上海近郊の大学で見学した混練機は怪しげな設備であったが、混錬性能をあげるためにはロータの改良が重要という主張は正しいと思った。そして押出部分とロータ部分を分けた設備を開発している点は間違っていないが、ロータの改良をしている、といいながらも見せてくれたロータの種類は少なかった。
ただそのすべての形状は印象に残った。モーノポンプと呼ばれる特殊なポンプに使用されているスクリューとロータを組み合わせたような形である。恐らくロータに送り機能をつけたくて考え出された構造と思われるが、通訳の説明にはそのような解説は無かった。
また、押出機と組み合わせているのでそこまで考えて設計していないのかもしれない。しかし、もしヤマカンであのような構造に至ったとするならば面白い、と帰国する飛行機の中で考えた。やや怪しげな先生だったが、もしかしたら混練マニアかもしれない、と思った。
雑談では混練技術をライフワークとして考えているとか世界中で自分ほど混練技術を研究している研究者はいない、とか連発していた。そして混練技術の教科書的な説明を数式をまじえながら説明するその姿は自信に満ち溢れていた。見える化した二軸混練機はその先生の自信作だ。
ただ残念だったのは高分子と混練技術の関係を質問しても答えていただけなかった点である。一応高分子が専門と自称していたが、面談で9割は混練設備の話で残り1割はナノカーボンを分散したというポリエチレンシートの話である。
このポリエチレンシートの話では、本当に分散が成功したのか示す証拠を見せていただけなかっただけでなく、日本の高分子学会技術賞を受賞した、粘土を高分子にナノ分散した研究のこともご存じなかった。
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二軸混練機の運転で難しいのは、スクリューセグメントの設計と混練温度である。スクリューセグメントについては押出機として使われていた時代から様々なデザインのスクリューがある。スクリューを眺めているとその時代の技術者の思いが伝わってくるようなものもある。
30年以上前に二軸混練機を使用していた技術者は、あまり練を意識していなかったように思われる。混合を促進する構造のスクリューばかりである。ローターを発明した技術者は恐らくこの点に着目したのかもしれない。この30年間に様々なローターが開発されている。
上海近郊にある某大学で混錬を研究しているという先生の紹介を受けた。ポリエチレンにナノカーボンを分散する研究を行っているという。そして、その先生の独創とされるすべてロータで構成された混練機を見せられた。
押出機と組み合わせて使用するような構造で、実験室には、それも独創の押出機と組み合わせて、システムとしてオリジナルな設備だと説明していた。そしてそのシステム構成に秘密があり、詳しくは教えられない、と言ってきた。
どこが秘密なのかさっぱりわからなかったが、ナノカーボンの分散に成功したと言われるポリエチレンシートを見せられた。真っ黒なポリエチレンシートを渡されたが、その電顕写真はこれから撮影するのですぐに返せという。怪しげな説明である。
その後混錬の講義をするというので、1時間プレゼンテーションを聞いたが、一般の教科書に書かれた内容の後に独創と称するロータの写真が少し述べられただけのがっかりする講義だった。混練機のシステムやロータが独創であることを何度も聞かされたがその性能の発揮された十分な証拠を見せていただけなかった。
現地通訳を介しての説明なので我慢していたが、プレゼンテーションが終了してからウトラッキーのEFMの評価を聞いたところ、ウトラッキーなど知らない、といい、EFMはなんだ、と聞いてきた。伸長流動装置のことだ、と言ったら、どんな構造をしている、と聞いてきたので、議論をやめた。
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バンバリーや二本ロールで樹脂を混練する人はあまりいないと思うが、ぜひ一度試してほしい。例えばオープンロールで樹脂を混練すると、時間はかかり、樹脂によっては面倒な現象が起きる。しかし目的とする温度で丁寧に練り上げることができるので、特定の温度で混練された樹脂サンプルが必要な時に重宝する。
15年ほど前にパルプとポリエチレンの複合材料をロール混錬で製造し、異臭のしないパルプ樹脂複合材料を開発した。二軸混練機やKCK、バンバリーで混練すると、どのように温度調整しても異臭のする複合材料しかできなかった。しかしオープンロールで混練したところ、パルプの熱分解物が人間の鼻では感知できないレベルの量になった。
これはオープンロールだから臭気が揮発した、というよりも混練温度を管理することができた効果である。すなわち二軸混練機やKCK、バンバリーミキサーなどの密閉系混練プロセスでは、温度計の指示温度よりも10℃以上高い温度がサンプルにかかっている。実際にどの程度の温度がかかっているのかはスクリューの構造にもよる。
二軸混練機のシミュレーターによれば、指示温度よりも20℃以上も高くなる場合もある。もちろんこれは二軸混練機のスクリューセグメントの設計や運転条件、混練時の樹脂粘度にも依存し、ケースにより大きく異なるが、二軸混練機の設定温度よりも高い温度に樹脂がさらされていることは確かである。
パルプ樹脂複合材料は、異臭の発生を抑えるために温度を低く設定しようとする剪断発熱が多くなり、混練時に加熱が不均一になりやすい。その結果いくら低温度にしても部分的にパルプの熱分解温度以上になるところができて、異臭が発生する。ゆえに密閉系の混練機を使用した場合には異臭の発生を抑える混練条件を見出すことができなかった。
シミュレーションの結果では最適点が見出されたが、実際に混練してみると複合材料の混錬をパルプの熱分解温度以下で混練することができなかったので、剪断発熱が予想以上に多いと推定された。新入社員の実習経験から想定内の出来事ではあったが驚いた。
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二軸混練機で樹脂を混練する時に剪断混練という技がある。この剪断混錬では二軸混練機の温度設定にノウハウがある。詳細は問い合わせていただきたいが、そもそも混練プロセスは、教科書に書かれている事柄よりもノウハウが多い。
二軸混練機では、吐出量とシリンダー温度、スクリューの回転数以外に制御因子は無い、と思っている人が多い。そのほかにも制御因子は存在する。例えばストランドで押し出した場合には、冷却水槽の温度も成形体の物性に影響を与えるし、フィーダーの位置や、添加剤の投入順序も制御因子になる場合もある。
2種以上のポリマーからなるポリマーアロイではポリマーの投入順序で物性が影響を受ける場合もあるので注意が必要だ。また2種同時に添加する方法が良い結果をもたらさないこともある。目標とするポリマーアロイの物性に応じて混練プロセスをデザインする必要が出てくる。
特許や学術文献には、このあたりの情報が詳しく書かれていない。ノウハウであると同時に一般則として表現できないためである。例えばPPS系のポリマーアロイではKCKと呼ばれる石臼タイプの混練機で混練した時と二軸混練機では、同じ連続式混練機であるにもかかわらず、異なる高次構造のポリマーアロイが得られてびっくりしたことがある。
バンバリーではバッチ式なのでその運転方法により、異なる高次構造をデザインできることを知っていたが、KCKと二軸混練機の使い分けでそのようなことができることを知り、少し面白く感じた。混練作業は3Kの類であり、あまり好きな作業ではない。しかし、時々遭遇する難しく珍しい現象には、好奇心が刺激され何か気持ちよくなってくる。この気持よさは癖になる。科学で解明されていない技術は多いが、混練プロセスでは密閉系非平衡の現象なので、科学で完璧に解明できない。
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温度が強度因子であることを知らない人が多い。ただ一点の温度計測で全体の現象を捉えようとすると、大失敗をする可能性が高くなる問題の一つに混練プロセスがある。
強度因子とは何かを説明するために、高校で習うニュートン力学の大前提を書くと、対象とする物体が剛体であるということだ。剛体とは力が加わった時に変形をしない物体で力のロスも起きない架空の物体である。このように高校の物理で剛体を仮定するのは、そうでない場合に問題が難しくなるからだ。
ある物質に力を加えると多くの物質は微小変形する。ゆえに力を加えた点で計測された強度の値が、他の場所を計測した時に同じ値になるとは限らない。このような計測点が異なると値が変わる、あるいは一点の計測値がその系の全体を説明するわけではない因子のことを強度因子と言う。
温度は計測している系が平衡状態にある時に、その系を代表する値となる。しかし現実の系は完璧な平衡状態を作りだすことが難しいので一点の温度計測で得られた値がその系のエネルギーを示しているとは限らない。熱分析装置で装置によりデータが多少異なってくるのはこのためである。ゆえに熱分析装置を扱う時には必ず標準サンプルを測定して温度の誤差を確認してから計測することがのぞましい。
二軸混練機はいくつかのゾーンで構成され、各ゾーンに熱電対がセットされている。例えばL/Dが40程度の二軸混練機の場合には10ゾーン程度に分かれている。この各ゾーンの熱電対が示す温度を手掛かりにヒーターの温度を設定するのだが、温度が強度因子であること以前に、10本の熱電対の誤差を日々管理していない人もいる。少なくとも沸騰したお湯に10本の熱電対をつけてみて皆同じ値を示すかどうかはチェックして欲しい。
熱電対の管理が十分になされていても混練プロセスで計測される温度には注意する必要がある。熱電対の位置である。各ゾーン同じ位置にレイアウトされているから安心して計測できていると思ったら大間違いである。例えば送りゾーンとロータなどが設置されたゾーンではシリンダーの構造に加工が施されている二軸混練機も存在する。
すなわちシリンダーの肉厚が変わっているのだ。さらに二軸混練機の運転状態では非平衡の状態なのでそこで示されている温度は参考データとしての意味しかない。あくまで見かけの温度制御を行うためだけの温度計の役割でしかない。
シリンダーを加工し樹脂温度を直接計測できるようにして、最初から二軸混練機に設営されていた熱電対との温度比較をしたことがある。混練条件や混練物質により、その二本の熱電対の温度差は変化した。偶然同じ値を示した場合もあるのだ。すなわち各シリンダーに設営された熱電対はシリンダーの温度管理のためだけに有効であり、実際の樹脂温度変化を捉えていないということを認識するのは重要である。
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リアクティブブレンドでは分子設計が重要である。シリコーンLIMSについて信越シリコーンやモメンティブ、東レダウコーニングの3社はそれぞれ異なったコンセプトで材料設計を行っている。恐らく特許の権利関係からこのようになったと思われるが、二官能のオリゴマーと架橋剤で構成された信越シリコーンの設計方針が最も素直なように思われる。そして電子写真分野における信越シリコーンのシェアは高い。
このLIMSの問題は、液状物質を均一な状態に混合できても、その後の鎖が伸びる反応と架橋する反応とが均一に生じるかどうか保障されていない点である。例えばローラ部品のような場合には長手方向に温度ムラができる。この点を理解していない人がいる。あるいは大学一年で習う物理化学の基礎の基礎を忘れてしまっている、と言った方が良いかもしれない。バーローやムーアが書いた物理化学の教科書でも数行しか触れていないから、これを焼きなおした日本人の著者による物理化学の教科書では欠落しているかもしれない。
ちなみにA教授の書かれた物理化学の教科書には、この大事な話が一言も書かれていない。本屋で立ち読みした程度だから欄外にでも書かれているかもしれないが、バーローやムーアのように本文にきちんと書いておくべき内容である。もしこの内容を軽く扱っている物理化学の教科書ならばゴミ箱に捨てたほうが良い。(その前に買わないほうが良い)
その内容を正しく知っていないと、研究開発の実務を行った時に問題そのものをわからなくする程度の重要な内容だからだ。フローリーハギンズの理論は知らなくても不自由しないが、この内容を知らないと目の前の現象を理解することもできない場合がある。また、この内容を知らないことについて恥ずかしいと思わない人が多い現実もあり、ますます問題解決を難しくする。
さて、なぜ均一な反応を実現することが難しいのか。それは反応によりエネルギー変化が生じるからで、そのエネルギー量を計測する手段は、一般には温度になるからである。エネルギーは容量因子であり温度は強度因子であることはまともな物理化学の教科書には最初に出てくる。これは実験を行う時に忘れてはいけないことで、大学に入って初めて習う重要な事項だ。また実務でもよく遭遇する基礎事項である。
大学で習ったことは実務で役に立たない、と言う不遜な技術者もいるがこれは大学で初めて習う事柄である。そして技術者が現場で現象を眺める時にいつも注意しなければいけない基礎の基礎事項である。この基礎事項を知らずに現象を眺めていると目の前の真の問題を見つけることができなくなる。
大学で習ったことが実務で役立たないという人がいるが、役立てる力量が無いのが問題で、当方は大学院までの6年間で習った事柄のほとんどを32年間に活用した。授業を聞いていた時には無関係と思っていた図学でもプロセス開発を行う時に最低限の図面を書く必要に迫られる。最初わらびや軍配などが出てきて難しいと思われた量子力学でも研究開発で遭遇する問題を基本機能まで分解する時に重要だ。電池開発をしない限り電気化学など不要と思っていたらゴム会社でLi二次電池を少し担当した。
学生時代に反応速度論などあまり科学的な内容ではなさそうだ、と軽く見ていたら追試を受ける羽目になった。100点を取らないと単位をくれないと言われ、何度も追試を受けることになった。教養部の必須科目なので落とすと留年する。当初一人だけ追試を受けているので、いじめではないかとも思ったが、丁寧に毎回問題が違っている。通常の追試ではありえないことだ。問題を考える先生も大変だ、と思っていたら種本があった。英文しかなかったその種本を海賊版で読み、半年後ようやく100点を取ることができた。
半期の反応速度論の授業を一年かけて受講したことになる。やる気に燃えた若い先生の授業は大変だ。おかげで反応速度論は得意科目になり学位論文の半分はシリカ還元法の反応速度論である。そしてゴム会社の高純度SiCのパイロットプラントは、図学と速度論を駆使して設計された。大学の知識が役立たないというのは、32年間のサラリーマン生活を振り返るとおかしな意見である。
50歳過ぎてラインから外れ単身赴任した時に、火が着いていた定着ローラの品質問題を解決した。この時に、部品メーカーのあまりにもお粗末な開発陣に憤りを感じた。シリコーンLIMSの経験について思い出すと基礎学力の重要性を考えてしまう。
部品メーカーの開発スタッフは偏差値の高い大学出身者が揃っており、温度が強度因子であることや反応速度論の問題を理解しているはずだ。しかし、生産現場はそれが伺われないお粗末な状況だった。
混練プロセスの問題なら同情もできるが、そのあとの科学的に対応可能なプロセスでいくつかエラーが放置され生産が行われていた。混練プロセスは科学的解明が難しいが、その他のプロセスで科学的に対応できるところは問題をすべてつぶしておかないと、混練プロセスの問題が見えなくなる。
科学の便利なところは、真理は一つ、という考え方にあり、問題解決を容易にする。混練プロセスは経験に依存するところが多いので問題解決が難しい。ゆえに生産プロセスで混練プロセスを含んでいるときには、その他のプロセスで科学的に解決できる問題をすべてつぶしておくことが重要である。
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高速撹拌で生じる剪断流動でχが大きな組み合わせでも一瞬均一になる、という現象は当時の常識はずれな事実であった。そもそも混錬の教科書では剪断流動は効率が高いが到達する分散サイズに限界があり、ナノオーダーまでの分散を行うためには効率が低いが伸長流動を行う必要がある、と書かれていた。
また学者も同様の見方をしており、そのような学術報告も発表されていた。しかし2000年ごろ推進された高分子精密制御プロジェクトでは産総研で高分子の高速撹拌機が開発され、剪断流動でもナノオーダーまで到達できることが示された。ただしこの装置は実用性がなくあくまで実験機である。また分子量の低下もあるので世間の評価はいまひとつである。
ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の混合物は液体であり容易に高速混合が可能である。酸触媒が加えられなければすぐに相分離するが両者の反応バランスを取ることが可能な有機酸(有機カルボン酸でもスルフォン酸でも良い)を添加すると透明なゲル化物が得られる。この段階で分子レベルのポリマーアロイとなっている。
これを炭化した生成物についてフッ酸でシリカを除去すると、あたかも線状分子二本分のシリカが抜けたような模様が現れる。すなわちシリカと炭素が分子レベルで均一に混合された化合物が得られたことになる。
これを1600℃以上でSiC化すると均一固相反応で見出されたアブラミーエロエーフの式できれいに整理できる反応機構でシリカの還元が行われる。
この反応速度論の解析を行いたくてわざわざレーザー加熱可能な熱天秤を2000万円かけて開発した。2000℃まで1分程度で急速加熱可能なこの天秤を用いて収集された速度論データはアブラミーエロエーフの式できれいに説明できた。
すなわち高速で発生する剪断流動は伸長流動と同様にナノオーダーレベルまで分散を進めることが可能である。10年ほど前毎分800回転以上の回転が得られる二軸混練機について書かれた論文を読んだが残念ながらナノオーダーまでの混練物が得られていなかった。すなわち高速剪断流動を実用化するのは難易度が高いのである。
リアクティブブレンドが一定の市場を確保し、材料開発が進められている背景には、混錬よりも容易に分子レベルの混合分散が可能であることも一つの要因である。また混錬では実現できないポリマーアロイも製造可能である。
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ポリウレタンRIMの普及が始まった時にゴム会社に入社し、しばらくしてシリコーンLIMSの市場が立ち上がった。リアクティブブレンドによるゴムの製造は、原材料が高くともプロセスコストが安価なために瞬く間に普及した。しかし力学物性の信頼性が加硫ゴムよりも劣るために特定の市場に普及し現在に至る。
バンバリーとロール混錬による加硫ゴムは1世紀以上の歴史があり、その最適化された力学物性の高い信頼性は、どれほど巧みな分子設計がなされたとしてもリアクティブブレンドのゴムで超えることができない。ポリウレタンRIMのタイヤへの応用研究資料を読む限り、最適化された加硫ゴムの信頼性は極めて高い。
しかしリアクティブブレンドでは練が必要無く、ただ混ぜるだけでゴムを製造することが可能でその簡易なプロセシングのメリットは大きい。さらにリアクティブブレンドでは、フローリーハギンズ理論に反するブレンドも実現可能である。新たなポリマーアロイを製造し、信頼性は劣るが加硫ゴムでは実現できない物性のゴムも製造できる可能性がある。
混錬プロセスでは実現できないリアクティブブレンドによる新規なポリマーアロイとして当方により開発されたポリエチルシリケートとフェノール樹脂のポリマーアロイを日本化学会で最初に発表した時にはSTAP細胞と同様の袋叩きにあった。以後この研究の学会発表は一切行わず論文発表のみで博士号を取得した。
なぜこの発表が日本化学会で問題になったのか。肝となる酸触媒を伏せたためと、あまりにもχが大きな組み合わせだったからである。すなわちノウハウとして重要な点を隠した結果信じてもらえなかったのである。
しかし分子レベルの分散を実現していたことは事実であり、その後速度論による均一固相反応を仮定した解析でもそれが示された。30年経った今でもこの前駆体高分子を用いた事業が続いている現状を当時の先生方はどのように思われるだろうか。
ポリエチルシリケートとフェノール樹脂を混合するとすぐに2相に分離する。そこへ酸触媒を添加してもシリカの析出速度が速いために不均一になる、というのが専門家の常識的な見解であった。その数年後、ケイ素の側鎖に芳香環をつけた化合物を利用し、ππ相互作用を使った有機無機ハイブリッドの研究が発表され学会で評価されている。
しかしそのような小細工をしなくてもプロセシング一発で均一にできるほうが経済的で材料選択の自由度も広がる。科学よりも技術成果の実用性に注目するとともに、そこには新たな科学のヒントが隠れていることにも気がついてほしかった。技術者が学会発表で期待するのは、科学的でないことに対する批判ではなく新たな科学の芽を見つけてもらいたいのである。
例えば、高速撹拌を行うことによりポリエチルシリケートとフェノール樹脂は一瞬均一になる。これは実際に実験を行わないと気がつかない。また、この一瞬の現象は撹拌速度が遅い時には生じないのである。高速撹拌で発生する剪断流動で分子レベルまで一瞬均一化するのである。もし質問があったならこの点を説明したが、学会では単なる低レベルの混ぜ物扱いと決めつけるような質問の嵐だった。
混合と分散におけるプロセシングにおいて材料がどのように変性されるのかという研究を見たことが無い。主に添加剤に関する研究が行われている。混合と分散に関する研究がこのような状況なので、練プロセスにおける材料の変性に関する研究についても同様だが、最近山形大学でこの点に関する研究が行われている。
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PPSを連続式混練機で混練した経験のある人は、例えばPPSという樹脂はカーボンの咬みこみが悪い、という表現をする。分散混合と分配混合の考え方でこの表現を聞いている限りでは間違いに気がつかない。
カオス混合プロセス装置を開発できたのは、この間違いに気がついたからだ。カオス混合装置を用いて分散したら、カーボンとPPSがうまく濡れたように分散された。換言すればKCKのような強力な剪断力を発生する混練装置を用いてもPPSにカーボンをうまく混練できなかった現象は不思議なことなのだ。
PPSとカーボンの混錬を経験している人は当方以外にもいるはずだが、PPSがカーボンの咬みこみの悪い樹脂という表現に疑問を持たなかったのだろうか。
PPSという樹脂の不思議な挙動について問い合わせていただきたいが、意外と当方の視点で考察された論文が無い。学者も気がついていないPPSの不思議な現象は混練プロセスを理解するのに良い事例である。すなわちPPSと言う樹脂を混練すると一般の混練機では練るのが難しいのである。
ここでPPSにはリニア型と架橋型があり、ここまでの話はリニア型についてである。架橋型についてはリニア型との比較で研究してみたいと思っているが市販されている架橋型PPSにはガラス繊維がすでにブレンドされており、材料の調達に苦労している。
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低分子どおしでは混合だけで一応の分散を実現できるが、高分子は混合だけで物質の分散を行えないと考えたほうが良い。実は低分子どおしの場合でも適切な分散剤が必要だが、高分子では分散剤を添加しても低分子どおしの混合レベルを実現できない。
高分子を溶剤で希釈し2%以下の濃度で初めて混合だけで分散が可能になる。このような大切なことが教科書に書かれていない。いろいろな高分子の混錬を経験して初めてわかることであり科学的な表現ではないからだ。
教科書には冷静に考えると科学的にも奇妙に思われる分散混合と分配混合が高分子の混練プロセスの説明に出てくる。混練プロセスのモデル化を行うために考え出された説明かもしれないが高分子の混錬技術を開発する時に現象の素直な理解を阻害すると思う。
ガラス繊維のようなフィラーの分散を行っているときにはこのようなモデル化で問題にならない、と言う人がいるかもしれない。そしてそのような人は、高分子とフィラーとの組み合わせの問題を濡れの問題として扱う。
濡れの程度によりフィラーの分散が変化する、という説明が適合している場合もあるが、濡れだけで考えていると新しい混練プロセスのアイデアを考えようとしないでフィラーの表面処理や添加剤で問題解決しようとする。また本来は濡れなければいけないフィラーと高分子の組み合わせについて、濡れが悪い、と現象を誤って捉えるケースも出てくる。
10年近く前、大阪の中小企業が石臼式とよばれる特殊な混練機を持っているというので、PPS/ナイロン/カーボンの混錬試作をお願いした。そこのおやじさん(社長)は、勘でこの組み合わせは良いと思うのだがなぜかカーボンの咬み込みが悪い、と言いながら混練機の脇からこぼれてくるカーボンを掃除しながら練り上げてくれた。
二軸混練機よりも少しほどPPSのTgが下がり、分析結果からベルトを押し出す時に良い結果を期待したがだめだった。樹脂とカーボンの濡れが悪く、混練機の脇からこぼれていたカーボンのことを思い出した。勘では濡れなければいけない組み合わせなのになぜ濡れないのか?この疑問がカオス混合装置開発の動機の一つになった。
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