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2012.11/10 帯電防止技術に必要な導電性

約20年前にゴム会社から写真会社に転職し、高分子材料技術開発を担当することになりました。その時に悩んだ問題の一つが、帯電防止技術に必要な導電性である。どの教科書を見ても大体半導体領域の高い領域が書かれている。しかしその導電性が必要な説得力のある説明を書いた教科書が無いのです。論文を調べてみても状況は同じです。

 

たまたま参加した社外セミナーで質問したところ、4人の講師の中で一人だけ合点の行く説明をしてくれました。その昔病院で医療事故が起きたそうです。それは手術中に電気ショックで患者が亡くなったという事故です。原因を調べたところ、手術室の床が金属だったため、外部から帯電した電気が医者に流れ、それが患者に伝わったとのこと。医者は帯電防止対策をとっていたが、床の導電性が良すぎたため、電気は電位の低いところから高いところへ流れ、たまたま患者の電位が低く大量の電気が流れた、それでショック死したということです。

 

この事故の再発を防ぐための実験が行われ、床の導電性を半導体領域にすると防げることがわかったそうです。この時帯電防止に必要な導電性領域が半導体領域であるということが明らかになったそうです。すなわち導電性が良すぎると、他から電気を拾うリスクが高くなり、帯電防止をしたい対象の蓄電しやすい部分に電気が溜まる問題が発生する。ゆえに帯電防止に必要な導電性は10の7乗あたりから10の11乗Ωcm程度の体積固有抵抗が良い、とされました。

 

要するに電気が多少流れにくいが絶縁体ではない半導体領域、ということである。面白いのは教科書により、10の6乗から10の10乗Ωcmと書いてある場合や10の6乗から10の11乗としているものまで様々です。写真フィルムに関してはAPSフィルムで共通規格が決められ、その規格では特殊な測定方法が指定されていた。

 

 

帯電防止技術も科学として見ると、曖昧さの残っている分野です。本欄のテーマとして今後も扱いますが、電子出版も予定しております。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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2012.11/09 セルロース

この10年環境指向で、ポリ乳酸のような天然高分子の実用化が活発だが、セルロースは、産業分野で古くから使われていた天然高分子です。例えば写真フィルムの支持体TACは、セルロースを酢酸で変性した高分子で、類似構造のDACも含め光学用フィルムの主役である。例えば液晶TVの偏光板や視野角拡大フィルム、位相差フィルムなどにも使用されている。

 

そのほかの実用化例として、パルプ・樹脂複合材料として自動車のボディーに使われたことがある。これは東ドイツで1990年頃まで約30年近く生産されたトラバントという車のボディーに使用されたのだが、環境対応として使用されたのではなくコストの問題からである。最近このような構造材料分野へパルプ樹脂複合材料が使用された例を聞かないが、環境対応樹脂として見直してもよいように思います。ポリ乳酸よりもコストの安価な樹脂ができます。また混練方法さえ選択すれば臭気の問題も解決できます。

 

パルプはセルロースの結晶性の繊維なので弾性率の低い樹脂と複合化すれば補強材として使用することができる。パルプの結晶性繊維で弾性率が高い、という性質は情報媒体の紙として身近に使用されている。またスピーカーのコーン紙では漉き込んで製造した形態から生まれる損失係数の高さを利用している。これはセルロースとプロセシングの組み合わせから生まれた機能性材料というとらえかたができ、高分子材料の機能性を設計するときに大きなヒントとなる実用例である。

 

特殊なセルロースとして海鞘やある種の乳酸菌が吐き出す長繊維形態の材料は複合材料として用いるときに少量で機能を発現できるので面白い材料である。菌から生まれたセルロースで身近な材料はナタデココである。このようにセルロースという高分子は、食品から構造材料、機能性材料として多分野で使用されている天然高分子の王様であるが、LCAの観点からは応用分野ごとに評価しなければ正しい環境材料かどうか怪しいところがあるので注意が必要である。

 

例えばTACフィルムはメチレンクロライドに溶解させてキャスト製膜して作られるので環境負荷が大きい。環境負荷を低減するために押出成形するアイデアもあり、特許が多数出願されている。しかしこの技術はセルロースという高分子の性質を熟知していないとスジ故障とかブツとかで悩まされる難易度の高い技術で素人には特許を書けても実用化は難しい。

 

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2012.11/08 ロール練パルプ樹脂複合材料

環境樹脂を目標に20年ほど前にポリエチレンとパルプの複合材料を混練して開発した。ポリエチレンはフィルム容器の樹脂缶が写真現像所から大量に回収されているのでそれを使用しました。パルプは古紙を使用しました。リサイクル材で環境樹脂を開発しようと企画しました。

 

一番問題になりましたのは臭気。パルプが混練時に熱分解しアルデヒド類が遊離し、これが臭気に微量に含まれるため、コンパウンドだけでなく射出成型体でも臭う。当初剪断力が必要と思いバンバリーだけで練っていたのですが、最初からオープンロールで練り上げたところ臭気の無い樹脂を開発することに成功しました。射出成型しましても臭気は無かったのでバンバリー混練時に熱分解していることが明らかになった。

 

バンバリーで混練した時に加温せず室温で混練しても臭気がしたことから、混練時に250℃以上に到達している部分があると思われる。面白いのはオープンロールで100℃以上250℃未満の温度で混練しても臭気が出なかったことである。オープンロールでも剪断流動が発生しているわけですが、バンバリーよりも穏やかなのだろうと思いました。

 

パルプを50%以上含むポリエチレンとの複合材料の物性は、混練プロセスで大きく変わる。オープンロールで混練した場合には臭気が無いだけでなく、物性も良好でポリスチレンと同等以上の樹脂になります。複合材料なので、靱性はポリスチレンよりも高く実用化を狙ったのですが、写真フィルムに対してカブリが発生することがわかり断念した。写真フィルムはわずかなアルデヒド類の存在でカブリを発生するので臭気はなくてもわずかにアルデヒド類が遊離していると推定しました。

 

開発当時はバブル崩壊直後であり、環境関連の各種法律が立法化され始めても環境ブームまでには至らなかった。時代の先取りとしてリサイクル材料を原料に用いたパルプ樹脂複合材料を企画したのだが、半導体用高純度SiCの体験から無理をせず商品化提案を断念した。

 

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2012.11/07 ゴムと樹脂の混練技術の差異

高分子は実用化に際し、化粧品とか薬品とか特殊な分野を除き何らかの添加材を混合して用いる。ゴムならば最低限でも架橋剤(加硫剤とも言う)を添加しなければゴム弾性を示さない。高分子を合成時に添加剤を添加する場合もあるが稀であり、大部分は混練プロセスで添加剤を混合する。この時ゴムと樹脂ではプロセスが異なる。

 

前者は、バンバリー工程とロール混練をバッチプロセスで行う。後者は二軸混練機あるいは単軸混練機による連続プロセスである。バッチプロセスはコストが高いがゴムの場合に連続プロセスを用いることはできず、必ずバンバリーとロールを用いて混練する。昔は材料をフィードすることができないのでゴム練では二軸混練機を用いることができない、と言われたが、二軸混練機へゴムをフィードする機械も特許出願されているので、材料のフィードの問題は解決できている。一番大きな理由は物性を創り込めないため、と思われる。

 

これは実際にゴムの混練を経験するとすぐに実感できる。ゴムの物性は混練操作に大きな影響を受ける。パフォーマンスの高いゴムを創るには、それなりの手間暇がかかる。バンバリーは5分前後の工程時間だが、ロール混練は5分から10分、さらには30分もかける場合がある。二軸混練機の場合にはフィードしてから樹脂がでてくるまでの時間は5分程度なのでロール混練は効率が悪いのかというとそうではない。

 

樹脂をゴムと同様のプロセスで混練してみると、二軸混練プロセスとは異なった組成物となる。フィラーなど高分子への分散が物性へ大きな影響を与える場合には、それは物性の差となって観察されるが、低分子の分散の場合には、力学物性に差が現れない。しかし、高次構造を比較すると違いがあり、高次構造の影響を受けやすい粘弾性特性にはその違いを見ることができる。

 

早い話が力学物性に大差が無ければ経済性の優れた連続プロセスで行いたいが、ゴムでは力学物性に大きな差が現れるので、昔ながらのバッチプロセスを行っている、というのがゴムと樹脂でプロセスが異なる理由であろう。ゴムでは加硫剤の分散状態が物性に大きく影響を与えるので連続プロセスを用いることができないのであろう。

 

この20年普及してきたTPEは、ほとんどが連続プロセスで混練されている。またシリコーンLIMSもスタティックミキサーによる連続プロセスである。これは常識となりつつあるが落とし穴があることを忘れてはいけない。例えばシリコーンLIMSの場合、低分子を分散する場合に最適化された連続プロセスとバッチプロセスでは加硫後のゴム物性に大きな差は見られない(注)が、フィラーを添加した場合には両者に差が現れる。またバッチプロセスのほうがばらつきが少なくなる、などのアドバンテージがある。

 

高分子の混練が難しいのは、経済性という尺度を用いると材料ごとに最適な混練プロセスがある、という問題である。経済性という尺度をとれば、バッチプロセスが最も良いプロセスになると思う。なぜならオープンロールのプロセス条件の範囲は二軸混練機に比較し幅広いので、材料のパフォーマンスを最大にできる混練条件を探すことができる。カオス混合装置を発明した時にも比較に用いたのはロール混練である。

 

(注)シリコーンLIMSの場合に分散状態の物性に与える影響評価が難しい。理由は、加硫条件が分散状態で変化するためである。最適分散された材料を最適加硫条件で加硫した時だけよい物性が現れる。またばらつきも小さくなる。

 

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2012.11/06 酸化スズゾルの難燃性能

ほとんどの高分子の難燃剤には、リン原子やハロゲン原子が含まれている。可燃性の高分子を難燃化するときに難燃化レベルにより難燃剤を用いなくても難燃化できる技術もある。特に電気製品の内部に使用する高分子では、ハロゲン含有化合物を用いるとサビ発生の原因になることもあり、ノンハロゲンの難燃化技術が要求される。

 

リン含有化合物以外でノンハロゲンの難燃剤は数少ないが、金属酸化物の中にLOIで2以上の改善効果のある化合物が存在する。酸化スズゾルもその一つで、高分子との組み合わせと分散をうまく行うと20vol%の添加量でLOIが21になる場合もある。しかし1次粒子が1nm前後の超微粒子を分散する技術は難易度が高い。また、この実験結果はラテックス中で酸化スズゾルを分散して得たものですが、実用化には経済性の問題が残ります。

 

この実験結果を実用化するには問題が多いが、注目したいのは分散状態が変わるとLOIが2以上低下する点である。分散状態を制御してどの程度難燃性が変わるのかという研究を見たことが無いが、高分子の難燃化技術開発を担当したときには確認するように努力してきた。その結果感覚的になるが、20%前後は分散状態に影響を受けている、と内心思っています。内心思っている、と表現したのは、分散状態そのものを正しく評価していないためです。実験方法として、こうしたら分散状態が変わる、という対策を行って難燃性を評価したところ実際に難燃性が変化したので、感覚的にとか、内心という表現を用いています。

 

技術開発を担当されている方は、日々の開発過程で疑問を感じる現象に遭遇する機会が多いと思いますが、それらの現象の中に論文等で公開されていない、すなわち科学的な研究データが公開されていない場合もあるかと思います。小生はそのような場合、メモを残し、次にテーマを担当する機会があったときに現象を確認するようにしています。難燃剤の分散状態と難燃性については、30年以上前に担当し疑問を持った内容を20年近く前に酸化スズゾルの帯電防止技術を担当しましたときに確認いたしました。

 

テーマは帯電防止技術開発でしたが、扱っていた素材が難燃材として50年前の論文に紹介されていた材料でした。30年以上前にその論文を読み実験で確認したときには、難燃性能が発現しませんでしたが、パーコレーション転移の研究を行っているときに、もしかしたら、と思い、社外の機関にサンプルを送りLOIを測定して頂いたら難燃性能が発現した、といういきさつがあります。難燃剤を研究されている方がもし本稿を読まれて分散技術についてご相談したいことがございましたら、いつでもメールにてご相談ください。

 

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2012.11/04 ホスファゼン系難燃剤

ホスファゼン誘導体は優れた難燃剤であり、大量生産すれば価格が下がることも30年以上前から言われてきたが、リン1モル当たりの価格は、汎用難燃剤に比較し、まだ高価である。ただ最近開発された分解温度の高い縮合リン酸エステル系難燃剤よりもわずかに安い。3年前PETの難燃化にホスファゼンを使用してみて技術の進歩を感じた。

 

しかし難燃剤の評価というのは難しく、一般に一定条件で難燃剤を樹脂へ添加した時の評価結果で効果を評価するので、ホスファゼンを使いこなすという目的が無い限り、ホスファゼンの正しい評価はできない。樹脂に難燃剤を分散した時に分散状態が難燃性に影響するためで、これはホスファゼンに限らず他の難燃剤も同様の事情を抱えている。多数の難燃剤が開発されている背景でもあるが、この問題を難燃剤メーカーは少し考えたほうが良いと思う。

 

もしどこかの難燃剤メーカーが樹脂への分散を制御する技術を開発したならば、数種類の難燃剤を大量生産しコストを下げ、分散制御技術とセット販売するビジネスが考えられる。化学的にはリン原子1モル当たりの難燃効果はそれほど変わらないはずで、このようなビジネスは実現可能性が高いと思うが、その戦略が有効に働くのはホスファゼンメーカーである。ホスファゼン誘導体は、PNC(ホスフォニトリルクロライド)と呼ばれる1種類の化合物から類似の反応で様々な誘導体が合成されるので、PNCのコストダウン効果をそのまま生かせる。

 

ホスファゼン誘導体の1種はLiイオン二次電池電解質の難燃剤としても利用されているが、価格が高いのが問題で、代替技術が開発されたこともあり今後二次電池の市場が拡大してゆくときにコストダウンが課題になる。ホスファゼン誘導体を合成しているメーカーは少し知恵を絞り戦略的にビジネスを展開すると一気に成長できるチャンスがある。

 

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2012.11/03 ホスファゼン変性ポリマーの難燃化機構

軟質ポリウレタンフォームをホスファゼン誘導体で変性したところ、他のリン酸エステル系難燃剤と異なり、燃焼後の残渣へリンが多量に残っている現象が観察された。また、ホスファゼン変性ポリウレタンの燃焼時の特徴として、発煙が少ないとか、ドリッピングが少ないとか他のリン酸エステル系難燃剤に見られない特徴があった。また、難燃効果もリンの含有率で比較してみると20%程度向上していた。しかし、この難燃効果については、プレポリマーで添加した場合であり、粉末として添加した場合には、他のリン酸エステル系難燃剤と同様の難燃効果であった。

 

この難燃効果については分散状態の差としてとらえると理解できる。すなわち分子レベルまで分散できた時の難燃効果は粉末の場合よりも20%程度向上する、と見積もれる。粉末で添加した場合に、発煙が少ないとかドリップしにくいという性質は見られ、残渣にリンが多量に残っている現象も同じであったので、純粋に分散状態の差として見てよいだろう。

 

以上は30年以上前の実験結果であるが、定年退職前にPETの難燃化を検討するチャンスがあった。さっそくホスファゼンを添加し、難燃効果を調べてみたら、他のリン酸エステル系難燃剤に比較して僅かに(LOIで5%以下の差)よい程度であった。二軸混練機でミキシングしたので、ポリウレタンの場合と同様の結果と解釈することができる。ゆえにホスファゼン誘導体の難燃化機構は、リン原子による炭化促進効果であろう、と推定される。また、ドリッピングの改善に効果があるのは、他のリン酸エステル系難燃剤と異なり、燃焼時の系内に留まり続ける為、増粘効果が発揮されドリッピングしにくくなるためと推定される。

 

このドリッピングに対する効果は添加量が少なくなると無くなるので、フッ素樹脂系のドリッピング抑制効果と明らかに異なる。ドリッピングを抑制するために必要なフッ素樹脂は、1%前後であり、また燃焼時の観察からフッ素樹脂は燃焼し溶融した樹脂の表面で薄膜を形成しドリッピングを抑制しているがホスファゼン誘導体ではそのような現象は見られない。ただしここまでの話に出てくるホスファゼンはすべてノンハロゲン誘導体であり、フッ素樹脂で変性したホスファゼンならば界面活性効果が異なるので、フッ素樹脂と同様の効果を期待できるかも知れない。

 

高分子シミュレーターOCTAを用いて難燃剤の分散を評価し整理してみると難燃剤の側鎖基により、樹脂の分散状態が異なる。SP値が変わるので当たり前の結果であるが、ホスファゼン誘導体の側鎖基を変化させることは容易なので、10%前後の難燃剤としての性能アップをホスファゼンで狙いたいときには、側鎖基のSP値をポリマーのSP値に合わせてやればよい。特にPC/ABSなどの多成分系ポリマーアロイではこの手法は有効と思われる。ただしコストの問題が残っているがーーー

 

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2012.11/02 超微粒子の分散

パーコレーション転移は導電性微粒子を絶縁体である高分子に分散した時に観察される現象ですが、高分子に微粒子を「制御して」分散する技術は難易度が高いプロセシング技術です。この技術で微粒子のサイズが小さくなるとさらに難易度はあがります。パーコレーション転移は微粒子が凝集する傾向にあれば生じやすくなりますが、制御しなければ分散不良の凝集粒子として観察されることになります。

 

パーコレーション転移という現象は、微粒子とマトリックスの高分子との間に相互作用がなければ確率過程で生じますが、両者には相互作用が必ず存在するので、パーコレーション転移が高分子物性に影響を及ぼすのであれば制御技術を開発する必要があります。この時、微粒子サイズが小さくなれば、微粒子間の相互作用も強くなるので超微粒子を用いてパーコレーション転移を制御するには工夫が必要です。

 

超微粒子を高分子マトリックスに分散する時にパーコレーション転移が全く生じないようにする技術、すなわち超微粒子の凝集を防ぎ、1個づつの超微粒子が分離した状態を作り出す方法として、2種類の技術を開発しました。

 

一つは高純度SiCの合成で用いたリアクティブブレンドでもう一つはゾルをミセルに用いたラテックス重合技術です。前者は、高分子と超微粒子の組み合わせに制約がありますが、後者はゾルさえできれば超微粒子が凝集しない分散状態を作り出すことができます。生成物はラテックスですので薄膜の用途であればそのまま使用できます。バルクで使用するためにはスプレードライプロセスで水から分離することができますのでコストも抑えることが可能です。

 

ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術は1994年にコニカで開発された技術で、2000年の学術雑誌にイギリスの研究者からゾルをミセルに用いたオイル分散の報告が世界初として発表されていますから、その6年前に本当の世界初の技術ができていたことになります。

 

面白いのは、2000年の高分子学会賞審査会でこの技術を出願した特許をもとに世界初として報告したら、審査員として出席していた某著名私大の先生が「だれでも合成できる」と一言言われました。その結果大した技術ではないと判断されたのでしょうか、落ちました。学会賞を受賞できませんでしたので技術の詳細を公開する機会を失いましたが、技術者は特許以外にも積極的に論文発表を行うべき、という反省をしております。

 

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2012.11/01 パーコレーション転移

絶縁体である高分子に導電性粒子を分散すると、導電性粒子の添加量に応じて抵抗が下がるが、この抵抗の下がり方が、高分子と導電性粒子との相互作用や、導電性粒子の形状など分散状態に影響を与える因子に大きく影響を受ける。さらに、ある添加量のところで急激に抵抗が変化する現象が生じる。この現象をパーコレーション転移といい、この転移が生じる添加量はパーコレーション転移の閾値と呼ばれている。また、パーコレーションという呼び名も急激に電気が流れる現象からコーヒーのパーコレーターになぞられてつけられている。


パーコレーション転移については、数学や物理の分野で古くからボンド問題やサイト問題として研究されてきた。これは小さな立方体を組み合わせてできた大きな立方体について、小さな立方体の中心に粒子を入れていった場合と、小さな立方体の陵に粒子をおいた場合で粒子のつながりができ始める確率が異なることから研究が進められた。計算科学として研究が進められたが、材料科学分野に知られるようになったのは、バブルがはじける1990年前後である。材料科学分野では、パーコレーション転移の理論の代わりに混合則というものがあり、粒子を高分子に分散した時にはこの混合則で議論されてきた。


高純度SiCを武器に住友金属工業とのジョイントベンチャーを立ち上げ、サブテーマとして担当していた電気粘性流体でも成果を出し意気揚々と仕事をしている時にFDを壊されるという事件に巻き込まれた。事件の被害者であったが事件の収拾の仕方に疑問があり転職を決意した。セラミックスを研究してきたので、会社の規定に従いセラミックス以外の会社へ転職することにしたが、その転職先で最初に担当した帯電防止技術がパーコレーション転移の問題に関わる技術でした。


最初に混合則で問題を扱わず、パーコレーション転移の問題として素直に考えることができたのは、趣味のプログラミングのテーマとしてボンド問題やサイト問題の論文を読んでいたからで、芸が身を助け、ではないが趣味のおかげで、転職してすぐに成果を出すことができた。面白いと感じたのは、実際の材料の分散とよく一致するパーコレーションのシミュレーションプログラムを作成し論文発表しようと過去の論文を調査したところ、同じ時期に同じコンセプトのシミュレーションプログラムの論文が発表されていたこと。この時論文調査をさらに進めましたところ、材料分野への応用論文は3報ほどであったので、おそらく混合則からパーコレーション転移への概念の転換点だったのだろうと思います。


学際という言葉の重要性が叫ばれるようになったのは1970年代で、境界領域の学問の重要性が注目を集めた。パーコレーション転移はまさに学際領域の技術で、この材料分野における研究は1990年代から活発になる。材料の導電性の変化だけでなく、強度変化についてもパーコレーション転移で議論されるようになった。思想や技術、あるいは重要なコンセプトが一般に普及し常識になるには20年前後かかる、と言われているが、パーコレーション転移は学問が生まれてから普及までに30年程度かかっています。時間がかかった理由として初期の理論展開は材料技術者には難しく、すぐに材料物性の示す現象との関係に結び付けることができなかったため、と思われます。しかしコンピューターが普及し、理論内容を可視化できる現代においては直感で理解できる理論のように思います。


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2012.10/25 ブロッキング防止と滑り性付与

昨日セミナー会社の依頼を受け、ブロッキング防止と滑り性付与の講演をしてきました。複数の講師による講演会でトリとして講演を1時間半行いました。

 

この分野の講演で困るのは、聴講者が対象としている商品に必要な物性が様々であること。例えば写真分野であれば、感材の支持体の表面処理までの過程ではブロッキングが問題となりますが、半製品の状態ですので工程の一時的対策が取れれればよいわけで、マット剤だけで対応できます。しかし、写真フィルムに完成した状態では、レントゲン用フィルムと35mmフィルムでは表面の設計が異なります。後者では、現像処理まで機能があれば何とかなりますが、レントゲン用フィルムの場合には保管され、時々取り出して観察する、という取り扱いがされますので、数年は表面設計した機能が発揮されなければなりません。

 

常時こすられている摺動部分の表面になると、写真フィルムと異なる材料設計と評価技術が要求されます。学術的には物質の拡散や相溶まで考えるべき、ともいわれますが、厳しい使用条件になればなるほど、学術的な話が心細くなるのがこの分野であり、説明する側から見れば難しい課題です。一応約50年前誕生したトライボロジーという学問がありますが、約100年前の技術者が軸受けの研究を行いまとめたStribeck曲線をしのぐ成果が出ていません。技術として理解し割り切って開発するのが寛容な分野であります。

 

しかし、学術の世界を全く知らなくてもよいのか、というと、どのような技術分野でもそうですが、科学の正しい知識は重要で、この分野でも知っている場合と知らない場合とでは、品質問題のとらえ方が異なります。ただし、必要な知識を正しく知っていることが大切で、生半可な知識であれば無いほうがましで、中途半端な知識で失敗した若いときの事例などをお話ししました。このような失敗を防ぐために最低限の正しい知識を短時間に整理する、というコンセプトで「高分子材料のツボセミナー」を販売していますのでご活用ください。

 

高分子材料のツボセミナー

実務で高分子材料科学を活用する視点でまとめました。 高分子科学の全体像について学べますので、専門外の技術者にも学生にも役立ちます。

本書は高分子に関する知識を持っていない人の為に、写真と絵を中心に分かり易くまとめました。項目毎に穴埋め式の復習問題もあるので、学習内容の確認もできます。

また、電子書籍ならではの特徴として、購読者様からの質問を受け付けその回答が毎月反映されていきます。是非ご活用ください。

 

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