芭蕉の俳句哲学の言葉で、いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていくこと、とか不変的な事象と流行変化する事象は、見かけ上は相反するようでありながら、根本的には同質の、表裏一体の事象であるとか様々な解説がありますが、技術開発の戦略にもこの考え方は重要です。
例えば基盤技術を基に時代とともに変化するニーズに応える商品を生み出す活動は、不易流行と通じます。新規事業に進出する時にも基盤技術を基に進出すると成功確率が高くなると言われております。
ところで、基盤技術を活用できない既存事業と全く異なる市場へ参入する場合には、どうすればよいのか、となると意見が分かれるようです。古くからあるマーケットインという考え方で商品に着目して商品企画に力を入れるべきだ、という考え方と、基盤技術を作ってそれから新市場へ入ってゆくという考え方があります。
ファインセラミックスフィーバーが吹き荒れる中、セラミックス市場へ進出しようとしていたゴム会社の方針を決めたのは無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)長の、「高純度SiC合成プロセスが開発できたなら、エンジニアリングセラミックス市場にもエレクトロニクスセラミックス市場にも進出できる」という一言でした。すなわち、高純度SiC合成プロセスを基盤技術にすえて広大なセラミックス市場に進出する、という考え方です。この方針に従い、1984年に2億4千万円の先行投資を行い、高純度SiC合成プラントと研究施設を整え、ファインセラミックス市場へ進出しました。その成果はピュアベータという商品名で30年経過した現在でも事業が継続し、高純度SiCが必要なパワー半導体の市場が大きくなりつつあるので、今後も事業は成長してゆくと期待されています。無機材質研究所長の不易流行の考え方は正しかったわけです。
一方不易流行で気をつけなければならないのは、基盤技術を破壊する対抗技術が登場した時です。うまく不易の部分を再構築し、新技術を取り込むのか、不易の部分までも捨て去り事業を撤退するのか判断が難しいですが、デジタル技術の写真業界に与えた影響を見ますと、大胆な判断とスピードが重要と思います。また、技術者一人一人も急激な変化に耐えられるように、幅広い技術分野に耐えられる不易の能力を鍛えておくことが変化の激しい時代には大切だと思います。「高分子材料のツボ」セミナーは、あらゆる高分子技術の不易の部分を整理できるセミナーです。是非ご活用ください。
実務で高分子材料科学を活用する視点でまとめました。 高分子科学の全体像について学べますので、専門外の技術者にも学生にも役立ちます。
本書は高分子に関する知識を持っていない人の為に、写真と絵を中心に分かり易くまとめました。項目毎に穴埋め式の復習問題もあるので、学習内容の確認もできます。
また、電子書籍ならではの特徴として、購読者様からの質問を受け付けその回答が毎月反映されていきます。是非ご活用ください。
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ファインセラミックスフィーバーは、1980年代に旧通産省(現在の経産省)が中心になって推進した「ムーンライト計画」という国家プロジェクトがきっかけとなり起きた材料革命です。このイノベーションは世界中を巻き込みながら、やがて高分子材料も加わりナノテクノロジー開発の動きへとつながりました。1979年にエズラ・F・ヴォーゲル著「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が発表されていますから、このフィーバーは、まさに世界中の注目と期待を集めた日本発の材料技術イノベーションと思っています。
ムーンライト計画の目標は、セラミックス断熱エンジンの開発でしたが、1960年代の小ブームで技術開発されたセラミックス圧電素子やICパッケージの成功も加わり、セラミックスとは無関係の1000社以上のメーカーまでも巻き込み、まさにフィーバーと呼ぶにふさわしい状況となりました。このフィーバーの間にセラミックス断熱エンジンの事業化を見ることはありませんでしたが、ゴム会社で半導体用高純度SiCのプラントが稼働するなど、セラミックス事業とは無関係だった企業に新しい事業を育成する波及効果はありました。
無謀なプロジェクトであった、あるいは予算を削って2番をめざしていたら税金の無駄遣いにならなかった、という反省もあるでしょうが、このイノベーションが、目標未達にもかかわらず、長期的に見れば大きな成果をあげたことは、現在の材料科学や産業への影響、例えば自動車の技術一つ取り上げましても歴史的に検証できるのではないかと思っています。
セラミックス断熱エンジンという目標が無謀である、との意見は、プロジェクトの企画当初よりあったようです。そもそもお茶碗に使用される材料技術で過酷な動的部品を設計する発想自体が無茶苦茶、という意見も当時聞きました。しかし、いすゞ自動車の開発したセラミックス断熱エンジンは、アスカに搭載され公道を走ることに成功しております。トヨタ自動車はガスタービンと電気モーターを組み合わせたハイブリッドシステムをモーターショーで発表しています。このハイブリッドシステムは、ガソリン以外の燃料を使用でき、エネルギー効率を40%まで高めることが可能なので、実現しましたらバットマンカーのような車のイメージで電気自動車よりも面白い技術になるのではないかと思っています。
この小型ガスタービンの開発は、現在でも続けられており、20世末には、タービン入り口温度1350℃、熱効率は42.1%、1200℃1000時間以上の連続運転というレベルまで到達(1)しました。ムーンライト計画は失敗に終わりましたが、その目標は10年以上経って何とか21世紀になる直前に達成されています。1番をめざす技術者の執念の成果です。
バブルがはじけ、このような国家プロジェクトに対する批判も起き、さらに民主党政権になり、技術開発は2番に甘んじても予算を削減しようという思想も出てきて、未来が暗い時代になっています。ファインセラミックスフィーバーが単なるお祭り騒ぎでは無く、材料技術や産業界へ大きな影響を残した事実を冷静に評価しますと、今このフィーバーと同じようなお祭り騒ぎ、例えば創エネルギー大国日本を目標とするような夢のような企画を経済産業省が中心となり推進されたなら明るい未来が開けるのではないでしょうか。創エネルギー大国をめざせる研究の芽は、すでに日本で幾つか生まれていますので一大フィーバーになるのではないでしょうか。ただし、めざすのは1番です。iPS細胞以外に地味ながら燻し銀のような研究が日本で育ちつつあります。
<参考文献>
(1)特集「300kw級セラミックガスタービンを支えた部材開発」、セラミックス(日本セラミックス協会誌),12月号,1999年
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㈱ケンシューを設立して1年半、中国企業を指導した経験から「技術者が欲しかった中国語入門」、中国語の文法書を解析して中国語の基本文型を整理し、その成果を公開した「中国語基本5文型シリーズ」、32年間の研究開発経験においてアイデアの重要性に着目し、アイデア創出を促す問題解決法について提案した「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」、またそのセミナー版「問題は「結論」から考えろ!」、その他アイデアの基本となる基礎知識を短時間に頭に入れるための、「高分子材料のツボ」や「電気化学の要点」、就職前の学生対象に「入社前のTryセミナー」や「就活前のTryセミナー」、「簿記経理入門セミナー」などを販売してきました。また「誰でもわかる高分子」のような一般向けの技術書も「成長する本」という新しいコンセプトで提案しております。
2012年度下期からは、読者参加型の成長する本に力点を置き、「理系女子とめざす!未来技術」や芸術分野に力点をおいた出版を行ってゆきますのでご期待ください。専門分野の電子セミナーも順次新セミナーを公開してゆきますが、弊社の活動範囲「技術から芸術まで」の中で、これまで芸術分野に力を入れておりませんでしたので、下期は芸術を意識した活動を行ってゆきたいと考えています。
最後に(株)情報機構発刊専門書を中心に、専門領域の出版も現在企画中ですので是非弊社の活動にご注目ください。
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アルビントフラーの第3の波は、衝撃的でありました。日本でセラミックスフィーバーが始まる頃に情報技術による産業革命が起きる、という内容の本を読みびっくりしました。あれから30年以上経ち、改めて彼の著書を読んでみると、大枠は外れていませんが細部にはいくつか当たっていないところがあります。しかし、未来予測の大切なことは文明がどちらに向かうのか予測し、現状の体制で問題があるならば、それを是正し、人類の明るい未来を迎えられるように啓蒙することでしょう。おそらく彼の著書で外れている部分は、好意的に解釈をすれば人類が第3の産業革命への対応が遅れたため、と捉えることもできます。
人類の進化のスピードは早まっていますので、そろそろ第4の波が始まる頃ですが、第4の波について、エネルギー革命というキーワードを外せないように思います。昨年の3.11の大地震は、世界中に原子力発電の問題を提起いたしました。おそらくチェルノブイリの衝撃よりも大きかったのではないでしょうか。人為的ミスが重なったとはいえ、自然災害が引き金となっています。これまでの原子力事故の原因との大きな違いです。科学的予測が自然の力の前に無力だったわけです。太陽のエネルギーを人類は手に入れた、と小学生の時に習いましたが、傲慢でした。人類は自然と調和できるエネルギーを手に入れたときに幸せになる、というご託宣を3.11の時に受けたように感じています。
科学技術の進化にも面白い動きがあります。石油リファイナリーからバイオリファイナリーへの動きです。石油は中東などの一部の地域に局在しています。その石油を巡り、人類は様々な闘争を繰り返してきました。バイオリファイナリーの動きは、その力関係を変えるインパクトがあります。ジャトロワ以外にも石油代替となる植物がいくつか提案され始めました。コストの問題が指摘されていますが、石油は確実に値段が上がってゆきます。現在提案されているバイオリファイナリーのコストは、それが実現したときに石油同等になる可能性も見えてきました。
再生可能な自然エネルギーを直接電気に変換する技術も普及し始めましたが、自然エネルギーを直接電気に変えた場合には、人類がコントロールしやすいように一度蓄電する必要があります。エネルギー変換と蓄電を各家庭で行えばエネルギー効率はあがりますので、創電家電というカテゴリーも生まれようとしています。このような動きと第3の波の成果をさらに発展させてスマートグリッドがこれから開発が進み普及するものと思われます。
今後30年このようなエネルギー革命が中心となり、文明が進化してゆくであろうと思いますが、この進化の方向を技術開発で制御すれば、日本がエネルギー産出国になる可能性が見えてきます。すなわち第4の波は、日本がエネルギー産出国となるチャンスの産業革命で、弊社ではこれらの変化に対応するために技術から芸術まで提案できるよう準備を進めております。弊社の電脳書店の活動に注目してください。
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高分子の難燃化技術から、高純度SiCの新しい合成プロセスが生まれましたが、両者の技術的な共通点は、物質の熱分解反応をどのように制御してゆくのか、という点です。科学的には、現在でも完全に解明されていない現象です。例えば燃焼時に高分子の熱分解をどのように制御するのか、と科学的に考えようとしても、考えなければいけない不確定要因が多く、完璧な議論が難しいためです。通常のリン酸エステル系難燃剤を用いた場合に、燃焼後の残渣にリン酸がほとんど残っていなくても、リン酸のユニットが高分子の炭化促進に機能している、という仮説が信じられているのは、リン酸エステル系難燃剤を用いたときに炭化物の生成が多いことと、縮合リン酸の触媒機能から推定される反応機構が知られているからです。
しかし、シリカ還元法、すなわち炭素とシリカの混合物を1600℃以上に加熱して生じる熱分解については、かなり科学的に解明されており、高分子前駆体法が登場するまでは、気相と固相の両方の反応で熱分解が進行しSiC化の反応が起きている、というのが定説でした。そして気相反応でSiC化が進行した場合には、低温度領域が存在すると、SiCウィスカーが生成する現象まで解明されていました。この科学的成果から、SiCウィスカーを選択的に合成できる技術も当時はできつつありました。すなわちシリカ還元法における熱分解反応について、気相を経由する反応の利用は、科学的な情報から技術開発できる段階にありました。しかし、シリカと炭素を化学量論比で反応させたときに気相反応を抑制できる技術は無く、炭素を大過剰に用いてSiOガスを反応系外に出さないようにする工夫以外に方法はありませんでした。
シリカ還元法について固相反応だけで進行する系が見つかっていなかったためですが、高分子前駆体法は、その唯一の系を提供できたわけです。これは、高分子前駆体法で合成される、シリカと炭素の混合物が原子レベルで均一に混合されているため、と電子顕微鏡写真から推定しましたが、実際に超高温熱天秤でSiC化の反応をモニターしますと化学反応式通りのプロファイルが得られますので、この仮説は正しいと思っています。
高温度における物質の熱分解は、分子の活性が高いために副反応が多くなり解析が難しくなります。しかし、系の純度が上がり均一になるだけで副反応が無くなる熱分解に接したときに、有機合成反応を研究していたころを思い出し、化学反応における系の純度と均一さの重要性を再認識いたしました。
弊社では本記事の内容やコンサルティング業務を含め、電子メールでのご相談を無料で承っております。
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商品を技術開発するときに、商品に搭載される技術に関しすべてに精通していることが望ましい。しかし、実際には商品の主要機能が関係する技術分野は広いので、一つの商品を開発するときに必要な技術分野の人材でチームを形成し、商品開発を行う。ほとんどの商品には、高分子材料が使用されているので、メンバーにはたとえ専門家ではなくても高分子に詳しい人材が加わると思います。その方に受講して頂きたいのが「高分子材料のツボ」セミナーです。
転職前セラミックス開発を担当していた講師が、転職後の会社で高分子分野のリーダーを勤めることになりましたので、アカデミアの諸先生方の指導を受けながら研究開発を行いながら作成したメモを基に企画しましたのが、本セミナーです。転職前の会社がゴム会社でしたので高分子に関する知識を持っていましたが、実際に技術開発を担当する場合には力不足を感じていました。関係学会や高分子自由討論会に参加しながら勉強し、技術開発に必要な先端知識も含め、頭の中に入れているとアイデアの基になる知識を中心にメモを作成しました。わざわざ教科書の抜き書きのようなメモを作成した理由は、教科書の内容が間違いではないが、アイデアを出すには不適切な解説の場合が多く、目の前の現象についてアカデミアの先生から直接指導を受けました考え方でメモを作成する必要を痛感したからです。
すなわち高分子科学は、市販されている高分子の種類を見ていると進歩が無いように感じますが、この30年大きく進歩しました。特に高分子物理に関しては分子1本のレオロジーを論じることができるくらいの進歩です。教科書も少しずつ書き換えられてはいますが、教科書という性格から大幅な書き換えは行われていないようです。
また、このような科学の進歩の側面以外に教科書では絶対に説明していない材料の寿命と靱性の結びつきも、実用商品では重要な考え方なのであえて取り上げています。すなわち「高分子材料のツボ」セミナーは、技術の観点でまとめたメモを基にした内容ですので、受講後すぐに実務に生かすことができます。また受講時間も2時間前後ですので、高分子材料の専門家の方も短時間に材料からプロセシングまで知識の整理ができます。是非ご利用ください。
このセミナーへの橋渡し役の本も先日出版しました。「誰でもわかる高分子」というタイトルで、「成長する絵本」というコンセプトで企画しました。すなわち読者からの質問を基に今後この本を成長させてゆく予定ですので、是非ご一読後質問をお寄せください。
本書は高分子に関する知識を持っていない人の為に、写真と絵を中心に分かり易くまとめました。項目毎に穴埋め式の復習問題もあるので、学習内容の確認もできます。
また、電子書籍ならではの特徴として、購読者様からの質問を受け付けその回答が毎月反映されていきます。是非ご活用ください。
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カテゴリー : 一般 宣伝 高分子
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「高分子材料のツボ」という電子セミナーを販売していますが、お客様から、初心者用でもう少し説明の易しい本はできないか、というリクエストを頂きました。「高分子材料のツボ」につきましては、専門外の方の購入を考慮していなかった点を反省し、今回「成長する絵本」というコンセプトで「誰でもわかる高分子」という書籍を出版いたしました。
「誰でもわかる高分子」というタイトルに偽りはありません。材料の破壊という現象を軸に高分子についてやさしく説明しています。さらに、読者の疑問に答えられるように質問も受け付けております。読者からの質問につきましては、定期的にまとめ、「誰でもわかる高分子」に追加してゆきます。この読者からの質問に答えることで、「誰でもわかる」という目標を達成しようと考えています。本書はストリーミング配信の特徴を生かした「成長する絵本」になっています。
今回「誰でもわかる高分子」の出版を記念しまして、「高分子材料のツボ」セミナー廉価版も質問を受けつけることにいたしました。これにより、質問券付きを廃止しました。まだ「高分子材料のツボ」セミナーをご利用になっていないお客様は、この機会に是非ご利用ください。本書は、自分のペースで学ぶことが可能で、セミナー修了後はテキストをアイデアノートとして活用して頂けます。高分子材料について問題が発生したときに、分厚い教科書と格闘する前に本書でアイデアの整理をして頂き、問題解決にあたると解決の見通しを容易に得ることができます。難しい問題につきましては弊社へご相談ください。
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高分子の難燃化技術から生まれた半導体用高純度SiC合成法という技術シーズが画期的な発明であり、CIを導入したブリヂストンの3本の柱(注1)の1本であるファインセラミックス事業の本命テーマになりうるかどうかを証明するために、超高温度熱重量天秤の開発は重要なテーマでした。しかし、無機材質研究所留学前に上司から却下されたテーマです。もし、留学前にこの企画が認められ、研究が進められておれば、半導体用高純度SiC合成法の発明に関する基本特許(参考文献1)は、ブリヂストンから出願されていたはずです。
海外留学を無機材質研究所の留学に切り替える調整まで順調に進みましたので、高分子前駆体法によるファインセラミックス合成法を基盤技術にした事業シナリオがブリヂストン研究開発本部で認知されているものと思っていましたが、留学して半年後に、全く評価されていない事が分かりました。それは、留学して3ケ月後に昇進試験(注2)があり、その3ケ月後である10月1日に試験が0点で昇進できない、との連絡が人事部より無機材質研究所に入ったからです。
昇進試験の問題は、新事業のシナリオに関する問題が出ることが事前に分かっていましたので、高純度SiCの新合成法を基盤技術として半導体事業を展開するシナリオ(注3)を用意し、試験に臨みました。試験問題は事前に聞いていた問題と同じで、無機材質研究所長から伺いましたパワー半導体用のウェハー開発までのシナリオを解答として書きましたが、それが0点という評価をつけられたわけです(注4)。無機材質研究所の電話で受けました内容は、詳細を本社で説明するので都合のつく時間に出張してくるようにとのことでした。
会社からの電話の一部始終を猪股先生は聞かれており、私に同情してくださいました。そして、「1週間だけ猶予をあげるから、自分の“思い”の研究をやってみなさい」と励ましてくださいました。私はすぐにブリヂストン研究開発本部の上司の許可を得てA氏に電話をかけ、仔細を説明し、高分子前駆体を合成するための準備をお願いしました。翌日朝9時から夜の9時まで実験を行い、高純度SiCの原料にできそうな高分子前駆体を10水準合成し、無機材質研究所へ持ち帰りました。実験をやりながら悔し涙が溢れていましたが、泣いている時間はありません。
無機材質研究所に戻り、3日間ほとんど徹夜で実験を行いました。猪股先生はじめ周囲の温かい視線に励まされ、無機材質研究所で実験を開始して3日目に黄色に輝くβSiCの粉末が得られました。100%の純度のβSiCが得られた瞬間です。
(注1) 電池、メカトロニクス、ファインセラミックス
(注2) 係長級に相当する昇進試験
(注3) 実際には、1990年に住友金属工業㈱小嶋氏と出会う(参考文献2)まで半導体事業の出口が見えず、ファインセラミックスフィーバーの中心であったエンジニアリング分野のマーケティングを行うことになる。
(注4) 高純度SiC新合成法を用いた半導体事業は、日本化学会から化学技術賞をブリヂストンは受賞し、30年経過した現在も事業が継続している。すなわち試験の解答は正解だった。
(参考文献1)特開昭60-226406、無機材質研究所から出願された高分子前駆体法によるSiC合成技術に関する基本特許(発明は1983年10月)
(参考文献2)特開平5-24818、半導体用部材開発の住友金属工業との最初の共同出願特許
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加熱しながら物質の重量変化をモニターする分析装置を熱重量天秤あるいは熱天秤(TGA)と言います。TGAでは、一定速度で昇温しながら物質の重量減少を測定したり、一定温度における物質の重量減少を測定したりできる。また、コンピューター制御できるTGAであれば、この両者を組み合わせた複雑な温度パターンにおける重量減少を測定することも可能となる。
物質は高い温度に曝せば分解する。その分解速度を計測することで物質が高温度でどのような変化をしているのか推定することが可能である。熱分解で発生してくる物質までモニターできれば便利で、そのようなTGAも開発されている。例えば炭素と二酸化珪素(シリカあるいは石英などで、以下シリカで代用)を用いて還元反応を1600℃以上で行いSiCを合成するシリカ還元法では、固相反応だけで進行するならばCOガスを発生しSiC化する。しかし、固相反応以外に気相反応も経由すると、COガス以外にSiOガスも発生する。すなわち、シリカ還元法で重量減少をモニタリングすることにより、発生ガスがCOだけなのかSiOガスの発生もあるのか、など重量減少から予測でき、さらにその反応速度を解析することにより、反応機構までわかる。
反応機構を調べ論じるだけならば、これは科学の研究であり、りっぱな学位論文となる。しかし、この研究結果は技術開発において次の2点で重要な意味を持つ。一つは、SiC化の反応を高分子前駆体を用いたならば固相反応だけでSiC化できる、ということと、もう一つは、SiC化の反応機構が反応温度でどのように変化するのか、という2点を明らかにできる。
当時報告されていたシリカ還元法の反応機構は、気相反応経由と気相反応と固相反応の両方を経由する反応が知られており、固相反応だけでSiC化の反応が進行する系は知られていなかった。気相反応を伴うので、還元剤である炭素をシリカ還元法では大過剰に用いる必要があり、SiC合成後炭素を燃焼により除去する必要があった。その結果SiCの一部が酸化され、シリカ不純物として生成物に含まれていた。また、SiOガスがSiC内部に閉じ込められる場合も報告されており、シリカ還元法では酸素不純物を完全に取り除くことができない、とされていた。
もしSiC化の反応が有機物の反応のように、均一相で単純な反応で進行したならば、酸素不純物までも残らない100%高純度のSiCを合成できるはずである。すなわち均一固相反応でSiC化できる前駆体を発明できれば、半導体分野に使用可能な100%純度のSiCを大量合成できるプロセスを開発できる。また、この均一固相反応で進行する温度領域が明確になれば、プロセス設計も容易になり、そのロバストネスも予想できる。
すなわち、SiC化の反応機構を調べる研究は、科学の研究であると同時に技術開発にも重要な研究で、もし数ミリグラムの試料でプラント建設の情報が得られるならば、数千万円かけてでも実施する価値のある研究である。もし高分子前駆体を用いる反応が均一固相反応で進行する系であることが証明されれば、高純度SiC合成プロセスの本命であることもわかり、事業の未来も明るくなる。無機材質研究所へ留学する前にTGAについて調査しましたが、SiC化の反応をモニター可能なTGAは市販されていませんでした。しかし赤外線イメージ炉が微小領域ならば2000℃前後まで加熱可能な熱源として知られていました。超高温熱重量天秤の開発は、逆向きの推論(1)から導き出された企画です。
<参考情報>
(1)「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」、あるいは「問題は「結論」から考えろ!セミナー」をご覧ください。
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SiCの線膨張率測定を行いながら、YAGレーザー加熱により得られる高温度が、極めて安定であることにびっくりしました。SiCの単結晶は、逆向きの推論(1)を用いて開発したばかりの接着剤で空間に固定され、透明石英管の中にアルゴン封入された状態であり、断熱材は使用していません。YAGレーザーで単結晶に供給されるエネルギーと外部に放出されるエネルギーのバランスが釣り合っているため、と推定されますが、YAGレーザーのパワー30%程度で簡単に2000℃の環境が得られます。
この実験は、留学後予定していたシリカ還元法の反応速度論研究に用いる実験装置の大きなヒントになりました。すなわち、シリカ還元法は1600℃以上の高温度でシリカを炭素で還元する方法であり、その反応をモニターするには、1600℃以上の高温度を瞬時に安定的に発生できる熱源と天秤が必要です。天秤は温度変化で誤差を生じますので熱源を可能な限り小さく設計する必要があります。実は、固相反応だけで進行するシリカ還元法の研究開発の戦略はできていたのですが、このときの実験で使用する超高温熱重量天秤の熱源について、逆向きの推論(1)から得られた、可能な限り狭い領域だけを加熱できる赤外線イメージ炉を採用する予定でおりました。しかし、赤外線イメージ炉よりもさらに狭い領域を安定に加熱できる熱源のヒントが、この実験から得られたわけです。
科学では、ある仮説の正しさを証明するために実験を行なわなければならない場合があります。いくら仮説が正しくとも、仮説を支持しない実験データが得られたならば、その仮説の信頼性は下がります。ゆえにどのような実験を行うのか、実験計画や実験に使用する装置が重要になってきます。重量減少をモニターし、反応速度を求める実験では、時々刻々と変化する重量を精度良く測定できる天秤が必要で、室温から1500℃までの温度変化程度ならば、精度の高い重量変化を追跡できる熱重量天秤が開発されておりましたが、SiCの反応温度1600℃以上で重量減少を計測できる超高温熱重量天秤については、新たに開発する必要がありました。
このSiCの線膨張率測定実験を開始してから1年半後、2000万円かけてYAGレーザーと赤外線イメージ炉を併用した2000℃まで測定可能な超高温熱重量天秤の開発に成功しますが、研究開発における実験の位置づけを考えると、実験装置の設計は研究者自ら行う必要があり、また、ユニークな実験方法であれば、それがまた新たなアイデアを生み出す基になりますので、実験そのものも自ら率先して行うことの重要性を学びました。高温度におけるセラミックス単結晶の線膨張率を直接計測する装置は、井上善三郎博士の考案によるもので、大変ユニークな研究者でした。ただ、ユニークな装置も2000℃という高温度まで耐える接着技術が世の中に存在しなかったために、1000℃までの実験装置として使わなければなりませんでした。そのような状況で、逆向きの推論(1)を用いて、2000℃以上まで耐えられる接着技術を開発し貢献できましたので、超高温熱重量天秤にYAGレーザー加熱を組み合わせるアイデアの使用を許可して頂きました。
<参考情報>
(1)「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」、あるいは「問題は「結論」から考えろ!セミナー」をご覧ください。
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