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2019.09/05 高分子のプロセシング(41)

高分子同士のブレンドでは、Flory-Huggins理論の限界を理解できると高分子物性改良手段としてそこに多くを期待できないと、悲観的になるかもしれない。

 

それにもかかわらず、ゴムの分野では古くからポリマーブレンドの手法が採用されてきた。

ゴム技術者の全員が楽観主義者で根性の塊だったわけではなく、バンバリーとロール練りの組み合わせによるバッチプロセスを採用していた点に着目する必要がある。

 

特にロール練では、連続式混練機のように練り時間に制約はない。またロールの操作方法により伝説として伝えられていたカオス混合を積極的に活かすこともできる。

 

 

混練の歴史において、ゴムの練りを初めてロールで行った技術者はノーベル賞に値するのではないかとさえ思っている。

 

バンバリーとロールの組み合わせによるバッチプロセスは、ゴムの分野で独自の発展をしており、そのプロセスが経済的ではなくても高性能のゴムのコンパウンドを製造するためにタイヤ業界では、現在でも使われている。

カテゴリー : 高分子

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2019.09/04 高分子のプロセシング(40)

SP値のところで指摘したが、モノマーの性質だけから混合状態を判断するのは危険である。実際にSP値が既知の溶媒に高分子を溶解してみて判断するのがよい。また、経験知として分子間相互作用を期待できるならば混ざる、と安易に考えない方が良い。

 

 

例えば、障子のノリとして使われるポリビニルアルコールに水素結合をしそうな他の高分子を混ぜて均一なポリマーアロイを製造しよう、と考えると失敗する。

 

 

ポリビニルアルコール同士の強固な水素結合を壊してまでも他の高分子が混ざろうとしないからである。これは、PVAを用いた障子のノリで容易に確認できる。水で希釈することは可能だが、ご飯粒を分散しようとしても、うまく分散してゆかない。昔は、障子を張り替えている途中でノリが少なくなると飯粒を混ぜてその場を乗り切ることができたが、PVAのノリでは、きれいに飯粒が分散しない。

 

 

すなわち、異なる高分子同士を混ぜ高機能な材料を創り出すことは基本的に難しいことだと思っておいた方が安全である。何も考えず試しにやってみよう、と混練してみてもよい実験結果の得られない確率が高い。

 

 

異なる高分子同士をブレンドする必要があるときには、コンセプトに基づく材料設計とそこから新しい現象を汲み取る努力あるいは意気込み、気合のような、形式知とはなじめない要素が重要になってくる。

 

 

混練は技術のカテゴリーだが、温故知新とか不易流行といった故人の精神に馴染んでおく習慣も、形式知だけでは対応できない混練分野で開発に成功するためには大切なことである。

 

K(勘)K(経験)D(度胸)を否定しないが、勘が閃いたなら温故知新を実践すると混練分野では技術開発に成功する確率が高くなる。勘や度胸が無くても温故知新は誰でも理解できる。

 

 

すなわち、高分子のブレンドについて文献情報が多く公開されているので、それを利用するとよい。過去の情報活用は誰にでもできる成功確率が高い取り組み方法である。

カテゴリー : 高分子

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2019.09/03 高分子のプロセシング(39)

フローリー・ハギンズ式の変形などは省略しているので、関心のある方は、該当する専門書を読んでいただきたい。

 

 

しかし、ここで伝えたいのは、Flory-Huggins理論というものが、格子モデルに基づいており、Flory-Hugginsパラメーターχが、エンタルピー項とエントロピー項の和になっている点を式から読み取っていただきたい。

 

 

また、二次元の格子モデルから導かれているので、混合物においてコンフォメーション分布の変化を考えていないことや、二成分混合系においてモノマー単位の相互作用変化は、A鎖、B鎖のすべての単位に対して一定値の平均場の変化として捉えていることに注意する必要がある。

 

 

これは、混練プロセスで発生する現象としてありえないことである。しかし、現在のところ二成分の高分子混合系に関する状態変化の形式知については、混練で起きる現象と合っていなくても、この理論に頼らざるを得ない。

 

 

χについて知っておくべきことをまとめると、先ほど述べたエンタルピー項とエントロピー項の和になっている、といった重要ポイント以外に

(1)1/Tと相関する、

(2)混合の必要条件はGibbs自由エネルギーが減少すること、

(3)正の値の時には非相溶となる、

(4)負の場合にだけ混合する、

(5)溶解度パラメータ、δ、δで表すと

              χ12=(Vr/RT)(δーδ2           Vr:モノマーのモル体積 

といった点である

 

以上はFlory-Huggins式の概略であるが、この式はかなり大胆な仮定の上に成り立っている式であることを忘れてはいけない。混練を考えるときには、χの本質が自由エネルギーであることを覚えているだけでもよいような形式知である。

カテゴリー : 高分子

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2019.09/02 帯電防止セミナーと5G

下記要領でプラスチック,「フィルムにおける「帯電防止」技術および

表面の電気的特性やブリードのコントロール」という講演会が技術情報協会主催で開催されます。

先日開催されました情報通信の講演会は好評でしたので、9月10日にも5Gの話題を少し触れる予定です。

1.日時  2019年9月10日  10:00-17:00

2.場所  東京・五反田]日幸五反田ビル8F 技術情報協会セミナールーム

3.料金  弊社へお問い合わせください。割引料金となります。

4.講師  1部 当方

2部 名古屋産業科学研究所 上席研究員 博士(工学) 小長谷 重次 氏

カテゴリー : 学会講習会情報 宣伝 電気/電子材料 高分子

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2019.08/29 ラテックスの重合技術

ラテックスの重合技術は、写真業界で進歩してきたように思われる。ゴム会社に入社した時に乳化重合SBRと溶媒重合SBRとどちらが性能が良いのか、議論検討されていた。

 

その後、写真会社へ入社した時に、ライバル会社のコアシェルラテックス技術の特許網をいかにして潜り抜けるのか技術開発に苦しんでいる状況に遭遇した。

 

そこでは、当方の問題解決法とコーチングが功を成しゾルをミセルとして用いるラテックス重合技術をライバル会社の対抗技術として完成させることができた。

 

このゾルをミセルとして用いるラテックス重合技術がどれだけ先端だったのか事実をここだけの話で書くと、高分子学会技術賞を某K大教授の鶴の一声で落ちているのだ。

 

その2年後ラングミュアーという雑誌にアメリカの研究者による無機のゾルでミセル形成が世界で初めて成功した研究が公開されている。2000年のことである。

 

アカデミアの先生の名誉のために鶴の一声の内容については書かないが、ろくに勉強もしていない先生の権威を振りかざした一声でせっかくの機会を棒に振っている。

 

コアシェルラテックスにしてもゾルをミセルに用いたラテックス重合技術にしても最初に開発し実用化しているのは写真業界だった。

 

写真業界に転職し、最初の3年ほどシャカリキになって勉強したが、その時に先端のラテックス技術が写真会社で開発されてきたことを知った。

 

銀塩写真技術はコロイド化学が重要な基盤技術である。化粧品もそのコロイド化学が重要で、フィルム会社が化粧品事業で成功したのは、経営の成果だろう。

 

 

 

 

カテゴリー : 高分子

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2019.08/28 高分子のプロセシング(38)

溶解理論の拡張過程で、1941年に高分子の相溶に関するFlory-Huggins式が登場している。格子モデルに用いられた2種類の高分子では同じサイズの構造単位から構成され、これらが規則的な格子を埋めていると仮定している。

しかし、二種の高分子を混練しても、あるいは溶媒に溶解してブレンドしたとしてもこのモデルに示されたような現象は自然に起きない可能性が高い。あくまでもこのモデルは理論式を導くために考案された仮想モデルである。

さて、混合に関するGibbsの自由エネルギーは⊿Gmix=GAB - (GA+GB)となる。ここでGA、GB、GABは、それぞれ分離した状態の成分Aと成分B、および混合状態のGibbs自由エネルギーを表す。

すなわち、この表現は、混合状態の自由エネルギーから、相分離して独立した相となったときの自由エネルギーを引いただけである。

この式についてFlory-Huggins理論では、⊿Gmix=-T⊿St + ⊿Glocと表す。

⊿Glocは(GA+GB)であり、これはモノマー-モノマー対の相互作用の性質によって、混合を促進する方向にも妨げる方向にも働く値を示している。すなわち添え字「loc」は、混合によるモノマーの局所的相互作用変化を表している。

-T⊿Stでは、すべての高分子鎖の重心の運動に関するエントロピーが、混合によって増加することを意味している。ここで⊿Stは並進エントロピーの増加を表している。

⊿Gmixについて混合過程の二つの主要な側面をこれら二つの寄与で表すことができるが、必要なのは⊿Stと⊿Glocについての具体的な式である。

カテゴリー : 高分子

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2019.08/27 オリゴマー

すでに弊社とお客様との共同出願による特許が公開されたので少しオリゴマーについて書いてみる。

 

高分子技術の状況についてはすでに書いてきたが、オリゴマーの技術は高分子技術よりも理解されていない部分が多い。

 

すなわち、オリゴマーの材料科学における価値やオリゴマーを制御して合成する技術など未開拓である。

 

このことを御存じない方が多い。これまでオリゴマーは邪魔な存在ととらえていた技術者も多いのではないか。ゆえに弊社とお客様との共同出願特許が公開されてもその意味が理解されないのではないかと思う。

 

科学の時代において高分子分野におけるこのような存在を不思議に思う方がおられるかもしれないが、これはパラドックスと呼べるような状況である。

 

すなわち、科学が進歩すればするほど非科学的分野の新規性と有用性が増加してゆくということだ。

 

高分子材料分野においてオリゴマーはどちらかと言えば邪魔な存在だった。すなわちうまく重合を制御できないとオリゴマー成分が増えて、それが物性に悪影響を与えてきたのでオリゴマーを取り除く方法が高分子合成において重要だった。

 

しかし、オリゴマーは、うまく分子量制御し合成して用いると、高分子材料の改質に有用な物質にもなりうるのだ。そしてその有用性について科学では処女地と呼べるような分野である。

 

今回公開された弊社とお客様との共同出願された特許は、オリゴマーの分子量制御とその結果生まれた新規の現象を含む事例である。ご興味のある方はお問い合わせください。

 

なお、8月30日のセミナーではこの技術の可能性についても少し説明します。まだセミナーの申し込みをされていない方は、少し空席もございますので今からでも間に合います。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2019.08/24 ハロゲン系難燃剤

ある皮革加工会社から依頼されて、皮革を難燃化した。予算が少ないので2日間の特別作業だが、何とか技術開発できた。

 

実は昨年、1年間の契約で同様の依頼を受け、ホスファゼンを使用し革の鞣し工程に使用可能な新技術を開発して特許出願を完了している。

 

しかし、その後使用したホスファゼンの生産が中止になったため今回は別の技術を開発する必要があった。しかし、予算が無いので2日間の限定で、と依頼されたので、なりふり構わず既製品のハロゲン系難燃剤を使用し、技術を作り上げた。

 

既製品と言っても、革の鞣し工程用の薬剤が販売されているわけではないので、うまく既存の工程に合うようそれなりの技術開発が必要になる。

 

あらかじめ界面活性剤を数種用意して取り組んで、無事1日で技術を作り、残り一日で効果の再確認をおこなって引き渡しした。

 

昔先端技術で高偏差値の研究者が数名一年間取り組み技術開発は不可能と結論が出された電気粘性流体の増粘問題を一晩で解決した「技術開発の方法」を今回用いている。

 

ただ、昨年は環境対策が技術開発目標としてあったので難燃剤の選択に時間が必要だったが、今回は昨年度の経験を使用でき、そこでなりふり構わず、昨年検討から外したハロゲン系難燃剤を検討することにした。

 

中部大学武田教授も指摘されているが、ハロゲン化合物+三酸化アンチモンの組み合わせは強力でおそらく何でも難燃化でき、今回も3時間程度でその機能最適化までできた。

 

ところが、昨年開発したホスファゼンシステムでは、燃焼時に煙が少なく難燃化できたのに、今回の系はいかにもの色をした煙が大量に出る。

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2019.08/21 高分子のプロセシング(37)

A,B2種類の物質が固体なり液体の場合、両者に必ず界面が生じる。この時それぞれの表面における分子の自由エネルギーは、内部に存在する分子の自由エネルギーよりも大きい。この状態から系全体のエネルギーを最小にするように形状が決まる。(この捉え方は間違っていない。)

 

物理化学では、溶解状態と分離状態の取り扱いについて理想溶液を前提にしている。すなわち混合はランダムに生じ、エントロピー項はモル分率だけで表現できる、と仮定して溶解について議論を進める。(高分子についてこの仮定が不十分であることは明らかである)

 

この低分子の溶解理論において最初からすでに誤差が入っていることに注意する。さらに溶質と溶媒との間の凝集力が分散力(ファンデルワールス力)だけで議論できる、とする正則溶液(regular solution)という前提も出てくる。

 

有名なHildebrandの溶解性に関する概念では、液体の凝集エネルギー密度を溶解性パラメーター(Solubility Parameter:SP)と定義している。

 

この時の熱力学的前提条件として、溶液は正則容液であること、また、分子間力は分散力に基づく分子間力のみ、となっている。

 

そして、モル凝集エネルギーをE、モル容積をVとして、溶解性パラメーターδ = (E/V)1/2を表現している。この定義により、δの近い物質同士では、理想溶液の混合を前提にして相互に溶け合う。

 

これに対して、Hansenが、分子間力の相互作用について分散力成分のみで処理できないとし、分散力相互作用(d)、極性相互作用(p)、水素結合性相互作用(h)の総和が溶解性パラメータ、すなわち(δtotal2=(δ+(δ+(δ であるとした。

 

その後も、この概念の拡張は行われているが、拡張された概念であっても皆正則溶液という制限がついていることを忘れてはいけない。一般に行われる高分子の混練においてそのような系は存在しないのである。

 

混ざる議論について基本的にこのような原則で現象を眺めている、ということを忘れてはいけない。おかしな現象が現れてもおかしくないのである。

 

混練で起きている現象は、科学で論じられた教科書の内容をはみ出すことがあるのだ。それならば、アイデアも大胆に展開したほうが新たな技術を生み出すチャンスが増える。

 

PPSと6ナイロンを混練したところ、科学の真理に反する透明な樹脂液が出てきて、腰を抜かした人がいたが、当方はカオス混合の成功で飛び上がって喜んだ。

 

但し、目の前の現象は、科学を否定しているのではない。科学で解明されていない領域の現象が起きているにすぎないのだ。それは、混合に関する科学が大変狭い領域の現象について真理を明らかにしただけで、科学で解明できていない現象がまだあることを示している。

 

余談だが、実験を何のために行うのかについて、諸説あるが、新しい現象を見出すために行うのも実験の目的の一つであり、またこれは実験の最大の楽しみである。

 

仮説を確認するために行う実験は大切かもしれないが、その実験が新しい現象を生み出さないようでは、面白みが無い。単なる自己満足で終わる場合もある。

 

誰も見たことのない新しい現象が目の前に現れたとき、人生最大の興奮状態になる。最近は実験をするときに命を心配するようになった。

カテゴリー : 高分子

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2019.08/20 高分子のプロセシング(36)

高分子のブレンドや添加剤について机上で検討するときに、SP値が使われることが多い。

SP値は、例えば高分子や添加剤に含まれる官能基の引力定数表の値を用いてSmallの方法やOCTAなどで計算もできる。

しかし、このような計算値ではなく、SP値が既知の溶媒を用いて、高分子なり添加剤をその溶媒に溶解して、その溶け具合から決定する方法が良い。

なぜなら、Smallの方法で得られたSP値の信頼度について、筆者の経験ではせいぜい60%程度だからである。

また、SP値が既知の溶媒を用いて評価する方法では、無機フィラーの表面についてもSP値という概念に展開可能である。

すなわち、混練では、高分子へ微粒子を分散する場合があり、その時に微粒子の表面と高分子の濡れで分散効率は変わる。これは混練機の性能よりも大きく影響する場合がある。

余談だが、混練のシミュレーターを使ってみて理解できたことだが、シミュレーターには配合成分の相互作用に関する情報を入力できないものもある。また入力できたとしても、不十分な情報しか入力できないソフトウェアーも存在する。

混練のシミュレーション結果ぐらい当てにならないものはない、というのがそれを使用した印象である。

さて、計算により求められたSP値の信頼度が低い理由として、低分子の溶解理論から高分子の相溶に至る理論の拡張に原因がある、と思っている。

カテゴリー : 高分子

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