中間転写ベルトの押出成形工程で発生する騒音が、清掃作業で金属音から鈍い音に変化する現象を誰もが情報として知っていた。その現象に疑問を持ち解決策の機能をみつけることができなかったのは、目の前の現象が発している情報を知識と結び付け、新たな知識に変える作業をしていなかったためである。
カンが働く人と働かない人との差はこのようなものである。目の前の現象の変化に疑問を持ち、現象の情報を知識に変えるためには、現象の変化を自らの言葉で説明する作業が有効である。その時不明点が出てきたならば、書籍に載っている形式知でその不明点を解決してゆく。
すると、形式知で説明できないところが見つかるかもしれない。形式知には限界があるからそこは経験知で理解できないか考える。経験知には暗黙知もぶら下がっているから、運が良ければ暗黙知を現象と結びつけて具体化できるかもしれない。
この一連の作業で、ある不思議な現象を前にしたときにそこから得られる情報と身についている知が現象と結び付けられてゆく。すなわち、形式知と経験知、そして暗黙知が整理された状態で目の前の現象といつでもうまく対峙できる状態に自ら努力しなければいけない。
自然現象から得られる情報を知識に効率よく変えるために、まず身に着けている知識をいつも整理された状態にしておかなければいけない。そのとき、形式知や経験知は容易に具体化でき整理できるが、暗黙知は厄介である。
当方が実践している方法は、暗黙知を経験知にぶら下げておく努力である。経験知の枝に何かわけのわからない袋がぶら下がっているようなイメージを忘れない努力である。
経験知の中には、何か腑に落ちないが、何となくこうなる、だから覚えておこう、と感じるような知識がある。この腑に落ちない、しっくりこない感覚を忘れないことである。
身に着けていた経験知でたまたまうまくゆき、それで満足している人を時々見かけるが、しっくりこない経験知で運よくうまくいっても満足してはいけない。なぜうまくいったのかそこで考えると暗黙知が新たな経験知に変化する。
この暗黙知が新たな経験知に変わる瞬間は、まさに一を聞いて十を知る、という感覚である。言葉では言い表せないすっきり感がある。PPS/6ナイロンの相溶に成功した時、経験知から狙い通りの結果ではあったが、やはり満足のゆかないところがあったので、さらにいろいろと実験を行ってみた。
すると満足のゆかないところが具体化され、新たな技術アイデアが生み出された。3年前中国のローカル企業を指導していた時にそれを実行する機会があり無事成功し、頭の中がすっきりした。
何を発明してすっきりしたかは問い合わせてほしい。高分子のプロセシングと材料設計にかかわる発明で、これはコンサルティングのお客である某社から特許が出願された。
ちなみに、カオス混合装置はゴム会社の新入社員実習で指導社員から彼のすっきりしない経験知を伝承していただき、頭の隅で悶々となっていた暗黙知の寄与が大きい。30年弱の時間をかけた発明である。
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カオス混合装置の発明について、セミナーで説明するときにウトラッキーの発明した伸長流動装置をヒントにした、と話している。これは半分正しいが、実際には昨日書いた現場で起きた音色の変化の寄与が大きいと思っている。
経験知として、新入社員時代に指導社員から教えられたカオス混合という技術を体得していたからである。40年近く前の体験について以前この欄で書いているが、1年間のテーマだった樹脂補強ゴムの開発を3ケ月でやり遂げた話だ。
その3ケ月は、ほとんど徹夜で過重労働の極みだったが、学生時代の知識の蓄積も無い全く未経験の領域の仕事であり、楽しさはあっても苦しくなかった。毎日午前中行われたレオロジーに関する座学が睡眠学習となり、鋭気が養われていたからだ。その座学で剪断流動やカオス混合について説明を受けた。大切なところは、しっかりと拝聴し、ケムンパスのような半目で質問もしている。
このカオス混合の説明では、カオスという言葉に惹かれ、1時間ほど議論していた記憶がある。ロール混練では剪断流動が発生していると説明されているが、単純な二本のロール回転で複雑な高分子の流動がそこで発生している、というのが指導社員の説明である。
明確な説明をされないので、ホワイトボードで当方が絵を書きこのようなことかといろいろ質問していたような記憶も残っている。最初は指導社員自身も訳が分からないからカオス混合とゴマかしているのかと思ったら、伸長流動と剪断流動がごちゃ混ぜになったような流動と理解が進み、とにかく急激な伸長が生み出す組織の微細化の機能がカオス混合である、と経験知のすべてを教えてくれた。
指導社員は、京都大学で修士まで高分子のレオロジーの研究をやってこられた方である。しかし形式知で凝り固まった理論派ではなく、電卓で微分方程式を解き、具体的なグラフとしてダッシュポットとバネのモデルを説明する実践派であった。それだけでなく、ご自分のやられた手法がやがて時代遅れとなり、新しい高分子のシミュレート手法が生まれるという予測もされていた。このような雑談も含め指導社員の経験知や暗黙知を身に着けることができた。
さらに指導社員は、当時混練の世界で二軸混練機が普及し始めた背景を説明してくださった。その後、こうした混練の自動化システムでカオス混合を実現できるのは君しかいない、とからかわれたりした。そのようなときには、当方は元気よく実現したいと思います、と答えている。指導社員の熱意に対してこの回答しかなかった。
この日の午後は早速ロール混練でカオス混合を確認する実験を行っている。そこでロール間の距離やロールの回転速度がロール混練で混練を制御する重要な因子であることを学んだ。ここで得た経験知や暗黙知があったので、押出速度が速くなり、結晶ができなくなる現象において、金型に機能が隠されていると発想できたのである。
これは余談だが、転職してびっくりしたのは研究所の管理職会議で役員が、会社でホワイトボードに向かってちーちぱっぱをやるようなことは無駄だからやめよ、と発言されたことである。要するに勉強は自分でやるものだ、というのがその意図である。それでは、経験知の伝承を会社でやれなければどこでやるのか、とつっこみたくなったが、役員のご指導なので20年間やらないように努めた。
伝えきれていない経験知をセミナーでは何とか伝えようと努力しているが、企業におけるOJTの在り方として、新入社員時代の3ケ月にご指導を受けたスタイルが理想だと思っている。現場で得られた経験知と形式知を整理し伝承する使命が先輩技術者にはあると思う。勉強は自分でやるものだ、という考え方は正しいが、経験知はOJTでしか伝えることができない。
指導社員は先端のレオロジーの形式知に裏打ちされた豊富な経験知を持っておられた。しかし、電卓でレオロジーモデルを解析できる一流の形式知を持ちながらも現場主義の考え方のため研究所で評価されていなかった。樹脂補強ゴムは大手自動車メーカーの防振ゴムとして採用されているので大きな成果だと思われるが、このような成果をそのほかにもいくつか出していながらも課長格で退職している。
そのようなキャリアのため、ゴムに関し全く無知の小生に同情され毎日座学をしてくれたのだと思う。マンツーマンの座学で居眠りをしていても決して叱らなかった。しかし、時々現場で質問をして答えられないと、「これ先ほど話したばかりだが」といじられた。このようなことがあっても何故か腐る気持ちは起きなかった。それはいつも指導社員が経験知の伝承に真剣だったからである。
知識には、現場でなければ伝えられないカテゴリーも存在する。自然現象のすべてを未だ科学で説明できていないためだが、このようなカテゴリーの知識ではOJT以外に伝える方法が無い。OJTがうまくいっていない会社経営者はご相談ください。
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形式知で考えれば、PPSと6ナイロンが相溶する現象はフローリーハギンズ理論から否定される。
しかし、フローリー・ハギンズ理論では説明できないフェノール樹脂とポリエチルシリケートとの相溶や、ポリオレフィンとポリスチレンの相溶など自ら実験を行ってきたので、いくつか経験知が身についていた。
経験知から想像すると、条件さえ整えばPPSと6ナイロンが相溶してもよいことになる。これがもし起きたならどうなるか。相溶は結晶相で起きないことが形式知から理解できていた。
相溶は非晶質相だけで起きる。PPSは結晶化しやすい樹脂であり、おまけに押出工程における伸長流動がそれを促進する。ゆえに結晶化しやすいPPS材料の押出では、結晶化して弾性率が上がったベルトが振動するため工場内に金属音が響くことになる。
工程を見学していた時には、身に着けた知識で説明できる現象だけ起きていたのだが、製品試作作業終了後の押出速度を早くしてPPS樹脂を押出機から排出する洗浄作業により、形式知では説明できない現象が引き起こされた。
すなわち、押し出されたベルトから発せられる金属音が鈍い音に変化したのがそれで、その時目の前で押し出されているベルトから発せられた音の変化から結晶化が起きていないことが想像され、一方で押出速度を速めて伸長流動が大きくなって、結晶化が起きやすい状況でその矛盾した現象が起きていた。
これは形式知により説明できない。しかし、経験知とそれにぶら下がっていた暗黙知から、カオス混合(伸長流動と剪断流動の組み合わせ)によりPPSと6ナイロンが相溶し、結晶化しなくなった、と合理的に説明できる。
科学的に考えると矛盾するありえない現象であっても、経験知と暗黙知からは十分に説明できる現象であれば、それを信じることができるのは技術者である。余談になるが、STAP細胞の失敗は、形式知では説明できない現象を科学の世界で考えようとしたところにある。技術の世界で機能に着目していたならあのような不幸な事件にならなかった。
科学者は現象から真理を導き出そうとするので、形式知で矛盾する現象を受け入れることが難しくなる。しかし技術者は目の前で起きている現象から機能を取り出すのが仕事なので、その現象が形式知で説明できるかどうかは重要ではなく、うまく機能を取り出せるかどうかに関心が向く。
例えばこうだ。押出速度が早くなって不思議な現象が起きたのだから、金型にカオス混合を発生させる仕掛けがある、という暗黙知からのヒントがもらえて、すぐに案内をしてくれた課長にベルトの熱分析を依頼するとともに金型の構造をチェックするという「現象に潜む機能を探す」動作に結びついてゆく。
ややパワハラ気味ではあったが、力で仕事を加速させ、命じた30分後にはDSCのデータが出てきて、当方の金型の理解もでき、暗黙知が具体化されて新たな経験知がその日のうちに生まれるとともにカオス混合装置の青写真も頭の中に完成した。
翌日は、東京に帰ることをやめ、清掃作業の時の押出速度でベルトを押し出してもらい、それを粉砕し、再度ベルトの押出成形をしてもらった。
驚くべきことに周方向で測定した電気抵抗の分布が安定し、品質規格に合格したベルトの歩留まりがほぼ100%となった。単身赴任前に成功が約束された瞬間である。
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カオス混合装置の開発経緯について活動報告で書いているが、一番の決め手になったのは、単身赴任前に自分で担当することになる中間転写ベルトの押出工程を見学した時の出来事である。
この見学の時に、半年後に生産フェーズに入るため配合処方を変えてはいけないことを事前に聞いていた。そのためPPS/6ナイロン/カーボンの単純な処方以外の改良でベルトの面内抵抗を安定にしなければいけない極めて難しい、形式知だけで考えればほとんどゴールの実現が不可能なテーマであることを理解していた。
当時の研究部門の管理者は、全員この仕事が失敗すると判断しており、研究所が担当していたベルトの表面処理技術開発に戦力がさかれていなかった。
ちょうど窓際の立場だったので時間は豊富にあり、事前に自分が持っている経験知と世間で知られていた形式知を十分に整理できていた。その結果、暗黙知も経験知にいくつかぶら下がるような形で頭の中で蠢いていた。
たまたま押出工程を見学していて、現場の作業が終了になり片付け作業に移った時である。工場の騒音のトーンが金属音から鈍い音に変わった。この瞬間暗黙知がいくつか経験知と結びつき、この今耳にした現象をすべて経験知で説明できる状態に知恵が機能した。
早い話が、PPSと6ナイロンを相溶させる方法がひらめいたのである。すぐに、生産で使っていた金型の図面を用意してもらい、金型清掃作業中にひらめいたことを具体的に確認していった。
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学生時代の高分子の授業は重合反応が中心だった。フローリーの教科書を用いた高分子物性論も2単位ほどあったが、今の時代から見ると、およそ高分子物性論と呼ぶには貧弱な内容だった。
大学の授業でどのような高分子の授業が今行われているのか知らないが、ゴム会社で指導社員から受けた粘弾性論を超える授業は無いだろうと思う。
それほど指導社員により毎朝3時間行われた形式知と経験知を織り交ぜた講義は素晴らしかったし、この講義は一日の鋭気を養うに十分な時間で、ほとんど毎日徹夜に近い働き方でさすがに日々疲労を感じていたが、この午前中の講義のおかげで精神的に異常をきたさなかった。
今から思い出すとマンツーマンで行われた講義で居眠りをしていた度胸と、見て見ぬふりをしていた指導社員の寛容な精神が企業風土の賜物に見えてくる。
睡眠学習の効果で今でも記憶として授業内容が残っており、不思議なことに目をつぶるとそれが夢のように思い出される。その名講義で忘れてはいけない項目の一つにゴムの耐久性評価がある。
講義と並行して指導社員が準備していた試料や日々新たに開発された樹脂補強ゴムの繰り返し引張耐久試験が進行していたが、この耐久試験で特に注意されたポイントサンプルの取り付け方である。面倒でも一個一個短い定規をあてて丁寧にチャックに取り付けなければいけない、と教えられた。
注意してサンプルを取り付けてもワイブル統計で整理すると初期故障に相当するサンプルが1-2個は出る。ただ1-2個は優秀だと褒められたが、耐久評価試験でサンプルの取り付け方は誤差因子となるので注意を要する。
この当時すでにワイブル統計を当たり前に使用していた。このような理由で、セラミックスブームの時にエンジニアリングセラミックスの信頼性についてワイブル統計を用いた議論が学会でなされたことに驚いた。長い歴史をもったセラミックスという材料が人類史上初めて工業用品に使用されるという時代の到来を感じた。
ところで、ゴムや樹脂についてエンジニアリングセラミックスで展開されたような議論を聞いた経験が無い。高分子のエンジニアリング分野への展開の歴史は長いが、ワイブル統計を用いた信頼性評価の歴史は、当時10年の歴史も無いと教えられた。すると高分子学会での議論は行われることなく、企業の基盤技術として普及していった可能性がある。
指導社員はゴムの耐久評価をワイブル統計で行わなければいけない理由について、化学変化と物理変化が合わさってゴムは劣化するため、その両者を加味して評価しなければいけないのでどうしても統計的見方が必要になると教えてくれた。
すなわちゴムの市場における寿命は統計的にとらえるべきで、アーレニウスあるいは時間ー温度換算則を用いた寿命評価では多くの場合に問題を捉えられないという。
温度環境を変えた繰り返し引張試験データをワイブル統計のグラフにすると、配合処方により耐久寿命が異なる。アーレニウスで整理するとその予測された寿命よりも長くなる。
指導社員から教えられたのは、例えば50年後の物性を予測するために化学変化ならばアーレニウスで、物理変化ならば時間温度換算則で予想することは良いが、それで耐久性があると誤解してはいけない、耐久性は信頼性予測で行うものだ、と教えられた。
ところで今週15日金曜日に下記会場で混練のセミナーをゴムタイムズ社(http://www.gomutimes.co.jp/?seminar=%e3%82%88%e3%81%8f%e3%82%8f%e3%81%8b%e3%82%8b%e3%82%b4%e3%83%a0%e3%83%bb%e3%83%97%e3%83%a9%e3%82%b9%e3%83%81%e3%83%83%e3%82%af%e6%b7%b7%e7%b7%b4%e6%8a%80%e8%a1%93%e3%81%ae%e5%9f%ba%e7%a4%8e%e3%81%8b)主催で行います。ご興味のある方はご参加ください。
会場:亀戸文化センター 6F 第2会議室
時間:10:30~16:30
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「大手鉄鋼メーカー 神戸製鋼所が製品の検査データの改ざんを繰り返していた問題で、東京地検特捜部と警視庁は、不正競争防止法違反の疑いで神戸製鋼の東京の本社などを捜索し、強制捜査に乗り出しました。
会社側の調査で改ざんされた製品の出荷先は600社以上に上っていて、特捜部と警視庁は組織的に不正が繰り返されていたと見て実態の解明を進めることにしています。」
昨日のTVニュースでもこのWEBニュースの記事を報じていた。東レ、日産、三菱自動車、スバル、三菱マテリアルとデータ改竄はじめ品質管理に関する不正があいついだ。
スバルでは最初に発覚してから半年以上が経過しても不正が見つかったのでCEOが辞任する事態に至っている。最初に不正問題が報じられたときに、この欄では科学の問題(形式知の問題)を指摘している。
すなわち、科学的に考えて品質規格からこれだけ外れても大丈夫、という判断で不正が行われている、と推定したが、案の定神戸製鋼所では代々の不正データの蓄積が受け継がれていた。
恐らくこれは技術継承のつもりでなされた可能性がある。川下企業とすり合わせて設定した品質規格に対して、川上企業で自分たちの品質規格を作り上げようとしていたのだ。
なぜ川上企業でこのような行動をとるのかは、コストダウンが目的であるが、それ以外の事情もある。これについては後日触れるが、この行動が形式知と経験知を混同していることは明確である。
形式知と経験知は区別して技術開発に適用されなければいけないが、最近はこのあたりが日本でうまく伝承されていない。
両者を混同して運用していった結果、法に触れるような事態に至った、というのが昨今の品質データ改ざんの実態と捉えている。
すなわちこれはSTAP細胞の騒動と問題が似ている。STAP細胞の騒動では未熟な科学者が問題となったが、品質データの不正では未熟な技術者集団により問題が起きている。
これは技術の伝承や技術者育成がバブル崩壊後軽視されてきたからではないかと推測している。また、団塊の世代の大量退職とも関係している可能性を否定できない。
当方はこのような現状を憂い弊社を起業しているが、なかなか事業が立ち上がらず苦戦しており、最近は外部のセミナー会社のお世話になっている。
今月は15日に混練技術に関するセミナーを都内で予定しているが、品質問題の対策として10月にはゴム・樹脂の信頼性についてのセミナーを企画している。
また、上海では今月末に材料をデザインに生かす講演会が企画された。台湾ではシリコーンポリマーに関するセミナーが行われるがご興味のある方はお問い合わせください。
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以前この欄で、防湿庫に保管していたニコンF100の裏ブタのフックが破損した話を紹介した。裏ブタのフックが壊れると裏ブタを閉めることができなくなりフィルムが感光するので、フィルムカメラにとってこのフックはキーパーツのはずである。
フラクトグラフィーを用いて、このフックの破壊について解析すると、典型的なクリープ破壊で進行していたことがわかった。このキーパーツの設計において、設計時の寿命予測として仮に10年程度を考えていたとしたならば、初期故障と分類してもよいような短命で、破壊の仕方もそのように推定されたので、うまく品質管理ができていない可能性を疑った。
ところが某中古店でヒアリングしたところ、このF100のフックについて展示していただけで壊れるケースが多いという。中古店情報なので破壊寿命やその様子は不明だが、最近はフィルムカメラの需要も少なくなったので、長期間裏ブタの開閉をしないカメラF100も多い。
いろいろ考察を進め、この裏ブタのフックについて、設計段階でどのような寿命予測試験を行ったのか疑問を持つに至った。もう10年以上過去の話なので時効と思われるが、写真会社に転職してこのようなゴム・樹脂部品についてアーレニウス型の寿命予測が多く用いられていることにびっくりした。
ゴム会社では40年以上前からワイブル統計で寿命予測を行うのが一般的だったので、設計者になぜアーレニウスだけで行っているのか尋ねたところ、いままでこの方法で行ってきて問題がなっかった、という。ところが、当方が豊川へ単身赴任したところとんでもない品質問題が発生した。
詳細は省略するが、1980年代のセラミックスフィーバではセラミックスの品質管理にワイブル統計を導入する検討が学会で真剣に議論されていたが、高分子学会でそのような議論がなされた様子をこの30年間見ていない。ゴム会社で40年前に導入されていたのでワイブル解析は常識と思っていたが、某樹脂会社の人からワイブル統計を御存じないと言われたのでセミナーを企画することにし、3年ほど前から行っている。
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20日の(8)でカオス混合装置の仕組みを説明したが、このような簡単な仕組みならば特許にならないだろうと思ったら、公知ではなかった。
もっとも当方も指導社員の宿題を30年以上考えて思いついたのだから、特許が出ていなくても不思議ではない。
当方がどのようにして思いついたのかは30日のセミナーでお話しするが、偶然の出来事である。誰でも注意しておれば気がつくような単純な内容だが、やはりアイデアというものは、どこか頭の隅に種(暗黙知)が無いと思いつかないものである。
指導社員に教えられ、いろいろ実験を行い、沈思熟考を繰り返し、そしてある時偶然思いつく。良いアイデアとは努力の積み重ねから生まれる。
アイデアマンというと気楽な呼称に聞こえるが、実はアイデアを出すための日々の仕込みが重要である。よく何でも興味を持って眺めるように、という人がいるが、今時そのような行動を街中でとると職務質問されたりする。
実際におまわりさんの職質を受けてみると落ち込む。怪しい人間ではないつもりでもお巡りさんから怪しく見えたのだからその行動を反省しなくてはいけない。
それからというもの、秋葉原以外ではきょろきょろしないことにしている。秋葉原では、挙動不審以外に風貌の怪しい人などいっぱいいるから安心である。
年をとっても不思議なことにこのような仕込みで頭に入れた記憶は失われない。昨日妻に頼まれた買い物はまれに忘れる話を書いたが自分の興味のある内容については忘れるどころか情報がどんどん取り込まれそれが自然に整理され、取り込んだ情報よりも多くなって蓄積されることもある。
一を聞いて10を知るとはこのことかもしれないが、情報が知識に加工される過程をこの言葉は表現したのかもしれない。若い時にもこのような瞬間を味わった経験があるが、年を取ってからはそれが多くなったような気がする。おそらく暗黙知が外部刺激により経験知に代わっているのだろう。
大学4年の時に故石井先生の博学ぶりにびっくりしたことがあるが、それは年のなせる業かもしれない。また先生の言われた知識が形式知と思っていたら教科書には書かれておらず、改めて相談して経験知であることを教えられアカデミアの先生でも経験知を大切にされていることを知った。
この先生のもとで技官をやっておられた福井先生から石井先生の40過ぎに自ら留学を決意された話を伺い、40にして惑わず、と言った孔子より凄いと感じた。本来なら劣っていると感じるところかもしれないが、知というものを追求するのに年の上限は無い、とその話を理解したためだろう。
亡父も死の間際まで勉強をしていた。今認知の問題が話題になっている。年を取れば老化があるから認知の衰えも仕方のないことかもしれない。しかし亡父は無くなるまで当方を叱り続けていた。亡父の指摘は時には誤解も多かったが転職してからありがたいと感じるようになった。その当方の年は孔子が惑わなくなった年齢である。
40にして惑わず、とは、孔子が学を大成した年齢とされるが、当方の人生観からするとこれは間違っているような気がしている。当方の存じ上げている多数のアカデミアの先生は皆老人になられているが、とても「惑わず」とは思われない先生も多数いらっしゃる。また情報化時代の今日にあって40で惑わない状態は時代についていけない状態となることを意味する。
今AIが話題で、人間の仕事が奪われる暗い未来が描かれたりするが、暗黙知をAIに搭載することは難しいし、AIが暗黙知を持つようになるとは思えない。なぜならもしこれをAIに搭載することに成功したとしても暗黙知の制御技術を搭載することなどできないから、AIの暴走を恐れ実用化しないだろうと考えられる。ターミネーターを容易に作ろうと考えてしまう未来など想像したくない。
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カオス混合装置については、新入社員時代の指導社員から教えられた、と過去に書いたが、指導社員の出身校である京大から偏芯二重円筒を使ったカオス混合のシミュレーションが20世紀末に発表された。
この偏芯二重円筒は、シミュレーションに用いることができるが、実際の樹脂の混練では汎用化が難しい。同じころにウトラッキーのEFMという伸長流動装置が発表されている。
EFMの問題は鋭利のスリットへ何段も樹脂を流さなければならず、生産性が悪いのであまり使われていない。
このEFMは伸長流動だけ考えているためにこのような設計になったが、カオス混合の急激な伸長と折り曲げの機構を実現するにはEFMのような構造ではなく、細いスリットと広い空間の組み合わせ構造のTダイを用いればよい。
細いスリットを通り広い空間へ流れ出た樹脂は、自然と折れ曲がる性質がある。水の様なサラサラな流体では、広がって流れるが、粘度の高い樹脂では広がることができずに折れ曲がる。
すなわち、並行あるいは非並行の平面に囲まれた細い長いスリットと広い空間の組み合わせでカオス混合を簡単に実現できることになる。この成果について今月末に講演するので、参加ご希望の方は弊社へお問い合わせください。
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この3ケ月間に下記講演会が予定されております。弊社主催ではございませんが、割引価格でご提供できますのでお問い合わせください。
記
1.高分子材料の難燃化技術と配合設計・プロセシング
(1) 日時:2018年5月18日(金)10:30~16:30
(開催場所、料金等後日掲載)
2.伸張流動に関する講演会
(1)日時:2018年5月30日(水)10:00-17:00
(2)場所:<東京・五反田>技術情報協会セミナー
(3)主催:技術情報協会
(4)参加費:弊社へお申し込みの場合には56,000円
(5)4人の講師による講演会です。当方はカオス混合について講演いたします。
3.その他
(1)ゴム樹脂の混練技術に関する講演会
日時:2018年6月15日(金)10:30~16:30
(2)デザインに配慮した樹脂設計
場所:中国上海
日時:2018年6月29日
(3)シリコーンポリマーに関する講演会
場所:台湾
日時:2018年9月11日
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