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2013.08/06 科学と技術(14)

32年間研究開発では、SiC合成法発見のような不思議な成功体験を大小いくつも経験した。自然現象には科学で解明できない現象が多いことを思い知らされた。その中でも、SiC合成実験における電気炉の不思議な暴走は、その後ゴム会社から2億4千万円の先行投資がされる事業へつながったので人生で最も大きな不思議体験である。さらにそれが現在でも事業として継続されている。

 

このような成功体験を1度すると切羽詰まった時など神様にお祈りをする習慣がつく。ただ、無信教なので、自分が頼っている神がアラーなのかキリストなのか仏様なのか全く不明で最初に手を合わせたときにいつも戸惑いがあった。突然七福神が現れたり、抽象化された八百万の神にお祈りをしたりもした。

 

そのような習慣で実験を行っていたときに、ある日頭の中に実験で起きる反応の全体像および外乱が生じたときに副反応が発生するすべての様子が絵巻物のように自然に浮かんでいることに気がついた。ニュートンは思考実験で万有引力の発見を行ったと聞いていたので、これが思考実験の効果なのかもしれない、と考えた。

 

技術開発で用いられるタグチメソッドでは、考えられるノイズを調合し、実験計画法を用いて使用可能な制御因子を様々に変え実験を進める。すなわち考える対象のシステムについて一応全ての実験条件を確認する実験を行う(実際には実験計画法による一部実施)わけだが、科学では仮説に基づき一部の実験に絞り一因子実験を行う場合が多い。

 

マッハは思考実験を非科学的と認めつつ弟子のアインシュタインにその方法を指導し、相対性理論の発明に導いている。思考実験は、風が吹けば桶屋が儲かる式に行えば良い、と言われるのだが、全ての実験条件を行う事ができる便利な方法なので、桶屋だけに商売をさせておくのはもったいない。

 

それでは思考実験のストーリーを組み立てるにはどうしたらよいのか、あるいは効果的な思考実験を行うにはどうしたらよいのか、それは弊社の問題解決法を勉強して頂ければわかる。

 

神に祈る行為は人を謙虚に導く。若い人たちの実験を見てきたが、とかく慣れてくると実験で手を抜く場合も出てくるようだ。実験で手を抜いたことが無いのでそのあたりの心理を理解できないが、マジメに実験を行おうとするとどうしても工数が増える。マジメな実験計画とは考えられる全ての条件で実験を行う事(注)だが、現実には不可能である。しかし、この現実には不可能な全ての条件における実験を思考実験は可能にする。思考実験で実験の流れをシミュレーションする効果は神に祈るよりも確実に成果が出る。思考実験の重要性に気がついてから神に祈ることを忘れている。しかし、それでも技術開発には成功している。弊社の問題解決法の効果である。

 

(注)半導体用高純度SiCの前駆体高分子の合成では、エチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせで考えられる全ての反応条件の処方を用意し、すべて実験を行った。32年間に10回近く全ての条件で実際に実験を行った経験がある。唯一他社の方と同様の試みをして運良く16番目の処方で目標の材料が得られたときにはほっとした。それはポリオレフィンとポリスチレンを相容化剤無しで相溶させる実験である。透明の樹脂ができるまで考えられる合成条件全てを実験するつもりでいたが、それを他社の方には伝えていなかった。

カテゴリー : 一般

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2013.08/05 科学と技術(13)

昨日の不思議な成功体験は、その後電気炉メーカーを交えて議論したが、原因が分からなかった。電気炉の暴走もその時の1回限りで、その後の実験では安定に動いていた。

 

当時シリカ還元法でSiCを製造するときに、粉末の粒度を揃える手段としてイビデンの技術が有名であり、化学量論比よりも多くカーボンを用いてシリカと混合しペレット化する方法が知られていた。しかし、有機無機ハイブリッドを用いた場合には、化学量論比のシリカとカーボンが混合された状態で、SiC化の温度条件を工夫しただけで粒度分布がシャープな粉末が得られた。

 

偶然見つかった条件であったが、この条件は、イビデン法が過剰のカーボンを取り除くために焼成処理を行わなければならないのに対して、それを不要にする。すなわちカーボンを取り除くときの酸素(空気)雰囲気下の焼成工程でSiCの表面が酸化される問題を解決できる。この効果はSiCの焼結で大きな意味を持つ。

 

当時プロチャスカの発明によるボロンを0.2%から0.6%、カーボンを2%程度助剤として添加する技術が知られていたが、一部のボロンが不純物のシリカにより酸化され助剤としての機能を果たさなくなる問題が指摘されていた。

 

有機無機ハイブリッドによる高純度SiC粉末では、不純物シリカが含まれていないので、0.05%という少ないボロンの添加量で焼結が進行した。さらに、ホットプレスであればフェノール樹脂を助剤にして、すなわちカーボンのみで焼結できた。これは現在商品化されているヒーターやダミーウェハーの技術である。

 

最初の実験条件は「お祈り」という極めて非科学的な手段で見いだしたが、その後お祈りが無くともその温度パターンで行えば再現よく高純度SiC粉末が得られた。お祈りで見いだした温度パターンが適していることは、その後の研究で、シリカ還元法ではSiCの核が生成する時に誘導期間が存在することを動力学的解析で見いだし、その反応機構を用いて説明ができた(注)。

 

不思議な成功ではあったが得られた結果は科学的に説明ができ、技術的にもイビデンの技術と完全に差別化可能な重要な成果となった。しかしお祈りで電気炉が暴走した原因は今でも不明な不思議な現象である。

 

(注)弊社の問題解決法を考案したのもこの時である。すなわち怪しい体験で得られた実権条件ではあるが、科学的なSiC化の正しい反応機構を理解していればたどり着くことができた実験条件でもある。しかし、その正しい反応機構は当時不明であり(学位取得を目指した動機である)、通常単純に思いつく実験条件とも異なっていた。考えられる全ての温度パターンを実験したときにたどり着ける実験条件である。科学的に全てが解明されていない現象を技術開発で取り扱うときには、可能性のある全ての条件を実験で確認する必要がある、と痛感した。仮説による一部実施は科学的な方法だが、正しい仮説を誰でもいつでも立てられる保証は無い。毎回神頼みではそのうち神に見放される、と思い、技術の問題解決法としてまとめた。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料

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2013.08/04 科学と技術(12)

「勝 ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」、とは勝負師野村克也氏の名言だが、科学では仮説に基づく実験を行うので、「失敗に不思議な失敗あり、成功に不思議な成功なし」となる。ところが仮説に基づく実験を行う科学の世界でも不思議な成功がある。ややオカルトのような体験になり、真夏の夜の夢ではな いか、と言われそうだが、秋も深まり始める10月中旬の栗の名産地で実際に科学者3人が体験した不思議な出来事である。

 

有機無機ハイブリッドからセラミックスを合成する企画が上司から却下され、会社の50周年記念論文にその内容を基にした事業展開を投稿してもボツになった。しかし、おりからのセラミックスフィーバーの中でファインセラミックス分野進出が全社方針と決まり、無機材質研究所に留学することになった。留学して半年が過ぎた頃人事部から衝撃的な電話が入り、その電話の内容を御指導してくださっていた猪股先生が聞かれていた。小生を元気づけるため、1週間だけ自由に実験を行って良い、との許可が下りた。

 

半導体用高純度SiCの合成実験を行うことにした。月曜日にゴム会社へ出向き前駆体高分子である有機無機ハイブリッドを合成し、火曜日と水曜日には無機材質研究所でそれを1000℃で炭化処理した。配合処方からシリカとカーボンの比率が4水準の炭化物が得られているはずである。シリカとカーボンの比率を分析している時間は無い。一発勝負でこの4水準のサンプルを4個のカーボン坩堝につめ、1600℃でSiC化の反応を行う事にした。

 

SiC化の反応は、2200℃まで昇温可能な最新の炭素抵抗炉を使用した。熱処理プログラムは田中先生が設定してくださった。シリカ還元法で必ずSiC化できる反応条件である。SiC化の反応をプログラム制御で行っていたところ、1600℃になってもヒーターの電流は下がらない。PIDの設定が悪いのか、と眺めていたところ、電気炉が突然暴走を始めた。

 

慌てて非常停止ボタンを押したところ、温度が下がり始めた。しかしアルゴンガスを流しているので下がる速度は速く、1600℃以下になりかけたので、ヒーターのスイッチを手動で入れた。電流のつまみを手動で制御しながら、1600℃15分保持した。1600℃以上であればSiC化の反応が進行するはずなので、必ずSiCができている、と確信していた。

 

翌日金曜日4水準のサンプルの坩堝を、猪股先生と田中先生同席の上取り出したところ、2水準の坩堝で真っ黄色のSiCができていた。

 

電子顕微鏡観察を行ったところ、粒度の揃った超微粒子が得られていた。その後、30分温度を保持する条件で、1600℃、1700℃、1800℃で実験を行ったが、黄色い粉末は得られるが粒度分布がシャープな粉末は得られなかった。SiC化の温度条件が粒度分布を決定していることが最初に分かったわけだが、単純に温度を保持しても市販品よりも粒度は揃っていたので、電気炉の暴走した温度条件の実験を行わない可能性があった。

 

この実験結果を製造条件に取り入れた異形横型プッシャー炉の発明に結びつくのだが、まことに不思議な成功であった。この成功要因は、SiC化の反応実験を行うチャンスが1日しかなかったので、電気炉の前につきっきりになり手を合わせお祈りしていたことである。祈りが通じて電気炉が暴走し最適条件の熱処理となった。極めて非科学的な体験だが、以後重要な実験では、気合いを入れこっそりと祈りながら実験を行うようになった。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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2013.08/03 科学と技術(11)

昨日からの続きである。

失敗は成功の始まり、という言葉には昔から勇気づけられているが、最終的に成功しなければ、この言葉の含蓄は分からない。同様の意味として、失敗からノーベル賞が生まれるぐらいなので、失敗したからと言って失敗を軽んじてはいけない、と失敗したときに戒めたりする。

 

少し意味が異なるが、失敗を承知で行った実験からもノーベル賞が生まれているので、たまには軽い気持ちで失敗を覚悟の実験をしてみるのも良いかもしれない。なんやかやと失敗はだめなことばかりではないということが感覚的に分かってくると失敗に対する考え方も変わる。

 

ただし、ここで失敗学を論じるつもりは無い。科学的に分かっていることだけで開発を進めようとすると当たり前の成果しか得られないだけで無く、失敗を科学に反したこととして安易に片付けてしまう姿勢が生まれる問題を指摘したい。

 

仮説を立てて実験を行って、成功すれば仮説が正しかったことになる。うまくいかなかったときには、仮説の見直しをする、ただそれだけで良いのだろうか。うまく行かなかった実験について深く考察する必要は無いのだろうか。このような問題は悩み出すと精神論になってゆく。

 

科学的に実験を行う場合に、現象のある一面だけを見て実験を行っていることに気付いていない。すなわち仮説を確認するために実験を行っているつもりでも考え違いをしているかもしれない。

 

例えば先日紹介したコアシェルラテックスを目標とした事例では、コアシェルラテックスを合成することは最終ゴールではなく、ラテックスと超微粒子シリカ、ゼラチンの3成分を混合したときにシリカが凝集しない状態を創り出す、一つの手段だったはずである。

 

タグチメソッドの実験では、調合誤差を用いてあらゆる面のノイズを載せながらシステムの基本機能のロバストを確認する実験を行う。科学の実験では、仮説でモデル化された特異な条件の実験であり、そのようなことをしない。真理が確実に再現されるかどうか、極めて限定された条件を設定し、真理は一つという管理下で実験を行っている。だから科学の実験は、管理しているとはいってもノイズに影響されやすい条件で実験を行っている、と言えるので、結局大抵の失敗をノイズの影響と片付けても良いのかもしれない。だから思うような実験結果がでなかった場合に、データを平気で捏造する科学者がいるのかもしれない。タグチメソッドではデータの捏造という発想は命取りになる。

 

技術開発における実験計画の考え方と科学の世界の実験計画の考え方は異なる。しかし失敗に秘められた成功の種を見落とさないためには、失敗の価値をすぐに判断できる状態で実験を行うとよい。すなわち、非科学的かもしれないが、一度可能性のある全ての条件で実験を行い、全体を眺めてみる方法が良いと思われる。全ての条件で実験を行っているから、失敗の原因もすぐに分かる。ところが現実にはこのようなやり方はできない。しかし机上実験ならば実現できる。弊社の問題解決法にはこのような机上実験を行うためのツールが用意されている。

 

カテゴリー : 一般

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2013.08/02 科学と技術(10)

昨日までのゾルをミセルに用いたラテックス合成技術は、コア・シェルラテックスの開発過程で失敗した実験の条件に開発のヒントがあった。

 

このような事例は科学の発展の中に数多くある。例えばポリアセチレンの重合実験で、学生が触媒量を間違え導電性高分子を発見された白川先生の話がある。この話は研究目標が導電性高分子であり、ゴールが明確になっている実験においての失敗である。ゆえに失敗実験ではあるが、その実験結果を見落とす確率は低くなる。新聞では「幸運にも学生が実験に失敗した」、と紹介されていた。

 

しかし、ゾルをミセルに用いたラテックスを発見したときの開発目標はコア・シェルラテックスである。ゾルをミセルに用いたラテックスとは対極にあるゴールで、そのうえこのラテックスは明らかに失敗と判断される状態である。このような失敗は、白川先生の事例のような幸運の失敗にならない。よほど注意して実験を行わない限り、第三者から同様の技術が公開されたときに、残念に感じる失敗となる。

 

実はゴム会社で高純度SiCの開発を担当していたときにこのような残念な経験を何度もした。すなわち自分が失敗と思った実験が重要な発見に結びつく実験であった残念なケースである。観察力が無く、勘が悪いと結論づけても対策を打たなければ、このようなケースは改善されない。またこのような残念なケースでは、勘が悪いとしてかたづけてしまう事が多い。しかし3度や4度繰り返すとこの様なケースの対策が重要なことに気づく。

 

それでは失敗を残念なケースにしない対策とはどのような対策があるのだろうか。弊社の問題解決法はこの経験則も取り入れて、失敗を残念なケースにしない対策を提供している。すなわち失敗を新たな技術のヒントにする手法である。

 

一方以前にも紹介しているノーベル賞を受賞したヤマナカファクターの発見は、白川先生のケースと異なり、積極的に成功につながるアブノーマルな実験を行い、それが失敗とはならずに大発見となったケースである。山中博士は「運が良かった」と謙虚に発言されているが、あのような実験は失敗というものが新しい発見を生み出す、ということの重要性に気づいていなければできない。すなわち運ではなく頭の良い実験だったのである。

 

あらためて山中博士のお人柄に感心し、少しでもそこへ近づきたい、と反省した。この山中博士のケースも過去に紹介したように弊社の問題解決法には取り入れている。すなわち弊社の問題解決法は、頭の悪い人間が度重なる失敗経験を重ね、その対策のために生み出した問題解決法で、科学的なTRIZやUSITと異なる。

カテゴリー : 一般

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2013.08/01 科学と技術(9)

高分子材料自由討論会の質問がきっかけで書き始めた昨日の話を少しまとめる。

ゼラチン水溶液に、シリカ超微粒子とラテックスを分散して塗布液を調製する。この塗布液からは靱性の低い薄膜しかできない。また塗布液は增粘する。塗布液中でシリカ超微粒子が一部凝集し增粘しており、ゼラチン薄膜の中でもこの凝集体が残っているため、塗布膜ではそこが破壊の起点になりひび割れしている。塗布液をどのように調製しても、ゼラチン水溶液と、シリカ超微粒子、ラテックスを別々に添加して混合する限りシリカの超微粒子の凝集体が生成する。コロイド科学では当たり前の現象が塗布液の中で生じているために、シリカの超微粒子をコアにしたコアシェルラテックスを使う以外にこの系における科学的なソリューションは無い。

 

しかし現象をよく見てみると、シリカの超微粒子は凝集しやすいがラテックスの凝集は起きにくいことがわかる。シリカの超微粒子をミセルにしてラテックスを重合し、そのラテックス溶液とゼラチン水溶液をまぜたならシリカ超微粒子の凝集体はできないのではないか、と研究開発しているメンバーに問いかけた。ただし、ゾルをミセルに用いたラテックス重合などという話はコロイド科学に存在しない(注)。

 

たまたまコアシェルラテックスの合成研究を行っていたとき、失敗した合成条件でシリカ超微粒子の表面において全く重合が起きず、シリカゾルとラテックスが安定に分散している状態を経験した担当者がいた。

 

コアシェルラテックスの重合条件としては失敗であったが、うまくシリカゾルがミセルになっているかもしれない。もう一度その条件でラテックスを重合し、ゼラチン水溶液と混ぜて状態を観察したらどうか、とその担当者に指示を出した。翌日笑顔で目的を達成したラテックスができていた、との報告があった。驚くべき事に、シリカ超微粒子が存在するにもかかわらず、その水溶液の粘度は、ゼラチンとラテックスだけを混合した水溶液の粘度と同じレベルであった。シリカ超微粒子とラテックス、あるいはシリカ超微粒子とゼラチン水溶液いずれの組み合わせでも增粘するが、シリカ超微粒子をミセルに用いた場合には、そこへゼラチン水溶液を添加しても粘度上昇が生じない。

 

この技術をすぐに製品展開するとともに、特許も出願した。しかし、本当にシリカ超微粒子からミセルができて、そのミセル内でラテックスの重合が起きているのか、三重大学川口先生の御指導を受けながらコロイド科学の視点で研究を行ったところ、本当にミセルが安定に生成していた。あたかもホワイトボードに書いた絵のようなことが実際に起きていたのだ。この技術は写真学会からゼラチン賞を頂いたが、科学が基になってできた技術ではない。むしろ非科学的な方法で技術が先にできて、それを科学的方法で現象の証明を進めた手順になっている。

 

あるいは失敗という経験を基に技術を作り上げ、できあがった技術を科学的に検証している、と表現できる。もし時間や設備の関係で科学的検証をできなくとも、技術で製品を作ることは可能である。科学的検証はを行わなくともタグチメソッドで品質の安定化が可能だからだ。ここで科学的検証を行った理由は二つあり、一つは人材育成、他の理由は技術を正しく理解し、他へ応用できないか考えるためである。後者は正しい科学的視点から技術を見直すことにより、その上に構築しようとする技術が砂上の楼閣とならないようにするためである。

 

(注)1992年当時の話で、2000年になってからコロイド科学の雑誌「Langmuir」にゾルからミセルを生成し、オイルを安定に分散した研究が発表された。

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.07/31 科学と技術(8:高分子材料自由討論会(3))

高分子材料自由討論会で多糖類高分子の発表をした。3年前に日本化学会から依頼され雑誌「化学と教育」に執筆した内容の一部とミドリムシプラスチックを組み合わせての報告。「化学と教育」では少し書いたのですが、18年ほど前に味の素で開発されたバクテリアセルロースに触れなかったことに関して質問があった(ミドリムシよりも昔の技術に関心が高いのか、とがっくりきた)。

 

バクテリアセルロースに関しては当時ゼラチンとの複合系で評価し、弾性率と靱性を同時に向上できる材料として注目をし、「科学と教育」には水分散性高分子フィラーとして面白い材料と紹介した。しかし、他の材料技術と比較評価したときに、コストパフォーマンスの観点であまり面白くない材料という社内の技術的位置づけになった。

 

そのため「化学と教育」では、単なる添加フィラーという用い方では無く一歩進んだ技術を紹介し、高分子材料自由討論会ではナタデココの話題とともに割愛した。そのかわりに「化学と教育」では触れなかった「おから」について少し紹介した。バクテリアセルロースよりも「おから」のほうが少し面白い話題性(注)を含んでいる。

 

ところで、バクテリアセルロースを18年前に高分子材料のフィラーとして評価したときに問題となった、脆いゼラチンを固く割れにくくする技術として、当時シリカをコアとするコアシェルラテックスが最先端の技術として議論されていた。

 

シェルを構成するラテックス成分がゴムで柔らかく、これでゼラチンの靱性を改善し、シリカという固い無機微粒子の存在で硬度を稼いでいるのだ。アナログ写真におけるバインダー技術の最終完成形としてデジタル化の波が起こり始めたときに登場した。

 

コアシェルラテックスは当時の先端技術であり、学会でも様々なコアシェルラテックスが発表されている時期でもあった。ゼラチンにゴム成分のラテックスと固い超微粒子を均一に混合しようとすると、超微粒子が凝集し、それが破壊の起点となり、脆いゼラチンはますます割れやすくなる。この3成分の混合において超微粒子のシリカの凝集を防ぐには、コアシェルラテックスが科学的に考えて最も良い方法である。

 

(科学的に最も良い方法だから科学を知っている誰でも考える陳腐なアイデアとも言える。)

 

ところで、実現したい機能はシリカの超微粒子とゴムのラテックスとゼラチンが凝集体を作らずに均一に水に分散していること、そして塗布してもその状態が維持され、シリカの超微粒子とゴム状のラテックスがゼラチンバインダーに均一に分散し、それが割れにくく固いという物性だ。

 

ホワイトボードにその状態の絵を描けば、他のアイデアを引き出せるかもしれない。ゴム状のラテックスのまわりにシリカの超微粒子が分散している絵を描くことは難しくないだろう。ゴールはその絵で、それを実現すれば良い。

 

このような話をすると優秀な科学者は笑う。コロイド科学の常識では、電荷二重層が存在するので、混合時にこれが乱れどうやってもシリカの超微粒子の凝集ができるはずだ、としたり顔で説明する。実際の開発現場ではもっと辛辣でコロイド科学を知らないからそのような発言ができる、と全員の前で馬鹿にされるような状態であった。

 

転職したばかりであったが、ポリウレタン発泡体の開発や電気粘性流体の開発を通じ一応のコロイド科学の知識を教科書程度持っていたので、シリカの超微粒子をミセルにしてラテックスを重合したらこのような姿にならないか、と嘲笑にくじけず再度提案した。

 

この提案では8割に笑いが起きたが、一人頭の上に電球が灯った社員が現れた。彼はコアシェルラテックスの合成実験をしていたときに、シリカの超微粒子存在下でラテックスを合成したら、まったくシリカの超微粒子表面で重合が起きず、コアを含まないラテックスが合成された経験を持っていた。

 

コアシェルラテックスが目標だったので、その実験条件は失敗だと思っていたが、その条件を見直せばホワイトボードの絵の状態ができるかもしれない、と発言した。開発の検討過程では失敗はつきもので、失敗という経験の中には新しい科学のヒントが隠されている可能性があり、この発言を待っていた!

<明日に続く>

 

(注)討論会でも回答したがバクテリアセルロースに関しては20年ほど前に出願された特許の幾つかが期限切れになり、ブレークする可能性があるかもしれない。ただしブレークするためには、競合するフィラーよりも価格が安くならねばならない。例えば300円/kg以下。

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.07/30 高分子材料自由討論会(2)

日曜日から高分子材料自由討論会に参加している。昨日の講演では、2件弊社の今年の活動に関係する報告があった。

 

1件は、N社からのポリエチレンの混練において混練機が変わるとレオロジー特性に差が出て品質問題になっていた、との報告。この問題を解決するにはポリエチレンをロールに1回通せばよい、という内容だったが、弊社が力を入れているカオス混合の技術を支持する結果が得られていた。

 

他の1件はY大K先生の助教の報告。キャピラリーに2種類のポリマーを同時に流した時の界面の現象について。この研究報告では、細いスリット中で発生するポリマーの界面現象を形態観察とレオロジー測定を行い考察していた。

 

いずれも研究報告として弊社の技術と深く関係する内容であり、ご興味ある方はご連絡ください。

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2013.07/29 高分子材料自由討論会(1)

昨日から高分子自由討論会に参加しています。夕食後アルコールが入っている状態で拝聴した興味深い話題を2つ。

 

長岡技科大河原先生の天然ゴムの構造に関する研究。数年前から拝聴していて、細かいところまで科学的に丁寧に研究されているのに感心していた。およその構造はゴム会社に入社したときに習い、怪しい構造を知っていたが、植物の体内でできる過程からラテックスの細部の構造まで電顕写真と照合しながらの説明は面白かった。

 

このような研究を「産業に貢献するのか」という人がおそらくいるかもしれないが、およその構造の説明と「確かにこのようになっている、これが真実だ」という説明では、迫力が異なる。ゴム産業に直接役立つかどうか、ということではなく、技術開発をしているときに「本当はどうなのか」という疑問がわき、それがすっきりする爽快感は、機能追求に集中できる安定した姿勢を保つので大切である。これは感覚なので実際に味わったことのない人には伝えにくい事柄である。

 

わかりやすく表現すれば、高分子材料開発では、未だに科学的に不明な事柄が多く、不安な状態に時として陥るので、それが解消されることは、間接的に産業に役立つ、ということである。特に生ゴムの場合には、稀にゴム手袋にアレルギーの人がいるが、この研究結果を見ればその理由がわかる。それでも「昔からわかっていたことだ」と言う人がいるが、この研究結果から、安いゴム手袋を天然ゴムで作るな、とはっきり言える。この研究結果からアレルギーの解決にコストがかかることが明確になった。

 

もう一題は名大の高野先生のブロック共重合体が織りなす様々な相分離構造の研究。これもその価値がわからない人には無駄な研究に見える。この研究のテーマの一つにブロック共重合体・ホモポリマー・溶媒系からできる相分離構造があるが、この結果は高分子のブレンド系を設計するときの重要なヒントを示している。一般には無溶媒の世界でこの研究と無関係に見えるかもしれないが、スピノーダル分解を利用してフィラーの分散制御を行うヒントを与えてくれる。科学的な丁寧な研究で勉強になりました。

 

 

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2013.07/28 科学と技術(7)

科学とは現象を理解するための哲学、と言った人がいる。科学の目的は真理を追究することだ、ということはよく聞く。1883年に物理学者マッハは力学史を著すが、そこで本能的知識が現象の研究に先行している、と述べている。

 

現象の研究とは科学的研究のことで、科学が無くても本能的知識や経験で技術が進歩することをマッハは認めている。また、いつ、どこで、どのような仕方で科学の発展が始まったかという史実を調べることは困難だとも述べている。マッハ力学史を読むと、技術が発展した歴史の中で科学が生まれた様子を知ることができる。マッハは科学の生まれた時代の研究を検証しながら何が科学なのかを明らかにしてゆく。

 

面白いのはニュートン力学を批判し、ニュートンがニュートン力学を生み出す過程を非科学的とマッハは述べている。ニュートン力学は高校の物理で学ぶ科学の一分野でもある。しかしそれはマッハによれば非科学的に生み出された成果である。大学で改めて力学を科学として学び直すが、高校で非科学的な力学を教えていることを誰も指摘しない。これは一つの大切な知恵である。

 

会社の技術開発の現場で、非科学的方法を笑う人がよくいる。技術開発の現場は、理系の大卒以上の学歴の人が多いので皆科学のプロである。ゆえに非科学的手法を見ると批判する。批判はまだ良いが嘲笑する人までいる。

 

科学的手順は大切である。製品の品質管理でも統計学に基づいて行われる。しかし、技術開発の効率を上げたり、イノベーションを起こしたりするときには、この科学的方法が時には足かせになったりする。超高純度SiC新規合成法は、前駆体合成を開発した手順が非科学的であったため学会でひどい目に遭った。

 

また、山中博士は、ノーベル賞を受賞するまでヤマナカファクターを発見した実験を詳しく公開されなかった、とTVで紹介された。その番組で公開された、発見に至る実験の内容は、極めて非科学的方法であった。山中博士を見て自分の軽率さを反省した。

 

時としてイノベーションが非科学的方法から生み出されていることにもっと目を向けるべきである。技術開発では科学にとらわれる必要はなく、自由な発想で取り組むべきであろう。自由な発想が難しいので、科学に技術開発の方法を頼っている、というのが現状の姿ではないだろうか。TRIZやUSITはその時の便利なツールで、このツールを使えば科学的手順を「難しく」確実に行う事ができる。

 

これに対して弊社の研究開発必勝法プログラムでは、非科学的方法もとりいれている技術開発のための問題解決法である。技術開発でコーチングをうまく実施する方法も公開している。このコーチングは科学的方法に準拠していない。部下の発想を促すのに科学的方法論は不要である。機能実現のための真摯さがあれば良い。

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