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2012.12/20 ポリマーアロイの射出成形における問題

射出成形だけで光沢のある外観ができる、という長所からPC/ABSの需要がこの10年伸びている。この材料は、ABSがブレンドされているので、靱性も向上している。すなわち力学物性も外観も良好なポリマーアロイである。

 

しかしこの材料は4成分の高分子のブレンドからできているため、混練技術に問題があると、射出成形プロセスで外観不良の問題を引き起こす。外観不良だけでなく、ひどいときには、材料スペックの半分以下の強度しか出ないという品質問題を発生する。

 

射出成形メーカーにコンパウンド技術が充分にあれば品質問題の解析が可能だが、射出成形メーカーの技術者は化学工学あるいは機械系の技術者が多いために本質的な原因解明ができなかったりする。仮に本質的な原因解明ができても、コンパウンドメーカーからコンパウンドに詳しい技術者が説明にきて丸め込まれたりする。

 

かつて、射出成形体に外観不良の問題とボス割れの問題が発生したためにその原因解析を行いました。その結果、コンパウンドの製造プロセスに問題がある、というデータが得られたので、中国の現場まで出向き工場の様子を視察したところ、案の定シリンダーの温度が高いところがあり、できあがったペレットに時々「す」が発生していた。証拠品を持ち帰り、某コンパウンドメーカーへ注意をしたところ、分析データをめぐり3時間にわたる議論となった。

 

分析データだけでは結論を認めていただけなかったので、証拠品の「す」の入ったペレットと温度異常を示す写真を最後に見せて決着がついたが後味の悪い議論でした。コンパウンドと射出成型性の問題は、お互いが譲らなくなった場合には結論を出しにくくなる問題であるとその時学びました。ただし、分析値にへりくつをつけることができましても現物は動かぬ証拠となります。

 

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カテゴリー : 高分子

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2012.12/19 PETの射出成形

樹脂と各種成形との関係について教科書を調べてみても明確な説明がされていない。成形技術分野は主にハードウェアーの説明がほとんどである。特許を調べてみると様々な条件が記載されている。中には同じ条件であるにもかかわらず表現が異なるために成立している特許もある。

 

PETは射出成形しにくい樹脂で、主に押出成形やブロー成形用に使用されてきた。ある教科書では、射出成形できない、とまで明確に書かれている。PETの押出成形を20年近く前に体験したが、Tダイから出てくる樹脂を見て射出成形できないと直感した。粘度変化が激しいのである。また、この粘度が低くなるおかげでフィルム成形しやすい樹脂という言い方もできます。

 

特許にもPETに添加剤をブレンドし、温度に対する粘度変化を緩やかにする技術が出願されている。ただPETの射出成形の難しさは、粘度の温度変化を調整しただけではだめで、もともと遅い結晶化速度を制御しない限り、表面のきれいな成形体が得られない。すなわち添加剤の中には結晶化速度を速める化合物も有り、その結果粘度調整ができているのだが、これが実際の射出成形では結晶化しすぎて表面のなめらかさが阻害されたりする。

 

PETは結晶化速度が遅いのでブロー成形やフィルム成形に向いているのだが、結晶化しにくいわけではない。結晶化度の低いフィルムを延伸すればすぐに結晶化する。PETの射出成形を可能にするためには、結晶化速度を速めながら結晶化度が上がらないようにして粘度調整する必要がある。まったく結晶化しないように変性し粘度を上げるのも射出成形性を改善できる方法でそのような技術も存在するが、この場合には弾性率が低く柔らかい成形体となる。故にフィラーを添加して弾性率を上げなければ実用性の無い樹脂となる。フィラーを添加せず樹脂だけで弾性率の高い射出成形体を製造する技術の難易度は高い。

 

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2012.12/14 割れた樹脂

昨年の話だが、あるメーカーの社長から割れた樹脂の写真が届き、この問題を解決して欲しい、という手紙が入っていた。それ以外の情報は無い。担当者を紹介してもらい、いろいろ伺ったが、要点は熱伝導をあげるために他社と同じような組成にして成形体を作ったが、他社は割れないのに自分のところは割れる、という内容です。

 

処方は20年以上前から知られている公知情報なので何とかしたい、というのが担当者の話。特許情報や分析結果から同等の材料を使用しているから不思議だ、という。あまりにも技術を軽視している、と思いましたが、対策を幾つか示し、問題解決をしました。しかし契約をしないで問題解決したためにお酒でお茶を濁すだけの仕事になりました。

 

コンサルティングを始めたばかりなので頼まれればすぐに対応します。簡単な問題から難しい問題まで、何でもこちら(当サイトのお問い合わせ)からご相談ください。実績豊富な弊社の問題解決法で迅速に対応させて頂きます。

カテゴリー : 一般 宣伝 高分子

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2012.12/12 インピーダンスの周波数依存性シミュレーション

酸化第二スズゾルをゼラチン水溶液に分散し塗布膜をTACフィルムに工程条件で形成するとパーコレーション転移を生じないが、分散条件や塗布液、塗布条件を制御するとパーコレーション転移が観察されるようになる。その転移の閾値検出には、20Hzにおけるインピーダンス変化を利用すると容易である。これは、インピーダンスの周波数分散が、導電性微粒子分散系では低周波数領域で大きく変化する性質を利用している。

 

この低周波数領域で生じるインピーダンスの異常変化について数値シミュレーションをおこなった。すなわち絶縁性のバインダーをコンデンサー、導電性粒子を抵抗に置き換えたモデルを作り、その数学的表現を検討し、モデルに合致する数式を導き出した。このモデルを表現した数式についてゼラチンの静電容量、酸化第二スズゾル粒子の直流抵抗の値で計算を行うと、酸化第二スズゾルの量が増加するに従い、インピーダンスの値が低周波数領域で異常分散を示す。

 

この数値シミュレーションは福井大学客員教授をしていた時に、青木幸一先生に教えていただいて行ったのだが、専門が異なると現象を前にした時の発想が異なる面白さを味わいました。当方は、有限要素法に類似の方法でパーコレーション転移をシミュレートするソフトウェアーを完成していたが、それは直流を前提にしていた。交流で計算するには、モデルを組み直し再度プログラミングをしなければならない。しかし数学モデルに持ち込んで数式化し、数値シミュレーションを行えば、エクセルで計算できてしまうのである。このような世界を真剣に勉強したことが無かったので感動しました。

 

さて、シミュレーション結果は何を意味しているのか。これはモデルと数式を見て考察するわけであるが、数式が複雑なので計算値の変化からモデルの動きを推定した。面白いことに静電容量が異常に大きく変化するところがある。そしてその影響でインピーダンスも大きく変化している。すなわち微粒子のクラスターが多くなることは、微粒子どおしの接触点が増えることを意味し、それは導電性粒子の距離が短くなり静電容量が大きくなる変化と等価で、数値シミュレーションの異常分散が生じていることが分かった。すなわちパーコレーション転移とインピーダンスの低周波数領域における異常分散とは密接な関係があったのである。

 

一連の成果については15年前に公開済みで、来年販売する帯電防止技術電子セミナーにおいて説明する予定です。

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2012.12/11 酸化第二スズゾルのパーコレーション転移(続き)

酸化第二スズゾルをゼラチン水溶液に分散し、何も工夫せずTACフィルムへ塗布しますとパーコレーション転移を観察できません。50vol%も添加するとひび割れる為で、この添加量が上限となり、転移の閾値が観察されないのです。しかし、分散方法や塗布条件の工夫をしますと50vol%未満でもパーコレーション転移を生じるようになります。しかし、それは工程条件からかけ離れたものです。このときの閾値は、表面比抵抗ではわかりにくい。酸化第二スズゾルの添加量に対する抵抗変化が工夫前よりも大きくなったという程度の曲線です。どこに閾値があるのか不明で、パーコレーション転移の制御技術を開発するためには、まず閾値を見つける評価技術を作らなければなりません。

 

微粒子分散系のインピーダンスや誘電率は、低周波数側で異常な周波数分散を生じます。ゼラチンをコーティングしたTACフィルムのインピーダンスを評価しましたところ、酸化第二スズゾルが添加された場合に、やはり異常な周波数分散が観察されました。100ミクロンのTACフィルムに0.2ミクロンの薄膜を形成しているのですから、感度が高い検出力です。

 

様々な条件でTACフィルムに酸化第二スズゾルを添加したゼラチンをコーティングしたフィルムについてインピーダンスを評価しましたら、100Hz以下で急激な変化を示すサンプルがいくつか見つかりました。横軸に酸化第二スズゾルの添加量をとり、縦軸に20Hzのインピーダンスの値をとったグラフ上にそのサンプル群をプロットしましたところ35vol%以上のサンプルでインピーダンスの値が、35vol%未満のサンプルの値に対して10000倍になるグラフが得られました。表面比抵抗の値はなだらかな変化を示していますが、インピーダンスの値は、クラスターのでき方を検出している可能性があります。

 

明日は、インピーダンス変化をシミュレーションしました結果を説明します。

 

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2012.12/10 酸化第二スズゾルのパーコレーション転移

酸化第二スズゾルは、1次粒子径が1nm前後の粒子が金魚のウンコのようにつながった不定形繊維状の導電体が水中に安定に分散したコロイド溶液です。ラテックスやゼラチン水溶液に分散すると容易に安定な塗布液を作ることができます。この塗布液で塗膜を作りますと、アスペクト比の大きな繊維状導電体にもかかわらず、パーコレーション転移が生じにくい。体積分率で50vol%前後添加しなければ半導体領域の導電性を示す塗膜が得られない。ところがこれだけの添加量になると塗膜の強度が上がらず、力学物性の良好な膜が得られません。

 

原因は、酸化第二スズゾルの濃度を上げると、繊維状の導電体が構造を作るためで、ゾルの粘弾性を評価すると構造粘性がいろいろ変化する様子を観察することができる。すなわち塗膜中の導電体の分散状態で決まる構造が、パーコレーション転移に大きく影響をしているため、導電体の高いアスペクト比が生かされていないのです。

 

この酸化第二スズゾルの水中における構造形成の問題は、塗布液中の酸化第二スズゾルの濃度やその他のコロイド粒子の存在を考慮すると避けて通れない難問です。すなわち導電体繊維が構造を作って分散していることを前提にパーコレーション転移を制御しなければコーティング技術を完成できません。技術の詳細は後日述べますが、パーコレーション転移の制御因子を探索するためには、パーコレーション転移の閾値を正確に評価できる評価技術が必要です(明日に続く)。

カテゴリー : 高分子

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2012.12/09 酸化第二スズゾル

酸化第二スズは、酸素欠陥の量で、物質の抵抗が1000倍以上変化する。そしてInやSbをドープしなくとも1000Ωcm程度の導電性が出る合成条件も存在する。四塩化スズを加水分解して得られる酸化第二スズゾルは、合成条件を制御すると、1000-10000Ωcmの超微粒子が分散したゾルとなる。このゾルとラテックスを用いると帯電防止用の透明コーティング剤となる。この帯電防止薄膜は昭和35年に小西六工業で発明されたが、1991年まで見捨てられた存在でありました。

 

この技術の面白い点は、この材料を評価した誰もがダメな技術と評価していたことです。原因は2つあり、酸化第二スズゾルの粒子の導電性が合成条件により1000倍以上変化することとパーコレーション転移の制御技術という概念が無かったことである。昭和35年の特許の実施例には驚くべきこととして処理し、この2点については触れられていませんでした。

 

パーコレーション転移については、1970年前後に数学者の間で研究が盛んになりました。また、高純度酸化第二スズの導電性については、1980年ごろに無機材質研究所でその導電性と酸素欠陥の関係が研究されました。このような状況ですから、1991年まで酸化第二スズゾルが良好な透明帯電防止剤として認識されていなくとも納得できなくはないですが、昭和35年の技術は小西六工業で発明されていますから技術の伝承がどうあるべきか、という問題を抱えています。

 

酸化第二スズゾルが透明導電性薄膜に利用できる、と再発見できましたのは、ライバル企業の特許網がきっかけでした。ライバル企業はATOを帯電防止薄膜に使用していました。ただ、ATOは若干青みがかっている問題がありました。この問題について、弊社の電脳書店で販売しています「問題は結論から考えろ!セミナー」、「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」で取り上げている問題解決法で問題解決し、酸化第二スズゾルの実用化に成功しました。ただ、この企画立案時に調査を行い、昭和35年の特許を発見したのですが、正直申し上げますと、特許網に穴をあけるには役立ちましたが、新材料開発に対するモチベーションは少し下がりました。

 

 

カテゴリー : 一般 高分子

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2012.12/08 酸化第二スズ

酸化第二スズの高純度単結晶は絶縁体です。このような金属酸化物は、酸素欠陥が生じると半導体になります。また三価もしくは五価の金属をドープしますと半導体から導体になります。InをドープしたITOやSbをドープしたATOは透明導電膜の材料として有名です。1950年代にこの化合物の導電性については研究されており、1960年には小西六工業から高純度酸化第二スズゾルを塗布した帯電防止フィルムの特許が出願されています。この特許が公開されてからコダックからITOを蒸着したフィルムの特許が、また富士フィルムから類似の特許が出願されていますので金属酸化物半導体の研究が活発に行われていたものと推定されます。

 

しかし、1991年にコニカへ入社しましたときにこの1960年代の状況をご存知の方はいませんでした。たまたま帯電防止技術について特許を整理していましたら、富士フィルムが金属酸化物系透明帯電防止技術の緻密な特許網を構築していた状況に遭遇し、ここにどのような穴をあけたらよいのか興味がわき、詳しく調べてみました。面白いことに1970年代中ごろから従来技術に1960年代の技術が特許に全然出ていないことに気がつきました。あたかも富士フィルムが特許権について独占しているかのような状況が出来上がっていました。

 

20年以上前の特許状況を丁寧に調べていて、特公昭35-6616という小西六工業の特許を見つけました。世界初の塗布による酸化第二スズ透明導電膜の特許です。この特許を軸にして新たな特許網を構築することにしました。無事ライバル特許の緻密な網に穴をあけることができ、デジタル向けの感材の帯電防止技術として使うことができました。

 

この時の経験は「特許で困ったら温故知新」という格言として当時の部下に伝承しました。

 

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2012.12/05 フェノール樹脂の難燃化(2)

M社のフェノール樹脂発泡体には難燃剤が添加されていなくともLOI=35前後という高い難燃性を示しました。他社のフェノール樹脂発泡体では同程度の難燃化レベルを達成するために難燃剤の添加が必要でした。リバースエンジニアリングを行うために化学分析を行いましたが、硬化触媒に硫酸と有機酸の2種を使用していることぐらいしか差異はわかりませんでした。高分子物性の観点から、パルスNMRを測定しましたら、他社のフェノール樹脂では観察されるソフトセグメントが全然ないことが分かりました。

 

フェノール樹脂は、高度に3次元化しているはずで、本来はM社の状態が理想です。このソフトセグメントの量が難燃性能と関係しているのではないかと仮説をたて、難燃剤無添加のレゾール型フェノール樹脂を触媒量や触媒の種類を変えてサンプルを作成し、パルスNMRと熱分析、LOIを測定しました。触媒の種類や量によりソフトセグメントの量が様々に変化しました。そして仮説通り、LOIは、ソフトセグメントの量に相関していました。また熱重量分析で350-400℃の領域で観察されるカーブの状態がソフトセグメントに関係していました。分解速度と残存量の数値化を行い、グラフ化しますと相関していることが分かりました。相関係数は低くなりますが、単純に変曲点の残存量だけでも相関していました。

 

以上のことからレゾール型フェノール樹脂の難燃性を上げるためには、ソフトセグメントの量を減らすことが重要である、との結論が得られたのですが、単純に触媒の種類や量を制御してもM社のような状態になりません。実験計画法を用いて酸触媒の組み合わせ効果を調べましたら有機酸と硫酸との併用が最もソフトセグメントが少なくなることが分かりました。

 

難燃性とソフトセグメントの量が関係しているのならば、ソフトセグメント部分に質量の大きい超微粒子を分散してやれば、見かけ上ソフトセグメントの量を減らすことができます。シリカゾルを前処理し、レゾール型フェノール樹脂に分散しましたところ見かけ上のソフトセグメントの量を制御できることが分かりました。面白いのは難燃剤ではないシリカゾルがソフトセグメントに分散したことにより、LOIが3程度上昇したことです。これらの実験から、高分子の難燃性にメソフェーズ領域の構造が影響していることを理解できました。

 

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2012.12/04 フェノール樹脂の難燃化(1)

約35年ほど前のことですが、高耐火性フェノール樹脂発泡体が新材料として登場した。当時難燃性硬質ポリウレタンフォームが建材として使用されていた時代である。今は無くなりましたが難燃2級というJIS規格があり、この規格に合わせて材料設計されていた。「難燃性」に比較し「高耐火性」という商品名はいかにも燃えにくい名前である。実際にLOIは難燃性硬質ポリウレタンフォームが23-24前後に対し、高耐火性フェノール樹脂発泡体は35前後であった。LOIの値よりも驚いたのは、難燃剤が添加されていなかったことである。

 

M社の高い技術で分子設計され難燃剤を使用せず、難燃2級を通過した、とカタログの説明にありました。分析するとレゾール型フェノール樹脂で硬化触媒として硫酸が使用されていた。有機酸も検出されたので2種類の酸を触媒として用いていることまではわかりましたが、三次元にゲル化した樹脂の分析は大変難しい。ただこの高性能発泡体は3年ほど普及しなかった。理由は、断熱性が硬質ポリウレタンフォームよりも劣っていたためである。発泡密度をそろえて比較しても2倍程度の差がありました。原因は発泡剤として使用しているフロンガスが硬質ポリウレタンフォームでは数年残っているが、フェノール樹脂発泡体では1年未満で抜けてしまうためである。

 

難燃性硬質ポリウレタンフォームが普及して出てきた問題は、実火災でよく燃える、という現象です。LOIが21を超えておればタバコの火程度では燃えないはずですが、よく燃えてしまう。調べてみると、現場発泡した時の条件で、LOIが19前後の難燃性硬質ポリウレタンフォームができることが分かりました。しかし、それでも難燃2級を通過しているのです。原因は、難燃2級の評価方法にあり、硬質ポリウレタンフォームの物性ゆえに、試験炎があたると餅のように膨らみ炎から離れて、燃焼試験に通過する、という状態が観察されました。当時の通産省は慌てて難燃基準を見直し、簡易耐火試験という実火災に近づけた試験方法が登場し、高耐火性フェノール樹脂の出番となりました。

 

簡易耐火試験では燃焼後もある程度防火性を持っていなければならないので、樹脂の炭化率が40%を超える必要があり、硬質ポリウレタンフォームでは不可能な領域でした。炭化率と建材のコストを考慮するとフェノール樹脂発泡体以外の材料はありませんでした。フェノール樹脂材料メーカーが多数発泡体分野に進出してきました。各社のフェノール樹脂を分析しましたところ、M社以外は難燃剤を使用していました。

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