材料の脆さとか割れやすさの程度を表す物性を靱性と言います。K1cというパラメーターですが、この靱性という値が良くわからない、という材料系の人が多い。測定方法は、K1cを直接計測すればよいのだが、実際にはMITとかアイゾット衝撃試験の方法で計測されている。用途あるいは材料の形態に合わせて脆さを知る方法を選択している、と言ってもよい状況です。
簡便に知りたいならば、硬度試験に用いるダイヤモンド圧子で圧痕をつけてみる方法もよい。材料の脆さの比較程度はできます。ただしこの方法は靱性の大きな材料では用いることができない。他の方法でも靱性が大きくなるとその測定値は怪しくなる。唯一K1cだけが靱性の小さなものから大きなものまで計測できるパラメータのように思っています。思っています、と書きましたのはK1cですら怪しいと言われる方もいらっしゃいます。
靱性というパラメーターはこのように評価が難しいパラメーターですが、物性値として重要です。しかし物質固有のパラメーターかというと、材料の加工の履歴も反映されてくるので融点とかTgなどのようなパラメーターとかなり異なります。Tgに関しては物性値が存在しない材料、すなわちガラス以外の非晶質材料も存在するが、靱性はすべての材料で計測されるので重要だ、という意見もあるかもしれませんが、材料固有という意味で靱性をとらえることはできません。例えばその材料の結晶状態と非晶状態では靱性は変化します。
靱性は物性値として評価方法も材料の制御方法も難しいパラメーターですが、材料を実用化するときには重要なパラメーターになります。おそらく実務の中でうまく伝承すべきパラメーターなのでしょう。
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樹脂の混練について相談を受けたときに、どこか試験設備を紹介して欲しい、と言われました。かつて樹脂開発をしたいときに国内に受託施設がなく結局二軸混練機を1台購入し試作を行いました。ゴムでも樹脂でも手軽に混練の試作ができる施設の希望は多いのでしょうか?もし多いようであれば、そのような施設を運営したいと思っています。申し訳ないですが、ご希望の方はこちら(当サイトのお問い合わせ)からご相談ください。ご希望が多ければ、関東近辺に設立したいと思います。
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射出成形技術の研究者として著名ななH先生は「どんな樹脂でも射出成形できる技術の確立が射出成形技術の目標だ」と言われました。それに対して樹脂のコンパウンディングの目標は、というと明確に表現できる専門家はいないように思います。少なくとも樹脂メーカーのエンジニアにこのような問いかけをしても品質の安定性という当たり前の回答しか返ってこない。
コンパウンディングの技術目標はどうあるべきか。樹脂の品質の安定性は一般に樹脂製品のスペックの偏差が工程内で小さいことを意味し、多くの場合、工程とはコンパウンディング工程だけを考えています。しかし樹脂は成形加工されて初めて実用になるので、「射出成形前後で樹脂が変化していないこと」は重要な目標の一つだと思います。
しかし分析していただけばご理解いただけますが、この目標は簡単なようで大変難しい目標です。特にポリマーアロイでは通常使用されている混練工程ではこの目標を達成できません。一成分の高分子の樹脂でも自由体積の量を射出成形前後で測定すると変化しています。複雑形状の射出成形体であれば、成形体の各部で自由体積の量が変化しています。
カオス混合は究極の混練技術と古くから言われており、その達成手段が検討されてきました。実はもちつきやパイ生地の製造プロセスがカオス混合に似ているのですが、これを樹脂の混練工程で実現するのはいままで困難でした。しかしカオス混合に極めて近い効果を発揮する混練技術が開発されました。
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射出成形だけで光沢のある外観ができる、という長所からPC/ABSの需要がこの10年伸びている。この材料は、ABSがブレンドされているので、靱性も向上している。すなわち力学物性も外観も良好なポリマーアロイである。
しかしこの材料は4成分の高分子のブレンドからできているため、混練技術に問題があると、射出成形プロセスで外観不良の問題を引き起こす。外観不良だけでなく、ひどいときには、材料スペックの半分以下の強度しか出ないという品質問題を発生する。
射出成形メーカーにコンパウンド技術が充分にあれば品質問題の解析が可能だが、射出成形メーカーの技術者は化学工学あるいは機械系の技術者が多いために本質的な原因解明ができなかったりする。仮に本質的な原因解明ができても、コンパウンドメーカーからコンパウンドに詳しい技術者が説明にきて丸め込まれたりする。
かつて、射出成形体に外観不良の問題とボス割れの問題が発生したためにその原因解析を行いました。その結果、コンパウンドの製造プロセスに問題がある、というデータが得られたので、中国の現場まで出向き工場の様子を視察したところ、案の定シリンダーの温度が高いところがあり、できあがったペレットに時々「す」が発生していた。証拠品を持ち帰り、某コンパウンドメーカーへ注意をしたところ、分析データをめぐり3時間にわたる議論となった。
分析データだけでは結論を認めていただけなかったので、証拠品の「す」の入ったペレットと温度異常を示す写真を最後に見せて決着がついたが後味の悪い議論でした。コンパウンドと射出成型性の問題は、お互いが譲らなくなった場合には結論を出しにくくなる問題であるとその時学びました。ただし、分析値にへりくつをつけることができましても現物は動かぬ証拠となります。
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樹脂と各種成形との関係について教科書を調べてみても明確な説明がされていない。成形技術分野は主にハードウェアーの説明がほとんどである。特許を調べてみると様々な条件が記載されている。中には同じ条件であるにもかかわらず表現が異なるために成立している特許もある。
PETは射出成形しにくい樹脂で、主に押出成形やブロー成形用に使用されてきた。ある教科書では、射出成形できない、とまで明確に書かれている。PETの押出成形を20年近く前に体験したが、Tダイから出てくる樹脂を見て射出成形できないと直感した。粘度変化が激しいのである。また、この粘度が低くなるおかげでフィルム成形しやすい樹脂という言い方もできます。
特許にもPETに添加剤をブレンドし、温度に対する粘度変化を緩やかにする技術が出願されている。ただPETの射出成形の難しさは、粘度の温度変化を調整しただけではだめで、もともと遅い結晶化速度を制御しない限り、表面のきれいな成形体が得られない。すなわち添加剤の中には結晶化速度を速める化合物も有り、その結果粘度調整ができているのだが、これが実際の射出成形では結晶化しすぎて表面のなめらかさが阻害されたりする。
PETは結晶化速度が遅いのでブロー成形やフィルム成形に向いているのだが、結晶化しにくいわけではない。結晶化度の低いフィルムを延伸すればすぐに結晶化する。PETの射出成形を可能にするためには、結晶化速度を速めながら結晶化度が上がらないようにして粘度調整する必要がある。まったく結晶化しないように変性し粘度を上げるのも射出成形性を改善できる方法でそのような技術も存在するが、この場合には弾性率が低く柔らかい成形体となる。故にフィラーを添加して弾性率を上げなければ実用性の無い樹脂となる。フィラーを添加せず樹脂だけで弾性率の高い射出成形体を製造する技術の難易度は高い。
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昨年の話だが、あるメーカーの社長から割れた樹脂の写真が届き、この問題を解決して欲しい、という手紙が入っていた。それ以外の情報は無い。担当者を紹介してもらい、いろいろ伺ったが、要点は熱伝導をあげるために他社と同じような組成にして成形体を作ったが、他社は割れないのに自分のところは割れる、という内容です。
処方は20年以上前から知られている公知情報なので何とかしたい、というのが担当者の話。特許情報や分析結果から同等の材料を使用しているから不思議だ、という。あまりにも技術を軽視している、と思いましたが、対策を幾つか示し、問題解決をしました。しかし契約をしないで問題解決したためにお酒でお茶を濁すだけの仕事になりました。
コンサルティングを始めたばかりなので頼まれればすぐに対応します。簡単な問題から難しい問題まで、何でもこちら(当サイトのお問い合わせ)からご相談ください。実績豊富な弊社の問題解決法で迅速に対応させて頂きます。
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酸化第二スズゾルをゼラチン水溶液に分散し塗布膜をTACフィルムに工程条件で形成するとパーコレーション転移を生じないが、分散条件や塗布液、塗布条件を制御するとパーコレーション転移が観察されるようになる。その転移の閾値検出には、20Hzにおけるインピーダンス変化を利用すると容易である。これは、インピーダンスの周波数分散が、導電性微粒子分散系では低周波数領域で大きく変化する性質を利用している。
この低周波数領域で生じるインピーダンスの異常変化について数値シミュレーションをおこなった。すなわち絶縁性のバインダーをコンデンサー、導電性粒子を抵抗に置き換えたモデルを作り、その数学的表現を検討し、モデルに合致する数式を導き出した。このモデルを表現した数式についてゼラチンの静電容量、酸化第二スズゾル粒子の直流抵抗の値で計算を行うと、酸化第二スズゾルの量が増加するに従い、インピーダンスの値が低周波数領域で異常分散を示す。
この数値シミュレーションは福井大学客員教授をしていた時に、青木幸一先生に教えていただいて行ったのだが、専門が異なると現象を前にした時の発想が異なる面白さを味わいました。当方は、有限要素法に類似の方法でパーコレーション転移をシミュレートするソフトウェアーを完成していたが、それは直流を前提にしていた。交流で計算するには、モデルを組み直し再度プログラミングをしなければならない。しかし数学モデルに持ち込んで数式化し、数値シミュレーションを行えば、エクセルで計算できてしまうのである。このような世界を真剣に勉強したことが無かったので感動しました。
さて、シミュレーション結果は何を意味しているのか。これはモデルと数式を見て考察するわけであるが、数式が複雑なので計算値の変化からモデルの動きを推定した。面白いことに静電容量が異常に大きく変化するところがある。そしてその影響でインピーダンスも大きく変化している。すなわち微粒子のクラスターが多くなることは、微粒子どおしの接触点が増えることを意味し、それは導電性粒子の距離が短くなり静電容量が大きくなる変化と等価で、数値シミュレーションの異常分散が生じていることが分かった。すなわちパーコレーション転移とインピーダンスの低周波数領域における異常分散とは密接な関係があったのである。
一連の成果については15年前に公開済みで、来年販売する帯電防止技術電子セミナーにおいて説明する予定です。
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酸化第二スズゾルをゼラチン水溶液に分散し、何も工夫せずTACフィルムへ塗布しますとパーコレーション転移を観察できません。50vol%も添加するとひび割れる為で、この添加量が上限となり、転移の閾値が観察されないのです。しかし、分散方法や塗布条件の工夫をしますと50vol%未満でもパーコレーション転移を生じるようになります。しかし、それは工程条件からかけ離れたものです。このときの閾値は、表面比抵抗ではわかりにくい。酸化第二スズゾルの添加量に対する抵抗変化が工夫前よりも大きくなったという程度の曲線です。どこに閾値があるのか不明で、パーコレーション転移の制御技術を開発するためには、まず閾値を見つける評価技術を作らなければなりません。
微粒子分散系のインピーダンスや誘電率は、低周波数側で異常な周波数分散を生じます。ゼラチンをコーティングしたTACフィルムのインピーダンスを評価しましたところ、酸化第二スズゾルが添加された場合に、やはり異常な周波数分散が観察されました。100ミクロンのTACフィルムに0.2ミクロンの薄膜を形成しているのですから、感度が高い検出力です。
様々な条件でTACフィルムに酸化第二スズゾルを添加したゼラチンをコーティングしたフィルムについてインピーダンスを評価しましたら、100Hz以下で急激な変化を示すサンプルがいくつか見つかりました。横軸に酸化第二スズゾルの添加量をとり、縦軸に20Hzのインピーダンスの値をとったグラフ上にそのサンプル群をプロットしましたところ35vol%以上のサンプルでインピーダンスの値が、35vol%未満のサンプルの値に対して10000倍になるグラフが得られました。表面比抵抗の値はなだらかな変化を示していますが、インピーダンスの値は、クラスターのでき方を検出している可能性があります。
明日は、インピーダンス変化をシミュレーションしました結果を説明します。
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酸化第二スズゾルは、1次粒子径が1nm前後の粒子が金魚のウンコのようにつながった不定形繊維状の導電体が水中に安定に分散したコロイド溶液です。ラテックスやゼラチン水溶液に分散すると容易に安定な塗布液を作ることができます。この塗布液で塗膜を作りますと、アスペクト比の大きな繊維状導電体にもかかわらず、パーコレーション転移が生じにくい。体積分率で50vol%前後添加しなければ半導体領域の導電性を示す塗膜が得られない。ところがこれだけの添加量になると塗膜の強度が上がらず、力学物性の良好な膜が得られません。
原因は、酸化第二スズゾルの濃度を上げると、繊維状の導電体が構造を作るためで、ゾルの粘弾性を評価すると構造粘性がいろいろ変化する様子を観察することができる。すなわち塗膜中の導電体の分散状態で決まる構造が、パーコレーション転移に大きく影響をしているため、導電体の高いアスペクト比が生かされていないのです。
この酸化第二スズゾルの水中における構造形成の問題は、塗布液中の酸化第二スズゾルの濃度やその他のコロイド粒子の存在を考慮すると避けて通れない難問です。すなわち導電体繊維が構造を作って分散していることを前提にパーコレーション転移を制御しなければコーティング技術を完成できません。技術の詳細は後日述べますが、パーコレーション転移の制御因子を探索するためには、パーコレーション転移の閾値を正確に評価できる評価技術が必要です(明日に続く)。
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酸化第二スズは、酸素欠陥の量で、物質の抵抗が1000倍以上変化する。そしてInやSbをドープしなくとも1000Ωcm程度の導電性が出る合成条件も存在する。四塩化スズを加水分解して得られる酸化第二スズゾルは、合成条件を制御すると、1000-10000Ωcmの超微粒子が分散したゾルとなる。このゾルとラテックスを用いると帯電防止用の透明コーティング剤となる。この帯電防止薄膜は昭和35年に小西六工業で発明されたが、1991年まで見捨てられた存在でありました。
この技術の面白い点は、この材料を評価した誰もがダメな技術と評価していたことです。原因は2つあり、酸化第二スズゾルの粒子の導電性が合成条件により1000倍以上変化することとパーコレーション転移の制御技術という概念が無かったことである。昭和35年の特許の実施例には驚くべきこととして処理し、この2点については触れられていませんでした。
パーコレーション転移については、1970年前後に数学者の間で研究が盛んになりました。また、高純度酸化第二スズの導電性については、1980年ごろに無機材質研究所でその導電性と酸素欠陥の関係が研究されました。このような状況ですから、1991年まで酸化第二スズゾルが良好な透明帯電防止剤として認識されていなくとも納得できなくはないですが、昭和35年の技術は小西六工業で発明されていますから技術の伝承がどうあるべきか、という問題を抱えています。
酸化第二スズゾルが透明導電性薄膜に利用できる、と再発見できましたのは、ライバル企業の特許網がきっかけでした。ライバル企業はATOを帯電防止薄膜に使用していました。ただ、ATOは若干青みがかっている問題がありました。この問題について、弊社の電脳書店で販売しています「問題は結論から考えろ!セミナー」や、「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」で取り上げている問題解決法で問題解決し、酸化第二スズゾルの実用化に成功しました。ただ、この企画立案時に調査を行い、昭和35年の特許を発見したのですが、正直申し上げますと、特許網に穴をあけるには役立ちましたが、新材料開発に対するモチベーションは少し下がりました。
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