特殊な構造をした半導体微粒子を絶縁オイルに分散すると電気粘性流体(ERF)ができる。1年以上前にこの欄でその開発の様子を書いたが、このテーマを担当するきっかけとなったのは、ERFをゴムに封入して用いたときにゴムの添加物がERF中に抽出されて增粘する、という問題が発生し、その解決方法が見つからなかった時だ。
このような問題は界面科学の問題である、と科学の知識がある方は現象を見てアイデアを思い巡らす。ERFの開発を推進していたメンバーもその様に考えて市販の界面活性剤を科学的に分析しながら增粘を抑える対策として検討を進めた。しかし、增粘を抑える界面活性剤が見つからなかったので、界面活性剤では解決できない、という証明を沿えて、それ以外の対策方法の探索を進めていた。
一人で高純度SiCの開発を続けていた立場では、このようなときにすぐにネコの手として引っ張り出される。そしてじゃれる程度の仕事を手伝うことになる。企業で研究開発を担当された方はこのような立場を理解できるのではないかと思う。じゃれているだけではつまらないので、アンダーグラウンドで独自のアイデア実験を進めたところ3日間で解決策が完成した。
ところがその解決策は、プロジェクト正規メンバーが不可能という結論を出した方法だった。すなわちERFの增粘を抑える界面活性剤が見つかったのだ。それも否定されていた構造に近い材料だった。納期が迫っていた開発だったので一応採用されたが、一部のプロジェクトメンバーから反感を持たれたのは確かである。
その結果ゴム会社を退職することになるのだが、科学的な方法で進める研究開発で陥りやすい否定証明については、イムレラカトシュという哲学者が「方法の擁護」という著書の中で、科学的方法で完璧にできるのは否定証明である、と述べている。
すなわち、できない理由を科学的に証明することは易しいのである。技術開発を科学的に解析しながら進めていて失敗が続くとこの罠に陥る。技術開発では「モノ」を創りださなければいけないのだが、頭の良い人ほどこの罠にはまる。この罠にはまらないような研究開発を進める方法の一つが弊社の研究開発必勝法である。失敗続きで家族に迷惑をかけているが、今夜は必ずおいしいオカラハンバーグを完成させる。
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先日12月6日付けの産経新聞の生活欄に「肉団子をふっくらさせるコツ」というのが載っていたので、昨日おからを紹介させて頂いた。水だけを入れた場合とおからを使用した場合とでは栄養価が異なる。また、1個あたりのカロリーも新聞に紹介された方法よりおからを使用した方が下がりヘルシーな肉ダンゴとなる。歯の悪い老人食としては新聞に紹介された肉ダンゴよりも柔らかくヘルシーである。
今週紹介したように肉ダンゴはうまくできたが、肉ダンゴを大きくしたハンバーグになると難しさは数倍になる。すなわちおからに水分が多量に含まれているので焼き上げたときに密度が下がり、ハンバーグの食感が失われる問題と、ダンゴと異なり大きくなるので少々焼きづらく調理の難しさという新たな問題が発生した。
肉ダンゴの配合に近い処方でもハンバーグ形状のものはでき、味覚にうるさくない老人にはそれで十分かもしれない。ところが鍋種の場合には柔らかさをホクホク感でごまかせるが、ハンバーグは食べている間に温度が下がり、何かスポンジを食べているような食感になる。牛スジをダシにして作ったスープでおからを処理しても、この食感のために倍増した味覚が生きてこない。食感の重要性を改めて認識した。
ところが食感までおからを使用して制御しようとすると難易度が高くなる。現在モスバーガーレベルを目標に開発を続けているが、この開発で最も重要なのは毎週土曜日の食卓がおから料理となる家族の理解である。この2ケ月我が家の食卓は毎週おからハンバーグである。このような状態になると食感よりも味を飛躍的に向上させる技術を導入した方が良い。
これは研究開発と同じで、ゴールを他社並にして開発しているとそこそこの製品しかできないが、革新的な新たなコンセプトで飛躍的なイノベーションを行い、ダントツトップを狙った開発を行うと多少難有りでも商品にまとめ上げることができれば市場に受け入れられるのである。研究開発を理解していない女性議員がスーパーコンピューターの開発で「目標を2番にしたら」と発言したのは有名であるが、市場をコントロールできる立場の企業であればそのような開発でも許されるかもしれない。
しかし、大抵の日本企業はダントツトップを狙う研究開発をしなければ市場で生き残れない時代である。目標設定が企業の生存を左右する状態で、ほとんどの日本企業は研究開発を続けなければいけない。しかしバブル期にこれを忘れた企業も多く、なかなかバブル崩壊から立ち直れなかった。自分たちの技術を乗り越えるだけでなく、否定するぐらいのイノベーションが日々の研究開発で求められている。
おからで実現できた肉ダンゴをふっくらさせるコツをすてるアイデアがおからハンバーグの開発に必要だ。おからを使った場合には、おからに含まれる水分のためにどうしてもふっくらとしたハンバーグになってしまう。またハンバーグにはタマネギを入れるので水分がさらに多くなる。従来の発想を破壊するようなアイデアが無ければおからハンバーグの完成は無い。新たな気持ちで明日の夕食の処方アイデアを練っている。果たして明日家族の感動した顔を見ることができるのか。失敗した状況を考えるよりも成功したときの喜びを期待することが研究開発のコツである。
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おからには、水分が80%以上タンパク質が5%も含まれており滋養豊富のため腐りやすい。冷蔵庫保管で2日が限度とも言われている。おからは豆腐製造の際に大量に生成する産業廃棄物でその活用法が無く問題となっている。過去にバイオプラスチックとして検討された経緯があるがあまり良い材料ができなかった。
ミドリムシのようにパラミロンという1種類の多糖類が含まれているならば活用しやすいが、おからに含まれる多糖類は3種類以上見つかっている。すなわち工業材料として使用するには精製しなくてはならない。ミドリムシのように簡単な処理で50%の高い収率でパラミロン1種類をはき出してくれる便利な資源ではない。
工業材料として有望なミドリムシは、現在ユーグレナという栄養補助食品として会社の株価が上昇するくらいに成功しているが、おからこそこの路線で販売すべき材料と思う。「豆腐の妖精」とか「白の恋人」、「大豆から生まれたシロと色の無い繊維の巡礼の旅」とか名前をつければ、ユーグレナよりも雰囲気は良い。食べられる大豆が原料である。ユーグレナはミドリムシをそのまま言い換えただけである。肥溜めでも育つようなミドリムシに高いお金を払って飲むよりも豆腐の妖精のほうが後味が良い。
おからの繊維素は、お通じをよくするのでたまに卯の花を食べると良い、と亡き母に教えられた。子供の頃、朝早く近所の豆腐屋へ豆腐を買いに行くときには、どんぶりと大きななべを持たされた。豆腐屋に行くとどんぶりに豆腐一丁を入れ、なべには家族で食べるには十分すぎるぐらいのおからを無料で山盛り入れてくれた。
豆腐屋のオヤジはその山盛りに盛られたおからの上にどんぶりを埋めて「ありがとう」と言ったが、産業廃棄物の処理に困っていたのだから、心からの御礼だったのだろう。ご近所にはどんぶりを持たずに大きな鍋だけで来る人もいた。その店のおからはすべて有効利用されていた。
家に帰ると母はおからの半分を庭の草木の肥料として撒いていた。残りの半分は、おいしい卯の花に変わった。実家の草木もおからで育った。おからを肥料としたイチジクや柿の木は毎年我が家の家計を助けるほどの実をつけていたが、柿は残念ながら渋柿で、毎年焼酎で渋抜きをして食べた。
中学生の時に家を改築した。その時庭は半分になり、イチジクの木も柿の木も無くなった。近所の豆腐屋はその2年前にできたスーパーマーケットが原因で廃業に追い込まれた。それとともに我が家のメニューからおいしい卯の花が消えた。
1年ほど前から「そめのやーのトーフです~」という歌とともにミニバンの豆腐屋が毎週金曜日事務所の前に来るようになった。おからは250g60円で販売されている。高いように思われたが、この値段でも結構売れるそうである。たまに売り切れのことがあった。その時おからが売り切れになるのか、と尋ねたのがきっかけになり、我が家のために一袋だけ必ずとって置いてくれるようになった。こうなると買わないわけにゆかないので、おから食品の研究を始めた。
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昨日まで豚ダンゴの作り方を書いたが、ヘルシー指向の方は豚のミンチの代わりに鶏のミンチを使うと良い。但し、鶏肉を使っても、このおからを使用したダンゴはつくねのように硬くならず、ホクホクとした柔らかさの特徴を失わない。
配合は豚肉を鶏肉に変更するだけではだめで、ニンニクの代わりにショウガとシソの大葉10枚を使用する。すなわちおから250g、卵2個、鶏のミンチ350g、小麦粉10-20g、塩小さじ1杯、ショウガ少々(チューブ入り7cm程度)、シソの大葉10枚をみじん切りにしたもの、コショー適量、粗挽きコショー適量、味の素適量である。
おからをブレンドするところまでの手順は、豚ダンゴと同じである。鶏ダンゴの混練のポイントは、シソの大葉のみじん切りを加えるタイミングである。シソの大葉のみじん切りは、それ以外が均一に混練された段階で加える。すなわち混練過程でシソの大葉が受けるダメージを最小限にしたいのだ。
この考え方はガラス繊維補強樹脂を混練するときにも応用されている。すなわちガラス繊維の供給は、二軸混練機の中間当たりから連続繊維の形態で供給し、繊維を樹脂に分散するスクリューのセグメントにはニーディングディスクなどの剪断力の高いスクリューを使用しない。伸張流動で繊維を分散するようにスクリュー設計している。
鶏ダンゴ程度では、この手順で問題にならないが、ガラス繊維補強樹脂ではガラス繊維にダメージを与えないような混練の仕方が品質問題を起こすことがある。すなわち繊維の分散不良である。見かけ上均一に分散しているように見えてもL/D40前後の二軸混練機の中央からガラス繊維を供給しても十分な分散はできない。しかし、分散効率を上げるために剪断流動を優先した場合には繊維が受けるダメージが大きく、繊維の補強効果が落ちてしまう。
ガラス繊維が混練でダメージを受け補強効果を失う様子は、鶏ダンゴでシソの大葉を最初に添加してみるとわかる。できあがった鶏ダンゴの味は、ショウガの香りが強く、シソ味が無くなっている。鶏ダンゴはシソ味が無くなってもおいしいが、繊維補強樹脂では弾性率が低下し使い物にならなくなる。この添加タイミングでシソ味が少なくなる現象から混練でかなりの剪断力がかかっていることを理解して欲しい。
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おから250gをボールに入れたら、まず料理用のヘラで押さえつけて、表面を平らにならす。この操作だけでも、卵-小麦粉-ニンニクの系はおからの中に分散する。これは、東工大扇沢教授の研究論文にも書かれている。すなわちブレンドしたポリマーをホットプレスすると分散が進行するのである。この現象は混練不十分なコンパウンドが、成形過程で品質問題を引き起こす原因を説明している。成形過程でも混練が進行するのである。だからコンパウンドの混練では成形過程でさらに混練が進行しないレベルまで混練する必要がある。
表面を平らにならし全体に十分に圧を加えたら、へらで5等分程度にしてボールの片側へブレンド物を寄せ集める。その後寄せ集められた塊のてっぺんからヘラで力を加えて、塊を崩しつつボールの中で再度平らな平面を作る。この操作を何度も繰り返すとおから-卵-小麦粉-ニンニクの系の混練が進み均一になる。かなりの高粘度であるがこのような操作にすると、それほどの力を加えなくとも混練を進めることができる。カオス混合もおおよそこのように効率的に混練を進めていると思われる。
おから-卵-小麦粉-ニンニクの系が均一になったら、この系の上に豚肉と豚の背脂をのせ、塩、コショー、味の素の順にふりかける。その後豚肉の系だけを軽くヘラで突っつきながら調味料を豚肉の中に分散させる。この操作だけでもできあがる豚ダンゴの味が変わるので面白い。すなわち混練操作では添加順序もできあがるコンパウンドの物性を支配している。タンブラーで配合物を固体分散し、そのまま混練しているコンパウンダーを見かけるが、それでは良い物性のコンパウンドができない処方があることを認識すべきである。
豚肉の中に調味料を分散できたら、ヘラで豚肉をボールの中で平らに引き延ばす。この時ボールの中は、おから-卵-小麦粉-ニンニクの系の層と豚肉-豚肉の背脂-調味料の層が分かれた状態になっている。この状態になっているところへ粗挽きコショーを振りかける。その後5分割しボールの片側へブレンド物を寄せ集める。その後寄せ集められた塊のてっぺんからヘラで力を加えて、塊を崩しつつボールの中で再度平らな平面を作る。この操作を何度も繰り返す。
この操作を行っているときに粗挽きコショーの粒が、次第に均一に分散されてゆく様子を観察することが出来る。ボールの片側に寄せ集め、押しつぶす、といった単純な操作の繰り返しだけでも混練が進むのである。全体が均一になったところでダンゴを作るのだが、ダンゴは直径1.5cmから2cm程度が食べやすい。この時十分に圧縮してダンゴを作ることがコツである。カチカチになるまで圧縮しても大丈夫である。鍋の中で柔らかくホクホクの状態になる。
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鍋がおいしい季節になった。おからと豚肉で作る豚ダンゴの鍋はいかが。ホクホクして柔らかく、老人食として最適のように思う。特に歯が悪くなり肉を食べられなくなったお年寄りには好まれると思う。また、おからには豆腐の栄養素がそのまま入っている滋養豊富な食材で、さらに繊維も含まれるのでこの食材で繊維不足を解消できる。
鍋の食材は、豚ダンゴ以外は自由である。また水炊き状態から鍋を始め、ポン酢で具を食するスタイルでも良いし、鍋に赤だしをいれて味噌仕立ての鍋にしても良い。どのようにしてもこの豚ダンゴにはよく合うし、良いダシが出る。鍋のレシピは自由だが、豚ダンゴについては、老人用に適した配合を公開する。鍋に入れて崩れにくく、ツクネのような硬さではなく、ホクホクして柔らかい老人でも食べられるダンゴの作り方である。
この豚ダンゴは、1年かけて開発したおから食品シリーズの一つである。そこそこおいしいレベルの以下の配合を最近開発できた。おから250g、卵2個、豚のミンチ300g、豚の背脂30g(ミンチ加工)、小麦粉10-20g、塩小さじ1杯、ニンニク少々(チューブ入り5cm程度)、コショー適量、粗挽きコショー適量、味の素適量である。この配合で6人分前後の豚ダンゴができる。
まず、卵2個をボールに入れ、黄身と白身が均一になるように良く撹拌する。均一になったら、卵を激しく撹拌しながら小麦粉を10g以上30g未満(20g前後が好ましい)少しずつ加える。この時、卵を撹拌しないで小麦粉を20g前後ボールに入れて撹拌するといった料理番組でやっているような方法でしてはいけない。
その方法でも小麦粉を均一に分散できたように見えるが、その様にして小麦粉を添加した場合に注意深く観察すると小さなダマダマ(凝集体)が残っている。小麦粉を如何に均一に卵に分散できるかがまず大切なノウハウになる。小さな凝集体は豚ダンゴの強度を低下させ、鍋に入れたときに豚ダンゴが崩れる原因になる。
ここでも高分子の混練技術の重要性を垣間見ることができる。すなわち高次構造に硬い大きな構造が残っていると高分子の靱性を低下させる、という線形破壊力学の教科書に書かれている現象である。崩れにくく、ホクホクして柔らかいダンゴに仕上げるにはこの段階が重要になる。
小麦粉を均一に分散した卵にニンニクを少々添加して激しく撹拌し、ニンニクを均一に分散する。そこへおから250gを入れ、ニンニクと小麦粉を均一に分散した卵と混ぜるのだが、ここで昨日まで書いた混練技術の知識が要求される。カオス混合の考え方を導入して混ぜるのである。料理用のへらが便利だが、オタマでも何とか使える。(明日へ続く)
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加硫ゴムを扱う会社では、コンパウンドを自前で設計しているケースが多い。例えばタイヤ会社でコンパウンドを外注している企業は皆無だ。しかし、樹脂成形メーカーはコンパウンドを外注している企業がほとんどである。
それぞれにメリットデメリットがあるが、汎用樹脂のような高い混練技術が要求されないコンパウンドでは成形工程と混練工程が異なる企業の分業体制でもかまわないが、高度な混練技術が要求される成形体、すなわち成形体の物性が混練技術で左右されるようなケースでは、混練工程から成形工程まで一貫生産した方が好ましいし、差別化技術となる。
タイヤという商品は、混練技術も成型技術も高度なレベルを要求される商品である。その品質を維持するために両者の研究スタッフを抱えていなければ事業を展開することが難しい。しかしポリエチレン容器の成形業者は、成形機を備え付けて外部から安価なコンパウンドを購入すればいつでも事業を始めることができる。すなわちタイヤ事業は技術的な参入障壁が高い事業だが、汎用樹脂の射出成形事業は技術の参入障壁が低い事業だ。その結果、後者では製品の価格競争となるが、前者では市場の価格決定権は技術の高い企業にある。
また、複合電子写真機の開発担当となって知ったことだが、成形業者は樹脂のサプライヤーの技術サービスに依存しているケースが多い。成形業者のコア技術は金型技術にあるようで、他の成形業者が真似できない安価で高機能な射出成形体を製造することがミッションとなっているようだ。その結果、樹脂成形業界はコンパウンダーが成形業者の技術をサポートできる程度の研究開発スタッフを抱えている。
5年間日本のコンパウンドメーカーと交流して驚いたのは、成形事業者を如何に納得させるのか、という技術を一生懸命開発している。本来樹脂を丸め込んでうまく混練するのがコンパウンダーのミッションのはずだが、多くのコンパウンダーは、如何に現在供給している樹脂をそのまま使わせるのかという技術開発に終始している。少し混練条件を変えるだけでも性能が上がる可能性があっても現在の混練条件を維持しようとする。
数t/時間の量産技術で市場に供給しているのだから一人一人の顧客に対応出来ない、というのがその理由のようだが、その結果混練技術開発の進歩が止まったようだ。このような市場に新たな混練技術で参入したらどうなるか。特にABSやPC/ABS、TPEの分野では2成分以上のポリマーをブレンドする必要がある。
例えば、二軸混練機を改造しカオス混合可能な装置で混練したPC/ABSでは、ナノオーダーの均一な高次構造が観察されたが、市販品は構造のサイズが10倍以上、あるいは100倍以上異なっている場合もある。またゴム相の分散状態も市販品は不均一である。コンパウンドの高次構造が新しい混練技術では既存の商品のそれと明確に異なり、樹脂のレオロジー特性も異なっている。このような技術を導入したコンパウンダーが市場に現れたら、既存のコンパウンドメーカーは今までの混練技術に対する考え方を見直すはずだ。
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30年以上前にゴムの混練技術を習得し、8年程前にラインから外されたおかげで樹脂の混練を研究できる機会を得た。ポリエチレンとパルプとの複合材料やレンズ用ポリオレフィン樹脂の混練、PPSとナイロンを相溶させる新技術の開発、この技術を用いた射出成形可能な再生PET樹脂の開発、他社のポリマーアロイで発生したクレーム対応および供給元変更に伴う現場指導などじっくりと混練技術の研究をしたかったが、PPS樹脂の混練を担当して以来研究時間は無くなった。
ラインへ戻され電子写真用キーパーツ開発や外装材開発を担当することになった。落ち込まなくて良かった、と思ったのもつかの間、落ち込みたくなる状況の連続だった。外部の樹脂メーカーの混練技術の未熟さに何度も泣かされたのだ。
例えば前任者から引き継いだPPS系の材料を扱った開発では外部からコンパウンドを調達する企画で業務が進められていた。満足な成形体ができないのでコンパウンドメーカーの技術者を呼び説明を聞いたところ、コンパウンドメーカーがコンパウンドの問題ではなく押出成形技術の問題、などと言うので議論が進まない。その結果、コンパウンドを内製化することになり、短期間にプラント建設しなければならない悲劇となった。
幸い混練プラントの技術を持った中小企業を知っていたので窮地を脱したが、常識はずれの開発で体重が5kg減少した。単身赴任で不規則な食生活となり5kg体重が増えたが、東京に戻る頃にはこの開発のおかげで元の体重になっていた。
ゴムの混練と樹脂の混練の両者を経験しわかったことは、ゴム屋と樹脂屋で混練に対する哲学が異なる点だ。PPS系の材料開発ではコンパウンドメーカーの技術サービスから素人には分からない世界です、と言われたが、確かに素人には理解できない対応を技術サービスはしていた。
当方が成功に至るアドバイスをしているのにそれを素人発言として却下してきたからだ。ゴムを混練してきた経験からとてもゴールにたどり着けない、と思いアドバイスしたのだが、聞き入れてもらえなかったので自分でコンパウンドを生産することにしたのである。
連続式混練機を中心にした樹脂の混練技術は、ポリエチレンやポリプロピレンに色材を分散している程度ならば十分な技術であるが、パーコレーション転移を制御して半導体樹脂を製造しようという高度な材料設計には対応出来ていない未完成の技術である。退職後改めて昔の混練技術も含め見直しているが、樹脂の混練技術には生産システムも含めイノベーションが必要である。
例えば、成形工程で発生しているテープ剥離のような品質問題は混練技術で解決した。これは長らく成形工程の問題とされていたのだが、コンパウンドメーカーが指導を依頼されたのでそれに応えたところ問題解決した。このような成形技術の問題に押しつけずコンパウンドの問題として受け止め誠実に混練の技術革新に励んでいるコンパウンドメーカーもある。
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ケミカルアタックは、樹脂に樹脂を膨潤させる油が付着したときに、樹脂の強度を著しく低下させる品質故障の呼び名である。樹脂に油が付着しても、その油が樹脂を膨潤させなければ樹脂の強度低下は起きない。しかし、樹脂に添加剤が多く混練されている場合には、その添加剤が油を樹脂内に導いたり、あるいは油が樹脂内の添加剤を吸い上げ樹脂強度を低下させる場合もある、と聞いている。
油が樹脂内の添加剤を吸い上げるという表現をおかしい、と感じられるかもしれないが、添加剤の溶解性が樹脂よりも油で高くなる場合(注1)にその様な現象が発生する。SP値というパラメーターがあり、その現象の指標として用いることができる。メカニズム不明の場合も含め樹脂のケミカルアタックの問題は構造用材料として樹脂を用いるときに致命的な品質故障となるので成形業者にとって深刻である。
ケミカルアタックによる品質故障を防ぐには現場における油の管理が重要である。これを徹底して行う必要がある。少なくとも成形現場でケミカルアタックの原因を完全に取り除いておかないとケミカルアタックの品質問題は解決が難しくなる。例えば混練技術が未熟な企業のコンパウンドでは、樹脂の混練が不十分なために射出成形体が不均一になりやすく、その結果部分的に強度の低下した成形体ができることがある。例えば成形体にボスがあるケースで、ボスの部分にスが入り強度低下が起きる、ということを経験した。
この問題では、特定ロットのコンパウンドでペレットにスが入っており、混練時に高温度に曝されコンパウンドに含まれる成分が分解した可能性が疑われた。ペレットの電子顕微鏡写真や熱分析、粘弾性解析など手元にある高分子の評価技術で解析したところペレットの生産時に温度異常があった可能性が高い、という結論が出た。そこでコンパウンドメーカーの中国の工場を監査したところ制御盤の指示温度の幾つかが設定温度よりも高くなっており、20℃以上も高いゾーンがあったので、解析結果を裏付ける証拠写真を撮った。また、その時生産されていたロットの一部のペレットにもスが入っていた。
ところが、混練現場で混練条件が管理されていない証拠写真を見せて樹脂メーカーと日本で議論しても成形現場のケミカルアタック説で押し切られた。とことん議論しても平行線となり、ペレットに「ス」が100%入っていないコンパウンドを納入する、という条件を認めさせて議論は決着した。このように誠意の無い樹脂メーカーの場合(注3)には、すべての原因を顧客の責任にする傾向があるので成形業者は注意が必要だ。成形業者は怪しいと感じたら混練現場を監査する必要がある。樹脂の混練技術は、2世紀近い歴史を持つバンバリーとロールで混練されるゴム材料に比較して、開発の歴史は50年弱(注2)であり、現在も新しい連続式混練機の提案がなされている。
(注1)このような場合、系の自由エネルギーを検討する。SP値もフローリーハギンズのχも熱力学のパラメーターであり、このような現象解析で用いられる。しかし、低分子のSPは理論と合う場合が多いが高分子では50%程度の信頼度である。高分子のSPについては溶媒から用いた値を用いる方法もあり、この方法で求めたSPではよく一致する。
(注2)連続式混練機の発明は100年以上前とも言われているが、連続式混練機が発明されてもゴムの混練にはバンバリーとロールが使用された。
(注3)コンパウンドメーカーとケミカルアタックについて議論した話を引用するのは3回目だが、サラリーマン生活において悔しい思い出の一つである。誠実かつ真摯に対応して100%完璧な白黒決着をつけることができるほど高分子の分析技術は現場まで普及していないし、学術的にも難しい問題である。このことを高分子技術者は知っているので誠実に議論すると灰色の結論になる。その結果、図々しい方の意見が通る、というのがケミカルアタックという故障である。この体験では、成形体の引張強度が部位によって大きくばらついているデータを見せても、それは正確なダンベル型のサンプルで測定したデータではない、というへりくつをつけられた。他のロットに比較し分解物が多い、という証拠として熱分析結果を見せても、ベースラインがおかしいだけだ、と押し切られた。最後に混練現場で設定温度よりも高い温度で混練されていた写真を見せた場合には、樹脂メーカーの担当者も少し驚いたが、ケミカルアタックの問題が起きたロットではない、と否定された。会議の終わり際に、それでは、このスのいっぱい入ったコンパウンドで正常だと思っているのか、とケミカルアタックの疑いがあった成形体に用いたコンパウンドそのものを机の上に出して見せたら、「ス」の無いコンパウンドを納入します、となった。顧客を馬鹿にしたような話であるが、これは実話である。ちなみに成形現場では油の管理基準があり、十分に管理された状態だった。このコンパウンドメーカーの混練技術は、技術サービスとの議論や現場の状況からゴム会社のそれよりも低い、と判断された。
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高度経済成長時代と異なり、サラリーマンは大変な時代である。管理職の階層も簡素化された企業が多い。簡素化されても会社の先行き不透明感からカオス状態のプレーイングマネージャーもいるかもしれない。多くの階層があった状態が、失われた20年の間に圧縮され折り曲げられて、経営者層管理者層担当者層の区分けがよく練り上げられた組織体制に変貌していった。
混練にも層流状態が折り曲げられ、分配混合と分散混合をうまく組み合わせて進行するカオス混合がある。カオス混合は餅つきやパイ生地練りに見られる混練方法である。例えばオープンロールによる混練ではカオス混合を実現できる技があり、効率良く均一分散と微細化を進めることが可能となっている。
オープンロールでは、ロールにゴムを巻き付けて運転するだけでも狭いギャップのロール間を通過するだけで高い応力がかかり、分散混合で微細化が進行する。ここにナイフを用いた返し作業をうまく行うとカオス混合となるが、このナイフ作業には高いスキルが要求される。30数年前このナイフ作業で悪戦苦闘し技を1週間で習得した体験がある。
この悪戦苦闘のきっかけを与えてくれたのは当時の指導社員で、カオス混合を機械で連続的に実現する装置を考えると混練に革新をもたらすと教えてくれた。カオス混合とはどのようなプロセスなのか勉強するためにオープンロールの技を鍛える必要があったのだが、練習の効果が出てナノオーダーで樹脂が分散した樹脂補強ゴムを開発することができた。TEMで撮影されたナノオーダーの海島構造を見たときに感動した。
10年ほど前に偏芯二重円筒で発生するカオス混合流に関するシミュレーションの論文が発表されている。偏芯二重円筒の装置以外にも写真会社から二軸混練機に取り付けてカオス混合流を発生させる装置が実用化され5年前に特許出願済みである。この装置を用いるとPPSと6ナイロンを相容させることが可能となる。
最近混練分野においてカオス混合に関心が高くなっている。混練は2世紀近い技術開発が行われてきたが、ナノテクノロジーの生産性を改善する目的で研究開発すべきではないだろうか。もしこの技術に興味のある企業があれば、研究のためにご協力をお願いしたい。新たな構造を考案したのでそれを実験で確認したいのだが弊社には混練機が無い。実用性のある研究テーマです。
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