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2012.12/02 合わせ技の難燃化技術

三酸化アンチモンとハロゲン化物との併用技術以外にホウ酸エステルとリン酸エステルとの併用技術、水酸化アルミニウムとポリイミドあるいはポリアミドとの併用など難燃剤の組み合わせで難燃性能を発揮する難燃剤がいくつか存在する。いずれも1成分だけでは難燃化できないか、難燃化できても添加量が多くなる場合である。

 

例えば、水酸化アルミニウムの場合には、単独で添加した場合に40vol%以上も配合しなければLOIが21を超えない場合も存在する。樹脂を自己消火性にするためには、通常の場合LOIが21以上になる必要がある。この程度樹脂に添加した場合に樹脂の力学物性は、無添加の場合よりもかなり低下する。ゆえに炭化しやすい樹脂との併用で添加率を下げるとともに炭化しやすい樹脂成分を増やすことで力学物性を改善している。

 

ホウ酸エステルとリン酸エステルの場合には、難燃化しようとする樹脂によりいささか事情が異なってくる。例えばフェノール樹脂のような炭化しやすい樹脂でLOIが21以下の組成の場合にホウ酸エステルを添加すると単独でLOIは21を超えるようになる。しかしポリエーテル系ポリウレタンの場合にはホウ酸エステルを20vol%程度添加しても難燃化できないだけでなく(LOIが21を超えない)、力学物性は実用性のないものになる。しかしリン酸エステルと併用すると、リン酸エステル単独添加の場合に比較して半分の量で難燃化が可能になる優れた組み合わせである。

 

このように組み合わせ難燃剤というものが知られているが、難燃化レベルを空気中で自己消火するレベルという条件にすると、必ずしもLOIは21を超える必要がなくなる。ドリッピング現象が許されるならば、すなわち要求難燃性能がUL94-V2レベルであるならば燃焼時のドリップ現象を制御し、難燃剤無添加でも樹脂を難燃化できる可能性が出てくる。例えば軟質ポリウレタンフォームではTMPのような低分子成分を構造に導入するだけで自己消火性にすることができるが、LOIは19程度である。PETでも配合処方を工夫するとLOI=20程度でドリップ現象を利用して自己消火性にすることが可能である。コストダウンをしたいときには有効な方法である。

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2012.12/01 三酸化アンチモンの難燃性

三酸化アンチモンはハロゲン系難燃剤と併用して用いられて初めて難燃剤としての性能を発揮します。驚くべきことは、体積分率として数%程度の添加でよい点です。一方樹脂により組み合わせるハロゲン系難燃剤の種類や量については様々です。

 

例えばPPとPSでデカブロモディフェニルオキサイド(DBDPO)を用いる場合PPでは20vol%程度必要だがPSでは10vol%程度でよい。添加量が2倍異なります。PSはPPよりも炭化しやすいから、という説明も納得できますが定説となっている三酸化アンチモンの難燃化機構から考えますと、三酸化アンチモンの量が同じにもかかわらず、DBDPOだけ2倍量必要というのは不思議な現象です。

 

同じことがABSとPBTについても言えます。これらの樹脂ではテトラブロモビスフェノールA(TBA)が使用されますが、三酸化アンチモンが同程度にもかかわらず、やはりハロゲン化物の添加量は2倍程度異なります。

 

このあたりの考察が必ずしも十分ではありません。特許情報を見ましても同様の傾向があり、難燃剤の研究開発を始めてから不思議に思っていました。軟質ポリウレタンフォームの難燃化研究をスタートした時の比較対象は三酸化アンチモンと塩ビとの組み合わせの難燃化システムで、当時の主力商品でした。この比較サンプルで興味深かったのは、配合手順で、同一難燃性を得るのに必要な塩ビ粉の量が変化したことです。

 

三酸化アンチモンの分散状態に大きな差異は出ませんでしたが、塩ビ粉の分散状態が変化していました。塩ビ粉はそれ自身凝集しやすく軟質ポリウレタン中の凝集粒子の大きさに違いがありました。また分散粒径にも違いがあり分散が大きい場合には、塩ビ粉の量が多めになっていました。当時の結果はハロゲン化物の分散状態がその必要な添加量に影響を及ぼしている、という非常に理解しやすい結果でした。

 

 

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2012.11/30 V0を狙う樹脂の難燃剤

樹脂の難燃化技術は、樹脂を産業部材へ応用しようとする時に重要な技術である。ところが樹脂の種類により効果的な難燃化技術が異なる難しい技術である。またその評価技術も万能の評価技術は無く、それぞれの業界で決められた難燃化基準に応じて樹脂が処方される。UL94は評価技術としてかなり普及してきたが、実技評価なので材料の基礎物性値として採用しがたいのでLOIがその代わりに普及している。

 

LOIは、極限酸素指数法と呼ばれ酸素と窒素を混合したガス中で材料を燃焼させて燃焼挙動を観察する評価法である。評価方法は、自己消火を示す酸素濃度で最小の値を採用する方法ですが、偏差0.5程度で計測値が得られるので、樹脂への難燃剤の効果を表現するのに便利な方法である。

 

さて、樹脂の難燃性設計を行うに当たり、実技評価としてUL94を対象に考えてみる。電子部品などの内装材としてはV2レベルとしている場合が多いが、外装材になるとV0レベルあるいは5VBが要求される。5VBとはV0と同等かそれ以上の難燃性が要求されるレベルである。樹脂の種類により同等となる場合とならない場合があるが、5VBの方が難燃剤の添加量が多くなる場合が一般的なので5VBの方が難燃性レベルが少し高いと思われる。V0を通過するために要求されるLOIは、25から34となり、これも樹脂の処方により様々にばらつく。スクリーニングするときには、LOIの線形性の高さを利用してUL94との対応表を作り、LOIを基準に処方設計する方法が良く行われる。

 

樹脂に添加する難燃材の量は力学物性に影響するので少ない方が良いが、V0レベルを狙う場合に、難燃効果の高い難燃剤でも少なくとも体積分率で10vol%程度添加する必要がある。体積分率で表現したのは、難燃剤の種類により比重が異なるからである。体積分率でこのくらい添加すると力学物性では弾性率と可塑性に影響が出るので引張強度とか曲強度の低下が生じる。強度を低下させたくないときには、粒子状固体で分散する難燃剤が選ばれる。この用途では赤燐あるいは三酸化アンチモンとハロゲン系化合物との組み合わせが定番となりつつあるが、ホスファゼン誘導体も最近コストが低下してきたので試しておきたい難燃剤である。多少の強度低下に目をつぶるならばリン酸エステル系あるいは臭素系難燃剤が選ばれる。

 

環境規制の問題も絡むので、臭素系難燃剤や、アンチモン系処方は注意する必要がある。例えばRoHSでは、アンチモン系処方は問題とされないが、臭素系難燃剤の多くは禁止されている。またアンチモン系処方はRoHSで禁止されてはいないが、自主規制としてアンチモン系を採用しない企業もいる。こうした状況を考えると、V0を達成できる難燃剤として将来の規制も見据えると、ホスファゼン誘導体かリン酸エステルの縮合体、赤燐系とリン系難燃剤以外に効果的な難燃剤が見当たらない。樹脂の難燃化技術開発はあまり注目されていないが、まだまだ開発の余地が多く残っている分野である。

 

現在コストや力学物性への影響を考えた時に最も汎用的にV0を狙えるのは、と問われるとアンチモン系複合化難燃技術となるが、環境の問題が見え隠れする。業界によっては、すでにリン系難燃剤しか選択の余地のない業界もある。難燃剤メーカーがんばれ!

 

 

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2012.11/29 ゼラチンの靱性向上技術(2)

ゼラチンは脆い材料ですが、銀塩と安定な保護コロイドを作る、現像処理を水中で行う時に容易に水で膨潤するポリマーであるなど銀塩写真フィルムには欠かせない材料です。このゼラチン改質技術として、1990年前後にシリカゾルをコアにその周囲をラテックスで覆うコアシェルラテックス技術が開発されました。有機無機ハイブリッド技術としても取り上げられ、アカデミアでも研究されました。

 

しかし、コアシェルラテックスにも泣き所があり、粒子が通常のラテックスよりも大きくなる問題やゼラチンへの添加量の制御、特にシリカゾルとラテックスの量比の制御ができないという問題がありました。コアシェルラテックスによるゼラチン改質技術のポイントは、従来のようにシリカゾルとラテックスとを別々にゼラチン水溶液へ添加するとシリカゾルの凝集が少し生じ、その凝集体が破壊の起点になり、ゼラチンを脆くする問題を解決した点にあります。

 

要はシリカゾルの凝集を防ぐことが技術の目標にあったわけで、その目標達成のために凝集しやすいシリカゾルの周りをラテックスで覆っただけです。もう少し気の利いた解決方法はないのか、と考えて出てきたのが、ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術です。すなわち、シリカゾルをミセルとして用いてラテックスを重合すれば、任意のシリカゾルとラテックスの量比の材料を作ることができます。

 

アイデアはよかったのですが、こうしたゾルをミセルに用いた技術は、2000年にLAGMUARという科学雑誌に研究報告されるまで存在しませんでした。また、頭で考えたようにうまくゆきません。コアシェルラテックスができてしまいます。早い話がコアシェルラテックスは当時先端技術でしたが、ゾルをミセルに用いる技術よりも優しかったので先に登場したわけです。冷静に考えれば、ゾルをミセルに用いた技術では有機無機ハイブリッド材料を設計するときにも自由度が広がります。ゆえにコアシェルラテックス技術よりも用途が広いわけで、技術が完成すれば画期的な有機無機ハイブリッド技術になります。

 

ゾルをミセルに用いたラテックス合成技術の難易度がかなり高いことが分かりましたので、弊社の問題解決法で問題を解きましたら、技術を容易に開発でき、1995年に実用化できました。驚くべきことにゾルをミセルに用いたラテックスをゼラチンに添加してもシリカゾルの凝集体ができません。ゾルが安定なミセルを作っているためですが、さらに驚いたのは、ゼラチンの靱性が飛躍的に向上したことです。これは破壊力学の研究成果が公開されていましたのですぐに理解できました。すなわち固い超微粒子が均一に分散している材料の破壊挙動を解析すると、破壊エネルギーが超微粒子で分散され靱性が向上するという機構であることが知られておりました。

 

このゾルをミセルに用いたラテックス重合技術は高分子学会技術賞に推薦されましたが、高分子の先生方はコロイド化学に疎いためか評価されず落選いたしました。しかし写真学会からは評価され、ゼラチン賞を受賞しております。おそらく当時は技術が先端過ぎたので信じてもらえなかったのかもしれません。

 

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2012.11/28 ゼラチンの靱性向上技術(1)

 デジタルカメラの普及で写真フィルムを身近に見ることが少なくなりましたが、写真フィルムの画像を記録する部分には、光に反応して画像を形成する銀塩の結晶を分散したゼラチンが使用されており、銀塩写真フィルムとも言われています。この画像を記録する層を保護するための保護層が表面に塗布されており、この層もゼラチンで作られています。すなわち銀塩写真フィルムは、ゼラチンでできた薄膜が、0.1mm前後の厚みのプラスチックフィルムに何層も積層された構造をしております。

 

また、ゼラチンはゼリーとして食用にも使用されているので、柔らかくて脆い材料という力学物性を身近に体感することができます。銀塩写真フィルムとして厄介なのは、乾燥すると簡単にひび割れる性質です。このように銀塩写真フィルムの画像形成層は、ガラスのコップよりも脆い材料でできています。

 

 銀塩写真フィルムは、撮影した画像を現像処理して目に見えるようにします。この現像処理は、水中における化学反応なので、ゼラチンは水を吸い、さらに柔らかくなり傷がつきやすくなります。また現像処理後の乾燥プロセスでは、乾燥速度を早くするとゼラチンは急速に硬く脆くなりひび割れます。銀塩写真フィルム開発の歴史は、画像技術以外にゼラチンの力学物性改良の歴史でもあります。

 

 この柔らかくて脆いゼラチンを硬くするために、ゼラチンへシリカゾルという硬い超微粒子を分散する技術が開発されました。シリカゾルを分散したゼラチンは硬くなりましたが、さらに脆くなりました。そこで脆さを改善するためにラテックスと呼ばれる柔らかいゴムの超微粒子をシリカゾルと一緒にゼラチンに分散する技術が開発されました。

 

 このようにしてゼラチンの柔らかさと脆さを改善するために技術開発が続けられ、シリカゾルとラテックスの組み合わせで力学物性のバランスをとる技術が1990年頃まで使用されてきました。しかし銀塩写真フィルムの現像処理時間が短くなるにつれ、銀塩写真フィルムを搬送するスピードが速くなり、従来のゼラチン改質技術では擦り傷が目立つようになりました。また、乾燥速度も速くなりひび割れしやすくなりました。すなわち、単純にシリカゾルとラテックスを組み合わせてゼラチンに分散する技術では、現像処理の時間を1分以下にすることができませんでした。

 

 

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2012.11/27 ホスファゼン油

電気粘性流体は、特殊な半導体微粒子と絶縁油とからできている。ゴムの袋に入れる場合には、ゴムから抽出される成分を無害化するための添加剤を添加しなければいけない。それにしても3成分で高機能な油ができる。

 

20年以上前にブリヂストンで担当した最後の仕事で、高純度SiCの開発を一人で担当しながら片手間にやりました仕事です。片手間でやった仕事の割には成果をたくさん出すことができました。ゴムからの抽出物を無害化する成分の開発成果、特殊な半導体微粒子の開発成果は在職中に採用されました。絶縁油は、試作まで行いましたが、仕事の妨害を受けたFD破壊事件のためやむなく中断し転職したため最後まで仕上げることはできませんでした。

 

文字通りブリヂストンの最後の仕事になりました絶縁油ですが、これを完成させたら電気粘性流体の組成全部を開発したことになります。さらにこの絶縁油はライフワークの一つとして研究していたホスファゼンを応用した技術なので、できれば最後まで仕上げたかった、と思っています。

 

ホスファゼンは、PN結合を含む環状化合物の総称で、無機ベンゼンと呼ばれています。昇華性を示す化合物はベンゼンのように気持ちの良い匂いがします。側鎖基をいろいろ変化させると機能性材料になります。例えば、PN化合物なので難燃剤分野は最も利用されている分野です。電池の電解質にも使われています。イオン導電体にもなります。PN環の誘電率が高いので、電気粘性流体に使用すると、とんでもない性能が出ます。

 

ブリヂストンでホスファゼン変性ポリウレタンフォームの研究を行い、その後Li二次電池用に難燃性イオン導電体としての研究(学位論文の一部)、そして最後に電気粘性流体用の絶縁油開発を行いましたが、この絶縁油は少し面白い構造をしています。ホスファゼンは、3員環以上の多環状化合物を選択的に合成することが難しいですが、それでも8員環以上の化合物も見つかっています。7員環の化合物は融点が低くー10℃以下で、他の員数の化合物を溶かすと凝固点効果でさらに融点が下がります。誘電率も高いので電気粘性流体への応用を検討しました。

 

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2012.11/25 有機無機ハイブリッド材料

32年間の材料技術者生活で様々な商品開発に携わった。開発した新材料(部材)も多い。もっとも多く開発したカテゴリーは、有機無機ハイブリッド材料である。

 

ホスファゼン変性ポリウレタンフォームやホウ酸エステル変性ポリウレタンフォームでは、難燃化システムとしての有機無機ハイブリッド材料の可能性を検討した。

 

半導体用高純度SiCでは、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂をリアクティブブレンドにより世界で初めて相溶化を達成した。TEOSを中心とした有機無機ハイブリッド材料の研究が活発になるのは1985年以降なのでこの技術は有機高分子と無機高分子を均一に混合した世界初の事例です。

 

ゾルをミセルに用いた有機無機ハイブリッドラテックス薄膜では、1996年に世界初のゾルをミセルに用いたラテックス重合技術を開発し、容易に有機無機ハイブリッド材料を合成できる道を開いた。コロイド関係を扱う学術雑誌(Langmuar)に世界初のゾルをミセルに用いたイギリス人の論文が登場したのは2000年でコニカの特許は4年早い。

 

酸化スズゾルのパーコレーション転移を制御した帯電防止膜では、プロセシングを駆使し体積分率15vol%でパーコレーション転移を達成している。酸化スズゾルの一次粒子は球状であるが、合成条件を工夫し金魚のウンコ状にした。ただ商品化では内製ではなく他社のゾルを用いたので20vol%前後で制御している。

 

その他中間転写ベルトや電気粘性流体など自分で企画しなかった技術もありますが、有機無機ハイブリッド材料は機能部材としての用途が広いキーテクノロジーと思います。

開発された有機無機ハイブリッド材料で汎用的なのは、ゾルをミセルに用いたラテックス技術とポリエチルシリケートとフェノール樹脂を相溶させたリアクティブブレンド技術です。この2つを使い分けて生み出される有機無機ハイブリッド材料の可能性は広い。

 

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2012.11/24 傾斜機能粒子

電気粘性流体の開発を担当した25年前、3種類の複合粒子を開発した。電気粘性流体に使用される粒子は帯電しやすく放電しやすい二律背反の性質を有する粒子が必要で、このような材料は単体粒子では材料設計が難しく、どうしても複合材料として設計しなくてはならない。

 

傾斜機能粒子は、表面は絶縁体で、中心部分が半導体の粒子です。すなわち最表面のすぐ内側から中心部にかけて半導体領域で抵抗が低下している粒子です。単純に均一な抵抗を示す半導体粒子の表面に絶縁体を被覆した粒子を合成し、電気粘性効果を比較すると電気粘性効果がきわめて小さい。粒子の製造条件によりましてはほとんど電気粘性効果を示さないこともあります。

 

単純に半導体粒子の表面にシリカを付着しただけでは電気粘性効果が表れなかったので、半導体粒子の表面から内部にかけてシリカの濃度が変化している傾斜機能粒子を合成したところ大きな電気粘性効果を示した。すなわちシリカの濃度で絶縁体領域から半導体領域まで抵抗を調整することにより、帯電しやすく放電しやすい粒子ができました。

 

傾斜機能粒子が発明されたときにプロジェクトメンバーから驚きの声が上がった。当時このような材料は最先端の材料であり、それが企画から2日程度でできましたのでなおさらです。製造方法は極めて簡単で、フェノール樹脂粒子にエチルシリケートを含浸するとエチルシリケートがフェノール樹脂内部に加水分解しながら拡散するので、表面から内部にかけてシリカ濃度の変化したフェノール粒子ができる。このシリカ濃度が内部から中心部にかけて変化しているフェノール樹脂球を800℃以上で炭化すると、目的とする傾斜機能粒子ができる。傾斜組成についてはエチルシリケートの含浸時間を調節するだけで様々な粒子を合成できます。

 

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2012.11/23 SiCスタックシミュレーション

炭化ケイ素(SiC)は、大別するとαSiCとβSiCの2種類の結晶系が存在する。βSiCは立方晶で1種類であるが、αSiCには2H、6Hなど積層状態のわずかな違いで多数の種類が存在する。このような積層状態の違いで多数の結晶ができる現象を多形という。

 

約30年ほど前、無機材質研究所へ留学しました時に、井上善三郎先生のご指導でSiCの積層状態をシミュレーションするソフトウェアーを開発した。当時のコンピューターは16ビットが普及し始め、PC9801のシェアーが伸びてきた時代である。言語は当初BASICで作成したが、50層までの中間データを得るのに1ケ月かかった。これをCで組むと10日ほどで完了した。フロッピーへデータを書きだしていたので、CとBASICの差は入出力がボトルネックとなりそれほどの差が出なかった。おそらくオンメモリーで計算したならばCで1日だろうと思いました。

 

PC9801とBASICの組み合わせで3ケ月かかって50層まで計算した。面白いのは数千も多形が存在するのに2H、4H,6H、3Cを選択的に安定して合成できることです。6Hについては、温度条件が厳しく、4Hが出現したりするが、この安定に合成できる4つの結晶系以外は、不純物として観察できる程度であった。

 

昇華法でSiCウェハーなどを製造できるのも多数の多形があるにもかかわらず、特定の結晶系が安定に生成するためであるが、これら結晶系の自由エネルギー差はわずかであり、生成機構に関わっていると推定している。約30年前シミュレーションをしてこれまで時折眺めてはアイデアをためてきたので、スタックの形態に確率因子と結合因子を導入し、特定のスタックができるシミュレーションソフトの開発を目指したい。

 

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2012.11/21 電気粘性流体と微粒子

電気粘性流体は絶縁オイルと半導体微粒子からなる流体で、電場の強度で粘度を制御することができます。電場で粘度が制御されるメカニズムは、電場0の場合には流動性を示す懸濁オイルが、電場をかけることで粒子が帯電し電極間で整列した結果、粘度が上昇し、電界強度が上がるにつれて粒子の帯電量が変化するとともに粘度が急激に上昇してゆきます。しかし電界強度が0になると微粒子の帯電が無くなりもとの流体に戻ります。このようなメカニズムです。

 

この流体の機能を発現しているのは、粒子の帯電し分極やすく放電しやすい、すなわち電気を流しやすいが帯電した時の分極も大きいという二律背反の性質です。よく知られているように金属でも帯電しますが導電性が高いために帯電量はごくわずかです。絶縁体は導電性が無いために帯電量は多く容易に分極し誘電体としての性質を示します。ゆえにウィンズロウに発見された当時は絶縁体微粒子に水を吸着させ絶縁オイルに分散し電気粘性流体として使用されていました。

 

このような絶縁体に水を吸着させた粒子は40年ほど研究されましたが耐久性が無く実用化されませんでした。急速に実用化が検討されたのは、表面に有機残渣が残った生焼けの炭素が水を添加しなくとも高い電気粘性効果を示すことが分かったからです。B社で発見されこの材料を中心に研究開発が進められました。

 

このテーマを担当するきっかけとなりましたのは、ゴムの容器に電気粘性流体を入れて用いると、ゴムに添加された材料が絶縁オイルに抽出されて電場0の時でも粘度が上がったままになるため、この問題を解決する応援技術者として駆り出されたからです。プロジェクトのメンバーに加えられたにも関わらずなぜか重要な論文や特許を少しづつ要求した時だけしか見せていただけず、同じ会社のメンバーであるにもかかわらず、奇妙な扱いを受けたことから嫌な予感がして早く問題解決しプロジェクトを離れたいとプロジェクトに加わった時に思いました。ただS社と半導体事業でJVを立ち上げる準備を進めていましたので我慢して真摯に仕事を簡単にいなし、担当して1週間程度で解決方法を提示し、1ケ月で実用化テストに入る状態まで仕上げました。弊社で販売している問題解決技術の成果です。

 

せっかく電気粘性流体のメンバーに加わりましたので、高純度SiCを開発した時に用いた問題解決法で問題を解き、傾斜機能粒子、微粒子分散微粒子、コンデンサー分散微粒子の3種類が電気粘性流体に最適という解答も出してみました。せっかく面白い解答が得られましたので傾斜機能粒子を高純度SiCの試作プラントで製造してみました。絶縁オイルに分散し電気粘性効果を測定しましたら生焼け炭素よりも高い電気粘性効果を示しました。電気粘性流体に構造制御した微粒子を用いた初めての技術でささやかなイノベーションを起すことができました。

 

このようなイノベーションを起すことができましたのは弊社電脳書店で販売している「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」で説明している問題解決法を用いたからですが、40年間誰も気が付かなかったのが不思議です。わかってしまえば当たり前のことだからです。40年間優秀な研究者がたくさんの論文を生産してきたわけですが、微粒子を能動的にデザインして電気粘性流体に用いたのは特許情報からB社が最初でした。

 

 

 

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カテゴリー : 未分類 電気/電子材料 高分子

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