昨日、赤だし味噌について書くつもりは無かった。混練を考えていたら、ブレンドとなり、米味噌と豆味噌のブレンドが頭に浮かび赤だし味噌について書き始めた。
ただ赤だし味噌について書いてみてアイデアの整理ができた。機能性コンパウンドの設計においてプロセスをどのように設計するのかは重要であるが、混練プロセスに入る前に各種添加剤をプレミックスしなければいけないときに、その手順の違いで成形体物性に影響が出る。
このことが意外に知られていない。影響が小さいときには良いが、これが大きい時には、プレミックスの手順も材料設計の重要な因子となる。混練するのでプレミックスの影響に気がついていないと射出成型でその影響が出たときに問題解決が難しくなる。
タグチメソッドを組むときにプレミックス手順も制御因子に入れればよいが、制御因子が多い時などは省略しがちである。これを防ぐには、予備実験でプレミックスの影響だけを取り出してその影響をみておくとよい。
混練機としての二軸混練機についてはせいぜい50年前後の歴史しかない。押出機としての歴史は長いが、高分子を混練する、という視点での発展は1990年代からではないだろうか。
このことがあまり知られておらず、二軸混練機の性能を過信されている人もいる。バンバリーとロールを用いたゴムの混練が、効率の悪さがあってもいまだに使い続けられている背景を理解できると二軸混練機のいい加減な性能を改良してみようという動機になる。
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あまり生々しく書くと問題になるといけないので、公開された事実だけで話をする。写真会社ではコンパウンドの基盤技術などなかったので、R社からコンパウンドを購入し、押出成形して半導体ベルトを開発していた。
あと半年で製品化の目途をつけなければいけない、というときにこの仕事を担当することになった。仕事のゴールは明確で、ベルトの周方向の抵抗が均一であり、柔軟な転写ベルトを製造することだった。
R社は一流のコンパウンドメーカーということで誰もコンパウンドの出来の悪いことなど疑わず、数年開発を続けていた。しかし周方向の抵抗が不均一で、歩留まりは一向に上がらず、とても生産できる状況ではなかった。
高分子材料の成形体は、プロセスの履歴をすべて取り込んだ物性に出来上がることは高分子技術者ならば誰でも経験知として持っている。長年開発を担当してきた人たちの誰もがコンパウンドには問題がないという。そこで、実用性は無いが、バンバリーを使って当方が理想としたコンパウンド、すなわちベルトの構造とコンパウンドの構造とが変わらないコンパウンドを製造し、ベルトを作らせてみた。
当時歩留まりに最も影響を与えていた電気的特性だけ評価すれば、一気に歩留まりがあがり、100%に近い状態まで到達した。ただ、靭性が低いので製品には搭載できない。しかし、長年電気特性の品質均一化に担当者は苦労していたので、この結果を見れば誰でもコンパウンドの問題に目がゆく、と期待した。
しかし、R社の技術者は前向きの推論を展開し妙なことを言い出し、写真会社の担当者もそれに同調した。せっかくゴールに肉薄するヒントが目の前にあっても、もう少しこれまでやってきた手順で続けたい、となった。優秀な連中の議論では、改めて材料設計を見直し、もう一度従来の方法で進めるという結論になった。
当方は仕方がないので、若い人を外部から採用し、職人を一人従え、カオス混合によるコンパウンド開発を進めることになるのだが、このときばかりは、科学的思考が時として仕事に悪い影響を与えることを苦々しく思った。仕事というものは、いつもゴールから考えて進めるのが正しい。
科学で慣れ親しんだ前向きの推論というのは、いつでもゴールにたどり着けるとは限らないのだ。ゴールから逆向きの推論を行い、そこから導かれたオペレーションを実行して初めてゴールにたどり着けるのだ。
(注)押出成形の経験知として、「いってこいの世界」というのがある。すなわち、コンパウンド段階で成形体と同じ構造になっていないときにはどうなるかわからない、という意味だ。ただしこれは経験知であって、科学的に証明された真理ではない。これに対し、コンパウンドの構造が金型内の流動で変化するのは当然であり、という意見は、コンパウンドの構造と金型内で観察された処理途中の材料の構造や、出来上がった製品の構造との科学的な比較議論から導かれた真理であった。このような真理を覆そうとして、コンパウンド状態から製品になるまでその構造が変化しないようなコンパウンドをわざわざ設計し実験したのだが、この結果を、金型内の流動でこの構造になるようにコンパウンドの処方を設計すればよい、と妙な屁理屈をつけられて説明された。この屁理屈はもっともらしく聞こえるが、金型内の流動で構造が変化するという意味が、コンパウンドの構造が安定ではない、ということをしめしていることに気がついていないし、それを指摘しても、前向きの推論を何段階か展開し、ゴールに近づけるような意見を言ってきた。ゴールに直結していない仮説や推定は怪しい、と疑う習慣を身に着けたい。
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この3ケ月間に下記講演会が予定されております。弊社主催ではございませんが、割引価格でご提供できますのでお問い合わせください。
「ゴム・プラスチックの劣化・破壊メカニズムと寿命予測および不具合対策」につきましては、弊社へ参加申し込みをしていただければ、すぐに請求書を発行させていただき、振込確認後参加証を送付させていただきます。
記
1.ゴム・プラスチックの劣化・破壊メカニズムと寿命予測および不具合対策
(1)日時:2018年04月17日(火)10:30~16:30
(2)場所:江東区産業会館 第1会議室
(3)主催:R&D支援センター
(4)参加費:弊社へお申し込みの場合には45,000円
2.高分子材料の難燃化技術と配合設計・プロセシング
(1) 日時:2018年5月18日(金)10:30~16:30
(開催場所、料金等後日掲載)
3.伸張流動に関する講演会
(1)日時:2018年5月30日(水)10:00-17:00
(2)場所:<東京・五反田>技術情報協会セミナー
(3)主催:技術情報協会
(4)参加費:弊社へお申し込みの場合には56,000円
(5)4人の講師による講演会です。当方はカオス混合について講演いたします。
4.ゴム樹脂の混練技術に関する講演会
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(1)日時:2018年04月17日(火)10:30~16:30
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(1) 日時:2018年5月18日(金)10:30~16:30
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(1)日時:2018年5月30日(水)10:00-17:00
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「ゴム・プラスチックの劣化・破壊メカニズムと寿命予測および不具合対策」につきましては、弊社へ参加申し込みをしていただければ、すぐに請求書を発行させていただき、振込確認後参加証を送付させていただきます。
記
1.ゴム・プラスチックの劣化・破壊メカニズムと寿命予測および不具合対策
(1)日時:2018年04月17日(火)10:30~16:30
(2)場所:江東区産業会館 第1会議室
(3)主催:R&D支援センター
(4)参加費:弊社へお申し込みの場合には45,000円
2.高分子材料の難燃化技術と配合設計・プロセシング
(1) 日時:2018年5月18日(金)10:30~16:30
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貴乃花親方は妥協するタイミングを失っていた。あのような場合は、誰かがうまくコーチングにより妥協すべき方向と方法を示すべきだった。FD事件が起きたときの上司のアドバイスは「組織から出ていけ」だった(注)。すなわち、事業として立ち上がったので当方は不要である、というのだ。
一方その事件が起きる二年前に研究開発本部長だったU取締役からは、学位取得を勧められていた。SiCの速度論についてまとめ終わり学位としての体裁を整える自己実現努力の途中に事件は起きた。仮に貢献の役割は終わったとしても、自己実現のために問題を隠蔽化し妥協する考え方もサラリーマンとして残っていた。
そのようなアドバイスを当方にしてくださった方もいた。しかし、目の前に起きていた問題は過去に形を変えて繰り返されていた組織の問題だった。
妥協して異動すなわち組織を出ていく選択を考えていた時に、まったく専門分野が異なるので、それまでのキャリアを捨てることになるが、ヘッドハンティングのコンサルティング会社より写真会社を紹介された。
人事部に同期の担当者がいたことも決心の方向を決めることになった。転職の決意をして、彼にそれまでの組織で起きた事柄を一部始終話した。
それから20年以上たち、起業後この研究開発本部からお誘いを受け講演をする機会に恵まれたが、その時感じた雰囲気は、タイヤ開発部門で研修したときの印象に近かった。20年間に職場の風土が変わっていたのだ。
研究所長にはゴム会社の同期がその職に就いており、彼はタイヤ材料開発部門の出身で、問題のあった組織、すなわち研究開発本部の生え抜きではなかった。自己変革できる企業は持続的な成長が可能である。
今、社内で不祥事が発生すると些細なことでも社長が謝罪会見を開くようになった。その結果、社内では再発防止策を余儀なくされる。これは、ある意味、問題のある組織にとっては良いことである。
不祥事が起きない組織が理想だが、組織で活動しているのが人間である限り、過ちは避けられない。過ちを隠蔽することなく過ちとして認め、対策をすぐにとれるかどうかは誠実なリーダーが組織にいるかどうかに依存する。
ネット社会となり、不誠実なリーダーは内部告発に晒されるリスクが高くなった。しかし、不祥事があれば匿名で何でもかんでも内部告発する、という昨今の風潮は、健全な妥協の感覚を鈍らせ、貴乃花親方のような社員を生み出す懸念がある。もう少しこのあたりの知恵を社会で考えたほうが良いように思う。
(注)高分子学会賞を受賞したプラスチックロッドレンズの技術開発では、事業として日の目を見たときに開発の創始者が研究部門を異動していたという。受賞対象の筆頭となった三菱レーヨンU氏は、その人も受賞者の一人として加えたと高分子同友会で説明されていた。企業風土の品格の高さを示す逸話である。
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PPS/6ナイロンのストランドがべとべとしていないのは、6ナイロン以外の添加剤がPPSに添加されていないからだ。そのうえ6ナイロンのTgが室温よりも十分に高いためである。
これは高分子添加剤がブリードアウト防止に使えるという一つのヒントを示している。しかし、高分子添加剤の問題点として常に改質対象となる高分子の改質ができるわけではないのだ。
換言すれば、改質したい高分子に相溶する高分子を見つけることが至難の業で、異なる高分子の組み合わせを相溶しようとしたときにフローリー・ハギンズ理論による制約をどのように乗り越えるのかという問題が出てくる。
そこで高分子の改質に低分子が用いられているのだが、なぜか低分子を用いるときにこのフローリー・ハギンズ理論を忘れている。少し物理化学に造詣のある人は、SP値でこの問題を考えようとする。
SP値で考えてることは、科学的視点で材料開発を行う時に間違ってはいない。しかし、SP値で選択された低分子を添加してもブリードアウトは起きてしまうのだ。
低分子では、室温以上で分子運動性が高分子よりも大きいので、改質しようとする高分子内部において拡散速度が速く、その結果内部に分散した低分子が、表面に移動してくることになる。
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ブリードアウトという現象は、高分子材料で成形体を製造する時に、耐久性や加工性向上のため添加した成分が成形体の表面に滲みだしてくる現象である。
少量であれば問題とならないが、べとべと感を感じるまで出てくると商品として使えなくなる場合もある。電子マッサージ器の電極パッドのように常時べとべとしていてほしい場合にはブリードアウトは大切な機能だが、多くの商品では気持ちの悪い手触り感となり敬遠される。
ブリードアウトという現象は、高分子材料に添加剤を用いる限りそれを0とすることはできない厄介な問題である。解決方法はブリードアウトしても手触り感が悪く感じない程度に工夫する以外に方法は無い。
添加剤を用いる代わりに、その機能を高分子材料の一次構造にグラフとした化合物で代用する、という技術や、添加剤のブリードアウトを遅らせるために高分子材料を化学修飾する方法は、良い方法だがコストがかかる。前者は一応ブリードアウトを0にできるが、いつも使える方法ではない。
高分子材料が広く普及してから今日まで、ブリードアウトは困った品質問題としてその対策が検討されてきたが、いまだに解決できていないのが現状である。
単相だったPPS/6ナイロンが2相に分離した話を紹介した。この現象で面白いのは、6ナイロンがブリードアウトしていてもよいはずだが、白濁したストランドの表面を触ってみてもべとべとしていない。
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23日の内容に驚かれたアカデミアの方は何人いらっしゃるだろうか。科学的ではないばかげた信頼のない情報とかたずけられた人は、イノベーションを起こせるような研究はできない。
特殊な混練プロセスでPPSと6ナイロンが相溶し、透明になったのは事実で、その時のストランドには分析しても結晶らしきものは見当たらなかった。今手元にある白いストランドについては分析をしていないが、おそらくそこにはPPSの結晶と6ナイロン相が観察されるだろう。
分析して科学論文にし発表するだけの価値のある内容と思っているが、面倒なのでそれをしない。ただ多少は貢献の意欲があるのでこの欄に紹介している。しかし、当方もまだコンサルタントとして仕事をしたいので、すべての情報を書かない。
この欄では知らリズム(昔の流行語チラリズムのパクリ)で世間に興味を持っていただけるような内容を紹介しているが、特許になるぎりぎりのところに関するキモの情報を書いていない。
PPSと6ナイロンの相溶については10年以上前に特許出願し、特許として成立しているので書いているが、脆いPPSがしなやかな材料になっていた。
このフローリー・ハギンズ理論に反する実験結果は、ブリードアウトとも関係している。しかし、そのすべてをここで書くつもりはないが、まだ知られていないぎりぎりのアウトラインの輪郭を明日から書いてみたい。
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昨晩高分子同友会の勉強会でセルロースナノファイバーの講演を拝聴した。面白い内容だったが、聴講者が少なかった。せっかくの機会をもったいない、と感じた。実はセルロースナノファイバーは、今3度目のブームである。だから過去のブームを知っている人にはつまらないテーマに見えてしまう。
しかし、今回は少なくとも20年ほど前の菌セルロースのブームとは一味も二味も異なる。小生も理解しているつもりでいたが昨晩の講演を伺い、少し認識を変えた。目から鱗というわけではなく、過去のブームと大きく違うところである。どこが過去のブームと異なるか、大切な点は商売のネタになるのでここでは書かない。興味のある方は問い合わせてほしい。
昨日の講師の方は若かったので過去のブームを御存じなかった。まずそこから紹介する。実はファインセラミックスブームの時にナノセルロースのささやかなブームがあった。1990年代に入り、ティラミスのブームが去ったら若い女性たちがこぞって健康食としてナタデココを食べて火がついた、という流れである。
ナタデココと寒天の違いが判らない人は田舎者扱いされたぐらいである。ようやく味と名前を覚えたティラミスをデートで話題に出したら、今はナタデココと言われた。ナタデココになじんだら、菌セルロースのブームとなった。第一のブームから第二のナノセルロースへのつながりはスムーズで、様々な工業用品への応用が検討された。この時主に複合材料としての研究開発が行われている。
オンキョーのスピーカーはこの時の成果で、現在もその技術は使われている。当方も味の素からナノセルロースを提供していただき、ゼラチンとの複合材料を研究した。残念ながらコストの問題があり実用化には至らなかったが、ゼラチンの高靭性化と高弾性率化に成功している。
今は第3のブームでこれは本物である。2010年ごろ日本化学会から依頼され、「教育と化学」にセルロースの簡単な総説を書いたが、その最後に現在のブームを予告している。それが当たった。ナノセルロースの新展開が始まる。
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