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2013.02/01 非水系電池の難燃化

Liイオン二次電池の電解質には有機溶剤が使用されています。電解質をポリマーにした電池も存在しますが、その場合でもイオン伝導率を上げるために可塑剤として有機溶剤を使用します。すなわち電解質として水ではなく、有機溶剤を使用している電池は非水系電池と呼ばれています。

 

ゆえに電解質を燃えにくくするための工夫が必要になります。イオン性液体を使用するのも一つの手段です。あるいは難燃剤を添加する方法もあります。しかし、忘れてはいけないのは、エネルギーを貯めるデバイスというのは爆発の危険性があるということです。電解質が水になっても同様で、アルカリ電池でもショートさせますとポンと音をだして壊れます。

 

ボーイング787の事故で電池は無様な姿になっていました。ただ難燃対策は効果があったようで、安全に壊れたようです。あの壊れ方は、それなりの技術が生かされていた、とみるべきで、電池も含め蓄電システムに異常があった時のY社の回避技術は高い、と思いました。電池に回避技術が搭載されていなかったならば、怪我人が出ていた可能性もあります。最近公開された写真を見る限り、壊れ方は安全方向に設計されていたように思いました。

 

電池は化学反応で電気を起しています。放電は反応速度が関係しますので、加速要因が入れば、必ず発熱します。これを制御するのが、パソコンや充電器にも使用されているパワーマネジメントシステムです。今回の事故ではY社は電池だけ納入していました。電池の故障解析には時間がかかりますので、事故原因の解明は難しくなることが予想されます。化学屋の視点からは、電池が壊れるようなマネジメントシステムが悪いような気がしますが、原因を早く知りたいと思っています。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.01/31 ミドリムシからプラスチック

先日の新聞記事に、ミドリムシからプラスチックスを作る話が掲載されていました。ミドリムシの作り出す糖を利用するのだそうです。現在の石油リファイナリーからバイオリファイナリーの流れの中で普通の記事として思っていましたが、アイデアがわきました。

 

単なる思いつきのアイデアで申し訳ないですが、ミドリムシ以外のプランクトンでも同じことができるのではないか、あるいはプランクトンをスプレードライで乾燥させて、その後脱色洗浄したらそのまま樹脂として使用できないか、と考えました。少なくとも樹脂の増量剤あるいは可塑剤程度に使用できるのではないか、と思っています。

 

さらに運が良ければ、難燃剤としての機能を有するプランクトンもいるのではないかという予想です。プランクトンの中にはミネラルを豊富に含むものも存在し、さらにそのミネラルは生物由来ですから、原子レベルで分散している、と期待できます。30年以上前に難燃剤が活発に研究されていたころ、元素別の難燃効果という論文を読んだことがありますが、金属酸化物には粒径が小さくなると難燃効果が出てくるものがある、と結論されていました。当時ナノオーダーの粒子技術が存在しなかったので論文には期待のあるような書き方がされた、と話半分のつもりで頭の隅に記憶として残しておきました。

 

昔の記憶がどの程度のものか確認するために、数年前酸化スズゾルの難燃効果を調べましたところ10部程度の添加でLOIを1程度上げる効果がありました。また、燃焼面にはチャー生成量の増加していることも目視で確認できました。1ミクロン程度の酸化スズには効果は無かったので、明らかに金属酸化物の粒径の効果です。ミネラルの多いプランクトンを難燃剤として活用できる可能性が出てきました。

 

プランクトンを材料として実用化しようとする時に問題となるのはコストです。おそらく広大なプールが必要になりますので過疎地で作物の作れない土地で培養する事業になるのではないでしょうか。もしスプレードライして得られた乾燥物が50円前後であれば、樹脂の増量剤として活用でき、難燃効果があるのであれば100円前後までコストの上限は広がります。簡単な還元漂白程度の加工でプランクトンを利用可能であれば面白い素材です。

カテゴリー : 高分子

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2013.01/30 高分子の難燃化技術の歴史

高分子の難燃化技術について、この30年間の進歩は様々な樹脂の難燃剤が開発されそれぞれの樹脂について最適化が行われてきたのが成果だと思います。1980年頃に高分子の難燃化手法に関し、その方向が決まり、様々な縮合リン酸エステルが開発されました。その後登場したのが臭素系難燃剤で1990年代に一気に普及しましたが、環境問題の影響で、一部の臭素系難燃剤が、縮合リン酸エステル系に置き換える検討が進みました。

 

1970年代の難燃化技術の進歩に比較しますと、基礎科学としてはほとんど進歩していない領域と言ってもよいかもしれません。難燃化技術の1970年前後の進歩には著しいものがあり、1980年代の方向性を決めることのできる成果が基礎科学として出ております。

 

これは、高分子の熱分解や耐熱性高分子の研究が1970年代に盛んに行われ、それと並行して難燃化技術研究が行われた影響が大きいと思います。欧米の動向も同様であり、1970年代の成果を踏まえ、ULなどの規格が1980年代にほぼ決まりました。日本の建築基準の大幅な見直しも1980年初めに行われております。

 

高分子の難燃化技術はもう開発の必要のない分野のように見えますが、世間で発生している品質問題を見ますと、これまでの研究開発と異なるコンセプトでテーマ設定を行う必要を感じています。何かご質問がございましたらお気軽にご相談ください。

カテゴリー : 高分子

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2013.01/24 高分子同友会第一次東アジア化学企業調査団報告

昨日高分子同友会第一次東アジア化学企業調査団報告を拝聴いたしました。

 

この活動は、高分子同友会が1979年以来5年ごとに行っている化学企業の調査ですが、以前は先進国の調査が目的でした。しかし、今回は成長著しいアジア諸国が対象で、その第一回ということだそうです。

アセアン地区のベトナム、タイ、マレーシア、インドネシアが候補で今回はタイとインドネシアの状況報告です。

 

詳細内容は高分子同友会で訪ねていただきたいが、タイではPPT Global Chemicalという巨大コングロマリットが生産活動を行っており、その規模と技術に驚きました。基礎化学品の生産能力があれば20年後日本の企業はいらなくなるのではないか、と思われるような状況です。

 

インドネシアではPT.Chandra Asri Petrochemical社へ訪問したそうですが、ここは天然ゴムベースのABSを製造している会社で興味を持っていたのですが、詳細説明はありません。

 

終了後の懇談で事務局に問い合わせましたら、今回はバイオ関係のテーマは調査からはずし、基礎化学品に絞ったとのこと。ベトナムも含めこの地区の特徴はケナフやジャトロワ、そして古くからある天然ゴムという非可食バイオポリマーの産地であり、それを利用した産業が重要と思います。

 

しかし、研究開発力が未成熟の為、バイオケミストリーまで手が回らないとのこと。感心したのは、これだけ化学工場が活発に生産活動を行っていても、公害が起きていないことです。訪問団の感想として、日本よりも空気がおいしかったとのこと。おそらく日本をよく勉強したのだと感じました。次回は2年後。

カテゴリー : 一般 高分子

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2013.01/22 EFM

EFM(The extensional flow mixer)は、ウトラッキーが開発した伸長流動装置です。単軸あるいは二軸押出機もしくは混練機の先にとりつけて使用します。EFMの中で樹脂は細いスリットの効果で伸長流動状態になり、ナノオーダーまでの混練が進むことになります。

 

ただし、多くのスリットを通過するために樹脂圧が高くなり、通常の100kg/h以上の生産機の仕様に合わせますと、馬鹿でかい装置になります。しかし伸長流動の効果を得たい場合には現在のところこの装置が最も良いのかもしれません。

 

かつて剪断流動ではミクロンオーダーまでが限界だが混練効率が高く、伸長流動では、ナノオーダーまでの混練が可能だが、混練効率が悪い、と習いました。しかし、産業総合研究所の研究結果では、剪断流動でもナノオーダーまで混練が進むことが分かりました。しかし、分子量低下も同時に起きています。産業総合研究所の装置については特許も出ていますが、モーターの設計が難しくなりそうです。

 

ウトラッキーはポリマーアロイの分野で有名な研究者で、EFMを考案したのは伸長流動でナノオーダーの高次構造のブレンドを達成したかったからでしょう。EFMは実験室レベルならばそこそこ使えるそうです。

 

EFMよりも良い装置ができないものか、と考えたのが疑似カオス混合装置です。ご興味のある方はお問い合わせください。

カテゴリー : 高分子

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2013.01/19 高分子の高次構造の設計

原子が共有結合でつながり、分子となり、分子の分子量が共有結合でつながって大きくなり高分子となります。この高分子が集まってナノオーダーからミクロンオーダーさらには目で見えるレベルまでの構造ができると、それを高次構造と呼んでいます。共有結合でつながっている分子を一次構造と呼んでいますが、その上は二次構造三次構造と言わずにいきなり高次構造と呼んでいます。DNAような二重らせんを二次構造と呼ぶ人もいますが、高分子材料の専門家の多くは、一次構造の次は高次構造と大雑把にまとめてしまっています。

 

ナノテクノロジーが注目され始めたころから少し細かい構造だけに絞って研究する流れができ、メソフェーズ領域という言葉が出てきました。40年近く前に、炭素間の共有結合だけでできた分子を高分子と呼んでいたのを、炭素間の共有結合以外に、例えばSiO結合や、PN結合などの少しイオン結合性を含んでいる高分子を無機高分子と呼び、高分子の概念を広げた効果と同じように高次構造の研究手法や新材料の生み出されるスピードが上がりました。

 

コンセプトが変わると研究の視点が変化し新しい分野が広がるためでしょう。高分子の高次構造の設計をするために利用できる情報が豊富になりました。ただ残念なことにプロセシングが追いついていません。量産技術ができなければ材料を工業製品に応用することができません。実験室レベルでメソフェーズ構造を自由に制御できても、大規模なスケールでそれができなければ商業生産できません。

 

プロセシングの問題以外に高分子の一次構造の制御を大スケールで完璧にできていない問題も大切ではないかと思うようになりました。分子設計技術は20世紀かなり進歩し、その結果多くのスペシャリティーポリマーが登場しました。しかし、よく現象を観察してみますと、まだまだ分子の構造制御が十分できていないところが見えてきます。プロセシング技術が遅れているために目立っていませんが、プロセシング技術が進歩した後パーフェクトポリマーを要求される時代が来るのではないかと思います。

カテゴリー : 高分子

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2013.01/16 樹脂開発

この数年黒がブームである。町中が黒い車であふれています。昔黒い車と言えば高級車の代名詞でしたが、今は高級車でなくとも黒が使われています。その黒もよく見ますと、車の種類によりまして微妙に異なっています。

 

車以外もピアノブラックという黒が流行したおかげで、身の周りに光沢のある黒があふれています。樹脂の射出成形体であれば、PCベースのポリマーアロイです。主流はPC/ABSですが、この樹脂は、PCにABSをブレンドし、靱性をABS並みに改良しています。ただ、PCを使用していますので価格が高いのが難点ですが、射出成形一発で光沢のある高級外観が得られます。

 

約半世紀ほど前にABSという樹脂が登場し、電気製品はじめ身の周りにある製品の外装の多くはABSに置き換わりましたが、今はPC/ABSに置き換わっているように見えます。またPCという高級樹脂も上市されたときの4割前後の価格にまで低下してきています。

 

PCは光学特性が優れていますので高級外観を得やすいですが、PC以外にもポリエステル系樹脂はその光学性能からPCと同様の効果を期待できます。しかし、射出成形性とのバランスが難しく価格がPCよりも安いにもかかわらずPETのブレンド品がなかなか登場しません。PETのポリマーアロイでもPCと同様の高級外観が得られますが、難燃化の技術が難しくさらに射出成型性という特性とのバランスをとることも難しいので技術開発が進まないのでしょう。

 

弊社では本記事の内容やコンサルティング業務を含め、電子メールでのご相談を無料で承っております。

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2013.01/15 ボーイング787のLi二次電池の事故

事故が相次ぐボーイング787ですが、Liイオン二次電池が発火するトラブルもあったそうです。ニュースで知って驚いたのは事故の事実よりも航空機にLiイオン二次電池が採用されていたこと。航空機には各種厳しい規格があり、その規格を通過できるLiイオン二次電池ができたことにびっくりしました。

 

エネルギー貯蔵デバイスは基本的に使用法を誤ると爆発する可能性があると言われています。エネルギー密度が高いLiイオン二次電池ならばその可能性が高くなるわけですが、航空機の規格を通過できる電池の登場は、経済性さえ改善されれば、一気に二次電池の市場がLiイオン二次電池に置き換わる可能性が出てきたわけです。

 

すなわちLiイオン二次電池の現在の一番の問題は経済性ということになります。Liイオン二次電池に関係する冗談で、材料メーカーの幹部が海外出張に行くときに、電解質メーカーの幹部はファーストクラスに乗るが、あとはエコノミークラスに乗る、というのがあります。これは電解質メーカーが一番儲かっていることを揶揄した冗談ですが、電解質の安全性と経済性は非水系電池で相反する関係になります。

 

30年ほど前にセミソリッド電解質を研究したことがありますが、溶媒で膨潤させたゲルを用いたとしても溶媒の蒸気圧はそれほど変化しません。全く溶媒を用いないときには電池の内部抵抗が高くなるので放電容量へ影響が出ます。イオン導電性を上げるためにどうしても可燃性低分子溶媒で膨潤させる必要がありました。最近は難燃性あるいは低蒸気圧のイオン性液体も登場しましたので30年前と異なる電解質の設計が可能となりました。安全性と経済性の高い電解質はLiイオン二次電池の重要なテーマの一つでしょう。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2013.01/13 ホスファゼン

ホスファゼンの研究が最も進んだのは1970年代で、アメリカのDr.オールコックや日本の梶原鳴雪先生らにより精力的な研究が進められ、その特徴や考えられる応用分野が明確になりました。ファイアーストーン社で、耐熱性と耐寒性の優れたホスファゼンゴムが開発され、宇宙船ジェミニに初めて実用化されました。

 

ホスファゼンゴムはシリコーンゴムと同程度の耐熱性ですが、Tgはシリコーンゴムよりも低く、宇宙空間での使用には最適です。また難燃性もシリコーンゴムより高く、おそらく特殊ゴムとしては物性のバランスが優れたゴムだった、と思います。ただ値段はすこぶる高く商業的には成功しませんでした。

 

ホスファゼンは、P=N結合を持つ化合物群の総称で、PNが3つの6員環構造が有名で、無機ベンゼンと呼ばれていました。実際に気持ちの良い独特の香りがしますが、匂いをまともに味わいますとあとでひどい目にあいます。絶対に匂いを嗅いではいけません。

 

面白いのは、ホスファゼンポリマーの高分子量体を得たいときには、この6員環化合物を開環し重合させるルートしかない、ということです。直接ポリマーを合成するルートも開発されていますが分子量を上げられません。また、環状化合物の塩素をすべて有機物に置換した場合には開環重合しなくなります。

 

環状化合物のまま重合する試みもされましたが、開環重合したポリマーよりも耐熱性が低く実用化されていません。しかし、有機高分子を変性するには便利で、様々なコポリマーが検討されました。

 

弊社では本記事の内容やコンサルティング業務を含め、電子メールでのご相談を無料で承っております。

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2013.01/05 樹脂の靱性

射出成形や押出成形、あるいはブロー成形において使用される樹脂には、耐候剤や難燃剤などの添加剤が必ず添加される。また導電性や熱伝導性を上げるために無機フィラーを添加する場合もある。

 

こうした添加剤の影響で樹脂本来の性質は変化する。樹脂がポリマーアロイであっても同様である。ポリマーアロイの場合には相分離構造も影響を受ける場合も出てくるので単一組成の場合よりも複雑になる。

 

添加剤による物性変化で見落としやすいのが靱性のわずかな変化である。たとえばアイゾットやシャルピーなどの衝撃試験を行い、規格値に入れば安心する。衝撃試験などはばらつきが大きい試験なので、多少平均値が下がっていても規格値内ならば問題としない場合が多い。

 

しかし同一条件で成形体を製造したのに物性が変化するのは、何か原因があり、その原因を明らかにしておかなければならない。樹脂を自社で成形している場合には問題が起きる確率は低くなるが、コンパウンディングした会社から外へ出た瞬間に問題が起きる確率が高くなる。

 

靱性は把握しにくいパラメーターではあるが、他の力学物性の動きと組み合わせてみるとおおよその理解ができる。例えば靱性が低下した場合には、強度も低下しているはずである。SSカーブには強度低下に対する靱性の効果の情報が表れている。しかし靱性が低下しているのに強度が上がっている場合がある。多くは弾性率が変化している。問題は弾性率がどうして変化したのか、という原因である。

 

添加剤による靱性のわずかな変化は、ばらつきの中に隠れてしまうことが多いが、お客様のところで大きな変化となって現れることがある。実験室で原因を把握しておかなければ、致命傷となる場合もある。ばらつきの大きい評価方法しか知られていないので注意が必要である。

 

弊社では本記事の内容やコンサルティング業務を含め、電子メールでのご相談を無料で承っております。

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