混練の教科書を読むと分配混合と分散混合の説明がなされている。たしかに混練はフィラーなどの添加剤を高分子に混合し分散するプロセスである。
ただし、混練はセラミックス粉末のような混合ではない。練が重要になってくる。分配混合と分散混合の説明には、この練の意味が入ってこない。
単身赴任して外部のコンパウンド技術者と話していたら、強練と弱練という言葉が飛び出した。初めて聞いたときに意味不明だったが、その言いたい気持ちは分かった。
しかし、間違っていた。その技術者が6年かかっても満足なコンパウンドができなかったから、間違っていた、と判断している。
当方は、8万円前後の教科書を4冊購入し読んでみた。しかし、その教科書も過去にゴム会社で指導社員から教えられた内容と異なっており、間違っている、と判断した。
結局30年ほど前に指導社員から習った内容を思い出し、中古の二軸混練機を購入し組み立ててそれでコンパウンドを製造してみたら、狙い通りのコンパウンドができた。おそらく考え方が正しかったのだろう。
ゴムの混練における経験知と、二軸混練機を中心にした混練の教科書では、整合がとれない。経験知で混錬したほうがゴムも樹脂も良い結果が得られる。今画期的な混練の本を書いている。
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学生の頃、分子論がすでに形式知として定着し、バーローの書いた物理化学の教科書が標準教科書として選ばれていた。困ったのは、教授によりバーローではなく、ムーアの教科書を勧める先生がいたことだ。
結局、バーローとムーアの物理化学の教科書を上下4冊購入することになるのだが、さらに困ったのは、ご自分の著書を勧めた先生もおられた。ただ、その先生の著書を読んで買うのをやめた。
理由は簡単で、バーローとムーアのいいとこどりをしているような教科書だった。バーローとムーアの教科書については、1年生の夏休みの時にすべて読破し、問題も解いていたので、二年生になりこの先生の教科書を購入することをやめた。
単身赴任した時に、手元に物理化学の教科書が欲しいと思い本屋に行ったところ、マッカーリとサイモンの著による物理化学の教科書があり購入したが、バーローとムーアの3倍以上の価格がついていた。
今時の学生は教科書が高いから大変だと思ったが、昔はカレーライスが150円で食べることができて、バーローの上巻は1800円だったことを思うとマッカーリーとサイモンの著による物理化学は、カレーライス10杯分よりも安い。しかし、今は吉野家の牛丼を基準に考えた方が良いかもしれない。やはり高すぎる。
ところでこのマッカーリーとサイモンの著による物理化学の教科書は高いだけあって、厚みはバーローやムーアの本のおよそ1.5倍である。価格も高く、本の厚みも分厚くなって、今時の学生は大変だ、と思った。これでは夏休みに全部読もうなどという気持ちは起きない。
さらに、教科書の最初は、熱力学ではなく、量子力学から始まっている。とてもじゃないが、夏休みに寝転がって読めるような本じゃない。しかし、読むと面白い本であり、もし昔物理化学が好きだった人は一読をお勧めする。
疑問に思ったのは、なぜ最初に量子力学なのか、という点である。確かに形式知の体系としては正しい。ただ、学ぶ側からすれば、最初に熱力学のほうが、学びやすいのである。今時の教科書は皆そうなのかと思い、5年ほど前に学会でアトキンスの物理化学の教科書(英文)を見つけたので読んでみたが、これは熱力学が最初であった。
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昨日、高分子の融点(Tm)の話を書いた。高分子のTmは、無機材料のそれと異なり、必ずしも結晶の融解温度(Tc)と一致しない。さらにTmとTcが別々に観察される。
高分子技術者は、ここで高分子を高分子として感じなければいけない。「感じなければいけない」と書いているのは、未だ高分子の形式知の体系は出来上がっていないので、カンが必要だ、ということを指摘している。
カンを否定する人がいるが、技術開発において「カン」は重要である。ヤマカンだろうがドカンだろうが第六感には暗黙知の情報が含まれている。
テルマエロマエのように未来へワープしてカンニングできるならば話は別だが、さすがにカンだけでは実際の技術開発は無理で、それに成功するためには形式知を頭に蓄積しておく必要がある。そのうえでカンを働かせよ、ということだ。
高分子でTmとTcが一致しない点に気がつくと、Tm以下で混練できるとカンが働く。少なくともTcまで下げても混練できるはずだ、とカンをよく働かせてほしい。
ここで実験を行う人とそうでない人でカンが大切な暗黙知の情報提供になるのか、ドカンで終わるのかが分かれる。また、実験を行ったとしても幸不幸もそれが経験知の蓄積につながるかどうかに影響する。
不幸な人は実験でトルクオーバーという事態に遭遇しびっくりして、やっぱり無理だとなる。しかし、幸運な人は無事混練することができ、できあがった組成物がTmで混練した生成物よりも良好な結果でにっこりすることになる。そして経験知が一つ増える。
GPCを測定しても分子量低下が起きていないので、感動する。粘弾性測定を様々な高分子について行い、この時の経験知がどうしてなのかを間接的に探ってゆくことにより、経験知はさらに汎用知識となってゆく。
形式知の体系ができていない知識は現象を直接見ることにより、形式知に近づいてゆく。天才ならば、そこから新たな形式知を創り出すが、凡才ならば高度な経験知として蓄えられる。
結果を聞くだけで満足しているのは凡才以下である。耳学問も大切だが、知識をどこかで確認する、あるいは直接現象を眺めてみる、自然の中でそれを確認しようと努力することはさらに大切である。
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高分子材料のプロセシングでは、溶媒に高分子を溶解したりラテックスとして用いたりしない限り、それが流動性を示す状態まで加熱しなければいけない。
しかし、高分子が溶ける温度、融点(Tm)についてその現象は無機材料と大きく異なる。無機材料のTmは、結晶の自由エネルギー(G)変化と融体のGの変化との交点に現れる。融解は1次の相転移である。
ちなみに、エンタルピーをH、エントロピーをSとすると、 G=H-TS δG=δH-TδS となるが、これはエネルギー保存則の自由エネルギーについての定義だが、熱力学第一法則やその周辺の定義式は覚えておいてほしい。
なぜ、と深く考えることは重要だが、法則や定義など形式知から考えると時間の短縮になる。それが大人の「なぜ」である。世の中には、完璧な答えの出ていない形式知も存在するが、そこを凡人が考えていても答えを得るまで生きていられるかどうかわからない。
ゆえに形式知から考える習慣が大切である。若い時には気持ちが悪かったかもしれないが、残りの寿命が短くなってくると、この形式知のありがたみがひしひしと身に染みてわかってくる。G=H-TSそしてその形式微分などは、配偶者の言動と同様にすべて受け入れる、それが幸せの愛の道である。年を重ねるとよくわかる。
ここで高分子の熱運動について結晶状態と融体状態で比較すると、融体状態のSが大きい。このときSは場合の数として捉えると理解しやすい。
結晶状態は規則正しくなっていなければいけないことを理解できればdS(結晶)<dS(融体)を形式知まで遡らなくても感覚としてあるいは暗黙知や経験知を活用して理解できる。
もし、自由エネルギー変化を温度の関数としてグラフを書いたならば、結晶と融体についてその傾きは-dsとなり両者負で、結晶よりも融体の直線の傾きは大きくなる。ゆえに両者のグラフはどこかで交わることになり、その交点がTmとなる。
無機材料では、結晶化の温度(Tc)とTmは一致するが、高分子ではこれが一致しない。そのうえ高分子の種類によりTmとTcには、ずれが生じTc<Tmとなる。
例えばPEでは、最大のTc(Tcmax)は、Tmの0.8から0.9倍であるが、ポリエチレンテレフタレート(PET)では、2Tcmax=Tm+Tgの関係があることが知られている。
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PPSにはリニアタイプと架橋タイプがある。後者が最初に開発され、前者は後者の問題解決技術として登場している。架橋タイプのPPSは射出成形は可能だが、フィルムや繊維を製造することができなかった。そこでリニアタイプのPPSが開発されている。
リニアタイプのPPSでは、射出成形もできて押出成形も可能で架橋タイプのPPSに比較して圧倒的なアドバンテージがある。ただし、架橋タイプのPPSにも長所があって、低分子量体を製造することが可能で流動性の制御がリニアタイプPPSよりも容易なのだ。
今リニアタイプのPPSの需要が伸びているらしい。製造コスト面ではリニアタイプも架橋タイプも変わらないらしいが、東ソーは架橋タイプのPPSだけを生産している。
基本特許も切れているのに、なぜリニアタイプのPPSを製造しないのか不思議だが、特許を見てみると独自の事業展開をされている。昨年架橋タイプのPPSを少し分けていただき、信州大学で紡糸の実験を行ってみた。
常識通り、架橋タイプのPPSではすぐに糸切れを起こし、紡糸できない。比較に中国製のリニアタイプPPSで紡糸したところ、うまく繊維化できたので、やはり、架橋タイプPPSでは紡糸できないようだ。
この紡糸できない原因として、架橋タイプのPPSでは分子量が小さいため、という形式知からの結論がある。この形式知にチャレンジするつもりで、新たに開発したPH01という添加剤を架橋タイプPPSにカオス混合で混錬したコンパウンドを製造し、紡糸実験を行ったところ、見事に紡糸できたのだ。
これは、当方の経験知に基づき、この結果を狙ってやった実験だが、信州大学の先生もびっくりされていた。PH01の分子量は紡糸に必要な分子量ではないが、また、PPSも架橋タイプであり分子量は低い。関係する特許出願も終えたので書いてみた。今日は母の日。
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高分子の添加剤に可塑剤と呼ばれるものがある。低分子化合物は効果の大小はあるが皆可塑剤になりうる。可塑剤を高分子に添加すると弾性率が下がることが知られている。
また、可塑剤の添加により高分子の融点(Tm)やガラス転移点(Tg)も低下する。一般に可塑剤は、弾性率を低下させたり、耐熱性を低下させたりして悪い作用をする添加剤と考えている人がいる。
ただ、可塑剤の添加で加工性が上がるので、こうした物性への影響があったとしても高分子の配合剤として使われている。最近Tmを下げるがTgを下げない添加剤を開発した。
この添加剤は面白いことに高分子の結晶化抑制効果もあり、結晶性が高い樹脂で靭性が落ちるのを改善することができる。今PPSについてデータはそろったのだが、面白いのはカオス混合を使用することが前提の添加剤なのだ。
このカオス混合が前提という条件からこの添加剤の効果発現機構が見えてくる。すなわち、コンパウンド段階では相溶しており、成形体になると球晶として析出している可能性がある。だからTgに影響を与えない。
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物質の融点とは、結晶の自由エネルギ関数と融体の自由エネルギ関数の交点、というのが熱力学的説明である。ここで両者が交点を持つかどうかだが、δG=δH-TδSであり、融体は分子の熱運動が大きいので結晶のエンタルピー(S)よりも大きくなり自明である。
無機材料の結晶では、この熱力学の形式知通りとなるが、高分子では、そもそも融点(Tm)と結晶化温度(Tc)にずれが生じるから厄介である。
例えば結晶性良好なポリエチレンでは、Tmの0.8から0.9倍がTcの最大値となるが、結晶性の悪いPETについては、2Tc(最大値)=Tm+ガラス転移温度(Tg)という関係式も提案されている。すなわち、高分子の種類によりTmとTcのズレがまちまちなのだ。
さらにこのずれは高分子の配合処方によっても変化する。一般に高分子に溶解しやすい低分子を配合するとTmは下がるが、Tcはそれほど変化しない。中にはTcに大きな影響を与える化合物も存在し、それは高分子結晶の核剤として知られている。
高分子のTcに影響を与える添加剤には、Tcを下げるものと上げるものがある。結晶化を促進する添加剤はよく知られているが、結晶化を遅らせたり、結晶化を抑制したりする化合物は探さなければ見つからない。
すなわち、TmやTcをとりあえず自由に制御できる技術はある。ただ、この技術に関して体系的な形式知が高分子では存在していない。無機材料では、相図で考察することになるのだが、高分子ではうまくゆかない。だから特許を書くことが可能になる。
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昨年、音楽の友社から発売された、「STEREO編これならできる、特選スピーカーユニット、マークオーディオ編」と音工房Z発売のバーチベニヤ製スピーカー箱キットを購入し、デスクトップスピーカーとして使用していた。
1ケ月ほど聴いていて、エージングも十分済んだのに楽器の音に少し濁りがあることに気がついた。音が響きすぎているような印象があったので、100円ショップでポリウレタンたわしを10個ほど購入し、これをよくもんで独立気泡をなくした状態で吸音材とした。
このたわし吸音材が便利なのは、適度な大きさで箱の中に入れる個数で吸音材量を変更できる点である。また、ポリウレタン製たわしにしたのは、スピーカーの箱がWバスレフであり、低域の音を吸音したくなかったからである。
また、ゴム会社に入社し2年目にポリウレタン制振材を開発した経験があったからだ。実験を繰り返し、1つのスピーカーあたり、2個入れるのが聴きやすく、中低域も損なわないことを見出した。
スピーカーの中では定在波が発生しやすい。スピーカーの箱の設計者の話では、吸音材は無くてもよいとのことだったが、密度の高いバーチベニヤを使用した時には、側板との間で定在波が発生する可能性を無視できない。
このあたりを検証するために、MDF材で同じ設計の箱を音工房Zから購入し作成した。予想した通り、バーチベニヤよりも密度の低いMDF材のスピーカーでは、吸音材が無くても心地よい音がする。
しかし、少しこもり気味なところが気になったので、このMDF材のスピーカーについては、ギターの力木のアイデアを応用して、バッフルと天井材を密度の高い木を使い補強したところ、バーチベニヤのスピーカーの箱に近い音が出るようになった。
今年の長い10日間の休日はこうして終わった。本日から仕事をしています。
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ゴムと樹脂の違いは、と突然尋ねられた時にどのように答えるのか。科学的には、室温の状態と高分子のガラス転移点から回答することになる。それではエラストマーとゴムの違いは?と聞かれれば、ゴムはエラストマーに含まれる、としか答えようがない。
ところが、ゴムについては、JISや日本税関の定義があって、単純に科学的な回答で説明していると間違っていると言われかねない。いずれの定義にもガラス転移点の話など出てこない。
熱可塑性エラストマーを想定するとJISや日本税関の定義が妥当な定義のように見えてくる。しかし、実用性を考慮しない場合にはJISや日本税関の定義から外れるゴムも存在するからややこしい。
JISや日本税関の定義から外れたゴムなど経済的な価値が無いから実害は生じないが、それぞれの分野で定義が異なることで頭の中が混乱する人も出てくるだろう。
朝、眠い目をこすりながら書いていてもすっきりしない。長い連休明けの話題にはこのような少し刺激的な話を考えたほうが今日一日の仕事のためになる、と書き始めたが、収拾がつかなくなったのでキーボードを片付けた。
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有機合成化学は1970年代にコーリー博士の逆合成という概念が提案され、そのデザイン手法がコンピューターのアルゴリズムで取り扱われるようになった。さらに、有機金属化合物の合成研究が発展した20世紀に、その学問体系がほぼ整備された。
有機金属化合物では、低分子化合物だけでなく高分子化合物も開発された。例えばフェロセンポリマーという物質も合成されている。有機ケイ素高分子も多数開発され、東北大故矢島先生により有機ケイ素高分子からSiC繊維を製造する技術も1970年代に開発されている。
当方が発明したフェノール樹脂とポリエチルシリケートとのリアクティブブレンドによる高純度SiC合成法は、この矢島先生のご研究から6年後に成功している。矢島先生のご研究はポリジメチルシランを炭素繊維と同様の方法で熱処理する製造法だが、当方の方法は前駆体であるポリマーアロイを製造するリアクティブブレンド技術にその特徴がある。
これは、科学的に考えていては開発できない方法で、頭がよければ誰でもできるわけではない技術開発手法で合成された前駆体だから科学者には少し難易度が高い。そもそも混合プロセス段階はフローリーハギンズ理論によりその現象が否定されるような前駆体である。科学と技術とはどこが異なるのか、という命題について知りたいなら、この前駆体の合成プロセスをよく考察していただければわかりやすいと思う。
論理のち密さが重要という理由で、科学は頭の良い人でなければそのブレークスルーが難しいが、技術は多少頭が悪くともその開発が可能だ。ちなみに人類による技術開発の活動は4000年以上昔から行われている。中国4000年の歴史が日本に影響を与えたが、それよりもはるか昔から技術開発は人類の日々の生活の営みとして行われてきた。
日々の営みを自然とうまく調和する努力のできる人類が技術を開発してきた。この意味では、頭の良し悪しよりも、性格の素直さが技術者には重要だと思っている。
技術開発の歴史を眺めたときに、現代の有機合成技術者を高度な研究者集団としてみなすのは、もはや時代遅れである。1980年代からすでに有機合成技術者は知識労働者の一人になっている。なぜなら21世紀にはいってから有機合成分野において新たな概念は生まれていない。無機高分子合成化学に至っては無機高分子研究会設立以降ノーベル賞級の新しい概念は生まれていない。
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