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2014.12/11 非科学的問題解決事例-PENの巻き癖解消(7)

フィルムの高温短時間処理プロセスでは、急激な温度上昇とその後の制御された温度下降制御がうまくできるかどうかが勝負である。

 

すでに説明したように温度は強度因子であり、測定された値がフィルムに供給されるエネルギーとの相関は保証されていない。

 

難しい技術に見えるが、フィルムはオーブンの中を一定速度で動いているので、オーブンを細かく区切り、各ゾーンの温度制御を行う事で技術的に簡単に実現できる。

 

難しいのは、非平衡状態で実験を進めるので温度とエネルギーは無関係と考えるため試行錯誤実験となる点である。

 

科学的ではない実験方法だが得られた結果には再現性があるので技術として使える。

 

STAP細胞のように再現できないとその機能を技術で実現することは難しいが、この高温短時間処理プロセスはロバストの高い技術である。

 

ロバストが高い理由は、非晶部分の変化が意外と温度に対し鈍感なためではなかろうかと思う。温度に対して鈍感なので、Tg以下の熱処理では時間がかかるが、高温短時間処理では、条件を見つけてしまえばロバストの高さとしてその現象を技術として利用できる。

 

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2014.12/10 非科学的問題解決事例-PENの巻き癖解消(6)

高温短時間処理プロセスはTg以下のアニールよりも難しいが、Tg以下のアニールよりも短時間で非晶部分の均一化が進む。おそらく高温短時間処理では非晶部分は均一になっているのではないだろうか、と思ったりもする。

 

材料科学分野で結晶の科学は20世紀著しい進歩をした。当方も高分子前駆体を用いた半導体用高純度SiCの合成研究でSiC微結晶生成の反応速度論を研究し、貢献している。しかし、非晶質については科学の進歩はほとんど無かった。

 

非晶質の定義すらできていない。結晶以外は皆非晶質体である。非晶質体の中にガラスと呼ばれる状態があることはわかっているが、ガラス状態をとらない非晶質物質が存在し、そのような物質からガラス状態を作る方法が分かったのは20世紀末である。それでも全てのガラス状態を持たない非晶質物質に適用できる方法では無い。

 

非晶質に関する研究は21世紀の課題の一つで、高分子自由体積に関する研究は毎年高分子学会の研究報告で必ずある。このような状況だから高温短時間処理で科学的にどのようなことが起きているのか説明はできない。しかし、妄想のシナリオを書くことは可能である。

 

妄想のシナリオに基づき思考実験を行い、実際の実験条件を決め、実行して結果を出す。当然実験は試行錯誤になるが、それでも工夫次第では効率を上げることができ、工場を使って2日ほどで実現できる技術を創り上げた。

 

そのプロセスでできたフィルムを解析し、Tg以下のアニールでできたフィルムと高次構造が異なるらしいことと、それをサポートする粘弾性データが得られ、特許を出願した。特許は科学論文ではなく技術の権利書であり、科学的に不確かなことでも権利化可能である

 

カテゴリー : 一般 連載 高分子

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2014.12/09 非科学的問題解決事例-PENの巻き癖解消(5)

昨日の話をフィルムについてもう少し細かく書く。フィルムの表面温度が雰囲気温度と同じになってもフィルムの中心部分は低いままだ。

 

表面から少しづつ熱としてエネルギーがフィルムの中心部分へ送られてゆき、やがてフィルム全体が雰囲気からもらったエネルギーの均一な状態になったとする。ただし、これはフィルムでエネルギー消費がまったく行われない場合である。

 

実際のフィルムでは、エネルギーが加えられるとまず自由体積部分がそのエネルギーに応じた変化をする。このとき、雰囲気がTg以下の場合には、非晶部分の大半が凍結されているので動くことができず、自由体積部分で側鎖基がぴくぴくと振動しながら凍結されていく。すなわちもらったエネルギーに相当する安定な密度へと変化してゆく。

 

このようにTg以下のアニール処理では、高分子の自由体積部分のパッキングが進むだけである。

 

これがTg以上のアニールになると、少し複雑なことが起きてくる。雰囲気からもらったエネルギーで凍結されていた非晶部分の内、そのエネルギーで解凍される部分も自由体積部分と同様にぴくぴくと動き出すのである。

 

ここでエネルギーが大変大きい場合には、凍結されていた非晶部分の大半が動き、その結果フィルムはしわしわになる。結晶部分も溶解しうるエネルギーが与えられたなら、フィルムはしわしわを通り過ぎてドロドロになる。

 

Tg以上でほどよいエネルギーが与えられると、凍結されていた非晶部分の一部と自由体積部分の分子運動を可能とし、パッキングが急速に進行する。ただし全ての非晶部分が解凍されるわけではないのでフィルムの形状は変化せずしわしわにならない。

 

これらの物理変化はすべて吸熱反応なので、フィルムの表面部分も含めフィルム全体のエネルギー分布は不均一になる。この状態で温度計測を行うと、表面部分と内部とは100ミクロンのフィルムで1℃前後の違いを生じる。実際はもっと温度分布があるだろうが、現在の技術ではその温度計測を実務の中で行うには膨大な費用が発生する。

 

ここで科学的に厳密に計測しろ、という管理者が稀にいるのが今の日本の状態である。転職した会社ではこのような類似の状況をしばしば見てきた。

 

ゴム会社では12年間で2人の管理者という極めて少ない人数だった。科学的厳密さにこだわる、ある意味科学のパラノイアがゴム会社で少なかったことに未来の光を見たが、これは企業により状況が異なるだろう。

 

科学的厳密性にこだわる管理者から指示を受けた担当者は、少ない予算の中で適当な回答を実験で出し説明することになる。100ミクロンで1℃という値は、上司から指示を受け、サラリーマンとしてしかたなく部下へ適当な実験方法を指導して出した値である。

 

技術ではロバストの高い機能を実現するのが目標であり、科学的厳密性が目標ではないが、これを理解していない研究職が本来人間の自由な活動で行えるはずのダイナミックな技術開発をだめにしている。

 

一時はやったコーチングが人気を失ったのも単なる一つの哲学にしかすぎない科学にとらわれすぎたことも一つの理由と思う。ヒューマンプロセスを取り入れるようにしておれば、コーチングも円滑に行われ技術の伝承もうまく行われると思う。

 

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2014.12/08 非科学的問題解決事例-PENの巻き癖解消(4)

昨日の話を言い換えると、フィルムを熱処理するときに、熱処理のための雰囲気温度をどこで測定するのか、という問題となる。

 

大抵はフィルム近傍にセットされた熱電対(温度測定用のセンサー)の温度を雰囲気温度とし、それをフィルムの温度とする。これが間違いの始まりである。雰囲気温度が、仮に平衡状態で計測された値を示しているとしても、フィルムが平衡状態にあるかどうかは保証されていない。

 

説明を簡単にするために雰囲気は必ず平衡状態を維持しようと制御していると仮定する。そこへ温度が低いフィルムが入ってくると、雰囲気のエネルギーは温度の高い方から低い方へ流れるので、雰囲気はこの瞬間非平衡状態となり、フィルムへ与えたために失われたエネルギ-がどこからか供給されて、また平衡状態に戻るまで少し時間がかかる。

 

しかし、熱電対が示す温度はフィルムへ与えたエネルギーが小さいならば、熱電対自身が持っている比熱のため常に同じ温度を示し続ける。

 

一方フィルムでは、雰囲気からもらったエネルギーはまず表面の温度を上げることに使われるが、フィルム内部にその残りのエネルギーが伝わるまで表面状態と内部の状態が一致せず、エネルギー分布が不均一な非平衡状態となっており、仮に表面温度が雰囲気と同じになったとしてもフィルム内部の温度は低いままとなっている。

 

やがてフィルムは平衡状態になり、その中心部も雰囲気温度と同じになるためには、雰囲気が失ったエネルギーを取り戻し、同じ温度になる時間よりも長くかかる。すなわちフィルムが平衡状態になるのは時間がかかり、その時間は雰囲気温度の影響を受けるという複雑な問題となる。

 

この問題を科学的に解くことも可能だろうが、思考実験でこの様子を観察すれば一瞬に答えが出る。ヒューマンプロセスは科学的プロセスよりも効率が良いのである。ただ非科学的という理由でこのような効率の良い方法を使用しないのはもったいない。

 

 

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2014.12/07 非科学的問題解決事例-PENの巻き癖解消(3)

短時間アニールのPENフィルムは簡単にできたが、なぜライバル各社は実験をしなかったのか。理由は簡単である。単純にTg以上で熱処理してもフィルムがしわしわになるからである。

 

ここで物理化学の基礎事項を説明する。物理のパラメーターには容量因子と強度因子という分類方法がある。容量因子とは、容積とかエネルギーのように形が変化しても測定された値は一定となるパラメーターを意味し、強度因子とは力のように測定点が変わると変化する可能性があるパラメーターである。

 

温度というパラメーターは強度因子であり、系が平衡状態に無いときには、測定点が変わると測定された値が変化する。実験を行うときに系のエネルギーを知るために温度測定を行うが、その計測された温度からエネルギーを推定する方法はあくまでも系が平衡状態にあることが前提になる。

 

温度というパラメーターについてこの基礎事項を忘れて実験を行う人が多い。理系の人ならば大学の教養課程で必ず学ぶ内容である。物理あるいは化学の教科書の最初に必ず一言触れてある。

 

企業の実験では意識して実験条件を管理しない限り、系が非平衡の状態で計測が行われるケースがほとんどである。その時計測されている温度は、必ずしもエネルギーを推定するために適切な値とはならない、換言すれば温度を計測しエネルギーを精度高く推定するためには系の平衡状態の確認を厳密に行わなければならない。

 

もし系のエネルギーを推定するために温度計測が必要な場合には、必ず系が平衡状態になっていることを確認するのか、あるいは温度計測を2点以上行い精度を高める努力をしなければいけない。

 

このような基礎的なことを案外忘れている。忘れていながら科学的なことにこだわり、非科学的ヒューマンプロセスを排除するのは技術の問題解決の姿勢として好ましくない。現象を捉えるときに科学的側面以外に非科学的側面からの考察方法があることを知れば、高温短時間アニールのアイデアに気がつくはずである。

 

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2014.12/06 非科学的問題解決事例-PENの巻き癖解消(2)

昨日は、工場で作られる食品の品質問題が車のリコールに比較し少ない状況を説明できる事件が起きたので、連載を中断した。本件は自己の体験から「安全、安心」ではない日本の状況を懸念していたところへ実体を示す事例が発生したので「非科学的問題解決事例」を中断した。

 

食品の異常は、真っ先に保健所へ知らせ、食品会社の「お客様相談センター」は、保健所へ連絡したことを伝えるのが正しい手順である。証拠品は保健所へ提出すべきである。

 

さて、PENの短時間アニール技術といっても特許を回避するためにはTg以上の熱処理以外に技術手段は無い。成膜や表面処理の工程においてTg以上で熱処理すればフィルムがしわしわになることは常識として知られていた。さらにアニールにより処理されたフィルムの物性値をクレームにした特許が出願されていたので、技術が完成しても全ての特許を回避できる可能性は少なかった。

 

科学の視点ではナンセンスな企画で、そのまま提案すればつぶされることは分かっていた。だから企画提案の時に実際に実験室において短時間アニールで製造されたPENフィルムもそえて提案している。

 

科学的に説明しにくい現象を利用した技術では、現物を示すことが周囲を説得するのに一番良い方法である。短時間アニール技術のPENフィルムは、実験室で簡単に作ることができた。そして驚いたことにできあがったフィルムの粘弾性的性質は、Tg以下のプロセスで製造される長時間アニールのフィルムのそれと少し異なっていたのだ。

 

未だにこの現象をうまく説明できる論文に出会っていないが、高分子の自由体積の科学的に未解明な現象であることは確かである。Tg以上の短時間アニールでも、Tg以下の長時間アニールでも高分子の自由体積は減少し巻き癖は解消される。しかしその減少過程が異なるために起きている、と想像がつく。

 

そしてこの想像は、その後ポリオレフィンの混練り効果やポリオレフィンとポリスチレンの相容を研究する動機につながってゆく。いずれも科学的研究の無い分野であるが、高分子の自由体積が関係している。

 

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2014.12/04 非科学的問題解決事例-PENの巻き癖解消(1)

アドバンスドフォトシステム(APS)という新システムがカラー銀塩フィルムの最後のシステムとしてイースタマンコダックから提案された。このAPSに使われたPENフィルムで問題になったのは巻き癖である。

 

PENフィルムをパトローネに巻き取り放置すると、巻き癖がつく。現像処理で巻き癖はジャムなどの問題を引き起こすので実用化に際して巻き癖がつきにくいPENフィルムの開発が求められた。

 

巻き癖は高分子のクリープ現象が品質問題として現れていることが分かっていた。だから科学的にはクリープが起きにくくなるように高分子の高次構造を設計すれば良い。ここまでは当時科学的な論文にも結論されていたことである。

 

どのような高分子でも結晶化すれば、その結晶部分はクリープが起きにくくなることは想像できる。高分子の高次構造が結晶部分と非晶部分でできているとすると非晶部分がクリープを起こしやすいであろう事は想像でき、さらに非晶部分でも密度の低い自由体積部分は他の非晶部分よりもクリープを起こしやすいであろうことも想像がつく。

 

そのため巻き癖を着きにくくするためには、自由体積部分を少なくできれば良い、という仮説が立つ。ただ高分子の自由体積部分に関しては今でも研究課題となる話題を事欠かない科学的に未解明な事柄が多い。だからこの仮説については、それを科学的に厳密に証明しようとすると自由体積の測定方法そのものを研究する必要が出てくる。

 

ところで、高分子の自由体積を少なくする方法として、高分子のTg近くで熱処理すれば良いらしいということが科学的に知られていたようだ。但しTg以上の熱処理ではフィルムがごわごわになるのでアニールはTg以下で行うことが常識として分かっていた。

 

ゆえにこの科学的に推定される技術が特許としてライバル会社から出ていた。ところが科学的に当たり前であるが、Tg以下の温度で24時間もフィルムを一定温度で放置しなければならないという問題があった。ただフィルムを成膜後巻き取ったまま室に放置すれば良いので問題ではない、という言い訳がどこかに書かれていた。

 

しかし、技術としてスマートではない。できれば成膜プロセスあるいは表面処理プロセスの途中で巻き癖解消の機能を付与できてこそ優れた技術である。APSが普及したときに備え、科学と常識からは発想しにくいPENの短時間アニール技術開発を企画した。

 

 

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2014.12/02 企業の科学的問題解決プロセスにおける問題(2)

昨日の話をもう少し詳しく書くと、コンパウンドの開発を外部に依頼して製品開発を進めていた体制だったので、そこへカオス混合の開発を依頼する予定でいた。しかし、外部のコンパウンドメーカーに一笑にふされ、目論見は頓挫した。非科学的な内容だったからである。

 

結局材料を内製化することになり、コンパウンド工場をたった3ケ月で立ち上げなければいけない状態に追い込まれた。しかし日本には粋な中小企業があり、無茶苦茶な発注を当方の依頼であれば、と引き受けてくれた。これは過去の成功体験を積み重ねてきた信頼関係のおかげで、そこの担当者と進めた仕事がすべて成功していたからだ。

 

非科学的な技術は、町の中小企業により短期間に生産設備へと具現化された。日本の第二次産業の良いところは、中小企業でも凄い技術を持っているところがある点である。さらに良い点は現場指向が強いので非科学的であっても実験室で実現できたならば、信用してそのとおりのものを作ってくれることである。

 

特注二軸混練機からPPSと6ナイロンが相溶し透明な樹液となって出てきたときには感動して涙が出てきた。教科書に書かれていない現実が目の前で起きているのである。ところがマネージャーは「本当にできたんですね。」とあっさり一言だけであった。

 

企業の研究開発ではイノベーションが求められているが、大抵の研究管理者はこのマネージャーと同じではないだろうか。チャレンジの意味が分かっていないのである。管理者であることを忘れ、いっしょに感動を共有して欲しかった。

 

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2014.12/01 企業の科学的問題解決プロセスにおける問題(1)

科学的問題解決プロセスにおいて成功するためには、そのプロセスの過程で現れる現象がただ一つの真理で支配されているという条件が必要である。ゆえに科学的問題解決プロセスでは、仮説が重要となり、仮説に基づき一つの真理を検証できるように管理された実験条件で問題解決プロセスを遂行する必要がある。

 

ところが企業の製品開発において一つの真理を追究できるという理想的な実験モデルを設定することが多くの場合に難しい。誤差の問題以外に市場で想定されるノイズをモデル化したときの妥当性を検討しなければいけないという煩わしさも生じたりする。そこで手を抜けば複数の真理を内包した実験モデルになり、科学的な実験はもはや困難になる。

 

ある製品開発でPPSと6ナイロンを相容させる必要に迫られた。現代の科学でこれはナンセンスな目標である。しかし、製品開発で得られたデータの中には材料のTgが一つしか現れず異常に下がったサンプルが存在していることに気がついた。この「発見」をデータのばらつきと見るのか、偶然科学に反する現象が起きた、と考えるのか議論になった。

 

分析グループに解析をお願いしたら、偶然が重なった測定ミスという結論を出してきた。そして本来は相分離している、という分析グループで実施されたサンプルを用いた電子顕微鏡写真まで送ってきた。レポートでは見事な否定証明が展開されていた。

 

科学に反する現象が起きた場合に否定証明という方法は結論を出すのに最も安直な方法である。しかし幸運だったのは、否定されたとしてもPPSと6ナイロンが相容しない限り問題解決できない状態まで追い込まれていたことだ。

 

グループリーダーの立場でコーポレートの研究所が出した結論を無視し、カオス混合の開発を指示した。ところがマネージャーから反対され、従来技術の範囲でできないことを証明しテーマを終了しようということになった。おそらく大抵の企業でもこのような流れになると思われる。

 

当方は、粋のいい退職間近の職人と、活きの良い若手を抜擢し、3人でカオス混合の開発を行い、残りのメンバー20名をマネージャーに任せ否定証明の仕事をやらせた。結果はすぐに出た。カオス混合で非科学的な現象を引き起こすことができ無事製品開発に成功したのだ。

 

 

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2014.11/29 問題解決プロセスの事例(3)

ホワイトボードの図は、コロイド科学の知識を単純に展開すると簡単に否定される図であった。しかし、コーチングのストーリーを考えていた時に、科学的にはナンセンスな図だが、条件が揃えば実現できる現象ではないかと考えた。

 

すなわちこれは、機能の実現方法を思考実験であれこれ考えて思いついたヒューマンプロセスの成果である(詳細は弊社インフォメーションセンターへ問い合わせて頂きたい)。

 

コアシェルラテックスの合成過程でこの現象は生じると思われたので、担当者を集めて図で彼らの思考に刺激を与えたのである。ゾルをミセルとして用いるラテックス重合技術はこのようにして1993年に生まれた。ただし科学雑誌に他の研究者の報告が初めて掲載されたのが2000年なので7年早く世界初の技術が非科学的プロセスで生まれたことになる。

 

また、科学雑誌の研究報告では、ミセルができているところまでの論文内容だったが、写真会社ではそのミセルを活用してラテックス重合するところまで技術を完成していた。

 

世界初と緒言に書かれた外国人の論文が発表された直後に推薦された技術賞では学会により対応が異なった。ゾルをミセルに用いるのは技術ではない、とアカデミアの先生に否定され高分子学会賞を逃がしたが、高靱性ゼラチン技術として写真学会ではゼラチン賞を受賞できた。

 

一度技術ができるとその証明を科学的に行う事は容易である。しかし、技術を生み出す過程について科学的に示すことは大変難しい。この技術開発で幸運だった点は、特許回避するために膨大な数の実験を行っていたことである。しかも特許には書かれていない条件で。

 

コーチングを行うときには、後者も着目した。すなわち特許に書かれていない条件ではコアシェルラテックスの合成は大変難しくなる。なぜ難しくなるのか、という点とそれを克服するために担当者はどのような実験を行うかを考えてみた。

 

そしてきっと失敗作の中にうまくゾルでミセルが形成された場合があるのではないか、と「想像」した。うまく安定なミセルができれば後はコアシェルラテックスよりも簡単である。単なるラテックス合成実験となる。

 

 

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