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2015.07/06 科学で未解明の現象が多い

20世紀に科学は飛躍的な進歩をとげたように見えるが、未だ解明されていない現象は多い。そのため昨年のSTAP細胞の騒動に見られるように科学で未解明の現象を扱うときにはとんでもないことが起きる。この事件では、未熟な科学者の責任が問われたり、世界的な科学者が自殺したりと散々な騒動になった。

 

さらに学位論文のコピペの問題が大きく取り上げられたりもしたが、40年近く前、大学の生協で購入した無機材料の教科書に、10ページ近くアメリカの学者の総説をそのまま日本語に翻訳した部分があったことを見つけた経験があったので、あまり驚かなかった。

 

教科書は複数の教授の共著であり、全体をとりまとめていた大御所の先生が気がつかれていなかったいい加減さに当時びっくりした。当時の当方を指導してくださっていた先生は当方の勉強熱心さを褒めてくださったが、本来は大御所の先生を批判すべきところではないかと思ったりもして、アカデミアでも大人の対応が必要なことを学んだ。

 

今日のこの欄では、昨日の補足の補足を書いてみたいと思い書き出したが、高分子ではなくSTAP細胞の話で書き出してしまい、改めて昨年の科学分野における騒動が当方のトラウマになっていることに気がついた。

 

今年は、投稿された論文に使われたマウスにES細胞が見つかった謎を解明する目的で警察へ訴える人まで出てきたが、そもそもあの騒動は技術と科学を同じまな板の上で処理しようとしたことが原因で発生しており、警察へ訴えるような問題ではなく、山中先生の巧みな問題解決法を多くの研究者や技術者が見直す機会としてとらえるべきだと思う。

 

STAP細胞のように、科学者が科学の研究と技術開発を同時に行わなければいけない状況になったときに、科学の姿勢と技術開発の姿勢を明確に区別すべきである。山中先生はそれをうまく行いノーベル賞受賞に至った。すなわち技術の部分をうまくカプセル化し一つの完成したオブジェクトとして扱い、そのオブジェクトの振る舞いを科学的に研究されたのである。技術開発では、この逆で科学の未解明な真理をカプセル化した機能をオブジェクトとして扱う方法となり、これがヒューマンプロセスによる技術開発となる。

 

もしSTAP細胞もそのように進めていたらあのような騒動にならなかった、と思っている。研究で真理が見つかるまでカプセル化すべき部分を早い段階ですべてさらけ出し、オブジェクトとしてその振る舞いを明確にすべきSTAP細胞について、研究を怠り、ES細胞でお茶を濁したのが例のマウスの実体ではないか。警察へ訴えるまでもない一部の研究者が想像しているとおりである。

 

高分子自由討論会の最初に行われた名大の先生の発表は科学者としての姿勢で研究が進められていた。自然界の現象には科学で未解明な事柄が多すぎるので、あのような真摯な研究は重要である。もしこの真理が30年以上前に分かっていたら、ひしゃくを5回使用するプロセスを考案した技術者は、処方を見直したかもしれない。

 

なぜなら当方は4元系のラテックスの処方を考えた20年近く前にある方法で必ず4成分がコポリマーとして反応するようにデザインしたのである。必ずしも今回の発表の真理に近い内容ではなかったが、科学で未解明の事柄としてカプセル化したヒューマンプロセスで問題解決を行ったのである。

カテゴリー : 一般

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2015.07/02 ハイブリッド車

エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車が大手自動車各社から販売されている。このハイブリッド車の技術は燃費を改善するための機能を実現したものと思っていたが、燃費の改善を最重要視しているタイプと車の運転の楽しさを重視したタイプの2種類があることを最近知った。前者の代表はトヨタで後者はスバルである。

 

おそらく自動車の大半は電気自動車に置き換わるだろうが、そのつなぎとしてハイブリッド車が位置づけられている、と思っていたら、そのトヨタがダウンサイジングターボ車を販売しだした。いろいろ調べてみると、ハイブリッド車が主流なのは日本だけで、欧米ではダウンサイジングターボやグリーンディーゼルと呼ばれる技術を採用した省燃費車が主流らしい。

 

これは化石資源を枯渇させないための技術を目指した過渡期の現象だが、ガソリンの置き換えが電気になるのかそれ以外かはユーザーが選択する時代に入ったようだ。デンソーはバイオディーゼルの開発を行っており、これが成功すればグリーンディーゼルも未来技術の視野に入ってくる。また、脱石油以外に地球温暖化対策として水素社会実現を目指した燃料電池車も未来の自動車として期待されている。

 

車の機能を実現するための動力として、ノーマルエンジン、ダウンサイジングターボ、グリーンディーゼル、ハイブリッド、燃料電池車やノーマル電池車が今市場に出てきており、ユーザーが未来の自動車を選択する、すなわち自動車メーカーと価値を共創する「実験の時代」なのだろう。

 

ノーマルエンジン以外のすべての省燃費車に試乗していないので動力源が車の価値へどのように影響するのか論じれる立場ではないが、一例としてハイブリッド車について市場評価を調べてみると、省燃費性が低いにもかかわらずスバルのハイブリッド車の評判が良い。ハイブリッド車としては出力が低いモーターとエンジンとを組み合わせており、大きなモーターと組み合わせているトヨタの技術の対極にある。

 

ホンダからハイブリッド車が初めて登場したときに用いられていたモーターと同じ出力で、トヨタが自社の車を腕力のある若者二人が自転車に乗っている姿で、ライバルをよぼよぼの老人二人が乗った自転車の姿で例えた比較広告を行っているが、1.5tもある車に用いるには小さな出力のモーターである。

 

しかし、スバルの場合に小さなモーターと組み合わせているのは、トヨタ86のエンジンの流れを組む2000ccの力強いボクサーエンジンである。エンジンの低回転域で不足するトルクを補うようにモーターは機能し、その結果レクサスのような高級感のある乗り心地になるという。すなわち、ハイブリッドの持っている機能を、省燃費ではなく自動車運転時の高級感という機能に転化した技術で、スバリストという独特のファンがいるのもうなづける。

 

カテゴリー : 一般

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2015.07/01 科学と技術(9)

高熱伝導性高分子を微粒子分散系高分子として材料設計するときに、パーコレーション転移だけを考えているとうまく材料設計ができない。しかしその現象にはパーコレーションは関係している。複合材料の力学物性にもパーコレーションは関係しているが、その様子は電気抵抗測定の結果のように明確に観察されない。

 

微粒子分散系高分子において、微粒子の分散状態を科学的に論ずる場合には、クラスター生成を確率で取り扱うパーコレーションが科学の世界では一般的である。もう昔のような混合則で議論していては時代遅れである。

 

技術の世界では、現象をシミュレートするのにパーコレーションだろうが混合則だろうがかまわない。もし、ある微粒子分散系高分子にうまくフィットする混合則の式が見つかれば、それを用いて材料設計を行えば良い。現場の不良を考察するときには電卓を活用するが、そのようなときに混合則は便利である。

 

プロセスに異常があり、微粒子の添加量にエラーが生じているかどうか混合則で結論を出すことができる。技術では、機能が重要であり、微粒子のクラスター生成を議論することが目的ではない。このあたりを勘違いして大騒動になったのは、理研のSTAP細胞である。

 

STAP細胞を技術として扱っておれば、あのような結末にならなかった。もし技術として扱っていたならば、繰り返し再現性が上がるまで発表を控えただろうと思われる。STAP現象から再現性よく機能を取り出す手段が見つからなければ、STAP細胞ができないことは技術者ならばすぐに理解でき、実験をそのために計画する。

 

科学の研究を行っているのか技術開発を行っているのか自分の行為を明確に認識して取り組まなければ良い結果が生まれないのは高熱伝導性高分子の開発の場合も同様である。技術開発をやっているつもりで、パーコレーション理論にうまく合わないから、といって研究に取り組んでみるのは「時間とお金」があるならば良いことかもしれない。

 

しかし、パーコレーション理論にうまく合わない現象としてあきらめ、技術として試行錯誤で取り組むのも技術者ならば間違いではない。もしSTAP細胞についてそのように技術として取り組み技術として完成してから発表していたなら、あのような大騒動にならなかったろう。

 

技術開発の現場で面白い現象に遭遇すると科学の世界に目を奪われたりするが、そこをぐっとこらえて技術開発ができるようになりたいと思っている。科学の世界は技術開発が終わってからの楽しみにするようなストイックな技術者でありたい、と努力してきた。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2015.06/29 私のドラッカー(14)

ゴム会社で高純度SiCのJVを立ち上げ、写真会社に転職した。ヘッドハンティングのI社から転職を促されていた。頻繁にセラミックス関係の会社をいくつか紹介されていたが、転職するときに社内の規程にひっかかり躊躇していた。

 

騒動が起きて悩んでいることを伝えたら、すぐに専門と異なる高分子技術の開発センターマネージャーという役職を提示された。写真会社は高分子技術の開発センターを新規に立ち上げるため、高分子技術を事業としている会社から人材を集めていた。

 

そのセンター長は、フィルムや繊維で有名なT1社から10年ほど前に転職された定年間近の方で、次期センター長候補としてT1社のライバル関係にあるT2社から来られた方もいた。当方は、研究管理スタッフ主任研究員という肩書きで、専門は問わない、と言われたので転職を決意した。

 

お二人とも優しい方であった。また、センター長自ら担当者の研究ノートをご覧になられており、丁寧に一人ずつコメントを書かれていた。そのため、センターのモラールは高く、成果が出そうな雰囲気ではあった。ところがセンターの前身となる部署の時代も含め、3年ほど成果が出ていなかった。その結果、当方が転職した翌年には、センターの予算を組み立てることができない状態になった。

 

そのような状態でも上司は優しかったが、予算を立てられない状態では、その優しさは無意味であった。また、それでも研究ノートへコメントを書く作業を趣味のように続けられており、当方はあせってテーマを見直し組織の組み替え案や企画案を用意した。昭和35年に公開された酸化スズゾルの特許を見つけたのもこの頃である(注)。やがてセンターはつぶれ、他の不採算部門を集めた技術研究所へ改組された。センター長は退職され、次期センター長はスタッフ部長になられた。

 

P.F.ドラッカー「経営者の条件」(1966)には「仕事上の関係において成果が無ければ、温かな会話や感情も無意味である。貧しい関係のとりつくろいにすぎない。逆に関係者全員に成果をもたらす関係であれば、失礼な言葉があっても人間関係を壊すことはない。」とある。ゴム会社は厳しい会社であったが、今でも人脈はつながっており、このドラッカーの言葉は正しいと思っている。

 

*高純度SiCのJVを立ち上げるまで、大学の先輩に当たる本部長は大変厳しかった。今なら周囲から何か言われそうな「女学生よりも甘い」という迷言まで飛び出した。その一言で外部へ営業に出かけることになったが、大変勉強になったとともに成果も出た。人脈も広がった。

 
(注)金属酸化物微粒子をフィルムの帯電防止技術に用いた商品はライバル会社から販売されていた。100件以上の特許も出願されており、新たな技術開発は無理だという判断が転職先では出されていた。転職先ではやや性能が劣るイオン導電性高分子を用いた技術が帯電防止技術の中心であった。

 

カテゴリー : 一般

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2015.06/28 科学と技術(8)

感材に用いるラテックスの製造現場で、合成後の物上げ直前にひしゃくを用いるという20年以上前に開発された技を発見し使わせてもらった。ところが最初に考案された時に5回使用していた点が気になった。当方の経験では、上手くやれば一回で良いプロセスであり、また現場の作業者も1回でも大丈夫と言っていた。

 

当方は、個人差と誤差を考慮し3回と決めたが、5回とした理由を知りたかった。しかし、製造現場の手順書は存在したが、開発部門の報告書は廃棄されていたのでそれを知るための手段は無かった。

 

ひしゃくで表面を5回すくい廃棄しているのだから、物上げを工夫して表面付近のラテックスを廃棄すればよい、と考えたが、それならば、実験室でも再現できそうな現象である。しかしこの現象は実験室で再現できないことがわかった。

 

そもそもこの二十年以上前に開発されたラテックスと同じ物性のラテックスを実験室で合成できないのだ。工場で生産されたラテックスと実験室のそれを用いて単膜を作り、粘弾性評価を行うと一致しない。両者ともに品質規格内のラテックスができるのだが、粘弾性データを比較すると明らかに異なる材料である。

 

あれこれ実験を行い、ひしゃく5回の謎を探っていたら、面白いアイデアに気がついた。ノウハウに関する技術であり、公開を差し控えたいが、その技術を用いると工場で生産されているラテックスをコストダウンできることに気がつくとともに、ひしゃく5回を考えた技術者の気持ちを理解できたようなひらめきがあった。

 

科学的なひらめきではないので間違っているかもしれないが、5回とした技術者はただ者ではない、と想像するとともに、20年前の技術は現場で最適化された可能性が高いと推定した。この推定から当時の勤務体制と現在の体制との違いも知った。勤務体制が変わったので、ひしゃくの回数を減らすことができた可能性が高い。

 

 

カテゴリー : 一般

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2015.06/27 科学と技術(7)

(昨日からの続き)5回を2回に減らして手柄を立てた作業者にコツを尋ねたら、油のようなものが浮いているのを見つけてひしゃくですくう作業だが、うまくやれば1回で済む。しかし5回やれと指示されていたので心配だから、ややてかりのある部分を2回目にすくって終わってみた。その時、特にエラーが発生しなかったので、なぜ5回もやっていたのかと疑問に思った、と怪しい説明が返ってきた。

 

そして、ある日こっそりと作業そのものをやめたところ規格外になったので、2回に減らす提案をした、とのこと。製造手順書を守らない作業者の問題が気がかりに思えたが、最初にひしゃくですくわれる油のようなものを分析したのか、と係長に尋ねてみた。すると、技術センターに技術が無いので分析してもそれが何だったのかわからなかった、仕方がないので製造部で意志決定しデータを揃え社内の品質会議に提案した、と係長は胸をはって回答していた。

 

昔開発されたラテックスの製造現場で何が起きているのか興味があったので、その時1回目にひしゃくですくわれた、てかりの多い材料を持ち帰り解析を行ったところ原因がわかった(この部分は当方のノウハウであり、ご興味ある方は問い合わせて欲しい)。単純に組成分析をしても答えは出ないが、ひしゃく作業に意味があるならばそれなりの解析を行うと答えが見つかるのである。ただ解析手法については非科学的発想から出た手法である。

 

この場合科学的に考える人は、まず組成分析を行う。これは科学的に正しいかもしれない。しかし、当方は技術的発想で考えだした科学的な解析手法をとってみた。そしたら現象をそれなりに説明できる妥当な答えが見つかったのである。この経験から、当方の担当しているラテックスも同じことが起きているのでは、と考え、ひしゃく作業を製造手順書に加えることにした。

 

但し、2回では不安だった。しかし5回にしても製造現場で昔のラテックス同様に2回にされたら大変である。昔開発されたラテックスが、なぜ2回のひしゃく作業で生産が安定になっているのか不思議ではあるが、2回で問題が起きないならば3回と決めて、この重要な作業の回数を変更前には必ず開発部門の担当者に相談のこと、と付け加えることにした。

 

3回という数値に科学的根拠など無かった。しかし昔開発されたラテックスと同様の現象が起きているならば、技術的な視点で最低2回はひしゃく作業が必要と考え、安全圏の3回とした。このひしゃく作業を加えた製造手順書で現場の係長から同意が得られたので、コストダウンを現場の成果にして良いことを伝え、開発部門へ提案されたテーマを取り下げてもらった。

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.06/26 科学と技術(6)

(昨日の続き)結局2週間駐在して観察したが、エラーは一度も起きなかったので、テーマを採用しない方針を製造部長に納得いただいたが、当方が帰ったとたんにエラーが発生したと製造部長から電話がかかってきた。

 

仕方がないのでひしゃく作業を書き入れた品質規格書を持参し、製造手順を一部修正することで対応して欲しい、とお願いした。この時今だからいえるが、少し誠実でない対応をした。2週間駐在し現場の問題を把握した、それでこのひしゃく作業を取り入れたので品質問題は必ず収まる、と説明したのだ。

 

製造現場には何も問題は無かった。ただ、2週間の駐在中に時間があったので、現場にあったほかのラテックスの製造手順書を読んでいて、初期に開発されたラテックスの製造手順書にひしゃく作業を見つけたのだ。しかし、20年近く前の技術で、このひしゃく作業がどのような目的で行われているのか正しく知っている作業者はいなかった。また、開発報告書も保管されていなかった。

 

製造の係長に、どうでもよいひしゃく作業を省略したら作業効率が上がるのではないか、と尋ねたら、当方は現場を知らないからだめだ、と叱られた。その作業で微量成分を処理しているのだという。しかし、実際の作業を見る限り、完全に除去できているのか分からない作業である。

 

製造の係長は、昔手順書には5回やれと書かれていたのを2回まで減らすことに成功した、と自慢げに付け加えてきた。なぜ0にしないのか、と尋ねたら、微量成分を理由にした同じ答えが返ってきた。見るからに怪しい作業であるが、現場の作業者は慎重にひしゃくで2回すくう作業を行っている。防護マスクをつけているので息を止めているのかどうかは不明だが、防護めがねの奥の目つきから、それが理解できた。(明日へ続く)

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.06/25 科学と技術(5)

これは自慢話になってしまうかもしれないが、昨日のひしゃく作業については、マネージャーとして現場で意志決定し、ただそれだけで問題解決した事例である。開発された技術を製造現場へ移管するときの移管作業は慎重に行わなければ痛い目に遭う。

 

昨日の話で4-5回に1回不良品が発生する、と書いたのは正確ではなく、正しくは、生産立ち上げ時には、2-3回に1回だったのが、4-5回に1回、と変化した現象である。おそらく放っておけばエラーはなくなるのではないか、と思ったぐらいである。

 

最初にエラーが発生したときに、開発をやり直すかどうか、品質会議でもめた。しかし、田口先生に直接ご指導を頂いたロバストの高い技術である、と言って会議をしのいだ。2回目にエラーが発生し、開催された品質会議では、前回は2回だったのが、今回は3回成功した後のエラーであり、現場でミスが発生したのでは、と押し切った。

 

しかし、その後もエラーが発生し、廃棄に伴う費用が、製造原価を押し上げる問題となり、製造部門から、重要コストダウンテーマと名前を変えて、開発へテーマ依頼してきた。このような科学的に解明が難しいテーマを引き受けると大変である。また、タグチメソッドで最適化していたために実験室でエラーの再現ができないので因子を見つけることができない。

 

テーマを引き受ける前に、現場を見させて欲しい、と申し出て、自ら現場観察を繰り返した。不思議なことに生産立ち上げ時には2-3回だったのが、5回続けて生産してもエラーが発生しないこともある。製造部長に何も問題ないではないか、と言ったら、いや、3-4回の頻度だから明日は必ずエラーが出る、と主張した。ところが翌日の生産状況を観察したところ、製造部長の主張むなしく、エラーは発生しなかった。(明日に続く)

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.06/24 科学と技術(4)

技術が科学の成果だけで成り立っているならば、その伝承は容易である。しかし、実際の現場では技術がうまく伝承されていない状況が存在する。あるいは、現場で行われている科学的に非効率な作業についてそれをやめたとたんに品質問題が多発するというような事件が希に起きる。

 

当方があるラテックスの製造プロセスを立ち上げたときに、ラテックスの合成を完了した後の物上げ前に、ひしゃくで表面を3回なでるようにラテックスをすくい、それをすてること、という怪しいプロセスを入れたことがある。この作業では、人を誤差に見立てて作業を行うと、捨てられるラテックスについてひしゃく一回分の個人差が出る。

 

当方が行えば1回の作業で済むが、それを誤差として見込み、2回ではなく3回としたのである。2回でも良いかもしれないが、このような誤差は万が一を考えて多くしておいた方が良い結果が出るという経験知を用いた結果である。しかし、そもそも計量器ではないひしゃくを使用する時点で非科学的である。

 

また、この作業自体無くてもラテックスの品質に影響しないが、生産スケールで4-5回に一回不良品が製造され、写真用の高価なラテックスを200l廃棄しなくてはいけない事態になる。1lスケールでタグチメソッドを用い最適化した製造条件であり、ロバストは高いはずで、原因が不明だった。また、小スケールで実験を行ったときには20回合成してもエラーは発生しなかった。原料ロットのばらつきでもなく、量産開始後に見つかった原因不明のトラブルだった。

 

ただ、ほかのラテックスの製造規格書を調べたときに、20年近く前に開発されたラテックスのプロセスでこのひしゃく作業が入っているのをみつけ、それを取り入れたところ、ロットアウトが無くなったのだ。おそらく製造後にできそこないのラテックスが表面付近に浮いており、その量がたまたま多くなったときにエラーが起きているのかもしれない。しかし、これを科学的に証明するのは至難の業である。

 

若い技術者が、証明したいと名乗り出てきたので、ひしゃくでくみ上げられたラテックスを集め、分析したことがある。しかし、10ロット分析しても原因物質を見つけることができなかった。挙げ句の果ては、当方の微量成分説を疑いだす始末。ただ、これについては、ひしゃく作業を行わない場合にエラーが希に発生するので誰もが信じたくなる説であり、科学の時代にこれをよりどころとしなければ気持ちの悪い現象である。ひしゃく作業が単なるおまじないでは、現場で採用していただけない。

カテゴリー : 一般

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2015.06/23 微粒子分散系高分子

機能性微粒子を高分子に分散して機能性高分子とする手法は、昔から高分子の機能性をあげるためによく使われてきた手法である。例えば絶縁体である高分子に導電性の高いカーボン微粒子を分散した半導体高分子や、熱伝導性が無機材料の1/100以下という高分子にAlNやSiCなどの熱伝導性の高い粒子を分散し熱伝導性高分子を開発したりする。

 

この時の数値シミュレーションの手法として混合則が1990年前後まで使用されてきた。社会人をスタートした1979年に購入した複合材料の教科書に書かれていた材料物性の予測式もすべてこの混合則から導かれた式だった。当時の複合材料系の科学論文で考察に使用されていた式も混合則だった。

 

一方数学者の間では、パーコレーションの理論が古くから議論され、1980年頃にはスタウファーによる学生向けの著書も出版されている。当方もこの教科書に触発され、1980年中頃にはパーコレーションと混合則の両方を使用し、LATTICE Cを用いてプログラム開発を試み、転職してしばらく暇なときにそれを完成した。

 

パーコレーションの理論も混合則も科学の世界で生まれた高分子の微粒子分散系を議論するための考え方である。しかし、科学では真理は一つなので、今高分子の微粒子分散系を議論するときに混合則を持ち出す人はいなくなった。

 

ただ実務で材料物性を見積もるためにちょいと計算したりするときには混合則は重宝する。パーコレーションをシミュレートするソフトウェアを持っていても、電卓をたたいて答えを出せる混合則は、今となっては非科学的ではあるが微粒子分散系高分子材料の技術開発における便利なツールである。

 

 
 
 

カテゴリー : 一般 高分子

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