高純度SiCの経済的な製造方法は、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂を用いる前駆体法だ。これらの原料の高純度品は価格が安く、これらの原料が反応した前駆体から製造されたSiCは精製しなくても高純度である。
ところで、この二つの原料をどのように均一に混合し、前駆体を合成するのか。30年以上前に無機材質研究所から出願した基本特許には詳細な説明を書いていない。
高分子に詳しい人が実施例を読めばリアクティブブレンドであることに気がつくはずであるが、これを実際に行ってみると、ポリウレタンのリアクティブブレンドよりも難しい。
なぜなら、混合攪拌した材料がすぐに相分離し不均一な前駆体しかできないからだ。それでもSiC化の反応でカーボンを大量に残す覚悟があれば、このような不均一な前駆体でも高純度SiCとカーボンの混合された粉体を製造可能である。
しかし、化学量論的に均一にSiC化の反応を行いたいときには、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の反応が均一に進行するリアクティブブレンドで製造される前駆体を用いなければならない。
以前この欄で、この前駆体合成ルートについて試行錯誤で求めた、と書いたが、試行錯誤でもむちゃくちゃに実験していては反応条件を見つけることができない。試行錯誤には、うまいやり方があるのだ。
試行錯誤は、非科学的とされるが、ラテン方格を利用した実験計画法やタグチメソッドもある意味試行錯誤である。すべての実験を行う代わりに統計科学的に均等に任意の実験条件をラテン方格を使って選び、最適条件を求めている。
これ以外に、過去の形式知や経験知を活用し試行錯誤を効率的に進める方法がある。戦術図と戦略図を使う弊社の方法である。形式知はすべて正しい、とされているが、形式知には、ある特殊な条件でのみその真が保証されたものがあり、条件が外れたときに成立しない場合がある。このとき新発見が生まれる。
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ペレットに異常があるとどのような影響が成形体に現れるのか。ペレットにスが入っていただけでも成形体に問題が現れる。
ペレット一粒ごとに熱した針金でスを入れて射出成型を行うと、ウェルドとか樹脂の流れの末端にあたるところに空隙が集まったりする現象が観察される。そしてその部分は本来の樹脂が示すはずの強度が得られないだけでなく、靱性も低下していたりする。
このようなモデル実験を行ったうえで異常なコンパウンド納入業者に問題を指摘してもそれを認めない、という話を以前ここで紹介している。そして、現地の工場監査を行ったところ、壊れた温度制御器を使用してコンパウンドを生産していた実態を見つけた。
神戸製鋼の不正問題と同じ程度に問題にすべき実態だったが、そこは中国のローカル企業だった。日本企業が国内生産ではコスト競争に勝てないので、中国ローカル企業に生産委託していたのだ。
このような場合に責任はもちろん生産委託している日本のコンパウンドメーカーにあるはずだが、300℃を超える温度を表示していた写真を見せても動じない。中国ローカル企業だから、とうそぶいている。そしてボス割れの原因はケミカルアタックだという主張を曲げない。
遠山の金さんのように、カッコつけてスの入ったコンパウンドを並べて見せて、これでもコンパウンドの異常を認めないのか、といったら、スの入った状態だけ直します、となった。神戸製鋼の不正問題のほうが潔い。
コンパウンドの異常と成形体の因果関係を科学的に完璧に証明できるほど、現在の高分子科学は進歩していない。樹脂の信頼性を重視するならば、中間転写ベルトの事例で説明したように本当は自分たちでコンパウンドの生産も行ったほうがよい。
スのはいったコンパウンドメーカーのコンパウンドを今後いっさい調達しないように社内の関係部署に報告して問題を終結した。やはりだめなコンパウンドを納入していた類の問題だが、素人は黙っとれ、といったメーカーのほうが信頼できる。
ただ、コンパウンディング技術が当方のレベルに無かっただけで、そのコンパウンドで成形するとベルトの歩留まりは常に10%以下と品質は安定していた。ただし当方の立ち上げたラインのコンパウンドを使用した時には、成形歩留まりは100%近かった。
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中古の設備で建てたコンパウンドラインだが、コンパウンドの品質管理方法はいろいろと工夫した。ペレットの外観検査は当然だが、フィーダーの情報から混練機の稼働情報まですべてデータロガーに保存し、原料を加工し、ペレットになるまでの生産ライン制御情報をいつでも参照できるようにした(注)。
さらに、ペレット段階でベルトになった時の抵抗を予測する品質管理技術も開発した。一つは粘弾性試験機で抵抗偏差を予測する強相関ソフトマテリアルの性質を利用した評価技術だ。
もう一つは、抵抗の絶対値そのものを予測できるインピーダンス法の検査法だ。いずれもコンパウンドの品質安定化に寄与し、工場立ち上げ後退職するまでトラブル0だった。
コンパウンド側だけでなく、押出成形にも表面比抵抗のばらつきについて、その信頼性を上げる工夫をしている。すなわち材料設計を行い、押出成形段階で形成されるカーボンクラスターの構造を制御できるようにした。
しかしこれは少し誇大な表現で、正直に書くと、そのように期待して材料設計し、バンバリーで試作したコンパウンドが期待通りの構造となった。そこで運を天に任せてカオス混合を行ったらわずかに生じたスピノーダル分解により、その高次構造が実現された、となる。
実際にどのような技術ができたのか説明すると、カーボン添加量が1wt%程度ばらついても、押出成形における引取速度を制御すると品質目標どおりの表面比抵抗を実現出来る技術だ。実際には1wt%も添加量がばらつくことはないので、ほとんど利用価値のない技術だったが、このような技術でもあれば現場は安心する。
(注)このようなことまで格安で請け負ってくれた混練プロセス製造会社が日本にあるのだ。
また、最近神戸製鋼や日産、スバルなど品質管理が関わる大きな事件が起きている。新入社員をゴム会社で経験できたことは大きい、と考えている。製品の品質問題はメーカーの突然死を招くほどの重大な問題である、と教えられた。工場実習をしても現場の隅々までこの考え方が浸透しており、ビックリした。「タイヤは命を載せて走っている」は、当時この会社の商品の宣伝コピーだったが、決して誇大広告ではなく、その精神で現場の末端まで品質の重要性を意識し働いているのだ。モノ造りで品質管理工程はお客様の信頼が得られるかどうかの最後の砦である。設計技術が優れていてもこの工程がお粗末であれば市場競争に負けるのだ。ゴム会社が入社時世界ランキング6位からトップになれたのもこの品質管理技術に対する考え方が徹底されていたからと思っている。
ラインの設備は中古だが、ゴム会社で教育された精神に従い、そこから生産されるコンパウンドの品質は世界一を念じ、品質管理技術を短期間に開発している。カオス混合技術の発明からライン稼働まで半年であり、そのうえこのような品質管理技術まで開発した苦労を周囲は知らない。単身赴任した時に採用した中途入社の若者と定年前で少しやる気が無くなっていた、毎日サングラスをかけてパイプを離さない現場のオッサンの成果である。3人で楽しく徹夜をした思い出が宝として残っている。
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トヨタ自動車は、神戸製鋼の不正報道以後、納入された材料で製造された製品に問題なしと発表している。金属材料も、材料合成と成形プロセスが異なったメーカーで行われるので、成形プロセスメーカーに技術力があれば、多少の材料ばらつきを成形プロセスで補うことが可能だ。
高分子材料の射出成型を研究されているある高名な先生に、射出成型技術の研究目標は、と尋ねたら、どのようなコンパウンドが提供されても安定な射出成型ができる技術開発だと申された。
「その実現は無理です」とあっさり返したら、究極のターゲットに対してチャレンジしてゆくのがアカデミアの研究だ、と威勢のいいことを言われた。ぜひ頑張ってほしい、と思ったが、このような考え方が実務では誤解を生む原因となる。
だめなコンパウンドからは良好な成形体を作れないのだ。10年以上前に押出成形でPPS中間転写ベルトを開発したが、外部のコンパウンダーから提供されたダメコンパウンドをあきらめ自分でコンパウンド工場を建ててゴールを実現している。
外部コンパウンダーは、成形技術がダメだ、と主張し続けていた。前任者が6年間開発してきて、満足な歩留まりの得られなかったコンパウンドに見切りをつけたのはコンパウンダーの「素人は黙っとれ」という一言だった。
半年後に製品としなければセンター長の首が飛ぶかもしれない状況で信頼性の低い外部コンパウンドと心中する気持ちにはなれなくて、センター長に「素人ですが投資をしていただけますか」とお願いした。
「その正直に投資をしよう」ということで得られたお金が8000万円。ゼネコンから頂いていた建設費見積もりが2億5000万円。中古の機械を集めて自力で立ち上げるしかなかった。従業員10名ほどの根津にある中小企業には大変お世話になった。
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神戸製鋼で新たに不正が見つかった、との報道があった。品質検査の数値の改竄以外のようだが、これだけ不正が続いても市場で供給された材料の品質問題が現れていない。
金属材料のロバストの高さ故のことだが、おそらくそれを肌身で知っているので軽い気持ちで不正を行った、というのが実体ではなかろうか。
もちろん軽い気持ちの不正だからそれが社会的に許されるというわけではなく、軽い気持ちで品質検査を行っても市場で問題が起きないのが金属材料、と表現したいだけだ。
これが樹脂になってくると大変だ。いい加減にコンパウンドプロセスを管理していると市場で必ず問題が発生する。
高分子材料は、金属材料に比較してロバストが極めて低いのだ。ゴム会社における当方のキャリアはセラミックス技術者で、金属材料も扱ってきた。写真会社のキャリアは高分子技術者である。
高分子材料からセラミックス、金属材料まで扱ってみると、金属材料のロバストの高さが光る。セラミックスや高分子材料と比べて100倍から1000倍高いような感覚である。
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自動車の動力がエンジンからモーターへ変わるというので自動車部品メーカーは大変である。特にエンジン周りで事業展開をしてきた企業は、事業そのものが無くなる可能性がある。
新事業を自動車部品で立て直しを図ろうとするときに問題となるのは、未経験の材料を取り扱わなくてはいけない状況である。金属材料を扱ってきた感覚で高分子材料で部品設計を行うと大変なことになる。
1980年代のセラミックスフィーバーでは、耐熱合金をセラミックスで置き換えるにあたりセラミックス材料に関する信頼性工学が誕生している。
材料に関する信頼性工学は、セラミックスだろうが金属だろうがその基本は同じだが、セラミックスは金属に比較して極端に靭性が低い。この点が問題にされ、ワイブル統計で盛んに議論された。
しかし、高分子材料に関してはその歴史においてセラミックスのように真剣にその信頼性が議論されたことがない。その結果、新たに樹脂材料をエンジニアリング材料として扱わなければならない企業では、品質管理技術の開発が重要となってくる。
来年4月頃を目標にして、樹脂の信頼性に関する講演会を行いたいと思って準備をしている。先日行った講演会が好評だったが、体験を中心に伝えてどこまで受講者にその思いが伝わったか不明である。
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一般的なシリコーンLIMSは、A液とB液の2液に分かれている。これを例えばスタティックミキサーで混合し、金型へ注入し、その後150℃前後で反応させ、最後は200℃に4時間程度放置して完成する。
注型後、短時間の反応で完成するシステムもあるが、高性能のゴムを得るためには二段階の熱処理プロセスを必要とする。
困ったことにこのLIMSを供給しているメーカーごとに特徴があり、それぞれ微妙に得意不得意な分野が存在する。それをメーカーはユーザーに明確に説明しない。
ユーザーはそれぞれのメーカーについてよく研究して材料選択を行うべきだが、これが難しい。10年以上前、定着加熱ローラーの仕事を担当した。その時、この3社の特許を整理してびっくりした。
必ずしもトップメーカーの製品がよいわけではなく、製造条件を工夫すると、トップメーカーでは実現できない性能が得られるあまり売れていない材料もあった。
登場して30年以上の歴史があるにもかかわらず、各社各様のシステムになっているのは、特許回避を行った結果高分子の教科書に書かれている常識を超えた進歩を遂げたためだ。材料科学の面白さである。
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シリコーンゴムは、最近身近な材料の一つになってきた。以前は工業製品の用途が主体であり、一般の用途としてあまり使われていなかったが、料理用耐熱鍋とか下着まで登場した。
シリコーンゴムには、あらかじめ高分子量のシリコーンポリマーを製造し、それを架橋したミラブルタイプと液状のモノマーやオリゴマーを重合しながら架橋反応まで進めるLIMSタイプが存在する。
シリコーンLIMSは1980年代にミラブルタイプのコストダウン版のシリコーンゴムとして登場した。ミラブルタイプのシリコーンゴムは、通常の加硫ゴムと同様のプロセスコストがかかったが、LIMSでは液状で注型でき、それを加熱するだけで複雑形状の製品まで安価に容易に製造できるようになった。
その結果耐熱性のあるシリコーンゴム製品のCDが進み、身の回りの製品まで使用されるようになった。シリコーンゴムは200℃以上の耐熱性があり、有機高分子には無い性質を持った無機高分子の仲間であるが、LIMSはミラブルタイプに比較すると耐熱性や力学性能が若干劣る。
物性がやや劣るLIMSの見かけはミラブルタイプと変わらないので注意が必要だ。さらに製造工程が十分に管理されていないと、見かけ倒しとなるような物性になる場合もあり、やや危ない材料でもある。
2005年に豊川へ単身赴任したときに、この見掛け倒しのLIMSのため盆休みが吹っ飛んだ思い出があり、シリコーン製品を見かけると軽く応力をかけてみたりする。まれに問題のある製品が店頭に並んでいるので注意が必要だ。
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昨日ゴムのへたりで失敗した話を書いた。樹脂でもゴムでも応力耐久性はアーレニウスプロットあるいは温度時間換算則を用いたクリープ予測を行ったりする。
例えば某社のハイアマチュア用フィルムカメラF100のフックが自然に破壊していた話を以前紹介したが、開発設計段階でアーレニウスプロットやクリープ予測などを行い、寿命設計を行っていたはずだ。
予測なので当然ばらつきを覚悟しなければいけないが、F100の機能はこの蓋のフック以外は壊れておらず、自動露出の値などは正確である。購入してから10年ほど経っているのであきらめろ、という意見も出てくるがこのカメラは3年ほどしか使用していない。
だから、フックの破壊は、蓋の開閉繰り返しによる疲労破壊ではなく、裏蓋のバネで負荷がかかりクリープ破壊を起こしたことが確実で、その壊れ方が気にいらないのだ。10年間使い続け疲労破壊したのならばあきらめがつくが、防湿庫に大切に保管していただけで破壊しているのである。
明らかにこれは高分子材料のことをよく知らない技術者が材料設計したにちがいないことが明白なのだ。もっともこのような耐久性の寿命予測についてアーレニウスプロットを行うことはJISでも決まっていたり、教科書に書かれていたりするから始末に悪い。
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高分子の結晶や非晶の性質などを考えていて、高分子の流動性を制御するアイデアを思いついた。これは、フィラーを高充填した熱伝導樹脂の問題にも活かせるはずだ。
フィラーを添加して熱伝導樹脂にする技術は、成形性を考慮し既存技術の範囲で問題解決するとそのフィラーの充填率に限界が出てくる。また、その限界の中で熱伝導率の高いフィラーの特徴を活かすことができない。
公知のように熱伝導樹脂では、充填率を50vol%以上にするとフィラーの熱伝導率の効果が少し出てくる。さらに充填率をあげてフィラーの熱伝導率を活用するにはフィラーの粒径分布をデザインしなければいけない。
ここまでは20世紀の形式知の範囲で問題解決できる。しかし、このような高充填率では、熱伝導樹脂の流動性が損なわれる。この問題の解決方法について形式知だけでは問題解決できない。非科学的な経験知が重要になってくる。
電気粘性流体の増粘問題は、その解決法を上司や他のメンバーに忖度して形式知の範囲で科学的に説明している。しかし、女神が確かにほほえんでくれた。残念ながらその微笑みはカーボンで汚れた微笑みのためあまりきれいではなかった。
その時はきれいではなかったが、大切にしてきたところ、昨年女神の顔が美しくなり、新たな材料の開発に成功した。この発明は瞬間芸的に生まれている。当方の発明では女神との交際期間が長くなるので、このような瞬間に生まれる場合が多い。
新たな開発成果は、高分子の流動性を著しく改善する技術である。現在の所、実施例は少ないが、用途が広がれば新たな形式知を生み出す発明になるかもしれない。このようにフィラーを用いた高分子の機能化ではフィラーよりも高分子の技術が重要になってくる。
既存材料の熱伝導率については20世紀に測定されている。現在進歩が遅れているのは高分子物理の世界で、金属材料やセラミックスでは形式知の体系が固まっているが、高分子についてはいまその階層構造の認識が実務に広がり始めた段階である。
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