22日のセミナーは好評だったようで、参加者からメールをいくつか頂いた。参加人数も多かったが、翌日の反響の大きさも久しぶりだ。
ブリードアウトについては多くの方が困っているのだろう。これだけ科学技術が進歩していても簡単な現象で製品の品質が損なわれる。1980年代に科学では現象解明ができていてもその対策が現場に展開されていないためだが、その原因は技術者にある。
当方のセミナーでは、科学よりも現場の技術に力点を置いて説明している。だからといって科学を無視しているわけではない。先日でもブリードアウトの現象について科学的に解明している論文を回覧している。
この論文については、参加者から問い合わせがあれば無償サービスでpdfファイルとして送っているが、昨日のセミナーの参加者以外でも何らかの形式でサービスしたいと考えている。
この論文を読んで理解を深めたとしても当方のセミナーの実戦的な内容の価値に影響がないからだが、世の中には科学で現象を解明できてもノウハウを知らないと製品技術としてそれを生かせない事例が多い。
このブリードアウトという現象については、科学的には、高分子の溶解度と拡散速度で現象を説明することになるのだが、この説明によればブリードアウトは必ず起きる現象、という解しか得られない。さあ、どうする?
(注)中国で指導してきた経験からカオス混合でもブリードアウトが改善されることが分かった。すなわちブリードアウトの原因については、配合やコンパウンディングの段階まで考えなければいけない。
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昨日ブリードアウトの講演会で、ブリードアウトに関する最近の研究のベースになっている論文を回覧したところ、講師のところまで戻ってこなかった。参加者が多かったのでどなたか回覧途中で持ち帰られたようだが、全員に回覧されなかったのは残念である。
もし、参加者でこの回覧物を見ることができなかった人は弊社へ問い合わせていただきたい。不心得な参加者のために不利にならないよう対応させていただきます。
さて、昨日の講演会でも説明したが、ブリードアウトという現象は、高分子中における物質の溶解度と拡散速度から説明できる。
科学の視点でこれは正しいが、実務レベルではこの説明に満足していると痛い目にあうことを実例を交えながら昨日説明した。すなわち市場で起きるブリードアウトという現象は科学論文に書かれているようなきれいな話ではないのだ。
例えば、低分子の液体への溶解度は温度が上がれば溶解度は一般に上がるが、高分子溶液では温度上昇とともに溶解度が下がる現象を通常経験する。射出成型で金型が汚れるのは、高温度で溶解度が下がり添加剤がブリードアウトしやすくなるからだ。
また、混練プロセスもブリードアウト現象に影響を与える。すなわち、同じ配合処方でも、混練プロセスにばらつきがあれば、ブリードアウトしやすいコンパウンドができる。
フィーダーに異常が無くてもブリードアウトしやすいロットができる可能性があり、その対策も昨日示した。このような問題でここまで説明しているセミナーは他に例がないと思う。当方の中国における指導経験の成果である。
担当した時間内に用意した資料を説明できない、と思ったので、帯電防止剤の説明を数枚飛ばして説明したら20分ほど逆に時間が余ってしまった。
休憩時間も飛ばして質問時間を余らせるようにしたのだが、少し時間配分を間違えた。長時間のセミナーではたまにこのようなミスをするが、そのようなときには飛ばしたところに戻り説明をすることにしている。しかし昨日は帯に短し、という時間だった。
ところで10分余らせるところを20分余ったので多数の質問が来るかと思っていたら3件ほどでがっかりした。この手のセミナーでどのような質問が来るのかは予想されたので参考資料を多数用意していたのだが、当てが外れた。
セミナー終了後講師控室で休憩していたら2件ほど質問が来た。ブリードアウトの問題は他の企業の方の前では質問しにくい問題のようだ。今朝すでに一件昨日の参加者からメールが届いていた。質問時間を考慮して余裕を作るために帯電防止剤の事例を飛ばしたことを反省している。
次回の機会では、今回の聴講者が質問をしにくいテーマである、という反省をもとに少し構成を変えて講演を行おうと考えている。単純なブリードアウト問題は少なくなり、少し技術に関わる問題へと変化してきたようだ。
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ポリエチルシリケートとフェノール樹脂を反応させて高純度SiCを合成するパイロッットプラントの開発では、化学工学の専門家は一人も携わらなかった。
外部の設備メーカーと協力しながら、異形プッシャー炉を開発し、これを特許出願している。この時、それぞれの会社の技術者は、電気工学と合成化学、無機材料化学、機械工学出身で、化学工学について学んだ人は一人もいなかった。
異形プッシャー炉のアイデアを提案したのは当方で、図面を書いたのは機械工学の専門家である。電気工学の専門家は、自動化のために必要なセンサー類の配置など当方と打ち合わせながら、その図面に書き入れていった。
このとき当方は、シーケンスについて学び、今でも電気回路図を読み取ることが可能である。自宅の電気配線など街の電気屋よりも読み取るのは早い。
豊川へ単身赴任しカオス混合プロセスのプラントをたった3ケ月で立ち上げているが、これはヤミで根津の中小企業と3ケ月中古機械を分解しながら勉強した成果である。
その中小企業も二軸混練機の自動化プロセスは初めての経験で土日喧々諤々の議論をしながら図面を書いていった。図面については当方が手書きで書いたものを機械工学が専門の電気担当が器用にシーケンスまでも書き入れていた。
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学生時代に化学工学の授業を受けたが、今思い出すとあの授業は何だったのか、という記憶である。講師の批判をしているのではない。授業の中身である。プラント工学と呼んでもよいような授業だった。
現在の応用化学関係のカリキュラムからは化学工学は無くなったという。化学工学科も無くなったようだ。この話を聞いたときに、そうだろうと納得した。
化学工学では、化学反応も少し扱っていた。この化学反応を扱っていることで化学工学の体裁が取れていたのかもしれない。とにかく授業を受けていて、やがてこの学問は無くなるという予感がしていた。
そもそも分子やその集合体、あるいは一般的には材料を使用できるようにするには、必ず何らかのプロセシングが必要になる。
その時、プロセシングを考えるのは、プロセシングの専門家、ということで化学工学分野が考え出されたのだろう。
ところが現実には、化学工学の専門家が活躍できたのは狭い分野だけで、多くのプロセシングは、応用化学や合成化学、その他の専攻の専門家により開発されているのではないか。
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高純度SiCの発明では、その事業シナリオを述べた会社創立50周年記念論文が佳作にも選ばれなかったり、「あなたがやりたい新事業は何ですか」という問題に解答として書いた昇進試験に落ちたり、住友金属工業とのJVを推進していてデータFDを壊されたりと散々な目にあっているが、この事業は今でもゴム会社で続いている。
事業企画からその心臓となる技術開発、さらには事業立ち上げまで行った人物が全く報われていない、というのは日本の技術開発シーンでは珍しくないそうだ。しかし、そのように慰められると将来の日本に不安を感じてしまう。
技術立国日本と言われた裏側の実態はお粗末だったから失われた20年や品質データ改ざんなどのお粗末な事件も起きてしまうと説明されても、寂しくなる。やはり、健全な社会であることを信じ明るい未来を描く努力をしなければいけない。
高純度SiC合成実験で還元炉の暴走があったのは、幸運だった。未だに原因はわかっていないが、暴走の時の温度パターンが最適条件だった、ということがその後の研究でわかり、さらにびっくりした。誠実真摯に努力しなければいけない理由がここにあると実感した。
神や仏の存在をあまり信じていないが、人生においてひどい目にあったとしても、それに相当する神がかり的な幸運も訪ずれることを信じるようになった。その結果不幸という事態に陥っても次の幸福を信じ努力できる考え方を身に着けた。
もっとも子供の頃からどちらかと言えば楽観主義で、親からはもう少し慎重な人生を諭されたが、半分青いサラリーマン人生だった。ただしフェノール樹脂とエチルシリケートのリアクティブブレンドの発明に関しては、この親の教えが生きた。
リアクティブブレンドについては、ポリウレタンの合成技術として学び工場試作なども経験し技術の特徴を熟知していた。しかし、50周年記念論文で落ちたことやその他の状況からフェノール樹脂とエチルシリケートの反応に関する研究を急いで進めるのではなくヤミ研で機会をうかがいながら進める選択をしている。
ところが昇進試験に落ちたことで無機材研の先生の心を動かし、この研究が表に出ることになったが、ひとたび社会や組織で受け入れられた後の展開は加速度的だった。
SiC化の反応速度論的解析も2000℃まで昇温可能な熱重量天秤が無いとわかると、2000万円を投資してすぐに開発し、それで実験を行っている。(この時のデータをアカデミアの先生に勝手に論文にされたのはその5年後である。)
多くの研究者から発明として優れていると褒められてもフェノール樹脂とエチルシリケートの合成反応に関しては、シクラメンの香りの合成に成功したときほどの大きな感動は無かった。あまりにも長期にわたり気を使いながら研究を進めたからである。
フェノール樹脂とポリエチルシリケートのコポリマーを高純度SiC前駆体に用いる夢をあきらめかけたこともあったが、シクラメンの香りを思い出しながら根気よくそのチャンスがおとづれるのを待った。
研究者として駆け出しのころの初めての成功体験は重要で、このような研究の喜びを学生に指導できる先生という職業は神にも匹敵する、と思っている。
「世界の研究者と競争している自覚を持て。今着想したアイデアを他の人も気がついたかもしれない。すぐに実験だ。」これはその指導をされた伊藤先生の言葉である。
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表題の特許は、ITOが登場した時に小西六工業から出願された酸化スズゾルを写真フィルムの帯電防止層に用いた発明に関する特許である。
面白いのは、この特許1件を出願後小西六工業からは関係する特許が10年以上出願されない状態が続く。その期間に、ライバル会社富士フィルムやイースタマンコダックから金属酸化物系透明導電材料を用いた発明が怒涛の如く出願される。
富士フィルムの特許は、表題の特許は非晶質だから導電性が悪いので結晶性の酸化スズこそフィルムの帯電防止層に適している、という発明がしばらく出願されるが、ある時から一切その言葉だけでなく表題の特許までも先行技術文献として紹介されなくなる。
イースタマンコダックは、酸化スズゾルよりも五酸化バナジウムのほうが繊維状であり導電性もよいので帯電防止剤として優れている、という論調の特許が出されているが、こちらもある時から表題の特許が特許文献から姿を消す。
1992年に透明金属酸化物に関する発明を調査したときには表題の特許はその痕跡すら調査で集めた文献に見つからなかった。
表題の特許を見つけたきっかけは、特許の証拠探しである。酸化スズゾルを用いた帯電防止層を発明したのだが、ライバル特許の山の前で立ち往生したのだ。
実用化するためには、証拠を探し、その技術が他社の特許を侵害しない安全圏にあることを証明しなければならない。古いライバル特許をさかのぼること30年分調査することになった。
その古い特許1件にたまたま表題の特許の紹介がなされていた。虎ノ門まで出向き、見つけたときには、出願人を見てびっくりした。
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溶媒に溶質が分散している状態をコロイドという。コロイドで流動性をもっているとゾルと呼ばれ、流動性が無くなればゲルと呼ばれている。ただし、これらの用語は、科学的に厳密に定義された言葉ではないことに注意する必要がある。
ところで溶媒が水であるシリカゾルは用途が多い。このシリカゾルのシリカ粒子表面をラテックスで覆った材料がコアシェルラテックスと呼ばれる20世紀末の新素材であった。
水に分散した状態のシリカ表面で重合反応を行い、うまくシリカをラテックスで覆いつくす技術は、初めて見たときにはものすごい技術だと思った。
しかし、このシリカ粒子に一本の高分子を巻き付けてミセルとして用い、ラテックスを重合する技術を開発した時に、こちらの方がもっと素晴らしい、と自画自賛した。
シリカ粒子に一本の高分子をうまく巻き付けるのは大変である。シリカ粒子をピンセットでつまめるわけでもなく、また高分子をひものように扱えるわけでもないのである。
ただ条件さえあえばこの不思議な現象はいとも簡単に起きる。コアシェルラテックスは科学的に考察を進めれば誰でも開発できるが、シリカ粒子に一本の高分子を巻き付ける技術は、それを発見できなければ意図的に狙ってできるものでもない、とある日気が付いた。
コアシェルラテックスを合成するために必要な、シリカ粒子に高分子を吸着させる技術は、1995年頃に日本化学会で発表されている。また、表面界面のシンポジウムでも取り上げられ、そのレオロジー的挙動が議論されている。この講演を聞き、きれいに巻き付ける技術が簡単ではないことに気が付いた。
粒子に高分子がただ吸着した状態と、粒子1個にきれいに高分子が巻き付いた状態では、レオロジー挙動が異なる。また、前者はゲル化する現象も起きたりするが、後者は安定なコロイド溶液となっている。
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以前この欄でニコンF100というフィルムカメラの裏ブタフックが、防湿庫で保管していただけでクリープ破壊して壊れカメラが使用不能になった話を紹介している。これは材料メーカーの責任ではなく、カメラメーカーの品質管理技術がお粗末なためにユーザーが泣かなければいけない故障である。
詳細は省略するが、裏蓋のフックについてどのように仕様を決めたのか、という問題と、裏蓋が開く機能に重要なバネ強度をどのように品質管理していたのかという二つの問題が関わっている。いずれもF100設計段階におけるミスである。
材料メーカーの責任は存在しないはずだが、材料メーカーの責任を問われるケースも出てくる。すなわち、フックの引張強度やその寿命を材料スペックとして材料メーカーが採用していた場合である。
この点については有料でご説明すべき内容であるが、少し書くと、強度にかかわる寿命については成形体に潜んでいる欠陥の影響を強く受ける。成形体を製造直後に十分な強度が出ていたとしても、時間の経過とともにこの欠陥が成長するような条件が揃うと欠陥の成長速度が成形体の寿命を支配する。
成形体に潜んでいる欠陥の初期のサイズやその個数の分布について知ることやましてや品質管理するには高度な技術が要求される。多くはこれらと相関しそうな間接的なデータで品質管理する以外に経済的な方法は無い。
ゴム強度の寿命が欠陥の影響を受けることは1960年代に論文発表されている。ゴム会社ではこれが伝承されているが、多くの企業では未だに知らない人が多い。また高分子学会の発表にもこの事実を全く知らずに研究報告をされている先生も存在する。
情報として教えてあげたところ、物性の専門家ではない、と言って叱られた(照れ隠し?開き直り?)時にはびっくりした。ゴム協会誌に掲載されていた情報なので50年も経っていればアカデミアでは、高分子の寿命を研究として扱う限り常識として知っていなければいけない。
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材料の品質データねつ造があっても、その材料を採用している製品には影響が無い、というニュースを聞いて奇妙に思った人は多いのではないか。また製品品質に影響のない材料の品質をなぜ管理しなければいけないかという疑問も出てくると思う。昨日はこのような事情になる原因を少し説明したが、具体的な高分子の劣化あるいは製品寿命について本日は書いてみる。
高分子材料が構造材料として用いられたときの寿命とは、例えば引張強度や曲強度、圧縮強度などの製品品質がそれら仕様として決められた強度の値を下回ったときである。このように具体的に分かっていてもその寿命を材料メーカーが品質保証するとなると難しい問題がある。
原因は、この寿命が高分子材料の品質だけで決まらず、材料が形になり製品に組み立てられた状態、ざっくり言えば成形技術と製品設計技術の影響を受ける。極端な例として、材料の品質など無関係で、例えばポリスチレンならばどのような品質のポリスチレンを用いても製品寿命を長くできる成形技術や製品設計技術というものが存在する。
例えば製品のコストダウンを図る場合には、どこのメーカーのポリスチレンでも使えるように製品組み立てメーカーは、このような技術を開発する。具体的には、各メーカーから販売されているポリスチレンの種類を誤差として見立ててタグチメソッド(TM)を行えばそれが可能となる。
このTM実験で使用する制御因子や調整因子については製品組み立てメーカーのノウハウであり、材料メーカーは知ることができない。仮に教えられても、基本機能の評価技術を材料メーカーは持っていないのでTM実験を同じように行うことができない。
製品組み立てメーカーは、TM実験によりどのようなポリスチレンを用いても可能であるにもかかわらず、一応実験に用いたポリスチレンのスペックを決めて材料メーカーへ発注する。そこに材料の寿命スペックを入れる場合もある。これを材料スペックとして決められると材料メーカーは、捏造の機会を抱え込むことになる。
材料の寿命を材料メーカーが品質管理する技術は、製品組み立てメーカーが同様に管理する技術よりも数段難しくなる。仮に寿命評価法をすり合わせたとしても、さらに成形技術を完璧に同等としても、製品の調整因子まで明らかにされなければ、その難易度は同等にならない。
材料メーカーのリスク管理の視点では製品寿命に関わるスペックを受け入れてはいけない。この点について質問のある方は問い合わせていただきたい。製品寿命について材料スペックをどのように決めるのかは難しい問題ではなく、***である。
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昨年暮れに材料メーカーの品質管理データねつ造があいつぎ、社長の謝罪会見が行われた。興味深かったのはトヨタ自動車はじめ川下のお客はすぐに製品品質について異常なし宣言をだしたことだ。これにより川上メーカーの火の粉をよけたわけだが、違和感を感じた方が多かったのではないか。
品質管理基準を満たさない商品を使った製品が安全であると宣言しているのだ。ニュースでは「特採」の存在まで丁寧に説明し、川上メーカーが不良品を川下メーカーに納めたにもかかわらず、川下で問題が起きないからくりを「わざわざ」説明していた。材料メーカーの当時の不祥事が大きな社会問題にならないような配慮だが、品質管理の考え方から見れば、実はこの説明にだれかかみついてもいい。
社会不安をあおることにもなりかねないのでこれ以上はニュースの説明に言及しない。ただし、この事件の流れについては「さすがトヨタ自動車」という正しいコメントが、建設的であり、また「組み立てメーカー」と「材料メーカー」の関係の問題及びこの関係において「材料メーカー技術者」の涙ぐましい努力と彼たちの築いてきた材料技術の裏側を浮き彫りにするので少し書いてみたい。
ニュースでは特採の実態について詳しく説明していない。これは説明しにくい話だからである。ニュースでは短時間の説明で素人が納得できるような内容だったので、おそらく品質管理業務に精通したどなたかがニュース原稿を作られたのだろう。
ニュースでは語られなかった重要な本音を述べると、組み立てメーカーの材料に関する品質管理手法や材料の品質が関わる部品の設計手法は外部に知られたくない重要なノウハウであり、これは科学の不完全性を示す事例である。換言すれば、これだけ科学が進歩したと言われているにもかかわらず、科学で完璧に説明できない現象が多いから、川上メーカーが知ろうとしても知ることができない川下メーカーのノウハウが生まれるのだ。
もし、材料物性と製品品質の関係を説明できる完璧な形式知が存在したならば、トヨタ自動車の宣言は大嘘かあるいは不誠実な発言ととなる。しかし材料品質と製品品質の関係を既存の形式知を用いて未だに完璧に説明できないので、川下メーカーは品質保証された材料が納入されても独自の品質基準でその材料で作られた部品の品質管理を行わなければいけないという実態がそこにある。
このような「完璧な形式知が存在しない」ことを誰もが暗黙の裡に知っており、トヨタ自動車の品質管理技術が世界一とよべるような信頼性が確立されているのでトヨタ自動車の鶴の一声で年末のねつ造問題は沈静化したのだ。
製品を開発する過程で「完璧な形式知が存在しない」ため川上メーカーと川下メーカーはお互いの技術内容を開示しながら「すり合わせ」で技術を創り上げてゆく。この時川上メーカーには正直に材料物性データを提出することが求められるが、川下メーカーからはその物性データがどのように製品品質と関わっているのかについてノウハウであることを理由に詳細な説明がなされない。せいぜい物性データについて〇×△の記号がつけられた一覧表が渡されるだけだ。
材料メーカーの優秀な技術者は、お客様である川下メーカーの〇×△データを唯一の手掛かりとして材料の品質管理基準を創り上げてゆく。その過程は、形式知を使い論理的に進めることができないという理由で科学の研究よりも難しい作業となる。材料が製品で機能を発揮している状態を心眼で見る必要があるからだ。
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