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2013.07/09 科学と技術(静電気5)

昨日、抵抗(R)成分のクラスターが増加すると低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値が増加する現象について数値シミュレーションを行ったことを書いた。この現象とその理解は、帯電現象を機能として活用している電気粘性流体用の粉体や、レーザープリンターや複写機部材の材料設計技術に転用できる。

 

91年にゴム会社から写真会社へ転職したときに最初に帯電防止技術を担当したのは幸運であった。実は、転職直前ゴム会社で半導体用高純度SiC技術についてS社とJVを立ち上げの傍ら電気粘性流体用の粉末開発を手伝っていたからである。

 

電気粘性流体用粉末の開発テーマでは、技術者の心眼で発想した3種類の機能性粉末を開発したが、実際のところ電気粘性流体の科学的な意味を当時充分に理解していなかった。また、特許情報も含め重要文献をお手伝い担当者には見せて頂けなかったことも幸いした。

 

過去の重要文献等見せて頂けなかったおかげで自由な発想ができ、1.コンデンサー分散型粉末、2.傾斜組成機能粉末、3.超微粒子分散型複合微粒子という3種の独自の粉末を開発することができた。おそらく開発メンバーはこれを期待していたのだろうと今はこの時のことを楽しい思い出としている。

 

この電気粘性流体の3種の粉末をどのように発明したのか。それは、弊社の問題解決法を用いたのである。弊社の問題解決法では、現象として起こりうる場合と起きない場合の2つの事象を必ず考える。すなわち全ての事象を考える容易な方法は、Aという命題とその命題対して全否定のAを考える方法である。それにより、2と3の粉末の設計が自然と浮かび上がる。1については3においてコンデンサーが分散したら面白い、という発想から出てきた。

 

言葉遊びのような形で発想した技術であるが、実際に粉末を合成してみたら、当時存在したどのような粉体よりも性能の良い電気粘性流体ができたのである。科学的で無くとも機能を追究した言葉遊びで技術というものを創り出すことができるのである。

 

人生とはまことに奇妙で、定年退職前の5年間にカラーMFP用中間転写ベルトを担当する機会が巡ってきた。このベルトは半導体ベルトで、トナーを静電気力により感光体から引き取る役目をする。このベルトの材料設計では、電気粘性流体の開発経験やインピーダンスの評価技術など帯電防止の材料設計技術をすべて動員したが、できあがったベルトは凝集粒子分散型材料で、この凝集粒子の凝集状態をプロセスの中で制御する、少し難易度の高い混練技術と成形技術を使用している。

 

*弊社の技術アイデアを生み出す問題解決法に関心のある方はお問い合わせください。

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2013.07/08 科学と技術(静電気4)

高分子材料の力学物性についてはゴム会社で勉強した。半導体用高純度SiCを開発したときに、ヒーターの開発なども行ったので電気物性について力学物性と同様勉強していた。しかし、それは無機材料の電気物性である。無機材料では科学的に見えた電気物性の論文と同じような論理で書かれた論文が、高分子材料を対象とした内容であるとなぜか科学的に怪しく見える。

 

フィルムの誘電率について低周波数領域で異常分散が現れる現象は、すでに報告されていた。高分子の一次構造や不純物により生成するエレクトレットとの関係で論じられていた。どれも仮説としては正しいが、科学的に厳密な説明の成された論文は少ない。

 

中には抵抗とコンデンサーの組み合わせモデルで説明している論文もある。データをマクロ的に把握するには良いだろうが科学的ではない。これらの研究の中には、科学的な厳密さにこだわって、実験の切り口を工夫した優れた論文もあった。科学的だろうが非科学的だろうが、技術開発を行うときにどれも参考になる。

 

しかし、フィルムで発生した静電気と、ゴミの付着し始める距離について、交流を用いた評価結果との関係で論じた論文は存在しなかった。「驚くべき結果」が得られたので、特許出願を行ったが、同じ時期にドイツで同様の発明が成されていたことに驚いた。

 

インピーダンスの絶対値とゴミの付着距離との高い相関関係を科学的に厳密に説明することは難しい。しかし、この現象を技術の発明に生かすために、モデル実験を行った。

 

仮説は、抵抗(R)の性質を示す成分が増加するとインピーダンスに影響が出る、すなわちRの成分のクラスターが増加すると低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値が増加する、という内容である。この仮説をn個のRと(n-k)個のコンデンサーの接続モデルを用いて数値シミュレーション(注)を行うと、計測結果と同様の低周波数領域で異常分散を示す結果が得られる。

 

酸化スズゾルを分散した薄膜をPETやTAC、PENに塗布して実験を行ったところ、数値シミュレーションと同様の結果が得られただけでなく、パーコレーション転移の検出にインピーダンスの絶対値を用いると検出力の高い評価方法ができることが分かった。

 

低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値がR成分のクラスターのでき方に大きく影響を受けること、そしてそれがパーコレーション転移の検出方法に使用できることなどは、科学的論理で説明がつくが、それが静電気の現象とどのようにつながるのかは、技術者の心眼に見えても科学的に不明のままだ。

 

(注)本件は福井大学客員教授時代に青木幸一教授と共同で行った研究で、カナダで開催された国際写真学会で報告した。

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2013.07/07 科学と技術(静電気3)

「健康のために吸い過ぎに注意しましょう」と箱の横に小さく書かれている。本来タバコは吸わない方が良い。科学的にはよく分からないが、何故かフィルムの低周波数領域におけるインピーダンスの絶対値とタバコの灰付着距離との高い相関が確認されたので、タバコの灰付着テストを廃止した。

 
同じ時期にAGFAから、発振回路を用いたフィルムの抵抗測定法とその方法で評価した写真感材に関するパラメータ特許が公開された。発振回路のRに相当する部分にフィルムをセットし、静電容量を変化させながら共振点を探す測定法である。共振点における静電容量とRを求め、そのRをフィルムの体積固有抵抗とする巧みな方法だ。

 

この測定法で得られるRの値は、フィルムのインピーダンスを測定したときにコンデンサーと抵抗でつくるモデルを工夫してやると同じ値が得られる。AGFAの特許はセンサー部分も特殊な形状に設計した治具を使用していたが、市販電極で簡単に得られるパラメーターをわざわざ難しく見せている、と感じた。

 

ドイツ人のマニアックな発明と言ってしまえばそれまでだが、APSフィルムの五社連合(EK,F、ニコン、キャノン、ミノルタ)から仲間はずれにされたフィルム会社で、似たような発想によりフィルムの新しい帯電防止評価技術を開発していた点を指摘した人がいた。AGFAの特許もAPSで使用されるだろうPENフィルムをうまく権利範囲に含めていた。

 

しかし、特許のクレームを読むだけではそれがよく見えない。PENは、カラーフィルムに使用されていたTACよりも誘電率が高いので、フィルムのインピーダンスを評価すると少し高めになる。そこに気がつけば特許の本当の出願目的が見えてくる。当方も類似の発明を出願していたので、成立がどうなるか心配だったが、AGFAも当方の特許も成立した。

 

面白いことに異議申し立ては一件も無かった。特許は権利書である、とよく言われるが、科学と技術の違いを良く心得ていないと発明の真の目的が見えにくい事例である。
<明日に続く>

 

*本稿のインピーダンス法についてご興味を持たれた方はご相談ください。

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2013.07/06 科学と技術(静電気2)

フィルムが帯電した後、帯電電荷はどのようになるのか。帯電したフィルムの電荷が減少する様子は、電荷減衰を評価すればおおよそ理解できる。この電荷減衰の測定法では、単位電荷をフィルムの表面に与え、それが減少してゆく様子を電位の変化でモニターする。この評価法もその回路からわかるように直流的な評価法である。

 

約20年前帯電防止技術に用いられている評価法を調べてみると、実技評価以外は直流法と分類できる評価法だけだった。帯電現象の可視化技術の評価結果をみると電荷は振動しながら減少している。この結果を見るとフィルムの抵抗を交流で計測したくなる。既製品としてフィルムの誘電率を計測するための電極があったので、周波数を掃引しながらインピーダンスを計ってみた。驚くべき事に、フィルムの帯電防止処理方法により、低周波数領域で大きな変化が現れたのだ。

 

電気の専門家に相談したところ、その変化と測定法の問題とどちらが大きいのか、と言われた。すなわち100Hz以下の領域には測定ノイズが乗りやすいのだそうだ。その専門家に検出器のシールドの方法の指南をうけ、出前に使う“おかもち”のような金属箱を作った。厳密な測定環境を整え低周波数領域のデータを収集したところ、直流法の評価技術では見えなかったところが見えてきた。

 

しかし、見えてきた、といっても心眼で見えただけで科学的な説明ができる状態では無い。見えてきた方向でデータを整理してみると、これまでの評価法のどれよりも実技データとの相関が高いのだ。特にJIS法にもある「タバコの灰付着テスト」では、静電気で灰が付着し始める距離とインピーダンスの絶対値とが相関係数1で極めて高い相関を示したのだ。

 

それまでの直流を用いた評価技術では、実技テストと相関しない場合があったので、必ず何か一つ実技テストを開発初期段階でも行っていた。タバコの灰付着テストは、すいたてのタバコの灰が必要なので、嫌煙ムードの広がる中、実験をやりにくい状況になっていた。会社の消耗品費でタバコを買って実験を行っていたのだが、この実験をたった一人の愛煙家が喜んでいる状況だった。フィルム会社の実験なので大量のタバコの灰が必要だった。

<明日へ続く>

 

*インピーダンスを用いた帯電防止評価技術についてご興味がございましたら、弊社へお問い合わせください。

 

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2013.07/05 科学と技術(静電気1)

静電気の科学は、進んでいるのか遅れているのかよく分からない分野である。例えば帯電現象が科学的に解明され、その機構も実験結果とともに理論的に説明されているのは金属で生じている現象だけである。このように書くと直感的に不思議に思われるかもしれないが、金属でも帯電するのである。

 

20年ほど前、武蔵野工業大学で帯電現象の可視化技術が開発された。ピエゾ素子を用いた装置で微小電荷の動きを検出し、コンピューターでその時間変化を記録し可視化しているのだが、残念なのは実験結果を厳密に説明できる場合ばかりではないのだ。評価法は恐らく間違っていないのだろう。しかし測定された現象について全てをうまく説明できない。

 

測定法の問題では無く高分子材料というサンプルに問題があるのだが、そのような問題があるためかT先生は評価「技術」として説明されていた。科学的に厳密に説明できなくとも、この評価技術のおかげでフィルムの帯電現象を眺める技術者の心眼に自信ができた。そしてそれまで直流を用いて評価されていたフィルムの帯電防止に関する評価技術を見直すきっかけになった。

 

絶縁性の樹脂フィルムの帯電現象は複雑である。いろいろと現象を眺めていると教科書に書かれているような理想的な電荷の偏りにはなっていないと思われる。その可視化技術の評価結果によれば、帯電した一部の電荷はフィルム内部の中央あたりに長い間いつまでも滞留している。また、表面の単位電荷の拡散は、帯電防止処理がされていても、その拡散速度は意外に遅い。これはフィルムの表面比抵抗の測定で、経験的に一定時間放置してからデータを読まなければならないことと対応している。精度の高い電流計を用いれば電場をかけてから電流が安定するまでの様子を見ることができる。

 

フィルムの帯電防止処理方法あるいはフィルムの体積固有抵抗が異なればこの測定状況は変化する。そのためフィルムの表面比抵抗は、ISOの規格に従い測定しなければならないが、規格通り測定しているから帯電現象を説明できる評価がうまくできているのか、というとそうではない。科学的には、材料の一特性として規格通り測定されたデータに過ぎないのだ。フィルムの帯電防止に関するこのスペックを用途に応じて変えなければならない原因にもなっている。

(明日に続く)

 

*フィルムの帯電防止処理に関し、ご相談事項がございましたらお問い合わせください。

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2013.07/04 科学と技術(電池)

リチウム二次電池の開発は1970年頃から盛んになり、正極活物質材料がいろいろと研究された。正極材料として層状化合物もTiSやTaSなどが研究された。1980年には、LiCoO(層状岩塩型構造)が電気化学的手段によりホストゲスト系としてLiを可逆的に出し入れできることが論文に出ている。そしてその論文には、4Vの起電力があることもさりげなく書かれていた。

 

以上は1980年頃のLiイオン二次電池の科学の状況だが、Liイオン二次電池の実用化は同じ時期にポリアニリンを正極に採用し、ブリヂストンで成功する。すなわち科学的にホストゲスト系のLiイオン二次電池の可能性が示されていたが、技術として最初に登場したのはポリマーLiイオン二次電池である。この技術は白川先生の導電性高分子の発見に触発されてブリヂストンで企画された。

 

当時のブリヂストンは、世界ランキング6位、国内ランキング1位のタイヤメーカーで企業名もブリヂストンタイヤ株式会社だった。この時故服部社長は将来のブリヂストンの姿としてタイヤも扱うケミカルデバイスメーカーを夢見ていた。創業50周年を記念してCIを導入し、社名からタイヤを外しブリヂストンと改名するとともに、電池、メカトロニクス、ファインセラミックスの3分野を未来の事業を牽引する3本の柱とした。

 

この3本の柱が何故決まったか。それは、電池についてはポリアニリンのリチウム二次電池が、メカトロニクスは電気粘性流体やラバチュエーターの技術がそれぞれ育ちつつあったからだ。ファインセラミックスは通産省のムーンライト計画が引き金となり、セラミックスフィーバーが起きていたためである。ファインセラミックスについては、研究陣に投げかけられた宿題となった。

 

さて、ポリアニリンLiイオン二次電池はどのようになったか。研究開発開始から10年の間に事業化され日本化学会賞まで受賞したが、その後事業を中止したのである。企画した中心人物は転職した。何故かという理由はここで述べないが、多くの本に書かれているLiイオン二次電池の歴史にこの技術が載っていないのが不思議である。当時科学としてポリアニリンLiイオン電池の性能は悪いことは分かっていたはずだが、技術として最初に完成できたのは機能発現の設計をやりやすかったためである。技術の成果としてもう少しとりあげても良いように思う。

 

この電池という分野は混練と逆の意味で科学と技術の違いを理解するために良い対象である。すなわち、混練では科学的に未解明な現象が多いにも関わらず技術として発展しているが、逆に科学的に解明されたからといってすぐに技術が完成するわけではない事例が電池である。見つかった真理ですぐにロバストネスの高い機能を実現できないのである。

 

このことを経営者に理解せよと言っても無理で、技術者が誠実に真摯に開発活動を行う事によってのみ、経営者の理解が得られる。賞を目当てに企画したのでは良い事業など企画できない。ちなみに当時のブリヂストンの3本の柱の中で30年以上事業が継続している事例がある。学会発表も最低限に抑制し、ただひたすら事業化に向けて開発が進められた半導体用高純度SiCの技術、すなわちファインセラミックスの柱である。当初の立ち上げは課単位であったが、その後一人の担当者で5年間の開発期間を経て住友金属工業とのJVとして事業をスタートした。

 

*高純度SiCあるいは電池につきましてご相談事項がございましたらお問い合わせください。

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2013.06/16 科学と技術(主成分分析法)

タグチメソッドで多変量解析といえばマハラビノスタグチ法であるが、多変量データの組を単純に分類するだけならば主成分分析法が便利である。

 

例えば、半導体微粒子を絶縁オイルに分散した電気粘性流体(ERF)がゴム製の容器に封入されている。耐久試験を行ったところ增粘してきた。ゴム容器からゴムの配合成分がERFへ溶け出したため、と推定される。

 

この問題の解決には界面活性剤が有効であるが、水に油を分散する場合、あるいは油に水を分散する場合ではそれぞれ用いる界面活性剤の構造が異なることはよく知られている。しかしERFには水は入っていない。界面活性剤、というアイデアにすぐ結びつかない人もいる。さて、どうするか。

 

半導体粒子とゴムからの抽出物、そしてオイルである。ゴムからの抽出物が、半導体粒子とオイルに作用して增粘している様子が頭に描かれると、水と油の関係で無くても界面活性剤で問題解決できそうだ、というあるべき姿が見えてくる。しかし、そこまで見えてきても、界面活性剤は星の数ほど世の中に存在する。この後どうするか。

 

界面活性剤に詳しい人ならばHLB値という界面活性剤の分子構造の指標を頼りに探索する。しかし水と油の関係ならばHLB値で何とかなるが、今回の場合には、有機物の微妙な界面相互作用を界面活性剤で制御しようというのである。HLB値だけで考えて問題解決できる、と思う人は弊社の問題解決法のプログラムを勉強する必要がある。弊社の問題解決法では、このような短絡的な思いつきアイデアよりも有効なアイデアを導き出す方法を伝授している。

 

PRはさておき、頭のいい人の場合は、增粘した物質を解析してその結果から界面活性剤を選ぼうと考える。実際の現場でもこのような科学的アプローチが取られていた。そして界面活性剤では不可能だ、という結論が出されていた。

 

詳細は省き、とりあえず答を書くが、科学的結論が間違っていたのである。この場合は、界面活性剤の公開されている情報(多変量データ)を主成分分析にかけ世の中に存在する界面活性剤を分類する。そしてできあがった分類マップから、代表例の界面活性剤を一つづつ選び、增粘したERFに添加してみる。そして少しでも改善されたなら、その効果のあった界面活性剤の属するグループの界面活性剤を增粘したERFに添加して最良の状態になる界面活性剤を選ぶ、という方法が有効で、実際に問題解決できた。すなわち泥臭い刑事コロンボ型で問題解決するのがベターな方法である。

 

この問題解決を行ったのは20年以上前(ゴム会社を転職する1年前)であり、マハラビノスタグチ法を知らなかった時代であるが、知らなくて良かった、と思う。単純に界面活性剤を主成分分析してグループ分けをする、という手順が今でも最良の解決方法だと思っている。

 

主成分分析は、科学的統計手法として心理学の分野や経済学の分野でもよく使われている。既製服のA体、B体、AB体などの分類も主成分分析で決められる。因子分析の一手法であるが、全体の変動の大きな順に主成分が並べられるので便利である。興味のある方は多変量解析を勉強してみてはどうだろう。技術の分野でも重宝する手法だ。

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2013.06/12 科学と技術(タグチメソッド7(帯電防止薄膜の基本機能))

写真感材用フィルムの表面処理技術について田口先生から御指導を頂いた時の話。酸化スズゾルを用いた帯電防止薄膜について、基本機能の議論で田口先生も楽しまれていた。

 

帯電防止薄膜は半導体薄膜なので、それまでの事例では導電性を基本機能としてみなし直流で測定されたVI特性を動特性として使用していたそうだ。その事例に対し、インピーダンスを基本機能にした方が良い結果になる、と提案した。動特性を直流で計測するよりも交流で計測してL18を行えば、電気特性を計測しても薄膜の接着力という力学特性まで評価していることになり、基本機能のSN比を改善したときに薄膜の物性すべてが改善された結果になる、まさにこれこそ基本機能だ、と提案した。

 

なぜ直流で測定するよりも交流で測定した動特性の方が優れているのか。理由は交流で測定した場合には情報量が多くなるからだ。直流で計測した場合には容量成分を見ていない。しかし、交流で測定すると容量成分を見ることになるので、膜の付着力をテストする誤差を調合して実験すると、この容量成分に誤差の結果が大きく反映されるからだ。

 

直流で計測した場合にも膜の付着力のテスト結果は少し反映され、基本機能としての役割をしているが交流で計測した方が誤差因子に対して大きく影響を受けた結果を得ることができる。

 

実際に調合予定のそれぞれの誤差因子に基本機能がどれだけ影響を受けるのか実験をしてみたところ、交流で計測した場合には全ての誤差に計測結果が影響を受けるが、直流で計測した場合に幾つかの誤差因子に影響されないケースが観察された。

 

基本機能の動特性を用いて実験を行い、SN比を改善すると、システムにおける全ての品質項目が最適化される、という点がタグチメソッドのセールスポイントだが、これを胡散臭く思っている人もいる。しかし、帯電防止薄膜についてインピーダンスを動特性に用いてタグチメソッドの実験を行ったところ、帯電防止薄膜のシステムについて全ての品質項目が改善された。このテーマのコンサルティング結果について田口先生は大変満足されていた。

 

<明日へ続く>

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2013.06/05 科学と技術(酸化スズゾル6)

結晶については、分析データを用いてどのような結晶であるかを議論できる。各種分析結果から同定された結晶についてその物性を議論すれば、誰でもどこでもその議論を検証できる。

 

伊藤・犬塚共著「結晶の評価」(1982)には、固体であって結晶性でない物質を非結晶または無定形と呼ぶ、と書かれている。前者にはnon-crystalline、後者にはamorphousと英語読みがふられており、さらに結晶の細かい分類について英語で記述し、日本語の記述を避けている。結晶という言葉に対するこの本のこだわりから結晶ではないものを定義する難しさが伝わってくる。

 

さらにこの本では、アモルファスに対して非晶質ではなく無定形という言葉だけをあて、本の中に非晶質と言う言葉はどこにも出てこない。アモルファス金属などが世の中に登場し、すでに実用化が始まっていた時代の教科書である。もちろんガラスは昔から知られていた。だから、意図的に非晶質という言葉を外しているのかもしれない。この本では、タイトルどおり結晶という物質をどのように評価し定義づけるのか、という点を厳密かつ明確に記述している。

 

一方で結晶ではない物質については、未だに科学としての研究は続いている。アモルファスについては曖昧のままだ。例えば電子顕微鏡で探しても結晶など見つからない状態の物質でもX線の散乱ではブロードの信号が現れたりする。潜晶質とも呼ばれているがこの言葉は金属以外の分野であまり聞かない。ちなみに潜晶質と呼ばれる物質は、先の教科書によれば結晶に分類されない。また無機化学の専門家10人にヒアリングした結果でも、9人までが無定形あるいは非晶質と解答している。

 

ただ、潜晶質のデータを結晶と答える先生がいらっしゃることも事実である。「あの先生はご自分で実験をやったことの無い先生だから」という批判やここでは書けない辛辣な言葉もあったが、いろいろ調べてみると古くから鉱物学をやってこられた先生は粉末x線の回折にブロードのピークが現れていてもその位置が期待された位置だった場合に結晶と見なすらしい。

 

これは結晶という言葉の起源を探るヒントになる。ある先生がここだけの話、とひそひそ話として教えてくださったのだが、結晶とか非晶とか結構いい加減に扱っている研究者が多いとのこと。

 

(注:確かに高分子の結晶と無機の結晶では少し異なるところがある。高分子の非晶質状態に至っては、無機のガラスと異なる挙動をとる場合もあるのに無機ガラスと同様の考察が進められている。科学ではそれで良いのかもしれない。しかし、技術では無機のガラスと高分子のガラスが異なるという認識を持つことはアイデアを出すために重要な時がある。)

 

その先生曰く、結晶とは鉱物学から生まれた言葉で、もともとは目で見て規則正しい形をしている物質に対して与えられた言葉とのこと。大きな結晶は、砕いて小さくしても規則正しい形を保っている、それが結晶の言葉の起源、と言うのである。昔はX線ぐらいしか分析手段がなかったから、目で見て結晶かどうか分からない物質はX線で分析していた。

 

鉱物学の分野ではあらかじめ目視段階で構造の予想をつけているから、ブロードなピークだろうがなんだろうが、期待された位置に回折ピークが現れれば、それで分析データとして充分だった、と言うのである。結晶という言葉の成り立ちから考えると、潜晶質を結晶ととらえる学者が鉱物学の流れを学ばれた先生にいらっしゃる理由を理解できる。

 

特公昭35-6616に記載された酸化スズゾルのx線回折データは、ブロードだがそれでも比較的シャープに回折ピークが現れる。しかし、酸化スズであれば現れなくてはいけない位置のいくつかにまったく回折ピークが出ていない。すなわちX線の反射面が存在しないのだ。電子顕微鏡観察では、ところどころ数層であるが積層状態を見つけることが可能である。しかし、それを結晶というのには無理がある。だから特許には非晶質と書かれていた。

 

特許の出願された時代の科学的成果を論文から考察すると、わざわざ非晶質と書かなくても結晶質の酸化スズまで含めた特許として成立した時代である。驚くべき成果として特許は出願されていたが、その結果、この特許の5年後にアンチモンドープの結晶性酸化スズによる帯電防止層の特許が出願され成立している。昭和35年の発明でわざわざ非晶質とこだわり特許が書かれていたことに改めて驚いている。

 

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2013.06/04 科学と技術(酸化スズゾル5)

タグチメソッドで最適化された酸化スズゾル水溶液に含まれる非晶質酸化スズの体積固有抵抗は10000Ωcm前後で安定して合成できた。また、この程度の導電性であれば、帯電防止層を設計する時に最適な値である。

 

帯電防止層は、酸化スズゾルをラテックスに分散した溶液をPETフィルムに塗布して製造する。帯電防止層の表面比抵抗は10の10乗Ω程度あればよいので、導電性粒子の体積固有抵抗は10000Ωcmもあれば充分である。パーコレーション転移の安定化の観点からは、タグチメソッドによる実験で最適な透明導電性材料が得られたのである。

 

過去の技術を見直し、すなわち温故知新ですばらしい技術ができた。公知技術を用いて完成しているので1000件以上あるライバル会社の特許も気にする必要が無い。この非晶質酸化スズゾルを用いた帯電防止層は、アナログからデジタルに移りつつあった感材の新製品に使用されるすべての支持体に採用され、化学工業協会から技術特別賞を頂いた。

 

この技術開発を行いながら、科学の視点でも非晶質酸化スズを見直した。その過程で驚くべき事実に遭遇した。無機化学の世界では偉い先生なのでお名前を伏せるが、10人中9人の学者が非晶質と答えた分析データを結晶との区別ができなかったのだ。この事実から改めて結晶という言葉の科学的意味を調べてみたら、無定義用語に近い言葉であることがわかった(1995年の出来事)。

 

ガラスには定義が存在したが、結晶については明確な定義が無く、非晶質との境界が不明確なナノ結晶などという言葉も存在する。例えば完全非晶質なカーボンを合成しても、粉末X線で測定すると低角側にブロードな反射がわずかに現れる。TEMでカーボンの結晶を探しても存在しないが、わずかに積層しているような構造が観察される。しかし、TEMで層間距離を測ってみても一般のカーボンよりも広い。

 

この材料を2000℃程度で処理を行うと徐々にカーボンの結晶らしきものがTEMで見えるようになるが、粉末X線の反射像はブロードのままだ。すなわち結晶と非晶の区別に明確な境界線を引くことができない可能性がある。そこで複数の分析データが必要になり、それらを組み合わせて非晶と判断することになる。非晶質体を科学的に研究しようとするとこのあたりの難しい問題が存在する。

<明日に続く>

 

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