学生時代にパチンコにはまったことがある。地下鉄本山駅で降りて大学へ向かうために交差点に来るともうダメである。3方にパチンコ店があった。おまけに大学への道は、二件のパチンコ店の間を通らなくてはいけない。ここを無事通過しても雀荘の窓から友人が手を振る。男装の麗人ならば絵になるが、スズメの巣のような頭のヒゲズラである。集団遊戯は時間調節が難しいが、一人の遊戯は自分の意志で時間調節ができる、とくだらない理屈でパチンコにはまった。
当時のパチンコ台の盤面は、ガラス製であった。まれにガシャーンと大きな音がする。負けが込んでキレた客が台を叩きガラスが割れた音である。このような客を相手にするパチンコ屋も命がけである。パチンコ台のその他の材料は、木材とセルロイドであった。
先日数十年ぶりにパチンコ店に入って驚いた。チューリップがどの台にも無い!さらに驚いたことに音も静かである。玉が盤面のガラスに当たる刺激的な音が皆無でヤクモノのミュージックが店にあふれている。ここはどこだと叫びたくなるぐらいの違和感があった。よく見ると、なんと盤面はすべて樹脂製である。ものすごい材料革命だ!それと同時にパチンコの客が減った理由も理解できた。玉がガラスに当たる刺激的な音こそパチンコの魅力の一つであったはずだ。耳の穴にパチンコ玉や百円玉を詰めていた客も絵になった。そんな客もいない。
久しぶりにイスに腰掛けて遊戯を開始するとあっという間に玉は静かに台に吸い込まれた。本当に静かであった。その瞬間ケミカルアタックが心配になった。パチンコ台には至る所にオイルが使用されている。また、そのためパチンコ玉の表面は油で汚れている。恐らくパチンコ台の材料革命はケミカルアタックとの戦いであったはずだ。
昔使用されていたセルロイドはケミカルアタックに比較的強い樹脂だ。セルロイドを溶解する溶媒はメチクロぐらいである。昔読んだ、元旭化成の役員の上出先生の論文によればアセトンも良溶媒となっているが、アセトンへセルロイドを溶解するためにはそれなりの技術がいる。このようにセルロイドは、それを溶解する溶媒を探すのが難しいくらいの樹脂だからその辺の油では容易に膨潤しない。ゆえに昔のパチンコ台はケミカルアタックの問題から解放されていた。
ところが今のパチンコ台にはポリカーボネートやアクリル樹脂のようなものが使用されている。目にIR分析の機能が無くても叩けば分かる?タネを明かせば取り外されていたパチンコ台を店員に頼んで見せて頂いたのだが、至る所に樹脂が使用されており、樹脂名が印字されている。これらの樹脂はケミカルアタックを受けやすいはずであるが、盤面を観察してもひび割れやクラックは見当たらない。大発見であった。
事務機で発生すると大問題となるが、滅多に発生しないケミカルアタックだったので対症療法しか開発経験は無く、また樹脂メーカーもユーザーの責任に転嫁する場合ばかりだったのでSP値程度の考察しかしてこなかったが、パチンコ台の樹脂化ではケミカルアタックの嵐が吹き荒れていたはずで、多くのケミカルアタック解消技術が開発された可能性がある。
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二軸混練機を用いた場合に、教科書に書かれているような使用方法ではバンバリーとロール混練によるバッチ操作以上に混練を進めることが可能なプロセス設計は難しい。しかし、この連続式混練機の改良努力は現在でも行われている。
例えば量産設備は難しいが、10年以上前に開発された毎分1000回転以上の高速混練機で、剪断流動でもナノオーダーの分散を実現できることが示された。またポリマーアロイの研究者として有名なウトラッキーの開発したEFMでは既存の連続式混練機の先に取り付けるだけで伸張流動によるナノオーダーの分散が可能である。但し何段階もの細い隙間を通す必要から量産性は無い。
ウトラッキーは細い鋭利な隙間で発生する伸張流動に着目したが、隙間がある距離で並行に続くと壁面では剪断流動となる。すなわち隙間を広げれば壁面で発生する剪断流動でウトラッキーの装置よりも吐出量を上げた混練が可能となる。この点に着目して写真会社から連続式混練機の先に取り付ける新しい混練装置が特許出願された。
この方法の面白いところはカオス混合と類似の現象が発生している点である。実際にこの装置を用いると混練レベルを大幅に上げることが可能で、特許にDSCのTg変化で示したようにPPSと6ナイロンが相溶する。このアイデアの改良を現在も続けているのでご興味のある方はお問い合わせください。
さて、連続式混練機のもっと面白い使用方法は無いかと調べてみると、詳細のノウハウは開示されていないが、ベント孔から粘土鉱物のスラリーを樹脂の流動方向と反対に流し込み他のベント孔から水を水蒸気として取り出す力業を見つけた。この方法で粘土鉱物を樹脂にナノオーダーで分散させることに成功している。
粘土鉱物は層状構造なので高い剪断流動で容易に劈開する。また、層間にアミン類をインタカレーションさせて劈開しやすくした粘土鉱物もナノフィラーとして販売されている。またこの変性粘土鉱物は変性剤の種類により樹脂に分散しやすくできる長所がある。
配合処方の工夫とプロセシングの改良により連続式混練機の混練性能を上げることが可能であるが、L/Dの制約で混練時間の問題が残る。しかし、これも複数回連続式混練機を使用すれば解決がつくのでバンバリーとオープンロールの組み合わせに迫る混練プロセスを連続式混練機で行えるようになってきた。また、ラムスタットミキサーと呼ばれるバッチ式と連続式を組み合わせた新しい混練装置も4年前に開発された。
今年の高分子自由討論会では、キャピラリーの樹脂流動で発生する壁面の現象に関する発表があった。写真会社で出願された特許の現象を支持する実験結果が得られていた。ラムスタットミキサーでは伸張流動で混練が進むと説明されていたが、壁面で発生してる剪断流動により混練が進んでいる可能性がある。
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混練は伸張流動と剪断流動で混合を進めるプロセスである。前者の混合効率は悪いが微細化に効果があり、後者の混合効率は高いが分散の微細化に難点がある、と教科書には書かれている。
ロール混練では、ただ二本のロールを用いているだけであるが、剪断流動も伸張流動も発生している。面白いのは慣れてくると分散状態が目に見えるような錯覚にとらわれる。またL/Dとスクリューセグメントの制約がある二軸混練機に比較し、混練の制約がロール混練には無い。コストは上がるがオープンロールでは長時間混練しても高分子へのダメージは少ない。
バンバリーとロールによる混練はバッチ操作であり、生産効率が悪い。連続生産可能な二軸混練機の発明以来、加硫ゴム以外の高分子の混練にはほとんど使われなくなった。しかし、樹脂や熱可塑性エラストマーの混練に使用できないわけではない。もし樹脂や熱可塑性エラストマーの混練レベルに不満があるのなら、一度オープンロールを用いたロール混練を試してみると良い。二軸混練では得られないレベルの混練物ができる。
セルロースをポリエチレンに分散するにあたり、二軸混練機を用いるとセルロースの含有率を30%以上にあげるのが難しくなる。剪断力が不足するためで、この剪断力不足を解決した連続式混練機KCK(俗称石臼式混練機)が発明された。しかし、このKCKを用いても40%前後が限界である。
ノンプロ練りをバンバリーで行うと80%レベルまで分散することが可能となる。プロ練りをオープンロールで行うと、ポリエチレンに50-55%のセルロース含有率でポリスチレン同等の複合材料が得られる。この実験から、二軸混練機などの連続式混練機の位置づけがご理解頂けるのではないかと思う。
KCKはかなり剪断力を高く発生させることが可能な連続式混練機であるが、バンバリーにはかなわない。また長時間高分子を安定に混練できる、という点においてオープンロールによる混練に勝る方法は無い。
しかしプロセスコストが高くなるのですべてバージン材を用いてポリスチレン並の複合材料を製造してもメリットは無いが、ポリエチレンやセルロースの廃材を用いれば価値が出てくる。かつてフィルムの樹脂缶はポリエチレンでできており、ラボから大量に入手できた。また印画紙の廃材やオフィスの廃ペーパーも大量に工場から入手できた。もう近所に写真屋さん45も無くなり、銀塩フィルムを使う機会も大幅に減った。この技術はアナログ時代の話である。
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加硫ゴムの混練について加硫直前の混練物をプロ練り、プロ練り以前の混練物をノンプロ練りと呼ぶ場合がある。バンバリーの混練物を必ずロール混練するので、バンバリープロセスはいつでもノンプロ練りである。またロール混練については、ロール混練を何回行うかにより、プロ練りとノンプロ練りに分かれる。最後のプロセスで行われるロール混練はプロ練りとなるが、その直前のロール混練はノンプロ練りとなる。
このように加硫ゴムでは最低2回以上混練プロセスで処理される。また混練プロセスの時間について、最低でも15分以上だ。長いときにはトータルの混練時間が30分以上になるときもある。これに対して樹脂や熱可塑性エラストマー(TPE)の混練時間は二軸混練機の投入口から吐出口までの時間できまり、せいぜい10分前後ぐらいである。
加硫ゴムの価格がTPEよりも高くなるケースがあるのは、加硫プロセスも含めこのようなプロセスコストがかかっているからである。しかし加硫ゴムの性能はTPEよりも高いので、高性能なゴム材料は今でも加硫ゴムが使用されている。
加硫ゴムの混練時間が長くなるのは配合処方が複雑である点も影響している。一般に2種類以上の加硫剤はプロ練りとノンプロ練りに分けて配合される。混練時の熱で加硫が進むのを抑制するためである。高分子材料全てについて調査したわけではないが、ゴムを樹脂やTPEの配合処方と比較すると、ゴムにはおおよそ2倍前後の配合剤の種類が使用されているのではないだろうか。
混練は多数の配合剤を高分子に分散するために行われるが、混練で高分子の変性が行われていることをゴム材料開発者は認識している。しかし樹脂材料開発者は、そのあたりに関して無頓着である。有名な樹脂会社の優秀な技術者に質問してみてもそのような認識が無い。
混練時間で高分子がどのような影響を受けるのか、樹脂メーカーの技術者に理解してもらうために、実験用小型バンバリーで混練時間を変えて混練し、ガラス転移点のエンタルピーの変化を調べてグラフを作成した。このエンタルピーは高分子の自由体積部分の量と関係している。
その結果、30分以上混練しなければこのエンタルピーは安定しないことが分かった。また、混練時間だけでなく、混練温度もこのエンタルピーに関係し、溶融粘度(MFR)も複雑な変化をしている。樹脂の溶融粘度は、ロット間でばらつく因子で、この値を樹脂のスペックに入れる場合があるが、ばらつく理由もこのようなデータを整理したグラフで眺めると見えてくる。
樹脂の混練時間に比較し、加硫ゴムの混練時間は一般に長いが、それは高性能な加硫ゴムの品質を安定化するために重要であり、それを短くする研究開発も行われているが、いまだに加硫ゴムは効率の悪いバンバリーとロールで混練されている。高性能なゴムのためには重要なプロセスだからである。
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加硫ゴムの混練はバンバリーとロールで行う。ロール工程はたった二本のローラーが回転しているところで操作を行うだけだが、奥が深いプロセスである。また 危険度の高い工程でもある。ゆえにロール工程ではまず安全教育を徹底して行うことが肝要である。週に1回のKYTも含め丁寧に安全教育を行っていれば事故を防ぐことができる。混練操作はどの工程も危険だが、ロール工程の危険度は極めて高いので、これがロール工程で最も重要なノウハウである。
事故を目撃すると混練操作にもその影響が出る。自分の指をロールで挟んだことはないが、指が挟まれ、革手袋がノシイカのようになっているのを見た時には、しばらくロール作業を休んでいた。幸い指先が少しつぶれただけであったが、他人の指先でも自分のことのように思われるので不思議だ。そのくらいロール作業は危険で怖い作業であることをまず理解すること。完全自動ロール混練機というものがあれば便利で安全だが、未だロール混練機のロボットが稼働している工程を見たことがない。
初めてロール混練を行った時にその奥の深さを体感した。バンバリーで素練りされたゴムがロール上で均一になってゆく様子を眺めていると不思議な気分になる。ゴムの返しなどの技を繰り出さなくても回転しているロールに巻き付いたゴムが混練されて均一になってゆく様子がわかる。こわごわナイフ作業を行うのだが、それにより分散が改善される様子も目視で分かる。うまく混練できた、と思って加硫すると指導社員から渡された比較サンプルの物性に及ばない。
教えられたとおり行ったつもりでいた。しかし、素練りのゴムがロール上で美しくなるのを眺めていた時間は少し長かったかもしれない。またナイフ作業も恐怖心から回数が少なかったのかもしれない、などと反省して再度同一配合処方のゴムを練り始めた。
後で教えられたことだが混錬が大変難しい配合のゴムだったので、安定な品質を保つためには熟練工でも難しい操作が要求された。数時間の講習を受けた新入社員では品質を安定に混練できない配合処方をわざと課題として与えているのだからいじめに近いが、おかげで大変勉強になった。実験室で悪戦苦闘していると、先輩社員が親切にナイフの技を幾つか教えてくれた。
声が大きくがさつではあるが親切な先輩社員や、細身で柔らかい物腰の先輩社員など他部署であるにもかかわらず、かわるがわる覗きに来て、ああだこうだと指導してくださった。そのおかげで5日ほど練習して安定な品質を実現できる ようになった。
このように加硫ゴムのロール混練において、配合処方で練条件が変わる点は他の混練プロセスと同じだが、混練条件として「技」が大きく影響する点は二軸混練機と異なる。このことは教科書に書かれていない。特にナイフの使い方が問題で、現場に行くと作業性を改善するために工夫を重ねている状況を職人が自分専用のナイフを持っていることなどからうかがい知ることになる。
加硫ゴムの世界がブラックボックス化されるのは、混練の段階から属人的な「技」の因子が多く存在するからで科学だけでは実現できない世界である。 男女雇用機会均等法の精神に反するかも知れないが、ロール工程は「男の世界」だと思う。女性には危険な工程だ。
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バンバリーの使用方法にもノウハウがある。バンバリーはゴムを投入して5分から10分程度混練するだけの操作、と思っている人が多い。投入順序や混練する組成、投入量の容積比などの加硫ゴムの物性を左右する因子は多い。また、バンバリーで加硫ゴムの最終組成を混練しない場合もある。すなわち一部の添加物をバンバリーで添加せずロール混練で行う、というケースである。
また、バンバリー投入前にロールでゴムを素練りする場合もある。バンバリーの使用方法に制限は無い。但しバンバリーのロータは剪断力が大きいので長時間の使用はゴムの分子量低下を引き起こす。そのため長時間の混練は通常行われないが、ある樹脂について投入量を少なめにして30分ほどバンバリーで混練したところ、分子量低下は起きず二軸混練機では得られない効果が出た経験がある(注)。
このようなバンバリーの特殊な使用方法と混練物に与える効果のデータはあまり公開されていない。これは余談だが、樹脂の混練にバンバリーを使用する例は教科書に書かれていない。しかし二軸混練機で期待したような樹脂の混練物が得られない場合にはバンバリーを試してみると良い。バンバリーはゴム専用の混練機ではなく樹脂も混練することができ、二軸混練機では達成できないレベルの混練物が得られる場合がある。最近はバンバリーの性能を出せる連続運転可能なニーダーも開発されているので特殊な性能が要求される樹脂の混練でバンバリーを検討する価値はある。
バンバリーはバッチ操作なのでコストに与える影響も大きい。しかし加硫ゴムにおいてこのプロセスは物性に影響を与えるのでコスト重視のプロセシングになっていない場合がある。しかしバンバリーを匠に使用し加硫ゴムの物性を創り込んだ場合にこの効果は後工程のロール混練で隠れてしまう。このため加硫ゴムのリバースエンジニアリングを難しくする。
さらに加硫ゴムの混練ではバンバリーを使用せず、すべてロール混練で行う事もできるのでバンバリーのプロセスはさらにブラックボックス化される。但しバンバリー混練の効率はロール混練よりも高いので、ノンプロ練りでバンバリーを使用しないケースは稀である。加硫ゴムのリバースエンジニアリングで配合組成が分かっても物性を再現できない場合には組成物の添加順序を検討してみると良い。そこからノンプロ練りにおけるバンバリーの使用方法がおおよそリベールできる場合がある。
バンバリー投入前のゴムの素練りについては、リバースエンジニアリングで解明できない。どのようなゴムでこの操作を行うのかについても詳しく書いた教科書は無い。このあたりの技術については経験知を持った技術者に指導を受けるのが賢明である。
(注)ある樹脂について特許を出願しているが、その特許にはバンバリー投入量と投入順序の詳細を実施例に書いていない。しかしバンバリーを使用しなければ達成できない高次構造を実現している。換言すればその樹脂組成の高次構造を見ればバンバリーの使用を特定できるのである。
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ゴムはバンバリーとロールで混練を行う。この混練というプロセシングについて、その分野の参考書には、装置の説明はあるが、その作業の方法が詳しく書かれていない。ゴムに限らず他の材料の混練に関する記述は主に装置に関する説明ばかりである。しかし、ゴムや樹脂などの高分子を混練するときに装置以外で材料物性に関わる因子が多く経験知が無いと材料開発が難しくなるのが混練技術である。
すなわち装置を購入し特許の実施例をそのまま実施しても再現できない場合が多いのが混練プロセスといえる。そもそも高分子材料の物性は、プロセシングの影響を受ける、ということが教科書にも書かれていないことが問題だ。高分子は大別すると、ゴムと樹脂、そしてその中間のTPE(熱可塑性エラストマー)に分かれるが、ゴム物性は最も混練プロセスの影響を大きく受ける。
ゴムの混練プロセスは、ゴムの種類により様々である。まずこのことがよく理解されていない。バンバリーとロールを用いて加硫ゴムを混練するのだが、バンバリーとロールの組み合わせプロセスは無限に存在する。しかし、多くの教科書には最初にバンバリーで混練してその後ロール混練を行う、という記述程度しか書かれていない。これは多くの加硫ゴムの混練プロセスの一例である。
そもそも最初にバンバリープロセスが行われることが常識になっているが、ロール混練が最初に行われ、その後バンバリー、ロール混練と実施される場合もある。あるいは、バンバリーを用いずにロール混練だけでゴムを練り上げる場合が存在する。同一配合でそれぞれのプロセスで混練を行うと、混練して加硫されたゴム物性は皆異なる。どのプロセスが選択されるかは、加硫ゴムの配合により異なる。そしてゴムの配合とプロセスの組み立ては経験的に決められる。
プロセスの組み立ては経験知でノウハウの塊である。ゴム会社の指導社員は大変優秀な研究者であると同時に職人技も持っていた。ゴム材料の開発はまず職人の技を盗まなくては始まらない、というのが指導社員の口癖であった。ゆえに最初の1ケ月は毎日座学と実験室の繰り返しであった。おかげで職人技まで獲得するには至っていないが、経験知を充分に学ぶことができた。プロセスの組み立ては最初に決めなければならないが、加硫ゴムの物性により見直す必要がある重要項目、というのは大切なノウハウである。
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溶融しやすい軟質ポリウレタンフォームの難燃化に燃焼時の熱で無機高分子(ガラス)を生成するシステムを検討した。予想通り溶融物は落下せず自己消火性炭化促進型軟質ポリウレタンフォームが合成された。
燃焼面に生成したチャーを分析すると最表面にはボロンホスフェートが生成していた。また添加したリン酸エステルに相当するリンが検出された。熱分析を行った後の残渣でも同様に添加した量に相当するリン及びホウ素が残っており、このことから燃焼時にホウ酸エステルとリン酸エステルとの反応が推定された。
ホウ酸エステルとリン酸エステルの組み合わせについて15種類ほど添加量の違いも含め全部で50サンプル前後のホウ酸エステル変性軟質ポリウレタンフォームを合成し、燃焼実験をASTMの規格で行ったところ、すべてでボロンホスフェートが生成していること、さらに多変量解析結果でもホウ素の役割がリンと同程度であることなども示すことができた。
ちなみにホウ酸エステルだけではLOIは19.5までしか上げることができず、軟質ポリウレタンフォームに自己消火性の機能を付与することはできない。リン酸エステルを組み合わせたときだけLOIは21を越え、さらにTGA曲線の微分を観察すると熱分解速度が最大になる温度がホウ酸エステル無添加の時に比較して高音側にシフトするとともに熱分解速度も低下している。
しかし、ホウ酸エステルとリン酸エステルとの組み合わせにおいて、燃焼試験時における溶融物の状態がわずかに異なることを発見した。すなわちリン酸エステルの構造によっては溶融物がわずかに落下することもあるのだ。これはホスファゼン変性軟質ポリウレタンの時と異なる燃焼時の現象である。
この燃焼時の現象の差異がどこから起因するのか不明であったが、30年後PETの難燃化技術開発を行った時におおよその原因を想像することができた。恐らく燃焼時にガラスを生成する場合には燃焼面にガラス成分が集まり炭化促進反応が進むが、昨日のホスファゼン変性軟質ポリウレタンの場合では溶融物内部で炭化促進を行っている、と想像している。
この想像は現象を観察した結果であり科学的ではない。しかし、燃焼時に樹脂の分解、溶融という現象は熱可塑性樹脂の場合に必ず発生するので難燃剤の機能発現の場がどこであるかは重要である。科学的ではないが、ノウハウの知識として身につけておく必要がある。
(注)ホスファゼン変性軟質ポリウレタンフォームについては科学論文に投稿したが、ホウ酸エステル変性軟質ポリウレタンフォームはその後商品化されたために論文発表できなかった。但し学位論文には掲載許可が下りたのでそちらにまとめてある。また一部クローズドセミナーで発表しておりその予稿集には多変量解析のデータと解析結果が掲載されている。
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溶融しやすい樹脂を炭化促進型で難燃化するには、燃焼時に溶融物の粘度を高くなるような組成にすれば良い、そしてリン系の難燃剤を用いるときにはオルソリン酸として燃焼時に系外へ揮発しないように難燃剤の分子設計を行う必要がある、ということがホスファゼン変性ウレタンフォームの開発経験で得られたノウハウである。
しかし,これは難燃試験を行いながら観察して得た仮説に近く科学における定理ではない。但しリン系の難燃剤が燃焼時にオルソリン酸として揮発している現象について当時の科学論文に書かれていた。また、熱重量分析を行い、その重量減少カーブの解析や分析後の残渣を組成分析したところ、ホスファゼン変性ウレタンフォームにおいてほぼ添加した量に相当するリン成分が含まれていたが、市販の5種類のリン酸エステル系難燃剤では600℃における残渣にリン成分がまったく観察されなかった。
難燃剤の分子設計に関して科学的検証に耐えうる情報は得られたが、燃焼時の溶融物の粘度については溶融物中でホスファゼン誘導体がどのように振る舞っているのか不明のため検証が困難であった。例えば単純に軟質ポリウレタンフォームのポリエーテルポリオールとホスファゼン誘導体を混合してみても混ざらない。
ただ、系外にオルソリン酸としてリンの成分が揮発しない場合にはリンの難燃化成分で高粘度化できてドリップを防げるのではないか、と予想された。そこで一般のリン酸エステル系難燃剤を用いる時に、燃焼時の熱で無機高分子を生成する可能性のあるホウ酸エステルを組み合わせて難燃化する手法を試してみることにした。
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溶融しやすい樹脂を70%以上含む場合は、炭化促進型で難燃化が難しい、と述べてきたが、できないわけではない。開発に時間がかかるのである。もし2年程度の時間があれば、目標とする材料を開発できるかもしれない。かもしれない、と書いたのは、2年も基礎検討を行った開発経験が無いからだ。
但し、溶融しやすい軟質ポリウレタンフォームを半年で炭化促進型により難燃化した経験がある。ホスファゼンで変性した軟質ポリウレタンフォームは、ホスファゼンの添加量が7wt%前後でもASTMの試験で溶融物が生じない状態で炭化促進型の難燃化を実現している。
イソシアネート化合物とのプレポリマーを合成して反応型難燃剤に設計し軟質ポリウレタンフォームに応用した。入社2年目の成果を出せた、と思ったら始末書を書かされた。市販されていない難燃剤を使用したので量産できないことが問題になった。今から考えればこれは管理者の問題であるが、無知な新入社員が勝手にやった仕事として扱われ責任を取ることになった。当時は責任を取れるぐらいの立場になった、と勘違いして始末書を躊躇せず書いた。
後日開発管理部長から褒められたので訳が分からなくなった。始末書も初めての経験ならば、それが原因で褒められたのも最初で最後であった。サラリーマンを終えてみると開発管理部長が褒めてくれた理由がよく分かる。責任感の欠如した管理者に対して責任感のある新入社員という構図である。自分が開発管理部長の立場でも褒めたくなる。ただ、責任感の欠如した管理者をなぜ誰も注意しなかったのか、という疑問は残る。ゴム会社ではこの始末書を初めとして褒められるよりも叱られた記憶の方が多いからだ。12年勤務して多くの方から叱咤激励され大変勉強になった。
ところでホスファゼン誘導体はリンの含有率が高く、リン酸エステル系の難燃剤に比較すると同一添加量でリンの添加量を多くできる。また、一般のリン酸エステル系難燃剤は燃焼時にオルソリン酸の形で揮発するが、ホスファゼンは燃焼時に揮発せず、系内に残り難燃化の機能を果たすので、溶融物の增粘に効果がある。
しかし、いつでも增粘効果が十分に発揮され溶融物を抑えるわけではない。溶融の激しい樹脂では、ホスファゼンをかなり大量に添加しなければ燃焼時の溶融を抑えることができない。ホスファゼンは大塚化学の努力で最近価格が下がったが、まだ一般の難燃剤に比較すると高価なためコストの問題が発生する。コストのバランスを取りながら、溶融しやすい樹脂を70wt%以上含有し炭化促進型で難燃化する技術は、難易度が高く開発時間がかかる。
ホスファゼンは側鎖を変性し様々な誘導体を合成可能である。ゆえに難燃化しようとする樹脂に分散しやすい構造の高分子量体を20%程度添加(この時難燃化をしたい樹脂は80wt%の含有率になる)すれば炭化促進型の難燃化を達成できるかもしれない。しかし、その時の樹脂の他の物性については予測不可能である。溶融型システムで強相関ソフトマテリアルの設計を行い難燃化した方が経済的で樹脂の物性バランスも取りやすい。
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