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2018.07/27 高分子の劣化・寿命(3)

以前この欄でニコンF100というフィルムカメラの裏ブタフックが、防湿庫で保管していただけでクリープ破壊して壊れカメラが使用不能になった話を紹介している。これは材料メーカーの責任ではなく、カメラメーカーの品質管理技術がお粗末なためにユーザーが泣かなければいけない故障である。

 

詳細は省略するが、裏蓋のフックについてどのように仕様を決めたのか、という問題と、裏蓋が開く機能に重要なバネ強度をどのように品質管理していたのかという二つの問題が関わっている。いずれもF100設計段階におけるミスである。

 

材料メーカーの責任は存在しないはずだが、材料メーカーの責任を問われるケースも出てくる。すなわち、フックの引張強度やその寿命を材料スペックとして材料メーカーが採用していた場合である。

 

この点については有料でご説明すべき内容であるが、少し書くと、強度にかかわる寿命については成形体に潜んでいる欠陥の影響を強く受ける。成形体を製造直後に十分な強度が出ていたとしても、時間の経過とともにこの欠陥が成長するような条件が揃うと欠陥の成長速度が成形体の寿命を支配する。

 

成形体に潜んでいる欠陥の初期のサイズやその個数の分布について知ることやましてや品質管理するには高度な技術が要求される。多くはこれらと相関しそうな間接的なデータで品質管理する以外に経済的な方法は無い。

 

ゴム強度の寿命が欠陥の影響を受けることは1960年代に論文発表されている。ゴム会社ではこれが伝承されているが、多くの企業では未だに知らない人が多い。また高分子学会の発表にもこの事実を全く知らずに研究報告をされている先生も存在する。

 

情報として教えてあげたところ、物性の専門家ではない、と言って叱られた(照れ隠し?開き直り?)時にはびっくりした。ゴム協会誌に掲載されていた情報なので50年も経っていればアカデミアでは、高分子の寿命を研究として扱う限り常識として知っていなければいけない。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2018.07/26 高分子の劣化・寿命(2)

材料の品質データねつ造があっても、その材料を採用している製品には影響が無い、というニュースを聞いて奇妙に思った人は多いのではないか。また製品品質に影響のない材料の品質をなぜ管理しなければいけないかという疑問も出てくると思う。昨日はこのような事情になる原因を少し説明したが、具体的な高分子の劣化あるいは製品寿命について本日は書いてみる。

 

高分子材料が構造材料として用いられたときの寿命とは、例えば引張強度や曲強度、圧縮強度などの製品品質がそれら仕様として決められた強度の値を下回ったときである。このように具体的に分かっていてもその寿命を材料メーカーが品質保証するとなると難しい問題がある。

 

原因は、この寿命が高分子材料の品質だけで決まらず、材料が形になり製品に組み立てられた状態、ざっくり言えば成形技術と製品設計技術の影響を受ける。極端な例として、材料の品質など無関係で、例えばポリスチレンならばどのような品質のポリスチレンを用いても製品寿命を長くできる成形技術や製品設計技術というものが存在する。

 

例えば製品のコストダウンを図る場合には、どこのメーカーのポリスチレンでも使えるように製品組み立てメーカーは、このような技術を開発する。具体的には、各メーカーから販売されているポリスチレンの種類を誤差として見立ててタグチメソッド(TM)を行えばそれが可能となる。

 

このTM実験で使用する制御因子や調整因子については製品組み立てメーカーのノウハウであり、材料メーカーは知ることができない。仮に教えられても、基本機能の評価技術を材料メーカーは持っていないのでTM実験を同じように行うことができない。

 

製品組み立てメーカーは、TM実験によりどのようなポリスチレンを用いても可能であるにもかかわらず、一応実験に用いたポリスチレンのスペックを決めて材料メーカーへ発注する。そこに材料の寿命スペックを入れる場合もある。これを材料スペックとして決められると材料メーカーは、捏造の機会を抱え込むことになる。

 

材料の寿命を材料メーカーが品質管理する技術は、製品組み立てメーカーが同様に管理する技術よりも数段難しくなる。仮に寿命評価法をすり合わせたとしても、さらに成形技術を完璧に同等としても、製品の調整因子まで明らかにされなければ、その難易度は同等にならない。

 

材料メーカーのリスク管理の視点では製品寿命に関わるスペックを受け入れてはいけない。この点について質問のある方は問い合わせていただきたい。製品寿命について材料スペックをどのように決めるのかは難しい問題ではなく、***である。

カテゴリー : 一般 高分子

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2018.07/25 高分子の劣化・寿命(1)

昨年暮れに材料メーカーの品質管理データねつ造があいつぎ、社長の謝罪会見が行われた。興味深かったのはトヨタ自動車はじめ川下のお客はすぐに製品品質について異常なし宣言をだしたことだ。これにより川上メーカーの火の粉をよけたわけだが、違和感を感じた方が多かったのではないか。

 

品質管理基準を満たさない商品を使った製品が安全であると宣言しているのだ。ニュースでは「特採」の存在まで丁寧に説明し、川上メーカーが不良品を川下メーカーに納めたにもかかわらず、川下で問題が起きないからくりを「わざわざ」説明していた。材料メーカーの当時の不祥事が大きな社会問題にならないような配慮だが、品質管理の考え方から見れば、実はこの説明にだれかかみついてもいい。

 

社会不安をあおることにもなりかねないのでこれ以上はニュースの説明に言及しない。ただし、この事件の流れについては「さすがトヨタ自動車」という正しいコメントが、建設的であり、また「組み立てメーカー」と「材料メーカー」の関係の問題及びこの関係において「材料メーカー技術者」の涙ぐましい努力と彼たちの築いてきた材料技術の裏側を浮き彫りにするので少し書いてみたい。

 

ニュースでは特採の実態について詳しく説明していない。これは説明しにくい話だからである。ニュースでは短時間の説明で素人が納得できるような内容だったので、おそらく品質管理業務に精通したどなたかがニュース原稿を作られたのだろう。

 

ニュースでは語られなかった重要な本音を述べると、組み立てメーカーの材料に関する品質管理手法や材料の品質が関わる部品の設計手法は外部に知られたくない重要なノウハウであり、これは科学の不完全性を示す事例である。換言すれば、これだけ科学が進歩したと言われているにもかかわらず、科学で完璧に説明できない現象が多いから、川上メーカーが知ろうとしても知ることができない川下メーカーのノウハウが生まれるのだ。

 

もし、材料物性と製品品質の関係を説明できる完璧な形式知が存在したならば、トヨタ自動車の宣言は大嘘かあるいは不誠実な発言ととなる。しかし材料品質と製品品質の関係を既存の形式知を用いて未だに完璧に説明できないので、川下メーカーは品質保証された材料が納入されても独自の品質基準でその材料で作られた部品の品質管理を行わなければいけないという実態がそこにある。

 

このような「完璧な形式知が存在しない」ことを誰もが暗黙の裡に知っており、トヨタ自動車の品質管理技術が世界一とよべるような信頼性が確立されているのでトヨタ自動車の鶴の一声で年末のねつ造問題は沈静化したのだ。

 

製品を開発する過程で「完璧な形式知が存在しない」ため川上メーカーと川下メーカーはお互いの技術内容を開示しながら「すり合わせ」で技術を創り上げてゆく。この時川上メーカーには正直に材料物性データを提出することが求められるが、川下メーカーからはその物性データがどのように製品品質と関わっているのかについてノウハウであることを理由に詳細な説明がなされない。せいぜい物性データについて〇×△の記号がつけられた一覧表が渡されるだけだ。

 

材料メーカーの優秀な技術者は、お客様である川下メーカーの〇×△データを唯一の手掛かりとして材料の品質管理基準を創り上げてゆく。その過程は、形式知を使い論理的に進めることができないという理由で科学の研究よりも難しい作業となる。材料が製品で機能を発揮している状態を心眼で見る必要があるからだ。

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2018.07/24 学会では公開していない新技術

6月末に上海で開催されたCMFデザインに関する国際会議で招待講演者として発表の機会があったので、30秒ほど弊社が開発した新技術についてお披露目した。講演の後、中国の放送局や出版社の取材を受ける決まりがあった。新技術について質問を受けた場合の回答を用意していたが、幸運なことに質問が無かった。

 

もっともこの国際会議の参加者は発表者も含めデザイナーばかりだったので30秒ほどの説明では気がつかれなかったのかもしれない。会社を起業してから7年になるが、カーボンクラスターの制御技術以外に新規技術がいくつか生まれている。

 

後発なので最初に紹介する技術として気が引けるが、CNTの水分散技術やこれを活用した樹脂の変性技術、同じくコロイド技術になるがホスファゼンによる皮革の難燃化技術、PC/ABSの新たな難燃化システムの開発、新規オリゴマーの開発とその機能、熱伝導性光散乱樹脂、絶縁耐性の高いPPSはじめPPS関係の技術など特許を書いていない技術も存在する。

 

多くは中国で開発し実用化している技術で単なる研究ではない。これらの新技術の一部はセミナーなどで公開しており、来月開催されるブリードアウトのセミナーでもブリードアウト防止技術として紹介する。またKRIからも講演依頼があるのでそこでもいくつかご紹介させていただく。ご興味のある方は弊社へご相談ください。

 

有料のセミナーで新技術を公開する理由はPRのためでもあるが、高価な参加料を支払って来ている方に学会では得られない情報提供をするサービス精神からである。当方のセミナーでは発明の方法や特許ネタも紹介しているので、その内容は学会発表よりも直接実務に役立つはずだ。

 

例えば皮革の難燃化技術は、皮革だけでなく他への応用も可能である。さらに単なるコーティングではなく革の内部にホスファゼンが浸透しており学術的にも興味を持てる内容である。おそらく結果をご覧になるとアッと驚かれるはずだ。これは日本の某中小企業から商品が販売されるはずだが残念なのは資金が乏しくそれがいつになるのか決まっていない点である。

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2018.07/17 ごみ付着距離と|Z|

ごみ付着距離とインピーダンスの絶対値とがうまく相関した実験結果は、日常の帯電という現象が帯電と放電とが同時に起きており放電では、交流的に電荷が移動し電気が流れている様子を示している。

 

すなわち、教科書に書かれている帯電現象についてその体系を直流的な視点から交流的な視点へ書き直さなければいけないことを示す実験結果である。

 

しかし、このような結果を学会で発表してもそのような騒ぎになっていない。もっとも当方は騒ぎを恐れ、ただの事実として発表しただけで、その示す意味まで明確に語っていない。

 

カナダで開催された写真学会では、トリで講演を行っているが、その時にも穏やかに実験結果のみについて冷静に講演した。

 

当方が科学者であればこのような発表の仕方はしない。すでに当方は技術者として生きる道を選んでいた。技術者の立場としては、自然界の現象に潜む機能だけを取り出せればよいだけで、科学の真理など科学者の仕事だととらえていた。

 

また、それでも社会は困ることは無い、と判断したので、今でも帯電現象の科学的理解など仕事としてやろうと思っていない。これはニュートン力学とアインシュタインの相対性原理をうまく使い分けている日常と同じだと思っている。

 

もし若手科学者で帯電現象に興味を持たれた方がいたならば、帯電現象における相対性原理の発見に努力するのも面白いかもしれない。超電導現象の理解にもつながるのかもしれない。

 

ゴム会社で常温超伝導体の研究を命じられた時には、それを面白いとは思えなかったので、常温超伝導体が作られた時に社会はどうなるのかという視点で開発を行い、特許を書いている。すなわちその機能を取り出すときの問題点に着目した研究開発である。

 

 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2018.07/16 フィルムのごみ付着とインピーダンス

印刷工場でフィルムが金属の壁に吸い付いたようになる現象は、工程帯電が原因だった。フィルムには帯電防止層があり、さらにフィルムが滑っていたのは金属表面である。だから帯電故障というところになかなか頭が回っていかない現象である。

 

金属は導電性が良いから帯電しないという間違った知識が現象の理解を難しくしているのである。フィルムに何か意思があるわけでなく金属にしがみつくのは、帯電現象以外にないのだが、目の前でその現象が起きるとびっくりする。

 

金属の帯電現象については、帯電の教科書を読むと帯電の説明のために出てくる。絶縁体は帯電しやすいが、帯電現象の説明のためには金属が便利なのだ。例えば高分子材料の帯電現象は、未だに科学で完璧に説明できない。

 

帯電現象は奥の深い現象であるが難しいためか、意外と研究者の少ない分野である。帯電現象の理解にインピーダンスを持ち込んだのは当方が最初である。それまで帯電現象はもっぱら直流抵抗的なコンセプトで現象の理解が行われていた。

 

確かに帯電は正負の電荷が生じ、それが片方だけに残るため直流で考えたくなるが、放電現象は交流的な電気の流れで進行しているようだ。研究途中でリストラされたので、それ以上の研究ができていない。

 

しかし、たばこの吸い殻の廃付着テストの結果とインピーダンスとの相関は、日米写真学会で発表し注目された興味深い成果である。その研究のきっかけは、印刷工場で見た滑り性不良による品質故障だった。

カテゴリー : 高分子

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2018.07/14 混練技術

混練技術に関する書籍を何冊か読んでみたが、良い本が無い。また、書を読んでいてこれほど違和感を持った経験も少ない。混練技術について書かれている内容が実務に役立たないのだ。

 

混練機構の説明に分配混合と分散混合という機構が出てくる。10年以上前に実用化した中間転写ベルトのコンパウンドは分配混合だけ完璧に進行するように混練システムを設計した、というとものすごい技術に見えるかもしれない。

 

それを可能にしたのはカオス混合だ、といえばこの分野の技術をご存知の方はびっくりするはずだ。ただし、ソフト凝集したカーボンの構造を均一にしてパーコレーション転移を制御しようとしたのは事実だが、分配混合を完璧に進行させる設計などしていないし、この材料の開発で、混練技術の教科書が役立たないことも実感した。

 

その後、上海のある大学の先生が混練について研究されているというので見学させていただいたが、怪しさ100%だった。混練の教科書に書かれていることを確認するような仕事の進め方をされている。基本に忠実と評価できるが、得られた結果の説明が怪しい。

 

PE中でCNTをナノ分散した、というサンプルを見せられたが透明ではない。その理由として添加量が多いからだという。ではナノ分散であることをどのように確認したのかというと、この混練機ではナノ分散が可能になる、という具合に話がかみ合わない。これは通訳の問題ではなく、通訳者も困っていた。

 

混練機のスクリューについてはたいへん詳しく説明してくださるが、混錬された樹脂の説明になると途端に怪しくなる。日本の理事長にあたるコーディネーターを務めてくれた先生までもやや怪しい顔になってきた。日本ではないのであまり厳しい質問をしないように努めたが質問の回答がかみ合っていないことはその場に居合わせた誰もが感じたようだ。

 

とにかく材料の話を避けるように回答をされていたので質問したいことがあっても途中でやめたが、どうも機械工学の専門だったようでコーディネーター役の方が別れ際に謝罪された。

 

この体験は混練の教科書の状況と同じで、教科書に違和感を感じたのは材料加工に対する視点が欠けているのだ。混練では「混ぜること」と「練ること」がプロセスで進行する。「混ぜる」視点のみで教科書が書かれている、といったらしかられるか?

カテゴリー : 高分子

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2018.07/13 高分子材料の滑り性

銀塩フィルムが写真材料として使われていた時代に、写真フィルムの滑り性は重要な品質項目だった。その滑り性付与には、滑剤による方法とマット材による方法とがあり、さらに帯電防止性能も滑り性に関係した。

 

アカデミアで表面界面の研究は今でも活発に議論されている分野だが、写真フィルムの滑り性付与に必要な機能といえば、滑剤とマット材、それに帯電防止性能だった。

 

滑りすぎてもフィルムが扱いにくくなるのでその程よいさじ加減でフィルムを設計する行為が滑り性設計技術である。すなわち学会でどのような活発な議論がなされようが無関係に、職人技に近い技術開発で滑り性は設計されてきた。

 

このとき滑剤のブリードアウトも品質問題を引き起こすので設計に際し、最初にテストする項目となっていた。開発初期に合格していても、商品テストで粉を吹いたようになることもあった。

 

ブリードアウトは開発者泣かせの品質問題だが、コツをつかめば恐れるに足らずの問題でもある。しかし現場で困っていてもアカデミアでは、このような問題を取り上げてくれない。せいぜい拡散係数程度の研究である。

 

写真フィルムの新製品ごとに毎度設計しなおさなければならない面倒な技術だが、おやじギャグで滑らないようにするのと、フィルムの滑り性を制御するのでは、後者の方がやさしい、という程度の技術である。

 

やさしい技術ではあるが、品質設計となると市場での問題が絡んでくるので担当者にとっては頭の痛い問題となる。転職したばかりのころ、ある担当者に連れられて印刷工場の現場に案内された。

 

そこで2枚に1回現像されたフィルムがうまく滑らず途中で金属の壁にくっついている光景を見せられた。おもわず吹き出して面白い現象だ、といったら担当者に叱られた。しかし調べてみたら本当に笑えるような面白い現象だった。

 

科学時代ゆえに科学的に解明された考え方で表面の設計をすると問題解決できないパラドックスというよりも「科学時代」ゆえのとんでもない現象だった。まさに科学とは自然現象をある一つの視点で眺めているに過ぎない哲学であることを気づかせてくれた問題だった。

 

技術者は恋愛真っ只中の若者のようなモノの見方で自然現象を眺めてはいけない。科学者にはそれが許されても技術者は常にストイックに自然現象を多方面から、それも科学者が思いもつかないような視点で眺める努力が必要である。真理がどうであれ、まず観察し機能を感じるモノの見方が求められる。

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2018.07/11 高分子と無機フィラー

高分子の改質のために無機フィラーを添加する。例えば、弾性率を上げたり、導電性を付与したり、難燃性を向上したり、と様々な目的がある。

 

ゴムには昔からカーボン粉末がフィラーとして添加されてきた。その目的は硬度向上であり、カーボン粉末を大量に入れると硬くなりゴムとしての性質も小さくなる。

 

硬くて柔らかい(衝撃吸収という意味の柔らかさ)という矛盾したゴムを設計するためには、硬度を上げる手段をカーボンではなく架橋密度に期待することもできるが、1970年代に樹脂補強ゴムという硬さを全く異なるコンセプトで向上する技術が開発された。

 

これは、無機フィラーだけでは性能改善が行き詰まった時にポリマーアロイでブレークスルーした事例である。

 

無機フィラーの組み合わせで二律背反の性能を改善した事例もある。例えば転がり抵抗とグリップ特性の改善という省燃費タイヤ技術では、カーボンとシリカの組み合わせでブレークスルーが可能となり、シリカの改良については現在でも特許出願が行われている。

 

高分子と無機フィラーの組み合わせについてもこのように要求される特性に対して、無機フィラーと高分子、あるいは2種以上の無機フィラーの組み合わせで検討される時代になった。

 

無機フィラーについては混練中にそのフィラーの組成が変わることはないので、その表面状態が高分子への添加でよく考えなければいけない問題で、溶媒に溶質が溶解するかどうかを指標で表すSPを粉体に拡張する試みが1980年前後から試みられている。

 

また表面を化学修飾する技術も同時に開発が進み、多くの種類のカップリング剤が販売されている。カップリング剤の知識は無機フィラーを高分子に分散するときに要求される知識の一つである。

 

カップリング剤技術の面白くない点は、コストが高くなるところである。カップリング剤の価格とプロセシング価格の上昇を考えなければいけない。

 

ゆえにカップリング剤を使用しない技術というものも発展しているが、これはノウハウとして使われることが多く、表に出てこない。当方は科学的にはよくわからない場合が多いという理由で、このような技術に魅力を感じる。

 

また、AIでも考えつかない技術が存在する。特許には科学的に説明が難しいためか、驚くべきことに、と説明されていたりする。それほどびっくりするような技術でなくても特許を書いている人が驚いて見せなければ発明にならないような技術だ。

 

ところで高分子と高分子のブレンドではχを用いるが、SPで評価することも行われる。無機フィラーもSPで議論できるので、高分子のブレンドでは、SPのほうがχよりも便利かもしれない。

カテゴリー : 高分子

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2018.06/22 材料科学

高分子材料の開発過程で観察される現象について金属やセラミックスと比較すると、科学的に説明できる範囲が限られているような気がしている。

 

金属やセラミックスでも経験知や暗黙知に頼らなくてはいけない部分も多いが、昨年末から今年にかけて問題となったようなデータの捏造が科学の進歩で安心してできるレベルになってきた(皮肉ではない。恐らく担当者の気持ちもこのような感覚を持っていたのだろう)。

 

ところが今でも高分子材料では、同様の捏造には高いリスクが伴う。まだ科学でうまく説明できない現象が多いからだ。高分子材料科学は、この40年間にアカデミアの努力もあり大きく進歩した。しかしセラミックス材料をかつて研究した経験から高分子材料を眺めたときに、果てのない世界に見えてくる時が今でもある。

 

高分子材料を真剣に研究した経験がないので、勝手な印象しか表現できないが、セラミックス材料よりも研究者の数が多いにもかかわらず、高分子材料科学の進歩が遅いのは、研究者の問題というよりも非晶質の理解が難しいことによると「感じている」。

 

高分子材料の非晶質部分は、すべてガラスであるが、密度の高いところと低いところがある。密度の低いところでは室温で高分子の枝が分子運動をしている。すなわち、動いている。この部分は部分自由体積と呼ばれているが、この量がばらつくと高分子の密度もばらつくことになる。

 

密度がばらつけば、密度の関数である弾性率や屈折率、誘電率がばらつく。弾性率がばらつけば引張強度もばらつく、といった具合に成形体で要求される高分子物性ばらつきの原因はこの部分自由体積と呼ばれるところにある。

 

また、高分子材料は、目標とする性能を新たなブレンドで実現しようとしたときに、やってみなければわからない点が多い。そのとき、混練のプロセシングでさえ科学で満足な説明ができない状態で、どのように材料開発を進めたらよいかは経験を頼りに工夫も必要になってくる時がある。

 

例えばPPSと6ナイロンを混練で相溶できる、などと教科書には書かれていない。書かれていないだけでなく、そのような現象を否定する説明が書かれている。相溶しないとされるブレンドなので、やがてはスピノーダル分解をして相分離するが、一度相溶してから相分離した材料と一度も相溶しなかった材料では同一組成でも脆さの指標である靭性が異なっている。

 

ゆえに混練プロセスを工夫し、相溶した材料や一度相溶させてから冷却速度を遅くし相分離させた材料、急冷しても相分離している材料をプロセシングで創り出すことが可能である。この3種の材料は、力学物性だけでなく電気特性も異なる全く別の材料となっているが、化学的組成分析では同じものである。

 

このような現象を一度でも体験すると高分子の材料設計では、目標とするブレンド組成について、一度組成を大きく変動させたサンプルを作ってみて自分が必要としている組成の位置づけを見てから開発を進めるといった、泥臭い方法が重要になってくる。

 

当たり前の結果しか出ないかもしれないが、当たり前であることも確認してから進めないと足元をすくわれる可能性があるのが高分子材料の世界である。もしこの実験で当たり前で無い結果が出たならフィーバーするかびっくりして腰を抜かすかすればよい。落胆してはいけない。

 

その後は、ゆっくりと落ち着いて知識の整理を行い、それから研究開発を進める姿勢が大切で、当たり前で無い結果を理解できない結果として捨て去ってはいけない。20年近く前に日本写真学会から賞を頂いた高靭性ゼラチンは捨てられていた実験結果を拾い上げた成果である。

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