ゴム製品のトラブルでは、難易度が高い場合に解析困難となる。しかし、熱可塑性樹脂、いわゆるプラスチックでは、何らかの答えを出せる。
加硫ゴムでは添加剤の種類が多いだけではなく、ポリマーブレンドで設計されている場合もあるので、ポリマーの同定が難しくなる場合もある。このような問題では、経験知から推定することになる。
ゴム会社の研究所に勤務していたので、ゴムに関する高度な分析技術とレベルの高いスタッフでも科学的に解析できない問題があることを見てきた。
それでも品質問題では繰り返して起きるトラブルでは、情報が集まってくるので科学的な結論とはならないが経験知の蓄積から対策をとれるようになる。
このような現場を見てきたので、写真感材のさらに難解な品質トラブルに遭遇しても勘所を押さえ、問題解決できた。難解さには、情報が少ないために難解な場合と間違った問題を設定して自分で問題を難解にしている場合がある。
プラスチックのトラブルでは、間違った問題を設定しない限り、ゴムのように解決できない、という問題に遭遇したことは無い。20年近く前の話だが、なんでもケミカルアタックにしてしまうコンパウンドメーカーには驚かされた。
科学の形式知ができていないことに甘えてはいけない。そのような姿勢では、良い品質の製品を送り出すことはできない。
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高分子材料の分析に熱分析は重宝する。分光分析のように分子構造の同定まではできないが、コンパウンドが同じものかどうか、ばらつきはどうかの分析ができる。
TGAやDSC、TMA、動的粘弾性を駆使すると、ゴムやプラスチックのトラブル解析で迅速に結果を出せることをご存知ない方が多い。
ここで問題となるのは、ペレット一粒一粒のばらつきである。同じロットの中で調べてみると、密度は結構ばらついている。DSCでTgのエンタルピーをこの密度と相関を調べてみると、相関のある場合と無い場合があったりする。
TGAで重量減少カーブを調べるとある温度領域の重量減少カーブのところで差異が観察されたりする。こうしたデータを積み上げると、ペレットの生産においてトラブルがあったかどうかが見えてくる。
20年近く前の話だから少し詳しく書くと、某大手の樹脂メーカーが中国のローカルメーカーに委託生産していたコンパウンドの射出成形体でボス割れというトラブルがあった。
外装部品を固定するボスが出荷して1年も経たず割れて外装が外れるトラブルが起きた。コンパウンドにエラーがあって発生しているとおもわれたのだが、コンパウンドメーカーはケミカルアタックを原因として主張してきた。
当方はデータからコンパウンドにエラーがあるので改善を要求したのだが、無視されて同じロットのコンパウンドを納入してきたので、一袋についてペレット一粒一粒検査した。
このようなことを若い人にお願いしたら嫌がることが分かっていたので、土日に当方が実験したのである。単身赴任だったので暇つぶしに楽しめた。数粒評価したところでスが入っているペレットを見つけた。そこで、袋から全部のペレットを床に広げ、すの入っているペレットを拾い出した。
約1割ほどすが入っていたペレットを見つけたので、月曜日にコンパウンドメーカーの営業を呼び、すの入ったペレットだけ見せて意見を聞いた。
さすがに山積みされた劣悪ペレットを前にケミカルアタックとは言えなかったようだ。技術担当と調整して、と言い始めたので、工場の監査をやりたい、と要求した。
詳細を省略するが、中国ローカルメーカーの工場は、5Sに問題は無かったが、熱電対が1本壊れた状態で生産をやっていた。これ以上書かないが、熱分析データから予想されたばらつきだけでなくスが入る原因も理解できた。
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セラミックスは、1980年代に起きたセラミックスフィーバーにより、材料科学としての形式知が完成した。1980年以前に書かれた教科書と1990年以降に書かれた教科書とを比較するとそれがよくわかる。
このセラミックスフィーバーは日本発の材料科学におけるイノベーションだが、これがアメリカを刺激してクリントン大統領がナノテクノロジーとバイオケミストリー、バイオリファイナリーの国家戦略プロジェクトをスタートしている。
現在バイオマテリアルがアメリカ中心に展開している所以だが、日本では2000年ごろから高分子材料を巻き込んだナノテクノロジーへセラミックスフィーバーが発展している。
さて、金属やセラミックスでは、その機械的性質に関し形式知の体系が完成したが、高分子ではまだ未完成のままである。ゆえに、金属やセラミックスでは当たり前の非破壊検査法が確立していない。
このことが意外にもあまり知られていないので驚いている。50年も材料科学をセラミックスから高分子までまんべんなく扱っていると、この落差が、高分子技術の難しさにあると思うようになった。
高分子科学を理解するためには、アモルファスとは何か、を知らなければならないが、これが難しい。無機ガラスを理解していると少しその取扱い方と高分子の特殊性が見えてくる。
そもそもアモルファス=ガラスと誤解している人がいる。ガラスではないアモルファスも無機材料では存在するが、高分子のアモルファスはすべてガラスである、と理解している人はよく勉強している。
また、高分子の結晶と無機材料の結晶と少し異なる、いや大いに異なることをご存知か。そもそも結晶成長速度をアブラミ式一発で整理しようとしている問題も気づいてほしい。
3月には技術情報協会で高分子の耐久性と劣化寿命、および材料の破壊についてセミナーが開催されます。是非参加し、勉強していただきたい。また、ゴムタイムズでも企画されており、特にゴムの破壊について学ばれたい方は、こちらのセミナーへご参加ください。弊社へお問い合わせいただければ、サービスさせていただきます。
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昨日外観不良のブリードアウトについて書いたが、製造段階では検査で見つけられないので、内部不良と捉えた方が良い。
製造段階で起きれば、金型などを汚染するので気がつく。この不良はプレートアウトと呼ばれており、ブリードアウトと区別している。しかし、ブリードアウトが速めに起きただけである。
プレートアウトでも開発設計段階で気がつかないことがある。1000ショットほど射出成形して起き始める、などという悩ましいトラブルだったりする。
ゴムやプラスチックのトラブルで困るのは、季節要因が入ったりする時だ。冬に開発を完了し、春先試作を繰り返し大丈夫と判断したところ、初夏に温度が上がり、トラブルが起きる、ということもある。
ブリードアウトは物質の拡散で起きている現象なので環境温度に左右されやすいトラブルだ。コンパウンド段階で赤道をまたいだだけで起きることもある。
赤道をまたがなくても、中国のような広い国土では、産地によりトラブルの起き方が変わったりする。華南の工場で製造されたコンパウンドで問題が起きたが、華東のコンパウンドは大丈夫だ、などと騒いでいても、本質的な解決になっていない。
高分子のトラブルに対してどのように解析し、対策をしたらよいのか。1か月後に技術情報協会とゴムタイムズでセミナーが行われる。技術情報協会の講師割引券があるので問い合わせていただきたい。
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高分子材料の製品で購入してから1年以上経つとべたべたしてくるトラブルがある。昔は、塩ビ製のバッグでこのような製品が多かった。
最初は部分的にベタベタしているだけなので汚れだと思いふき取っていたら、全体がべたべたし、気持ち悪くなって捨てた、という体験は無いだろうか。
コンピューターのマウスで高級品には手触りが良いようにラバーがついていたりするが、これがべたべたしてきてホコリがつき、汚くなってドブネズミになった体験がある。
無線で玉無しで使いやすかったのだが、手触り感が悪く2年も使えなかった。ブリードアウトは高級品でも起きるのである。高分子材料には製品に求められる機能に合わせ添加剤が処方されるが、これが染み出してくる現象であり、どの高分子材料でも起きるトラブルである。
室温で液状の添加剤を大量に用いると必ず起きるので、材料設計段階で添加量の調整とSP値の検討がなされる。室温で固体でも融点が室温付近にあると起きる場合がある。
ブリードアウトの対策では、SP値の選択と量の最適化以外にブリードアウトしてもべたべたしないようにごまかす対策がとられる。マトリックスの高分子に反応させる方法もあるが、マトリックスにより制約がある。
3月に技術情報協会主催のゴムとプラスチックのトラブル対策に関するセミナーがあり、このあたりも少しお話しする。講演者割引があるので問い合わせていただきたい。
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高分子材料の分析手法として熱分析は簡便に高分子材料の問題を知ることができるので重要なスキルである。これが身についているかどうかで高分子のプロセシング技術やトラブル対策で差が出てくる。
DSCやTGA,TMAは3種の神器として揃えておきたい。1台300万円前後であり、今時の大衆車1台分の価格より少し高い程度である。3種揃えると割引のある会社の装置を購入すると良い。
1960年代に盛んに研究され、1970年代に普及が始まり、真空理工(現在は社名が変わっている)などのベンチャー企業が登場している。
1990年代になり、ほぼ普及が一巡したところで事業を辞めるところも出てきた。真空理工は2005年には名前が変わっておりびっくりした。それでも真空理工の技術が好きで、特殊TMAを発注している。
既製品の熱分析装置はもう事業になりそうもないということで、すべてが特注品となっていた。特注品なので高価でデザインも悪いのだが、使いやすいのである。
某社の熱分析装置は、デザインが良いのだが、不調になった時に自分で修理ができない問題がある。真空理工の装置はよく考えられていて故障が少ない。故障しても自分で修理できる可能性が高い。
学位論文には、真空理工と共同開発した2000℃まで昇温するのに1分もかからない超高速熱天秤を使ったSiCの反応速度論について1章書かれている。
熱分析は、ゴム会社に入社した時の分析グループの主任研究員が詳しかったので配属された時に興味を持った。よく知っている人に最初に指導を受けるとツボを心得た内容を教えていただける。弊社のセミナーでもツボの2つ3つを必ず話題にしている。
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デンソーなどによると、燃料を吸い上げるための「インペラ」(樹脂製羽根車)という部品を作る金型を変更したところ、樹脂の密度が低いものが生産されてしまったという。広報担当者は「製造後、車両に搭載するまでの環境なども複雑に絡んでいるとみており、複数の要因についてさらに調査している」と話した。 これまで7回のリコールを届け出たホンダの分析によると、樹脂密度が低いインペラが長期間倉庫に置かれるなどして、車両に搭載されるまでの間に表面が乾いてしまい、樹脂が収縮することで細かな亀裂が入ってしまうものがあるという。 (1月27日版朝日新聞デジタル記事より抜粋)
ホンダ車のリコールに関する記事で、1月27日に原因が細かく記載された記事を見つけた。おそらく樹脂はPPSだろうと推測され、燃料ポンプのインペラーについては、東レが特許を取得していた(10年間特許年金が支払われたが年金不払いで権利消滅)のを見つけた。
朝日新聞デジタルとこの東レ特許を読むと、トラブルの原因が見えてくる。2月度(昨日の本欄参照)に高分子のトラブルに関するセミナーを開催予定ですのでご参加ください。少し解説いたします。
また、本セミナーにつきましては、3月にゴムタイムズ社で、4月に技術情報協会でも開催されます。弊社で開催されますセミナーは若干お得な価格設定にしておりますので是非ご利用ください。
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ロール混練ではカオス混合が起きているという。数㎜の間隔で表面が平滑な二本のロールが対向で回転しているところへゴムを投入すると早い回転のロールにゴムが巻き付き、混練が進行する。
初めてロール混練を体験した時にこの様子に感動している。指導社員は天然ゴムだけ混練されているところへ数粒カーボンを添加し、それがあっという間に分散して真っ黒に変わる現象を前に、伸長流動とリップで起きている剪断流動をよく観察するように言われた。
見るとロールの下に手鏡が置かれ、ロールの真下の様子を観察できるように用意されていた。指導社員がロールで起きている天然ゴムの流動を当方に説明するために手鏡だけでなく、数種類のカーボンまでTEM写真とともに用意されていた。
カーボンのストラクチャーによりカーボンの分散状態が微妙に変化した。そして、疑問に思ったらこの実験をやるようにとのアドバイスをされたのである。
レオロジーの難しい理論ではなく、実際の現象で観察することにより、混練の機構を学ぶ方法を指導してくれた指導社員は、大学院でレオロジーを研究し、ダッシュポットとバネのモデルから導かれた常微分方程式を関数電卓で解くような技術者だった。
餅つきやパイ生地練り、ロール混練で発生している効率の良い練り、カオス混合についても研究されていた。そして、当時イノベーションが起きていた二軸混練機でカオス混合ができるようにするのが当方の宿題となった。
ただ、指導社員と出会って3か月で職場異動となる。宿題はしばらくペンディングとなり、リアクティブブレンドのプロセシングを学ばなければいけなくなった。高速剪断のこの世界はロール混練とは異なり、剪断流動でナノオーダーの混合が進行するとんでもない世界だった。
それから25年経ってカオス混合の宿題を仕上げなければいけない事態になった。2005年8月に単身赴任し、PPS/6ナイロン/カーボンというシンプルな配合で歩留まりが10%前後で低迷していた半導体無端ベルトの押出成形を半年間で歩留まり100%にしなければいけないテーマを担当したのである。
日本のトップメーカーのコンパウンドだから必ずできると言われ前任者から引き継いだのだが、そのトップメーカーの技術サービスから「素人は黙っとれ、勝手に自分で工場を作ってコンパウンドを製造してみろ」と言われた。
仕方が無いので、中古機を集め子会社の敷地を間借りして粗末な建屋の中に先端のカオス混合ラインを3か月で立ち上げた。このラインから製造されたコンパウンドで半導体無端ベルトの押出成形歩留まりは100%となった。
ただし、押出成形プロセス条件を従来の条件から何も変更していない。押出成形は「行ってこい、の世界だから」というゴム会社で実習した時の現場の職長(ゴムの押出成形を40年担当していた)から教えられた教訓を守っただけである。
これは実話である。この時行ったパーコレーションの制御技術を題材にパーコレーション転移プログラムを作成しながら学ぶPythonセミナーを2月に行います。明日目次と日程を公開します。1/26に申し込まれますとプログラム付5000円で参加できるだけでなく、2月のご希望の日を指定できます。お問い合わせください。
お申込みを希望される方は下記フォームから希望する日付を入力してください。
送信時に不具合等が起きる場合はinfo@kensyu323.comまでご連絡ください。
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ホンダ車のリコールが発表され、部品を供給しているデンソーからは、故障原因と謝罪の説明があった。以前にも書いたが、材料系の品質問題が起きた時の部品供給側と自動車メーカーとの阿吽の呼吸のようなものを感じる今回の発表である。
すでにこの問題で1名死亡事故が起きているので迅速なリコール対応となったのかもしれないが、できれば品質管理技術を向上しリコールの撲滅を目指すのがあるべき姿だろう。
この点に関しては、1月に開催される日刊工業新聞のセミナーで弊社のコンサルティングの姿勢も含めてお話ししたい。弊社では、研究開発(注)あるいは開発設計段階から品質管理を徹底する指導を心掛けています。
さて、このリコール問題について特許を調べたところ、PPSで製造されていた部品をフェノール樹脂で置き換える発明がデンソーから2017年に出願されている(特開2017-82116)。この発明は住友ベークライトとの共同出願となっている。
もし、今回のリコールの原因となった燃料ポンプのインペラーがフェノール樹脂で作られていたならば、この発明が技術に用いられており、住友ベークライトが部品供給先と思われる。
インペラーの材料はPPS製も考えられる。しかし、東レからPPS製インペラーの発明が単独出願され権利化されているが、年金の支払いが2021年以降無く権利が消滅している。
このような特許の状況から推定されるのは、PPSの高価な部品を安価なフェノール樹脂製の部品で置き換えて、そしてその品質管理に失敗し今回の事故が起きた、というシナリオが見えてくる。
ただし、当方は、今回のリコール対象部品がPPSなのかフェノール樹脂なのか知らないので、このシナリオは「妄想です」とコメントを残しておきたい。
注意しなければいけないのは、フェノール樹脂とPPSでは、故障の原因となるメカニズムが少し異なるところである。前者は架橋型の樹脂であり、後者は熱可塑性樹脂だ。
この両者で耐久性を議論する時に注意しなければいけない点(例えばフェノール樹脂にはOH基があり、これは親水性なので耐久試験を行う時にガソリンに含まれるわずかな水をどのように考えるのかーーー。)があり、1月のセミナーではそこを詳しく説明予定である。ご興味のあるかたは、弊社へお問い合わせください。
なお、過去に当方が講師を務めるこのセミナーですでに時間温度換算則の問題や自由体積その他を説明しているので、熱可塑性樹脂と架橋タイプの樹脂で異なる点について今回の事故原因を気がつかれたと思います。今回のクレームがどちらの樹脂でおきているのかは不明だが、これまで樹脂部品を使ってきて問題が起きていなかった、と過去情報に書かれている。
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表題に関して日刊工業新聞主催のWEBセミナーが1月に開催されます。弊社にお申込みいただければ割引サービスいたしますのでお問い合わせください。
https://corp.nikkan.co.jp/seminars/view/6917
高分子材料の破壊につきましては、セラミックスや金属と異なりトランスサイエンスであり、他の材料では行われている非破壊検査も困難な状況です。
本セミナーでは事例により、高分子の破壊と耐久劣化の問題について、現象の解説だけでなく品質管理の手法や解析方法を解説いたします。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
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