大学院の二年間は、3-4カ月に1報書いているような学生生活だったから、一年に1報パターン化した論文を書いているガラスの研究者を不思議に思った。
結晶成長に時間がかかるから、というのが彼らの言い分だったが、それならば並行して実験を進めればよいと厳しいことを先輩の研究者に言っていた記憶がある。社会を知らない学生は純真で正直であり、それが人を傷つけたりする。小説の世界のような非常識な学生だったと反省をしている。
たまたま某無機製品の会社役員が、所属講座の教授の世話で学位をとる、という話が聞こえてきた。びっくりしたのは、一年後にその役員が論文を7報発表し学位としてまとめたことだ。論文の共著者は主査の教授が末席を占めており、各論文には5名以上名前が書かれていた。
およそ一人でできる様な研究内容に3名以上の部下を動員して論文を書いていたその役員の神経に疑問を持った。会社を明らかに私物化している。論文の内容も、大半がガラスからの結晶成長を論じた研究で、DSCと電子顕微鏡写真がデータである。研究の形式にはなっているが、およそ役に立たない内容だった。
もっとも企業として価値のない内容だからすぐに公開できた、と言えるのだが、捏造とは異なった視点でこれも問題だと思っている。大学ならば多少は許されるかもしれないが、企業ならば会社の金を学位のためだけに使っているようなものだ。
当方は学位のもとになった研究はすべて自分で行い、さらにその内容は実用化された仕事から論文を書いており、学位審査料も自分で払っているので、会社への恩義は研究内容を公開することを許可してくれたことぐらいだ。論文をまとめるための時間を労働時間から割いていない。
それでも心から、多くの人のサポートがあり学位をとることができました、と答えている。しかし、この役員は、退職前に頑張って学位を取ることができたのでうれしい、ドクターコースに進まず社会に出る諸君も企業で頑張って学位を取ってください、と、講座で開かれたお祝いの酒席で学生たちを激励していた。
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セラミックス焼結体は、結晶を非晶質ののりで固めたような構造の物質である。この非晶質相を粒界相という。この粒界相にはガラス質のものもあり、焼結の機構を調べるためにもガラスからの結晶成長研究は研究テーマとして意味があった。
おまけに研究として取り組みやすかった。難しいところは皆研究をしないので同じパターンの研究論文ばかりだった。学位論文を読むと、誰でも学位をとれそうな気分になる論文ばかりだった。
すなわち、粉末X線で結晶を同定し、電子顕微鏡でその結晶を観察して、論文が一報出来上がる。気の利いた人は実際に結晶を作成して速度論の論文を継続研究として提出しているが、レベルの低い研究者は、例えばNaをCaに代えただけで同じ実験をやり、論文を書いていた。
だから1ケ月に1報論文を書けるような研究で7年かけて学位をとっている研究者もいた。当方は修士二年間に、ホスホリルトリアミドの重合研究やホスフォリルトリアミドのホルマリン付加体合成、ホスフォリルトリアミドを用いたPVAの難燃化研究、ホスフォリルトリアミドのプロトン導電体としての可能性、各種ジアミノホスファゼンのNMRによる構造同定、ホスフォリルトリアミドとジアミノホスファゼンの共重合研究と一人で6報書いている。
修士二年間で、さらにたった一人で6報書いた学生は初めてではないか、と褒められたが、奨学金をもらい、授業料も無料だったので当たり前でしょうと応えている。
今なら、「先生のご指導の賜物です」というぐらいの言葉は自然と出てくる。若い時は謙遜という言葉をしらない傲慢さで自信に満ちていた。このようなときには自信が力になり猪突猛進でいくらでも成果が出るのだ。
ただ本音は論文のパターンが皆バラバラなので論文をまとめる作業が大変で必死だった。特にPVAの難燃化研究は、高分子の難燃化研究と言うテーマがニッチな分野であり、アメリカの工業雑誌に実務的な内容の論文が出ている状態だったので論文のひな型を探すのに困った。
研究論文と言うものは先駆者の論文をお手本にして書くものだと思っていたから、自分がその分野の先駆者になったときに論文をまとめる作業が大変であることを知った。そして、研究者にはなるまい、と思った。技術者の先駆者は研究者の先駆者よりも楽である。社会に新しい価値を創造し、そして役立つ「モノ」を造れば良いだけだ。
能力の限界を感じる前に技術者を目指すのは、精神衛生上健全である。研究者で成功するためには大変高い能力と運が要求されるが、技術者は誠実真摯に努力すれば、創造された新しい価値に自然と周囲の英知が集まり開発に成功できる。健全な組織で開発に成功すれば必ず成功の喜びを味わうことができる。
退職最後の仕事は回収PETボトルを複写機部品に応用する仕事だった。中国ローカル企業で立ち上げたのだが、この仕事を引き継いだ担当者が社長賞を受賞した時にその記念品のPETボトルを送ってきた。この出来事は大変うれしかった。ちなみにPETのガラス転移点は2Tcmax=Tm+Tgの関係があることが知られている、と1週間ほど前に書いている。
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ガラス転移は相変化ではない。状態の変化である。これは無機材料でも高分子材料でも同じだ。ちなみにガラスの定義は、非晶質体でガラス転移点をもつ物質である。
無機ガラスは、溶融状態から冷却すると、まずガラス転移があって固体のようになる。よく無機ガラスは実は液体だ、と言われるが、これはガラス転移では流動性が極めて遅くなった状態だからだ。
氷は、液体か固体か、と聞かれ、真顔で固体と答えると、いや冷たいだ、という怪しいことを言っているのではなく、ガラス転移が相変化ではないという説明をしている。
昔、品質の悪い並ガラスは雨風によりNaが抜けてゆき、結晶成長が始まり、白っぽく(失透)なった。いまはそのようなガラスは見当たらないが、戦後すぐに建てられた小学校や中学校の窓ガラスは失透していたのでよい教材だった。
子供の科学という雑誌があって、そこにもこの窓ガラスの問題は毎年何処かで取り上げられていた。5年ほどこの雑誌を継続して読んでいたので、このガラスの失透現象、ガラスから結晶化が進行する話は、小学生のころから知っていた。
大学院時代に無機の講座で研究をしたが、その講座で何人かがガラスからの結晶化を研究していたのでびっくりした。セラミックス協会の雑誌を見てもそのようなガラスからの結晶化現象をテーマとして扱った研究が20%程度掲載されていた。
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6月7日に都内で混練の講演会を予定しています。ゴムタイムズ社の企画ですが、弊社で割引のお申し込みを受け付けています。
ところで、この講演会では、特許が公開されたばかりのPH01についても使いこなしを解説します。従来の添加剤と異なる点が見つかっており、従来の混練の概念では性能を引きだせません。
樹脂の混練技術は、二軸混練機の開発の歴史のように思います。1980年以降二軸混練機の性能は著しく向上しました。ローターの発明が一役買っているのですが、ニーディングディスクでは実現できない混練が可能になりました。
しかし、問題はトルクが高くなるため非力なモーターでは、ローターを使えないケースもありました。中国ローカル企業を指導していた時にこの問題に遭遇しました。
カオス混合技術は一つの解であり、非力なモーターの二軸混練機にも取り付けることが可能です。しかしそれは内部構造が設計されていることが必要で、うまく設計されない場合には十分な効果が出ません。
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二軸混練機の回転数を上げると吐出量はそれに伴って増加する。しかし、スクリューセグメントの工夫である程度はその増加率を制御できる。
吐出量を抑えて回転数を上げると混練が進むと考えがちであるが、コンパウンドの基本機能を評価しタグチメソッドを行ってみると、単純に回転数と一次相関しない場合がある。
ひどい時には、上に凸のグラフになったりする。これは、回転数を上げても混練効果が上がらなかったためである。
タグチメソッドでは、制御因子について幅広く振るように指導されるが、二軸混練機では、自分が使用したい回転数の範囲で振ったほうが良い。このようにすると一応は増加関数的になる。
しかし、配合処方によっては、それでも線形性が崩れて、その結果に悩むことがある。この場合にはスクリューセグメントを剪断流動重視にして組んでみることだ。単位時間当たりの吐出量は減るが、回転数に対して増加関数的になる。
剪断流動重視では無機フィラーの分散が、とか、ポリマーの切断が起きるのではないかとか、いろいろ不安が出てくる。二軸混練機は意外と使い勝手が悪い混練機であり、ロール混練が優れたプロセスであることを気づかせてくれるが一台当たりの生産性が悪い。
中間転写ベルトの開発を担当したときに最初はロール混練やバンバリーミキサーを使ってコンパウンドを混練し、あたりをつけてからカオス混合装置を開発している。これは混練機を扱うときのノウハウかもしれない。
ロール混練機は小平製作所がよいものを持っている。たかが二本のロール、と見ていてはいけない。二本のロールであるがその奥は深い。カオス混合装置も小平製作所と性能アップを図ってきたが、6月の講演会で説明する。
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高分子のレオロジーについて調べようとすると粘弾性測定装置が必要になる。粘弾性測定装置には、歪制御の装置と力制御の装置がある。
すなわち、歪制御の装置では、歪を一定にするように動作し、力制御の装置では、力を制御して歪を一定にしようと動作している。
10年ほど前の価格では、力制御の装置のほうが安かった。コンパウンドの品質管理用に購入したのだが、普通に温度分散を測定している分には問題なかった。
しかし、品質管理用にある特殊な測定をしたときに困った。少し挙動が異なるのだ。少し特殊な手順で弾性率の乱れ(偏差)を見ていたのだが、それが小さいのだ。
歪制御の装置で計測される偏差の20%ほどしかなく、品質管理用には感度不足となった。面白いことに測定モードを変更したところ、感度が上がった。
粘弾性装置だから変更すると言っても時間のファクターである周波数(振動数)だが、これを変更して歪制御の装置と測定結果が一致したのだ。
品質管理用なので、とりあえずこれで仕様を決めなおし、ことなきを得たのだが、測定データに対して時間温度換算則を使う時に問題が起きることに気がついた。
退職後聞いた話では、コンパウンド工場を移転した時にコンパウンドの品質基準を見直し、粘弾性評価を廃止したと聞いた。すなわち、5年間の品質検査で異常が起きなかったから不要な検査と判断されたらしい。
CDのために品質規格を見直し、不要な検査を廃止するということは常套手段である。しかし、品質評価項目の中には、機械の寿命とも関係している項目があることを知っておくべきだ。
すなわち、一般に設備が劣化すると品質のばらつきが大きくなってくる。当方は、それも管理できるように粘弾性装置をややトリッキーな使い方で品質評価するように決めたのだ。
残念であると同時に中古で導入した二軸混練機が心配になってきた。ゴム会社でQCの心得を学び、その思想でカオス混合という世界初のプラントを約13年前に稼働させたが、トラブルは何も起きていない。
しかし、その安定なプラントも管理技術が骨抜きになっていったらどうなるか。今のところ何も問題が起きていないので、過剰な品質検査だった、という評価になっている。しかし、この粘弾性を活用した品質検査を当方は過剰とは思っていない。
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6月7日に都内で混練の講演会を予定しています。ゴムタイムズ社の企画ですが、弊社でお申し込みを受け付けています。
ところで、この講演会では、特許が公開されたばかりのPH01についても使いこなしを解説します。従来の添加剤と異なる点が見つかっており、従来の混練の概念では性能を引きだせません。
すなわち混練技術依存性のある面白い添加剤です。これを欠点とするのか、ブラックボックス化技術とするのかは技術のとらえ方になりますが、これまでにない性能を実現できます。
PPSやPEEKは加工温度が高く混練や成形が難しい材料ですが、PH01の添加で加工温度を下げることが可能になります。
さらにPPSでは結晶成長を抑制する機能も見つかっており、PPSの結晶成長による物性低下でお困りの方はぜひセミナーにご参加ください。
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混練の教科書を読むと分配混合と分散混合の説明がなされている。たしかに混練はフィラーなどの添加剤を高分子に混合し分散するプロセスである。
ただし、混練はセラミックス粉末のような混合ではない。練が重要になってくる。分配混合と分散混合の説明には、この練の意味が入ってこない。
単身赴任して外部のコンパウンド技術者と話していたら、強練と弱練という言葉が飛び出した。初めて聞いたときに意味不明だったが、その言いたい気持ちは分かった。
しかし、間違っていた。その技術者が6年かかっても満足なコンパウンドができなかったから、間違っていた、と判断している。
当方は、8万円前後の教科書を4冊購入し読んでみた。しかし、その教科書も過去にゴム会社で指導社員から教えられた内容と異なっており、間違っている、と判断した。
結局30年ほど前に指導社員から習った内容を思い出し、中古の二軸混練機を購入し組み立ててそれでコンパウンドを製造してみたら、狙い通りのコンパウンドができた。おそらく考え方が正しかったのだろう。
ゴムの混練における経験知と、二軸混練機を中心にした混練の教科書では、整合がとれない。経験知で混錬したほうがゴムも樹脂も良い結果が得られる。今画期的な混練の本を書いている。
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学生の頃、分子論がすでに形式知として定着し、バーローの書いた物理化学の教科書が標準教科書として選ばれていた。困ったのは、教授によりバーローではなく、ムーアの教科書を勧める先生がいたことだ。
結局、バーローとムーアの物理化学の教科書を上下4冊購入することになるのだが、さらに困ったのは、ご自分の著書を勧めた先生もおられた。ただ、その先生の著書を読んで買うのをやめた。
理由は簡単で、バーローとムーアのいいとこどりをしているような教科書だった。バーローとムーアの教科書については、1年生の夏休みの時にすべて読破し、問題も解いていたので、二年生になりこの先生の教科書を購入することをやめた。
単身赴任した時に、手元に物理化学の教科書が欲しいと思い本屋に行ったところ、マッカーリとサイモンの著による物理化学の教科書があり購入したが、バーローとムーアの3倍以上の価格がついていた。
今時の学生は教科書が高いから大変だと思ったが、昔はカレーライスが150円で食べることができて、バーローの上巻は1800円だったことを思うとマッカーリーとサイモンの著による物理化学は、カレーライス10杯分よりも安い。しかし、今は吉野家の牛丼を基準に考えた方が良いかもしれない。やはり高すぎる。
ところでこのマッカーリーとサイモンの著による物理化学の教科書は高いだけあって、厚みはバーローやムーアの本のおよそ1.5倍である。価格も高く、本の厚みも分厚くなって、今時の学生は大変だ、と思った。これでは夏休みに全部読もうなどという気持ちは起きない。
さらに、教科書の最初は、熱力学ではなく、量子力学から始まっている。とてもじゃないが、夏休みに寝転がって読めるような本じゃない。しかし、読むと面白い本であり、もし昔物理化学が好きだった人は一読をお勧めする。
疑問に思ったのは、なぜ最初に量子力学なのか、という点である。確かに形式知の体系としては正しい。ただ、学ぶ側からすれば、最初に熱力学のほうが、学びやすいのである。今時の教科書は皆そうなのかと思い、5年ほど前に学会でアトキンスの物理化学の教科書(英文)を見つけたので読んでみたが、これは熱力学が最初であった。
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昨日、高分子の融点(Tm)の話を書いた。高分子のTmは、無機材料のそれと異なり、必ずしも結晶の融解温度(Tc)と一致しない。さらにTmとTcが別々に観察される。
高分子技術者は、ここで高分子を高分子として感じなければいけない。「感じなければいけない」と書いているのは、未だ高分子の形式知の体系は出来上がっていないので、カンが必要だ、ということを指摘している。
カンを否定する人がいるが、技術開発において「カン」は重要である。ヤマカンだろうがドカンだろうが第六感には暗黙知の情報が含まれている。
テルマエロマエのように未来へワープしてカンニングできるならば話は別だが、さすがにカンだけでは実際の技術開発は無理で、それに成功するためには形式知を頭に蓄積しておく必要がある。そのうえでカンを働かせよ、ということだ。
高分子でTmとTcが一致しない点に気がつくと、Tm以下で混練できるとカンが働く。少なくともTcまで下げても混練できるはずだ、とカンをよく働かせてほしい。
ここで実験を行う人とそうでない人でカンが大切な暗黙知の情報提供になるのか、ドカンで終わるのかが分かれる。また、実験を行ったとしても幸不幸もそれが経験知の蓄積につながるかどうかに影響する。
不幸な人は実験でトルクオーバーという事態に遭遇しびっくりして、やっぱり無理だとなる。しかし、幸運な人は無事混練することができ、できあがった組成物がTmで混練した生成物よりも良好な結果でにっこりすることになる。そして経験知が一つ増える。
GPCを測定しても分子量低下が起きていないので、感動する。粘弾性測定を様々な高分子について行い、この時の経験知がどうしてなのかを間接的に探ってゆくことにより、経験知はさらに汎用知識となってゆく。
形式知の体系ができていない知識は現象を直接見ることにより、形式知に近づいてゆく。天才ならば、そこから新たな形式知を創り出すが、凡才ならば高度な経験知として蓄えられる。
結果を聞くだけで満足しているのは凡才以下である。耳学問も大切だが、知識をどこかで確認する、あるいは直接現象を眺めてみる、自然の中でそれを確認しようと努力することはさらに大切である。
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