最近気がついたことだが、身の回りの製品に加硫ゴムが少なくなった。ゴムのような感触の材料の大半は熱可塑性エラストマー(TPE)か樹脂に動的加硫ゴムを分散した複合材料である。自動車用タイヤは今でも加硫ゴムである。しかし、子供用遊具に使われているタイヤのほとんどは、TPEである。加硫ゴムがどうかの判別は加熱してみるとわかる。
1980年前後のころはせいぜいポリウレタンエラストマーが加硫ゴムの代替であり、材料が高価だったのでそれほど普及していなかった。しかし、加硫ゴムのプロセスコストに対して容易に射出成形できるTPEは、材料の低価格化もあり、急激に普及してきた。
手元で使用しているマウスはフィット感が良く長く愛用してきたが、材料設計が未熟なTPEのため最近べとべとしてきた。可塑剤がブリードアウトして表面付近の可塑剤濃度が高くなったためである。購入したときには加硫ゴムとほとんど変わらない感触だったので加硫ゴムと信じていたが、TPEであった。だまされたような気持ちである。
加硫ゴムを製造するためには、高分子鎖どおしを橋かけしゴム弾性が出るようにしなければならず、加硫という工程が必要である。通常10分前後の加硫のために時間が必要である。TPEは、高分子鎖が樹脂とエラストマーでできており、樹脂部分が橋かけしたような効果を出してくれるので加硫しなくともゴム弾性が得られる材料である。ゆえに射出成形で加硫ゴムのような感触の製品を短時間で成形することができる。
加硫ゴムとTPEでは、室温で使用している限りあまり材料としての感触に大きな違いを感じることはない。しかし、耐摩耗や耐熱の要求される分野では、やはり加硫ゴムのほうが諸物性のバランスが優れている。先ほどのマウスの例のように長期間使用していると可塑剤がブルームして感触が大きく変わったり、変形が激しく元の形状にもどらなくなったりすることもTPEの欠点である。加硫ゴムを完全に置き換えることが可能なプロセス性に優れた材料はまだ存在しない。
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1970年代に高分子の難燃化に関する研究が進み多くの難燃化に関する専門書が出版された。そこには主だった難燃剤の難燃化機構が書かれていた。リン酸エステル系難燃剤であれば炭化促進剤としての触媒効果とか、ハロゲン系難燃剤であればラジカル補足剤や空気の遮蔽効果などが説明されていた。しかし、多くはある特定の事例からその機構を推定しておりすべての場合に当てはまるのかどうか不明であった。
実務で高分子の難燃化研究を担当したときにこの時代の専門書にはお世話になった。あれから30年経ちましたが当時の研究成果に比較しこの30年間の難燃化研究における進歩はわずかである。これは1970年代に高分子の難燃化研究がほぼ完成したためと思われる。難燃剤の実務においても当時最も高い難燃効果として知られていた三酸化アンチモンとハロゲンの組み合わせ系を凌ぐ新たに登場した難燃剤システムは、リン酸エステルと硼酸エステルを組み合わせた系ぐらいである。
ドリップを活用した難燃システムでは、難燃剤を用いなくともUL94-V2レベルを通過する処方を開発することができる。しかし、5VBレベルになると高分子の力学物性に影響が出るくらいの難燃剤を添加しなければならないのが現在の技術である。周期律表のほとんどの原子について、その難燃効果は1970年代に明らかになったが、これは単体で用いたときである。組み合わせ効果は多数あるのでこの方面の研究開発を担当されている方はチャレンジして頂きたい、と思っています。
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絶縁体高分子に導電性微粒子を分散し成形したフィルムは低周波数領域の電気特性が導電性微粒子の添加量に応じて大きく変化する。500Hz未満の周波数依存性を調べると無添加のフィルムに比較して周波数依存性が大きくなっている。そしてその変化が導電性微粒子の添加量に応じて変化している。また、この変化の仕方はパーコレーション転移とも関係している。
高周波数領域では大きな変化が生じていないのでこの変化は、導電性微粒子の電荷二重層の影響であることが想像される。この点に気がつくとマトリックスを構成している高分子との組み合わせや、添加剤の影響をうけることも推定できる。粒子の充填量が増加しクラスターを形成するようになるとそのクラスターの効果が大きく出ることも推定されパーコレーション転移との関係が見えてくる。
こうした想像は実験データを揃えてみると間違っていないことが分かってくる。そしてマトリックスの高分子をコンデンサーに見立て、導電性微粒子を抵抗で置き換え、コンデンサーと抵抗との接続モデルを組み立て数値シミュレーションを行うと実験データによくあう結果となる。このシミュレーションは2次元で行っても実験で観察される現象をうまく表現できる。これはクラスターの成長効果の影響が大きいためで、パーコレーション転移とインピーダンスの関係を見積もるシミュレーションであることに気がつく。
この導電性微粒子分散系フィルムの低周波数領域におけるインピーダンス変化が重要になってくるデバイスとしてカラーレーザープリンターやカラー多機能複写機に使用されている中間転写ベルトや帯電防止フィルムがある。しかし、これらのデバイス評価を表面比抵抗や体積固有抵抗だけの測定で済ませていないだろうか。インピーダンスと諸特性の関係を調べると今まで見えていなかった世界が見えてくる。研究開発のおもしろさである。
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愛知県沖の東部南海トラフ海域の地層で次世代エネルギー資源「メタンハイドレート」を取り出すのに成功したと、今月12日に政府から発表があったが、まもなく2週間になる。
発表では2週間安定にガスが出るかどうか実証する、とあった。途中経過だけでも報道されるかと思っていたら、2週間近く何もニュースは無かった。特にトラブルが無いためか?
メタンハイドレートはその採掘にコストがかかるという。ゆえにコストダウンが技術課題であるが、高分子の熱分解とどちらが経済的になるのか興味深い。高分子の熱分解でもメタンガスを取り出すことが可能だからである。
廃プラスチックはサーマルリサイクルが最も経済的と言われている。しかし、石油資源から作られたプラスチックスをサーマルリサイクルしていてはもったいない、ということで、分別回収し再利用が進められている。最近高分子のガス化技術の議論を聞いたことがない。
過去に高分子のガス化技術というアイデアがあったが、ガス化にエネルギーが必要で経済的ではない、という結論が出され、その後あまり議論されなくなった。しかし、バイオエネルギーなども注目され様々なエネルギーの可能性と最近の触媒技術の進歩に着目し、高分子材料の熱分解を再度検討しても良いのではないか。効率的に、エチレンやプロピレンを取り出す技術ができれば廃プラスチックスの位置づけが変わる。
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2000年前後に環境関連の法整備がされたために樹脂のリサイクルが一気に進んだ。廃品のPETボトルは、価格が上がり現在は1kgあたり40円前後で取引されている。バージン樹脂の価格が130円/kg前後であるから、リサイクル材は約1/3の価格である。PETの原料価格は、90-100円/kgなのでケミカルリサイクルを行うならばかなり厳しい価格構成となる。
PETボトルのリサイクル材は主に卵パックなどに利用されている。食品衛生法でボトルtoボトルのリサイクルができないためである。ただしケミカルリサイクルであれば一度原料に戻すのでボトルへの活用は可能である。すなわち現在ケミカルリサイクルのボトルは流通しているが、廃品回収されたPETボトルを粉砕し洗浄しただけのメカニカルリサイクル材のボトルへの転用はされていない、と思っていたら、大手サントリーがメカニカルリサイクルのPET廃材をウーロン茶に導入したという。
本技術は、環境大臣賞はじめ幾つかの環境関連の賞を受賞したという。サントリーなのでおそらく多くの科学的な社内テストを繰り返し、メカニカルリサイクルでボトルtoボトルのリサイクルを行っても問題無し、との結論を得たのであろう。しかし一抹の不安はある。実はメカニカルリサイクル材を80%前後含む射出成形用樹脂を開発したときの経験である。
あるロットで突然射出成形品にシルバーと呼ばれる故障が多発し、射出成形できなくなったのである。原因を調べたところPETのオリゴマーが大量に含まれていた。バージンPETも含め試しにPETのオリゴマー量を調べてみたらメカニカルリサイクル材で増えていることが分かった。そして品質問題を起こしたロットでは極端に多いわけでは無いこともわかった。
すなわちオリゴマー量が多くなるとシルバーが多発すると考えると現象をうまく説明できる。そして、品質問題に出くわすまでは、ただ運が良くてオリゴマー量がすくなかっただけであった。リサイクル材を使用するリスクはここにある。すなわちバージン材では品質管理を科学的に完璧なまで可能だが、リサイクル材でそれを行うのであれば、粉砕された破片一つ一つを管理しなければならないはずである。しかし経済的にそのようなことは不可能である。
PETのオリゴマーについて体への影響は現在のところ不明である。また水への溶解も実験室で実験を行う限り問題無しとの結論が得られる。ただ、オリゴマー濃度が表面で高くなったときの試験結果は見たことがない。高分子ではオリゴマーが偏在する現象も起こりえることであり、先ほどのシルバーという故障も同様の現象で起きていた。メカニカルリサイクル材を使用した飲料用PETボトルが出回っていることを知り、最近はメーカーを確認してからPET飲料を購入することにしている。
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30年以上前寝具用ポリウレタンの開発を担当した。ポリウレタンは当時kg単価が500円以上したエンプラの仲間である。処方に依存しkgあたりのコストは100円前後変動する。この材料を発泡体にして寝具に応用していた。
すでに当時コスト競争になりかけており、高級ブランドを立ち上げても収益が増えない構造になっていた。高級寝具用ポリウレタンはややずっしり感ががあり重い。すなわち発泡密度が高いのである。発泡密度を下げればコストダウンできるのだが、このずっしりとした高級感を出せない。
そこで無機フィラーを添加し、重量感を持たせる開発を行った。無機フィラーはkg単価が安い、タルクや炭酸カルシウムが検討された。炭酸カルシウムは最も安価な無機フィラーでkg単価は40円-30円程度であった。タルクはそれより少し高い程度。ポリマーの比重は1より少し大きい程度だが無機フィラーの比重は、3前後の材料が多い。
kg単価が500円以上のポリマーに1/10以下の価格の無機フィラーを添加するので確実にコストダウンできる。さらに無機フィラーの比重が高いので、発泡倍率を上げることができ、さらにポリマーの使用量を低減できるので大幅なコストダウンが可能である。
しかしうまい話にはリスクがつきもので、この安価なフィラーを使用した発泡体のコストダウンはどこの会社も成功していなかった。一般にフィラーをポリマーに添加すると弾性率が上がるが脆くなる。すなわちポリウレタン発泡体がちぎれやすくなるのだ。フィラーを単純に添加しただけでは、5wt%の添加でも発泡体の引張強度は半分程度に低下した。
当時ポリマーに無機フィラーを添加したときの靱性の低下メカニズムは研究が盛んに行われていた時代で、社内には世間よりも数年先のデータが蓄積されていた。ゆえにこの無機フィラー添加による靱性改良の方向は分かっていた。すなわち無機フィラーの粒径を数μm未満にすることと凝集を防ぐことである。前者は分級技術で容易に対応出来るが、後者が難しい。粒径が小さくなると凝集力が増すために分散が難しくなるのだ。
分散を上げるには界面活性剤、というのが微粒子分散材料の定石で界面活性剤の探索が唯一の手段になるのだが、発泡体の場合にはセル(空隙)の制御のために界面活性剤を用いるので話がややこしくなる。異なる目的の界面活性剤の併用は技術的難易度が急激に高くなる。添加剤を技術手段として選択できない場合にはプロセシングが最後の手段になる。当時知られていたプロセシングをすべて試したがカオス混合以外に良好な分散手段は無かった。カオス混合の量産技術は当時無かった。
なんやかやと苦労しながら技術手段を探し、結局界面活性剤の合わせ技を多変量解析で見つけポリウレタン発泡体のコストダウンに成功した。可能性が有るならば、技術的難易度が高いからといって逃げるより果敢にチャレンジしたほうが解決は早かった。
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商品の帯電防止は難しい。導電性を向上させれば帯電を防げるのかというとそうではない。金属でも帯電するからである。すなわち静電気は電気をためる条件が揃うとそこに滞留する現象で、導電性を上げた場合には他の物質の静電気をもらう現象が生じる。ライデン瓶は、導体がガラス瓶の表面に塗られていることにより電気を貯めることができる。
帯電防止を行うには、表面比抵抗を10の6乗から10の11乗までの半導体領域に設計するのが経験的に好ましいとされる。研究結果によればインピーダンスの値で設計した方が実際の静電気故障とよく対応する。この結果は研究報告が少ないので特許ネタに使える。どのようにインピーダンスを測定したかにも依存し、それが特許のクレーム表現として使える。単なるパラメータ特許は成立しにくいが一ひねりすると商品に合わせた面白い特許になる。実際には科学的に同じ技術であっても、科学的な証拠が無いためにできる特許の権利書という側面を活用するネタである。
帯電防止技術に近い商品として電子写真システムがあるが、面白いのは電子写真システムに科学的に説明できない部分が未だに存在する点である。原理が説明できているから科学的に完成された商品、と思っている方も多い。しかし科学的に完璧に説明された商品であれば、教科書にもとづき製品設計を行うことができるはずだが、それができないのである。未だに経験に基づく部分が残っており、怪しい特許を量産できる分野となっている。
同じ画像形成システムであるが、後発のインクジェット(IJ)プリンターが普及したのは電子写真システムよりも機構が単純で科学的に解明しやすくコストダウンが容易だったためである。しかし、科学的にIJプリンターの限界が見えており、電子写真システムが今後も残っていく可能性が高いと思われる。電子写真プリンターの便利なところは、どのような紙に印刷しても同等品質が得られる点で、この長所は未だに他の方式がまねできないところである。
電子写真システムの科学的な解明が進まない点は、画像形成に使用するトナーを静電気で紙に転写している、電子写真のキモの部分である。大雑把には帯電防止技術と同様に半導体領域の材料でエンジン部分は設計されるが、その導電性と画質との関係は未だ経験の必要な世界である。
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難燃性を要求される樹脂やゴム部品には難燃剤が添加されている。この難燃剤が劣化する問題についてあまり注目されていない。成形された樹脂の劣化試験で難燃性もチェックし、難燃性の性能が維持されていればそれで問題無しとされる。
しかし、リン酸エステル系難燃剤の多くは加水分解が進行しても難燃性が維持される。それは難燃化機構においてリン酸の構造で働くからである。また、ハロゲン系の難燃剤であればハロゲン原子が樹脂内に残存しておれば劣化試験において難燃性能は落ちない。
難燃剤の劣化で問題となるのは、難燃性能では無く、加水分解物で引き起こされる副作用である。劣化試験の中にこの副作用を確認する試験を入れておれば問題は生じないように見えるが、それが意外な落とし穴となることがある。すなわち実験室で行われる環境試験はあくまでもモデル試験であり、市場の環境すべてを表現できていると保証されていない。
樹脂の絶縁性が要求される分野では、促進劣化試験だけでは危険で、是非成分分析も実施したい。すなわち促進試験で導電性物質が増加していないかどうかのチェックである。加水分解物が樹脂内で拡散する場合を考慮すると、促進試験を行ったサンプルの抵抗測定だけでは不十分で、導電性物質の増加も調べておく必要がある。それはパーコレーション転移の問題が潜んでいるからである。
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消しゴムを長期間、樹脂製のトレイの上に放置していたら、くっついていた、という体験は無いか?トレイがポリスチレン(PS)で、消しゴムがポリスチレンとポリブタジエンの共重合したゴム(SBR)の場合にはこのような現象が生じる。
これはSBRとPSが混ざりやすいためだ。SBRに含まれるポリスチレンの構造とトレイのポリスチレンとは同一構造なので分子間力が高まり、接触している界面で自然と分子同士が混ざり合いくっつく。1年以上放置してあった場合には、消しゴムが溶けたような状態になっている。
消しゴムとトレイの界面では、消しゴムに含まれるSBRの分子運動性の高い部分がトレイのPSの中に拡散して相溶という現象が生じている。すなわち相溶という現象は、高分子の構造が似たものどおし溶け合う現象である。このようにPSとSBRは、接触させても相溶という現象が生じる。
しかし、構造の異なるポリマーの組み合わせでは相溶は自然に生じない。水と油を混ぜた状態を想像して欲しい。二相に分離したまま放置しておいて一相になることは無い。界面も明確にできたままである。しかし、強引に撹拌すると均一になったように見える。が、すぐに油の粒が見えてきて2相に分離する。
水と油の場合は低分子なので室温で容易に分離するが、もし相溶しない2種類の高分子を高温度で混合し、急冷したらどうなるか。もし組み合わせた高分子のガラス転移点が50℃以上の場合であれば混合したときの状態を長期間維持している。すなわち混合したときの分散状態できまる構造のポリマーアロイを製造することが可能である。
例えば公知の混練方法でポリフェニレンスルフィド(PPS)と6ナイロンを混練するとその比率でコンパウンド中の分散状態が変化する。例えば一方が30%以下であれば数ミクロン以下の粒子が分散したような状態の構造であるが、一方が30%を超えた当たりから数十ミクロンから1mm程度の粒子までコンパウンドの中に観察される。
PPSに10%ほど6ナイロンをカオス混合すると透明な樹脂液が吐出される。そしてこれを急冷するとPPSと6ナイロンが相溶したコンパウンドが得られる。初めてPPSと6ナイロンが相溶した透明な樹脂液が吐出されるのを見たときに大変興奮した。高分子の相溶は分子構造が似ていなくともプロセスコントロールで実現できるという事例。特許は多数公開されている。
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高分子の混練技術についてわかりやすく説明された書籍を見たことが無い。一見学術的に書かれていても、論理の緻密さに欠ける説明も多い。混練で起きる現象は設備と混練物との組み合わせで様々だから説明が難しいのは理解できる。
混練は剪断流動と伸張流動の二つの組み合わせで進行している、と大雑把に理解できればそれ以上の内容は実技の中で習得してゆく以外に方法はない。例えば、スクリューデザインをもとにシミュレーションを行ってもおおよその温度上昇曲線は当たるが、それ以上の情報はシミュレーション技術で得られない。このシミュレーションで得られる温度上昇曲線については、数回実際に混練を経験すれば予想できるようになる。混練技術については未だに経験が学術成果に勝る分野である。
30数年前にカオス混合という神秘的な混練の概念を教えて頂いた。パイ生地や餅つきで起きる混練の現象である。ロール混練でも起きているらしい、と教えられた。教科書にはロール混練で起きる現象は伸張流動と剪断流動としか書かれていない。また、カオス混合の概念も書かれていない。最近では偏心ロールをモデルに発生した流れを解析したカオス混合のシミュレーションによる説明が出てきたが、餅つきやパイ生地で発生している練り、という説明のほうがわかりやすい。
混沌(カオス)混練だから、それを連続生産の中で行ったらものすごいことが起きるのだろう、と若い時にロール混練を行いながら考えた。高純度SiCの発明を行ってから、混練技術を担当する機会が無かったが、退職前の5年間中間転写ベルトの押出成形を担当したときに、外部の樹脂メーカーに混練技術が無く良いコンパウンドを供給して頂けなかったので、自社開発することになった。製品化期限まで半年しかないので、「ここはカオスしかない」と決断し、若い頃のアイデアを実行したところ一発で成功した。
有名なフローリーハギンズ理論では否定されるPPSと6ナイロンの相溶現象を起こすことに成功した。それもコンパチビライザーを添加しないで実現できたのである。分子量分布を計測してみても分子の断裂は起きていない。混練だけで分子レベルの混合が進行したのである。高分子学会賞に推薦され報告しましたが残念ながら受賞できませんでした。しかし、PPSと6ナイロンが相溶し透明な樹脂液が連続して吐出された状態を見たときの感動は最高でした。学術では否定されても技術では実現されている世界が存在するのが高分子物理の現状である。
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