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2018.02/07 高純度SiC前駆体の発明が生まれたとき(1)

高純度SiCの前駆体は、フェノール樹脂とポリエチルシリケートとのポリマーアロイである。このポリマーアロイは、有名なフローリー・ハギンズ理論に反するブレンド物だ。すなわちこの理論によれば絶対に混ざり合わない組み合わせである。

 

ゆえに高分子の形式知を重視する優秀な科学者は、絶対に思いつかないアイデアであり、もしそのアイデアが、成功したりしたら、嫉妬にとどまらず恨みまで買いそうなキワモノ技術となる。実際にこの発明やその他形式知にとらわれないアイデアの成功でFDを同僚の研究者に壊されている。

 

この発明の原点は、フェノール樹脂発泡体の難燃化技術開発である。フェノール樹脂発泡体は、特定の反応条件で合成すれば、それ自身で高い難燃性を有する材料である。しかし、製造技術が無い場合には、LOIが21前後の発泡体しか得られず、かろうじて自己消火性を示す材料しか得られない。

 

開発スタート時に、無機物質とのハイブリッドにすれば、ハイブリッドの製造条件を満たす限り高い防火性を兼ね添えた発泡断熱材になるのではないかと考えた。ただ、これはひらめきではなくて、当方が無機高分子研究会の運営委員を当時担当していたので、その研究会の発表ネタとして考えた企画である。

 

詳細は省略するが、この時は、可能性のありそうな無機高分子を手当たり次第でフェノール樹脂と混ぜてみて、フェノール樹脂と無機高分子の両者の良溶媒存在下で混合すると均一に混ざることを見出した。ただし、これは両者のSP値が一致している高分子を混ぜているのでフローリー・ハギンズの理論通りの結果である。

 

ただ、得られたポリマーアロイは高い防火性と力学強度の優れた材料となった。しかし、製造プロセスは多段階となり、さらにジオキサンを用いていたので、実用化できるプロセスではなかった。その結果、無機高分子研究会で発表するための研究となった。

 

実用化できない材料ではあったが、水ガラス抽出物とフェノール樹脂とのポリマーアロイはケイ酸とフェノール樹脂が分子レベルで混合された魅力的な構造をしていた。だからこれを何とか経済的なプロセスで合成できないか、と考えるようになった。「君の名は」と問いたいが、初対面ではなかなか言い出せない、そんな気持ちと通じる、毎日が悶々とした欲求不満状態だ。

 

ポリエチルシリケートとフェノール樹脂との組み合わせが一つの正解だ、とわかっていたが、形式知であるフローリー・ハギンズ理論が邪魔をして、第一線を越えられないのだ。とりあえず形式知を総動員し、無機高分子研究会発表データを得るために水ガラスからケイ酸を抽出する実験を繰り返してみた。

 

抽出物を安定化する有機溶剤とともにフェノール樹脂と混合し、有機溶剤を真空蒸留で取り除き、同時に発泡体に仕上げる技術は、実用化は難しいが、面白い材料を生み出した。しかし、実験をやりながら、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの開発で始末書を書かされたことを思い出した。欲求不満の上に、これをテーマ提案した時に受けるパワーハラスメントが頭に浮かんだ。

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2018.02/05 高分子の難燃化技術(10)

高分子材料の中には、耐熱性が高く難燃性の優れた高分子が存在する。例えばPPSは難燃剤を添加しなくても空気中では自己消火性を示す。ゆえに電子機器に普及している。

 

耐熱性が高ければ難燃性も優れているかというとそうではない。耐熱性が優れていても可燃性の高分子が存在し、さらに基本的な骨格(一次構造)は難燃性がありそうに見えても製造プロセスにより高次構造が変化すると一気に燃えやすくなる高分子も存在する。

 

例えばフェノール樹脂は、硬化触媒の種類や製造条件で、LOIは30以上から19前後まで変化するから要注意の高分子材料だ。

 

40年近く前、初めてレゾール型フェノール樹脂発泡体を合成してびっくりした。ポリウレタン並みによく燃えたのだ。しかし、熱分析すると窒素中の耐熱性は高い。空気中の耐熱性はポリウレタン並みである。

 

自主研究でいろいろと調べ、ある結論にいたり、フェノール樹脂とポリエチルシリケートの相溶した高分子を発明したのだが、これは高純度SiCの前駆体として発展した。

 

小生が講師をする高分子の難燃技術の講演会では、これまでこの周辺技術を話してこなかったが、次回の講演会ではフェノール樹脂の難燃性について経験知としてお話する。論文にも公開されていない話である。

 

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2月13日に高分子難燃化技術に関する講演会(弊社へお申し込みの場合には参加費30,000円)を行います。詳細は弊社へお問い合わせください。経験知伝承が第一の目的ですが、形式知の観点で整理したデータも使用します。形式知のデータは、30年以上前高分子学会や無機高分子研究会、高分子の崩壊と安定化研究会で発表した内容です。経験知につきましては、中国ローカル企業を指導しながらその再現性を確認した結果で、樹脂の混練技術も講演会の中で説明致します。高分子の知識が無い技術者でもご理解いただけるよう、テキストには初心者用の説明も付録として添付します。形式知よりも経験知の進歩が著しい分野です。

カテゴリー : 高分子

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2018.02/01 高分子の難燃化技術(9)

高分子に難燃剤を添加するときに問題となるのは、その分散状態だ。直感的に考えて理解できるように難燃剤の分散が不均一であると難燃剤の機能発揮の効率が悪くなる。

 

具体例を示すとポリエーテル系軟質ポリウレタンでは、塩ビと三酸化アンチモン微粉をポリエーテルポリオールに分散させて使用する。この時、ポリエーテルポリオールにうまく分散できたとしても、工程で沈殿する問題がある。

 

沈殿を防止するためにポリエーテル系ポリオールのタンクの中では、ノウハウが必要な攪拌が行われている。この攪拌がうまくゆかないと、所定の処方で自己消火性の発泡体が得られない。

 

分散がどの程度影響するのか調べたことがある。分散状態の数値化が難しいので、ポリエーテルポリオールに塩ビと三酸化アンチモンを添加して攪拌時間を変えた実験を行い添加量の影響を調べた。

 

およそ5wt%程度の違いがあった。すなわち分散時間が長いほうが添加量が少なくてポリウレタンを難燃化できたのだ。同様に、ホスファゼンと呼ばれる化合物に反応性の基を導入して反応型難燃剤として用いたときと添加型で用いたときと調べてみた。

 

こちらは5-10wt%程度の差が現れた。反応型のホスファゼンのほうが少ない添加量でポリウレタンを難燃化でき、難燃性能のばらつきも小さかった。

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2018.01/22 高分子の難燃化技術(9)

高分子にはポリフェニレンサルファイドのように空気中で燃えにくい材料もあるが、多くの高分子は空気中で燃える。

 

高分子の燃えやすさを材料の燃焼雰囲気における酸素濃度で指数化したLOI(極限酸素指数)で表現したときに、この値が21以下の高分子は一度着火すると長時間燃え続け、材料をすべて燃やすまで燃焼が止まらない。

 

炎が小さいと火が消えることもあるので、LOIも含め各種燃焼試験法では着火するときの炎の大きさを規定している。

 

高分子材料を各種燃焼試験に通過できるよう変性する方法には、1.燃焼面を炭化促進する方法と、2.燃焼熱で材料を溶融させ火を消す方法が知られている。

 

2の方針で設計された材料は、LOIが21以下でも、空気中で火が消える。しかし、1の方針の場合には、難燃剤を添加してLOIが21を超えるように材料設計する必要がある。

 

いずれの方針にしても形式知では扱いにくい。例えば、リン原子の含有率とLOIとは、注意深い実験を行うと良好な線形性が観察されるが、実験者によりその傾きが変化したり、ひどいときには線形性が観察されないこともある。

 

これらのばらつきや再現性の問題は、経験知としてプロセシングの問題が大きいと考えている技術者は多い。プロセシングを十分に管理し、データをとると、リンの含有率とLOIとは、LOIが21以下の領域で極めて高い相関を示す。

 

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2018.01/18 高分子の難燃化技術(8)

三酸化アンチモン微粉と塩ビ粉の難燃剤システムには、軟質ポリウレタン発泡体に使用したときに難燃剤が沈殿する問題があった。これ以外に、分散不良であると難燃性能が著しく低下するという扱いにくいシステムだった。

 

当時セラミックスフィーバー直前であり、セラミックス粉体の微粉化技術が進歩していた。三酸化アンチモン超微粉や表面処理した微粉などの売り込みがあり、当方はそれらを評価する担当だった。

 

この時面白い現象を発見した。三酸化アンチモンの粒径に難燃性能が依存し、さらに粒径が小さくなりすぎると難燃性が低下するという現象である。

 

この現象は、粒径が小さくなりすぎると凝集しやすくなり、その凝集体が一度できると工程で採用されているような分散システムで再分散できないからと説明可能だが、超微粉を塩ビ粉と前処理したりして凝集粒を小さくする努力をしてみても、データに影響は無かった。

 

このシステムについては、ハロゲン系化合物についても検討を加えた。フッ化ビニリデンとの組み合わせには難燃効果が現れなかったが、低分子臭化物との組み合わせ効果は塩ビ並み以上の効果が観察された。

 

1990年代に臭素系難燃剤が数多く登場しているが、三酸化アンチモン粉と組み合わせることで高い難燃効果が得られる。また、塩ビ粉のように沈降の問題も無い。

 

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2018.01/14 高分子の難燃化技術(7)

アンチモンとハロゲンの組み合わせ難燃剤システムが最強と武田先生はその研究から結論を出されている。しかし、軟質ポリウレタン発泡体では1980年代に、アンチモンとハロゲンの組み合わせシステムが新技術に置き換わっている。

 

1970年代のゴム会社で販売されていた難燃性軟質ポリウレタン発泡体には、三酸化アンチモン粉と塩ビ粉が難燃剤システムとして使用されていた。この技術はGT社から導入された技術で、ポリオールにそのシステムを分散した材料をGT社から購入していた。

 

このシステムは、当時販売されていた難燃性軟質ポリウレタンの分野で最も優れた技術と評価されていた。ただし、塩ビ粉や三酸化アンチモン微粉を用いていたので、製造プロセスでこれらが沈降する問題を抱えていた。

 

プロセス適性に問題はあったが、商品物性のバランスが良かったので1980年代に新技術が開発されても一部の商品で使われていた。後日説明するが、1980年代に開発された新技術とは、燃焼時にガラスを生成して難燃化する当方の発明した技術である。

 

この技術は、以前この欄で紹介しているが、新技術でありながら、特許出願してすぐに学会発表されている。今から考えると少しもったいない発表のタイミングであったが、このおかげで、当方は高分子の難燃化セミナーにたびたび招待されるようになった。

 

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2018.01/12 高分子の難燃化技術(6)

1980年前後は、高分子の難燃化技術の体系化が進み始めた時代である。しかし、日本のアカデミアの関心は低く、もっぱら欧米の研究成果が目立っていた。日本では高分子学会内の高分子の崩壊と安定化研究会と無機高分子研究会で難燃化研究のテーマが扱われていた。そのため、高分子の難燃化技術の体系化は、各企業の研究開発の努力に依存していた。

 

アカデミアの先生の中にも難燃材料に造詣の深い先生はいらっしゃったが、その先生曰く、アカデミアでは扱いにくい分野という発言をされていた。その先生は、難燃化技術の体系化された著名な書籍を翻訳されていた。

 

その後、名古屋大学武田先生がこの分野の研究を始められ、中部大学に移られても続けていた。そしてハロゲンとアンチモンの組み合わせを越える効率の良い難燃化システムは無い、といった一つの結論を出されている。

 

1980年代のアメリカではUL規格が普及し始め、日本ではLOIがJIS化されたりと評価技術の進展はみられたものの、欧米ほど積極的な科学的研究は武田先生が登場するまで成されていない(建築研究所が建築規格を策定するための研究は成されていて、若かった当方もそのお手伝いに駆り出された)。

 

武田先生の出された結論は、1980年前後に企業の研究者達が経験知(ポリウレタン発泡体では1970年頃に塩ビと三酸化アンチモン粉末を用いたGT処方が注目された)として蓄積しており、研究開発の中心は環境対応のノンハロゲン系難燃化システムへの関心が高まってきた。

 

この環境対応のノンハロゲン系難燃化システムへの関心は、1990年代に環境関連法案が次々と成立していた時期と重なり、環境技術の流れの中で取り上げられることが多いが、実は1980年前後から建築火災における有毒ガスの問題としてクローズアップされていた。このときハロゲン系の難燃剤の問題として刺激性の高い燃焼ガスが発生する問題が指摘されている。

 

また、欧米でもハロゲン系難燃剤の発煙や煤発生量が指摘されており、ノンハロゲン系難燃剤研究の潮流ができあがり、ホスファゼンが新素材として扱われオールコックらの研究が当時注目を集めている。

 

欧米の論文を読んでいて感心したのは、ノンハロゲン系システムを探索するために様々な化合物が難燃剤として検討されたことである。そしてアラパホ社が開発した簡易煙量測定器は、ホスファゼン系難燃剤の優れた性能を容易に証明できる評価装置だった。

 

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カテゴリー : 高分子

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2018.01/08 もちつきとカオス混合

混練技術に「カオス混合」と呼ばれる混練方法がある。いつから知られていた混練方法か知らないが、ゴム会社の新入社員時代に指導社員から教えられた。

 

ちなみに高分子を混練する時に働く力は、剪断流動と伸張流動の二つで発生する。剪断流動は剪断で生じる流動で、伸張流動は引き延ばしたときに発生する流れの力である。

 

一般の混練機の中では、この二つの組み合わせの流動が生じているが、カオス混合とは、急激な伸張流動と折りたたみで発生する剪断流動の組み合わせで混練を進めて行く。

 

すなわちパイ生地や餅つきで発生している力がカオス混合の時に生じている。臼と杵でつく餅がよく伸びるのは、効率のよい混練で練り上げられデンプンの分子がよく絡み合っているからだ。

 

市販の餅で伸びが悪い餅はうまくつかれていないためで、市販の餅を再度「あさイチ」で紹介されていたような処理を行えばよく伸びるようになる。また、うまく混練をする自信があれば、砂糖を入れなくても、「あさイチ」でイケメンゲストが見せてくれたようなレベルの伸びの餅ができる。

 

この餅の例に見られるように高分子のプロセシングにおける「混練技術」は、高分子物性に影響する。高分子結晶の寄与が大きい樹脂ではそれが顕著では無いが、ゴムでは混練技術の差異で耐久性などの品質が大きく影響を受ける。

 

樹脂成形技術者は要求物性が混練プロセスに左右されていても、なかなか混練技術までさかのぼって問題解決にあたらないが、ゴム分野では、問題解決の最初に混練プロセスを疑うのは定石である。

 

餅についてもその伸びに不満があるならば、杵と臼でよくついた餅を購入するとよい。子供のころ餅つきをしていて、食べるのに夢中になっているとよく叱られた。

 

今から思い出すと危険作業を小さな子供に親が平気でやらせた時代だったのだ。年末の餅つきは、今なら児童虐待と言われるような風景だったかもしれない。

 

 

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2018.01/07 「あさイチ」の「餅」続き

本日も4日の「あさイチ」の「よく伸びる餅」の話題で申し訳ない。この餅の話題で、2000年頃元東工大中浜先生がリーダーで推進された国研「高分子精密制御プロジェクト」をふと思い出した。

 

そこでは元東大西教授のグループで高分子1本の粘弾性測定の研究が企画推進されている。餅を引き延ばしている姿を見て、この研究を突然思い出したわけだ。

 

しかし、餅を引き延ばすことさえTVの生放送でうまく行かなかったのに、高分子1本をAFMの針先にくっつけて引き上げ、レオロジー測定を行った研究が如何に困難を極め、そして得られた成果が驚くべき結果だったのか、あまり知られていない。

 

よく伸びる餅を引き上げることさえ失敗したのである。高分子1本をうまく針先にくっつけて振動させてレオロジーを研究する、という活動が失敗の連続であったことは想像できる。そしてそれを粘り強く研究されたスタッフの方々の努力は、きっと高分子物理の進歩を加速している。

 

「あさイチ」のよく伸びる餅が、生放送でうまく再現されなかった事実は、基礎科学の成果がうまく一般にまで浸透していないことをしめしている。

 

高分子学会誌「高分子」の今月号(2018年1月号)の特集は「デモンストレーションに使える高分子実験」だが、古典的(注)な「水ガラスからスーパーボールを作る」以外は、もう少し記事の書き方に工夫が必要である。

 

著者の先生方が基礎科学を普及しようとする努力には頭が下がるが、もう一歩大衆の方向に歩み寄って欲しい。例えば「プラスチックで遊ぼう」は、がんばって6ページほど書いていただけたなら、その面白さが誰でも分かるような記事になったのではないか。

 

手軽に遊べそうな写真がついていたので、もう少し詳しくやさしく丁寧に書いていただけたなら、高分子の深い知識が身につきそうに思われるもったいない記事だ。

 

恐らく編集の都合もあったかもしれないが、このような特集では執筆者の自由に書いてもらうべきだろう。「プラスチックで遊ぼう」には著者の豊富なアイデアがにじみ出ていたのでもったいないと思った。

 

もし、高分子の研究成果が一般にまで理解されていたのなら、「あさイチ」でイケメンゲストがあのような失敗をしなかったのではないか。ゲストの引き上げる速度が早かったことも餅が切れやすかった事と関係している。

 

伸張速度が速すぎると高分子は(実際には弾性率は変化していないが)見かけ上硬くなったような挙動をとる。これを昨日書き忘れた。

 

(注)1970年代に旧大阪工業試験所椎原先生がマスコミに紹介されていた。

カテゴリー : 一般 高分子

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2018.01/06 「あさイチ」で紹介された、よく伸びる餅

1月4日の「あさイチ」で紹介されたよく伸びる餅は、市販の餅を水にいれて、沸騰させてから、砂糖を加えて作る。この時大切なのは、よく練り上げることだ。

 

「混ぜる」と「練る」は、材料のプロセシング技術として見たときに異なるプロセスである。少なくとも材料へ働く因子が異なる。高分子は「練る」ことにより、分子の絡み合いが促進され、いわゆる「粘っこくなる」

 

例えばゴムに配合剤をただ混ぜただけでは壊れやすいゴムとなるが、よく混ぜて練られたゴムは、耐久性のあるゴムになる。樹脂でも二軸混練機で混練した場合とロール混練した場合では、脆さの指標である靱性がわずかに変化する。

 

すなわち「あさイチ」で紹介された「ビデオの餅」と「スタジオの餅」では混練プロセスの条件が少し異なっていたのだ。明らかに「ビデオで紹介された餅」のほうがよく練られていた。

 

よく練られていない餅であったが、もし男性ゲストがこのことを知っていたなら、引き上げるときに一工夫すればよく伸びるように見せることが可能である。

 

それはできるだけ多く引き上げ、引き上げられた餅を下へ流すように見せることだ。するとよく伸びるお餅のように見せることができた。ここでは、水と砂糖が可塑剤の働きをしている。

 

すなわち、可塑剤がただ混ぜられただけでは流動性は出るが、分子の絡み合いができていないと切れやすい餅となる。デンプンがよく絡み合っていたなら、引き上げただけでも高分子の絡み合いの力で下からひきあげ、さらにはモチあげてくれる。

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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