1991年にタバコの灰付着テストと相関する電気的測定方法はありませんでした。例えば、表面比抵抗とタバコの灰付着テストの灰付着距離との相関係数は、0.48です。電荷減衰との相関係数は0.38で相関が無いと見たほうが良いと思われます。面白いのは各種電気的測定方法のデータについて主成分分析を行った時に、2因子に大きくわかれ、その主成分分析の値を規格化して用いると、タバコの灰付着テストの灰付着距離と相関していたことです。この2因子の特徴づけを行うと、抵抗成分と容量成分とそれぞれ読み取れますので、フィルムのインピーダンスを測定することに致しました。
フィルムのインピーダンス測定で悩みましたのは、センサーの接触の仕方で測定値が変化することです。電気に詳しい方であればすぐに気がつかれるかと思いますが、電極とサンプル間のインピーダンスが影響することと、フィルム形状なので電極のセットの仕方により等価回路が変化するためと思われます。前者は測定方法のばらつきとなりますが、後者は測定値の意味と関係します。今回インピーダンスを測定する目的は、帯電防止なので、フィルムが帯電した時にどのように電荷が拡散するのかこれまでの測定データを用いて思考実験を行ってみました。その結果厚み方向に電気を流し測定したほうが電荷が自然に拡散するときの現象と合うのではないか、と推定されました。後者の問題は、市販のフィルム用電極を用いることにより解決できました。前者につきましては空隙法を用いれば解決がつくことがわかりました。
しかし空隙法は電極の空間インピーダンスとフィルムを挿入した時のインピーダンスの2回計測する必要があります。さらに測定データをフィルムの厚みと電極間距離を用いて面倒な計算をおこなわなければなりません。測定器とコンピューターPC9801をGP-IB経由で接続し、プログラム制御で計測を行うことにしました。当時まだWindowsも無かったMS-DOSの時代で、Visual BASICのような便利なソフトはありません。このような制御系のソフトウェアーはCとかアセンブラーの世界です。このタバコの灰付着テストと相関する電気的測定値を探索する研究で一番面倒なところでした。バグとりも含め10日ほどかかりました。マネジメントを行いながらプログラミングの教科書との格闘は地獄でした。
ソフトウェアーも完成し、フィルムのインピーダンスの計測を行いました。交流の良いところは抵抗成分と容量成分以外に周波数分散や誘電損失など測定データがいろいろ得られる点です。コンピューターで制御していますから、計測器の内部演算機能も制御すれば等価回路を変えた時の値も知ることができます。とにかくインピーダンス測定で得られるデータをすべてコンピューターで取り込み、データを多変量解析し、タバコの灰付着テストで得られる灰付着距離との相関するパラメーターを調べました。その結果インピーダンスの絶対値とうまく相関することが分かりました。灰付着距離が0以外のフィルムで相関係数を調べると0.99です。
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フィルムの帯電防止評価技術の一つに、タバコの灰付着テスト(アッシュテスト)というのがある。測定方法は測定者に依存する部分が多いように見えるが、再現性の良い怪しい試験である。環境条件等を正しく設定すればきわめて再現性が良いデータが得られる不思議なテストである。
測定方法は、吸ってできたばかりの灰を用意し、その上から帯電したフィルムをタバコの灰に近づけてゆき、灰がつき始めた時の灰とフィルムとの距離を測るという実技である。帯電したフィルムは測定を開始する直前にフィルムをゴムで摩擦し摩擦帯電させたフィルムを使用する。写真フィルムでは環境条件を変えて3水準行うが、怪しく見える評価方法です。
この評価テストで驚くのはテストの再現性だけでなく、摩擦帯電したフィルムが1m以上離れていても勢いよくタバコの灰がフィルムに吸い寄せられることである。これが帯電防止処理を行うと、その処理技術に応じて灰が付着し始める距離が変化する。写真用フィルムは現像処理前であればすべての品種で灰付着距離が0という社内規格でした。このレベルのフィルムは不思議なことに灰に密着させても灰が付着しない。
しかし、現像処理後は品種によりこの灰付着距離は変化する。APSフィルムは現像処理後も灰付着距離が0であることが品質規格として決められていたが通常の35mmフィルムには現像処理後の灰付着距離の規格は無かった。現像処理後も帯電防止性能を維持しているフィルムは業界用語で永久帯電防止処理と呼ばれているが、この永久帯電防止処理のレベルは品種により規格がある場合と無い場合がある。コニカの35mmフィルムは海外製品に比較し現像処理後もゴミが付着しにくい良心的な帯電防止設計がされていた。
印刷業界に使用されていたフィルムは1980年ころまで永久帯電防止処理はされていなかったが、1980年中ごろから永久帯電防止処理された商品が登場し始めた。しかし、海外のメーカーの永久帯電防止の規格はタバコの灰ではなく表面比抵抗を規格に用いていた。
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材料設計を行うために評価技術は不可欠です。帯電防止技術を担当し最初に困惑しましたのは評価技術の種類の多いことです。表面比抵抗、体積固有抵抗、そしてこれらの測定方法の違い、ごみ付着テスト、摩擦帯電計、電荷減衰、帯電量計、接触帯電計など電気的測定法からすべり摩擦測定器、表面張力計など表面の評価技術などがあります。倉庫を見ますと実技テストの機械もいくつかあり、市場や工程で問題が発生した時には引っ張り出して評価するのだそうです。
確かに帯電現象は難しい問題で、感材(写真フィルム)の重要品質であることはわかりますが、日々の開発でこれだけの評価を行うことは大変な作業量です。また開発を担当している人たちも各評価技術と品質との関係を理解しないで測定しているのも気がかりでした。過去の評価結果を多変量解析にかけてみましたら2因子あるいは3因子に集約できそうな結果が得られました。条件を設定すれば、表面比抵抗だけでもよさそうです。しかし、たくさんの評価技術が使われてきた背景や事情もありますので、電気関係の評価技術だけでも整理してみました。
電気関係の評価技術でも多変量解析を行うと2因子に集約できます。面白いのは、表面比抵抗と体積固有抵抗のデータのばらつき方です。データに特徴のある感材について測定してみますと、サンプルをセンサーにセットしてからの時間で測定値が大きく変化するサンプルがありました。社内規定としてJISとは異なる評価方法をとっている理由を理解できました。このような現象をデータに反映させる条件で測定するようになっていたのです。電気関係の知識のある方はすぐにわかると思いますが、センサーにセットしてからの時間を無限大にしない限り誤差を小さくできません。有限である限り、測定値に時間依存の誤差が含まれてきます。
改めて、電気系評価技術と実技系評価技術にわけて計測方法を整理してみますと、表面比抵抗と体積固有抵抗以外はJISの規格が守られております。面白かったのはJIS法で計測した表面比抵抗と実技系評価技術との相関は低いですが、社内規格の評価方法にすると実技系との相関が良くなります。おそらく20年以上過去の諸先輩が工夫し表面比抵抗をできる限り実技系の評価技術と相関するように測定条件を工夫したのでしょう。
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高分子で帯電防止材料を設計するときに、導電性をどの程度にするのか問題となる。多くの高分子材料は絶縁体であり、添加剤の影響で抵抗が下がったとしても10の12乗Ωcmの体積固有抵抗レベルである。添加剤がブリードアウトし湿度が高い特殊な条件で表面だけの抵抗すなわち表面比抵抗は10の11乗程度に下がることもある。この程度になると、表面に滑り性を付与したりすると帯電しにくくなる。さらに帯電列というのがあり、それを考慮し表面を設計してやれば、使用環境が限られるが帯電防止性能を持つ材料になる。昔の写真フィルムの帯電防止技術はこの程度でありました。
写真フィルムの乳剤に含まれるハロゲン化銀は、帯電で容易に感光しスタティックマークと呼ばれる品質問題を生じる。写真フィルムの構造は80-120ミクロン程度の厚みの絶縁体樹脂フィルムに数ミクロンの乳剤(感光層)を塗布した構造なので、帯電防止材料設計無くして商品は成立しない。ゆえに帯電防止技術に関する研究はアカデミアよりも進歩していた。昭和35年ころには帯電防止を目標にした透明導電層を塗布で形成する世界初の技術が小西六工業で完成していた。コニカの図書室には昭和30年ころの資料も残っておりそこには今でも十分通用する帯電防止技術のいくつかがあったが、私が転職した時のコニカの帯電防止技術は、当時の技術に少し毛が生えた程度であり、当時の帯電防止技術の高さをうかがい知ることができた。
写真フィルムの体積固有抵抗は、導電性が悪い商品で10の12-13乗Ωcm程度なので教科書に書かれた帯電防止に必要な半導体領域ではなく絶縁体である。しかし、表面比抵抗を測定してみると、10の11乗Ω以下であり、帯電防止は、商品の表面設計が重要であることが理解できる。すなわち感光層の数10倍大きな絶縁体に接触しなければならない商品の帯電防止技術に関する研究は昭和30年前後にほぼ完成し、教科書に書かれた体積固有抵抗よりも1ケタ高い領域でも表面を設計すれば帯電防止できることが分かっていたのである。
しかし、表面比抵抗を10の11乗Ωに設計すれば、全体の体積固有抵抗が絶縁領域でも写真フィルムの帯電防止ができるのか、というとそうではない。摩擦抵抗とか、摩擦帯電とか帯電防止設計に必要な各種パラメーターがあり、これらパラメータを制御してスペック内に入れてはじめて帯電防止できるのである。転職した時にとんでもない技術だと印象を持ち、一つのパラメーターで制御できないか20年以上前に取り組みを始めた。
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約20年前にゴム会社から写真会社に転職し、高分子材料技術開発を担当することになりました。その時に悩んだ問題の一つが、帯電防止技術に必要な導電性である。どの教科書を見ても大体半導体領域の高い領域が書かれている。しかしその導電性が必要な説得力のある説明を書いた教科書が無いのです。論文を調べてみても状況は同じです。
たまたま参加した社外セミナーで質問したところ、4人の講師の中で一人だけ合点の行く説明をしてくれました。その昔病院で医療事故が起きたそうです。それは手術中に電気ショックで患者が亡くなったという事故です。原因を調べたところ、手術室の床が金属だったため、外部から帯電した電気が医者に流れ、それが患者に伝わったとのこと。医者は帯電防止対策をとっていたが、床の導電性が良すぎたため、電気は電位の低いところから高いところへ流れ、たまたま患者の電位が低く大量の電気が流れた、それでショック死したということです。
この事故の再発を防ぐための実験が行われ、床の導電性を半導体領域にすると防げることがわかったそうです。この時帯電防止に必要な導電性領域が半導体領域であるということが明らかになったそうです。すなわち導電性が良すぎると、他から電気を拾うリスクが高くなり、帯電防止をしたい対象の蓄電しやすい部分に電気が溜まる問題が発生する。ゆえに帯電防止に必要な導電性は10の7乗あたりから10の11乗Ωcm程度の体積固有抵抗が良い、とされました。
要するに電気が多少流れにくいが絶縁体ではない半導体領域、ということである。面白いのは教科書により、10の6乗から10の10乗Ωcmと書いてある場合や10の6乗から10の11乗としているものまで様々です。写真フィルムに関してはAPSフィルムで共通規格が決められ、その規格では特殊な測定方法が指定されていた。
帯電防止技術も科学として見ると、曖昧さの残っている分野です。本欄のテーマとして今後も扱いますが、電子出版も予定しております。
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この10年環境指向で、ポリ乳酸のような天然高分子の実用化が活発だが、セルロースは、産業分野で古くから使われていた天然高分子です。例えば写真フィルムの支持体TACは、セルロースを酢酸で変性した高分子で、類似構造のDACも含め光学用フィルムの主役である。例えば液晶TVの偏光板や視野角拡大フィルム、位相差フィルムなどにも使用されている。
そのほかの実用化例として、パルプ・樹脂複合材料として自動車のボディーに使われたことがある。これは東ドイツで1990年頃まで約30年近く生産されたトラバントという車のボディーに使用されたのだが、環境対応として使用されたのではなくコストの問題からである。最近このような構造材料分野へパルプ樹脂複合材料が使用された例を聞かないが、環境対応樹脂として見直してもよいように思います。ポリ乳酸よりもコストの安価な樹脂ができます。また混練方法さえ選択すれば臭気の問題も解決できます。
パルプはセルロースの結晶性の繊維なので弾性率の低い樹脂と複合化すれば補強材として使用することができる。パルプの結晶性繊維で弾性率が高い、という性質は情報媒体の紙として身近に使用されている。またスピーカーのコーン紙では漉き込んで製造した形態から生まれる損失係数の高さを利用している。これはセルロースとプロセシングの組み合わせから生まれた機能性材料というとらえかたができ、高分子材料の機能性を設計するときに大きなヒントとなる実用例である。
特殊なセルロースとして海鞘やある種の乳酸菌が吐き出す長繊維形態の材料は複合材料として用いるときに少量で機能を発現できるので面白い材料である。菌から生まれたセルロースで身近な材料はナタデココである。このようにセルロースという高分子は、食品から構造材料、機能性材料として多分野で使用されている天然高分子の王様であるが、LCAの観点からは応用分野ごとに評価しなければ正しい環境材料かどうか怪しいところがあるので注意が必要である。
例えばTACフィルムはメチレンクロライドに溶解させてキャスト製膜して作られるので環境負荷が大きい。環境負荷を低減するために押出成形するアイデアもあり、特許が多数出願されている。しかしこの技術はセルロースという高分子の性質を熟知していないとスジ故障とかブツとかで悩まされる難易度の高い技術で素人には特許を書けても実用化は難しい。
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環境樹脂を目標に20年ほど前にポリエチレンとパルプの複合材料を混練して開発した。ポリエチレンはフィルム容器の樹脂缶が写真現像所から大量に回収されているのでそれを使用しました。パルプは古紙を使用しました。リサイクル材で環境樹脂を開発しようと企画しました。
一番問題になりましたのは臭気。パルプが混練時に熱分解しアルデヒド類が遊離し、これが臭気に微量に含まれるため、コンパウンドだけでなく射出成型体でも臭う。当初剪断力が必要と思いバンバリーだけで練っていたのですが、最初からオープンロールで練り上げたところ臭気の無い樹脂を開発することに成功しました。射出成型しましても臭気は無かったのでバンバリー混練時に熱分解していることが明らかになった。
バンバリーで混練した時に加温せず室温で混練しても臭気がしたことから、混練時に250℃以上に到達している部分があると思われる。面白いのはオープンロールで100℃以上250℃未満の温度で混練しても臭気が出なかったことである。オープンロールでも剪断流動が発生しているわけですが、バンバリーよりも穏やかなのだろうと思いました。
パルプを50%以上含むポリエチレンとの複合材料の物性は、混練プロセスで大きく変わる。オープンロールで混練した場合には臭気が無いだけでなく、物性も良好でポリスチレンと同等以上の樹脂になります。複合材料なので、靱性はポリスチレンよりも高く実用化を狙ったのですが、写真フィルムに対してカブリが発生することがわかり断念した。写真フィルムはわずかなアルデヒド類の存在でカブリを発生するので臭気はなくてもわずかにアルデヒド類が遊離していると推定しました。
開発当時はバブル崩壊直後であり、環境関連の各種法律が立法化され始めても環境ブームまでには至らなかった。時代の先取りとしてリサイクル材料を原料に用いたパルプ樹脂複合材料を企画したのだが、半導体用高純度SiCの体験から無理をせず商品化提案を断念した。
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高分子は実用化に際し、化粧品とか薬品とか特殊な分野を除き何らかの添加材を混合して用いる。ゴムならば最低限でも架橋剤(加硫剤とも言う)を添加しなければゴム弾性を示さない。高分子を合成時に添加剤を添加する場合もあるが稀であり、大部分は混練プロセスで添加剤を混合する。この時ゴムと樹脂ではプロセスが異なる。
前者は、バンバリー工程とロール混練をバッチプロセスで行う。後者は二軸混練機あるいは単軸混練機による連続プロセスである。バッチプロセスはコストが高いがゴムの場合に連続プロセスを用いることはできず、必ずバンバリーとロールを用いて混練する。昔は材料をフィードすることができないのでゴム練では二軸混練機を用いることができない、と言われたが、二軸混練機へゴムをフィードする機械も特許出願されているので、材料のフィードの問題は解決できている。一番大きな理由は物性を創り込めないため、と思われる。
これは実際にゴムの混練を経験するとすぐに実感できる。ゴムの物性は混練操作に大きな影響を受ける。パフォーマンスの高いゴムを創るには、それなりの手間暇がかかる。バンバリーは5分前後の工程時間だが、ロール混練は5分から10分、さらには30分もかける場合がある。二軸混練機の場合にはフィードしてから樹脂がでてくるまでの時間は5分程度なのでロール混練は効率が悪いのかというとそうではない。
樹脂をゴムと同様のプロセスで混練してみると、二軸混練プロセスとは異なった組成物となる。フィラーなど高分子への分散が物性へ大きな影響を与える場合には、それは物性の差となって観察されるが、低分子の分散の場合には、力学物性に差が現れない。しかし、高次構造を比較すると違いがあり、高次構造の影響を受けやすい粘弾性特性にはその違いを見ることができる。
早い話が力学物性に大差が無ければ経済性の優れた連続プロセスで行いたいが、ゴムでは力学物性に大きな差が現れるので、昔ながらのバッチプロセスを行っている、というのがゴムと樹脂でプロセスが異なる理由であろう。ゴムでは加硫剤の分散状態が物性に大きく影響を与えるので連続プロセスを用いることができないのであろう。
この20年普及してきたTPEは、ほとんどが連続プロセスで混練されている。またシリコーンLIMSもスタティックミキサーによる連続プロセスである。これは常識となりつつあるが落とし穴があることを忘れてはいけない。例えばシリコーンLIMSの場合、低分子を分散する場合に最適化された連続プロセスとバッチプロセスでは加硫後のゴム物性に大きな差は見られない(注)が、フィラーを添加した場合には両者に差が現れる。またバッチプロセスのほうがばらつきが少なくなる、などのアドバンテージがある。
高分子の混練が難しいのは、経済性という尺度を用いると材料ごとに最適な混練プロセスがある、という問題である。経済性という尺度をとれば、バッチプロセスが最も良いプロセスになると思う。なぜならオープンロールのプロセス条件の範囲は二軸混練機に比較し幅広いので、材料のパフォーマンスを最大にできる混練条件を探すことができる。カオス混合装置を発明した時にも比較に用いたのはロール混練である。
(注)シリコーンLIMSの場合に分散状態の物性に与える影響評価が難しい。理由は、加硫条件が分散状態で変化するためである。最適分散された材料を最適加硫条件で加硫した時だけよい物性が現れる。またばらつきも小さくなる。
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ほとんどの高分子の難燃剤には、リン原子やハロゲン原子が含まれている。可燃性の高分子を難燃化するときに難燃化レベルにより難燃剤を用いなくても難燃化できる技術もある。特に電気製品の内部に使用する高分子では、ハロゲン含有化合物を用いるとサビ発生の原因になることもあり、ノンハロゲンの難燃化技術が要求される。
リン含有化合物以外でノンハロゲンの難燃剤は数少ないが、金属酸化物の中にLOIで2以上の改善効果のある化合物が存在する。酸化スズゾルもその一つで、高分子との組み合わせと分散をうまく行うと20vol%の添加量でLOIが21になる場合もある。しかし1次粒子が1nm前後の超微粒子を分散する技術は難易度が高い。また、この実験結果はラテックス中で酸化スズゾルを分散して得たものですが、実用化には経済性の問題が残ります。
この実験結果を実用化するには問題が多いが、注目したいのは分散状態が変わるとLOIが2以上低下する点である。分散状態を制御してどの程度難燃性が変わるのかという研究を見たことが無いが、高分子の難燃化技術開発を担当したときには確認するように努力してきた。その結果感覚的になるが、20%前後は分散状態に影響を受けている、と内心思っています。内心思っている、と表現したのは、分散状態そのものを正しく評価していないためです。実験方法として、こうしたら分散状態が変わる、という対策を行って難燃性を評価したところ実際に難燃性が変化したので、感覚的にとか、内心という表現を用いています。
技術開発を担当されている方は、日々の開発過程で疑問を感じる現象に遭遇する機会が多いと思いますが、それらの現象の中に論文等で公開されていない、すなわち科学的な研究データが公開されていない場合もあるかと思います。小生はそのような場合、メモを残し、次にテーマを担当する機会があったときに現象を確認するようにしています。難燃剤の分散状態と難燃性については、30年以上前に担当し疑問を持った内容を20年近く前に酸化スズゾルの帯電防止技術を担当しましたときに確認いたしました。
テーマは帯電防止技術開発でしたが、扱っていた素材が難燃材として50年前の論文に紹介されていた材料でした。30年以上前にその論文を読み実験で確認したときには、難燃性能が発現しませんでしたが、パーコレーション転移の研究を行っているときに、もしかしたら、と思い、社外の機関にサンプルを送りLOIを測定して頂いたら難燃性能が発現した、といういきさつがあります。難燃剤を研究されている方がもし本稿を読まれて分散技術についてご相談したいことがございましたら、いつでもメールにてご相談ください。
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ホスファゼン誘導体は優れた難燃剤であり、大量生産すれば価格が下がることも30年以上前から言われてきたが、リン1モル当たりの価格は、汎用難燃剤に比較し、まだ高価である。ただ最近開発された分解温度の高い縮合リン酸エステル系難燃剤よりもわずかに安い。3年前PETの難燃化にホスファゼンを使用してみて技術の進歩を感じた。
しかし難燃剤の評価というのは難しく、一般に一定条件で難燃剤を樹脂へ添加した時の評価結果で効果を評価するので、ホスファゼンを使いこなすという目的が無い限り、ホスファゼンの正しい評価はできない。樹脂に難燃剤を分散した時に分散状態が難燃性に影響するためで、これはホスファゼンに限らず他の難燃剤も同様の事情を抱えている。多数の難燃剤が開発されている背景でもあるが、この問題を難燃剤メーカーは少し考えたほうが良いと思う。
もしどこかの難燃剤メーカーが樹脂への分散を制御する技術を開発したならば、数種類の難燃剤を大量生産しコストを下げ、分散制御技術とセット販売するビジネスが考えられる。化学的にはリン原子1モル当たりの難燃効果はそれほど変わらないはずで、このようなビジネスは実現可能性が高いと思うが、その戦略が有効に働くのはホスファゼンメーカーである。ホスファゼン誘導体は、PNC(ホスフォニトリルクロライド)と呼ばれる1種類の化合物から類似の反応で様々な誘導体が合成されるので、PNCのコストダウン効果をそのまま生かせる。
ホスファゼン誘導体の1種はLiイオン二次電池電解質の難燃剤としても利用されているが、価格が高いのが問題で、代替技術が開発されたこともあり今後二次電池の市場が拡大してゆくときにコストダウンが課題になる。ホスファゼン誘導体を合成しているメーカーは少し知恵を絞り戦略的にビジネスを展開すると一気に成長できるチャンスがある。
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