある。

 

このような状況のため、中間転写ベルトのテーマを引き継いだ時に、外部のコンパウンドメーカーの技術者と口論になっている。その時当方は、専門家と称する技術者に素人と決めつけられたので、外部のコンパウンドメーカーの考え方に対抗して、当方の経験知に基づくコンパウンド工場を建設している。

 

結果は、当方の考え方が正しかったわけだが、コンパウンドメーカーの技術者が主張していた内容は、教科書的には間違っていなかった。ただし、その知識の体系では製品を作ることができない形式知だった。いくら論理が正しくとも製品を生み出せなければ使い物にならない。

 

この点に関し、ドラッカーは、「優秀な人が仕事ができないのは、間違った問題を正しく解くからだ。」と指摘している。日本を代表する研究所が設立した会社の技術者だから優秀な人である。間違った混練技術でコンパウンドを開発しようとしているので開発できなかったのである。

 

材料技術ではこのようなケースは多い。例えば20世紀の教科書に載っていた混合則は、当方が日本化学会で初めてパーコレーションを用いて現象を考察して以来、今では多くの現象がパーコレーションで解説されるようになった。知識は、現場で鍛え上げなければいけない。

 

そのためには、有機材料から無機材料まで幅広く材料に関する形式知の引き出しを整えておくと便利である。おかしな引き出しは空っぽにして、そこに経験知のファイルをぶら下げていくような知識の整理方法は一つのコツである。

カテゴリー : 学会講習会情報 連載 高分子

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2019.10/03 材料技術(3)

難燃性ホスファゼン変性ポリウレタン発泡体や難燃性ホウ酸エステル変性ポリウレタン発泡体は、最先端の技術だった。

 

当時、ホスファゼンが市販されていなかったという理由だけでなく、ホスファゼン変性ポリウレタン発泡体の工場試作に世界で初めて成功(すなわち量産可能)している。

 

また、燃焼時にガラスを生成し高分子を難燃化する技術に至っては、リン酸エステル系難燃剤の開発競争が激化していた時代であり、リン酸エステル系難燃剤の2世代後の難燃化技術という位置づけとなる。

 

その数年後各社から次世代技術と称された臭素系難燃剤の上市が始まったことを思うと、会社としては難燃化コンセプトも含め機密扱いにすべき先端技術だった。

 

しかし、上司が高分子学会の崩壊と安定化研究会の委員を担当していた、という理由で、すんなり学会発表を命じられている。当方から学会発表を申し出たわけではない。これはありがたかったが、技術の内容を経営者が理解できていたなら企業としては大問題となったはずだ。

 

難燃性発泡体技術の展開として行われたフェノール樹脂天井材の開発テーマでは、発泡体製造プロセス装置の開発を行っている。ただ開発したばかりの発泡機を研究として使う間もなく、すぐ工場へ設置されたのには驚いた。

 

市場において難燃性発泡体の競争が激化したためであるが、新入社員研修でQCを重視した仕事の進め方を習ったのに乱暴な開発に巻き込まれ憤慨した。

 

しかし、材料技術とはコンセプトが正しければ、ばくちの様な開発でも成功するものであることをこの時学習している。フェノール樹脂発泡体では、発泡の均一性が力学物性に影響しそれが難燃性能に効くため、発泡装置が重要である。

 

そこで発泡装置を最初に開発している。処方の完成度について不十分な状態だったが、機械で発泡させたら、不十分な完成度の処方でも仕様を満たす発泡体ができた。

 

この学習成果は、QMSを導入していた写真会社でカオス混合のプラントを開発するときに生かされた。単身赴任したばかりで、企画も認められていない技術について研究開発と工場建設をコンカレントに行っている。

 

QMSに反しないようにDRを巧みに行い、規定の段階のDRを消化したところで工場が立ち上がっている。これは開発に関係した部署が協力してくれたおかげである。

 

今から思えば、部下になったばかりの新参者の提案に対して、センター長は8000万円の決済を「よくぞ思い切って決断してくれた」。

 

但し、30年前に獲得した材料技術の応用であり、発案者の当方は少し不安だった。しかし、センター長が投資をしようと言われたので、80,000円もする混練の技術書を3冊ほど自腹で購入し勉強しなおした。その結果、30年前の知識から見ると、世間の形式知が間違った方向へ発展していることに気がついた。

 

当方の経験知が正しいのか、合計24万円の書物に書かれた形式知が正しいのか、丁半ばくちを打つような工場建設だったが、工場から出荷されたコンパウンドの性能は、外部の形式知で開発されたコンパウンドの性能をはるかに超えるものであり、そのばくちに勝ったのである。

 

そこで10年以上経過したのでこの経験をもとに最近新たな考え方の混練に関する本を書くことになり、この12月にはゴムタイムズ社から発売される。

 

また、10月度の特別廉価セミナーでもこの混練技術の講演を15,000円で予定しているので問い合わせていただきたい。分配混合だの分散混合だの考える前に、混練を進める力をよく考え、プロセスを設計することが重要である。

 

市販されている本にはこのような考え方は書かれていないが、3ケ月で量産工場が無事立ち上がったことから、この考え方の正しいことが実証された。

 

カテゴリー : 一般 学会講習会情報 連載 電気/電子材料 高分子

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2019.10/02 材料技術(2)

タイヤの軽量化因子探索では、多変量解析の手法をドロ縄式で勉強している。統計手法のマスターから独自のタグチメソッドもどき手法の発明に至る知識獲得がこの時できたので思い出深いテーマとなった。

 

材料技術におけるコンピューターの役割を体験し、これが動機となり登場したばかりのMZ80Kを購入した。そして、テープベースで動く多変量解析プログラムをS-BASICで、その後F-DOSベースのHu-BASICで作成している。

 

このHu-BASICはゲームのハドソン社が設立されたばかりの頃に開発されたプログラム言語である。このシステムで計算した時に5000件程度のデータならば一日で処理できたので、タイムシェアリングでいつ計算結果が出てくるのかわからない3033より便利だった。

 

出勤前にコンピューターを走らせて、昼休みに独身寮に様子を見に行くと計算が終わっていることもあった。

 

MZ80Kは個人で購入し、一年後にはF-DOSを導入している。当時のお金で80万円前後会社の仕事のために投資したことになる。

 

このMZ80Kを用いて、ポリウレタンの熱分解に関する反応速度論や、難燃化因子に関する多変量解析、フェノール樹脂発泡体を用いた天井材開発などで成果を出した。

 

「自分で買ったら」と言っていた上司に、最初の成果である多変量解析で処理したLOI予測式を自慢げに説明したら絶句していた。この驚きの後の沈黙という上司の態度に、説明をした後に後悔の念が出てきた。

 

ただ、サービス残業が常態化していると分かっていても残業代20時間制限をミーティング時に部下へ淡々と説明していた上司だから、沈黙の意味は他にあったのかもしれない。

 

当時、材料技術におけるコンピューターの重要性をこの上司へ提案しているが、「それほど便利なものなら自費で購入したら」とあっさり言われ、採用されなかった。この一言により自前で購入したのだが、それで成果を出しても、その価値がうまく伝わらない時代だった。

 

残業代が無かったことよりも深刻だったのは、ポリウレタン発泡体やフェノール樹脂発泡体の業務を遂行するために、シリコーン界面活性剤の知識が重要であるにもかかわらず、この知識獲得に自腹を切らなければならなかったことである。

 

科学文献調査は図書室の女性が親切にサービスしてくれたので、仕事を進めるうえでの形式知獲得には不自由しなかった。しかし、経験知については外部の技術セミナーの活用が必須だ、とこの上司から教えられていた。

 

上司の指導に従い、セミナー会社で企画されたシリコーンに関するセミナーに参加したいと願い出たら、それほど行きたいなら年休をとっていってこい、という許可が出たのである。手取り10万円程度の時代に30,000円の支出は厳しかった。

 

コンピューターの購入も、セミナー参加費も自腹となったが、これはこれである意味「よい上司だった」と今は感謝している。

 

ガラス生成の難燃化企画を始末書に書くことを許可してくれたことに始まり、無機材質研究所留学に至るまで当方の希望をほとんどこの上司は受け入れてくれた。唯一の不満は、半期ごとに課内の誰もが認める成果を出していても良い査定をつけてくれなかったことだけである。

 

セミナーやPCその他も含め、この上司の下では年収300万円も満たない駆け出しの時代に、年間100万円ちかく知識獲得のためにお金を使っていた。残業代も無かったので、生活は苦しく結婚などできる状態ではなかった。成果を出しても評価されない不満はあったが、学ぶ意欲がそれに勝っていた。

 

10月度の特別セミナーでは、高分子の難燃化や混練技術だけでなく、当時から今日まで勉強してきたシリコーンのセミナーも15,000円で開講している。当時のセミナー代の半額である。さらに当時のセミナーよりも経験知の中身は2倍以上濃い。

 

実は、大学4年時にトリメチルシリルグリニヤ試薬を用いてジケテンを開環し、テルペノイド前駆体を合成した経験がある。そしてこの前駆体を用いてシクラメンの香りを合成し、その成果はアメリカ化学会誌(J.A.C.S.)に掲載された。

 

有機合成は学生時代、成績も良かったので自信がある分野だ。有機合成の講座の教授に勧められて大学院に無償で進学しているが、この教授が退官し講座が閉鎖されるということになった。大学へのささやかな反旗のつもりで受験時に希望先としていなかった、定員満杯の無機の講座へ進学している(注)。

 

この選択が社会人になってから材料技術者として自己実現を目指すときに役立った。材料技術者は幅広く物質に関する形式知を獲得していたほうが企業で活動しやすい。

 

(注)名古屋大学では専門に対する教育的配慮ではなく、形式的にその講座に進学予定であった学生を一人ほかの講座へ異動させている。成績順というルールがあったからだ。当方が進学したことで、はじき出された同級生には悪いことをした、と今は反省している。当時は、このような出来事のため、一心不乱に研究し、2年間に3報論文を執筆し、就職してからも2報ほどこの時の研究成果をまとめている。同僚が、学生気分で仕事をやるな、と言われたが、当方は学生気分で仕事をしていても、言われたことが無い。団塊の世代にとって学生気分とは遊び半分ぐらいの気持ちを指すのかもしれないが、2度のオイルショックを経験し、就職難の世代は、当方の世代の学生は皆一生懸命勉強していた。ゆえに当方の世代で学生気分とは一生懸命研究に打ち込む姿を指す。

 

カテゴリー : 一般 学会講習会情報 連載 電気/電子材料 高分子

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2019.10/01 材料技術(1)

ゴム会社で最初に担当した開発テーマは、タイヤの軽量化因子探索だった。新入社員研修のプログラムの一つとして担当した。現在流行のビッグデータの扱いをこの時学んだ(驚いたのはIBMの大型コンピューターが2台あり、そのうち3033と名付けられたマシンを動かして計算している。)。

 

 

研究所に配属されて樹脂補強ゴム(特許出願済み)を用いた防振ゴム開発を担当した。このテーマでは混練の神様と呼んでも良いようなレオロジーの専門家が指導社員で、毎朝午前中は座学で厳しく指導され知識を伝授された。

 

 

この時の知識を基にコニカミノルタの中間転写ベルト用コンパウンド工場をたった3ケ月で立ち上げることができた。しかもその工場では,指導社員からその実現方法が宿題として出されていたカオス混合プロセスが採用され、10年以上何もトラブルなく稼働している。

 

 

指導社員は、当方が無機材料の講座を卒業した修士という理由で高分子知識が0ベースという前提で指導されたそうだ。当方もそれに甘えて真剣に勉強するとともに、指導社員の熱意に応えるために一年のテーマを3ケ月で仕上げた。

 

 

これはこれで少し問題となったらしい。神様のような指導社員から観音様のような美人の指導社員へ変更となった。そして新たなテーマであるポリウレタンの難燃化技術について提案事項があれば、と問われたので、ホスファゼン変性ポリウレタン(ホスファゼン関係について多数ゴム会社で特許出願済み)の提案を行っている。

 

 

この顛末は以前ここで書いたように、工場実験を成功させたために始末書を書いている。その始末書に、燃焼時ガラスを生成して高分子を難燃化する技術提案(特許出願済み。この技術の展開アイデアとして高純度SiC合成技術がある)を行い、同時並行で進められた溶融型難燃化技術とともに工場実験に成功し実用化している。

 

 

2年半という短時間に混練技術と難燃化技術という科学の知識だけでは問題解決できない技術テーマを解決するスキルと普及が始まりかけた多変量解析スキルを習得することができた。

 

 

高分子学会や日本化学会はじめセミナー会社も含めて現在でも招待講演の依頼件数が多いのは、この二つのテーマ、混練と高分子の難燃化に関するものである。

 

 

10月中に開催する特別参加費15,000円(消費税込み)という低価格の特別セミナーにもこの二つのテーマは入っているのでご興味のある方は申し込んでいただきたい。

 

経験知の伝承は難しい。科学が急速に進歩し普及していったのは、経験知を形式知に変換できる可能性と伝承の仕組みをマニュアル化できたからだが、材料技術については、いまだにすべての経験知を形式知に変換できたわけではない。

<10月度特別セミナー:参加費15,000円>

1.高分子の難燃化技術

2.高分子の帯電防止技術

3.ブリードアウト

4.成形トラブルから見た混練技術

5.シリコーンゴム・樹脂技術

カテゴリー : 一般 学会講習会情報 電気/電子材料 高分子

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2019.09/21 高分子のプロセシング(45)

配合設計以外に混練条件も影響するが、これは複雑である。

例えば面白い実験結果として、PPSと4,6ナイロンの相溶が高剪断領域で起きた、という報告がある。

その報告ではPPSと4,6ナイロンが混練されたコンパウンドを二枚の透明なガラス製円盤で挟み、片方を回転させながら、顕微鏡でその場観察している。

試料の温度を310℃まで加熱したところ、剪断速度の高い周辺部で透明になったという。

これは高分子の相溶に混練時の剪断速度の効果があることを示している。

ポリマーブレンドの配合設計に関してはノウハウの部分も多いが、特許等公開されている資料を整理することにより目的とする高分子物性の設計が可能である。

しかし、配合設計された組成物でも混練で期待した組成物にならない場合がある。混練の制御因子についてはタグチメソッドを用いて設計してゆくと効率が良い。

カテゴリー : 連載 高分子

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2019.09/19 帯電防止技術

簡単な帯電防止問題ならば、表面比抵抗の値をそれなりに下げてやれば解決できる。10乗のオーダーあればこの手の問題はそれほどの難問にならない。

 

ところが、表面比抵抗を十分に下げたのに、静電気の問題が起きると、途端に問題の解決が難しくなる。

 

有名な話がアメリカで40年ほど前に起きたという手術中の出来事である。帯電防止のために床はステンレス製だった。

 

金属性の床なので導電性があり、履物にもカーボンが用いられて導電性を良好にして静電気対策として完璧と思われた。

 

しかし、手術中に患者とメスの間で放電が起き、患者はショック死したという。この話は、静電気を御存じの方ならば伝説として聞かれていると思う。

 

すなわち、患者は誘電体でありベッドの上に孤立した状態だった。患者とベッドそして床への接続が不十分だったためである。

 

事故が起きてから、あるいは故障が起きてからその難しさを理解できるのが帯電防止技術である。あまりにも複雑な場合もあるので「帯電防止科学」ではないのだ。

 

ただし、幾つか鉄則がある。すなわちノウハウというもので、それをどのように伝えてゆくのか、日々苦労して考えている。悩んでいる人にはご相談に乗ります。

 

 

 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2019.09/15 高分子のプロセシング(44)

すでに説明したように、多成分の高分子のブレンドでは、ただ混ぜただけでは、それがたとえ水に分散したラテックス(粒径50nm前後のサイズ)でも短時間で相溶しない。

ラテックスの薄膜ならば、その粒子形状が観察される。高分子のブレンドでは混練機の設計と同様に配合設計が重要になってくる理由である。

ラテックス薄膜の製造プロセスにおいて、短時間の熱処理により高分子が拡散して均一に混ざり合うという現象を期待できないが、混練では高分子の融体を混合するので、配合設計を工夫すれば分散粒子径を小さくすることができる。

また、χ=0あるいはχ<0ならば相溶し、単相の高次構造になることも期待できるが、相溶する高分子の組み合わせは限られる。

ただし、相容化剤を用いることで2種類の高分子の分散粒子径を小さくでき、仮に二相の高次構造となっても単相の高次構造に近い物性となる場合がある。

例えばA,B二成分の高分子に対してAとBのコポリマーは相容化剤として用いることができる。AあるいはBとのSP値の近い成分のコポリマーも相容化剤となりうる可能性がある。

その他、組み合わせる高分子の粘度比を設計してやることで分散相のサイズを制御できる。粘度比が1すなわち組み合わせる高分子の粘度が等しいときに最も分散相の粒径は小さくなる。

カテゴリー : 連載 高分子

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2019.09/14 高分子のプロセシング(43)

相溶(miscibility)とは、分子レベルの混ざりやすさを意味するときに用いる。

 

 

一方、サンズイ偏が無い相容(compatibility)とは、種類の異なる物質がうまく調和し、機能を発揮している時に用いる言葉である。

 

 

また、二成分のポリマーアロイを製造するときに相容化剤(compatibilizerまたはcompatibility accelerator)が用いられるが、なぜか相溶化剤という表記を時折見かける。

 

 

混和剤のほうが日本語として適しているとの指摘もあるが、あまり用いられていない。

 

 

Flory-Huggins理論で説明したが、二成分の異なる高分子をブレンドした時に相溶する条件は、χ=0またはχ<0となる、非常に特殊な組み合わせの時だけである。

 

 

一般的なχ>0の組み合わせでは、海島構造の相分離となる。

 

 

今、高分子Aと高分子Bとを重量比1:1でブレンドしたコンパウンドの断面写真があったとする。

 

 

この時、高分子Aを海として(マトリックス)高分子Bが島となった大きなドメインが観察されるはずだ。

 

 

この時、高分子Bの添加量を減らしてゆくとこのドメインサイズは小さくなってゆく。

 

 

非相溶系ポリマーブレンドでは、このように相分離してできる構造が大きくなるため、力学的物性が低下した事例が多い。

 

 

ここで、SP値を揃えて合成された2種類のアクリル系ラテックスをブレンドしてからPETフィルムに塗布し、その後熱処理した薄膜について、その断面写真を想像してほしい。

 

 

ラテックスの成膜では、熱処理を行っているにも関わらず、ラテックス粒子の形状と混合状態がそのまま観察される。

カテゴリー : 連載 高分子

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2019.09/10 ゾルをミセルに用いたラテックス合成技術

シリカゾルをミセルとして用いるアイデアを実用化したのは1993年である。また、金属酸化物ゾルをミセルとして用いる科学論文が初めて発表されたのは2002年である。

 

科学よりも技術が先を行っていたのだが、この技術コンセプトは、ドラッカーの問題解決法の成果ともいえる。

 

1991年に写真会社へ転職した。この時コアシェルラテックスが学会でも話題になっていた。ライバル会社の優れた技術であり、転職した写真会社でもこの技術について特許抜け技術がテーマに設定されていた。

 

このコアシェルラテックスは、ゼラチンの高靭性化技術の決定版として捉えられていた。

 

すなわち、ゼラチンを改質するときに、シリカゾルとラテックスを用いるのだが、シリカゾルとラテックスを混合した時に、どうしてもシリカゾルの凝集がわずかに生じる。

 

ゆえに、コアシェルラテックスにしてしまえば、ラテックスとシリカゾルを混合するプロセスや、そのプロセスでシリカゾルが凝集するのを防ぐことができる。

 

ただし、この技術には欠点があった。すなわちシリカゾルをゼラチンに添加するのは、ゼラチンの硬度を上げるためだが、ラテックスで包んだためにその補強効果が下がってしまう。

 

だから、コアシェルラテックスはゼラチンの高靭性化手段の決定版ではないのだが、このような技術が提示されるとそれを越えるアイデアを考え出すのが難しくなる。

 

このような場合にどうするのか。いったん目の前の解を忘れ、本来の「あるべき姿」を真摯に考えることが重要である。

 

当方はホワイトボードにそのあるべき姿の図を描いたところ、担当者の一人が、すでにできていた、と叫んだ。これが昨日書いた実際の現場の姿である。

 

目の前の問題について、「あるべき姿」と現実との乖離を明らかにし、あらためて正しい問題を考える、これはコーチングに有効である。

カテゴリー : 一般 高分子

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2019.09/06 高分子のプロセシング(42)

1493年にコロンブスによるインディアンラバーが発見されている。いつ頃か不明だが二本ロールでゴムを練ることは行われてきたらしい。

 

 

1839年にグッドイヤーによる加硫ゴムの発明以降加硫剤のブレンドのためにゴム練り機の改良がなされた。

 

1909年にダンロップにより加硫促進剤が発明され、1916年にはバンバリーによりバンバリーミキサーが開発された。

 

 

タイヤに用いられる高性能な加硫ゴムについて基本的な混練プロセスは、今日に至るまでバンバリーミキサーによるノンプロ練り(プロ練り前に行う練り)と二本ロールによるプロ練り(コンパウンドとして仕上がる練り)から組み立てられている。

 

 

1980年ごろから生産性の向上を目的として連続式混練機の導入が検討されてきたが、高性能加硫ゴムについては、すでに述べたようにバンバリーと二本ロールの組み合わせによるバッチプロセスが今でも使われている。

 

 

ちなみに、熱可塑性樹脂では、高分子同士のブレンドよりも一次構造の設計が優先されて様々な熱可塑性樹脂が開発されてきた歴史がある。

 

ゆえに、混練技術に期待されたのは顔料程度の添加剤さえ分散できればよかったので単軸押出機を中心に連続式混練機で混練する技術が発展してきた。

 

熱可塑性樹脂でポリマーブレンドが広く注目されたのは、1954年にU.S.Rubber社によるABS樹脂の事業化以降である。

 

 

そして、押出機の性能向上と同時に1980年頃から二軸混練機という呼び名も一般的になってきた。本書では特に断らない限り、混練に使用する押出機はすべて混練機という呼び名を使用している。

 

 

ポリマーブレンドで一般に用いられている二軸混練機でもその呼び名に決まりは無いので、二軸押出機という呼び名ですべて統一している技術者もいる。

 

連続式混練機の混練能力が低かった1970年頃までならば、それでも良かったが、最近では高性能な混練技術も登場してきたので、混練目的に使われる装置は押出機ではなく混練機と呼び区別すべきだろう。

カテゴリー : 高分子

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