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2012.10/25 ブロッキング防止と滑り性付与

昨日セミナー会社の依頼を受け、ブロッキング防止と滑り性付与の講演をしてきました。複数の講師による講演会でトリとして講演を1時間半行いました。

 

この分野の講演で困るのは、聴講者が対象としている商品に必要な物性が様々であること。例えば写真分野であれば、感材の支持体の表面処理までの過程ではブロッキングが問題となりますが、半製品の状態ですので工程の一時的対策が取れれればよいわけで、マット剤だけで対応できます。しかし、写真フィルムに完成した状態では、レントゲン用フィルムと35mmフィルムでは表面の設計が異なります。後者では、現像処理まで機能があれば何とかなりますが、レントゲン用フィルムの場合には保管され、時々取り出して観察する、という取り扱いがされますので、数年は表面設計した機能が発揮されなければなりません。

 

常時こすられている摺動部分の表面になると、写真フィルムと異なる材料設計と評価技術が要求されます。学術的には物質の拡散や相溶まで考えるべき、ともいわれますが、厳しい使用条件になればなるほど、学術的な話が心細くなるのがこの分野であり、説明する側から見れば難しい課題です。一応約50年前誕生したトライボロジーという学問がありますが、約100年前の技術者が軸受けの研究を行いまとめたStribeck曲線をしのぐ成果が出ていません。技術として理解し割り切って開発するのが寛容な分野であります。

 

しかし、学術の世界を全く知らなくてもよいのか、というと、どのような技術分野でもそうですが、科学の正しい知識は重要で、この分野でも知っている場合と知らない場合とでは、品質問題のとらえ方が異なります。ただし、必要な知識を正しく知っていることが大切で、生半可な知識であれば無いほうがましで、中途半端な知識で失敗した若いときの事例などをお話ししました。このような失敗を防ぐために最低限の正しい知識を短時間に整理する、というコンセプトで「高分子材料のツボセミナー」を販売していますのでご活用ください。

 

高分子材料のツボセミナー

実務で高分子材料科学を活用する視点でまとめました。 高分子科学の全体像について学べますので、専門外の技術者にも学生にも役立ちます。

本書は高分子に関する知識を持っていない人の為に、写真と絵を中心に分かり易くまとめました。項目毎に穴埋め式の復習問題もあるので、学習内容の確認もできます。

また、電子書籍ならではの特徴として、購読者様からの質問を受け付けその回答が毎月反映されていきます。是非ご活用ください。

 

弊社では本記事の内容やコンサルティング業務を含め、電子メールでのご相談を無料で承っております。

こちら(当サイトのお問い合わせ)からご連絡ください。

カテゴリー : 高分子

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2012.10/23 高分子の難燃性評価技術

高分子の難燃化技術は、科学的に開発を進めることができる部分と非科学的なプロセスが必要となる場面があります。

 

例えば評価技術。研究者により意見が異なるかもしれませんが、実火災の全体像を科学的に再現できる評価技術は存在しません。例えば空気中で燃えやすいか燃えにくいかを試験する極限酸素指数(LOI)には温度依存性があり、その依存度は高分子材料により異なります。ゆえに高分子材料のLOI評価では温度を一定に保ち実験を行う必要があります。しかし実火災の温度の高いところでは500℃以上になるので、ザイロンなど一部の高分子を除き大半の高分子材料でLOIの差はこの温度領域においてほとんど無くなります。このような理由から実験データの再現性や線形性に優れた方法でも実火災に対する高分子の難燃性を保証できる万能評価技術になっていません。

 

しかし、実火災を想定した高分子材料の評価技術は材料開発に必要なので、使用状況、用途に応じた難燃規格が各業界に存在します。1980年頃からUL規格が注目され、この規格を採用している業界は多い。UL規格には測定条件が細かく規定され、実験データの再現性をあげる努力が見られます。この規格は30年以上の実績があり、難燃性の規格として信頼できるのですが、実火災との関係において評価手順がすべて科学的に裏づけられているのか、というと疑問の余地は残ります。それでも使用されているのは、UL規格のこれまでの採用実績にあると思っています。

 

高分子の難燃性評価技術の開発は現在でも行われていますが、すべての実火災に適用でき、評価プロセスの意味をすべて科学的に裏付けできる評価技術はできていません。このような理由から高分子の難燃化技術には、どうしても非科学的プロセスが入ってきます。

 

すべての実火災を実験室で再現することは不可能、と感覚的に理解でき、無意識のうちに非科学的プロセスを容認していますが、高分子の難燃性評価技術以外に製品開発における様々なシーンで非科学的プロセスが使われていることをどれだけの技術者が認識しているのでしょうか。非科学的プロセスを科学的ではないから、と言う理由で否定するのではなく、科学的プロセスを尊重しつつうまく活用する「技」が不確実性の時代に新しい技術を生み出すために大切と思っています。そのためのヒントは「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」に書かれています。ご一読ください。

 

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2012.10/18 ドリッピングによる高分子の難燃化技術

軟質ポリウレタンフォームの難燃化技術を開発しました時に、1.高分子を炭化促進して難燃化する方法と、2.燃焼の熱で高分子を溶融させドリッピング現象を発生させて難燃化する方法があることを知りました。1の場合には高分子を炭化促進するための触媒の添加が不可欠で、通常はリン酸エステル系難燃剤や気相に滞留し炭化を促進するハロゲン系難燃剤などが用いられます。2の場合には、溶融しやすいように可塑剤や低分子の添加が検討されますが、これだけでは不十分で1と同様の難燃剤を併用します。

 

1の方法で、可燃性高分子の大半を燃焼時に炭化できる技術があれば、2の手法の出番は無くなりますが、高分子の物性を損なわないように高い難燃化レベルを達成することは不可能なので、現実的な技術開発を可能とするように用途に応じた難燃化規格が設定されており、この難燃化規格を前提として2の手法の経済的優位性が出てくる場合があります。

 

やや乱暴な表現ではありますが、大半の高分子は実火災では燃えてしまうので、高温にさらされた時に火源とならない程度の難燃化レベル(例えばUL94-V2)の高分子材料を使用できる用途では、1の手法よりも2の手法により難燃剤の添加を減らすことができるのでコストを削減することが可能となり技術的に優れた手法ということもできます。

 

軟質ポリウレタンフォームをドリッピング手法で自己消化性となるように難燃化設計しました時に少量の難燃剤添加が必要で、TCPPであれば10%ほど添加しなければなりませんでした。この時LOIは19程度であり、ドリッピング手法で材料設計されていなければ空気中では自己消化性を示さないレベルです。類似処方でドリッピング促進していない軟質ポリウレタンフォームの場合には、TCPPを10%添加するとLOIは19程度なので自己消化性を示しません。TCPPを25%ほど添加しますとLOIは21となり、自己消化性を示すようになります。この比較からドリッピング手法で材料を変性すると難燃剤の添加が半分以下で自己消化性になる、と理解していました。

 

PETの難燃化を検討するチャンスがありましたので、ドリッピング手法で難燃剤レスにより自己消化性樹脂ができないかチャレンジしてみました。UL94-V2レベルであれば、炭化しやすい樹脂をブレンドすることで難燃剤レスによる自己消化性樹脂ができることが分かりました。燃焼している試料の下に置かれた硝化綿を燃焼させてはいけないUL規格で、ドリッピング手法による難燃化樹脂を検討するには勇気が必要でしたが、軟質ポリウレタンフォームの難燃化経験がありましたので自信はありました。技術開発では過去の経験が自信につながるので、若い技術者の成功体験は新しい技術にチャレンジできる技術者育成のために重要です

 

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2012.10/12 熱分解

高分子の難燃化技術から、高純度SiCの新しい合成プロセスが生まれましたが、両者の技術的な共通点は、物質の熱分解反応をどのように制御してゆくのか、という点です。科学的には、現在でも完全に解明されていない現象です。例えば燃焼時に高分子の熱分解をどのように制御するのか、と科学的に考えようとしても、考えなければいけない不確定要因が多く、完璧な議論が難しいためです。通常のリン酸エステル系難燃剤を用いた場合に、燃焼後の残渣にリン酸がほとんど残っていなくても、リン酸のユニットが高分子の炭化促進に機能している、という仮説が信じられているのは、リン酸エステル系難燃剤を用いたときに炭化物の生成が多いことと、縮合リン酸の触媒機能から推定される反応機構が知られているからです。

 

しかし、シリカ還元法、すなわち炭素とシリカの混合物を1600℃以上に加熱して生じる熱分解については、かなり科学的に解明されており、高分子前駆体法が登場するまでは、気相と固相の両方の反応で熱分解が進行しSiC化の反応が起きている、というのが定説でした。そして気相反応でSiC化が進行した場合には、低温度領域が存在すると、SiCウィスカーが生成する現象まで解明されていました。この科学的成果から、SiCウィスカーを選択的に合成できる技術も当時はできつつありました。すなわちシリカ還元法における熱分解反応について、気相を経由する反応の利用は、科学的な情報から技術開発できる段階にありました。しかし、シリカと炭素を化学量論比で反応させたときに気相反応を抑制できる技術は無く、炭素を大過剰に用いてSiOガスを反応系外に出さないようにする工夫以外に方法はありませんでした。

 

シリカ還元法について固相反応だけで進行する系が見つかっていなかったためですが、高分子前駆体法は、その唯一の系を提供できたわけです。これは、高分子前駆体法で合成される、シリカと炭素の混合物が原子レベルで均一に混合されているため、と電子顕微鏡写真から推定しましたが、実際に超高温熱天秤でSiC化の反応をモニターしますと化学反応式通りのプロファイルが得られますので、この仮説は正しいと思っています。

 

高温度における物質の熱分解は、分子の活性が高いために副反応が多くなり解析が難しくなります。しかし、系の純度が上がり均一になるだけで副反応が無くなる熱分解に接したときに、有機合成反応を研究していたころを思い出し、化学反応における系の純度と均一さの重要性を再認識いたしました。

 

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2012.10/11 技術開発とアイデア

商品を技術開発するときに、商品に搭載される技術に関しすべてに精通していることが望ましい。しかし、実際には商品の主要機能が関係する技術分野は広いので、一つの商品を開発するときに必要な技術分野の人材でチームを形成し、商品開発を行う。ほとんどの商品には、高分子材料が使用されているので、メンバーにはたとえ専門家ではなくても高分子に詳しい人材が加わると思います。その方に受講して頂きたいのが「高分子材料のツボ」セミナーです。

 

転職前セラミックス開発を担当していた講師が、転職後の会社で高分子分野のリーダーを勤めることになりましたので、アカデミアの諸先生方の指導を受けながら研究開発を行いながら作成したメモを基に企画しましたのが、本セミナーです。転職前の会社がゴム会社でしたので高分子に関する知識を持っていましたが、実際に技術開発を担当する場合には力不足を感じていました。関係学会や高分子自由討論会に参加しながら勉強し、技術開発に必要な先端知識も含め、頭の中に入れているとアイデアの基になる知識を中心にメモを作成しました。わざわざ教科書の抜き書きのようなメモを作成した理由は、教科書の内容が間違いではないが、アイデアを出すには不適切な解説の場合が多く、目の前の現象についてアカデミアの先生から直接指導を受けました考え方でメモを作成する必要を痛感したからです。

 

すなわち高分子科学は、市販されている高分子の種類を見ていると進歩が無いように感じますが、この30年大きく進歩しました。特に高分子物理に関しては分子1本のレオロジーを論じることができるくらいの進歩です。教科書も少しずつ書き換えられてはいますが、教科書という性格から大幅な書き換えは行われていないようです。

 

また、このような科学の進歩の側面以外に教科書では絶対に説明していない材料の寿命と靱性の結びつきも、実用商品では重要な考え方なのであえて取り上げています。すなわち「高分子材料のツボ」セミナーは、技術の観点でまとめたメモを基にした内容ですので、受講後すぐに実務に生かすことができます。また受講時間も2時間前後ですので、高分子材料の専門家の方も短時間に材料からプロセシングまで知識の整理ができます。是非ご利用ください。

 

このセミナーへの橋渡し役の本も先日出版しました。「誰でもわかる高分子」というタイトルで、「成長する絵本」というコンセプトで企画しました。すなわち読者からの質問を基に今後この本を成長させてゆく予定ですので、是非ご一読後質問をお寄せください。

 

 

 

本書は高分子に関する知識を持っていない人の為に、写真と絵を中心に分かり易くまとめました。項目毎に穴埋め式の復習問題もあるので、学習内容の確認もできます。

また、電子書籍ならではの特徴として、購読者様からの質問を受け付けその回答が毎月反映されていきます。是非ご活用ください。

 

高分子材料のツボセミナー

実務で高分子材料科学を活用する視点でまとめました。
高分子科学の全体像について学べますので、専門外の技術者にも学生にも役立ちます。

 

カテゴリー : 一般 宣伝 高分子

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2012.10/08 超高温熱重量天秤

加熱しながら物質の重量変化をモニターする分析装置を熱重量天秤あるいは熱天秤(TGA)と言います。TGAでは、一定速度で昇温しながら物質の重量減少を測定したり、一定温度における物質の重量減少を測定したりできる。また、コンピューター制御できるTGAであれば、この両者を組み合わせた複雑な温度パターンにおける重量減少を測定することも可能となる。

 

物質は高い温度に曝せば分解する。その分解速度を計測することで物質が高温度でどのような変化をしているのか推定することが可能である。熱分解で発生してくる物質までモニターできれば便利で、そのようなTGAも開発されている。例えば炭素と二酸化珪素(シリカあるいは石英などで、以下シリカで代用)を用いて還元反応を1600℃以上で行いSiCを合成するシリカ還元法では、固相反応だけで進行するならばCOガスを発生しSiC化する。しかし、固相反応以外に気相反応も経由すると、COガス以外にSiOガスも発生する。すなわち、シリカ還元法で重量減少をモニタリングすることにより、発生ガスがCOだけなのかSiOガスの発生もあるのか、など重量減少から予測でき、さらにその反応速度を解析することにより、反応機構までわかる。

 

反応機構を調べ論じるだけならば、これは科学の研究であり、りっぱな学位論文となる。しかし、この研究結果は技術開発において次の2点で重要な意味を持つ。一つは、SiC化の反応を高分子前駆体を用いたならば固相反応だけでSiC化できる、ということと、もう一つは、SiC化の反応機構が反応温度でどのように変化するのか、という2点を明らかにできる。

 

当時報告されていたシリカ還元法の反応機構は、気相反応経由と気相反応と固相反応の両方を経由する反応が知られており、固相反応だけでSiC化の反応が進行する系は知られていなかった。気相反応を伴うので、還元剤である炭素をシリカ還元法では大過剰に用いる必要があり、SiC合成後炭素を燃焼により除去する必要があった。その結果SiCの一部が酸化され、シリカ不純物として生成物に含まれていた。また、SiOガスがSiC内部に閉じ込められる場合も報告されており、シリカ還元法では酸素不純物を完全に取り除くことができない、とされていた。

 

もしSiC化の反応が有機物の反応のように、均一相で単純な反応で進行したならば、酸素不純物までも残らない100%高純度のSiCを合成できるはずである。すなわち均一固相反応でSiC化できる前駆体を発明できれば、半導体分野に使用可能な100%純度のSiCを大量合成できるプロセスを開発できる。また、この均一固相反応で進行する温度領域が明確になれば、プロセス設計も容易になり、そのロバストネスも予想できる。

 

すなわち、SiC化の反応機構を調べる研究は、科学の研究であると同時に技術開発にも重要な研究で、もし数ミリグラムの試料でプラント建設の情報が得られるならば、数千万円かけてでも実施する価値のある研究である。もし高分子前駆体を用いる反応が均一固相反応で進行する系であることが証明されれば、高純度SiC合成プロセスの本命であることもわかり、事業の未来も明るくなる。無機材質研究所へ留学する前にTGAについて調査しましたが、SiC化の反応をモニター可能なTGAは市販されていませんでした。しかし赤外線イメージ炉が微小領域ならば2000℃前後まで加熱可能な熱源として知られていました。超高温熱重量天秤の開発は、逆向きの推論(1)から導き出された企画です。

 

<参考情報>

(1)「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」、あるいは「問題は「結論」から考えろ!セミナー」をご覧ください。

 

 

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カテゴリー : 高分子

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2012.10/07 2000℃まで測定可能な超高温熱重量天秤

SiCの線膨張率測定を行いながら、YAGレーザー加熱により得られる高温度が、極めて安定であることにびっくりしました。SiCの単結晶は、逆向きの推論(1)を用いて開発したばかりの接着剤で空間に固定され、透明石英管の中にアルゴン封入された状態であり、断熱材は使用していません。YAGレーザーで単結晶に供給されるエネルギーと外部に放出されるエネルギーのバランスが釣り合っているため、と推定されますが、YAGレーザーのパワー30%程度で簡単に2000℃の環境が得られます。

 

この実験は、留学後予定していたシリカ還元法の反応速度論研究に用いる実験装置の大きなヒントになりました。すなわち、シリカ還元法は1600℃以上の高温度でシリカを炭素で還元する方法であり、その反応をモニターするには、1600℃以上の高温度を瞬時に安定的に発生できる熱源と天秤が必要です。天秤は温度変化で誤差を生じますので熱源を可能な限り小さく設計する必要があります。実は、固相反応だけで進行するシリカ還元法の研究開発の戦略はできていたのですが、このときの実験で使用する超高温熱重量天秤の熱源について、逆向きの推論(1)から得られた、可能な限り狭い領域だけを加熱できる赤外線イメージ炉を採用する予定でおりました。しかし、赤外線イメージ炉よりもさらに狭い領域を安定に加熱できる熱源のヒントが、この実験から得られたわけです。

 

科学では、ある仮説の正しさを証明するために実験を行なわなければならない場合があります。いくら仮説が正しくとも、仮説を支持しない実験データが得られたならば、その仮説の信頼性は下がります。ゆえにどのような実験を行うのか、実験計画や実験に使用する装置が重要になってきます。重量減少をモニターし、反応速度を求める実験では、時々刻々と変化する重量を精度良く測定できる天秤が必要で、室温から1500℃までの温度変化程度ならば、精度の高い重量変化を追跡できる熱重量天秤が開発されておりましたが、SiCの反応温度1600℃以上で重量減少を計測できる超高温熱重量天秤については、新たに開発する必要がありました。

 

このSiCの線膨張率測定実験を開始してから1年半後、2000万円かけてYAGレーザーと赤外線イメージ炉を併用した2000℃まで測定可能な超高温熱重量天秤の開発に成功しますが、研究開発における実験の位置づけを考えると、実験装置の設計は研究者自ら行う必要があり、また、ユニークな実験方法であれば、それがまた新たなアイデアを生み出す基になりますので、実験そのものも自ら率先して行うことの重要性を学びました。高温度におけるセラミックス単結晶の線膨張率を直接計測する装置は、井上善三郎博士の考案によるもので、大変ユニークな研究者でした。ただ、ユニークな装置も2000℃という高温度まで耐える接着技術が世の中に存在しなかったために、1000℃までの実験装置として使わなければなりませんでした。そのような状況で、逆向きの推論(1)を用いて、2000℃以上まで耐えられる接着技術を開発し貢献できましたので、超高温熱重量天秤にYAGレーザー加熱を組み合わせるアイデアの使用を許可して頂きました。

 

 

<参考情報>

(1)「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」、あるいは「問題は「結論」から考えろ!セミナー」をご覧ください。

 

 

弊社では本記事の内容やコンサルティング業務を含め、電子メールでのご相談を無料で承っております。

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カテゴリー : 高分子

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2012.10/02 電子セミナー「高分子材料のツボ」のご案内

㈱ケンシューでは、デジタルコンテンツならではの、他にはない新しい形として、購読者参加型の電子セミナーを販売中です。

 

弊社の提供している電子セミナーは、直感的に理解しやすいよう項目毎に1ページを当て、そこへアイデアを出すために必要な重要事項をまとめ、音声による解説もつけております。また電子書籍の形式なので、空いた時間に購読者側のペースで受講し、途中で中断・再開する事も、受講終了後も自由に閲覧することもできます。今回はその一つ、弊社電脳書店で販売中の電子セミナー「高分子材料のツボ」についてご紹介させて頂きます。

 

「高分子材料のツボ」では、高分子の身近な歴史や高分子構造をどのように理解すればよいのか、から始まり、その評価技術、結晶化は何故起きるのか、古典的なレオロジーの位置づけ、そしてプロセッシングについても、実際に実務を経験してきた技術者ならではの視点で解説しております。

 

本コンテンツの特徴は、購読者の質問を受け付けている事です。質問につきまして、質問者へ直接回答はできませんが、一定期間(およそ1か月前後)届きました質問を分類し、その回答を定期的に追加していきます。質問回数に制限はなく、セミナー内に記載された期限内であれば何度でも質問する事が可能です。

 

本コンテンツの対象は学生、専門外の技術者、そして専門技術者の知識整理目的となっております。
興味を持たれた方は是非ご購入を検討してください。

 

 

クリックすると説明とサンプル閲覧ができます。

(¥1000)

サンプルはこちら(Adobe Flash Player最新版がプラグインされている必要があります)

 

弊社では同時に顧問契約によるコンサルティングも行っていますので、高分子材料の分野でお困りの方はご相談ください。

 

倉地育夫

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Info@kensyu323.com

カテゴリー : 宣伝 電子出版 高分子

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2012.09/30 実験の目的

実験は、仮説を検証するために行う、とは、大学で研究の指導を受けているときに言われた言葉である。確かに仮説を検証するために実験を行えば、企業の研究開発業務でも効率があがる。

 

哲学者イムレ・ラカトシュ著「方法の擁護」には、科学的論理で完璧にできるのは否定証明だけである、と書かれている。興味を持ちましたのは、否定証明された科学的真実について、それを否定する事実が出現したらどうなるか、という点で、それは科学的にありえないことになるが、新発見として認められれば、否定証明に使われた論理のどこかが間違っていたか、前提条件が不足していたことになるので、そこから新たな科学の研究が始まる、すなわちイノベーションを起こすことができる。しかし、このような今までの科学が否定された現象が見つかった、というニュースをほとんど聞かない。科学が進歩し、自然現象の解明が進んだからだ、と説明されるかもしれないが、高分子物理の世界には、怪しい式が存在する。

 

イムレ・ラカトシュが言うように、否定証明だけが完璧な論理展開とするならば、仮説を検証するための実験についても2通りの実験計画が考えられる。一つは、仮説の正しさを確認するための実験と、仮説を否定するための実験である。通常の研究開発では、科学的成果を活用し開発速度を上げるために前者が採用され、仮説で見いだした因子の最適化を行い、製品化作業を進める。また、科学的成果から立案した仮説をわざわざ否定するような実験は、経験上から多くの場合失敗する、と考える。しかしイノベーションを期待できるのは後者の実験である。仮説を否定した実験が成功すれば、その仮説の基になった科学的成果は疑わしくなり、新たな可能性が展開する世界が開けてくる。

 

32年間の企業の研究開発において、仮説を否定する実験を3度成功させた。その最初の実験の成果が、高純度SiCの前駆体高分子の合成である。1980年の技術調査結果では、高純度SiCを合成するための原料として幾つか提案されていたが、珪素源と炭素源のいずれも高純度で経済的な原料の組み合わせ、あるいは高純度化を達成できる経済的なプロセスは存在しなかった。例えば珪素源としてポリエチルシリケートは、半導体原料にも用いられている経済的な高純度の珪素源であり、フェノール樹脂は、高純度炭素を製造するのに経済的な原料である。それゆえ、それぞれを珪素源もしくは炭素源として用いて、その他の珪素源あるいは炭素源とを組み合わせた発明が公開されていた。しかし、その他の珪素源や炭素源の純度が悪いために、合成されたSiCの純度を99.0%以上の高純度化に成功した発明は無かった。もし、この両者を組み合わせてSiCの前駆体に用いることができるならば、理論上100%純度のSiCが合成できるはずである。

 

ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせが存在しなかったのは、両者を混合すると相分離するからである。すなわちうまく混ぜることができないからである。これは、フローリー・ハギンズのχパラメーターの説明を読めば容易に説明がつく。簡単に申せば、異なる構造の高分子を安定に混ぜることができない、混ぜれば必ず相分離する、という理論が高分子物理の世界に存在する。この理論を知らなくとも、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂を混ぜてみれば、白濁しすぐに2相に分離するので、この2種の組み合わせをあきらめることになる。ポリウレタンの合成経験を生かして、ポリエチルシリケートを低分子量のテトラエチルシリケート(TEOS)にしても改善されない。純度を犠牲にして界面活性剤あるいはコンパチビライザーを用いれば少し改善され、白濁した状態の混合物が得られ、それを加熱してゆくと、運が良ければうまく硬化するが、運が悪ければ発泡する。運が良かろうが悪かろうが得られた硬化物の構造を見ると数ミクロンのシリカ粒子が析出している。シリカゾルとフェノール樹脂の混合物はナノオーダーの構造なので、ポリエチルシリケートあるいはTEOSとフェノール樹脂の混合など実験を行う動機は生まれない。

 

しかしポリエチルシリケートとフェノール樹脂の均一混合を成功させたいと思った。それは、樹脂補強ゴムの開発を行っていたときに、高分子の相溶に疑問を持つような結果を体験し、フローリー・ハギンズの理論のあまりにも単純な仮説に疑問を持っていたからである。構造の異なる2種の高分子を分子レベルで混合し(相溶し)安定化する一つの手段は、構造の異なる2種の高分子を反応させる方法である。これをリアクティブ・ブレンドというが、反応でできた結合が安定であれば、混合後放置しても相分離しない。分子レベルで反応しているので、炭化すれば分子レベルのシリカと炭素が混合された前駆体ができる。この前駆体を用いれば、未反応の酸化珪素が残る可能性は無くなる。しかし、そのためにはフローリー・ハギンズの理論を否定する実験を行わなければならない。

 

このフローリー・ハギンズの理論を否定する実験は、無機材質研究所留学時代に行い、成功しましたが、この成功は、フローリー・ハギンズの理論を否定する新たな実験のアイデアを生み出し、定年退職前にカオス混合を簡便に行う混練装置の発明につながりました。カオス混合につきましては、「高分子材料のツボ」セミナー(クリックしてください)をご覧ください。

 

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2012.09/28 高分子を混ぜる

混練の話につきまして過去にしておりますが、改めて高分子を混ぜる技術について。

 

混練機の中では、溶融した高分子で発生する剪断流動と伸張流動の2種の力により、分散が進行すると言われております。そして、分散効率の点では剪断流動が、分散粒径の点では伸張流動が有利とまで説明している教科書もあります。しかし、混練のこの説明は再度見直した方がよい、あるいは技術的に高分子を混ぜるとはどうすればよいか、を材料とハードウェアーの関係において改めて根本的に見直すべきではないか、と思っています。その結果新しい混練機が生まれるように思います。

 

硼酸エステル変性ポリウレタンフォームを商品化するために、何度も試作を繰り返しました。自分が発明した技術を現場で試作を行い、商品に仕上げるまで体験できたのですが、このとき、液状の原料を高速撹拌する装置に興味を持ちました。通常の高分子の混練装置の10倍以上の回転数で攪拌機は回転しています。実験室ではワンショット法と呼ばれる方法で、エマルジョンを混合する特殊な高速攪拌機を用い混合していましたが、これを実用化するときにはどのような混合方法を行うのか大変興味がありましたので、試作では率先して装置の準備や試作終了後の洗浄に参加させていただきました。技術を学ぶには、実際に現場で操作する、体育会系精神が一番近道です。

 

攪拌機の部分はノウハウの塊で特許出願を行っていない、と説明を受けました。単なるスクリューではなく、ブラシのような形状の攪拌機です。撹拌される原料の粘度が低いので、このような多数の羽根で剪断流動を起こすことができるのでしょう。また、羽根の大きさから実験室よりも攪拌時に発生している剪断速度は数倍速くなっていると思いました。発泡体のセルも小さく均一度が高いです。一番びっくりしましたのは、イソシアネート化合物とポリエーテルポリオールとの反応効率が2-3%向上している点です。実験室よりも実機の方が、撹拌性能が優れていたのです。

 

撹拌部分の形状から、攪拌時に発生しているのは明らかに剪断流動です。この装置で分子レベルの効率が上がっていますので、剪断流動には分散粒径に限界がある、という定説は、普遍的な真理ではなさそうです。剪断流動でも剪断速度を上げれば伸張流動と同じくナノ分散ができるはずではないかと当時推定しましたが、21世紀になり、(独)産業技術総合研究所で1000回転以上の回転数を発生する高速混練機が開発され、実験データが公開されました。その報告では、ナノ分散が達成されていますが、分子量低下も起きているとのことでした。また、残念ながら、大変大きなモーターを開発しなければいけないので、この装置を生産用にスケールアップすることは不可能です。

 

高速混練機は残念な結果でしたが、剪断速度を上げれば、伸張流動と同様に剪断流動でも分散粒径を小さくできることがわかりました。科学の世界では分子量低下の効果も議論する必要がありますが、技術の世界では、この実験結果やポリウレタンフォームの体験を組み合わせ、イメージし、実際に装置を工夫して実現できれば十分です。そして、剪断速度をあげ分子量低下を起こさない混合方法は、同じ頃開発に成功しています。「高分子材料のツボ」セミナーには、このほかにイタリアの学会で報告された混練方法なども紹介していますのでご興味のある方はご覧ください。

 

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