高分子材料では教科書を読んでみてもよくわからない現象に頻繁に遭遇する。面白いのは、よくわからない現象なのにわかっているように話す人がいることだ。否定証明についてこの欄で以前紹介しているが、否定証明を得意としている人も同様である。どうして簡単にできないと否定できるのか不思議に思うことがある。
確かに目の前の現象を見ている限り出来そうもないことはよくある。諦めて他の手段に移ったほうがよい時には、当方でも潔く他の手段を検討する。しかし現象は出来そうもないように見えるが、他の現象との比較でできてもよさそうな時には、暇を見つけては再度チャレンジすることが時々ある。
昔熊本大学上出先生とこのようなお話をして意気投合したことがある。上出先生によればTACの良溶媒はアセトンであるが皆この話を信じないという。実際にTACをアセトンで溶解しようとしてもうまく溶けない。しかし圧力をかけてやると簡単に溶ける。そして一度溶解すると安定である。
これを実際に体験すると確かに上出先生の言われていることは正しいと納得できる。しかし、普通にただアセトンに分散し攪拌しただけでは全然溶解しない。
話は変わるが、同じPSでも一般のPSとSPSでは接着性が全く異なる。PSに簡単に接着したラテックス薄膜をSPSにくっつけようとしてもうまくゆかない。これを体験すると結晶化度の高い高分子は接着が難しいという経験知が身につく。
PPSの中間転写ベルトを担当した時に、端部にガイドテープを接着する話題が出た。PIベルトに用いていた接着剤ではうまくくっつかないという。そこでいろいろ試してきたがよいものがみつからないという。しかし、当方が開発したPPSベルトは6ナイロンが相溶したPPSなのでアモルファス相が多いはずで、接着しやすいと思われた。当方が過去に検討された接着剤を塗ってみたところ、うまく接着した。
そこで、当方の開発したPPSでは非晶質相が多いので接着には有利だ、と担当者に説明し再挑戦を促したところ、やはりくっつかない、という。当方が試みた接着剤と同じである。ただ異なるのは接着剤の塗布の方法だ。ここはノウハウになるので詳しく書けないが、当方がやった方法を伝授したところ、やはりうまく接着した。高分子材料ではこのような話がよくある。大抵はノウハウになっているので書きにくい。
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自動車の未来について、二年前のモーターショーでは水素を燃料とする燃料電池車が本命のように展示されていた。しかし昨今の状況を見ていると燃料電池車が必ずしも本命ではなさそうだ。ただ電池というキーワードだけは確実で、すでにEUでは30年後にガソリンエンジン車を禁止すると言い出した国も現れている。
昨日未来を予測するのが難しいようなことを書いたが、電池というキーワードが確定しているので電池を動力のエネルギーとして用いるときに必ず必要な周辺機器に着目すればかなり確度の高い未来予測をすることができる。
自動車の安全運転とAIとの関係においてもやはり未来予測は易しいだろう。さらにレシプロエンジンが無くなれば車のデザインも大きく変わる。また動力がモーターになるので車の設計も変わる。
このように考えていくと、自動車の未来技術の概要を描くことができ、それをもとに今研究開発に力を入れなければいけない分野が見えてくる。そしてドラッカーが言っていたように今起きている変化を整理すれば具体的なテーマが見えてくる。
例えば高分子材料分野では、PPSというエンジニアリングプラスチックの市場が急成長している。例えば東レは韓国工場を稼働させ、中国のローカル企業のリニアタイプPPS合成工場も立ち上がった。
ところがこのPPSという材料は、結晶性樹脂で脆い材料だ。おまけに射出成型をすれば、ウェルドの問題が出やすい。また表面状態が悪い成形体になるなど問題が多い。このPPSの問題を解決でき、PPSの物性を損なわない添加剤は開発テーマになり、いくつかは特許が公開されているが、満足な添加剤が無い。最近弊社では従来にない画期的な添加剤を開発し、特許出願を行った。もしご興味のある方は問い合わせていただきたい。
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東レなど一部の大手メーカーは10年後の未来に向けて基礎研究部門で研究開発を行っている。しかし企業で基礎研究から事業を育てるには相当の体力がないと今の時代は難しいと思う。投資効率を考えると、アカデミアとの産学連携が好ましい。しかしどのようなテーマをアウトソーシングするのかが問題になる。
一方でドラッカーの提唱したオープンイノベーションも活発に行われているが、こちらは長期戦略の視点であまり活用されていない。どちらかと言えば今の技術開発に知恵が必要だから助けてください的な活用のされ方だ。
最近の話題で重要なのはAIの台頭で、20年後には今から想像もつかない仕事に40%の若者が就職している、とも言われるようになった。ドラッカーも誰も見たことが無い未来が始まる、とその遺作の中で述べているが、20年後の社会を予測するのは難しいと言える。
20年後が難しいのなら10年後は易しいのかというとこれまた昨今の変化を見ると20年後同様に難しそうだ。日本の政治の世界では来年さえも不透明になってきている。このような状況で企業の基礎研究部門の運営は相当難しく、かつてのようなマネジメントでは猫の目のように毎年組織改正をしなくてはいけない状態だと思う。
面白いことに、ドラッカーは誰も見たことのない未来が始まると言いながら、その未来を見通す方法をその著作の中で述べている。ドラッカーを高校生の頃から読み始めたが、その未来を見通す眼力には敬服している。40年以上前の著作に書かれていた知識労働者の時代になっているし、書籍のタイトルになっている各世代ごとに断絶の時代でもある。
すでに基礎研究部門の将来シナリオを描けている企業は当方に興味はないが、もし描くのに苦労しているところはぜひご相談ください。どのような未来像を描いたら良いのかご指南いたします。
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1980年代に起きたセラミックスフィーバーは、セラミックスとは無関係の企業も巻き込んだイノベーションとなった。ゴム会社では故服部社長がCIを導入し、社名からタイヤをはずし、非タイヤ部門を会社成長のけん引役とする方針を出し、その3本の柱として、1.電池、2.メカトロニクス、3.ファインセラミックスを育てる、と全社員に宣言した。
そして、世界初のポリマーリチウム二次電池が開発され、日本化学会技術賞を受賞している。メカトロニクスについては電気粘性流体の開発に力が入れられた。またゴムをアクチュエーターとして利用した軟体ロボットはつくばで開催された科学万博で展示された。
しかし電池事業は学会賞受賞後中断され、電気粘性流体もいつの間にか無くなった。ただし、高分子前駆体を用いた高純度SiC粉体合成技術を基盤としたファインセラミックス事業は30年以上たった今でも続いている。
実際にこの事業を企画し中心となって推進した経験から、異業種の事業を育てるときには経営の覚悟が重要だと思っている。経営陣のバックアップさえあれば苦しくても担当者は努力するものである。事業として立ち上がるまで様々な妨害があったが、誠実真摯に対応してきた。
このような新事業を立ち上げるときの苦労は企業の風土によっても変わる。例えばかつてダボハゼと言われた旭化成は住宅事業や半導体事業に進出し成功させた。そして今自動車事業に進出するかのような動きを見せている。
外から見る限り、この会社の事業の育成能力は一つのDNAとして伝承されているかのようである。一方ゴム会社も創業者の時代の成功体験があり、それが高純度SiCの事業成功の要因になっているのだが、残念なことに担当者にそのDNAが伝承されていないようだ。今後SiCのパワー半導体は、電気自動車の普及に牽引され成長産業の一つになるのだが、これの開発を日本化学会技術賞受賞後にやめてしまったのだ。もったいないことである。
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カオス混合によりPPSと6ナイロンを相溶させて中間転写ベルトを実用化することができた。このベルトの凄いところは、靭性の指標であるMIT値が2万を超えたことである。二軸混練機だけで混錬した材料では3000なので大幅な改善である。
脆いPPSが6ナイロンを相溶したことで、しなやかな材料に変わったのだ。さらに、その高次構造はカーボンの凝集体が均一に分散した構造になっており、これがベルトの面内の抵抗を均一にできた理由である。
6ナイロンをPPSに相溶しやすいMXD6というナイロンに変更して同様のベルトを製造したところ、カーボンの凝集体の大きさは小さくなり、その凝集体の個数が増加した。高次構造が少し変化したのだ。
すなわちマトリックスのΧによりカーボンの凝集体の大きさが変化している可能性がある。ベルトの開発が完了してから、ナイロンの種類を増やして同様のデータを取り、一か月間この周辺の研究を行ってみたところ、スピノーダル分解速度により凝集体の大きさが変化していることが分かってきた。
またマトリックスのΧにより凝集体の数が影響を受け、一個の凝集体に含まれるカーボンの個数が少なくなるという現象も凝集体の大きさに影響を与える可能性があるが、その寄与は小さいことも分かった。これは面白い現象である。高次構造を観察したところ6ナイロンのドメインは見つからないが、わずかなスピノーダル分解が起きており、カーボンの凝集構造を制御している。
このあたりの研究は深く進めると面白いがその結果得られる科学の真理が新しい技術を考えるときに重要かどうか問われると難しい問題である。現象をモルフォロジーで捉え公知の情報で推測された内容だけで技術開発のためには十分である。真理として確定していない情報でも技術開発で用いることができ特許出願が可能である。とりあえず特許を出願し退職した。
新しい科学の真理を前にしてそれを確定する仕事を進めるかどうかは経営資源との相談となる。最低でも人材育成効果を期待できるが、人材側から拒否される問題も存在する。企業で自然科学の研究を進めにくい時代になってきた。
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開発テーマが暗礁に乗り上げ、それが自然現象に関わる問題の時、何故か科学的思考を働かせようと前向きの推論を展開する人が多い。この前向きの推論のどこが問題なのか。問題はいろいろあるが、一番大きな問題は、思考が発散する問題である。仮に結論を明確にして前向きに推論を展開したとしても多くの推論の可能性を考えることになる。
これが逆向きの推論になると結論に直結する推論だけを考えることになる。仮に結論に直結する現象がいくつかあったとしても、結論に直結する現象について、それぞれを結論として捉え、それに直結する現象を考えたりして展開してゆくと、どこかで最も良い道筋一つが見えてくる。
前向きの推論と逆向きの推論の最も大きな違いは、この最も良い一つの道筋を素早く見つけられるかどうかである。日々の自分の思考がもし前向きの推論で行われてきたとしたら、その過去に事例について逆向きに考えてみるとよい。一筋の道を面白いほど見通せることに気がつくはずだ。
この逆向きの推論を行うときに問題となるのは目の前の現象について結論となる部分の表現方法である。すなわち「答え」を考えなければいけいない。都合がよいことに目標管理で決められた目標はその答えになる。面白いのは目標管理で明示したゴールから目の前の現象を眺めたときに、科学的には重要に見えていた現象が、取るに足らない現象に見えたりすることである。
そのような現象では今真剣に悩む必要はなく開発が終わってからゆっくり悩めばよい。そうすると不思議なことにアイデアが湧いてくる。なぜなら商品開発の過程で気になっている現象を注意深く見るようになるからである。理解はできていないが商品がうまく完成したときに改めて難解な現象を眺めると、不思議と解がわかりそうに思えてくる。この「わかりそうに」という部分が大切で、そのように感じたとき新たなアイデアが浮かぶ。開発を終えてから研究を行うとよい理由である。
答えが見えない問題ほど難しい問題はない。しかし、難解な現象に始めて遭遇したときにアイデアが無くて解決できなくても商品の中でその現象を眺めているとそこはかとなくうっすらと見えてくるものがある。そこで改めて答えを考えてみると不思議なことにうまく答えを設定できる。
科学では、答えを推論で求めなければいけないが、技術では機能がロバストの高い状態で動作していることなので、答えをあらかじめ決めることができる。答えを決めて問題を解くというと違和感を感じるかもしれないが、答えが分かった問題は必ず解があるという安心感を持てる。この安心感はアイデアを出すために重要である。
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高校数学で学ぶ証明問題の解答に必要条件と十分条件で論理を明示的に展開しないと×になる問題がある。実は「=」が必要十分な関係を示しているので,数学や算数の問題は必要十分関係を議論している。ゆえに推論に向きがあることを高校を卒業した人ならば誰でも知っているはずなのだが、卒業すると忘れてしまうようだ。
それは日常の思考や科学で現象を考えるときに無意識に必要条件から考える癖が身についているためと思われる。いわゆる科学で脳みそが習慣ずけられた結果である。ただしこの前向きで推論を進める癖は簡単に矯正できる。ただ現象の結果から考えれば良いだけだからだ。すなわち現象の結果や結論を明確にして逆向きに推論を進める習慣をつける。
この逆向きに推論を進める方法は、アイデアを出すコツでもある。また、単に論理問題を解く時だけでなく、人生の問題を考えるときにもこの方法は有効であるが、人生についてはとりあえずここでは扱わず、日々の開発で生じる問題について考えてみる。
今は目標管理が一般に行われているので日々の仕事のゴールは明確なはずだ。新しい開発課題を担当したときに、その目標を明確に記述する作業を日常行う。しかし何故か日常遭遇する問題について、まずその答えを明確にするという作業を行わない。写真会社で問題を前にして困っている担当者にまず答えを考えてみよ、と言ったら、それが分からないから困っているんです、としたり顔でいう。
それでは、君の今期のゴールは何か、と尋ねると答えは返ってくる。そのゴールと現在の目の前の問題とを関係させて考えればおのずと答えは明らかだろう、というと、これは今期の目標と関係ない現象です、と平然と答えてくる。さらにこの担当者とやりとりが進むわけだが、目の前で起きている現象の科学的答えを知ることが仕事だと勘違いしている。
会社の開発テーマでは、そこで扱う自然現象について科学的な真理を求める作業よりも商品化できるかどうかが最も重要なはずだが、それを忘れているケースが多い。仮に科学的真理が何も明らかになっていなくても商品化が成功している例は多い。
PPS/6ナイロン系中間転写ベルトの商品化では、その相溶が起きた結果どうなるかと考えず、カーボンの分散を安定化させるためには6ナイロンがPPSに相溶していなくてはいけない、と、それが完成した姿から物事を考えていた。そしてそれが実現され中間転写ベルトを商品化できたのだが、なに一つ科学的真理は明らかになっていなかった。
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昨日の思いつき実験の続き。理研を舞台にしたSTAP細胞事件では優秀な研究者が一名お亡くなりになっただけでなく、なんの成果もでないまま、さらにせっかく出願した特許まで取り下げるという愚かな行動までとられている。
STAP細胞が本当にできたかどうかは闇の中、と言われたが、その後ドイツからその存在を示唆する論文が出てきたりと、怪しい展開になっている。お亡くなりになった研究者は一流の研究者だったそうなので、論文に捏造があったとしても一度はSTAP細胞ができていた可能性がある。
ここで残念なのは、その最初の発見者が実験の下手な未熟な研究者だったことである。実験ノートもいい加減な使い方をしていただけでなく、試薬の管理までずさんだったのだ。自叙伝の「あの日」を読むとそのいい加減さの反省が書かれていないだけでなく、いい加減であったことに気がついていないような状況描写すらあった。
「あの日」から伝わってくるのは、実験を料理かままごとのように捉えている姿勢である。国民の血税が一回の実験にどれだけ使われるのか考えていたなら、もう少し気合の入った実験ノートが出来上がっていたはずだ。ハートマークの入った実験ノートがいい加減な実験の様子を物語っていると思う。おそらく毎回の実験が思いつきで行われていた可能性が高い。
昨日思いつき実験では、実験がうまくゆかず未練が残っているときにすべての条件について調べるべきということを書いた。STAP細胞でも考えられるすべての条件を丁寧に実施していたなら、モノにできたかもしれないと思っている。実は高純度SiCの企画について2億4千万円の先行投資が決まったときに、ゴム会社の研究所のある主幹研究員の方から、「同じ企画を考えていて実験したがうまくゆかず諦めた」という話を聞かされた。
当方が高純度SiCの前駆体合成条件を見つけた経緯をすでにこの活動報告で書いているが、当方も最初はうまくゆかなかったので、腹をくくって考えられるすべての条件で実験をしたのである。そして最適プロセス条件を見つけて技術を完成している。このときの実験ノートには実施した条件と×マークがたくさん書かれており、前駆体がうまく合成できた条件にはハートマークではなく星マークがつけられていた。
「同じことを考えていた」と話してくださった主幹研究員の方には申し訳ないが、当方は同じことを考えていない、と言いたい。同じことを考えていたのなら成功したはずだからだ。当方は隠れている機能をリベールするためにすべての考えられる条件で実験を行おうとしたのである。すなわち「必ずできるはずだ」と考えていた(注)ので最後まであきらめなかったのだ。主幹研究員の方は「できないかもしれない」、と考えていたのだと思う。思いつき実験を行うときに、この違いは大きい。決して同じではない。
(注)カオス混合装置では、指導社員からその言葉を教えられたときにすぐにアイデアが浮かばなかった。それでできるという自信が生まれるまでアイデアを寝かせることになった。
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ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームの開発で始末書を書いた体験談をこの欄で紹介している。工場試作に成功したにもかかわらず始末書を書かなければならなかったのが不思議だった。
始末書の問題以外に日々の仕事でも首をかしげたくなる上司の指導があった。このホスファゼン変性技術の開発では、軟質ポリウレタンの試作に成功した喜びよりも、奇妙なOJTのおかげで科学と技術の相違点を少し理解できたことが収穫だった。
ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームの開発では、いきなり開発ターゲットの最も難燃化性能の高い発泡体を作り、その解析を進めるというプロセスで業務を行っている。ゴム会社に軟質ポリウレタンフォームの基盤技術があったのでこのようなプロセスをとれたのだが、最初に目標となるモノを作ったことに対して、「職人のような仕事をやるな」と主任研究員から注意を受けた。
ポリウレタンフォームの反応を考察すれば、ホスファゼンをイソシアネートと反応させてプレポリマーとして用いてポリウレタンの骨格に取り込み、反応型難燃剤として機能させた方が効率よく機能するというアイデアは容易に出てくる。できあがった発泡体を評価したところ、他の難燃化システムに比較して難燃剤の添加量は少なくても難燃効果が発現した。
この難燃化効率の良さを示すために、他の難燃剤を添加した発泡体の難燃性との比較を行った。しかし、ホスファゼンを企画になかった反応型だけでなく、企画立案時にメンバーと合意したホスファゼン添加型のサンプルを一番最後に作成したり、燃焼試験もJIS化が検討され始めたばかりの精度の高いLOIを最初に評価したりなど、当初の企画に盛り込んでいなかった実験を中心に行った。ところがこの手順に対して「趣味で仕事をするな」と注意を受けた。
企画書に書かれたロジックに基づき仕事を進めれば、グループ内でその結果を共有化するのは容易である。しかし、俗にいう「思いつき」の実験を行っている時に、実は新たなアイデアが生まれるチャンスのあることが知られていない。
「思いつき」の実験を行い、得られた結果をそのままにするならば、低次元なアイデア実験で終わる。しかし、「思いつき」であってもその実験結果について十分な考察を加えるならば有意義な実験となる。このときさらに考察を進め、企画書よりも優れた新たな技術戦略あるいは開発シナリオまで導けたなら、それは「思いつき実験」ではなくなる。
ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームの研究開発で実施したいくつかの思いつき実験から、ホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームや高純度SiC前駆体技術の開発シナリオが生まれている。
(注)実験は仮説を確認するために行え、とはよく言われる。この実験以外に、仮説などなくアイデアとして思いつき「やってみなければわからない」ことを確かめる実験というのもある。このとりあえず実験で確かめる方法では、無理に仮説を設定しない方がよい。理由は実験がうまくゆかなかったときに仮説を棄却すると同時にアイデアまで捨てることになるからだ。やってみなければわからない実験を行うときには、前向きに実験を進めるのがコツである。どうしても使えるようにしたい機能を実験で確認する場合は、腹をくくってすべての条件で実験を行うべきである。その実験が試行錯誤のようで気に入らないならラテン方格を用いるとよい。現場でアイデアを思いついたときにすぐ実験できる環境ならば、思いつき実験を行った方がよい。それができないならば、実験ノートに枠を赤で書き、その枠の中に頭で思い描いたことを文章で書いてみることが重要だ。文章が難しければ漫画でも良い。技術者が現場で思いついた実験というのは素晴らしい機能を秘めていることがある。これを何度も体験している。
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ゴムや樹脂、あるいはセラミックスなどの材料は、一種類の素材だけで使用されることは稀である。大抵は複数の素材を配合して使用される。セラミックスフィーバーでセラミックスの配合設計に関する考え方は大きく進歩した。高分子材料については2000年前後の高分子精密制御プロジェクトやOCTA開発の土井プロジェクトの成果で階層構造で設計する考え方が普及した。
このような科学のイノベーションが行われる以前には、各社各様の方法が行われてきた。面白いのはゴム会社で統一した考え方はなく技術者により独自の配合設計法が語り継がれていた。しかし、転職した写真会社では配合設計という考え方は特になく、転職後しばらくしてから設計表という概念が標準として用いられるようになった。その後タグチメソッドが登場し、基本機能を中心とした設計法に代わっていった。
今でも記憶に残っているのは樹脂補強ゴムを開発していた時に指導社員から教えられた考え方だ。高分子材料はプロセスの履歴が必ず物性に現れる。特にゴム材料は顕著で、配合設計ではプロセス設計をまず行え、と言われた。加硫ゴムでは、バンバリーとロール混練がプロセスの基本となるが、この組み合わせが配合設計にも影響を与えるという。
ところが、技術者の中には、配合を決めてからプロセス設計を行う主義の方もおられた。そのような方は、ニーダーだけで加硫ゴム配合を練り上げて実験していた。新入社員の当方にはこのやり方が合理的に見えた。
指導社員曰く、ニーダーだけで練り上げたゴム配合で最良の配合が見つかったとしても、バンバリーとロール混練のプロセスでその配合を実用化できない場合もあったという。すなわち合理的に見えた方法では実用化できないリスクがあるので、最初にプロセス設計を行うのだそうだ。
ゴム会社ではゴムを練り上げるのに複数のプロセスが行われていた。それら複数のプロセスでどのようなゴムを混練するのかは経験知が存在した。すなわち指導社員の言われたプロセス設計とは、開発成果の受け入れ先が行っているプロセスを基準にして考えろ、という意味だった。
プロセスが決まるとその制約から使用できない材料も出てきたりする。そもそもゴムの混練はバッチプロセスなので制約は少ないが、それでも時々プロセス適性が無い材料が出てくるそうだ。
このようなプロセス適性の無い材料を検討に入れないのは不安になるが、指導社員はまずそれらを除外して配合設計を行った方が実用化のスピードが速いと教えられた。
それではプロセスの変革は必要ないのか、という質問をしたところ、カオス混合のような材料に著しい効果の現れるプロセスが考案されたときには迷わずそれを採用する、と質問者としてどのように理解したらよいのか分からない回答が返ってきた。
その後いろいろ尋ねたところ、ゴムの混練プロセスは保守的であり突然イノベーションが起きることはないと言われた。大切なのはゴムの混練プロセスが変わると同一配合でもその物性が大きく変動するという問題がある状態で、どのように開発手順を考えたらよいのかということだそうだ。すなわち、配合設計を行うときにプロセスを変動させて行うと問題が難しくなる。
材料における配合設計とプロセス設計の問題は、高分子材料でもセラミックス材料でも難しい。プロセスを決めておいて配合設計を行う、という指導社員の考え方は一つの考え方であり、当方は目標とする材料構造を決めてからプロセス設計と配合設計を同時に進める考え方である。この考え方で高純度SiCの新合成法やカオス混合技術などを発明した
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