上司含め3人で無機材質研究所へ訪問しました時に、田中無機材質研究所長と面会し、その時新しい問題解決法を思いついた、と先日書きましたが、その時の状況と問題を選択するときの判断基準について。
高分子の難燃化技術から生まれたセラミックスの前駆体高分子という技術シーズを活用してセラミックス市場に参入する、というシナリオは、ブリヂストン研究開発本部内で認知されていませんでした。また、ファインセラミックスフィーバーの中心の話題はセラミックス断熱エンジンで、エンジニアリングセラミックスの開発にセラミックスメーカー各社は競っていました。しかし、会社内ではエンジニアリングセラミックスではなくエレクトロセラミックスを研究開発すべき、という意見も多く、エンジニアリング分野かエレクトニクス分野かという大まかな方向も決まっていない状況でした。すなわち当時の研究開発本部のセラミックスに関する企画内容は、外部のシンクタンクのレポートをまとめ直しただけで、具体的な研究開発テーマまで絞られていませんでしたので、Y取締役は研究テーマを決めなければならない難問を抱えていました。
無機材質研究所の訪問は、上司にゆっくりと自分の考えているシナリオを説明できる良いチャンスでした。すなわち小平市の研究所から筑波にある無機材質研究所まで1時間半かかりましたので、社有車の中でゆっくりと高純度SiC開発シナリオを上司に説明することができました。
無機材質研究所に到着して驚いたのはY取締役と田中所長が過去に名刺交換された間柄であったことです。田中所長が大阪工業試験所長をされていたときに、ブリヂストンが接着剤の研究に多額の寄付をされたそうです。新しい問題解決法のヒントは、その時の話題に触れた田中先生の石橋氏に対する感謝の言葉にありました。すなわち、「タイヤで日本一になった企業ならば、誰も達成できていないSiCの高純度化技術で世界一を狙うべきだ、そしてブリヂストンならばそれができる。」、という言葉です。さらに、「高純度SiC粉末を開発できれば、エンジニアリング分野でもエレクトロニクス分野でもどちらでも勝者になれる。将来パワートランジスタやLEDが伸びるので高純度SiC半導体技術は、一大市場を形成する。だから、高純度SiCの開発をやるべきだ」と説明されました。
このような「べき論」の発想は、問題を分析的に眺めていても出てきません。そもそも、「問題」は、「あるべき姿」と「現実」の乖離から生まれます。この乖離を無くすことが問題解決ならば、問題を解決するということは、問題を分析的に考えることではなく、「あるべき姿」への道筋を示すことであり、そのためには道筋のゴールである「あるべき姿」の具体化が問題解決に重要な作業である、と気がつきました。
「問題」というものが静的な世界で生じて変化しないものならば、従来の分析的思考の問題解決法で答えを出してもよいのでしょうが、混沌とした世界で動的に変化している問題に対して静的に分析して得られた答えが正しい答えには思われません。そもそも問題そのものが時間の流れの中で変化していますので、静的な分析は答えを求める作業として不適切に思われます。
ところが一般の問題解決法で展開されている分析的思考は静的な分析法と思われます。ファインセラミックスフィーバーのような動的な世界における問題解決では、未来のある時間にゴールを設定し、そのゴールから問題の核心にせまる方法、すなわち未来から逆向きの推論を展開する方法こそ動的な分析法とみなしてもよい方法と考えました。
ところで未来のある時間にゴールを設定した場合には、時間の流れの中の優先順位を考える必要があります。この優先順位については、ドラッカーが、「経営者の条件」の中で「どの仕事が重要であり、どの仕事が重要でないかの決定が必要である」と述べ、次の四つのルールを秘策として示しています。
a.過去ではなく未来を選ぶ。
b.問題ではなく機会に焦点を合わせる。
c.横並びでなく独自性を持つ。
d.無難で容易なものではなく変革をもたらすものを選ぶ。
この四つのルールは問題解決法において課題を選択し順序を決める時の判断基準になります。高分子前駆体を用いた高純度SiC合成プロセスの開発というテーマは、この4つのルールを満たしており、無機材質研究所からの帰り道は、この話題で盛り上がりました。
弊社「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」(注)では、この時考えた問題解決法につきまして解説しております。
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無機材質研究所へ留学するために最初に猪股先生へおかけしました電話では、セラミックスの研究歴が無い点を指摘されました。猪股先生へのこの最初の電話では、2週間後に開催される学会でお会いする約束をしたかったのですが、そこまでたどり着く前に、断られてしまったのです。しかし、失礼とは思いましたが、学会で名刺交換だけでもさせて頂こうと、先生の発表日に学会へ出席し、名刺交換と自分の売り込みをいたしました。
2週間という短時間でSiCの専門家に認めて頂けるような知識をどのように身につけたらよいか、1日悩みました。当時のセラミックス関係の有名な専門書は、キンガリー著「セラミックス材料科学入門」でしたが、とても2週間で読み切れるページ数ではありません。最低限でも猪股先生の論文を読んでおこう、と思いまして3編ほど最新論文を集め読んで見ました。
3編ともセラミックスの焼結過程を熱力学の観点で論じた論文でした。猪股先生が新しい焼結理論を構築しようとされていることは、緒言を読むと理解でき、従来の理論の問題点も整理されていました。キンガリーの教科書に該当部分が無いか探しましたら、10ページほど古い焼結理論の説明がありました。教科書を読んでいたときには、よく理解できなかったのですが、猪股先生の論文と対比しますと、不思議なことによく分かります。
猪股先生の論文と教科書の該当する部分を比較しますと、セラミックスという学問が、相図などの状態変化を扱いつつも、形態学的な観点で研究されてきたのではないか、という疑問がわいてきました。物理化学を少しかじれば、状態変化は熱力学で議論するのが基本ということを理解できます。猪股先生の焼結理論は、実験結果の整理を熱力学で行う姿勢が明快でした。猪股先生とお話するときには、熱力学を十分に理解していることが重要と思いました。
セラミックスのプロセシングで重要となる焼結について、その理論が議論されている状況という段階ならば、基礎科学の観点でセラミックスという学問が見直しをされているのではないか、という疑問を持ちました。猪股先生のご専門であるSiCについて、どの程度研究されているのか調べましたら、速度論的研究に大穴を見つけました。SiCはシリカ還元法と呼ばれる方法で製造されますが、気相と固相の両者が関わるために反応機構が複雑になります。反応機構についていろいろと提案されていましたが、固相だけあるいは気相だけで進む反応機構を取り扱った論文はありませんでした。
高純度SiCを合成できる高分子前駆体をすでに開発していましたので、この前駆体を用いれば、固相均一反応の取り扱いで速度論を議論できるのではないかと考えました。反応副生成物は、すべてガスですから熱重量分析法でモニタリングできます。熱力学と速度論については学生時代に勉強しましたので、猪股先生の論文を中心に知識の整理をいたしました。不思議なことに、猪股先生の論文を中心にSiCに関わる熱力学や速度論の問題を整理しましたら、セラミックスが分かったような気分になりました。
この時の経験で、必要な知識を短時間で身につけるには、一人の研究者の考え方を整理してみるのもコツではないかと思いました。読み古した教科書ならば短時間に復習できますが、真新しい教科書では短時間に知識を身につけることは難しいように思います。しかし、一人の研究者の論文であれば、たとえそれが難解な論文でも、教科書片手に読み進んでゆくとその分野の知識が、教科書よりも短時間で身につくように思います。これは、一人の研究者の論文は、一人の研究者の哲学で一貫しているから知識が頭の中で整理されやすいのではないか、と考えています。
「高分子材料のツボセミナー」(注)では、この時の経験も取り入れ、高分子材料を実務で扱う時に、とりあえず知識として頭に整理しておきたい事項を教科書とは異なる視点でまとめてみました。2時間前後で知識の整理を行うのに便利なツールをめざし企画しました。
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研究開発に必要な知識と情報につきましては、各企業の企画業務で伝承されていると思います。しかし、専門外のファインセラミックスフィーバーが突然発生し、ファインセラミックスの企画をしなければならない状況では、おそらく外部のコンサルタントを活用するのが一般的ではないかと思います。
当時、ファインセラミックスを会社の事業方針に掲げた時には、日米3社のシンクタンクの情報で立案された企画に基づいておりました。市場規模はじめ綿密に調査されたレポート等それなりの金額が支払われた情報の数々は、経営が判断するに十分なデータ量でした。しかし、研究開発を実際に担当する立場では、単なる情報に過ぎず、特にセラミックスの専門家のいない会社では、具体的にどう研究開発を進めたらよいのか暗中模索の状態でした。
研究開発部門では某コンサルティング会社に依頼し、研究開発テーマを提案できるコンサルタント数人によるプレゼンテーションを実施したのですが、提案内容について自分たちで裏付けを取るために特許調査をしてみると、特許の観点から平凡な提案ばかりでした。画期的と思われるテーマもありましたが、アカデミアの先生のご意見を伺いますと「大嘘」の企画であることがわかりました。
畑違いの企業が新たな市場に参入するためには、その市場でイノベーションを起こせる画期的な技術アイデアが求められます。私が提案した高分子前駆体によるファインセラミックス事業のシナリオは、人事部の目にはとまりましたが、研究部門では、画期的ではあるがコストが高く事業性が無い、という判断が下されていました。そのような背景もあり、海外留学をやめて自分の提案した企画について研究開発の企画部門の判断が正しいのか確認するために無機材質研究所へ留学先を決めたのですが、結論としましては、日本化学会化学技術賞まで受賞し、30年経過した現在でも事業が継続する技術シーズを当時の研究開発部門で、いとも簡単にダメテーマに分類していたことになります。
無機材質研究所において最低限学びたかったのは、半導体材料のコスト計算を正しくできるスキルでした。すなわちイノベーションを可能とする技術ならば従来のプロセスにも革新もたらし、その結果コストダウンにつながるシナリオも描けるのではないか、と期待していました。このあたりのカンは、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームを開発したときの始末書の学習効果が生きていたと思います。しかし、そのようなことを無機材質研究所総合研究官猪股先生には申せません。人数制限など物理的制約を取り除いても、留学生として受け入れて頂けるような、見識と実力を兼ね添えた人材であると表現できるように知識と情報を短期間で身につけなければならなかったのです。
「高分子材料のツボ」セミナー(注)は、この時の経験を生かし、高分子材料開発を行うために必要な知識と知恵を2時間程度で身につけられる電子書籍という考え方で企画しました。
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科学技術庁無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)へ留学する手続きは、少し面倒でした。アカデミアの先生からご紹介をいただき、猪股先生に電話にて面会のご都合を伺ったのですが、セラミックスの研究経験が無いことと、ビジターの定員3名という制限でSiCの研究グループが満員であることを理由に、面会そのものが断られました。ファインセラミックスフィーバーの状況で、同様の問い合わせが、フィーバーの中心素材でもあるSiCの研究グループへ数多くきているのではないか、と想像しました。
その2週間後学会で猪股先生にお会いすることができ、初対面で生意気とは思いましたが、猪股先生の発表内容に関して肯定的なコメントさせていただき、SiC合成のための新しい前駆体高分子とそれを用いたシリカ還元法の反応機構を研究するシナリオのお話をさせていただきました。猪股先生は、セラミックスの新しい焼結理論の構築に努力されていましたが、日本セラミックス協会の古い研究者には支持されていませんでした。
当時教科書に載っていた焼結理論は、電子顕微鏡の観察結果から導かれたような理論でしたが、猪股先生の理論は、科学の世界では一般的な熱力学に基づく理論で、高分子や無機の結晶の速度論や自由エネルギーの考え方と共通に論じることができる、科学的な理論でした。しかし、日本セラミックス協会誌には、その科学的理論に批判的意見が掲載されていました。猪股先生にゴマをするつもりは無かったのですが、先生の理論から、高純度SiC用前駆体高分子の熱重量分析データを活用する速度論的研究のアイデアが浮かびましたので、その研究アイデアの評価を頂くため、アイデアの基になった先生のご研究に対し肯定的なコメントをする必要がありました。
猪股先生から、「君のSiCの研究テーマを研究所に持ち込んで頂いては困るが、SiCについてそこまで詳しいのならば、留学の件何とかしましょう」と言ってくださり、会社の上司と無機材質研究所へ訪問することになりました。この時猪股先生から、無機材質研究所で動いているテーマのお手伝いをする覚悟で留学するようにクギをさされました。すなわち、高純度SiCの新合成法の研究やその反応速度論の研究を無機材質研究所でしてはならない、とまで明確に留学の条件を提示されました。
直属の上司であるO課長とY取締役、私の3名で無機材質研究所へ訪問いたしました。研究所を見学後、猪股先生は、田中無機材質研究所長をご紹介くださり、その場で留学の許可を頂くことができました。田中所長もSiCの研究者として著名な方で、学会で猪股先生にお話ししたSiCの反応速度論の研究シナリオについて、ほめてくださるとともに、無機材質研究所で3年間勉強した後、必ず高純度SiCの研究を成功させ事業化を行うよう私たちを激励してくださいました。
高純度SiCの新合成法発明の機会ができただけでなく、この田中所長との出会いで、新しい問題解決法を生み出すこともできました。その詳細につきましては、「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」(注)に紹介しております。また、「問題は「結論」から考えろセミナー」(注)では、問題解決法の手順に絞り、セミナー形式で解説しております。是非ご一読ください。
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入社して2年目に会社は創立50周年を迎え、CIが導入され、社名からタイヤが消えました。そして、非タイヤ部門を強化する方針が発表され、メカトロニクスと電池、ファインセラミックスの3分野を事業の柱とする戦略が発表されました。同時に50周年記念論文の募集(1980年)があり、私は有機無機複合材料から高純度セラミックスを合成し、それを基盤技術としてファインセラミックス市場に進出するシナリオを提案いたしました。この提案は、入選しませんでしたが、海外留学のチャンスを頂きました。
留学し学位を取得するのは一つの夢でしたので、このチャンスは夢実現につながる朗報でしたが、日本が先端を走っているファインセラミックスフィーバーの状況と会社の方針を考慮すると、留学先を日本とし会社の事業戦略に直結する研究テーマを選ぶべき、という思いが浮かび、アカデミアの先生3人に最良の留学先について相談いたしました。すると3人の先生方全員が研究環境の観点で無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)を一番の留学先であると教えてくださいました。
しかし、無機材質研究所の留学では研究所に学位審査権が無いので学位は取れません。学位取得の容易さと会社の方針、そして会社が用意してくださいました海外留学先も含め悩みましたが、30年以上担当することになるであろうファインセラミックスの仕事を中心に考えを整理し、S人事部長とご相談しました。すると、無機材質研究所から留学許可が得られるならば、海外留学制度にとらわれる必要は無い、という見解を示され、研究所の上司にも調整してくださいました。
その後手続きを進め、無機材質研究所へ留学することになりましたが、当時国内の大学以外の研究機関への留学は全社の留学制度として前例が無く、海外へ毎年研究所から1名留学するのが常態化していましたので、研究所の同僚からは今回の国内留学が前例となったなら、海外へ留学しにくくなるのではないかとの批判も聞かれました。また、仕事中心ではなく学位取得と語学を成果として考えればよい、とアドバイスしてくださる先輩もいました。
会社に留学制度がある場合に、その目的の一つは人材育成ですが、それ以外は会社により様々と思います。研究所の上司からも柔軟に考えるように、ともアドバイスを頂きました。その後学位取得に苦労しましたから、当時の自分の判断が正しかったのかどうか悩むこともありましたが、無機材質研究所へ留学し、高純度SiCの新合成法を完成することができ、そしてその事業が現在も続けられていることを思いますと、海外留学と学位のチャンスを見送り、無機材質研究所を留学先に選びましたのは、正しかったのではないかと思っています。ただ、発明の成功により先行投資2億4000万円が決まり、高純度SiCの新合成法のパイロットプラントを建設することになり、3年間の留学予定が1年半になりましたのは誤算でした。
上司の説明による当時の全社留学制度は、語学留学が目的で、将来の海外派遣要員育成という目的があったようです。将来のキャリアプランとして社内ベンチャーを起業したい、という夢もございましたので、全社留学制度の趣旨どおりの留学でも良かったのかもしれません。しかし、SiC半導体の原料となる高純度SiCの新合成法のアイデア実現が、社業に貢献できる成果として具体的に見えておりましたので、無機材質研究所への留学を決意しました。また、当時の無機材質研究所は、ファインセラミックスフィーバーの中心研究機関で、セラミックスメーカーからのビジターが多く、留学先のSiC研究グループは、海外の留学生も含め満杯の状態でした。ところが小生のビジョンを理解してくださった猪股先生が田中無機材質研究所長と調整してくださり、受け入れてくださいました。さらに、田中所長は、留学の挨拶で訪問した会社幹部に、高純度SiCの用途が、パワー半導体やLED、半導体冶工具に広がり、将来一大マーケットが形成されるという説明をして、高純度SiCの研究の後押しをしてくださいました。この詳細は「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」(1)あるいは「問題は「結論」から考えろ!セミナー」(2)に紹介してあります。
(1)(2)は、クリックして頂くと、リンク先からサンプルを閲覧できます。
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企業活動において学会との関係は、経営者の考え方や各企業の方針で大きく変わるかと思います。32年間研究開発に携わり、学会活動も行ってきた経験から、知財との関係で学会発表の長所の例について。
学会発表は、企業活動において短所もありますが、積極的に活用しますとその長所の方が大きいことに気づきます。特に知財面では、特許出願で抑えきれない分野を科学的に公知とすることで、「奇妙な」特許出願を抑制することができます。公知化には、学会発表以外にもいくつか方法がありますが、学会発表における公知化では、実用化しようとする技術の権利範囲が科学的に不明確である場合に特に有効です。
例えば結晶と非晶質の境界は曖昧です。分析技術が高度化し、ナノ結晶の実態も明らかになってきました。ナノ結晶を非晶質に入れるのか文字通り結晶にするのか、物質ごとに意見が分かれる場合があります。先願の実施例に書かれた合成法では、ナノ結晶しかできないことに着目した後発メーカーが、ちゃっかりと結晶を権利範囲とする特許を多数出願し、気がついたら後願の特許群に権利範囲を全部抑えられていた、ということを経験しました。当然ながら、このような特許群に対して、科学的証拠で対応すれば、先願の権利範囲周辺についてぽっかりと穴を開けることができますが、科学的証拠を集めにくい状況では、学会発表が有効です。学会発表で科学的事実を積み重ね、特許の不明確な境界を過去から存在したであろう客観的事実で記述できれば、特許の権利の境界を明確にすることができます。
また、あまり知られていない古い情報があり、新概念で生み出した技術とその関係が不明確の場合に、学会で議論を行うと情報が掘り起こされるとともに、新概念の客観的位置づけを知ることができます。硼酸エステル変性ポリウレタンフォームの特許は、硼酸エステルの文献情報が多数存在し、現物は見つかっていませんでしたが、リン酸エステル系難燃剤との組み合わせ技術の存在が疑われましたので、かなり権利範囲を限定し出願いたしました。しかし、ガラス生成による難燃化技術として学会発表を行いましたところ、概念そのものが新しいとわかったので、特許出願を工夫すればもう少し広い範囲の権利化ができたのではないか、と反省しています。
すなわち、当時まだアルコキシドによるゾルゲル法が登場したばかりで、高分子マトリックスを活用し無機材料を合成する技術は、この難燃化技術が生まれてから5年後に学会発表が活発化しています。有機無機ハイブリッドの研究発表は、1980年代のセラミックスフィーバー以降活発になりました。ゆえに硼酸エステル変性ポリウレタンフォームの発明の内容を有機無機ハイブリッドとし、高分子前駆体をセラミックス原料に用いる発明まで拡大すれば、基本特許とすることができました。もったいないことをした、と現在後悔しております。学会発表は、単なる情報収集だけでなく、知財権の観点で積極的に活用する場として見直してもよいのでは、と思っています。
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科学論文に書かれている常識と異なる現象と対面したときに、研究者ならば真理を追究するアクションを取るでしょう。しかし、技術者は、ロバスト性(注)が高く再現するならば、新技術として活用しようとします。また、堅実な経営者あるいは実務の管理者ならば、自己の使命に照らし合わせ、使命と無関係ならば、何も考えず避けて通ります。
仕事で遭遇した不可解な現象に対し、その立場や職業により、人は考え方が異なります。社会におけるこのような問題認識の違いを理解できるかどうかが、技術者の成長の尺度のような気がしています。
大学を出てきたばかりの理系の社員は、長い学校生活で科学の姿勢を学びますので研究者的思考をし、それ以外の思考を理解できません。少なくとも私はそうでした。しかし、新入社員発表会におけるCTOの言葉や樹脂補強ゴム開発における指導社員のレオロジーという学問の説明、そして難燃性ポリウレタンフォームにおける指導社員との衝突を通じ、研究者と技術者の姿勢、問題認識の違いを理解することができました。また、それを理解することができましたので、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの解析を中断し、新しい難燃システムへのチャレンジを受け入れたのです。
研究者的思考、価値観では、経営者や実務管理者の理解は容易です。むしろそれを理解し、研究者であることを優越感に感じる人もいるかもしれません。しかし、不可解な現象を前に、真理の追究をしないで、それをすぐに活用しようとする技術者の思考や価値観の理解は、研究者にとって大変難しいことだと思います。新入社員発表会におけるCTOの言葉の意味を真に自分の成長のための言葉と理解できましたのは、新しい難燃システムへチャレンジを始めた時で、たった一言を理解する為に1年近くかかりました。3年近く前の葬儀では、御礼の気持ちを込めて末席で献花をさせて頂きましたが、技術者とはどのように考えるべきかをよくご存じであった経営者の一人だと思います。
「カンと経験と度胸」これは、真理の追究をしないで現象の活用ばかりに走る技術者を研究者が軽蔑して言っていた言葉のように思います。しかし、科学の無い時代における技術の進歩を見るにつけ、「カンと経験と度胸」でも技術開発ができるように思われます。問題となるのはイノベーションのスピードで、「カンと経験と度胸」以外に現代の技術者はもう一芸を身につける必要があるように思います。
多くのイノベーションが、科学の世界で起きていることに着目しますと、イノベーションを起こすことのできる技術者とは、大学までの長い学生生活で培った研究者の心を忘れない技術者だと思います。研究者の心を忘れず最先端の科学の成果を技術へ昇華させることのできる技術者がイノベーションを起こすことができる技術者ではないかと思っています。
科学の最新情報の入手は、情報化時代の今日難しいことではありませんが、それを取捨選択し知恵を働かせて技術へ昇華させることは容易ではありません。推論を重視した問題解決力を鍛えることも大切です。数学の受験参考書には、「結論からお迎え」という標語でまとめられておりましたが、大学入試で活用していた「逆向きの推論」は重要で、「問題は「結論」から考えろ!セミナー」でも紹介しています。
この推論のスキルは、科学の最新情報から自分の技術領域へ推論を展開するときにも応用できます。科学の成果を技術へ展開したり、技術成果を科学の成果にまとめたりして、このスキルを高めてゆけば、イノベーションが可能な技術者になれるのではないかと思います。
(注)外乱や環境変化に対して、それを阻止するように、即ち外部因子の影響に対して安定であるシステムのことをロバスト性が高い、という。ロバストネスともいう。
弊社では本記事の内容やコンサルティング業務を含め、電子メールでのご相談を無料で承っております。
こちら(当サイトのお問い合わせ)からご連絡ください。
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「技術によって生み出された人工物に含まれている知識は、どんなものであれ科学がもたらしたものにちがいない-科学の時代と言われる今日、こうしたあまりにも安直な考えが一般的となっている。これは現代の俗説の一つであり、そうした俗説は、技術に携わる人々がわれわれの住んでいる世界を形づくるに際して、科学的とはいえない多くの決定ー大きなものも小さなものもーをしていることを無視している。日常使用している多くの物体が科学の影響を受けていることはたしかである。しかし、それらの形状、寸法、外観は、技術に携わる人々ー職人、技術者、発明家ーによって、科学的ではない思考法を用いて決定されてきたのである。」
以上はE.S.ファーガソン著「技術屋の心眼」(平凡社)の序文であります。この本はバブルがはじけた1995年に、翻訳の初版が発行されました。ちょうどコニカ(現在コニカミノルタ)へ転職して4年目の時で、酸化スズゾルの帯電防止技術を製品に搭載することに成功し、新たな製品化テーマを担当したときです。通勤電車の往復で一気に読んでしまいました。(「問題は「結論」から考えろ!」でも紹介しています。)
科学と技術は車の両輪、とよくいわれます。しかし、科学につきましては学校教育という学ぶ場がありますが、技術につきましては、就職するまで真剣に学ぶ機会がありません。また、学校教育は、教育基本法など社会標準などが決まっており、皆同じ水準の教科書で勉強しますが、技術教育は企業ごとに様々です。日本の社会の常として、転職してよかったことはあまりありませんが、技術者教育について企業に差がある、ということを学びましたのは大きな収穫、と思いました。メーカーでトップになる企業は、やはり技術者教育に力を入れている、あるいはOJTで技術者を育成できる企業である、と痛感しました。技術者を大切に育てながら、営業活動も含め均等に力を入れることのできる企業が、世界のトップ企業になれるのでしょう。
どこのメーカーでも技術者教育のシステムを大なり小なり備えているかと思います。しかし、技術者を育てていこうという風土まで企業文化の中に根づかせるには、企業トップの努力が必要です。ブリヂストンの12年間は、それを体感できた貴重な人生経験として宝の期間です。
「この会社には技術が無い」と、入社半年で退職した同期もいましたが、その彼がイメージしていた技術とは科学の世界観の科学技術でした。「カンと経験と度胸(KKD)」を豪語する先輩社員も多く、現場現物主義の徹底した風土で、科学教育を受けてきた新入社員の目に「科学技術が無い」、と写っても仕方がない会社でした。企画書を持って行くと、一読もせず、「まず、物を持ってこい」と叱る研究部門のトップがいる会社でした。軽量化タイヤのスペックを科学的に求める新入社員の実習テーマに対して、「君が考える軽量化タイヤとは、何か」、と真剣に熱く質問するCTOのいる会社でした。
一方で、充実した大学への留学制度や、学会活動、学位取得など学術を極めようとする社員に理解がある会社でした。大学への寄付など学術方面への貢献も企業活動の中で積極的に推進している会社でした。学術の限界を語り、実技の神秘性や奥深さを学術の視点と技術屋の心眼で指導できるメンターがいる会社でした。
ブリヂストンには、科学と技術が車の両輪としてうまく動いているイメージがありました。少なくとも技術とは何か、を真剣に追求する風土だったと記憶しています。科学は、学校教育も含め十分すぎるぐらい学ぶ機会がありますが、技術については学べる機会や環境が少ないように思います。メーカーが唯一の環境かもしれません。その環境は企業により大きな差があります。各企業がこれまで培った経験知をうまく伝承し、企業に貢献できる技術者を育てることができるかどうかが、今後の日本の再生を左右すると感じています。
技術者教育に関し、社会標準は無いように思われます。技術というオブジェクトが、属人的であったとしても企業のノウハウまで含んでいるのなら、標準化は難しいかもしれません。E.S.ファーガソンの著書は、技術とはどういうものか、をわかりやすく表現しています。訳者あとがきでは、核エネルギーの開発の成功は科学的思考の産物で工学的な現場感覚を軽視していることを指摘しています。このあとがきは福島原発の事故よりも前に書かれたものです。3.11以降の状態から「技術」というものを今一度真剣に考えなくてはならないと感じました。弊社は、少しでもそのお役に立てるような活動をしたいと考えています。
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「高分子材料のツボ」セミナー(以下高分子のツボ)の内容は、高分子材料技術を担当するときに覚えておくべきこと、少なくともこれだけは最低限記憶しておきたいことをまとめたものです。高分子の一次構造や、重合反応についてほとんど扱っていません。理由は、高分子の重合反応については、かなりのところまで科学的に理解されてきたからです。
実際に重合反応を100%制御できないにしても、重合様式については、ほぼ明らかになったと思っています。しかし、高分子のレオロジーはじめ実際の高分子材料の機能発現機構については、推定の域に留まっています。
2005年から2011年までの6年間、樹脂技術開発に専念することができました。社会人になって30年間疑問に思ってきた科学的成果にフローリーハギンズの理論(以下FH理論)があります。2002年にチャンスがあり、ポリオレフィンとポリスチレンを混合し、透明になる系を発見して以来、FH理論への疑問は強くなり、どんな高分子の組み合わせでも相溶できるプロセシング開発に対する思いがよみがえりました。
2005年にPPSと6ナイロンの系に出会いました。OCTAでシミュレーションしましてもきれいに相分離する系です。もし高温度でPPSと6ナイロンを相溶させて、急冷したならば非相溶系を相溶状態にできるのではないか、と考え、カオス混合にトライしました。仮説は的中し、非相溶系を室温で相溶した状態にできました。混練機の吐出部から透明の樹脂が出てきたときには感動しました。科学で説明できない現象に遭遇できる可能性があるので、技術開発という仕事は、刺激的で病みつきになります。しかし、この刺激による興奮を味わうためには、素人スポーツなどの遊びと同じく、ルールを十分に理解していなければなりません。
高分子の相溶について、高分子のツボでも扱っていますが、通常の高分子の教科書と少し表現を変えています。教科書を否定すると売れなくなるので、否定はしていませんが、FH理論に対する疑問がわくように表現しています。
高分子のツボの他の部分もそうですが、高分子材料技術に関わっている人が、まず頭の中に整理して入れておいて頂きたい内容と、疑問に思って頂きたい内容をとりあげまとめております。すなわち、高分子のツボをよく理解して頂ければ、技術開発で遭遇する現象を前に楽しむことやアイデアを出すことができるのではないかという思いで編集しております。

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豊川へ単身赴任した時に、高分子材料分野で頼りにできる部下が、上海の大学院を卒業し日本に来たばかりの中国人であった。現地の人事部の情報では日本語と英語が話せる、との説明があったので、引き受けたが、日本語は読める程度で会話は英語か中国語で話さなければならない状態であった。たまたま部下に中国語が堪能でモラールが高く頼りになる部下がいたので彼をメンターにした。そして、日本語学校へ中国人をすぐに入学させた。
中国語が堪能な部下は、がんばって中国人を指導してくれた。機械系が専門なので高分子材料が分からなくて苦労していたが、丁寧に業務指導ができているのは、現場での人間関係から理解できた。早く日本語をマスターさせるために、中国人には日本語で話しかけるよう部下全員に徹底したが、業務を理解しているかどうか確認するためには英会話もしくは中国語を併用してのコミュニケーションになった。
私は中国語など全く分からなかったが、この際勉強しようと中国語会話の本を買い込んだ。数冊中国語文法や中国語会話の本を購入したが、四声でつまずいた。CD付きの書籍で勉強したにもかかわらず、部下の中国人に通じなかったのだ。録音して聞き比べて見たところ、文になったときに音程を正しく取っていないことが分かった。中国語は単文で覚えることが重要と気がついた。中国語基本5文型を開発しようと考えたのはこの時の体験からです。
優秀な中国人であったので、メンターはじめ周囲の配慮も有り、半年程度で日本語によるコミュニケーションができるようになった。ただ、日本語学校に入れたはずなのに、彼の日本語は三河弁であった。
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