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2012.09/11 樹脂補強ゴム(1)

以前新入社員の時に担当した防振ゴム開発について書きました。その時開発したのが樹脂補強ゴム。指導社員が企画し、その企画書にはレオロジーの理論によるシミュレーション結果がグラフ化されていました。シミュレーションに用いられたモデル構造は、樹脂の海にゴムの島が浮かんでいる、ポリマーブレンドの代表的な構造、海島構造である。

 

当時企画書の説明を聞き、驚いたことが2つある。1つはシミュレーションをすべて関数電卓1台でやられたことと、そのシミュレーションどおりの材料を開発するのが小生のテーマであったこと。

 

シミュレーションでは、マックスウェルモデルとかケルビン・フォークトモデルなどを組み合わせて数値計算を行いグラフ化していた。電卓による計算なので、途中結果も人間味あふれる文字でA4ノート1冊にびっしり残されていた。「コピーはするな、明日返却せよ」と言われた。すなわち1日で理解せよ、と言われたのと同じであるが、学生時代有機合成を専門とし、数値計算と言えば加減乗除の世界しか経験したことのない小生にとりましては拷問のようなものでした。

 

その日は定時退社し、独身寮にこもり説明の無い数値と難解な式が羅列されたノートと悪戦苦闘しました。30分ほどで明日までに全部を理解できないことに気がつき、あきらめることができました。理解できないならばすべて手で写そうと考えましたが、「コピーはするな」という指示を思い出しました。さて、どうするか考えていたら朝になりました。

 

翌日、独身寮にノートを持ち帰りましたことを叱られました。機密情報の扱いに関する注意かと思いましたら、「仕事は会社で、家では勉強」と指導されました。このノートでは勉強できないので無駄な時間を使うな、とも注意されました。ノートを渡された理由は、シミュレーションの結果である1つのグラフを書くためにどれだけの労力が使われたのか理解するためだったようです。1週間以上かかったように感じました、と感想を述べましたら、レオロジーを理解していないのなら1週間まず座学を行う、と言われ、すぐにレオロジーの講義が始まりました。実際には2ケ月ほど時間をかけられたようですが、指導社員からは費やされた時間については教えて頂けませんでした。

 

シミュレーションを何のために行ったのか、実験を開始し、すぐに理解できました。樹脂とゴムの組み合わせを選択しないとうまく混練することができないのです。当時フェノール樹脂とゴムとの海島構造のポリマーブレンドが製品化されたばかりで、最先端の技術でした。フェノール樹脂とゴムのブレンドでも防振ゴムとしての性能はでましたが、指導社員のシミュレーション結果は、その組み合わせよりも高性能の組み合わせが存在することを示しており、小生の仕事は、そのシミュレーションどおりのポリマーブレンドを開発することでした。

 

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カテゴリー : 高分子

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2012.09/10 高分子とセラミックスの類似点

高分子とセラミックスの両方の材料について研究開発を行い、両方の材料分野の開発成果は、学会から賞を頂いております。また学位論文は、有機無機複合材料という内容です。両方の材料開発を経験した感想として、高分子の技術革新の方向について考えました。

 

高分子とセラミックスについては、相違点が多いですが、大局的に見ると類似点もたくさんあります。

 

例えば、材料物性のプロセス依存性。これは、金属も含め、材料一般に言えますが、金属よりも高分子やセラミックスは、プロセス依存性が大きいです。材料の混合から始まり、成形するプロセスまで、一定条件で取り扱ったつもりでも、できあがった成形体物性のばらつきは、金属よりも大きくなります。高分子とセラミックスでは、組成によりますが、ばらつきの大きい組成で比較しますと大差は無いです。ばらつきの小さい組成の場合には、高分子の方が小さいですが、ばらつく場合には高分子もセラミックスもおそらく同じくらいばらつき、品質安定化技術が重要になります。

 

ゴム材料はプロセス依存性の大きい材料です。企業を分類するときにゴム業界と窯業業界か一緒に分類されている例には思わず納得することもあります。ゴムにしろセラミックスにしろ品質管理技術が参入障壁になっている可能性もあります。

 

次に材料の壊れ方、破壊の様子が、高分子とセラミックスは似ているように思っています。このように書きますと破壊力学の専門家からは叱られるかもしれませんが、高分子もセラミックスも金属に比較しますと、材料の破壊についての信頼性は低いです。材料物性は総じてプロセスに依存しますので、プロセス依存性が大きいので、物性である材料の破壊に対する信頼性の低さが似てくることになるのですが、無頓着の方が多いように思います。自動車の構造材料に高分子材料が使用できる、という事実は、大きな技術革新が必要でした。

 

1980年代にガスタービンの部品をすべてセラミックスで作ることを目標にしたムーンライト計画と呼ばれる国のプロジェクトがあり、エンジニアリングセラミックスの技術は大幅に進歩し、オールセラミックスガスタービンエンジンの開発には失敗しますが、包丁までセラミックスで作れるようになりました。当時エンジニアリングプラスチックスは実用化されていましたから、高分子の方が技術進歩が早かったわけです。

 

壊れにくい成形体を作る技術として、高分子もセラミックスもある程度まで技術進歩したのですが、材料の高純度化技術という点で、高分子はセラミックスよりも遅れているように感じています。コストをかければ、高分子も高純度化できます。しかし工業製品に占める高純度材料という観点では、高分子はセラミックスに負けています。パーフェクトな単分散の分子量分布をもつ高分子とか一次構造が完全に制御された高分子とかは、工業材料に登場していません。ニーズが無いのでしょうか。光学部品には意外な恩恵があるかもしれません。またエンジニアリング分野でも信頼性向上という成果や、二律背反になっている物性を両立させたりできるかもしれません。高分子にはまだ技術革新しなければならない分野が残っているように思っています。

 

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カテゴリー : 一般 高分子

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2012.09/09 二軸混練機について

重合反応の最後のプロセスで配合剤を添加したりする場合も含めるが、高分子材料を実用化するときに、”混合”というプロセスが必ず入る。溶媒に膨潤あるいは分散した高分子に添加剤を入れ混合するプロセスは、溶媒を除去しなければならないので、塗布とかキャスト成膜などの用途に限られている。一般には、無溶媒でバンバリー、ニーダー、ロール、二軸混練機などの機械式混合装置が用いられる。

 

加硫ゴム材料では二軸混練機を用いることができないので、バンバリー工程とロール工程を組み合わせたバッチ式プロセスとなるが、樹脂材料やTPEでは二軸混練機が多くの場合用いられている。この二軸混練機の解説書は、ハードウェアー寄りに書かれており、高分子材料の物性が混練機でどのような影響を受けるのか体系的に詳述した本を見たことが無い。おそらく、多くのケースではノウハウの部類に属することなので公開されていない可能性が大きいが、加硫ゴムのように経験知の部分が多く解説が難しい、という点もあるかもしれない。

 

レオロジーの観点から二軸混練機を伸張流動と剪断流動の組み合わせで材料の混合を行っている装置、と簡単に書くこともできるが、実際には物質の分散だけでなく材料の変性も同時にこのプロセスの中で起きているので体系的に技術を整理するのは至難の業のように感じる。21世紀に入り高分子精密制御プロジェクトという国研で混練技術が取り上げられ、L/Dの大きな二軸混練機やEFM、高速剪断混練機などが検討されたが、これらが実用化され普及したという噂を聞かない。伸張流動を極限まで追求したL/Dの大きな二軸混練機やEFMでは、ナノオーダーのレベルまでポリマーアロイの高次構造を作り込むことができると言われたが、生産性が悪いという難点が残った。高速剪断混練機は、その機構上生産機レベルの装置を実現できないだけでなく、分子量低下という問題が残った。

 

国研で検討されたこれらの装置の状況を見ると、1990年前後に登場した石臼式混練機は、生産性は悪いが新しい混練機として成功した例と言っても良いかもしれない。樹脂への無機粉体の分散を得意とするこの装置の難点は生産性以外に混練後の清掃の煩雑さである。しかし、バンバリーとロールの組み合わせよりも効率は良いのでそこそこ普及した、と聞いている。

 

最近ラムスタットミキサーというバッチ式の混練機の提案やカオス混合装置の提案がされているが、研究報告をあまり見かけない。樹脂の着色程度ならば二軸混練機でも用を足せるが、最近普及し始めた3成分以上のポリマーアロイや融点の高いエンジニアリングプラスチックの混練では、現在普及している二軸混練機の性能の限界が見えてきている。二軸混練機の限界性能を引き出すように使い込むのか、あるいは二軸混練機に付加装置を足して二軸混練機の性能向上を図る技術開発が現実的であるが、もう少し新しいプロセシング開発にもチャレンジする企業が出てきても良いのではないでしょうか。

 

実用的で新しい混練機が登場するまで、もし樹脂の混練でお困りのことがございましたら株式会社ケンシューにご相談ください。

 

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カテゴリー : 高分子

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2012.09/08 酸化スズゾルの帯電防止技術から学んだこと(3)

酸化スズゾルを用いた帯電防止技術をテーマに田口先生からタグチメソッド(以下TM)の御指導を受けているときに、TMの実験結果を科学的に検証しながら進めたい、という提案をしましたら叱られました。TMだけで開発を進めれば良い、とのこと。結局御指導期間中は研究を行わず、田口先生から解放された後、すなわち製品開発完了後に酸化スズゾルのパーコレーションの研究をヤミ研として進めました。その結果は昨日述べたとおりです。

 

「高分子材料のツボ」セミナーには、パーコレーション転移の紹介に、日本化学会で発表した酸化スズゾルのデータを使用していますが、近々パーコレーション転移だけのセミナーも販売する予定です。パーコレーションに関してはスタウファーの書籍が有名ですが、高分子材料におけるパーコレーションの良書が見当たりません。現在のところセミナー形式で販売を予定していますが、もし皆様のご希望があれば書籍の形態に変更することも考えています。

 

ちなみに「高分子材料のツボ」セミナーに関しては書籍の形態希望のメールが届いており現在検討中ですが、今回のセミナーの形態にしました理由は、ポイントだけを反復して眺めるのに便利ではないか、と考えたからです。高分子材料開発において、高分子科学全体を頭に描いていた方がアイデアが豊富に出る、と思っています。よく高分子を勉強された専門家ならば「高分子材料のツボ」は必要ではないでしょうが、10年セラミックスの研究開発を行っていた技術者が高分子材料の開発を担当しましたので、最初のテーマとしてにPETフィルムの帯電防止技術を担当しましたときには大変でした。「高分子材料のツボ」はこの時から作り始めたメモが大半の内容を占めております。

 

「高分子材料のツボ」セミナーは、弊社のコンサルティング活動におきましても教科書的な位置づけで使用しています。20年前からメモしてきました内容を見ながら、温故知新の気持ちでコンサルティングを行っています。面白いことに、同じ科学的事実でも、その現象が現れる環境が異なると、新鮮に見えることがあります。「高分子のツボ」を見ながら、新しく見える理由を考えてゆきますとアイデアがわいてきます。

 

酸化スズゾルの技術は1960年の公告特許がもとになっていますから、まさに温故知新の産物ですが、科学的情報を過去のものと捉え、目の前に現れた現象を新しいと感じると、温故知新の教えを生かして、アイデアをひねり出すことができます。そのコツは、周辺の科学的知識を整理しておくことです。新しさを具体化するためには、古い科学的知識を明確にしておく、すなわちどこまでわかっていてどこからわかっていないのか、あるいはその理論がどのように生まれたのか、などをきちんと整理しておく必要があります。

 

最近「歴史地震学」が注目されていますが、3.11が起きる前にこの学問が温故知新の観点で整理されていたならば、もう少し被害を小さくできたのではないか、と悔やんでいます。古文書には地震の情報が少ないと言われていますが、地層には動かぬ証拠が眠っています。その証拠と古文書を科学的に対照させれば、豊富な地震情報になるのではないでしょうか。酸化スズゾルを用いた帯電防止技術では、ヤミ研ではありましたが、温故知新という言葉を味わいながらパーコレーションの研究をまとめることができました。

 

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2012.09/07 酸化スズゾルの帯電防止技術から学んだこと(2)

タグチメソッド(以下TM)は、汎用的な技術開発ツールです。化学的見地から出した最適条件とTMで得られました最適条件が異なった、という体験を昨日書きましたが、タグチメソッドの実験ではこのような科学的推定との差異が生じることがあります。パーコレーションは、化学的因子以外に物理的因子にも支配される現象ですから、化学的因子だけで最適化していたなら当然だ、と今回の場合は納得できますが、TMから得られる結果に納得できないときも稀にあります。

 

このような科学的視点あるいは感覚からのずれが、実験結果に現れたりするので、TMを積極的に使わない同僚も見かけたりしました。しかし、TMは、技術開発のツールとわりきって研究開発で使用すべきと思っています。そして、TMの結果が予期せぬ結果であったならば、TMを疑うのではなく、実験計画あるいは科学的知識を疑うべきです。

 

酸化スズゾルを用いたPETフィルムの帯電防止加工技術開発では、TMを何度も使いました。田口先生はL18を推奨され、L9やL8のような小さな実験計画についてあまりよいお顔をされませんでしたが、開発初期の暗中模索状態の時には、いきなりL18を用いるよりも、L9やL8を使って開発スピードをあげるほうがよいように思っています。L9やL8を何度も使っていると重要な制御因子が見えてきます。そして仕上げにL18を使用すると、予想通りの実験結果が得られます。

 

技術的な経験知が充分蓄積された状態では、いきなりL18を用いていましたが、酸化スズゾル関係の技術開発の初期には、このように小さな実験計画を用いて、科学的知識との差異を実験結果と比較しながら進めました。パーコレーションの制御因子が複雑だったからです。初期のTMの結果には戸惑いましたが、別途モデル実験を組み、TMから導かれた制御因子の動きを確認したこともあります。研究開発の進め方として、技術開発を行ってから研究を後追いで進めるスタイルができあがりましたが、この方法は、あたかも「刑事コロンボ」というTV番組のシナリオのようです。この時の研究成果は日本化学会年会などで発表し、当時の部下の一人は講演賞を受賞しております。

 

TMの実験結果に対し、このような科学的検証を加えながら進めた結果、TMは、科学的考察から気がつかない因子の動きを教えてくれる便利なツールという印象を持つに至りました。そして、TMで得られた因子の動きから研究テーマを設定し、それを検証すると新たな科学的知識を獲得することができました。

 

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2012.09/06 酸化スズゾルの帯電防止技術から学んだこと(1)

高純度の酸化スズゾルに含まれる粒子(以下酸化スズゾル粒子)は、アンチモンを不純物として含む結晶質の酸化スズ粒子(以下不純酸化スズ粒子)に比較すると、導電性は1000分の1以下です。従って高分子のバインダーに分散し、帯電防止層として必要な導電性を得る時に、低い技術的難易度のため不純酸化スズ粒子が好んで選ばれます。特に溶媒として水を用いるときには、酸化スズゾル粒子は導電性が悪いだけでなく水中において分散性が高いので、塗布したときに、パーコレーション転移が生じにくく、抵抗が下がりにくい(導電性が出ない)。パーコレーション転移が生じにくいので、導電性を出すためにはパーコレーション転移を制御する技術が必要になる。このパーコレーション転移の制御方法について、特公昭35-6616特許には書かれていなかったために、ライバル他社も含め実施例の再現が難しかった。しかしできあがった帯電防止層の特徴について、30年経過しても再現可能な科学的データが記載されていたので当時特許として成立したのでしょう。

 

酸化スズゾル粒子とパーコレーション転移制御技術を組み合わせて実現した帯電防止層の透明性は極めて高く、透明樹脂フィルムに塗布してもその透明性を損なわない。不純酸化スズ粒子を用いた帯電防止層の場合にはわずかに透明性が劣化するので、透明フィルムの帯電防止層に用いるには、酸化スズゾル粒子の方が好ましい。しかし、ライバル他社も含め1993年まで酸化スズゾル粒子を用いた帯電防止層を商品化できなかった。パーコレーション転移制御技術の難易度が極めて高かった為であるが、運良く技術開発を行った時がタグチメソッドの普及期で、田口先生のご指導を受けることができた。

 

田口先生のご指導を受けたときに、ロバストの観点で不純酸化スズ粒子を用いる技術を選択する方が正しい、と言われた。ご指導を受けたときの最初の実験結果で、不純酸化スズ粒子を用いた帯電防止層のSN比が高かったからですが、タグチメソッドを用いてパーコレーション転移制御技術を最適化したところ、SN比が逆転した。この結果をご覧になった田口先生は、酸化スズゾル粒子を選択する方がよいでしょう、と言われました。田口先生をご存じの方は、このあたりのニュアンス並びにこの結果に至るまでの実験の苦労をご理解頂けると思いますが、パーコレーション転移制御技術が完成した瞬間です。

 

田口先生のご指導を受ける前まで、化学的な視点からパーコレーション転移を制御するのに最適な条件を採用し技術を創り上げていましたが、品質工学的に最適化を行っていませんでした。タグチメソッドを用いて最適化を行ったところ、化学的に最適化した条件から少しはずれた結果となりました。パーコレーションという現象が確率過程を含む現象のため、ある程度はこの結果を予想していたのですが、田口先生の満足された表情が印象的でした。

 

化学は科学の一領域です。パーコレーションを制御するためには、化学と物理学の両面の知識が最低限必要です。パーコレーションという現象を科学的知識だけで制御する試みは、うまくいけば運がよかった、と捉えるべきで、ロバストの高い技術として完成するためには、技術開発力が要求されます。この意味で、技術は科学的知識以外も包含し、タグチメソッドの習得は、技術開発力を高める一つのソリューションと思っています。また、このような表現は誤解を招くかもしれませんが、タグチメソッドは「工学的技能」として優れており、汎用化されていますので、メーカーであればどこでもその導入効果を感じ取ることができます。

 

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2012.09/05 温故知新(2)

温故知新は知財分野で有益な指針となります。少なくとも材料分野では温故知新の観点で知財を眺めると新しいアイデアが出てきます。

 

知財の有効期間は20年ですので、20年以上前の知財から技術を探し出し、新たな視点で知財網を構築するという方法は、アイデアマンでなくとも少しの努力で多大な成果が得られます。具体的な方法は弊社の研究開発必勝法プログラムでご指導いたしますが、新技術アイデアが無くて困っているときに重宝します。

 

組み合わせ特許とかの問題が残りますが、20年以上前のスジのよい技術からアイデアを拝借し、新しい技術に仕立て上げる力は実務上大切なスキルです。

 

 

カテゴリー : 一般

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2012.09/04 温故知新(1)

酸化スズゾルを用いた帯電防止技術の開発事例では、

1.科学の成果が無い時代に、経験知で「モノ」を創れる技術があった。

2.科学の成果が知られていても、経験知が無ければ、「モノ」を創ることはできない。

ということを示しているように思います。

 

1960年頃どのような技術があったかは、特許の実施例を検証すれば理解できます。1990年には、スタウファーらのパーコレーションの研究成果に関する書籍が販売されていましたから公知であったと思います。また、酸化スズゾルも新素材として販売されており、塗布技術も揃っておりました。

 

経験知も技術のカテゴリーにいれれば、1990年に存在した塗布技術は、1960年に存在した塗布技術よりも劣っていることになります。しかし、生産技術として塗布技術を捉えると、30年間の進歩は確かにありました。技術開発は進められたが、経験知は忘れ去られた、あるいは経験知を見ることができなくなった、というのが実態では無いかと思います。このような事例は、他にもあるかもしれません。

 

科学が進歩した時代であっても、技術が無ければ「モノ」を作れません。ゆえに科学と技術は車の両輪にいつも例えられます。科学は学術論文と教育でその成果が未来へ継承されてゆきますが、技術はどのように未来へ伝えられるのでしょうか。

 

どこの企業でも技術開発報告書があります。報告書で技術は未来にうまく伝わるのでしょうか。技術の継承を考慮し、報告書に工夫をしている企業もあるかもしれません。一方ISO9001の普及で、報告書は単なる技術開発の証拠として形だけになっている企業もあります。また、一般に報告書は科学的知識で論理を展開するはずですから、報告書で技術を伝えるのは、結構難しい作業になるかと思います。

 

E.S.ファーガソンは、その著書「技術屋の心眼」の序文で、技術に含まれる知識には科学がもたらしたものと、科学的ではないものが含まれることを指摘しております。1960年に発明された酸化スズゾルを用いた帯電防止技術は、まさにその典型であり、科学的知識など無い時代に、技術で帯電防止薄膜を完成させております。ファーガソンが指摘している、技術には科学的ではないものが含まれる事実は重要で、これをどのように継承してゆくのかというのは、技術開発で重要と思います。また、この要素が多い技術ほど独創性が高く、他社との差別化技術になるのではないかと思います。

 

また、技術には科学的ではないものが含まれる、という認識は重要で、この認識を持つことで、「温故知新」という古人の知恵をうまく生かすことができるように思います。酸化スズゾルの帯電防止層を科学的に技術開発し商品化できましたのは、「温故知新」によるところが大きいです。

カテゴリー : 一般

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2012.09/03 研究開発におけるコーチング(事例3-3)

昭和35年(1960年)の公告特許に記載された実施例には、酸化スズゾルが導電性を有しどのような湿度依存性があるか書かれておりましたので、当時の帯電防止薄膜の技術について検証することができました。

 

発明者がノウハウとして隠したためでしょうか、製造方法について記載不十分であり、30年以上経過してから実施例を再現するために少し苦労しましたが、驚くべきことに酸化スズゾルのパーコレーション転移に配慮していることを実験で理解できました。パーコレーションについて科学的な議論が活発になりましたのは、1970年代に入ってからであり、材料技術に展開されるのは1990年代で、2001年にICパッケージに使用された難燃剤の赤燐粒子によるパーコレーション転移でハードディスクのコントローラーICが誤動作するという品質問題が発生し、社会問題化しました。

 

パーコレーションは材料技術の分野において重要な概念で有り、パーコレーションの概念が無かった時代には、有名な混合則と呼ばれる経験式が一般に使用されていました。パーコレーションは科学的論理で現象についての議論が展開されますが、混合則は統計により導かれた「実験結果としての」経験式であります。両者はグラフにすれば似たような結果になりますが、全く異なる概念です。パーコレーションの概念が理解されておればハードディスクの誤動作という品質問題防止できた、と思っています。

 

このように材料技術の歴史を考えますと、昭和35年の公告特許は「ものすごい発明」という位置づけになると思います。

 

昭和35年の公告特許は、科学よりも技術が10年以上先行していたことを示していますが、その技術が30年の間に消えている現実に驚きました。科学的に解明されていない現象を技術として完成したのですから、経験知と思われますが、それがうまく伝承されていないどころか、その周辺の技術がライバルに特許で抑えられているひどい状況でした。

 

昨今の経済状況からリストラを行うのは仕方がないことですが、リストラにより経験知を持った人材を抹殺すると技術は伝承されなくなります。基盤技術の整理や確認を一生懸命行う風景を20年間見てきましたが、技術の担い手である人材についての議論をあまり聞かず、また自分自身も転職後リストラされ、掘り起こした技術を伝承できないまま、失意の中で、新入社員時代に伝承して頂いた技術で中国人を指導しながら、定年間近のサラリーマンとして勝負せざるを得ない状況になりましたから、おそらく経験知には関心が無い風土で仕事をしていたと思っています。また、この会社に限らず某自動車会社からリストラされ物質材料研究機構の研究員になった技術者や、某自動車会社からサムスンに移りLiイオン二次電池の指導をしている技術者などリストラされた技術者を見るにつけ、リストラに伴う技術の消失リスクという問題をもう少し日本の企業は真剣に考える必要があると思います。

 

昭和35年の特許を発明した技術者がどのように処遇されたかは不明ですが、技術が伝承されていなかったために、30年後の永久帯電防止技術の商品化で出遅れた経済的損失は大きいのではないでしょうか。転職した職場で、まず悩みましたのは、少なくともライバルと同等レベルである透明金属酸化物導電体技術を構築しなければ、透明機能性フィルム事業で負ける、という危機感からでした。

 

転職前の会社にはフェロー制度などがあり、経験知を身につけた人材が定年後も在職し後進の指導に当たっていますが、技術を伝承するために大切な制度で、創業者の理念に基づき人材を重視している会社だと思っています。人に蓄積された経験知を如何にして組織内で移転するのか。そのためのコーチングスキルが研究開発部門で重要と考えています。

 

 

カテゴリー : 高分子

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2012.09/02 研究開発におけるコーチング(事例3-2)

20年ほど前に酸化スズゾルは、新素材として販売されていました。

私が転職したときに、写真感材用の帯電防止剤として、その材料評価は完了しておりました。評価結果は、導電性が無いので帯電防止剤として使用できない、という結論が報告されていました。昭和35年の特許によれば、高純度の酸化スズゾルには導電性がある、と書かれていましたので、この報告は不思議なお話です。

 

ちなみに酸化スズについて調べてみますと、インジウムやアンチモンを不純物として含む酸化スズ結晶は、カーボン並の高い導電性を有するが、高純度酸化スズ単結晶は、絶縁体である、と論文に書かれていました。非晶質の酸化スズの導電性につきましては、様々な値が公開された論文に記載されていましたが、いずれも不純物を含む酸化スズ単結晶の値よりも100倍以上導電性が悪いデータでした。ただし、多くの金属酸化物が、含まれる酸素のわずかな量の違いで電気特性が大きく変化する、というのは常識でした。

 

市販の酸化スズゾル10%水溶液(非晶質酸化スズを10wt%含む)を自然乾燥して非晶質酸化スズを取り出して電気特性を測定したところ、アンチモンを含む酸化スズ結晶の1000倍程度導電性が悪い結果でした。ただし、この程度の導電性があれば、昭和35年の特許の実施例に書かれた半導体領域の導電性は十分に出ます。しかし、社内の評価結果では、酸化スズゾルに含まれる非晶質酸化スズは絶縁体であることになっています。

 

私は自分で実験を行いました。実験は、市販の酸化スズゾルを用いた場合と昭和35年の特許の実施例をそのまま再現した場合と2つのケースで行いました。最初の実験条件では、両方とも社内で報告されたデータと同様の帯電防止性能が無い、という結果でした。奇妙に思いました私は、昭和35年の特許の実施例について、詳しく書かれていない条件を変化させた場合にどのような結果が得られるのか調べてみました。その結果、この特許の実施例に、ある特殊な条件を加えると実施例と同じ実験結果が得られることを見つけました。おそらく特許を書かれた人はノウハウとして記載しなかったのではないか、と推定しました。帯電防止性能が得られた、この実験条件を用いて、市販の酸化スズゾルを評価しましたところ全く同一の良好なデータが得られました。

 

プラスチックフィルムの表面処理で帯電防止性能をフィルムに付与する技術は、高度な技術の部類になるかと思います。しかし、塗布液を調製し、表面に1μm以下の薄膜を形成する技術は、塗布液があれば、素人には簡単な技術に見えます。特にワイヤーバーを用いて塗布する技術は1-2回練習すれば、あるいは器用な人であればすぐにでもできるようになります。この塗布技術では、塗布液の調製技術が重要で、どのような添加順序で試薬を投入したのか、その時のそれぞれの試薬の濃度はどのように管理したのか、など文献には書かれていないノウハウがたくさんあります。昭和35年の頃は、酸化スズゾルが市販されていませんでしたので、自分で合成し、塗布液に添加するときの濃度も自分で管理しなければなりませんでした。しかし、20年前には、30年前に起きたセラミックスフィーバーのおかげで多くの無機化合物の機能性ゾルが市販されており、簡単に入手できる環境でした。

 

ところで、市販の酸化スズゾルを用いて、昭和35年の実施例と同じ結果を出すには、市販の酸化スズゾルを一度2%前後に薄める必要がありました。ただ、2%では薄すぎてそのまま塗布液へ添加できません。その後の処理方法は、ノウハウになりますのでここでは述べませんが、科学の視点では、「パーコレーション転移の制御」という高度で難解な塗布液調製作業を行っています。

 

私が実験をやりましたときに、この科学的知識は、物理学や数学の世界では研究テーマとして知られていましたが、材料科学の世界ではポピュラーではありませんでした。その後当時の私の部下は、学術的にまとめ日本化学会で発表し講演賞を、また、コニカは日本化学工業協会技術特別賞を受賞しましたから、パーコレーション転移の制御を行った塗布液調製技術は、材料科学の先端技術と言ってもよいかと思います。ゆえに昭和35年に特許の実施例に書かれていた技術は、大変高度な塗布技術に裏付けられた成果と思いました。

カテゴリー : 高分子

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