我が国の製鉄業は瀕死の状態であり、日本製鉄による東京製綱の敵対的公開買い付けが話題になった。しかし、カーボンニュートラルが叫ばれる時代に華々しい研究開発の噂を聞かない。
製鉄業はよく知られているように大量のCO2を放出する産業である。ゆえに今水素で製鉄する研究が活発に行われているが、この大量に放出されるCO2に着目したニュースを聞かない。
製鉄するために水素を使うよりも発生するCO2と水素あるいは水を反応させてメタノールあるいはホルマリン等のC1化合物を合成し、ここから石油コンビナートで現在合成されている化合物群を合成する新たな化学工業を起こす発想が出てこないのが不思議だ。
製鉄所から発生するCO2はわざわざ集めなくても製鉄プロセスをクローズドにすればよいだけである。これが経済的に成立するかどうかは、不明だから考えない、という姿勢ではだめで、そこから生まれる新たな事業に着目する必要がある。
石油コンビナートではクラッキングにより低分子量化し、様々な化学製品を合成しているのだが、製鉄コンビナートでは最初からC1化合物が合成されるので、医薬品を製造するプロセスを併設すれば、製鉄の付加価値が上がる。
二酸化炭素からC1化合物を合成する技術については、もう権利期限が切れた平成1年の工業技術院長の出願がある。それ以外にCO2からメタノール合成を行う技術特許はいくつか出願されている。製鉄業に関係している技術者はこのような発想をしないのだろうか。
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グローバル市場で販売されていた同一品種のすべてのタイヤを集め、解剖して各種データを収集する。その集められたデータ群から、主成分分析を行い、世界のタイヤメーカーの製品設計の特徴を見出すことができる。
タイヤの中には、高速度安定性に注力して設計されたタイヤや、ぬれた路面の安定走行を狙ったタイヤなど、各種存在していたが、自動車のバネ下重量を軽く設計する必要があるので、すべての市販タイヤには軽量化因子が含まれてくる。
すなわち、商品品質とタイヤ性能を維持しつつ軽量に設計しなければいけないので、どのような軽量化因子をどのように組み合わせてタイヤを軽量化するのか、という情報は、各社のタイヤの設計思想が表現されたものと言える。
大量のデータを多変量解析し、軽量化設計思想という知を取り出す作業は、一つのデータマイニング事例である。ここでは、作業プロセスが科学の成果であって、そのプロセスで得られた知が科学の成果となる保証は無い。なぜなら大量のデータを他の時代に収拾しなおせば、異なる知が得られるかもしれないのだ。
ゆえにデータマイニングは科学プロセスを用いて技術成果を得る手法と言える。しかし、得られた成果がうまく機能するかどうかは、さらに異なる問題を含んでいる。ゆえに、タイヤの形にして機能の動作を確認し、それが品質を満たした時に初めて「技術が生まれた」と言える。
それではデータマイニングで得られた成果とは何か。それはヒューリスティックなその時代の解、一つの技術のアウトラインであり、新人研修発表で走行テストの完了していないタイヤを前にして、CTOが「大バカ者」と言われたのは、齟齬ではないのだ。これをパワハラと思われた方は科学と技術を正しく理解していないことになる。
いかなるハラスメントも今の時代は許されるものではないが、大勢の前で怒鳴られ気づくこともある。逆に同じことを優しく言われて、気づかないことがある。前者は一瞬プライドがつぶれる痛みを我慢する必要があるが、後者は無知をさらけ出して生き続け恥をかく覚悟が無ければ一生気づかない。
人間の感度は個々異なるゆえに実務の現場における社員指導には高度なスキルが求められる。昔は体育会系根性一発で良かったが、今は弊社にご相談ください。各種ハラスメントの体験豊富で転職経験も生かしたご指導をいたします。
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人海戦術で集められた大量のタイヤ解剖データを多変量解析で処理して知識を取り出す作業は、データマイニングと呼ばれるが、40年以上前にそのような言葉など無かった。
閃き提案したM君含め、多変量解析がどのようなものか、十分に理解していなかったが、身近にコンピューターとプログラムがあったので、大量のデータを放り込んでみた。そうしたら大量の処理されたアウトプットが出てきたのである。
ただ、コンピューターの出力データの取り扱い方については、日本語の教科書に書かれていたので、それに従ってアウトプットをまとめていった。詳細は省略するが、驚くべきことに、理にかなった一つの値が見つかった。
一方で予算の心配をしていた指導社員は、明るい笑顔でタイヤ1本転がしながら現れた。なんとそのタイヤの重量と新入社員が四苦八苦しながら求めた値とが一致したのだ。指導社員はどや顔でKKDの方がコンピューターより早かった、と説明してくれた。
新入社員には意味のない大量の解剖データ群でも、タイヤ開発の経験の蓄積があった指導社員には意味のある数値列として見えていたのだ。そしてその数値列で指導社員の頭の中に描かれたイメージは、主成分分析でまとめられたグラフと一致していた。
新入社員は、コンピューターを湯水のように使いながら、多量のデータから知識を取り出しただけではなく、多変量解析の知識まで身につけていた。解剖データ群を一度主成分分析にかけて一次独立データ群に変換し、その値を用いて重回帰分析を行い、最小値推定をできるレベルまで到達していた。
ここで注目したいのは、タイヤの設計技術など何もわかっていない新入社員が求めた値と、タイヤの経験知が豊富な指導社員が大量のデータから設計因子を取り出して試作した軽量タイヤの重量と一致した点である。
また、数値が一致しただけでなく、主成分分析におけるグラフから、タイヤの設計技術傾向と軽量タイヤの位置づけまで明らかにできた。
以上は実話であるが、これにはオチがある。新入社員テーマ報告会でこれを報告したところ、CTOから「大馬鹿もん」と雷が落ちたのである。これは科学と技術の違いについて新入社員に気づきを与えるCTOの指導だった。
今ならパワハラと誤解される(パワハラそのものという人もいるかもしれない。苦労してまとめただけでなく、過重労働と私財を投じたプレゼンが全否定されたのである。40年以上前の出来事であり、マテリアルインフォマティクスやパワハラという言葉や概念は無かった。数分の説教の間全員固まっただけでなく、会場も静まり返っていた。もちろんそのあとに質問も出なかった。)
当時「大馬鹿もん」は愛の言葉として人事部長から説明された(本音は人事部長も困っていたのかもしれない)。あたかもアントニオ猪木の平手打ちのように。この会社の技術者にはKKD以外に闘魂も重要だと理解した。
(注)およそパワハラというものは、加害者側の無知と思いやりの無さから生じる。被害者側はその真意を冷静に眺め、自己の成長に役立つ部分だけ取り込めばよい。このときCTOは、新入社員がこのテーマのために過重労働をしていたことも私財(個人の持ち出しは書籍代だけではない)を投じたことも知らされていない。それだけではない。40年後にアカデミアが取り組むようなテーマをすでに体得し、成果を出していたことに気がついていない。これも一因となり、新入社員配属の日に優秀な新入社員が1名辞表を提出している。
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池袋東口に道路を挟んで2件ビックカメラがあり、1件はパソコン館と呼ばれ、その両者でかつてはカメラを扱っていた。先週池袋駅へ行く機会があり久しぶりにビックカメラを覗いてビックリした。
地下にあったカメラ売り場が無くなっていたのだ。店員に尋ねると売り上げが減少したのでパソコン館へ集約したという。カメラを売っていないビックカメラの登場に現在のカメラ市場の状況が伺われる。
かつて写真フィルムを開発していたところデジタル化の流れにフィルム事業をやめるとの話が出たかと思ったら、窓際にいた。仕方が無いから豊川へ単身赴任しカオス混合技術を開発したのだが、まさか転職した写真会社で混練工場を建てることになるとは思わなかった。
時代の流れは急速に進み、今度はカメラが世の中から消えるのか、と思われるような様相を呈してきた。そのような状況でペンタックスはとんでもない価格の高性能一眼レフを発売したかと思ったら、今度はニコンが安価な面白いミラーレスカメラを発売した。
デジカメでありながら、アナログデザインで昔のフィルムカメラニコンFM2を彷彿とさせるデザインである。ただファインダーをのぞくとがっかりする。有機ELディスプレーで上位機種Z6やZ7の高級感が無い。
ペンタックスと同じAPS-Cで値段がペンタックスK-3Ⅲの半額程度なので仕方がないかもしれない。しかし、あの値段が高いカメラしか作らないニコンが思い切った価格設定で凝ったデザインのカメラを出してきたことに驚いている。
アナログダイヤルはコストがかかるにもかかわらず、アンティークさを出すためのかなり努力したことをうかがわせるデザインになっている。
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翌日皆の顔は明るかった。なぜなら購入した本の著者の力量が高くうまくまとめられていたので式の理解などしなくても、数ページを読むだけで多変量解析のスキルを理解できたからである。
(このような本は数式を並べてページ数を稼ぎ価格を高くした本、という捉え方もできる。学術書では重要かもしれないが、実務ではワラビや軍配を並べられてもその料理が目的ではない。数式の部とスキルの部の二冊分冊とするのが実務家を対象とした本として好ましい。当方の上梓した著書では、難解な式を極力さけた。パーコレーションもスタウファーの教科書とは異なり、コンピューターシミュレーション結果で説明している。混練を行う時に知っておきたいことだけをまとめた本である。15年ほど前にカオス混合プラントを建設しようとしてゴム会社で学んだメモを探し出し勉強している。この本はその体験からまとめている。)
それぞれの100ページ近くのコピーは無駄に思われたが、100ページ前後を読んだような満足感がこのような場合には重要である。
それぞれの理解した手法の説明を発表しあい、それを皆で検討して、今回のデータ処理には重回帰分析と主成分分析を採用することにした。ただし、それぞれの手法の応用方法は多岐にわたる。
そのため、IBMの統計パッケージには、重回帰分析について5種類ほど準備されていた。但し主成分分析は1種であり、主成分分析を重回帰分析に組み合わせるときには、主成分分析の吐き出したデータを手入力でデータを組みなおす必要があった。
但し、複雑な処理をしなければ、入力データとして同じものを使えたので、とりあえずデータをコンピュータに放り込んで出てきた結果を見ながら、指導社員の形式知と比較しながら(注)、解析スキルを高めてゆくことにした。
例えば、主成分分析については1種類の手法だけだったので、その比較のために心理学で用いられる因子分析も試してみて、教科書に書かれていなかったその手法の特徴を探ることにした。
このような手抜き方針でコンピュータに一晩計算させたところ、電話帳1冊分の出力が出てきた。予想外の帳票の厚みに、これまた蜂の巣をつついたような騒ぎになった。新入社員は出力データの多さで騒いでいたが、一人指導社員は予算を心配して青くなっていた。
当時コンピューターはPOS用と技術開発用にそれぞれ1台解放されており、その計算能力から費用を考えなければ湯水のように使える環境だった。すなわち、データを記録したカードセットを放り込めば、いつでも指定した時間に出力が出てくる。
すぐにアウトプットが欲しければ使用料が割高になるルールになっており、そのため大抵は夜中の時間を使う人が多かった。また使用料は帳票1枚がいくら、という基準で決まっていた。これは、専用紙の料金が高かったためかもしれない。コンピューターのリース料は定額であり、消耗品で稼ぐ考え方は、プリンターメーカーと同様である。
(注)統計手法は、ただデータを処理するだけである。ゆえにどのような手法を適切に使うのかは、使用者のスキルにゆだねられている。データ処理した結果、わけのわからない状態になる場合には、データの品質が悪いのか、用いた手法が悪いのかどちらかである。故田口玄一先生は、基本機能をどのように選ぶかは技術者の責任であり、間違った基本機能にタグチメソッドを使っても正しい結果を導けない、と言われていた。日本でタグチメソッドの普及が始まった時に田口先生の講演会で、某自動車メーカーの技術者がしたり顔でタグチメソッドの最適化よりも経験知による最適化のほうがSN比が良かった点について質問したところ、田口先生は動じず、「君が実験に用いた基本機能が間違っていただけだ」と一言。質問者は大勢の聴衆の中で立ったままフリーズしていた。
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一人平均100ページ前後を1日で理解するために、統計パッケージのどれを使ったらよいのかがわかる程度をゴールとした。一人が「群盲像をなでる」とため息をついた。
そこで「象だとわかっているので、担当分が鼻なのか口なのかけつの穴なのかわかる程度で良いから簡単だ」といったところ、M君が、「そうだ。プログラムがあるから入力の仕方と出てきた答えの解釈の仕方だけ分かればよい」とすでに皆その程度は気づいており、空気を読まない当たり前の不用意な発言をした。
「ならば、M、一人でやれ」と一声でてお決まりの険悪な空気が流れた。日本語の本を読んだ後に分厚い英語のマニュアルとの戦いが、まだ残っているのである。皆グループ研修をまとめられないのでは、と内心心配になってきた。
空気が悪い方向に流れ出したので、指導社員が「できるところまででいい」と新入社員を気遣って言われた。この言葉には、指導社員の本音が現れていたため空気の流れを止めるまでの効果は出たが、ほとんどのメンバーからやる気が抜けた。
指導社員には人海戦術で集められたデータだけが必要で、これらのデータのまとめには興味が無かった。なぜなら軽量化された時の到達重量の予測には、あえてデータを解析しなくとも、経験知から、最も軽いタイヤを参考に改良をすすめて少し軽くなったタイヤの値をその答えとしてもよい。
リバースエンジニアリングを行うだけならば、時間をかけて大量のデータを経験知で解析し、軽量化に必要な知を拾い集めるだけで十分である。実際に指導社員はその作業を行っており、新しい軽量化タイヤの試作依頼まですんでいたことを新入社員に説明していた。
そのような背景があったので、新入社員の険悪な空気の前に、彼は「できるところまででいい」と言うのが精いっぱいだった。新入社員のマネージメントで難しい点は、やる気に火がついたときにその制御が難しくなるところである。
今回は、M君の提案で全員のやる気に一度は火がついたのだが、登ろうとした山が高すぎてどうしようもないと見えてきたところで、登らなくてもよい、というようなものである。それならば努力など必要もない、と考えるのは多くの現代子の思考回路である。
新入社員同士で既にグループ研修の情報交換はできていた。どこの部署も人海戦術が必要なテーマを用意しており、体力勝負のテーマばかりだった。例えば一人3社を担当したタイヤの解剖解析では、指導社員から指導されたようにタイヤを解剖し、細部の構造の指定された寸法や重量、比重などを測るだけの作業だった。
収拾された大量のデータを前に、国内トップクラスの大学で新設されたばかりの情報工学部出身のM君が、データ処理に関して彼のすべての形式知を動員して蘊蓄を語ったことが、多変量解析でデータ処理を行い指導社員の経験知と比較しようという意気込みを生み出した。
タイヤの構造データと言っても、材料に関わる基礎情報である。材料に関わる基礎情報と構造データその他を組み合わせて多変量解析を行い新たなタイヤ軽量化のための知識を取り出す手法は、データ加工にAIこそ使っていないが、マテリアル・インフォマティクスそのものである。
M君の形式知にはこの言葉こそ出てこなかったが、大量のデータがあれば、それを処理することで新たな知を獲得できるという蘊蓄は、メンバーの知に対する欲求を刺激した。ただ、その処理の仕方に関してはそれなりのスキルが求められた。そのスキルを泥縄で獲得しようとしているのだ。
「明日までに、多変量解析のそれぞれの手法がどのような問題解決を目指しているのかだけでもまとめよう」と提案し、その日は、定時よりも早く帰宅し、それぞれが多変量解析について担当分のスキルをまとめる作業をすることになった。
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M君の提案でデータのまとめは多変量解析を使うことになり、指導社員がIBM3033を使用できるように調整してくれたのだが、マニュアルが英語だっただけでなく、多変量解析と言っても10種以上のプログラムが用意されており、どれを使うのかが大問題となった。
さらに、マニュアルは電話帳3冊ほどあった。グループメンバーはそれをM君の前に並べたところ、M君は「これ皆で分担して読もう。皆もちろん入社時の英語試験よくできていたからできるよね。」と言い出したので蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「どのプログラムを使うかだけでもMが選べ」と一言飛び出したのが引き金となり、「そうだ、そうだ」の大合唱。ところがM君の様子がおかしい。完全にフリーズしていたのだ。M君も授業で概略を習っただけなのでどれを使ったらよいのか選ぶレベルまでのスキルが無かった。
泥縄状態で暗礁に乗りかけたのだが、新宿紀伊国屋書店に電話をかけて多変量解析の書籍を尋ねたところ、日本語の専門書が何冊かあるとのことがわかり、当方はすぐに新宿まで出かけてポケットマネーで買ってきた。初任給が10万円の時代に、上下巻2冊12,000円の本だった。
専門書としては高額なレベルだった。ちなみに当時技術情報協会はじめ調査セミナー会社が販売していた企業向けの専門誌は2-3万円だったことから、多変量解析という専門分野の位置づけを想像していただきたい。
余談だが当方の昨年上梓した混練ハンドブック4500円は、その内容から大変コストパフォーマンスが高い本である。おまけに可能な限り数式を排除したので、40年近く前12000円した多変量解析の本よりも読みやすい。
また、データ駆動の材料開発手法の事例も載せている。マテリアルインフォマティクスに挑戦しようと思われている方には是非読んでいただきたい本で、弊社に申し込み頂ければ、送料サービスその他の特典がございます。お問い合わせください。
この日本語の本を人数分揃えようと思ったが取り寄せに1か月かかるというので1冊コピーし、それを皆で分担して読み、翌日にそれぞれが理解したことを発表することにした。
日本語ではあったが、大量のワラビや軍配が書かれており、さらに行列式まで出てくるので1日で理解できるかどうか不明だったが、一人が「1年かけても無理だ」と言った一言がきっかけで、「1日でわかるところまででよい」と決めて作業に取り掛かった。
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AIやビッグデータを活用し、データマイニングする手法により材料研究を行うことがブームになっている。昨年高分子学会誌でも特集があり、そこで物理学の先生が「データ科学には物理学が無い」と言われて嘆いた話が書かれていた。
その通りなので、嘆く必要は無いのである。当方にしてみればこのようなデータ科学的手法を用いた材料研究を行うことが新しい、と考えておられる先生が遅れていると思う。企業ではすでにそのような取り組みが40年以上前から行われてきた。
当方も新入社員グループ研修でタイヤの軽量化テーマを担当したときに、市販されていた他社のタイヤの解剖を行って集められたデータを用いてマテリアル・インフォマティクスにより、当時の技術を集積して最も軽量化されたタイヤを製造したならば、それはどのような重量となるか、求めている。
この時用いたのは、IBM3033という大型コンピューターで、そのコンピューターに用意されていた統計パッケージの中の多変量解析を使用している。
当時多変量解析は普及が始まったデータ科学の手法であるが、誰も大学で学んでいなかった。ひどいのは指導社員も多変量解析のことはご存じなく、大量のデータから単相関グラフを大量に書いて、それらを見較べて結論を出そうと考えていた。
ただ集められたデータ群の複雑さから、単相関のグラフを書く前に軸をどのように選ぶのかが議論となった。その時統計学を専攻してきたM君が、このような場合には多変量解析というのが使えるよ、と軽く発言した。但し、その後この発言で彼は袋叩きにあいそうになった。
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金属材料からセラミックス、高分子までうまく複合材料の配合設計ができれば靭性を改善できることが技術的に理解されている。ここで科学的に、と書いていないのは、靭性というファクターが科学的に完全な理解がされていないからである。
それではいい加減なことを本欄は書いているのか、と言われそうだが、まじめに書いているから技術的にと表現し、わざわざ靭性は科学的なパラメーターとして認められていない、と断っている。
科学的に証明が難しい理由として、同じ配合でも靭性が大きく異なる材料ができる場合があるからだ。このような現象について科学的に証明しようとするとすぐに否定証明に走る研究者が多い。例えば「ゴムからの抽出物で電気粘性流体の増粘する現象を界面活性剤で解決できない」などという科学的真理を導いてしまう。
この問題の場合に完璧に解決することは難しくても、界面活性剤の添加により実用レベルで使用可能にできる。すると問題解決方法は、「増粘の程度を最小限にできる界面活性剤」の探索となる。これが正しい問題となる。
実は靭性の問題にしろ、人生の問題にしろ、正しい問題を見出して解決する習慣を身につけておかないと、否定的に物事を考える習慣が身についてしまう。研究開発の下手な人は皆この習慣を身に着けており、何かアイデアを語ると、すぐにそれを否定する事例を持ち出す。このような人たちの心の靭性は、恐らく脆いと思っている。
心の靭性を高めるためにまず大切なことは、現象を見るときに否定的に見ないことである。たとえ多くの他人が否定しても、どこか肯定的にみられる「何か」を見出すことはできる。どう見ても肯定的に見られないなら、それは全くダメなことが最初からわかる簡単な現象と捉えることができる。
全くダメと納得できたなら、諦めればよいだけである。また、全くダメなものを何とかしようとしても良くはならない。今回の都議選では、都民ファーストの会がボロ負けし自民党が大勝する、と1か月以上前の予想では言われた。
この4年間の小池都政やコロナの状況をみれば、このような予想は当方でも立てることは可能だ。すると突然小池知事は過労で入院、と言い出した。
そして自民党幹部A氏は、「最初からダメと分かっている組織を作ったのは小池さんでしょう。国とのパイプがないから全部自分でやらなければならない。だから疲れたのは自業自得」と余計なことをいったものだから、世論は都民ファーストへ応援するように動いた。
投票率が低かったので共産党や公明党に有利に働き、公明党も議席を減らす予想が出ていたにもかかわらず、現状維持、共産党と共闘した立憲民主が少し伸びたが、今回の投票率ならばもう少し善戦できたはずだ。
政治評論をするつもりはないのでこれ以上書かないが、結果は議席を減らしてはいるが都民ファーストの会は善戦し、自民党とほぼ同数の勢力となった。小池チュルドレンと呼ばれる人で無所属当選した議員を加えると自民党を越える。逆に1か月以上前は大勝すると言われていた自民党の今回の当選者数に、おそらくA氏は危機感をもっているだろう。
選挙で何もしなかった小池都知事の圧勝である。小池都知事の心の靭性は極めてタフであり、おそらく乙女心のように壊れることはないのかもしれない。ただ、何もしない、という決断には勇気がいる。心の靭性を高めるには、いつでも物事を良い方向へ導けるよう決断できる勇気を養うことが大切である。
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繊維補強により靭性が向上し、同時に繊維の高い弾性率の効果が生かされるので、うまく設計できれば複合材料は高強度材料となり、構造部材に最適である。
写真会社で超迅速現像処理を可能とする高靭性ゼラチンバインダーを開発している。今はほとんど目にすることのない銀塩写真フィルムでは現像処理が必要で、これを短時間で行うためには、高速搬送と急速乾燥プロセスに耐えうるゼラチンでなければならい。
こんにゃくゼリーを喉に詰まらせる老人が問題となり、こんにゃくゼリーが割れにくいと思われているが、これは多糖類と水との複合材料で高靭性の材料である。写真用ゼラチンは、動物の骨に含まれるコラーゲンから抽出されたアミノ酸の直鎖状ポリマーで疎水部分もあり、そのゲルは脆い。すなわち、靭性が低い。
このゼラチンの脆さを改善するためにラテックスを添加してゲル化させる技術が開発された。しかし、ラテックスを添加するとゲルが柔らかくなり、傷がつきやすくなるので、これを硬くするためにシリカゾルを併用する技術が古くから使われていた。
ところが、ゼラチンへシリカゾルを添加した時に、その一部の凝集体ができることが避けられない(シリカゾル表面の界面二重層が不安定となる)。この結果生成した凝集体が破壊の起点となって靭性を低下させる。ゆえにせっかくラテックスを添加し靭性を向上させても、硬度を上げるために添加したシリカゾルの影響で思うように靭性を上げることができず、割れにくく傷がつきにくいゼラチンバインダーを製造するために現場のノウハウが大きく影響した。
そこで、シリカゾルの超微粒子をコアにしてラテックスを重合するコアシェルラテックス技術が開発され、この技術のおかげで、従来よりも脆くなく傷がつきにくいゼラチンバインダーを開発できた。
しかし、この新技術で開発されたゼラチンバインダーの力学物性を計測してみると、靭性は上がったが、硬度は添加されたシリカゾルの量に相当する値がえられていない。
そこで、シリカゾルをミセルとして用いたラテックス重合技術を開発して、それをゼラチンに添加したところ、このゼラチンよりもさらに硬く脆くないゼラチン薄膜を開発できた。その結果、コアシェルラテックスを添加したゼラチンバインダーを用いた写真フィルムよりも現像処理時間を短くすることが可能となった。
このゼラチン薄膜の話は、以前この欄で紹介しているが、超微粒子との複合化で高分子の靭性が改善された事例である。このゼラチン薄膜について電子顕微鏡でシリカゾルの凝集体を探しても、それが全く含まれていない驚くべき結果だった。
また、この結果と過去の技術によるゼラチンとの比較を行い、どの程度の凝集粒子がゼラチンの靭性を低下させているのかも明らかとなった。なお、この技術は写真学会ゼラチン賞を受賞している。
シリカゾルをミセルに用いたラテックス重合技術は世界初であり、商品化されて5年後にゾルをミセルにするアイデアの論文が科学雑誌に紹介されるような先端技術であったにもかかわらず、高分子学会技術賞に落選している。
この時審査員としておられたアカデミアの先生は新しい技術ではない、と否定されていたが、とんでもないことである。発言の重みを考えていただきたい。面白いのは学会賞の審査基準を読むと選考において間違いがあっても間違いではないという言い訳が書いてある。
アカデミアの先生は何が真実であるかを正しく見極めるの仕事だ、と昨日書いた背景でもある。STAP細胞の騒動で一流大学の学位審査の状況が明るみに出たが、大学はまず知の砦である信用を社会から取り戻さなければいけない。
大学の批判は、当方の学会賞や学位の事例以外に子供が人質になる可能性があり、なかなか社会が声を上げられないが、現在のアカデミアの状況は学術会議も含め社会感覚からのずれが大きいことを指摘しておく。
工業製品で欠陥品を社会に送り出すと品質問題として社会から批判を浴びる。未熟な科学者を博士として社会へ送りだしても品質問題として取り上げない状況に胡坐を書いてはいけない。
博士課程まで出ると就職口が少なくなると言われるが、この原因が品質問題であることに気がつかれていない。これはそれを指摘することがタブー視されているからだ。
修士卒、学部卒、高専卒、高卒、中卒と学歴があり、初年度の給与は、この順に低くなるが、5年以上勤務すると民間会社ではすでに給与における学歴差が小さいか無くなっている。ちなみに亡父は明治生まれの小卒だが仏壇には内閣府から頂いた、当方がどれだけ今後努力しても届かない位記が備えられている。
高卒で10年企業で実務を経験した人材と博士卒と比較した時に、どちらが企業で歓迎されるかは、あえて書かないが、これは社会と大学の齟齬ではない。情報化社会ではどこでも誰でも知を入手できる時代である。すなわち、企業における形式知と経験知の蓄積の結果である。この問題に関心のあるかたはお問い合わせください。
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