高分子の結晶化速度論についてアブラミの式で解析されるが、いつも不思議に思っている。PPSを扱って10年以上になるが、この材料の結晶化速度は、単純にアブラミの式で解析できないのでは、と思ってしまう。
そもそも高分子の結晶化速度論は、無機材料の結晶化速度論からの借り物ではないか。無機の結晶について、その速度論の論文を読むとデータとの対応が美しくわかりやすい。SiCの速度論的解析を行ったときにもたいへんきれいなデータが得られ、解析結果もアブラミ式でうまく整理できた。
しかし、高分子の結晶化速度論の論文を読むと、速度式からのずれがすっきりと説明されない、という欲求不満になる。無機の結晶化に比較してその機構が複雑なためであるが、ここで一つ大きな問題が出てくる。
速度論の解析では、その結晶化の機構を暗黙のうちに仮定して行う。換言すれば、結晶化機構が不明な場合には、速度論の解析が難しくなる。
シリカ還元法によるβSiCの速度論的解析を当方が行うまで誰も成功しなかったのは、シリカとカーボンの均一な前駆体が無かったからで、不均一な場合にはSiOガスの発生など反応機構が複雑になり速度論の展開が難しくなる。
無機材料の場合、その単結晶はひずみを内蔵しているが、一応シャープなX線回折信号が得られる。しかし高分子結晶ではこのようなシャープな結果が得られない場合が多い。
13年ほど前にコンパウンディングしたPPS/6ナイロンの透明ストランドがいつの間にか真っ白になっていた。おそらくPPSが結晶化したためにスピノーダル分解が進行し6ナイロンが析出したためと思われるが、その結晶化速度は極めて遅い。
Tg以下でも結晶化するのか、と驚かれる方もいるかもしれないが、障子のノリに使用されるPVAが一年かけて球晶となる姿を観察していただくと、この事実を納得できると思う。朝目が覚めて頭がすっきりしていないときに書く話ではない、と思いながら書いている。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
過去に高分子の難燃化についてこの欄で書いているが、リンについてその効果を今日は書いてみる。リン系難燃剤については大八化学が有名で1980年ころ縮合リン酸エステル系難燃剤を多数開発している。ポリウレタンの難燃化を2年間担当していた時に多くのサンプルを頂いた。
このリン酸エステル系難燃剤の大半は燃焼時に熱分解し揮発する。その分解挙動は様々だが、600℃まで熱処理を行ったときにほとんど残らない。それでもポリウレタンはじめ多くの高分子を難燃化できているので、300℃前後で炭化物生成反応が開始していそうなことが推定でき、たいていの教科書には、その触媒作用の機構が書かれている。
面白いのは、ホウ酸や水酸化アルミニウムなどを組み合わせてやるとホウ素やアルミがオルソリン酸と反応し、600℃に加熱しても難燃剤由来のリン酸が残っている。また、ホウ酸や水酸化アルミニウムの併用でリン酸エステル系難燃剤添加量も半分程度に減らすことが可能である。
ただこれには多少ノウハウが必要で、高分子材料を扱うスキルが低い場合には再現しないようだ。このような少し怪しい技術だが40年近く前にいろいろと実験を行い、科学的に正しそうな知見を得た。
まず、多くのリン酸エステル系難燃剤は、280℃前後で熱分解し、オルソリン酸を発生する。オルソリン酸はこのあたりが沸点なので600℃で難燃剤由来のリン酸のユニットが存在しない理由を説明できる。また、ホウ酸や水酸化アルミニウムが均一に分散しておればオルソリン酸と反応し、これを系内に保持することが可能である。
ボロンホスフェートは耐熱性が高いので600℃までリン酸ユニットを保持していることも説明可能である。面白いのは、ボロンホスフェートの構造でポリウレタンに添加しても難燃効果は低いが、ホウ酸と縮合リン酸エステルの組み合わせでは難燃効果が高くなることである。
これは、300℃前後でオルソリン酸の構造をとっていないと炭化促進の触媒効果を示さないのでは、ということを想像させる。オルソリン酸が炭化促進効果で触媒作用を示すことは知られており、この想像は間違ってはいないだろう。この想像を膨らませると未知の難燃剤システムを設計可能で、高分子の難燃化技術は奥が深いと改めて感じる。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
学生時代に高分子科学の授業といえば高分子の合成が中心で、高分子物理については大学院2年間でその香りに触れることすらなかった。ただ、フローリー・ハギンズ理論が教科書に一言書かれていたという理由で、それが試験問題として出た。
これは、生涯忘れることのない高分子物理の苦い味だった。授業中に寝ていたのか、あるいは友人との交流に時間を取られ授業に出られなかったのか記憶にないが、授業では聞くことがなかったその言葉と試験用紙でいきなり遭遇し慌てた。
就職したゴム会社の研究所はアカデミアのような雰囲気で、知識の多さが第一という風土だった。ある日フローリー・ハギンズ理論について知っているか、と尋ねてきた先輩社員がいた。先輩社員は、当然当方のトラウマなど知らないので、完璧な説明にびっくりしていた。
1970年代の高分子科学の状況は社会人1年目でフローリー・ハギンズ理論を知っていることができる技術者の証の様な時代だった。今書店で大学の高分子科学に関する教科書になりそうな参考書を見れば、たいていは1ページ以上この理論の説明がある。
昔のように、一言教科書に触れていた程度の理論ではないのだ。高分子材料を扱う技術者には必須の知識の一つになっている。この40年間の高分子材料科学の進歩は著しい。
一方無機材料科学も1980年代のセラミックスフィーバーで著しい進歩をしたのだが、教科書の状況は高分子科学ほどの大きな変化はない。無機化学は、コットン・ウィルキンソンの著書である教科書に代表される錯体化学が中心のようである。
ただ、無機化学の教科書は、結晶関係やセラミックスなどが独立して存在し、おそらく大学の授業では基礎科学の一つとして授業が行われ、昔あったガラス工学などの授業は無くなったのだろう。
書店で教科書の類を眺めていると、実務で要求される材料科学という有機材料から無機材料まで俯瞰した優れた書籍が無い。一方で40年前優れた材料科学の教科書と言われた複合材料入門がいまだに書店に並んでいたりする。
結局材料技術については、セミナー会社が開催するセミナーでそれぞれの分野の技術について学ぶ以外に方法が無いようだ。セミナーの講師として呼ばれるときにはこのあたりの事情も考えて講義をしなければいけないと思っている。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
ブリードアウトは、日常で接する高分子材料の品質問題と関係する現象だ。例えば、べたべたネバネバしたマウスやハンドバッグ、ケミカルシューズ等のブリードアウトによる表面状態の変化した品物は身近にみられる。
あまり気がつかないが、タイヤは毎日ワックスがブリードアウトしているので耐久性が確保されている。すなわち、ワックスがブリードアウトし表面に薄い膜が張った状態なので紫外線(UV)からタイヤのゴムが守られている。
昔子供のころ、よく粉を吹いたようなタイヤを見かけたが、最近はそのようなタイヤをまず見ない。ここにもイノベーションがあったのだ。すなわちワックスはブリードアウトしやすいように低分子のものが使用されるが、これが表面で結晶化すると粉を吹いたような状態になる。
この状態になるとタイヤ表面を均一にコーティングできていないのでUVによる劣化が進行することになる。この結果、昔は粉を吹くだけでなく、ひび割れの起きたタイヤも見かけた。
話が脱線するが、タイヤは多少ゴムが劣化し、ひび割れ状態になってもすぐには壊れないように設計されている。すなわちタイヤはタイヤコードが応力を支えているので、空気が漏れない限り、多少ひび割れても走行に支障をきたさないが、危険なのでこのようなタイヤは交換すべきである。
タイヤは皆黒くて同じに見えるが、品質の信頼性は今の時代でもやはり差がある。これは、自動車の運転を始めてずっとあるメーカーのタイヤを使い続けてきたが、1年前車を購入した時にタイヤのメーカー指定を忘れた。
冬場は、昔なじみのメーカーのスタッドレスをはいていたが、これを交換しようと新車時についていたタイヤを触ったら、何とも言えぬ肌触りだった。すなわち夏場のタイヤを保管していた間にワックスがブリードアウトしていたわけだが、それが不均一だったのだ。ブリードアウトの状態でワックスの設計を感じることが可能である。
昔は、夏場も冬場も気にしないで同じタイヤを使っていたが、最近の夏場タイヤは転がり抵抗が低くなっている。おそらく東京の冬ならばスタッドレスタイヤに交換する必要もないかもしれないが、昨年東京でも雪が大量に降るとの長期予報を聞き、11月にブ社のスタッドレスタイヤへ交換してみた。
天気予報はあたり、2回ほどタイヤ交換の恩恵と凍てついた道路でも安心して車を運転することができた。このタイヤ交換のおかげで、新入社員時代に座学で聞いたワックスの話を思い出した。同じ状態で保管したスタッドレスタイヤの表面が年末にどのようになっているのか楽しみだ。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
物質の弾性率は物質固有のパラメーターと誤解されている。無機材料における結晶であればその認識は正しいかもしれないが、同じ無機材料でもガラスになると非晶質なので、弾性率がばらつくときもある。
それでも無機ガラスでは、そのばらつきが小さいので組成から決まるパラメータとして捉えても、日常困らない。ところが高分子材料になると、その弾性率は材料を製造したプロセスに依存して変化するから大変だ。
さらに高分子材料では、弾性率の経年変化まで起きる。これが高分子の劣化と結びつけられるとそれで納得してしまうから、物質の基本的なパラメーターの一つである弾性率でさえ、高分子の世界では、摩訶不思議なパラメーターとなる。
しかし、短期間の研究ではこの弾性率の経時変化が問題にされず、高分子の構造と弾性率の関係としてまとめることができる。その結果、高分子の弾性率が長期間の間に低下すると劣化の問題と結びつけられ解釈されることになる。
高分子は賦形化の時にわずかなひずみを抱え込む。射出成形体が時々脱型後変形したりするのはそのひずみが解放されるためだが、これは緩和現象である。短時間の高分子緩和現象について多くの論文が存在するが年単位の長期の緩和現象について研究例は少ない。
ゆえに脱型後短時間に変形した製品は除去されるが、市場において長時間にわたる高分子の緩和でこのひずみが解放されるときに品質問題が発生する。
カテゴリー : 高分子
pagetop
高分子の構造と物性との相関を考えるときにセラミックスと比較して難しい点は、非晶質相の物性への影響である。セラミックスでは、これが単純だ。例えばガラスならば非晶質の均一固体である。
ペロブスカイトの焼き物であれば、非晶質相が粒界に存在するがその影響は力学物性に効くかもしれないが、ペロブスカイトの結晶で現れる機能性に対して大きな影響は無いので結晶構造と機能性との関係を論じればよい。
SiC焼結体の熱膨張を40年近く前に研究したが、α-SiCでは結晶軸方向で線膨張率が異なっていたが、焼結体の線膨張ではちょうどその平均が観察され、大変理解しやすかった。
しかし、高分子材料における構造と物性との相関はセラミックスほど単純ではない。単純ではないが、経験知があれば、強相関ソフトマテリアルとみなした材料設計が可能となる。
このコンセプトで写真会社退職間際の半年間に難燃剤を使用せず、PETが80%以上含まれている樹脂でUL94-V2合格レベルの構造体として使用可能な靭性の高い樹脂を開発した。
この開発では事前にOCTAであたりをつけた素材が選ばれ、PET以外の5種類のそれぞれ機能が異なる高分子が検討された。強相関ソフトマテリアルというコンセプトで材料開発を行ったのだが、3ケ月ほどで目標の材料組成を見出すことができた。
この技術開発は、一応OCTAで材料設計してあたりをつけた処方の成功事例と言えるかもしれないが、残念ながらOCTAを使わなくても退職後この仕事を見直して考案した弊社が提唱する簡便法でも同様の結果が得られることが分かった。
シミュレーションのおかげでできたかどうかよりも、この材料の面白い点は、カオス混合を行うと射出成型性も良好な樹脂となるが、通常の二軸混練機だけの混練では射出成型性が不良の材料となることだ。
すなわち混練プロセス依存性の高い材料となった。このような材料は、その技術をブラックボックス化しやすい。また、プロセス発明でありながら、特許に抵触しているかどうかの検出も容易である。
カテゴリー : 連載 高分子
pagetop
難燃性ポリウレタン発泡体や、フェノール樹脂断熱天井材、そして高純度SiCの前駆体高分子までリアクティブブレンドを用いて開発して、高剪断と高速回転による分散が分子レベルまでの混合を可能にすることを学んだ。
このリアクティブブレンドで何がどのように変化し均一になってゆくのかは、用いた原材料の配合から推定できた。ポリウレタン発泡体やフェノール樹脂断熱天井材では均一なセルを実現するために界面活性剤が必要だった。
しかし、高純度SiCの前駆体高分子では、反応を進行させるための触媒だけを添加すればよく、非相溶系の組み合わせでリアクティブブレンドにおける分子レベルの混合を検討するには適したモデルだった。
フェノール樹脂とポリエチルシリケートのχは大きいので、そのまま攪拌しても均一にならない。酸触媒が存在すると反応が進行し、攪拌している溶液が透明になってくる。しかし、どのような酸触媒でも分子レベルの均一化を実現できるのかというとそうではない。
また、その他の条件も同様で、混合条件だけでなく、組み合わせるフェノール樹脂や酸触媒により、リアクティブブレンドで得られる物質の均一性は影響を受けた。
これは、無機微粒子の混合と比較した時に高分子の混合における特徴を示している。また、低分子の溶媒を用いた分散ではSP値が用いられ、その値で推定されるおおよその分散状態と実際は大きな差異は生じない。しかし、高分子のブレンドではSP値から期待される均一性は、経験では50%程度しか再現されない。
また、高分子ではSP値よりもχを用いたほうがよいとされるが、このχについてフローリーハギンズ式から推定される結果とスピノーダル分解速度とは相関しない。このような状況なので、実際の混合プロセスにおける現象は、それを実施してみないとわからないというのが現実である。
カテゴリー : 一般 連載 高分子
pagetop
非相溶系の高分子の組み合わせを相溶させる方法はリアクティブブレンドしかない、すごい研究だと当方の学会発表を聞かれて称賛されたのはT大のO先生である。T大で学位を授与するから熱分析のデータを見せてくれ、といわれたので、U本部長に承認を得たのち生データを渡したら勝手に学術論文として発表されてしまった。
学位を早く取りたいといわれたので書いた、というのがO先生の言い分だが、企画から実験まで全然携わっていないのに、ご自分を第一著者として論文を書いてしまう厚かましさに呆れた。
高純度SiCの前駆体が均一にできているということは画期的であり、ノーベル賞級とおだてられても腹の虫がおさまらないほど腹が立ったが、学位を出すから、と言われたのでいわゆる大人の対応として我慢した。
その後写真会社へ転職したら、同じくT大のH先生が今回学位の審査をO先生と担当するから写真会社からも奨学寄付金を入れてください、と言われた。ゴム会社では本部長決済でそれなりの金額の奨学寄付金を納めていたはずだが、これまた厚かましい申し出である。
自分の企画した研究を勝手に論文発表されたうえに奨学寄附金の請求もあったりで、気分は真っ暗なブラックホールというよりも、何か悲しく自己実現のゴールがこのような状態となり惨めな気持ちも生まれカオス状態となった。
当方の貯金を奨学寄付金として支払い学位を取得するのがよいか、このようなアカデミアの対応に三行半をたたきつけて学位をあきらめるのか迷ったが、学位の意味やその人生における価値を再度沈思熟考し、結局後者を選んだ。
その後日本化学会の懇親会でK先生から当方の学位取得を問われ、一部始終顛末をお話したら後日中部大学W先生をご紹介くださった。W先生はSiCのご専門ではなかったので、学位論文のまとめ方を変えて内容が審査できる状態ならば審査しましょう、ということになった。
それで、修士の時に発表した3件の学術論文と業界紙や学会研究会の雑誌に掲載された論文などかき集め、まさにカオス状態のこまごました研究テーマを混ぜ合わせた学位論文としてまとめ上げた。
新入社員時代の指導社員から「混合」というプロセシングはすべての分野で問題となるので、これをよく勉強するのは重要と教えられたが、まさか学位論文をまとめ上げるのにも役立つとは思わなかった。
プロトン導電体から高分子の難燃化技術、さらにはセラミックスとまさに様々な分野の研究成果をカオス混合して当方の学位論文は出来上がった(注)。
学位論文の表題の手直しや、一部構成の手直し、その他細々とした体裁など懇切丁寧にご指導いただき、審査料8万円ポッキリで中部大学から学位を頂いた。この金額と比較するとT大に支払われた奨学寄付金の額はボッタクリバーよりも悪徳なレベルである。しかも学位論文のまとめ方について満足な指導も無かった。
その内容を読むと研究する価値があるのかどうか不明な、乱雑で手書きされた、およそ手本となりそうもない審査の完了した学位論文を見本として、O先生は貸してくださっただけであり、あたかもこの程度でも学位が取れる、と言いたげだった。
まとめ始めていた学位論文の主要部分を扱っている研究論文が第二著者となった論文で大丈夫かと質問して不安になっていた小生を安心させるためだったのかもしれない。どの世界でもネオンの様なきらびやかな看板には誠実さではなく偽りがあるということだろう。
スタップ細胞の騒動では、これまたきらびやかな看板のW大におけるコピペの学位論文審査が問題となったが、当方の経験からすれば、審査の先生はもちろん問題だが学位論文の著者にも責任があるように見える。
コピペだからという理由で学位を授与後取り消しても問題解決とはならない。一番の問題は、大学の学位審査がどのような指導あるいは運営で行われて来たのか、という点である。その指導が不誠実であれば、教え子も不誠実を学ぶことになる。いつの時代でも師の偉大さはその弟子を見よと言われている。
中部大学では、20年以上前から英文で書かかれた論文をすべて日本文で書き直す(当方は、すでに英文で発表した論文をそのまま使用できるので英文の方が便利だったが、日本語に訳すのは英語論文のコピペ防止策と言われた)ような厳しい指導と語学試験など、審査料が赤字になるような懇切丁寧な指導がフルコースで行われていた。
だからT大のような、仮に研究論文にそれなりの価値があったとしても、お金を持ってくればすぐに出します、というユルイ審査の姿勢には疑問を持ってしまう。
アカデミアの先生には、聖人君主のような方から他人の研究は何でも自分の成果と誤解しているようなとんでもない先生までさまざまである。
ただ、いつの時代も社会はアカデミアの知に期待していることを忘れないで欲しい。学位の社会的価値が下がってきているが、当方は中部大学から授与された学位が、自己実現の一つのゴールとして人生の支えになっている。
中部大学の先生方の審査料を顧みない誠実真摯な指導と、自分の書いた英文を訳しながら自己嫌悪になったり、ドイツ語の試験も行うといわれてくじけそうになっただけに、苦労して取得した学位の価値は身に染みている。
(注)学位論文のタイトルは、「ホウ素、リン、ケイ素化合物によるケミカルプロセシングとその評価」であり、材料創成のプロセシングに視点を置き、まとめている。この作業で電子材料から構造材料までのプロセシングについて考え直す機会となった。これが現在の飯のタネになっているからSiCを中心にまとめ、安直に仕上げた英文の学位論文でかまわないといわれたT大の学位審査を辞退したのは良い判断だったのだろう。亡父から人生に迷ったら苦しい道を選べと教えられたが、これまでの人生では、この言葉に従いすべて良い方に転がっている。例えば、学位論文を読まれた方から、「機能材料」への投稿を勧められ、当方の学位論文の要約が2号にわたり掲載された。ゴム会社ではゴムの混練からセラミックスの焼結まで担当させていただいたが、材料を形にして機能を出すまでの過程にもそれなりの哲学が必要である。本来は科学の対象として研究されるべき分野のはずだが、アカデミアでは研究分野として成功していない。かつて化学工学という講座があったが機械工学との相違が明確でなかった。おそらく経験知や暗黙知の占める割合が多い分野なのでアカデミアで扱いにくいのかもしれないが、それゆえに形式知として研究する必要があると思っている。もしプロセス分野についてそれなりの形式知が出来上がっていたなら、STAP細胞の騒動ももう少しまともな方向に収束していたのではないか。STAP細胞はプロセスがその機能を決めているように夢想している。
カテゴリー : 高分子
pagetop
SiCは、エジソンの弟子アチソンによりシリカを炭素で還元することにより世界で初めて合成された。しかし、セラミックスフィーバーの起きた1980年代でさえ、その反応機構について様々な提案がなされていた。
原因は、シリカが高温でSiOガスを生成し、それがカーボンと反応する気相の反応が固相反応と同時に進行するためで、シリカとカーボンが固相で均一に生じる反応だけを取り扱うことが難しかったからである。
ゆえにSiCのシリカとカーボンとの反応機構は、気相反応を組み合わせた様々な機構が報告されていたが、シリカとカーボンが気相を介さず純粋にその反応だけが進行する均一固相反応の取り扱いには誰一人成功していなかった。
ポリエチルシリケートとフェノール樹脂のリアクティブブレンドで得られた前駆体では、それを1000℃まで不活性雰囲気で加熱するとシリカと炭素が分子レベルで均一に混合されたシリカとカーボンの固体が得られる。
工業的には、リアクティブブレンドにより得られたこの固体が均一であるかどうか品質管理する方法が問題になる。科学の立場では、この固体を用いて均一固相反応の解析が可能ではないか、という仮説が生まれる。
ゆえに、2000万円を投じて2000℃まで1分以下で昇温できる熱天秤を開発し、品質管理と基礎研究に使用した。
レーザーと赤外線イメージ炉を熱源とした、ほとんど手作りに近いこの熱天秤で均一固相反応の速度論的研究を企画から実験まで当方一人で行っている。
この解析結果が得られたことにより、リアクティブブレンドで得られた前駆体の品質管理が目論見通り可能になっただけでなく、それまで知られていなかった固相反応だけで進行するSiCの生成機構も明らかにすることができた。
これらの技術開発と研究は、1983年にゴム会社で行われ、熱分析の結果はゴム会社の発表許可を得た当方により日本化学会年会で口頭発表されているが、その数年後発表された研究論文では第一著者は研究にはかかわっていなかった外部の人物となり、苦労して熱天秤を開発し解析した当方は第二著者となっている。これは、アカデミアでさえ誠実さを軽視していた時代のできごとである。
カテゴリー : 電気/電子材料 高分子
pagetop
貴乃花親方が9日、部屋の担当弁護士を通じて内閣府に対して告発状を提出した、とニュースで報じられた。これまでの一連の成り行きから、ほぼ予想された行動である。貴乃花親方を批判しているのではなく、日本女子レスリング協会でも起きていることだからとりあげた。
やや異なるカテゴリーに思われるかもしれないが、昨年報じられた燃費計測における不正や材料の品質データ改ざんが明るみに出た問題も同じような時代背景があるととらえている。すなわち、一昔前ならばいずれの問題においても、大人の対応なり、長いものに巻かれろ的発想が重宝され、何か問題が発生した時に事を荒立てないことが良しとされた。
あるいは、裸の王様のごとく真実を指摘すると子ども扱いにしたり、その場あるいはその組織から摘まみだされたりした。それは社会全体が誠実さを大切にしながらも誠実さでは現実を生きてゆけない、とあたかも誠実さを時には忘れることが大人の社会では大切という誤解をしていた時代だから許された。
しかし、振る舞いも含めた組織の価値が重視されるようになり意識は変わりつつある。企業はコンプライアンスを重視し、組織活動そのものがドラッカーが指摘したように誠実さを求められる時代になった。
また、情報化時代になり、過去には躊躇された匿名の告発が容易になった。その結果、大人の対応を求めていたのでは組織の不誠実さを社会にさらけ出すことになり、企業価値を損ねるリスクが大きくなった。
燃費のごまかしや、品質データの改ざんでは、インターネットの世界に内部告発の情報が出るや否や経営者による謝罪の記者会見が迅速に開かれるようになった。そして1社だけでなく組織内にその疑いのある会社は競って謝罪会見を開くという、不謹慎かもしれないがやや滑稽な光景がTVに映し出された。
相撲協会は、隠ぺい工作をしていたことが社会に明らかにされていてもそれを無かったことのように解決をはかる大きなミスを犯した。さらに第三者機関が間の抜けた対応をした結果今日の事態に至っている。
レスリング協会にしても被害者は伊調選手であるにもかかわらず、その事情聴取も行わないで、告発されるや否やそのような事実は無い、と否定するミスをした。パワハラなどの問題では、従来の対応では誠実さを欠くので誤解を招くことを知るべきである。
誠実さが無ければ解決できないセクハラやパワハラなどの撲滅が社会で真剣に取り組まれている時代である。組織で何か問題が起きたときに、昔の様な対応をしていたのでは、社会から組織そのものが罰せられる。
カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子
pagetop