樹脂補強ゴムの開発テーマはたった3ケ月で完了した。指導社員は、当方が初めての部下だったので親身に業務以外についても指導してくださった。
部下の立場としてそれを指導されても困るということもあった。しかし、30年以上実務を経験してみると、それらは表現の問題であり社会経験の乏しかった当方には誤解を与える内容であるが組織活動の視点で考えなければいけない問題、と思うようになった。
例えば、「アイデアは盗まれるので研究の真の狙いは周囲に言うな」、とか、「成果は他人に簡単に盗られ評価されないことがあるので、仕事をするときには自己実現に励め」という指導である。
指導社員は大学院でレオロジーを研究し、ゴム会社に入社後もその専門を活かす仕事を担当していた。しかし、実務を通して大学で学んだダッシュポットとバネのモデルで高分子のレオロジーを研究する間違いに気がついたという。その結果、混練プロセスの研究がライフワークであり、当方にカオス混合を実用化してほしいと言われた。
また、会社の中に混練プロセスを研究しているグループがあり、そのメンバーには指導社員のアイデアを話してはいけない、と指導された。そして、研究テーマは樹脂補強ゴムだが、このゴムの開発を通して、プロセスの問題を考えてほしい、混練プロセスが当方の専門家としての目標だとも言われた。
樹脂補強ゴムのテーマを防振ゴム開発まで担当することができないので、この仕事で当方が評価されないこと、それゆえに評価ではなく自己のスキルアップに専念して欲しい、と言われ、当方が進んで過重労働を行っても注意されなかった。
当方は自己実現目標を早期に混練技術をマスターすることとし、朝の座学は指導社員と懸命に毎日遭遇した現象について議論した。樹脂補強ゴムは、溶融温度の異なる樹脂とゴムとをブレンドしなければならず、それを実現するためには「技」が必要だった。
このロール混練における技こそ指導社員が他言してはならぬと言われたことで、カオス混合に通じる技術アイデアである。指導社員は通常の方法ではゴムに分散できない樹脂を分散するための技をKKDで見出していた。ご興味のある方はお問い合わせください。
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年末年始の休日を返上し報告書をまとめ上げたが、研究としてはたった一つの真理しか得られなかった。測定された樹脂のSP値をゴムのSP値と比較してもその相関は、あるとはいいがたい結果だった。
原因は、指導社員が用意してくださった樹脂以外に当時の新素材樹脂(TPE)を評価に加える提案を当方がしたためで、SP値との関係を説明しにくい結果となった。
また、TPE以外の樹脂でもSP値がゴムと離れているにもかかわらず、うまく海島構造を形成していた事例も見出された。
指導社員は、研究のシナリオを考えて樹脂の手配をされていたのだが、当方の素人の提案と素人ゆえにロール混練条件を多数変更していたロールの操作がそのシナリオを無駄にしたような結果となった。
すなわち、得られた多数のデータを見ると、シミュレーションで示された防振ゴムのモデルにおいて、バネ定数を高めるには樹脂を添加し硬度を高めればよい、という仮説をほぼ立証してはいるが、そのバネ定数が必ずしもカタログ上の樹脂の弾性率と相関していなかった。
しかし、これはDSCの結果から樹脂補強ゴムに配合された樹脂の結晶化度が異なっていることが原因と推定され、その視点で結晶化度の異なるTPEを添加した系で確認したところ、その結晶化度とゴム硬度が相関していたという結果だった。
詳細は当時出願した特許をご覧いただきたいが、樹脂補強ゴムにおける樹脂の配合効果が単純ではないことに感動した。しかもそれがプロセスにも依存していたことから、指導社員に教えられた夢のカオス混合という混練技術に強く魅かれるようになった。
2011年に起業後カオス混合装置について、その開発費用を得るため経産省の補助金申請を数度行ったが、補助金を頂けなかった。また、大手樹脂メーカーに共同開発のお願いやコンサル契約をお願いしたりしたがかなわなかった。
仕方がないので中国樹脂メーカーとカオス混合装置の開発を進め現在に至るが、この7年間に当時をしのぐ事例が得られ、先月日本のシンクタンク大手KRIが主催されたシンポジウムで発表する機会を得た。数社から引き合いがきて良い年を迎えることが出来そうだ。
しかし日本の樹脂メーカーは混練技術に無頓着でよいのか?この7年間に開発された新コンセプトに基づく添加剤をある樹脂に添加した場合には、その添加効果がカオス混合に大きく依存している結果も出ている。この添加剤のすごいところは、添加により樹脂のTgを下げないが、Tmを下げたりその他の効果が得られることだ。
ただしこの効果はカオス混合で初めて現れる、混練技術に依存した樹脂の性能を上げる添加剤である。これは、樹脂メーカーの技術をブラックボックス化できる。このようなコンセプトは40年前のこの3ケ月の混練体験で思いついた。
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指導社員の計画は、緻密だった。指導される側は、ただ、計画に沿ったメニューをこなすだけだった。また、1年間の実験で使用する材料はすべて手配され倉庫に積まれていた。
さらに、その計画を進めていった結果、必ずそれが成功すると科学的なシミュレーションで示されていた。ただし、これはあくまでも計算上のことで本当にできるかどうかは当時の高分子科学から得られる知識で保証されていなかった(恐らく今でも科学的に理論だけで保証できないはずだ(注))。
それに対して、指導社員はKKDを駆使して成功の見本となる材料を作り上げていた。しかし、その見本はロバストの無い見本であり、プロセス依存性が大きいだけでなく耐久寿命のばらつきも大きかった。
当方が、1年の計画を3ケ月に短縮できたのは、緻密な計画と分析担当の女性を2名に増員されたことが見かけ上大きく寄与しているが、このKKDで作られた見本の存在も研究成果を実用化するときの問題点を早期に得ることができたので期間短縮に重要だった(これはアジャイル開発である)。
KKDによるサンプルがプロセス依存性の大きいことをこのサンプル処方を用いた1週間のロール混練の練習で指導社員に説明している。この1種類の処方だけで行った1週間の練習期間のデータについて指導社員が丁寧に回答をしてくださったので、バンバリーの操作からロール混練におけるツボなどプロセスに関わる経験知や暗黙知を体得できた。
また、毎日1種類の同じ処方を混練しては加硫し引張試験を繰り返している姿は周囲の同情を誘い、多くの先輩社員が当方の作業中に近寄ってきてああでもない、こうでもない、とそれぞれの暗黙知を提供し指導してくださったので大変勉強になった。
先輩社員の中には当方の学生時代の専攻領域とゴム会社と言うミスマッチをからかわれる方もおられたが、それはそれで社会勉強になった。ただし、大学で何を学び社会でどのように貢献するかは、ドラッカーの書に書いてあった受け売りの回答をしていたため生意気な新入社員に誤解されたかもしれない。
当時配属された研究所ではゴム会社の事業に関わる基礎研究を学生時代に学んでこられた方が多かった。そのため、仕事のやり方が学生時代と変わらぬスタイルになるという弊害が職場に存在した。
例えば、混練というプロセスは、経験知や暗黙知の占める割合の大きなプロセスである。ゴム会社の研究所では、科学的アプローチでこれを研究されているグループがあった。しかしこのグループの研究スタイルを指導社員は否定されていた。
研究の進め方についてアカデミアの方法を学生時代に学ぶ。しかし事業を考慮した研究スタイルのあることを社会人のスタートの時に実務を通して学べたのは、その後高純度SiCの事業を立ち上げるときに役立った。
セラミックスのプロセシングもゴムのプロセシングと同様に経験知や暗黙知が多い世界である。しかし、このような世界は、言葉で聴くだけではなかなかそこに潜む知を実感として理解できない。
工場実習期間中に現場の職長から、押出成形は行ってこいの世界だ、とわかりやすく教えられた体験では、なかなかその神髄まで理解できなかった。しかし、指導社員がKKDで作成された成功見本を1週間何度も繰り返し混練しながらその言葉を味わってみると、大変含蓄がある言葉だと理解できた。
科学の研究では、目の前の現象について仮説を設定し、それを実験で真であるかどうかを確認しながら進めてゆく。しかし実験結果にばらつきが大きい時には、仮説が真であるかどうかを証明することが難しくなる。イムレラカトシュは「方法の擁護」の中でこの問題を扱い、否定証明こそ科学で完璧にできる唯一の方法だと述べている。
これを平易に言えば、ゴム材料の研究を科学のスタイルで仕事を進めると「できない」という報告書が山積みになることを意味している。事業ではこのような状態は無駄な研究と評価される。事業に貢献できる研究とは指導社員がやられていたようなアジャイル開発のスタイルが好ましいと新入社員のこの時期に学んでいる。
(注)スタップ細胞の騒動で理研の某理事が、細かい実験はやめてとにかくスタップ細胞を作れ、一つでもできればよいと言っている、とインタビューで回答していた姿を今でも忘れられない。科学のスタイルでできることを示すのは、実際に繰り返し再現できる事実を積み上げなければならない。科学に存在するこの不完全性があるゆえに捏造が生まれる。捏造ではないが、ゴム会社の某部長が生み出したような怪しい理論が氾濫する事態にもなる。科学的に正しいが実務では役立たない理論をどのように伝承するのかも技術の指導では重要である。指導社員が神様に見えたのはこのような指導をうまくされたからだ。
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「 日産の不正に関する第三者委員会が今年9月に公表した報告書は「2000年代以降に排ガス測定値の書き換えが常態化した」と指摘。不正の背景について、コスト抑制に力点を置くあまり、「工場の維持・発展に不可欠な要素が失われた」と利益偏重に傾く企業体質を批判した。
日産は9月、不正の再発防止に向け、検査担当者の増員などに取り組む方針を表明したばかりだが、問題を食い止められなかった格好。多額の利益を稼ぎ出し、首脳陣に億円単位の高額報酬を支払う一方、現場は疲弊し、士気が低下している恐れがある。西川広人社長ら現経営陣の責任も問われそうだ。」
以上は12月6日配信のJIJI.COMからの抜粋である。企業体質なり風土というものが悪化した時に、それを一朝一夕には回復できない、ということを記事を書いている人が理解されているのか疑問に思ったのでとりあげた。
この記事に限らず、今回の日産の不正再発に関する記事の論調は同じようで、改善方針を示せばすぐにそれが実効化されると考えておられる記者が多いようだ。
企業体質や風土は、悪化するときももとに回復するときにも時間がかかる。仕組みを作れば、あるいは組織を改編すればすぐにその効果が現れるわけではないのだ。
特にゴーンが日産の社長となって行ったリストラは尋常なリストラではなく、人を削減しすぎて、会社の運営ができなくなった事態がリストラ一年目で起きている。この事実が当時も今も報じられていない。
コスト目標に合わせて人員を削減したところ開発ができなくなって、リストラしたスタッフを呼び戻していたのだ。
どれだけのスタッフが当時戻ったのか知らないが、当方が知人から見せられたその呼び戻しの手紙の文言であきれたことがある。その知人は、意地でも戻らない、と言っていた。
ゴーンの行ったリストラについて過去にさかのぼって検証することが必要である。検証すれば表に出た結果はV字回復であるが、企業の健全な体質を考慮したならば、カリスマ経営者と呼べない事実がいくつか出てくると思われる。
ドラッカーが指摘しているが、企業は資本家のものではなく、社会に必要な組織が残ってゆく。日産自動車が日本社会に必要な組織ならば、日本に残るだろうし、不要ならばルノーに吸収されるのだろう。
グローバル化で注意しなければいけないのは、社会に大きな影響を与える組織のリーダーの資質である。カリスマ経営者と呼ばれるには、社会に認められる組織を維持しなければいけない。日産自動車がフランスの会社になれば日本のGDPに与える影響だけでなく雇用の問題も出てくる。
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過重労働に限らず、労働というものは、人に命じられて行う場合にはその量に関わらず少なからず面白くないものである。しかし、自ら進んで行う場合には、過重労働であっても楽しい。
樹脂補強ゴムは後工程ですぐに商品化され会社に貢献した研究テーマと評価されたらしいが、指導社員も当方もそのような評価を受けていない。また入社二年間は残業手当が無いルールだったので、残業代も0であった。
さらに、テーマが完了したということで、当方は新たなテーマを抱える職場へ異動となっている。指導社員は、その立場から、新たなテーマを企画することになった。
1年間のテーマを3ケ月で仕上げたことを研究所内では批判されたようだ。当方は社会人になったばかりで陰口に対し理解できなかったが、指導社員には申し訳ないことをした、と反省した。
メーカーの研究部門において新しいテーマの企画業務は、予算が決まっているテーマを推進するよりも大変である。なぜなら、企画が採用されるまで研究所では評価されないからだ。
また、テーマが商品化されてその成否の結果から初めて評価される。当方はこの仕事を楽しく推進することができたが、指導社員は全く知識の無かった当方を指導することになり、どのような気持ちだったのか異動後想像し申し訳ない気持ちになった。
指導社員の技術者育成プログラムは1年間の計画として作られていたが、そのメニューを当方のペースに合わせ繰り上げて進めてくださった。40年たった今から当時を思い出してみても高分子科学の先端を見据えた優れた内容だった。
シミュレーションによる材料設計、ワイブル統計を用いた材料の信頼性評価、高分子の高次構造写真や豊富な熱分析データ、これらと関連付けされた粘弾性データなどお正月を返上して報告書としてまとめたが、年末年始の休みを返上しても十分に満足できる宿題だった。また、この時の教育のおかげで約30年後に指導社員から夢と言われたカオス混合装置を発明することができた。
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オーディオが趣味の50代以降の人ならば、このオーディオ評論家のお名前はご存じだろう。故人ではあるが、今でも信奉者のいるカリスマ評論家である。
オーディオは趣味ではないが、この評論家について学生時代から知っていた。胡散臭いオーディオ評論を書いていたからである。とにかくその文章からは、彼だけが正しくてメーカーの技術者はすべて間違っているような印象しか受けなかった。
1970年代にオーディオを事業としているメーカーはスピーカーについて独自理論を展開し、各メーカーの宣伝媒体で発表していた。彼は理論武装されたそれらの製品を自分の試作スピーカーと比較し、自分の開発したスピーカーが優れていることを示しながら悦に入った文章を書いていた。
彼の書いた評論をすべて読んだわけではないが、当方が読んだ評論はすべてそんな調子だった。だから胡散臭いと感じたのである。しかしゴム会社に入社し、この胡散臭い評論家よりも胡散臭い科学者ドクター中松を知り、長岡鉄男氏をまっとうな技術評論家と感じるに至った。
彼の傑作スピーカーと称されるスワンは、フルレンジスピーカーの一つの到達点の形かもしれない。点音源の理想と自然な低音の実現に成功している。
このスワンに至るまで試行錯誤で様々なスピーカーの箱を設計し、オーディオ雑誌で発表されていたが、その設計手法は評論を読む限り、科学的というよりも技術的スタイルだった。
残念ながら彼の製作したスピーカーをすべて聞いたことが無いが、彼の思想を追及している音工房Zという会社のスピーカーを視聴して彼が胡散臭い評論家というよりも実践主義の技術者だったという評価に変わった。
スピーカーという機械装置を科学的に完成することは難しいと思う。仮に音に関する科学的パラメーターを計測し、それらパラメーターを完璧な状態にしたとしても人の耳の形状は皆異なるし、音に対する嗜好も異なる。そのような状況の中で一つの真理を確立することは困難だろう。
B&Wは、一応それを実現したように評価されているが、一つのスピーカーがすべての音楽ソースに対して完璧な音を聴かせてくれるわけではない。やはり音楽ソースに対して得意不得意が自動車1台の価格と変わらないようなスピーカーでも存在する。
年をとり劣化した耳には、今年のONTOMO付録のスピーカーに音工房Zの2万円の箱を組み合わせた製品が今のところ人生で一番満足できたスピーカーに感じる。
アールクルーのギターを聴きながら故長岡鉄男氏を思い出したが、彼の評論は実験に裏打ちされた内容であり、彼自身スワンも含め自分の設計したスピーカーを一度は誉めつつも、すぐに否定し新たなスピーカーを開発し続けている。この故人の姿勢は、オーディオの世界が科学では解決できない問題を多数含んでいるかのように思わせる。
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40年以上前空前のオーディオブームが起きている。トリオ、パイオニア、オンキョー、ビクターなどオーディオ専業メーカー以外に家電メーカーのすべてがローディーやオットー、オーレックス、ダイヤトーン、パナソニックなどの独自ブランドを立ち上げていた時代である。
その後ブラウン管TVの高画質化大画面化ブームでAVの時代になり、デジタル化の波の中でオーディオメーカーが淘汰されていった。テープデッキで有名だったアカイやアンプで有名だったサンスイのような倒産したメーカーもあればパイオニアとオンキョーのように経営統合したメーカーもある。
また、日本で誕生しながら海外だけで展開しているローテルのようなメーカーもある。アイワはソニーの傘下に入った。カートリッジメーカーのオーディオテクニカは細々と事業を行っている。残念ながら当方の記憶にあるのは大衆オーディオメーカーだけで高級オーディオメーカーの動向は知らない。
団塊の世代を中心にまたブームが起きるのか、と言われて数年間その兆候があるが、面白いのは海外のスピーカー専業メーカーの躍進と国内自作サポートメーカーの勃興である。スピーカーパーツだけの販売もインターネットでは行われている。
しかし、奇妙なのはオーディオ雑誌で、旧態依然とした編集で生きている化石のように書店に並んでいる。どうもAVとの統合とは別の流れとしてオーディオという趣味が細々と昔のまま続いているようだ。
オーディオ業界を横目で見ながらジャズやブルース、ウェスタンフォークが好きで長年聞いてきた。デジタルの時代になりテープやレコードが邪魔で捨てようと思ったがレコードのジャケットには未練があったので捨てきれず、テープだけ音をデジタルで保存しメディアをすべて廃棄した。
デジタル化はオーディオの世界にイノベーションをもたらしたが、不思議なことにスピーカーの技術は昔のままである。平面スピーカーも登場したりしたが主流にはなっていない。
KRIの講演会に招待されたときに、パナソニックの執行役員の講演を聴いた。パナソニックでは新しい再生技術を開発しているとのこと。音場の再生に注力した大学発のアメリカのベンチャー企業ボーズがそれほどオーディオマニアに支持されなかったがパナソニックの試みはイノベーションを起こせるのか?
アカデミアの成果で個性的なスピーカー開発を行っているボーズがそれほど成功していないオーディオスピーカーの発展史を見ると、オーディオの世界は未だに科学的と言えない技術が重視されている分野のように感じる。
その結果、オーディオ雑誌に載っている評論家の機器評価を見ると、値段の高い機器が高評価を得る傾向にある。また、B&Wのスピーカーに至っては値段が高くなるほど聴感上の違いを利用してよいスピーカーに思えるように商品設計している(注)。
要するに良い音を聴くためには高級オーディオを買わなければいけない、という誤解で現在のオーディオマーケットは形成されている。スピーカー自作メーカーの勃興はそのような事情を背景にしているが、けしからんことにパナソニックはマーケットの状況から富裕層のデバイス開発を目指しているという。
オーディオ分野は、お金ではなく感性の世界のように思うので、高級オーディオを目指すのではなく誰でも気軽に良い音楽を楽しめるようにすることがあるべきイノベーションの姿である。戦略として高級オーディオで成果を出してから、という考え方を理解できないわけではないが、本当に技術があるならばお金ではなく戦略として感性を切り口に誰でも良い音を楽しめるオーディオを目指して技術開発をすべきである。ちなみにパナソニックのオーディオ分野の執行役員はピアニストでCDを数枚発表している。
(注)自作サポートメーカーの音工房Zの視聴会では、B&Wの高級スピーカーと自作品との比較視聴を行っている。そこでびっくりしたのは5000円の雑誌の付録のスピーカーが100万円前後のスピーカーと変わらない音楽を聞かせてくれた。低域にやや物足りなさを感じるがサブウーファーを併用すれば解決する。オーディオは価格でその価値が決まらない世界である。自作すれば20万円前後となる市販パーツを使った一本100万円を超える価格のスピーカーもあるので購入時には注意をしたい。視聴をすれば弊社のコンサルティング料がいかに良心的価格か、と感じる商品である。
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午後の時間は、当方の自由時間の様なものだった。指導社員は当方にすべて仕事を任せてくれて、当方はただ翌日の座学の最初に一日の実験報告をするだけだった。
その報告の中である日、実験方法について議論になった。材料の振動エネルギー吸収能力の評価時間が材料開発の律速段階となっていたからである。すなわち混練し加硫したサンプルについてスペクトロメーターでデータを収集していたのだが、その測定時間が2時間近くかかっていた。
当方は、目標からほど遠いサンプルについても同じ測定するのは時間の無駄で、とりあえず80Hzと10Hzの2点だけ測定すればよいのでは、と提案した。
当時開発していたのは防振ゴムであり、振動周波数の広い領域で振動を吸収できることが材料に要求されていた。しかし、高分子材料はある特定の狭い振動数の領域だけエネルギーを吸収し、それ以外はバネの効果が大きかった。
ゆえに80Hzと10Hzの二点でエネルギー吸収能力の大きい材料ができれば、それが目標の材料物性を備えていると考えた。
このエネルギー吸収能力のわかりやすい例として、室温付近にTgを有する材料でボールを作ってみると、ほとんど弾まないボールになる事例がある。
すなわち、このボールは室温付近でエネルギ吸収能力が大きいので、弾ませたときにエネルギー吸収が生じて反発できない。
測定周波数を変えながら、このエネルギー吸収の大きさをスペクトロメーターで測定していた。そして気がついたのは、80Hzで損失係数が高いときには、10Hzで低くなり、10Hzで高いときには80Hzで低くなる、という当たり前の現象だった。
目標は80Hzで測定しても10Hzで測定しても損失係数が高い材料なので、この2点だけで評価を進め、両方の周波数で条件を満たした材料だけすべての周波数で測定すればよい、と考えて評価時間の短縮を提案した。
そして用意されたすべての樹脂を1ケ月で評価し終える、と宣言したら、これは1年間のテーマだから急がなくてよい、と指導社員は応えられた。
当方は提案について指導社員が否定されなかったので、翌日から提案した方法で仕事を進め、1ケ月どころか1週間ですべての樹脂の評価を終えて、いくつか製品の候補になるような樹脂補強ゴムの配合を見つけることができた。
このような仕事のやり方について指導社員から特に注意を受けなかったので、見つけた配合について耐久試験に移ろうとしたところ、指導社員から分析グループの女性を紹介された。
そして当方が候補として選んだ樹脂以外に指導社員が評価済みの樹脂の中からいくつか樹脂を選び、それらについて細かくデータを収集するように指示を受けた。そして、作成したサンプルはすべて分析担当の女性に渡すように、とも言われた。
翌日から座学の半分の時間は、分析担当の女性が撮影した電子顕微鏡写真とゴムの製造プロセスも含めた処方の議論が行われるようになった。
この業務状態は1週間ほどで軌道に乗ったので、それから平日は夜中まで仕事をするようになった。すると評価サンプルがどんどん増えたので、分析担当の女性がもう一人つけられた。ますます仕事は加速し、3ケ月で材料開発と報告書作成が完了した。
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毎日午後は、自由に実験できる時間だと言われた。そのため、配属されて最初の一週間は、社内の実験設備を使用する方法を指導された。
指導社員が設計して創作された世界に一台しかない粘弾性測定装置スペクトロメータは、現在市販されている粘弾性装置の4倍の大きさだった。
当時マイコンが無かったのでミニコンで動作しており、この制御部分が半分の面積を占めていた。またサンプル取り付け部分やサンプルに信号を送るモーター部分はじめすべてが大きく頑丈に作られていた。
このスペクトロメータは指導社員の管理装置だったので自由に使えた。それ以外の設備はすべて予約や設備管理者との調整が必要だった。
指導社員は使う必要のない設備も含めてすべていつでも使用できるように設備管理者を紹介してくれた。おかげで名刺ホルダーがすぐにいっぱいになった。
勉強になったのは、ゴムの混練製品開発の実用化を考えたなら必ずパイロットプラントの試作設備でゴム材料を混練しなければいけないといわれたことである。
また、製作したゴム材料について早い段階で繰り返し引張による耐久試験器を用いて信頼性のチェックを実施することが実用化を失敗しないコツである、と指導された。
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毎日午前中は指導社員による座学が行われた。これは大学の講義よりも面白く大変に役立った。この指導社員の講義を聴きながら、なぜ大学の授業がつまらないのか考えた。
指導社員は、ダッシュポットとバネによるレオロジーの議論は将来無くなるだろう、と予測されていた。粘弾性論を大学院で学んでいた時には面白かったが、実務でゴムを扱うようになってその体系に疑問を持ったそうだ。
確かに電磁気学の体系と粘弾性論とは美しく似ているが、実験で遭遇する様々な現象について考察を進めたところ学んできた粘弾性論を怪しいと思うようになったという。
大学の授業ではこのような話の展開にならない。学問の体系は絶対であり、すでにそれが完成された体系として学ぶ。その結果理解よりも記憶が優先されるような講義になる。
講義している本人から、怪しいがとりあえずこれを知らないと仕事にならない、などと言われると、頼りなさよりもなぜ怪しいと感じているのかという点に興味がわいてくる。
指導社員による朝の座学はこのような調子だったので、質疑応答が中心となって進んでいった。しかしそれは当方が仕事を体得するまでだった。
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