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2016.05/03 26日の三菱自動車記者会見(5)

特に自動車業界に詳しいわけではないのでモーターショーなどを見学した体験からの話になるが、三菱自動車が燃費目標の3回目の変更を行った時に想定した2013年のモーターショーの目玉はスバルのレボーグであり、マツダのスカイアクティブテクノロジーによるディーゼルエンジンだった。
 
この10年以上モーターショーは環境問題をキーワードに様々なテーマが設定されていたが、2013年は電池に話題が集まっており、燃料電池車の夢展示などがあった。そして、こうした夢の展示以外に実車で話題を集めたのは、スバルとマツダだった(注)。
 
スバルはダウンサイジングターボと銘打って、とにかく燃費を前面に出していた。2.5L並の性能を1.6Lのエンジンにターボを取り付け実現していた。燃費はショーのメインキーワードになっていたのである。
 
すなわち環境性能として、排ガスやスクラップなどの問題が解決し、各メーカーが燃費を前面に出して勝負するようになったのが2013年で、マツダは、スカイアクティブ技術と銘打って新技術のディーゼルエンジン車をハイブリッド車の対抗として発表していた。
 
三菱自動車が5回目の燃費目標を変更しなければいけなかった最も大きな理由が、開発の最中にライバル他社の燃費向上技術が急速に進んでいたことである。その結果、5回目の燃費目標設定とその実現において、社内で行われていなかった科学的方法に手を染めなければいけなくなった。
 
科学的方法なので実際に実験値が得られればそれでよし、という感覚で、捏造という意識が無かったと思われる。これは記者会見でも説明があった。
 
ところでマツダはロータリーエンジンが看板技術だったが、2011年頃から、スカイアクティブ技術のロードマップを発表し、着実に成果を発表してきている。そしてデザインにおいてもTVでささやくような「マツダ、マツダ」という言葉で巧みに消費者へ訴求している。その結果現在の新車販売状況は絶好調である。
 
(注)プリウスが発表された20世紀末に自動車の基本性能として燃費の重要性が、「走る、止まる、曲がる」の性能と同等になりつつある兆しだった。しかし、ハイブリッド車のカタログ燃費と実燃費の乖離がガソリン車と比較し大きかったのでその当たりがあやふやになった。また燃費競争について欧米では、ダウンサイジングターボやディーゼルエンジンが主流でハイブリッド車は日本特有の技術だった。ゆえに、日本では欧米のような燃費競争の展開に至らず、ハイブリッド車がキーワードとなり、メカの開発競争が行われていった。そこに改めて「燃費競争」であることを全面に出してきたのが、ハイブリッド技術で出遅れたマツダとスバルである。2013年は車の基本性能が「走る、止まる、曲がる、燃費」となった年である。また、この年実燃費ではハイブリッドでなくてもガソリン車で同等レベルという記事も現れていた。さらにスバルは燃費を目標としないハイブリッド車を上市し消費者に受け入れられている。すなわち本来燃費目的のハイブリッド技術が実燃費との大きな乖離から消費者に燃費技術としてうまく訴求しなかったのである。この流れを受けて、今ハイブリッド車の燃費競争がホンダとトヨタで行われており、この技術のガラパゴス化がささやかれたりしている。

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2016.05/02 26日の三菱自動車記者会見(4)

4回目に目標変更されたときには、タイヤの転がり抵抗低減などの改良効果を見込んでおり、5回目は技術的に可能と判断されるエビデンスがあったので、シミュレーションで目標値を決めたという。また、開発が進み燃費を上げる技術的手段も多数出来てきたから数値を怪しいと思わなかった、というコメントも会見で出された。
 
一連の燃費目標変更に関する説明から、次のような想像ができる。すなわち3回目までの燃費目標設定変更は、開発初期段階で製品開発においてよくある話で、企画段階の目標に対して市場動向を踏まえ、開発初期段階のまとめとして各性能目標値を見直したのである。
 
そして実際に図面を引いてエンジン等を試作するときに、再度2013年の市場動向を予測し、製品性能の各目標値を設定し直す。これが3回目である。
 
開発後期では、実際にエンジンはじめボディーなどを発売に間に合うように試作し、生産段階に移行できるかどうか、実車テストなどを繰り返す。そして、燃費性能に余裕があれば、目標を引き上げることもあるだろう。これが4回目となる。
 
4回目までは、製品開発の手順から、その変更が行われたとしても仕方がないのだろうと記者会見の説明を聞いていて納得した。実際に4回目までは、エビデンスも有り不正ではない、と胸を張って説明をされていた。
 
しかし、ダイハツのムーブが上市されてその29km/lという燃費に開発陣は驚いたらしい。この値を見て、最終段階で5回目の燃費目標の変更を行ったという。
 
昨日書いたように最初から市場のトレンドを把握し、科学的に達成可能な目標値ではなく、ダントツトップになれる、その結果それを実現するアイデアが無いので非科学的とはなるかもしれないが、思い切った目標設定をしておればこのようなことにはならなかったはずである。
 
技術開発における目標設定は、仮に非科学的であったとしても、開発が終了した時点で1番になっている目標を設定すべきである。この1番になっている目標を設定できる能力も技術力となる。いくら非科学的な目標と言っても荒唐無稽な目標設定では、技術開発のモチベーションはあがらない。納得性のある1番という目標設定である。
 
かつて、国のプロジェクトの開発目標を演算速度一番としたコンピューター開発で、二番ではだめですか、と質問した大臣がいたが、技術開発の意味がわかっていない。最初から二番を目標するのであれば、技術開発をやめてライセンスを購入する道を選ぶほうがコストが安くなる。技術とは自然界から機能を取り出し生活の利便性を向上しようとする人間の営みのなかの行為であり、今の時代十分すぎるぐらいの技術があふれている。二番や三番の技術を開発してみても誰もそれを欲しいとは思わない。今という時代は、一番になれる技術開発が求められているのである。

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2016.05/01 26日の三菱自動車記者会見(3)

ランサーエボリューションの開発中止は、おそらく三菱自動車が開発体制の見直しを行った結果だろう。軽自動車について燃費訴求車の燃費目標変更を2011年2月に行った、と記者会見で述べられた。その後5回に渡り燃費目標の変更が行われ、当初26.4km/lだったのが5回の見直しで2013年2月に29.2km/lまで目標が引き上げられた。
 
これは、すでに市販されたダイハツムーブの値29.0km/lを意識してのことである。ご存じのようにダイハツはトヨタの子会社でトヨタの支援を受けながら軽自動車業界でトップを走っている。かたや三菱自動車は、日産へのOEMと併せてようやく30%弱の市場占有率であり、三菱自動車自身では10%以下のシェアーとなっている状況だ。
 
すなわち、新車開発の企画段階で立てた燃費目標が、新車開発を行っている間にライバルの技術がどんどん進歩し、それを追いかける形で燃費目標を開発しながら上げていった状況を見て取れる。
 
しかし、ここで疑問が出てくる。なぜ、最初に思い切った目標に設定できなかったのか、という問題である。完全に市場予測が間違っていたのである。
 
これは勝手な推測だが、思い切った目標設定ではなく5回も目標変更しなければいけなかった背景には、マネジメント手法としての目標管理があり、科学的に確実に達成可能な目標設定を心がけた結果ではないか。それは役員の説明の中にもうかがわれた。
 
すなわち、5回に分けて燃費目標を変更した流れについての質問に答え、3回目に燃費目標を28.0km/lに設定したときには、ハードウェアーを目標達成可能なように盛り込んでいた、と回答している。そしてこの3回目の目標にあわせてエンジンなどの設計図の出図を行った、という。
 
もし、担当者の業務について、その目標管理の都合から科学的に達成可能な目標を設定しながら技術開発を行っていたとしたら、技術開発のマネジメントが稚拙である。ちなみに現在のハイブリッド車も含めて排気量と燃費の関係を求めて行くと、軽ならば2011年の時に思い切って35km/lの目標設定をすべきだったろう。
 
このようなハイブリッド車とガソリンエンジン車とを同列に扱う目標設定は非科学的であり、設定値として無意味だと言う人がいるかもしれないが、思い切った目標設定により、思い切った技術開発が行えるのである。技術は科学とは異なる人間の営みなので科学的に確実な目標ではなく、意味のある夢の目標が重要である。
 
もし科学で予測可能な目標を設定して技術開発を続けることが好ましい姿とするならば、将来の技術開発シーンでは人工知能の奴隷となった人間の姿が見えてくる。例え非科学的な目標であっても市場が求めているならば、そこにチャレンジするのが人間である。「あっと驚くタメゴロー」的発明はそのようなときに生まれる。
 
記者の質問の中に「役員が無理な目標を設定したのではないか」と燃費不正が組織ぐるみで行われたような印象を誘導するおかしな質問があった。製品仕様については、実現可能な現実的目標を設定しなければいけないが、技術開発目標は、意味のある世界一の目標をいつも設定すべきである。ただし記者会見で、企画に書かれた製品仕様を開発目標と勘違いして役員が発言していたとしたら、当方の厳しい感想については、お許し願いたい。

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2016.04/30 26日の三菱自動車記者会見(2)

今回の三菱自動車の燃費不正事件は、軽自動車の燃費競争が激しくなってきたことに起因する。これは衆目の一致するところである。すなわち、これは製品開発の企画段階で新製品のコンセプトを決めたりするが、そこで過去に車の基本性能として重視していなかった「燃費が一番の車(仮)」ということになり、事件が起きた。
 
三菱自動車と言えば、最近販売終了になったランサーエボリューションを思い出す。スバルのWRXと同様、300馬力前後の車を300万円代で発売していた。車の基本性能である走る、曲がる、停まるという性能を極限まで高め、それを一般が購入できそうな価格でまとめた車である。
 
高性能で高価な車なら、日産自動車のGT-Rが、そしてこのエンジンをジュークに搭載したスーパージュークも欧州で登場している。いずれも0-100kmの時間が5秒前後の車である。
 
日本の一部の自動車メーカーは、走る、曲がる、止まるの自動車の基本性能を最大にしたフラッグシップ車を販売している。その車にはメーカーの技術力が集約されている。ランサーエボリューションは、自動車オタクには評判の良かった科学技術が集約された車だった。
 
しかし時代は省エネが加速し、自動車の性能は今や燃費性能が第一になった。自動車の3つの基本性能は当たり前品質で、燃費がそのメーカーの技術力を示す指針となった。いち早く取り組んだのは、トヨタとホンダであり、ハイブリッド車の比較広告騒動は有名である。
 
いまや、ハイブリッド車と言えばこの2社が有名で、カタログを見ると全車種に必ずハイブリッドエンジンのグレードが存在する。またハイブリッド車専用の車種があるのもトヨタとホンダは共通している。
 
日産自動車は、高級車にハイブリッド車を設定し、トヨタとホンダに対抗したが、市場を見れば明らかで、慌てて電気自動車に注力する戦略をとるとともに、主力SUVを中心にハイブリッド車を投入し始めた。セレナのようなマイルドハイブリッドは、まさに苦肉の策と言ってもよい車である。
 
スバルと三菱自動車は、ハイブリッド競争において蚊帳の外になった。実はこのハイブリッド競争は自動車の燃費競争だったのだが、三菱自動車は恐らくそのように捉えていなかったのだろう。消費者はハイブリッド車の普及とともに、車に求める性能の第一に燃費を見るようになっていった。
 
ただ、ハイブリッド車の燃費は、表示と実際の乖離が大きく、技術者ならば軽視する技術となる。すなわち通常のガソリン車では、表示燃費の9割程度が日常使用で観察される値に対して、ハイブリッド車は7割程度ひどいときには、6割程度と言うこともあり、ハイブリッド車はアメリカでその問題を指摘された。また、今ハイブリッド技術はガラバコス化しているとも言われるようになってきた。

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2016.04/29 高分子の融点(10)

無機材料のTmは、その結晶の融点である。だから無機材料ではTc(max)=Tmとなる。ところが高分子では、この関係が崩れるだけでなくDSCで測定した時のTmは、時としてブロードな吸熱ピークとなったりする。
 
これは20世紀の高分子科学の研究テーマとなっていた。そして結晶性の悪いPETについてTm+Tg=2Tc(max)なる関係式まで提案されている。この関係がどのような意味を持つのか知らないが、高分子のTmがTgやTcにすなわちガラス相や結晶相の影響を受けている、という解釈は重要である。
 
天然高分子以外は皆分子量を持つ多分散系が高分子の一つの特徴だが、分子量の異なる多成分の混合物である、という認識は、DSCでTmがブロードニングを起こす現象の説明となる。
 
また、Tmにおける明確な吸熱ピークは、サンプルに存在した結晶相への帰属が可能で、これはサンプルの同定のための重要な情報となる。すなわち高分子のTmも無機材料と同じで結晶の溶融温度であるが、各原子がひも状につながれているためにTcとのずれを引き起こしている。
 
そしてプロセシングの視点で見た場合に、束縛はされるが原子の部分的な運動が可能となるTgも溶融温度の一つ、という見方が重要だと思っている。これは教科書には書かれていないが、いろいろ高分子材料について考えるときの当方のノウハウの一つでもある。
 
例えば、高分子の相溶は、非晶質相だけで生じる現象である。結晶相で相溶現象は見つかっていない。面白いのはχの大きな高分子の組み合わせでカオス混合を用いて相溶させた時にTg以下に冷却すると相溶状態で安定化するのだ。
 
おそらく準安定状態だろうと思うが、PPSと6ナイロンをそのようにして相溶させたペレットを用いて押出成形を行っても両者が相溶したフィルムが得られる。成形過程でTm以上に加熱されるが、相溶したまま流動している。
 
この融体をゆっくり冷却するとPPSと6ナイロンはスピノーダル分解を起こし相分離する。PPSは結晶化し金属音のする物質に変化する。しかし、急冷した場合には相溶した状態のPPSが得られる。
 

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2016.04/28 26日の三菱自動車記者会見(1)

先日26日に三菱自動車の記者会見があったようだ。WEBにその模様が公開されていたので昨日視聴した。1時間40分に及ぶ会見で明らかにされたのは、科学技術による開発で起きた無意識な不正事件というSTAP細胞騒動同様の科学信奉による弊害である。
 
25年前から規程無視、とか目標燃費を5回も上方修正を繰り返した、とかあたかも三菱自動車が不正を意図的に行っていた悪者のようなタイトルがニュース記事に並ぶ。また、この日の質問もまるで悪人に向けられるような質問の嵐だった。
 
記者会見場の質問時間は、ほとんどいじめやつるし上げに近い雰囲気である。確かに今起きていることは燃費不正事件であるが、未熟な研究者により起きた騒動と同様に本件は不正の意識無く起きた事件と思われ、会見に臨んだ会社のトップの姿勢から再度同様の事件が起きる可能性がある、と感じた。
 
この会見で、不正の意図は無かった、とトップは伝えたかったのかもしれない。ときおり見え隠れするこの気持ちは、質問する記者にも伝わり、厳しい質問を失礼な態度でする記者まで現れた。しかし、今回の事件の本質をついた質問は出なかった。
 
まず、今回の事件の本質は、科学信奉によるモノ造りの弊害にある。そして、今回記者会見でトップの言葉からも科学的に行った結果、不正となってしまった、というような説明が飛び出した。だから、懲りずにまた事件は起きる、と当方は感じた。
 
本日からこの会見の様子について当方の考えるところを連載したいので、先に結論を書いておきたい。今回の三菱の事件を防ぐには愚直な技術開発しか方法が無い、と申し上げたい。すなわち技術による開発以外今回の三菱の事件を防ぐ方法は無く、詳細は弊社に問い合わせるか、明日からの連載を読んでいただきたい。
 

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2016.04/27 混練技術の講演会のご案内

この3年間、弊社が中国で活動してきました成果を踏まえ、5月までに3件ほど混練技術に関する講演会を開催致します。いずれも異なるセミナー会社で開催されますが、申し込みは弊社で行いますのでご案内をさせていただきます。
 
 
お申し込みは、弊社インフォメーションルームへお問い合わせください。詳細のご案内を電子メールにてさせていただきます。
 
 
1.混練の経験知を伝承する講演会

(1)日時 5月19日  10時30分-16時まで

(2)場所:江東区産業会館  第1会議室

(3)参加費:49,980円(税込)

(4)https://www.rdsc.co.jp/seminar/160522

2.その他シランカップリング剤に関する講演会や7月にも上記1の講演会を予定しております。日時等弊社へお問い合わせください。

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2016.04/26 三菱自動車燃費不正問題

三菱自動車の燃費不正問題で燃費の測定方法が国の定めた方法ではなかったとの報道がなされている。なぜ国が定めた方法を使わなかったのか、という問題が新たに出てきた。すなわちこの燃費不正問題は、燃費不正問題ではなく、社内の品質管理活動におけるミスの可能性が出てきた。
 
まだ真相は明らかではないが、品質管理活動のミスと組織ぐるみの不正とは紙一重である。すなわち前者には不正の意図は無かったが、品質管理活動を軽視していた、すなわち製造メーカーとして未熟であった、ということになる。
 
そしてその未熟さが結果として不正問題を引き起こした、という事件の構図になる。これまでリコール隠しという二度の不正があり、懲りずに三度目の不正をやったのか、と驚いていたが、関係者からリコール隠しほどの影響は出ないだろうという楽観的な発言が出たりと単なる不正問題にしてはおかしな状況と思っていた。
 
まだ国交省の本格的な調査は始まっていないが、漏れてきた情報から推定すると、不正の意図が無く、何らかのミスがあり不正となった可能性が高い。実はこの数十年このような不正問題は多い。
 
オリンパスや東芝の不正は社会的に大問題となったので記憶に新しいが、この二社の不正問題にしても、視点を変えると経営者の判断ミスが大きなコンプライアンス問題を引き起こした、という見方ができる。
 
すなわち最初から不正を行うつもりは無かったが、年月が経っても当初の思惑通り経営が進まず、業績が改善されなかった結果、損失として発表するにも時間の遅れからできなくなり、それが発覚して不正問題になった、という経緯である。
 
これを不正問題ではなく、経営者の未熟な判断が招いた結果として捉えることが可能である。また、理研のSTAP問題では管理職研究者の人事管理の未熟さが未熟な研究者を本来任命してはいけない役職に任命したために引き起こされた騒動という見方をすると、本当の問題は論文不正問題ではなく未熟な組織活動の問題となる。
 

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2016.04/25 高分子の融点(9)

TgからTmの温度領域でも混練が可能ということからTg以上で高分子は流動性を有することがわかる。ただし結晶はTm以上に上げなければ溶融しない場合もある。ここで溶融しない場合もある、と書いたのは、Tm以下で結晶が溶融する場合もあるからだ。
 
さすがにここまで書くと眉唾でこの欄を読まれる方が多いと思うが、ゴム会社で樹脂補強ゴムの研究開発を行ったときに見つけた現象である。配合や混練条件が重なると溶融しないはずの低い温度で樹脂がロール混錬で溶融する。
 
実際に扱った系はTPEとNRなどのポリマーブレンドだが、ある配合で本来溶融しないはずの結晶が溶融し、加硫ゴムにしたときに樹脂成分が海となったきれいな海島構造の樹脂補強ゴムを製造することができた。
 
また10年前の例ではPPSと6ナイロンを混錬する温度についてPPSのTmより低い温度で混錬に成功している。これは一発勝負で混練条件を決めたときの経験談だが、トルクオーバーが二度ほど起きた。しかし、ポリエチレンとパルプの混練で成功体験があったのでチャレンジし続けたら、急激にトルクが下がる条件がTm未満で見つかった。
 
この混錬温度で大切なことは多成分配合系においてTm以上と以下でコンパウンドの物性が大きく変わる現象が観察されることである。そしてその現象を見ると、Tm以下でも高分子は流動して混錬されていることが理解できる。
 
このようなプロセシングにおける現象は、無機材料ではどうなのか。Tmと原子の拡散が関係しており、無機の結晶よりも低い温度で焼結を行うためには、低温度で液相を形成できるような助剤を添加しなければいけない。
 
しかし低温度液相ができると異常粒成長が起きる問題があり、助剤設計が焼結の配合技術として重要になってくる。高分子の世界と異なり、かなり昔から結晶のTmより低い温度で形成される液晶相が議論されてきた。このように無機材料のプロセシング技術においてもTm以下の溶融現象は活用されている。
 
(注)
本日の内容は大サービスである。さらに詳細を知りたい方はお問い合わせください。

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2016.04/24 高分子の融点(8)

プロセシングにおいてもTmとTgに対する誤解がある。樹脂の混練はTm以上で行われることが多いが、Tm以下の温度領域でも混練は可能である。
 
しかし、なぜか樹脂の混練を長くやってきた人にこの話をすると笑われる。Tm以下であると分子の断裂が起きるので好ましくないと言うのである。
 
カオス混合のプレをある賞の審査会で行ったときにも笑われて受賞を逃がした。審査員はゴムがTm以下の温度でロール混錬されている事例を知らなかったらしい。
 
ゴムの混練をTm以上で行うこともあるが、ロール混錬ではTm以下で行うケースが多い。古紙とフィルムの樹脂缶廃材を活用してパルプ樹脂複合材料を開発した時に古紙が熱分解して発生するアルデヒド類の対策で苦しんだ。
 
このとき樹脂のTmより低い温度でロール混錬して古紙を分散したところ無臭でポリスチレン並みの力学物性を持ったパルプ樹脂複合材料を製造することができた。Tmより低い温度でも樹脂の混練は可能である。
 
10年以上前にTm以下で樹脂を混錬する特許が某大学の元教授により出願されている。この先生もゴムのロール混錬技術をご存じなかったようだ。さすがにそのままのクレームで特許は成立せず、樹脂の配合を特定して特許が成立している。
 
すなわちTgからTmの温度領域で高分子材料を混錬する技術は公知なのだ。実は、Tm以下で高分子材料を混錬するとTm以上の温度領域で混錬するよりも樹脂のある物性の面で良い場合がある。このようなノウハウが樹脂技術者に常識ではないようだ。
 

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