昨日、抵抗(R)成分のクラスターが増加すると低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値が増加する現象について数値シミュレーションを行ったことを書いた。この現象とその理解は、帯電現象を機能として活用している電気粘性流体用の粉体や、レーザープリンターや複写機部材の材料設計技術に転用できる。
91年にゴム会社から写真会社へ転職したときに最初に帯電防止技術を担当したのは幸運であった。実は、転職直前ゴム会社で半導体用高純度SiC技術についてS社とJVを立ち上げの傍ら電気粘性流体用の粉末開発を手伝っていたからである。
電気粘性流体用粉末の開発テーマでは、技術者の心眼で発想した3種類の機能性粉末を開発したが、実際のところ電気粘性流体の科学的な意味を当時充分に理解していなかった。また、特許情報も含め重要文献をお手伝い担当者には見せて頂けなかったことも幸いした。
過去の重要文献等見せて頂けなかったおかげで自由な発想ができ、1.コンデンサー分散型粉末、2.傾斜組成機能粉末、3.超微粒子分散型複合微粒子という3種の独自の粉末を開発することができた。おそらく開発メンバーはこれを期待していたのだろうと今はこの時のことを楽しい思い出としている。
この電気粘性流体の3種の粉末をどのように発明したのか。それは、弊社の問題解決法を用いたのである。弊社の問題解決法では、現象として起こりうる場合と起きない場合の2つの事象を必ず考える。すなわち全ての事象を考える容易な方法は、Aという命題とその命題対して全否定のAを考える方法である。それにより、2と3の粉末の設計が自然と浮かび上がる。1については3においてコンデンサーが分散したら面白い、という発想から出てきた。
言葉遊びのような形で発想した技術であるが、実際に粉末を合成してみたら、当時存在したどのような粉体よりも性能の良い電気粘性流体ができたのである。科学的で無くとも機能を追究した言葉遊びで技術というものを創り出すことができるのである。
人生とはまことに奇妙で、定年退職前の5年間にカラーMFP用中間転写ベルトを担当する機会が巡ってきた。このベルトは半導体ベルトで、トナーを静電気力により感光体から引き取る役目をする。このベルトの材料設計では、電気粘性流体の開発経験やインピーダンスの評価技術など帯電防止の材料設計技術をすべて動員したが、できあがったベルトは凝集粒子分散型材料で、この凝集粒子の凝集状態をプロセスの中で制御する、少し難易度の高い混練技術と成形技術を使用している。
*弊社の技術アイデアを生み出す問題解決法に関心のある方はお問い合わせください。
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高分子材料の力学物性についてはゴム会社で勉強した。半導体用高純度SiCを開発したときに、ヒーターの開発なども行ったので電気物性について力学物性と同様勉強していた。しかし、それは無機材料の電気物性である。無機材料では科学的に見えた電気物性の論文と同じような論理で書かれた論文が、高分子材料を対象とした内容であるとなぜか科学的に怪しく見える。
フィルムの誘電率について低周波数領域で異常分散が現れる現象は、すでに報告されていた。高分子の一次構造や不純物により生成するエレクトレットとの関係で論じられていた。どれも仮説としては正しいが、科学的に厳密な説明の成された論文は少ない。
中には抵抗とコンデンサーの組み合わせモデルで説明している論文もある。データをマクロ的に把握するには良いだろうが科学的ではない。これらの研究の中には、科学的な厳密さにこだわって、実験の切り口を工夫した優れた論文もあった。科学的だろうが非科学的だろうが、技術開発を行うときにどれも参考になる。
しかし、フィルムで発生した静電気と、ゴミの付着し始める距離について、交流を用いた評価結果との関係で論じた論文は存在しなかった。「驚くべき結果」が得られたので、特許出願を行ったが、同じ時期にドイツで同様の発明が成されていたことに驚いた。
インピーダンスの絶対値とゴミの付着距離との高い相関関係を科学的に厳密に説明することは難しい。しかし、この現象を技術の発明に生かすために、モデル実験を行った。
仮説は、抵抗(R)の性質を示す成分が増加するとインピーダンスに影響が出る、すなわちRの成分のクラスターが増加すると低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値が増加する、という内容である。この仮説をn個のRと(n-k)個のコンデンサーの接続モデルを用いて数値シミュレーション(注)を行うと、計測結果と同様の低周波数領域で異常分散を示す結果が得られる。
酸化スズゾルを分散した薄膜をPETやTAC、PENに塗布して実験を行ったところ、数値シミュレーションと同様の結果が得られただけでなく、パーコレーション転移の検出にインピーダンスの絶対値を用いると検出力の高い評価方法ができることが分かった。
低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値がR成分のクラスターのでき方に大きく影響を受けること、そしてそれがパーコレーション転移の検出方法に使用できることなどは、科学的論理で説明がつくが、それが静電気の現象とどのようにつながるのかは、技術者の心眼に見えても科学的に不明のままだ。
(注)本件は福井大学客員教授時代に青木幸一教授と共同で行った研究で、カナダで開催された国際写真学会で報告した。
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「健康のために吸い過ぎに注意しましょう」と箱の横に小さく書かれている。本来タバコは吸わない方が良い。科学的にはよく分からないが、何故かフィルムの低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値とタバコの灰付着距離との高い相関が確認されたので、タバコの灰付着テストを廃止した。
同じ時期にAGFAから、発振回路を用いたフィルムの抵抗測定法とその方法で評価した写真感材に関するパラメータ特許が公開された。発振回路のRに相当する部分にフィルムをセットし、静電容量を変化させながら共振点を探す測定法である。共振点における静電容量とRを求め、そのRをフィルムの体積固有抵抗とする巧みな方法だ。
この測定法で得られるRの値は、フィルムのインピーダンスを測定したときにコンデンサーと抵抗でつくるモデルを工夫してやると同じ値が得られる。AGFAの特許はセンサー部分も特殊な形状に設計した治具を使用していたが、市販電極で簡単に得られるパラメーターをわざわざ難しく見せている、と感じた。
ドイツ人のマニアックな発明と言ってしまえばそれまでだが、APSフィルムの五社連合(EK,F、ニコン、キャノン、ミノルタ)から仲間はずれにされたフィルム会社で、似たような発想によりフィルムの新しい帯電防止評価技術を開発していた点を指摘した人がいた。AGFAの特許もAPSで使用されるだろうPENフィルムをうまく権利範囲に含めていた。
しかし、特許のクレームを読むだけではそれがよく見えない。PENは、カラーフィルムに使用されていたTACよりも誘電率が高いので、フィルムのインピーダンスを評価すると少し高めになる。そこに気がつけば特許の本当の出願目的が見えてくる。当方も類似の発明を出願していたので、成立がどうなるか心配だったが、AGFAも当方の特許も成立した。
面白いことに異議申し立ては一件も無かった。特許は権利書である、とよく言われるが、科学と技術の違いを良く心得ていないと発明の真の目的が見えにくい事例である。
<明日に続く>
*本稿のインピーダンス法についてご興味を持たれた方はご相談ください。
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フィルムが帯電した後、帯電電荷はどのようになるのか。帯電したフィルムの電荷が減少する様子は、電荷減衰を評価すればおおよそ理解できる。この電荷減衰の測定法では、単位電荷をフィルムの表面に与え、それが減少してゆく様子を電位の変化でモニターする。この評価法もその回路からわかるように直流的な評価法である。
約20年前帯電防止技術に用いられている評価法を調べてみると、実技評価以外は直流法と分類できる評価法だけだった。帯電現象の可視化技術の評価結果をみると電荷は振動しながら減少している。この結果を見るとフィルムの抵抗を交流で計測したくなる。既製品としてフィルムの誘電率を計測するための電極があったので、周波数を掃引しながらインピーダンスを計ってみた。驚くべき事に、フィルムの帯電防止処理方法により、低周波数領域で大きな変化が現れたのだ。
電気の専門家に相談したところ、その変化と測定法の問題とどちらが大きいのか、と言われた。すなわち100Hz以下の領域には測定ノイズが乗りやすいのだそうだ。その専門家に検出器のシールドの方法の指南をうけ、出前に使う“おかもち”のような金属箱を作った。厳密な測定環境を整え低周波数領域のデータを収集したところ、直流法の評価技術では見えなかったところが見えてきた。
しかし、見えてきた、といっても心眼で見えただけで科学的な説明ができる状態では無い。見えてきた方向でデータを整理してみると、これまでの評価法のどれよりも実技データとの相関が高いのだ。特にJIS法にもある「タバコの灰付着テスト」では、静電気で灰が付着し始める距離とインピーダンスの絶対値とが相関係数1で極めて高い相関を示したのだ。
それまでの直流を用いた評価技術では、実技テストと相関しない場合があったので、必ず何か一つ実技テストを開発初期段階でも行っていた。タバコの灰付着テストは、すいたてのタバコの灰が必要なので、嫌煙ムードの広がる中、実験をやりにくい状況になっていた。会社の消耗品費でタバコを買って実験を行っていたのだが、この実験をたった一人の愛煙家が喜んでいる状況だった。フィルム会社の実験なので大量のタバコの灰が必要だった。
<明日へ続く>
*インピーダンスを用いた帯電防止評価技術についてご興味がございましたら、弊社へお問い合わせください。
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静電気の科学は、進んでいるのか遅れているのかよく分からない分野である。例えば帯電現象が科学的に解明され、その機構も実験結果とともに理論的に説明されているのは金属で生じている現象だけである。このように書くと直感的に不思議に思われるかもしれないが、金属でも帯電するのである。
20年ほど前、武蔵野工業大学で帯電現象の可視化技術が開発された。ピエゾ素子を用いた装置で微小電荷の動きを検出し、コンピューターでその時間変化を記録し可視化しているのだが、残念なのは実験結果を厳密に説明できる場合ばかりではないのだ。評価法は恐らく間違っていないのだろう。しかし測定された現象について全てをうまく説明できない。
測定法の問題では無く高分子材料というサンプルに問題があるのだが、そのような問題があるためかT先生は評価「技術」として説明されていた。科学的に厳密に説明できなくとも、この評価技術のおかげでフィルムの帯電現象を眺める技術者の心眼に自信ができた。そしてそれまで直流を用いて評価されていたフィルムの帯電防止に関する評価技術を見直すきっかけになった。
絶縁性の樹脂フィルムの帯電現象は複雑である。いろいろと現象を眺めていると教科書に書かれているような理想的な電荷の偏りにはなっていないと思われる。その可視化技術の評価結果によれば、帯電した一部の電荷はフィルム内部の中央あたりに長い間いつまでも滞留している。また、表面の単位電荷の拡散は、帯電防止処理がされていても、その拡散速度は意外に遅い。これはフィルムの表面比抵抗の測定で、経験的に一定時間放置してからデータを読まなければならないことと対応している。精度の高い電流計を用いれば電場をかけてから電流が安定するまでの様子を見ることができる。
フィルムの帯電防止処理方法あるいはフィルムの体積固有抵抗が異なればこの測定状況は変化する。そのためフィルムの表面比抵抗は、ISOの規格に従い測定しなければならないが、規格通り測定しているから帯電現象を説明できる評価がうまくできているのか、というとそうではない。科学的には、材料の一特性として規格通り測定されたデータに過ぎないのだ。フィルムの帯電防止に関するこのスペックを用途に応じて変えなければならない原因にもなっている。
(明日に続く)
*フィルムの帯電防止処理に関し、ご相談事項がございましたらお問い合わせください。
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リチウム二次電池の開発は1970年頃から盛んになり、正極活物質材料がいろいろと研究された。正極材料として層状化合物もTiS2やTaS2などが研究された。1980年には、LiCoO2(層状岩塩型構造)が電気化学的手段によりホストゲスト系としてLiを可逆的に出し入れできることが論文に出ている。そしてその論文には、4Vの起電力があることもさりげなく書かれていた。
以上は1980年頃のLiイオン二次電池の科学の状況だが、Liイオン二次電池の実用化は同じ時期にポリアニリンを正極に採用し、ブリヂストンで成功する。すなわち科学的にホストゲスト系のLiイオン二次電池の可能性が示されていたが、技術として最初に登場したのはポリマーLiイオン二次電池である。この技術は白川先生の導電性高分子の発見に触発されてブリヂストンで企画された。
当時のブリヂストンは、世界ランキング6位、国内ランキング1位のタイヤメーカーで企業名もブリヂストンタイヤ株式会社だった。この時故服部社長は将来のブリヂストンの姿としてタイヤも扱うケミカルデバイスメーカーを夢見ていた。創業50周年を記念してCIを導入し、社名からタイヤを外しブリヂストンと改名するとともに、電池、メカトロニクス、ファインセラミックスの3分野を未来の事業を牽引する3本の柱とした。
この3本の柱が何故決まったか。それは、電池についてはポリアニリンのリチウム二次電池が、メカトロニクスは電気粘性流体やラバチュエーターの技術がそれぞれ育ちつつあったからだ。ファインセラミックスは通産省のムーンライト計画が引き金となり、セラミックスフィーバーが起きていたためである。ファインセラミックスについては、研究陣に投げかけられた宿題となった。
さて、ポリアニリンLiイオン二次電池はどのようになったか。研究開発開始から10年の間に事業化され日本化学会賞まで受賞したが、その後事業を中止したのである。企画した中心人物は転職した。何故かという理由はここで述べないが、多くの本に書かれているLiイオン二次電池の歴史にこの技術が載っていないのが不思議である。当時科学としてポリアニリンLiイオン電池の性能は悪いことは分かっていたはずだが、技術として最初に完成できたのは機能発現の設計をやりやすかったためである。技術の成果としてもう少しとりあげても良いように思う。
この電池という分野は混練と逆の意味で科学と技術の違いを理解するために良い対象である。すなわち、混練では科学的に未解明な現象が多いにも関わらず技術として発展しているが、逆に科学的に解明されたからといってすぐに技術が完成するわけではない事例が電池である。見つかった真理ですぐにロバストネスの高い機能を実現できないのである。
このことを経営者に理解せよと言っても無理で、技術者が誠実に真摯に開発活動を行う事によってのみ、経営者の理解が得られる。賞を目当てに企画したのでは良い事業など企画できない。ちなみに当時のブリヂストンの3本の柱の中で30年以上事業が継続している事例がある。学会発表も最低限に抑制し、ただひたすら事業化に向けて開発が進められた半導体用高純度SiCの技術、すなわちファインセラミックスの柱である。当初の立ち上げは課単位であったが、その後一人の担当者で5年間の開発期間を経て住友金属工業とのJVとして事業をスタートした。
*高純度SiCあるいは電池につきましてご相談事項がございましたらお問い合わせください。
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光学用ポリオレフィン樹脂と無秩序性を目指した重合条件のポリスチレンとが混練で相溶し透明になった、という実験事実は、フローリー・ハギンズの理論で説明がつかない。しかし高分子の相溶に高分子の立体構造が関係していることを示す重要な実験事実である。
この実験事実を技術者の心眼で眺めてみると、新しい混練技術の可能性が見えてくる。実験事実は、ポリスチレン樹脂の立体構造をいろいろ変えて重合したら、提灯のような大きな側鎖を持つ光学用ポリオレフィン樹脂に相溶した、という内容である。これを頭の中でイメージしてやると光学用ポリオレフィン樹脂の分子の隙間にポリスチレン樹脂が、スポッと収まっている様子が見えてくる。
この状態と同じ事を混練で実現すれば、光学用ポリオレフィン樹脂と特殊な立体構造のポリスチレン樹脂が相溶したような状況を作り出すことができる。すなわち、異なる構造の高分子をうまくすりあわせて重ね合わせることができれば、相溶できることになる。
もちろんそのような条件で混練してできたポリマーアロイは不安定であるが、樹脂のTgは室温よりも高いので、急冷すれば相溶状態を保持できる。すなわちフローリー・ハギンズ理論のχが大きな樹脂でも混練で相溶させることができ、急冷すればその状態の樹脂を室温で得られるプロセスが設計可能と心眼で見えてくる。ただし、このようにして得られた樹脂は室温でも自由体積部分は運動しているので、混練直後は透明でもやがて失透してゆくだろう。
相溶していた透明な高分子がゆっくりと時間をかけ相分離し失透してゆく、という光景を光学用ポリオレフィン樹脂とポリスチレン樹脂とが相溶した樹脂で観察することができた。光学用ポリオレフィン樹脂とポリスチレン樹脂が相溶した樹脂をポリスチレンのTg近辺で温めたら、ゆっくりと失透したのである。ちょうど樹脂がゲートから流れたスジがゆっくりと現れ、その模様が広がり真っ白になったのである。
面白いのはこの真っ白になった樹脂を光学用ポリオレフィン樹脂のTgで温めてやると、また透明になったのである。さらにこれを室温まで急冷したら、透明のままであった。21世紀初めの珍事であった。
*光学用樹脂につきましてご相談事項がございましたらお問い合わせください。
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昨日まで紹介した光学用ポリオレフィン樹脂と特別な重合条件で合成したポリスチレン樹脂との相溶実験は、実験用の小型バンバリー(300cc)を用いて5分程度の混練で実現した結果である。恐らく一般の生産で使用されている二軸混練機でも再現できるだろう。
高分子を相溶させると、異なる物性の材料が得られる。二軸混練機は反応装置の視点で扱われていないが、この視点でプロセシングを開発すれば、新たなプロセシング技術を開発できる可能性がある。
反応という概念は共有結合が生成する場合に用いる、といわれているが、イオン反応でイオン結合の生成や、錯体化学では配位結合の生成の場合にも反応という言葉が使用されている。二種の異なる高分子の相溶では結合生成こそしないが、単なる「混ぜ物」ではない。技術的視点から「反応して合成された」高分子という見方もできる。
このようなポリオレフィン樹脂とポリスチレン樹脂のように1次構造を工夫し混練して全く別物が生成する現象を見ると、混練で相溶させるプロセスを「合成」という機能で捉えることで新たな技術が生まれる可能性を感じる。E.S.ファーガソンの言葉を借りれば、「心眼」で現象を眺めると新たな技術が生まれる、と表現される。
あるいは、昨今コンセプトの重要性がさけばれているが、2種の高分子を混練するプロセスをどのようなコンセプトで開発するのか、と考えることで新たな技術を生み出すことが可能となるので、まさに「コンセプト」という言葉の力が生きる視点である。
樹脂補強ゴムは、バンバリーとロールを用いたバッチプロセスで生産されていた。不思議なことにゴム業界ではバンバリーとロールを単なる混ぜる機械とみていない。ゴム(高分子)を変性させる装置=合成装置という見方をしている。歴史的にゴムの混練プロセス開発は一種の合成という見方で行われてきた可能性がある。これは混練プロセスだけで工程は完結せず後工程の加硫反応で成形するプロセスまで含めて考えなければゴム業界で材料開発をできなかったためだろう。
樹脂業界では、樹脂を混練するメーカーと成形するメーカーが別々に存在する。ゴムのように混練から成形まで一気通貫で行うメーカーは少ない。しかし、二軸混練機の世界にも合成あるいは反応というコンセプトで最近面白い技術が生まれている。
1990年代に樹脂補強ゴムとは異なるコンセプトで、高靱性の樹脂や、射出成形でゴム弾性を持つ成形体が得られる動的加硫技術が発展した。樹脂補強ゴムでは、加硫反応を行わなければ成形体ができないが、動的加硫技術による樹脂では、混練中にゴムの加硫を完了しており、成形プロセスで加硫反応を行う必要が無い。この樹脂を用いて射出成形でゴム状の成形体が簡単に得られる。
この技術は、1970年末に登場した熱可塑性エラストマー(TPE)と同様の用途に使用されている。すなわちTPEのコストダウン技術として動的加硫ゴムは生まれた。TPEはゴムと樹脂を反応させて製造する、文字通り昔ながらの「反応」や「合成」プロセスによる材料である。そしてTPEを用いて射出成形により簡単にゴムの成形体を製造することができる。加硫反応がいらない便利な材料である。
このTPEと同様の用途の材料を二軸混練機で「合成」できるようにしたのが動的加硫技術である。ゆえに2種の高分子を混練して、変性された材料ができる過程を広義の「合成プロセス」ととらえる事により、新たな材料技術が生まれる可能性がある。たとえ科学的に正しい言葉の用い方ではない、と否定されても機能を追求する立場の技術では、そのような概念の拡張は重要である。
また、ゴム量を10%程度にして1μm以下のサイズで分散すれば高靱性の樹脂が得られる。3年前再生PET樹脂を用いて環境対応樹脂を開発した時に動的加硫技術を使ったが、加硫剤の選択と混練温度が重要な因子だった。加硫剤としてフェノール樹脂を使用し射出成形可能で難燃剤を用いなくても(可塑剤としてリン系化合物が3%程度入っているが)UL-94V2に合格する射出成形可能なPET樹脂ができた。
*新しい混練技術を開発いたしました。関心のある方は、弊社へお問い合わせください。
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昨日、実用上は無駄なデータとして周囲から扱われたが、科学の視点では注目すべき実験データが得られた経験を書いた。ポリスチレンとポリオレフィンを相溶させて透明な樹脂が得られた実験であるが、この結果についてもう少し説明する。
ポリスチレンは規則的に重合させる技術は確立されているが、完全にランダムに重合させる技術が知られていない。そこで可能な限り不規則になる重合条件でポリスチレンを合成した。その中の一つがアペルにブレンドすると透明になったのである。ちょうど鍵と錠の関係でうまく立体的に噛み合う組み合わせが見つかったのである。
ポリスチレンとポリオレフィンの組み合わせはχが正なのでフローリー・ハギンズの理論からは相溶しない組み合わせになるが、きれいに相溶し透明な樹脂が得られていた。この実験結果は、立体的な組み合わせで安定になる条件が揃えば、高分子が相溶する可能性を示している。イメージを膨らませ、もし混練で分子のコンフォメーションを制御できるならば、どのようなポリマーブレンドでも混練時に相溶させることができる可能性を示している。
このような発想が科学的に正しいかどうかは問題ではない(注)。技術的にそのようなことが高いロバストを確保して実現できるかどうかが重要である。その上、この場合になぜ科学的に正しいかどうかが問題にならないかと言えば、すでに科学的に否定できないが科学者が説明できない現象が目の前に起きているからだ。このような状態の時、科学者は、新たな真理を求め研究を進めるが、技術者はこの現象を活用し、新たな機能実現に向けて努力する。
目の前にあるχが正であっても高分子のコンフォメーションを制御してやると高分子が相溶するという事実を新たな機能実現に活用しようと考えるのが技術者である。科学的に不明確な現象を技術に応用して大丈夫か、という心配は不要である。科学的に不明確な現象でもロバストネスを確保できる条件が見つかれば、実用化可能な新しい技術が生まれるのである。科学では繰り返し再現性が重要だが、技術では繰り返し再現性だけでなくそのロバストネスが重要である。
また、新たな現象を見いだしたときに新しい技術へチャレンジするのか、無駄なデータとして扱うかは、技術者と職人の分かれ目であり、新たなチャレンジを行おうとする点では、科学者と技術者は似ている。ゆえに技術者にも心眼でイメージした結果を確認する実験は重要な活動の一つである。昨日紹介した小竹先生の「etwas news」は、技術者にも大切なキーワードである。
(注)弊社の問題解決法では、科学的視点ではなく、技術的視点で問題解決にあたれるような仕掛けを工夫している。科学的な問題解決を忠実に行うTRIZやUSITと大きく異なる点である。
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昨日高分子シミュレーターOCTAに触れたが、混練プロセスでどのようなポリマーブレンドができるのかを知りたいときにSUSHIは、科学的な視点から解答を示してくれる。これは役にたつシミュレーターである。すなわち科学的な解答が目標とする機能を達成できない材料の場合に、あきらめるべきか、目標とする材料を技術で作り上げるべきか判断するときのよりどころとなる。
真理を追究するのが科学ならば、機能を実現するのが技術である。一方哲学者イムレラカトシュによれば科学は否定証明を完璧にできるが、肯定証明は苦手とする。すなわちある真実が実験で示されたのならば、昨日までのある現象を肯定していた理論がひっくり返る可能性があるのが科学の世界である。
そのため、学生時代に指導してくださったI先生は研究者の科学における研究の意味を書いた小竹先生の随筆のコピーをもとに実験の重要性をことあるごとに教えてくださった。すなわち研究とは「etwas news」を見つけることで、新しい事実を見いだすために毎日実験を繰り返すのが研究者の仕事である、と。
OCTAは、土井先生によれば、高分子物理の成果が詰め込まれたシミュレーターだそうである。例えば高分子物理に疎い技術者でもOCTAを使って実験を行えば、高分子物理の科学的成果について検証ができるのである。すなわちコンピューター上で高分子物理の実験ができるのである。
三井化学のアペルというポリオレフィン樹脂を10年以上前に扱うチャンスがあった。アペルは、側鎖に提灯のようなバルキーな基がぶら下がっている光学用樹脂で、このバルキーな基で主鎖の分子運動性を落としTgを高くするように設計された樹脂である。この樹脂については苦い思い出とここで紹介する楽しい思い出がある。絶対実現できない、と技術的に分かっていても、その技術内容を科学的に証明をすることができないときに、周囲はそれを理解しない場合がある。そのような中で、少しでも可能性のある方向をOCTAで探ったのである。
アペルは、提灯のような側鎖基で分子運動性を低めTgを高くしている樹脂であるが、もともとポリオレフィンという材料はTgが低い。ゆえにこの樹脂の耐久性の指標としてTgを採用するのは危険である。実際に、その時担当していたテーマでは、Tgから期待される耐久性を実現できるかどうかがカギであった。
ある混練の「技」を使った実験で、カタログに示されたTgよりも低いTgがこの樹脂には存在し、この低いTgで樹脂の耐久寿命が決まっていることを示したのだが、材料メーカーの研究者に一笑にふされ、その実験結果は採用されなかった。
この実験結果による予測は正しいと2年後分かるのだが、当時少しでも改善に寄与しようということで、提灯のような側鎖基を動きにくくするような高分子をブレンドする実験をOCTAで行った。ある構造のポリスチレンが良さそうだ、ということで、D社にお願いして、様々な重合条件でポリスチレンを重合し、一次構造が異なるポリスチレンを創り出した。
このポリスチレンを片っ端からアペルにブレンドし、透明になるポリスチレンを探したところ16個目の実験で、アペルと混ぜても透明になるポリスチレンが見つかった。そしてこのポリスチレンを混ぜたアペルは期待されたとおり、そのアペルのTg付近まで透明で、低いTgが無くなった。
ところが、ポリスチレンが複屈折の原因となるのでプロジェクトからは価値の無い無駄な実験とされたが、ポリオレフィンとポリスチレンが安定に相溶する場合があるという、フローリーハギンズの理論の不完全性を示す実験として価値がある実験結果が得られた。
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