活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2018.10/07 高分子の混練(3)

混練は剪断流動と伸長流動で進行する。これは混練を考えるときの基本である。このとき教科書の説明で信じてはいけないのが、剪断流動では分散粒径に限界があるので、伸長流動を用いなければナノオーダーまでの分散ができないとするキャピラリー数を用いた実験結果である。

 

2000年に推進された精密制御高分子プロジェクトでもこの点に果敢に挑戦した研究者がいる。産総研の研究者は、1000rpm以上で高分子を混練可能な混練機を設計開発した。その装置で実験を行ったところ、剪断流動でもナノオーダーまで混練できたのだ。

 

残念ながらその混練機は量産機に展開できない構造で、あくまで実験機だったが、剪断流動に分散粒径の限界が存在するとした従来の説を否定できたのは評価すべきである。

 

もっとも何も考えず二軸混練機を使っていると教科書に書かれた内容に納得できる結果しか得られない。山形大学の研究者による剪断力を高める混練方法が特許として公開されているが、この特許に注目すると、剪断流動の可能性を広げることができる。

 

当方はこの技術を剪断混練と呼んでいるが、高分子学会賞の審査会では分子の断裂が起きてダメだ、と笑われた。混練技術を実務として経験していなくて耳学問だけと思われた審査員の発言だが、その指摘を受けてから高分子を剪断混練したときに分子量分布を測定してみたが、決して分子量低下はしていなかった。

 

世の中にはステレオタイプ的な思考で新しい考え方や教科書に反した考え方をすぐに否定する人がいる。このような人は今回の本庶先生の受賞時の言葉をどのように批判するのだろうか。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2018.10/06 LIMS

シリコーンゴムにはミラブルタイプとLIMSの2種類のゴムが存在する。ミラブルタイプは、通常のゴムと同じように高分子量のゴム分子を架橋して得られる。

 

LIMSによるゴムは、低分子量のシリコーンを重合しながら同時に架橋を進めて製造される。ゆえにLIMSのメーカーが異なるとできあがるゴムの構造は一次構造が大きく異なっている。

 

すなわちLIMSでは液状のシリコーンを用いるのでフィラーを添加しても高粘度とならず、注型による成形が可能となる。

 

しかしミラブルタイプは高分子量のゴムを用いるので、一般の架橋ゴムと同様に金型に入れてプレス成形を用いて製品となる。

 

このプロセシングの違いが生産性に影響する。ゴムの物性を問わなければ、一般にLIMS成形品のほうが低価格となる。

 

ところで困るのはLIMSについてシリコーンメーカーによりその設計思想が異なる点である。信越化学は、二官能のシリコーンと架橋剤でゴムとなるように設計している。

 

しかし他の2社は、三官能のシリコーンを用いて架橋もそれにゆだねている。教科書に即して考えると信越化学の設計に軍配があがるが、製造時の品質安定性という指標でみると他の2社に軍配があがる。

 

信越化学の製品が劣っているのかというとそうではなく、用途により最適なLIMSメーカーが存在する、という書き方で本日はお茶を濁す。LIMSの成形技術で困っている方はご相談ください。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

pagetop

2018.10/05 高分子の混練(2)

高分子の混練をなぜ行うのか真剣に考えてみた。混合目的でなくても一組成の高分子を混練しても意味があるのか、とまず考えて、光学用ポリオレフィン樹脂だけを混練してみた。

 

写真会社で、倉庫だった場所を改造した部屋が居室になった時である。丁寧に両袖机が窓際に置かれた。何をやっていてもよいと言われたので、ゴム会社の新入社員時代に学んだ混練の技術についてまとめてみようと思った。

 

フィルム技術は、写真会社に技術者や職人が余っている状態なので誰かがまとめるだろう。しかし、混練技術は、基盤技術も無ければ知っている人は当方しかいない。

 

ゴム会社ではセラミックスを担当していたので高分子材料技術の担当となる会社を転職先として選んだ。そのような気配りのためゴム会社の元役員にご相談したら、20年以上前の技術なので転職先で扱っても問題にならない、と言われた。確かに20年とは二昔であり、ゴム会社の混練技術も相当進んでいるはずだ。

 

そのときカモがネギしょって部屋に訪ねてきた、と言っては失礼になるかもしれないが、まさにそのようなタイミングよく相談の内容も至れり尽くせりの訪問だった。詳細な内容は少し差し支えるので省略するが、光学用樹脂の改良を相談されたのである。

 

写真会社には混練装置が無いので、試験用混練装置でよいから一式そろえてくれたらテーマを担当してもよい、と答えたら鍋から調味料まで一式用意してくれた。

 

この試験用混練装置で光学用樹脂だけを混錬したら驚くべき結果となった。これは当時学会でも発表しているのでここに書くが、部分自由体積の量が混練時間とともに減少するのだ。

 

そしてもっと驚かなければいけないのは、それが減少し安定化するのに30分程度かかるのである。一般のL/Dが40や50程度の二軸混練機では材料を投入してから出てくるまで3-5分程度である。

 

バンバリーでゴムを練る時なんかは3分程度である。すなわち部分自由体積の量が安定化するまで一般の混練プロセスでは、高分子を混練していないことになる。指導社員がロール混練を重視していた意味をよく理解できた。

 

この実験結果が頭にあったので、中間転写ベルトを開発していた時に、ペレットの一粒一粒の密度ばらつきを計測してみたら、大きくばらついていた。

 

この結果にはカーボンの添加量のばらつきも含まれているので、熱重量分析でカーボン量のばらつきを求めてみたらそれよりも大きくばらついていたのだ。

 

50歳前後のサラリーマンが窓際の席になり、時間を持て余す話はよくあるが、その後、この時ボーっと考えてみようと思っていた問題で忙しくなった。そして退職までの仕事は、それを特に希望していたわけではないが、混練が中心の仕事になっていった。

 

しかも、考える時間など無くなり、樹脂補強ゴムを開発していた時の様な本能的な仕事の進め方で肉体作業の連続のまま退職を迎えた。退職後は中国ナノポリスで窓際で考えたシナリオに基づき研究を進めた。中国で研究しなければいけなかったのは、日本で政府の補助金事業に応募しても何度も落ちたからである。

 

当方は重要だと思っているが混練など日本では必要のない技術と思われているのだろう。自信は無いが、この退職後6年間得られた成果から見ると、このような見識は間違っているのかもしれない。

 

しかし、自信のないことを積極的に提案するつもりは、もうないのでせめてセミナーや講演会だけでも活用して日本に貢献しようと努力している。来年には混練技術に関する書籍を出版する。

 

何も考えず肉体労働で仕事をやっていて少しある種の恐怖感を覚えたのは、新入社員時代の指導社員との会話で出てきたカオス混合を指導社員の期待通りに試行錯誤で実現できたことである。

 

30年前に現在の自分の姿を予測していたかのような感覚になると同時に、30年前の何もわからず指導社員に言われたまま活動していた時の記憶が鮮明に甦ったかのようだった。

 

また、当方がゴム会社でたった3ケ月しか担当しなかった混練技術について、もし、まとめようとしなかったなら、中間転写ベルトや環境対応樹脂など迅速に市場へ出せなかったかもしれないので、今から思い出しても不思議な体験である。

 

また、単身赴任中はよく徹夜をして過重労働を自らかして仕事をしていたので、正真正銘夢の中で仕事をしていたような気分である。

 

人生とは常に前向きに、そして腐ることなくチャレンジしてゆく姿勢が大切だと思った。また、どうしたら良いかわからなくなったなら、過去の成功体験を思い出してみるとよいかもしれない。すなわち温故知新である。

 

何か役に立つヒントをそこで見つけるはずで、若いときの厭世的な白日夢と異なり年寄りのそれは生きるための活力を求めるという意味で建設的である。

カテゴリー : 高分子

pagetop

2018.10/02 高分子の混練(1)

本庶先生に触発されたわけではないが、教科書を疑うことの必要を少し連載で述べてみたい。まず、高分子の混練技術について良い本が無い、というのが正直な感想である。設備屋により書かれた書物には二軸混練の実務で誤りを犯す危険のある書籍も存在する。また、間違いと言ってもよいようなことまで書いてある。

 

すなわちこれは実務に使えない教科書だ。そのような教科書の内容で頭がいっぱいになった技術者と議論し、らちが明かないので結局自分で混練のあるべき姿を追求し、数か月で二軸混練のプラントを稼働させて、中間転写ベルトの押出成形技術を開発した話を以前書いている。

 

この時二軸混練機を使うのは初体験のことであり、スクリューのセグメントを自由に取り換えることができることを知り感動している。なぜなら前任者から引き継いだ押出機ではスクリューは一本の金属棒からの削り出しで作られていたからだ。

 

前任者は長年押出成形だけを開発しており、スクリューの構造については自信を持っておられた。この前任者のすすめてきた開発方針をすべて見直し、中間転写ベルトの押出成形を成功させたい、それを実現するためには自分のできることだけでなくあらゆる可能性も含め何をやらなければいけないかを真摯に考えた。

 

その結果世の中のコンパウンド技術が教科書通りに発展しているので、それでは技術開発の成功は無いと判断し、外部のコンパウンダーに技術コンセプトの変更をお願いしたら「素人は黙っとれ」と言われた。

 

そこで、コンパウンドを外部から購入し、成形技術だけを開発していたスタイルをやめて、コンパウンド開発から成形技術開発まですべて行うスタイルに変更したのだ。

 

開発期間が1年もない中で、これは勇気のいることだが、ゴム会社の指導社員から指導された哲学、「混練はこのようにすべき」、という強い思いがあったからできたことだ。

 

これは自信ではない。ゴム会社の指導社員の哲学とその知識を信じての決断である。相撲道を追及して相撲協会を飛び出した貴乃花親方には及ばないが、ゴム会社の指導社員が目指していた混練道を少しこの欄で書いてみたい。

 

そもそも現在の二軸混練機は、豚肉や牛肉の加工機を元に発展してきた装置であることを知っておいてほしい。すなわち高分子のあるべき姿を追求して考え出された装置ではないということだ。

 

高分子に添加剤を混ぜるのによい機械が無いかと探したら、ミンチを大量生産している良い機械があったのでそれを改良して作り出されたのが二軸混練機である。

 

ハンバーガー程度であれば多少の混練機の違いで味が変わることは無いが、高分子のブレンドは、スクリューセグメントも同じで同じ型番の二軸混練機を用いても、レオロジー特性を評価すると異なる場合が出てくる微妙な技術である。

 

繊細な感覚の持ち主でなければわからない、というものではなく、射出成形体のばらつきとなって現れるから、誰でも気が着くはずだ。誤った内容が書かれた教科書で頭が満たされた技術者には、頭の中の知識でその感覚を阻害されたりする。頭の中が空っぽだった当方は混練技術者との議論の内容のおかしさにすぐ反応できた。

 

 

カテゴリー : 高分子

pagetop

2018.09/25 PPSというポリマー

ポリフェニレンサルファイド(PPS)は、本格的な普及が始まった材料でkg単価1500円という価格も見えてきた。10年前には2000円以上で販売されていたのでこれは驚くべきことである。

 

PPSにはリニアタイプと架橋タイプがあり、最初に登場したのはシェブロンフィリップスの開発した架橋タイプのPPSである。ただし架橋タイプのPPSは分子量が低いのでガラス繊維などと複合化して射出成形体に用いられた。

 

安価なガラス繊維と複合化するので、kg単価は希釈効果で700円前後まで下がった射出成型用PPSというものも存在する。

 

架橋タイプは射出成型用以外に用いることができないので押出成形も可能なリニアタイプと呼ばれる高分子量のPPSも遅れて開発された。2005年に押出成形で中間転写ベルトを開発しているが、この時用いたのはリニアタイプのPPSである。

 

メーカーの技術者からも架橋タイプでは押出成形や繊維を作ることはできない、と言われたのでそれを信じていたが、驚くべきことに当方が開発した二つの技術を合わせると架橋タイプのPPSでも繊維化ができたのだ。

 

架橋タイプのPPSは分子量が低いために繊維化が難しいはずだが、どうもコンパウンディングの段階で**になっているようだ。**にご興味のある方は問い合わせていただきたいが、この現象以外に驚くべきことがいくつかこの7年間にPPSという材料で見つかった。

 

面白いのは国内のあるPPSメーカーで実験したところそれがうまく再現できないのだ。しかし、当方が指導している中国のローカルメーカではそれが生産レベルにあり、あるローカル射出成型メーカーの商品に採用されている。

 

日本のメーカーでうまくいっていない理由は、当方の指導を受けていないためだが、それだけではない。自分たちの技術を過信している可能性がある。

 

PPSに限らず他の樹脂でも教科書に書かれていない現象が見つかっており、技術に対する認識の違いが材料の新たな現象発見の力になっているようにも見える。技術の過信は禁物である。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

pagetop

2018.09/23 概念の重要性

イノベーションを起こそうとするときに、どのような概念で目の前の事象を整理するのかは重要である。すなわち新しい概念を考案すれば、それにより対峙している事象を変革できる新たなアイデアが自然とにじみ出てくる。

 

例えば、SiCをセラミックスという概念ではなく、高分子という概念で捉えれば、自然にシリコーンと有機高分子とのコポリマーというアイデアが生まれ、フェノール樹脂とエチルシリケートのリアクティブブレンド技術でイノベーションを起こしたくなる。

 

この概念を展開した作文をゴム会社で募集された創立50周年記念論文に投稿したところ佳作にも選ばれなかった(注)。面白いのは審査員は当時タレント教授として著名だったW大学の教授だが、この教授に全く受けなかったことになる。

 

もっともこのタレント教授は、豚と牛を掛け合わせてトンギューなる生物を生み出し、豚の繁殖力と牛肉の旨味を持った肉の生産事業を一席に選ぶような眼力を持った人物だった(この教授の選んだ一席を一席として発表したゴム会社もすごい。)。ベタコピーの学位論文を通過させたり、その修正版を落第させたりする教授もW大学だからW大学とはそのような大学かもしれない。

 

これは歴史におけるアカデミアの活動結果からアカデミアなるものがどのようなものなのか、という概念が具現化されてきた様子かもしれないが、日本の大学が世界ランク上位からどんどん落ちてきている事象では、日本の大学について概念を変えない限りその歯止めがかからないような気がする。

 

概念はコンセプトと英訳されたりするが、「生み出す」とか「妊娠」から派生した単語であるとの説明がカッパブックス「英単語の語源」に書かれている。この説明によれば、イノベーションで新たなものを生み出すために概念が重要なのは昔から分かっていたのかもしれない。

 

(注)佳作にも選ばれなかったが、この時論文に書いたエチルシリケートとフェノール樹脂から合成されたSiCの事業は、現在も続いている。夢は一時認められなくてもあきらめないことである。審査の対象レベルより評価者の能力が低い場合もある、ぐらいに考えて機会を探し再チャレンジすればよい。反省は大切だが、反省により意欲を失わないようにしなければいけない。腐るのは論外である。

カテゴリー : 一般 高分子

pagetop

2018.09/19 高分子の分類

高分子の分類について学生時代にはその重合様式で分類する方法が授業で採用されていた。すなわち高分子には合成高分子と天然高分子があり、合成高分子はこのような反応でできる結合で分類される、という説明がなされていた。

 

大学院に進学し、ホライデー著「Ionic  Polymer」を読んで衝撃を受けた。高分子は有機高分子と合成無機高分子、無機網目化合物に分かれるとしたその分類方法は大雑把であるが、主鎖を構成する原子の特徴に着目した分類であり、高分子の特徴をよく表している。

 

この分類を発展させれば、球晶を形成する高分子と形成しない高分子がその下位のカテゴリーになるのかもしれないが、残念ながら1970年代は、まだそこまで高分子結晶について学問が進んでいなかった。

 

同様の時期に、「工業化学」という雑誌にガラス転移点(Tg)に着目した高分子の分類が載っていた。すなわち、室温以下のTgを示すものがゴムであり、室温以上のTgを示す高分子は樹脂である、という分類である。

 

この分類に従うとポリエチレンはゴムに分類されるが、シリコーンレジンの大半もゴムとなる。分類上はゴムなのに樹脂と呼ばれるのは何故だ、という突っ込みたくなる分類であるが、実務上はわかりやすい分類である。

 

ちなみにこの分類で、TPEはゴムと樹脂のコポリマーと説明され、両者を含む形で中間を占めていた。ご存知のようにTPEは当時すでに樹脂補強ゴムやPUが登場しており、ゴムと樹脂のコポリマーだけではなかった。

 

だから、ここまで説明されると、この分類もボロが出てくる。ホライデーがざっくりと3分類でやめた事情とはいささか異なり、この分類を考えた人は高分子を理解しているのか、という疑問を持ちたくなる。

 

2000年ごろ、高分子精密制御プロジェクトという国研が推進されたときに、スケールから整理した高分子の分類が示されていた。やや複雑であったが、高分子をうまく分類整理できていた。

カテゴリー : 一般 高分子

pagetop

2018.09/18 材料科学の教科書

セラミックスについて1980年代の代表的な教科書はキンガリーの著書だった。ただしその内容は金属材料の世界から借りてきたような説明であり、例えばSiCのような共有結合性の高い化合物について研究を進めるときに、この教科書は参考にならなかった。

 

1980年代のセラミックスフィーバーでは、このキンガリーの教科書に書かれていた金属科学の借り物で展開された焼結理論が炎上した。自由エネルギーを基にした新たな考え方が登場したのだ。

 

写真会社へ転職し、高分子材料の研究に注力したのでこの議論がその後どうなったのかフォローしていないが、書店で教科書を眺めてみると旧態依然なので、フォロワー数が少なく立ち消えになったのかもしれない。

 

ポリマーアロイに関するフローリー・ハギンズ理論は自由エネルギーを用いた杜撰な説明でありながらΧというパラメーターを導入し、高分子の研究者に支持されるに至った経緯とは、セラミック材料科学は異なる展開となった。

 

ところで、面白いのは高分子の教科書で、今でもその内容の一部には、無機材料科学の成果から借りてきたような記述がなされていることだ。20世紀の終わりごろ、「高分子の緩和現象」という名著が出て、レオロジーのダッシュポットとバネのモデルに別れを告げたが、結晶の速度論については未だに旧態依然としたアブラミ一本やりである。

 

当方のお腹の周りについたアブラミもなかなか取れないが、高分子の結晶についてその速度論的扱いも見直した方がよいのではと思っている。例えば当方の学位論文からの引用で恐縮するが、SiCの結晶成長についてアブラミ式で整理をすれば80%以上成長が進んだ結晶についてもよく成立しているが、高分子ではとてもそこまで一致したデータを見たことが無い。

 

高分子の種類によりアブラミ式がうまく当てはまるわりあいが異なるが、恐らくアブラミ式がうまく合うのは、核生成からある大きさのラメラまでの間だろう。そこから先は不明である。これは技術者であれば心眼で眺めることにより問題解決に応用できるが、科学者は真理を見つけなければいけない問題だ。高分子の種類によりラメラ晶の大きさが異なる。また、添加剤の影響もうける。

カテゴリー : 一般 高分子

pagetop

2018.09/17 ガラス転移点

高分子材料が非晶質状態の時にすべてガラス転移点を持つ、と教科書にさらりと何気なく書いてある。有機材料から無機材料まですべての材料について研究経験があり、一時はそのすべての学会で活動経験もある立場から見ると、この一行の説明には不満である。

 

「驚くべきことだが、高分子材料が非晶質状態のときには必ずガラス転移点を示す」ぐらいに読者に注目させるような書き方をしてほしいものだ。

 

何故なら、高分子のガラス転移点とは、すべての高分子が紐状につながった高分子ゆえに示す性質であり、すべての高分子材料が非晶質状態のときにガラス転移点を持っている事実は、多くの物質の中で高分子特有の性質だからだ。

 

そもそもガラスの定義が教科書に書かれていないのも問題である。アカデミアの先生にもガラスの定義を御存じない理系の研究者がいたのでびっくりした経験がある。今そのような先生に面会したら「ボーっと生きてんじゃねえよ」と言ってしまうかも。

 

このガラス転移点とは、物質が冷却されて溶融状態から固体(結晶)状態に転移する前に、液体状態としての運動性を失う温度である。窓ガラスが液体である、と説明されたりするのは、本来は液体なのにガラス転移点以下の室温で液体としての運動性が失われた状態だからだ。

 

子供時代に古くなった窓ガラスが失透する現象を不思議に思い、百科事典を調べたら結晶化が起きていると書かれていた。しかし、そこにはガラス転移点の説明は無かったが、ガラスのガラス転移点について研究されていた時代であったことを大学に入ってから知った。

 

 

カテゴリー : 連載 電気/電子材料 高分子

pagetop

2018.09/16 技術開発における温故知新(2)

新しい技術を開発しようとするときに科学の進歩に目を向けることは重要である。一方で過去の技術を現代の科学の視点で見直すことも大切だが、あまり行われていないように思う。

 

その理由は簡単である。科学の新しい成果をそのまま技術へ展開したほうが進歩性を主張しやすいからである。またそれが新しい技術であれば新規性も出てきて発明となり、特許を容易に出願できる。

 

ところが過去の技術を見直してそこから進歩性のある技術を生み出せと言われてもその方法論から考えなくてはならない。また過去の技術は公開されているので新規性を主張したいときにも様々な工夫が必要になる。

 

すなわち、技術開発において温故知新戦略は難易度が高い。難易度が高い戦略ではあるけれど、一度その戦略立案の方法を身に着けると商品開発ではアジャイル開発も可能にする有益な方法であることに気づく。

 

この方法は、弊社の研究開発必勝法でも紹介しているので問い合わせていただきたいが、材料科学の進歩が停滞し始めた時代だからこそ温故知新戦略に注目していただきたい。

 

今高分子物理の研究が重要テーマになっているが、結晶が中心となる無機材料科学のように簡単に高分子物性論の体系が再編されるとは思われない。

カテゴリー : 一般 高分子

pagetop