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2015.12/17 評価されない仕事

写真フィルムの乳剤と支持体PETを接着する層に、反応後は活性が無くなるが、反応前は変異原性のある素材が使われていた(注)。そこで、それを使用しなくても乳剤をPETフィルムに接着することができる、新たなコンセプトの接着剤を開発した。ところが、これを製品に展開するには大変な工数が必要だった。
 
なぜなら、過去に開発された製品についてもその素材を使用しない接着層に変更しなければならないからだ。しかし、その接着層に変更したから性能が上がるわけでもなく、コストも下がるわけでもない。せっかく技術が出来上がっても製品展開の煩わしさを考えると、皆二の足を踏んでしまう。新製品から展開することにしても、製造部長からは全部新技術にしない限り、品種が増え迷惑だ、と言われる始末。
 
それでも写真会社には、まともな技術者がいた。製品開発を担当していたリーダーが、大変だがやりましょう、と言ってくれたので開発技術が無駄にならなかった。そして無事にすべての品種へ新技術を展開できたが、このような仕事だったので高分子材料部門のリーダーとして評価されなかった。
 
その後リストラ左遷となり、豊川へ単身赴任することになったのだが、それでもこの技術開発は技術者として推進してよかったと思っている。製造現場の作業環境を大幅に改善したのである。
 
技術の成果に対する会社の評価は低かったが、新たに開発した単膜の評価技術やその評価を活用した材料設計手法は少なくとも担当した技術者たちの実践知になった。とりわけ架橋剤を用いなくても接着剤を設計できる技術は、ゴム会社では常識でも世間では未だノウハウとなっている。単なる形式知であれば、教科書にその内容が少し書かれているが、その程度では製品に搭載可能な技術を生み出すことができない。
 
ふとフォルクスワーゲンの技術者たちの行動が頭に浮かんだ。彼らは不正プログラムを搭載した最初の製品が問題にならなかったことに味をしめたのではないか。不正プログラムを搭載した車が1年以上問題にならずに市場で販売されたので、その後の製品開発で不正プログラムを使用しない技術を開発しなくてもいいのでは、と思った可能性がある。
 
ましてや、不正プログラムを使用し製品化したリーダーが評価され出世していたなら、その後に続く技術者がおいそれとその問題を扱いにくくなる。下手に、不正プログラムを使用しない技術開発など企画したら、出世した前任者に恨まれかねない事態になりそうだ。
 
長期間不正プログラムを搭載した車が放置され、その後の新製品にもそのまま登載された背景には、最初に不正プログラムが搭載された車を改良する仕事が、評価されない仕事になっていたのかもしれない。しかしたとえそのような扱いになっていたとしても、技術者ならばそれを改善しようとする気概を持ってほしい。
 
(注)反応活性のある物質は何らかの変異原性反応を示すモノが多い。反応後は活性点が無くなるので無害となるが、1990年代の環境問題関連の法律が検討され始め、メーカーの主要テーマとなりつつある時代の話である。少しでも環境負荷を低減する視点で、担当分野の技術を見直し、最初に手がけたテーマがこの難題だった。
 

カテゴリー : 一般

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2015.12/16 科学の進歩

20世紀に科学は著しく進歩し、ついに人類は生命誕生に関わる科学まで扱いだした。20世紀末には哲学者から提案があり、倫理に基づく一定の線引きがなされ、iPS細胞の発明までたどり着いた。
 
ところが面白いのはこの発明のプロセスがものすごく非科学的であったことだ。先端の科学では、未解明の真理が少ないので、仮説に基づく実験が繰り返され、仮説の正しさが立証されると新たな真実が誕生する、というゆるやかな歩みで進歩する。
 
しかしヤマナカファクター誕生は、実験のきっかけこそ仮説が存在したが、その発見のプロセスは学生の大胆な実験結果が運良くヒントをもたらし、そこから消去法という科学の禁じ手を使用し4つの遺伝子を見つけ、この分野に急速な進歩をもたらした。
 
山中先生がノーベル賞を受賞されたときに、研究はこれからだ、と言われたのは恐らく本心からであり、非科学的方法で技術が見つかっただけの段階と認識していたからだ。
 
このように科学の進歩には、科学的に美しく行われるプロセス以外に、泥臭く、あっと驚くタメゴロー式のプロセスにより急速な進歩が引き起こされる場合もある。ところが、科学的プロセスを学校で学ぶ機会が多いためか、マスコミで技術を取り上げるときには、あたかもこれが科学のすべてであるかのような取り上げかたをする。
 
その結果、このプロセスが極めてポピュラーになり、科学の進歩を引き起こす方法として、この方法が正統派だと誤解している人が多い。ところが、むしろ非科学的プロセスにより急速な進歩となった事例が歴史的には多く、非科学的方法こそ効率的にイノベーションを引き起こす手段として注目すべきと考えている。
 
当方は、科学的に美しく行われるプロセスは優等生ならば誰にでもできるという理由で、タメゴロー式のプロセスを好んで使用してきた。これは大学院時代に指導を受けた恩師の影響が大きい。学部時代は、いかにもアカデミアと呼べる教育を受けてきたので大学院で研究室を異動し指導者が替わったときに多少面食らった。
 
まず、恩師とうまくコミュニケーションがとれないのである。このとき科学という学問の本質である論理の厳密性が重要であることと、それがアイデアの可能性と広がりに制限を加えていることに気がついた。
 
この時指導してくださった先生は、読むべき論文をこっそりと用意してくださっているような親切な先生だった。しかし、時々議論で発展した発想の方向へ論理がぶっ飛ぶので話について行くのが大変であった。
 
大学院時代は苦労した2年間であったが、技術者として就職し実務を初めて見ると、この時の「ぶっ飛び」感覚が技術開発でイノベーションを起こすために重要であることに気がついた。そしてタメゴロー式プロセスを好んで使用するようになった。但し学位は高純度SiCの反応速度論を科学的に美しくまとめている。
 
科学を重視した非科学的方法こそ現代のイノベーションを起こす方法として注目すべきと考えている。興味のある方はお問い合わせください。
 

カテゴリー : 一般

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2015.12/15 高分子の混合における科学の問題

高分子の混合分散の形式知として、フローリー・ハギンズの理論(以下FH理論)が教科書に書かれている。すなわち高分子の混合分散を科学的に論じる時にはこのFH理論を用いることになるが、FH理論の考え方は科学として正しいかもしれないが、当方の実践知や暗黙知から眺めると、怪しい理論である。
 
フローリーはノーベル賞も受賞されているので、当方のような技術者が彼の理論を論じるにはおこがましさを感じるが、FH理論は、高分子技術の実務のシーンでよくみかける現象やそこに潜む機能を実用化したい時には重要な理論となるので、コンサルティングの時には必ず一言、仮に不遜と思われても、この理論の批判を行うことにしている。
 
理由は、パワー半導体用原料として知られるようになった高純度SiCのポリマーアロイを用いた低コスト合成法やPPS・ナイロン相溶中間転写ベルト、ポリマーアロイ下引き、ポリオレフィンとポリスチレンの相溶したレンズなどの発明を可能にした実践知から見ると、大変不完全な理論だからだ。
 
換言すればFH理論を批判的に見てきたので、これらの機能を実現できた、といったほうが適切かもしれないし、科学にとらわれない技術開発の重要性を説明する時の良い事例になるだろう。
 
今年京都大学からもこのFH理論に疑問を投げかける研究が発表された。それは、植村卓史工学研究科准教授や北川進物質―細胞統合システム拠点教授らのグループが開発した技術である。これは、新たな機能性材料の開発につながる成果で、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズで7月1日に発表されている。
 
FH理論で知られているように、ポリマーは同じ種類同士で集まる性質があり、異なる種類の混合は、ナノ(10億分の1)メートルのレベルでは難しいとされてきた。
 
グループは、微小な穴が無数に開いたジャングルジムのような構造を持つ多孔性金属錯体(PCP)の内部で異なる種類のポリマーをそれぞれ合成した。その後、薬剤を使ってPCPを除去することにより、それらを混合することに成功した。
 
発泡スチロールの原料であるポリスチレンと、アクリル樹脂の原料であるポリメタクリル酸メチルもこの手法を使い、ナノメートルレベルで混合し、耐熱性を上げることができた。他のポリマーの組み合わせにも適用し、片方の材料の耐熱性などを向上させることが期待できるという。
 
アカデミアからもFH理論に反する事例が公開されたように、高分子の混合分散についてFH理論にとらわれ過ぎると新しいアイデアを生み出したいときに障害となる。この分野では、特に科学にとらわれない自由な発想が大切となる。
 
 

カテゴリー : 高分子

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2015.12/14 9-3÷1/3+1

一流企業の技術者の4割が、9-3÷1/3+1という問題に解答できなかった、とネットで話題になっている。2015年度に1部上場の製造業9社に在籍する、主に20代の技術者1226人を対象に実施されたテストの結果から基礎学力の低下を嘆く意見である。
 

企業の技術者の基礎学力低下は、今明らかになった問題ではない。昔から基礎学力の低い人はいた。それが、ゆとり教育世代では多くなって目立ち始めただけだ。しかし、基礎学力が低いから企業で役立たないのかと言うと、サラリーマン技術者の場合には、それでも運が良ければ、出世ができてしまう。
 

また逆に出世した時に専門の学力も含め高すぎると管理職どまりどころか出世そのものができない会社もある。メーカーと言えども基礎学力だけが重視されているのではないのだ。すなわち、その他の能力で会社に貢献できるし、日本の会社では、マージャンやゴルフにつきあう能力を重視したりするところもある。
 
今回の騒ぎの対象である一流企業の技術者は、恐らく偏差値は50以上の大学出身者と思われるので、その他の能力は平均以上備えているはずだ。だから実務をこなすには不自由しない能力を発揮できるので、一流企業では仕事ができるし、運が良ければ役員にもなれる。
 
ゴム会社に入社して、いわゆる基礎学力の低い上司と3年間仕事をした。例えばグラフの書き方の基本を身に着けていないので、グラフを見ただけではその意味を理解できず、必ず部下に説明を聞く。部下に説明を聞いて理解できたのかと言うと、グラフそのものの理解はできてなくて、グラフが表現した結果を理解しているだけだった。このことに気がついたのは、ある経営会議に同席させられた時だ(そもそも入社1年程度の若僧が出席するような場所ではなかったが)。
 
その会議では、うまくプレゼンテーションが終了したので問題はおきなかったのだが、会議終了後、資料に書かれた一次回帰直線が上司から資料の問題点として指摘された。すなわち、なぜこのような余分な直線をグラフに描いたのだ、と質問されたのだ。
 
実験データの一次回帰式から推定値を求めたので、グラフにその回帰式に相当する直線を書き入れたのだが、主任研究員の上司は、そもそも一次回帰式というものを理解されていなかったのだ。(会議の前に説明していたのでご理解頂けていると思っていた。しかし、コンピューターが無かった時代には、一次回帰式を求めるのは大変なので、知らない人は多かったのかもしれない)
 
しかし、プレゼンテーションでは、ご自分で説明していて、グラフに書かれた一次回帰直線が気になってしょうがなかったそうだ。横でプレゼンテーションを聞いていた当方は、推定値のことを、実験で得られたグラフからこの結果となり、と説明されていたので、当然理解されていると思っていた。
 
会議後、事前のデータの説明が不十分だと、本当は苦情を言いたかったのかもしれないが、当方が簡単にデータ群の一次回帰直線です、と答えてしまったので、一次回帰とはなんだ、という話の展開になり、挙句の果ては、統計の説明に始まり、会議が終わったにもかかわらず会議前の説明までやり直すことになった。
 
この時の体験は、内容を理解していなくてもプレゼンテーションをそつなくこなす、すごい能力の上司というリスペクトした思い出として記憶にあったが、本当は、基礎学力が低くても大企業で主任研究員程度が務まる、という事例なのかもしれない、とニュースの記事を読んで新入社員の能力の心配よりも、メーカーの人材育成や人事評価システムが心配になってきた。
 
この上司については、ある日の酒の席で、新入社員時代から優秀な部下に恵まれた人だった、という噂が聞こえてきた。当方が入社する20年ほど前の時代は、大卒者に工業高卒の人材が部下としてつけられていたそうだ。
 
ただ、ご自分の知識不足の領域をすぐに耳学問で補おうとする姿勢は随所で見られ、この姿勢が上司の基礎学力不足を補強していたのだろうと、改めて敬服した。基礎学力不足を嘆くよりも、「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」、という格言を指導することこそ必要だろう。もう、新入社員は社会に出てしまっているのである。
 
基礎学力が低いからと言って嘆く必要はなく、そのような人材でも活用し育成できる組織こそ必要である。そして常にイノベーションを引き起こすことが可能な組織化能力こそマネジメントに要求されている。基礎学力の低い上司だったが、その組織から今でもゴム会社で事業が継続されている半導体用高純度SiCの技術が生まれている。当時様々な新規事業の提案がなされたが、この上司の組織で生まれた技術だけが唯一生き残っている。

 

カテゴリー : 一般

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2015.12/13 ヒューマンプロセスによる問題解決法

イムレラカトシュは、その著書「方法の擁護」で完璧な科学的証明法は否定証明である、と述べている。わかりやすく言えば、新現象に潜む機能を技術として活用するときに、科学的方法に忠実になれば、「それはできない」という結論を導き出してしまう、ということだ。
 
優等生に開発をやらせるとモノはできないから注意せよ、とゴム会社でよく言われていた。実際に電気粘性流体の開発では、その耐久問題の解決法では否定証明が行われた。そして当方は、その「できない」と結論された方法で問題解決に成功した。
 
科学と非科学の対決構図となってしまったわけだが、20年以上前のことであり、研究所ブームの名残で科学第一主義の人が中核を占めていた時代だ。
 
科学と非科学は対決していても仕方が無いことで、科学誕生以前の問題解決法がすべて非科学的に行われていたことを理解できれば、科学と非科学を共存させて問題解決に当たる柔軟さこそ今の時代求められていることに気がつく。
 
非科学的方法で問題解決できるのか、という人はマッハ力学史を読んでいただきたい。古典力学は、非科学的方法で発展してきたのである。ニュートンは非科学的方法で万有引力を発見している。
 
最近では、山中博士が非科学的方法を使用してヤマナカファクターを発見したと述べておられる。また、ヒューマンプロセスによらなければ、一生かかっても見つけられなかった、とNHKの番組で語られていた。
 
ノーベル賞級の研究でさえ、躊躇なくヒューマンプロセスを用いているのである。日々の技術開発でヒューマンプロセスを用いて問題解決を行っても悪いはずがない。このような考え方と科学と非科学を組み合わせた効率的な問題解決法にご興味のある方は、是非弊社にご相談していただきたい。ビジネスにおける問題は、解決されてこそ価値がある。問題プロセスにおいて科学的方法だけに高い価値があるのではない。
 

 
 

カテゴリー : 一般

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2015.12/12 高分子の未溶融体

高分子には、室温で固体のものから液体のものまで存在する。室温で固体であっても、加熱すると溶融体に変化する高分子は、樹脂あるいは熱可塑性ゴムと呼ばれている。加熱しても溶融体にならず熱分解し、さらに高温度で熱処理すると炭化した残渣を大量に生ずる高分子も存在する。
 
高温度で溶融体を生ずる高分子や室温で液体の高分子についてその状態は、科学的に解明されているように思っている人が多いが、解明されているのは特殊な場合だけであり、大半は未解明と言っても良い状態である。その昔フローリーにより体系化された高分子科学は、高分子を溶媒に溶解した状態、それも2%未満の希薄溶液の状態で研究された成果である。
 
教科書に書かれた高分子の性質の大半はこの科学に基づいているため、実務で遭遇する高分子の姿はしばしば教科書とは異なる。ところが教科書と異なる非科学的現象に遭遇した時に無理やり教科書の記述で理解しようとする人が多いのにはびっくりした。
  
科学の時代なので、教科書に記述された事柄で理解を進めても不都合はないが、教科書の記述とは異なっている、あるいは教科書に書かれたパラダイムと異なっているという認識は持ってほしい。すなわち、科学的に論じても間違いが無い部分と科学的に不明な部分とを認識しながら現象を眺める習慣は、高分子材料を扱う時に重要である。
 
この習慣を忘れると、例えば、樹脂を融点(Tm)以上で加熱した時に流動性を示すようになるが、この融体が高分子一本一本ばらばらの状態で流動している、という誤解を生じる。この誤解を持ったまま現象を眺めていると、現場で絶対に解決できない問題を生み出すことになる(注)

 
大半の樹脂は、Tm以上で加熱し混合しても高分子一本一本ばらばらで均一な状態にならない。これは粘弾性測定の実験を注意深く行うとそのように納得できるデータが得られる。すなわち、融体に含まれる高分子の一部が未溶融で存在する、と仮定しなければ説明のつかない現象を見出すことができる。そしてこれが科学だけでは理解できない現象を引きおこす。

  
(注)そもそも実務で遭遇する現象の大半が非平衡状態であることを忘れているのが問題

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.12/11 射出成形体のボツ

射出成型では金型に樹脂が押し付けられるのでボツは発生しない、と思っていたら、昨年面白い体験をした。中国のローカル企業を指導して、高い難燃性を有するPC/ABSの独自処方を開発した時だ。
 
横軸にPCの含有率をとり、縦軸に衝撃強度や引張強度の値をとった軸でグラフを書いたところ、公知の変化を示すグラフが得られた。引張強度が10%程度グラフ全体で低めになっている点以外は、異常のないデータに見えた。
 
ただ、全サンプルが10%前後低め、というのが少し気になったので、引張試験片の破断面観察を行ったところ、PCの未溶融物質で形成されたドメインがすべてにおいて観察された。大きなものでは0.5mmほどの大きさのドメインを見つけた。
 
たまたま上海近郊で知人が樹脂の混練事業をやっていたので、そこの二軸混練機を借りて混練してみたら、某ローカル企業と同一処方の配合で引張強度が20%ほど向上した。破断面観察を行っても異常は見つからなかったので、こちらがまともなデータなのだろうと考えた。
 
さて問題は某ローカル企業の二軸混練機である。L/Dは42程度で外観に異常はない。フィルターもオートチェンジャーがついている立派な装置である。表示温度が高めに出ているのか、と疑ったりしたが、熱電対に異常はなかった。
 
一通りの点検をして、スクリューとシリンダーの隙間が怪しいのではないか、と疑った。樹脂を流さないでスクリューを回転したところ、異音はしないが優しい音色である。おそらくこの二軸混練機ではポリマーアロイの混錬は不可能だ、と総経理に伝えたら、何とかならないかと言ってきた。
 
新しい二軸混練機を買うことを勧めたら、修理してくれと言う。さすがにそれは当方には無理だ、と答えたら、翌日その混練機メーカーの技術者を連れてきて、一緒にやってくれと言う。どうも通訳からうまく総経理へ話が伝わっていなかったようだ。
 
仕方がないので、スクリューセグメントをメーカー推奨の状態から変更し、さらにカオス混合装置を取り付けるように提案した。
 
2ケ月後にできあがったカオス混合装置をセットし、混練したところ、驚くべきことに引張強度が20%程度上がったのだ。そして破面観察を行っても未溶融物は見つからなかった。昨年高分子学会から招待されて講演したが、カオス混合装置がものすごい発明であることをもう少し宣伝すべきだった。

カテゴリー : 一般 高分子

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2015.12/10 フィルムのボツ対策

高分子成形体で発生するボツ対策はノウハウであり、この欄で書きにくい内容である。公知事項の範囲で書こうとすると読み手からは靴の裏から足のかゆいところを書くような状態になる。また、思いつくまま書いているので、読み手には余計に分かりにくい内容になっていると思う。もし疑問に感じたらいつでも問い合わせていただきたい。
 
フィルム成形をしていてボツを見つけると、まずボツの分析を行う、というのが一般的なアクション。その時の分析手段は、電子顕微鏡や光学顕微鏡が一般的だろう。まず、目で観察する、というのは、小学校で習う科学の姿勢である。
 
ボツを目視で観察し、原因が分かることもある。すなわち、異物が原因でボツが発生しているときには、何らかの手段でその部分を観察すると容易に原因を特定できるので、対策に結び付けることが可能である。
 
まず大きな異物であれば、フィルターワークで対策できる。その異物がコンパウンド外から入ったものであれば、クリーンルームの作業に切り替えたり、作業着対策や作業者の訓練で解決できる。コンパウンドに添加されたフィラーが原因であれば、分散を改良したり、フィラーを変更したりして対策を進める。
 
とにかく、見える化で原因を特定できる時には、その原因を除去すればボツを減らすことが可能となる。しかし、それでもボツを0にはできないのが一般的で、フィルム製造の実技では毎度問題になる定番の品質欠点である。すなわち、見える化を行っても正体不明のボツがあり、その対策がわからないのでボツを0にできないのだ。
 
この正体不明のボツは、高分子の未溶融体であり、科学では理解できない現象である。もしできるという人がいれば教えて頂きたい。少し技術的センスのある人ならば、正体不明のボツを集めて、熱分析を行うだろう。DSCや粘弾性測定を行うと正体不明のボツの姿が見えてくる。GPC測定も情報を与えてくれる。
 
正体不明のボツの姿がおぼろげながら見えてくると、その対策を考えることになるが、これが大変なのである。ここでも少し書きにくい。コンパウンドの混錬の話になるのだが、ここにたどり着いた人は弊社にご相談ください。良い方法がある。(明日もボツ)
 
 
 

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2015.12/09 PPS中間転写ベルトのボツ

高分子の未溶融物の問題は難しい。例えばPPS中間転写ベルトは、PPSにカーボンを分散して製造するので、押出成形でボツが発生した時に、カーボンに含まれる異物でボツが発生しているのか、未溶融物でボツが発生しているのか原因を特定しにくい。
 
科学で現象が解明されていない場合に技術で問題解決することになるのだが、PPS中間転写ベルトのボツ問題は、技術による問題解決でうまくいき、実践知を多く身に着けることができた。また、コールドスラッジについても一般に言われている話が必ずしも正しくないことも学んだ。
 
開発がうまくいっていない状況で引き継いだ業務だったので、押出金型の見直しも行う経験ができた。Tダイをそのまま丸くしたコートハンガーダイやスパイラルダイ、スパイダーダイなどいろいろなダイをためし、ダイによりボツ発生に差異があることも発見した。
 
ここでは書きにくいので興味のある方は問い合わせていただきたいが、このような世界は実践知と暗黙知の世界であり、技術者により見解がわかれる対策もある。しかし、ボツを減少させるソリューションの一つとしてコンパウンド段階の対策は、有効だと思っている。
 
過去にこの欄で紹介したが、カオス混合によるコンパウンドは、未溶融物により発生するボツを減少できる。すなわち、コンパウンド段階で十分に練を進めて可能な限り分子状態でバラバラにできれば、押出成形で未溶融物の発生を減少できる。
 
カオス混合以外の混練方法では、二軸混練機2機種、石臼式混練機、バンバリーなどを検討したが、ボツ発生を抑えることはできなかった。この経験からカオス混合は高分子の未溶融物を少なくできる混練方法との実践知を得た。(明日もボツ)
  

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2015.12/08 フィルムのボツ

高分子の未溶融体で品質問題となった時にわかりにくいのが、押出成形により製造されるフイルムで発生するボツである。ボツについては、原料に含まれる異物で発生しやすいので、フィルターワークや工程のクリーン度をあげたりして対策する場合があるが、これで問題解決できれば幸運である。
 
高分子の未溶融体でボツが発生しているときにその正体を見つけることは不可能である。すなわち、正体不明のボツを見つけてはじめて高分子の未溶融体の存在を考えることになる。高分子の未溶融体は、フィルターワークでも除去できない場合が多いので消去法で答を見出すことになる。
 
光学用フィルムでは、延伸工程でボツが消失し、輝点異物となる場合がある。ある日PETフィルムの輝点異物を集めて分析したところ、結晶化したPETが他の部分よりも多く含まれていた。このような結果ではない場合も存在したので、断定的な結論を避けるが、高分子の未溶融体は結晶部分がまずその原因として考えられる。
 
写真会社で経験したTダイによるPETフィルム成形では、ボツの問題で悩むことは無かったが、しばしば遭遇する輝点異物には迷惑した。後工程の下引き処理で発生するエラーとの区別が難しいために、時々対策を誤ったりした。詳細をここでは書きにくいが、ボツが100%発生しないフィルムは存在しない、ということとボツの発生個所には局在化している場合とランダムな場合が存在する点は注意したい。全体のシステムでボツの発生の仕方が変わる(ただしここでは輝点異物がすべてボツ由来と仮定している)。
 
PPSは20年ほど前からそのフィルムが登場しているが、ボツの発生により量産体制に入るまでその対策に苦労した樹脂と聞いている。フィルムの中央のボツが少ないところを商品として供給していたようだ。PPSフィルムの成形は経験が無いが、PPSベルトについては10年前に業務を引き継いだ経験がある。抵抗の安定化とボツ問題の解消が最後に残ったミッションと言われ、やや尻込みした。
 
前任者が言うには、某フィルムメーカーがPPSフィルムの量産をできるようになったのは、写真会社でベルト成形の研究を進めたおかげだそうだ。当方が単身赴任する前に、前任者は大変低い歩留まりのPPSベルトをある方法で商品化していた。フィルムはマグロのトロのように部位を選んで切り取ることができるが、ベルトは、円柱状で成形しそのまま使用するので、それができない、だから技術的に大変難しい。
 
それを実用化できたのだから、と自慢し、歩留まりを上げるのが当方の仕事と言っていた。当方はその傲慢な物言いに憤りを感じたが、PPSメーカーが聞いたならもっとカチンときたかもしれない。しかしベルトはフィルムのように押し出された中央部分だけを使うということはできないので、一理ある。(明日に続く)

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