回転している二本のロールに挟まれ練られているゴムにカーボンを少し添加しただけであっという間に黒くなる。但しその変化は水を高速撹拌しているところへ黒インクを垂らした変化と異なる。
混錬と混合の違いが短時間のゴムの黒変という現象で観察される。指導社員によく見ているように、と言われて目を凝らしてみていた実験を今でも覚えている。目の前で起きていた現象は分散混合と分配混合というモデル化ではしっくりこない。
科学的表現ではないにもかかわらず、技術のイメージを現場で指導者と共有化する作業は技術の伝承のために重要である。技術と芸術の境界が不明確になる原因もここにある。ダ・ビンチを科学者と言う人がいるが彼はすぐれた技術者だったと思っている。
科学では論理が重要で真理を基に新たな一つの真理を目標に展開される。ゆえに論文等の書物で記述された内容をどこでも容易に共有化できる。またそれができない場合には科学として失格の烙印を押される。例えば科学の実験手順であればだれでもそれが再現できることが重視される。
料理のレシピは科学論文ではないので仮にレシピ通り料理を作ってみて、まずくても社会問題にされない。STAP細胞で問題になったのは、科学論文に書かれた手順で実験結果が全く再現されなかったからだ。もしあれが料理のレシピとして公開されていたのだったら社会問題にはならなかった。
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混練プロセスでは高分子を練る機能が重要である。低分子どおしの混合と高分子の混錬は同じ現象ではない。高分子の混練機構における分配混合と分散混合という考え方は、そのモデル化の過程で間違いを犯しているように思う。
現象をシミュレーションするためにはそのモデル化が必要になってくる。モデル化の過程で現象を左右する要因のいくつかは誤差として扱われる。本来誤差ではなく現象を左右する重要な因子であったとしても誤差にする間違いを平気で行う。
それで現象をうまく説明できれば問題ないが、ある特定の事例でシミュレーションがうまくいくとすべてそのモデルでうまくいくような説明をする人がおり、問題が複雑化する。
シミュレーションが正しくないにも関わらず実験方法がおかしいと言い出す人もいる。高分子の混錬における分配混合と分散混合を用いた解説について、実務経験を積むとこのような印象を受ける。
どこがおかしいのか。それは練の考えが入っていないことによる。表面の平らな二本の回転しているロールにゴムを挟んでも混錬は進む。この不思議な現象を眺めていると練とは何か、ということが見えてくる。
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設計の悪い二軸混練機についてスクリューセグメントだけを最適化してどこまで性能が上がるのか実験する機会があった。好んで実験をしたわけではない。やや腹立たしい事情がある。
中国のローカル企業に頼まれて、ある難燃性樹脂の開発を昨年行った。そこが保有していた二軸混練機で試作したところとんでもない結果になった。混ぜることはできても練ることができないのだ。この混練機は使い物にならないから知人の会社の混練機を借りて開発をさせてほしい、と言ったら、とりあえず受け入れてくれた。
知人の会社の混練機で、ほぼ処方が固まりかけた時に、最初に使用した練ることのできない混練機で仕上げて欲しい、と訳の分からない注文が出てきた。二軸混練機の改良のための費用を出すと言われたのでロータを導入するなどスクリューセグメントの大幅変更を行った。
スクリューセグメントにロータが導入されるとモーターへの負荷が増す。だめな二軸混練機のモーターの能力いっぱいの負荷をかけて混練することになった。思い切った改良で若干は性能が向上し少し練ることが可能になったように思われた。
しかし最適混練条件を求めてみたところ、ピンポイントで条件が見つかったがコンパウンドの性能ばらつきが大きく処方の仕上げができなかった。性能の低い二軸混練機はスクリューセグメントを工夫してもその能力に限界がある。
ただそのような二軸混練機で樹脂を処理してもストランドを轢くことができ、ペレットのの作成までできてしまう。その結果どこがダメなのか素人にはよくわからない。二軸混練機でどこまでのことができるのか知るためには、信頼できるKOBELCO製品を使用してみることである。
そして設備の限界を知り、それから安い機械を購入すれば目的に合った設備を経済的に導入可能である。但しペレットを作るだけならばどのような押出機でも構わない。
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1970年代に二軸混練機メーカーは大小多数存在し、それぞれ特徴があった。そのいくつかは倒産し、今日本には大手メーカーが残っているだけである。KOBELCO以外にも大和の砲身を製造したメーカーはじめ優れたメーカーがあってもKOBELCOを昨日推薦したのはサービスが良いからである。
実は中間転写ベルト用コンパウンドはKOBELCOの二軸混練機の技術だけで混練できなかった。少々改良する必要があった。中古の機械を改良したのだが、またその改良を担当したのは根津にある中小企業であっても神戸製鋼の技術者は協力的であった。おかげで短期間に理想とした混練機が完成した。
この時の経験で面白かったのはスクリューセグメントの設計では分散混合と分配混合の言葉がその説明で使用されたことだ。KOBELCOの混練機で優れているのはロータの設計技術とシリンダーの設計である。
1970年代の二軸混練機ではロータが使用されていない。この頃のスクリューには技術者の思いこみで考案された面白い形状のスクリューも存在する。神戸製鋼ではいち早くロータの研究開発に取り組んだと聞いている。
ロータについてはその効果の説明が教科書により異なっている。ひどい教科書になるとロータはモーターに過大な負荷をかけるので好ましくない、という説明もあったりする。この説明では材料よりもハードウェア―が大切に扱われている。
材料を混練するために適切な装置を選択する、というのが本筋である。混練する材料を機械に合わせるという考え方は本末転倒である。
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分配混合と分散混合の説明で不十分なのは高分子のレオロジーを考慮していない点である。むしろ伸長流動と剪断流動で混錬が進むと表現したほうが良い。
混練機にはバンバリーやロール混錬のようなバッチプロセスもあれば押出機から進化した連続式プロセスの混練機も存在する。二軸混練機は生産性が高いと信じられてこの70年進歩してきた装置である。
二軸混練機はどれも同じと思っている人が多い。どの二軸混練機を買えばよいか尋ねられたなら迷わずKOBELCOブランドをお勧めする。少し高価だがこのブランドの混練機でうまく混練できないならば他の二軸混練機ではさらに悪い結果となる。但し、正規のルートで購入し技術サービスをしっかりと受けるという前提である。
神戸製鋼から特別にPRを依頼されているわけではない。これまでKOBELCO含め10種類の二軸混練機を扱ってみての感想である。もしKOBELCOの混練機を使ってもうまくゆかない場合は弊社へご相談ください。
中間転写ベルトのコンパウンドの混錬では、KOBELCOブランドの中古品を小平製作所で改良し、成果を出すことができた。KOBELCO製品の良いところは各部品の信頼性が高いことである。中古品でも中国のローカル企業の製品よりも性能が高い。
但しKOBELCO製品を使用しても、スクリューセグメントの設計が悪ければうまく混練できない。どのような材料を混錬したいのか相談すれば最適に近い設計を神戸製鋼がしてくれる。こうしたサービスも含めた価格と思えばKOBELCO製品は高くはない。
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混錬の教科書を開くと分配混合と分散混合という言葉が出てくる。二軸混練機のスクリューセグメントの考え方でもこの言葉が使われ、両者の理解がその教科書を読み解くポイントになっている。
混練技術を現場で指導された時に、混錬とは混ぜる機能と練る機能の両者をバランスよく実現することであり、分配混合と分散混合の考え方では説明がつかない、と習った。そしてカオス混合という究極の混練技術の存在を教えられた。
カオス混合では混合と言う言葉が使用されているが、カオス混練と表現したほうが良い、とも習った。但しその実現方法は当方の宿題にされて30年間考えることになったが、指導社員の説明から混練技術が未だ科学として完成していないことを充分に理解できた。
しかし混錬の教科書を読むと、分配混合と分散混合の理論的扱いに終始した説明がなされ、あたかも混練プロセスは科学で説明がつくような錯覚になる。
指導社員から科学では説明がつかないロール混練の楽しさを教えられた。ただ二本の丸棒が回転しその間隙で混錬が進むのであるが、そこではカオス混合も起きている可能性があると説明を受け、毎日どの部分がカオスなのか観察をしながら仕事をした。同期の友人からは、訳の分からない説明をまともに信じて仕事を行う姿こそカオスだと笑われたが。
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ゴム会社で3ケ月間防振ゴムの開発を担当した。新入社員のテーマとして一年間担当する予定のテーマだったが、サービス残業を行い3ケ月間で処方を仕上げた。指導社員が極めて熱意のある優秀な技術者で毎日最低2時間は混練技術の指導を現場でしてくださった。
物理が専門の技術者で一年間に得られるであろう重要なデータをすべてシミュレーションで示し、その内容を1週間かけて講義してくださった。研究の進め方について大学と企業の違いを知り、カルチャーショックのような衝撃を受け、駄馬の先走り状態になった。
この頃を思い出してみると技術者として最も充実していた。高純度SiCの仕事もそれなりに充実していたが、それは事業家としての充実感であり、技術者としては満たされない毎日だった。吸収した知識をすぐに実戦に生かす技術者としての醍醐味は防振ゴム開発の仕事ほどではなかった。
STAP細胞の騒動では未熟な研究者が指導者に恵まれなかった発言をしていたが、技術の伝承において優れた指導者は必須である。科学の知識は書物から学ぶことができるが、技術は書物だけで学ぶのは難しい。混練プロセスのような科学で解明が遅れている分野ではなおさらである。
指導社員はゴム会社であまり大切に処遇されていなかったが、実務者としての力量と技術の伝承者としての力量はずば抜けていた人である。部下の立場で評価すれば100点であったが、その上司の立場から見た時に高い評価を受けていなかった、と思われる。
サラリーマン人生を振り返ると、この指導社員より優秀な技術者には出会っていない。この指導社員の実務スタイルが、3ケ月の業務を終えた時に当方の目標になっていた。
たった3ケ月間混練プロセスを担当しただけであるが、優れた指導者のおかげで得意な技術分野の一つになった。35年前短期間に獲得した知識と技術で9年前中間転写ベルト用コンパウンド工場をやはり短期間に立ち上げることができた。
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今やネット配信で音楽を聴く時代である。またオーディオという言葉も死語となりつつある。しかし、我が家では昔ながらのオーディオ機器で音楽を楽しんでいる。アンプやCDは単身赴任中に同僚から紹介されたROTEL製品に買い替えたが、チューナーは、40年前購入した製品である。
そのチューナーが突然壊れた。AMは受信できるので、FM受信機が壊れたようだ。各部にさびが少し出ている。古い装置なので集積化が進んでおらず、眺めていても楽しい。恐らくコンデンサーが壊れたのだろう。液漏れを起こしている。まだ漏れたばかりのようなので光の変化で輝く。
ディスクリート構成のアナログ回路は専門家に頼めば修理が可能かもしれないが、40年前ではさすがに修理して使う意欲もわかない。ところが驚いた。メーカーのサイトを覗いてもFMチューナーという単品商品が無いのだ。
今時FMチューナーなど売れないのだろう。ようやく一つ商品を見つけたが安い!40年前は10万円以上したデジタルシンセサイザーチューナーと同等のスペックの商品が3万円で購入できる!
物価上昇を考えても電化製品の性能と価格の関係は異常である。改めて技術の進歩のすさまじさを身に染みた。
ところでFMチューナーで何を聞いていたのかというと、土曜日夕方放送されているラジオマンジャックである。土曜日の夕食当番を務めながら、聞き流していた番組だが面白かった。FMチューナーが壊れたのをきっかけに我が家もネットオーディオへ移行しようと思う。
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技術の伝承の重要性は、社会人になってから幾度となく聞かされた。しかし、その重要性が叫ばれながらもなかなかうまくゆかないようだ。写真会社で出願された特公昭35-6616特許(注)を掘り起し、パーコレーション転移の制御技術とその評価技術を20数年前開発した。
日本化学工業協会から賞を頂いたこの技術は、技術の伝承がまったくできていなかった典型的な例だ。コンピューターによるシミュレーションと帯電現象の科学的解明に努力し古い特許を見直したところ、重要な技術を発見できた。
科学の問題解決プロセスは真理を追究しそれを明らかにするのがゴールであるが、技術の問題解決プロセスは自然現象を活用できるように、それをいかにうまく機能させるか、がゴールになる。すべての自然現象が科学で解明されているわけではないので、技術ではしばしばその機能実現方法がブラックボックスになってしまう場合がある。
これを科学の力でリヴェールする技術開発をリバースエンジニアリングというが、企業の技術開発で採用されているその過程で科学の力不足をしばしば感じてきた。その分野の有識者に尋ねても不明だったので明らかに科学の力不足である。
科学で解明できない技術では巧みなヒューマンプロセスの成果によるものが多い。ノーベール賞を受賞したiPS細胞を作りだすヤマナカファクターは、テレビ放映されるまでその発見方法がブラックボックス化されていた。
テレビで放映されたその方法は、科学の常識から外れた24個の遺伝子を細胞に取り込ませようとした大胆な実験とあみだくじと同様の消去法によるヒューマンプロセスだった。
科学は知の体系であり、誰でも利用できる公開された権威ある情報も豊富だ。しかし技術については特許と製品、リタイアした技術者からその情報を得る以外に合法的な方法は無い。中には職人により生み出された技術もあり、このような属人的要素が強い技術ではその開発した本人が技術そのものとなる。
科学で実現された技術では厳密なロジックで真理に到達でき自然現象の活用方法をリベールできるが、ヒューマンプロセスによる技術では先端の科学的成果を集めてもうまくゆかない。そこで技術の伝承が重要になってくる。
(注)絶縁体である酸化第二錫を写真フィルムの帯電防止層として活用した技術。酸化第二錫にインジウムをドープすると高い導電性を持つようになる。これは透明導電膜ITOとして有名で、この特許が出願された頃から研究が始まっている。特許では酸化第二錫ゾルとして塗布液を作成しているが、これはナノオーダーの超微粒子が金魚のウンコのようにつながった繊維状の物質が分散したコロイド溶液で、この溶液に高分子を分散してPETフィルムに塗布すると光学的に無色透明な薄膜になる。しかしパーコレーション転移が起きにくく40vol%以上添加しても導電性が出ないのでインチキ特許とみられていた。ゴム会社から写真会社に転職した時にライバル特許を過去にさかのぼり整理しこの特許を見つけたが、ライバル会社の最初の特許ではこの特許を否定し結晶性酸化スズが良いというひどい特許が出願されていた。実は1980年代のセラミックスフィーバーで結晶性酸化スズは絶縁体であることが証明され、その酸素欠陥が増えてきて非晶質になると半導体になる科学的実験結果が報告されている。インジウムをドープすると正孔が増えるので導電性になる。特公昭35-6616の実施例に書かれた酸化スズゾルを科学的に分析すると、わずかに構造水を含んだ非晶質酸化スズが生成しており、1000Ω程度の導電性物質であることが都立大との産学連携研究でわかった。この程度の導電性があれば、パーコレーション転移シミュレーションで10の8乗Ω程度の薄膜を製造できることが示され、分散しやすいために転移が起きにくいゾルをいかに転移させるかと言う問題になる。転移を制御する因子を探すためにわずかなクラスター生成を評価できる評価技術が必要と考え福井大学客員教授時代に青木幸一教授と開発し、その評価技術を用いてコンビナトリアルケミストリーの手法で18vol%程度で転移を生じる条件を見出した。
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昨日高純度SiCの合成に初めて成功した時の不思議な体験を書いた。STAP細胞はその再現が困難であったが、このSiCの合成はロバストの高い技術として完成し、現在もゴム会社で事業として継続されている。
無機高分子と有機高分子の均一混合について、高分子科学をご存じの方はSTAP細胞と同様の違和感を感じられるかもしれない。さらに、それから合成された炭化物前駆体の特殊な熱処理プロファイルが見つかったプロセスが神がかり的だったことは、実験に成功した本人もびっくりしているくらい科学から逸脱している。
iPS細胞の誕生もこの高純度SiCの成功に近いところがある。しかし両者共通しているのは、勘や運だけで成功しているのではなく、その実験に至る過程には綿密な戦略があり戦術遂行過程で遭遇した現象を大胆に受け入れている点である。
ゴム会社に入社した時先輩社員から、この会社は科学的なプロセスを踏まず勘(K)と経験(K)と度胸(D)で開発が進められる、と自嘲気味に教えられた。
ところで、科学が成立する前の時代に行われていた技術開発では、科学が存在しなかったので経験(K)の積み重ねが重要であったと「マッハ力学史」に書かれている。
だから経験を重視した技術開発は人間本来の営みだから自嘲気味になる必要は無い。経験が積み重ねられたある日にひらめきがあり実行したらうまくいった、この経験の積み重ねが科学成立以前の技術開発の方法、と同書に説明されているので、勘と度胸もマッハに認められた技術開発を成功させる重要な因子である。
ただ大切なことは、マッハ力学史に書かれた順番は、経験が先にあり経験の積み重ねられた結果ひらめき(勘)が生まれ、思い切って実行(度胸)して新技術を生み出しているという流れだ。
経験が次の世代に伝承されれば、経験の組み合わせを見直す動きも出てくるだろう。すなわち戦略を立ててKKDを実行した人物もいたはずである。ガリレオガリレイなどはその代表者かもしれないが、マッハ力学史にはここまで書かれていない。
勘が先行するKKDはいただけないが、経験を重視し、科学的に立案された戦略に基づくKKDの技術開発は、新しい科学のシーズを見つけるためのヒューマンプロセスである。
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