PPS(ポリフェニレンスルフィド)には、架橋タイプとリニアタイプがある。架橋タイプというのはシェブロンフィリップスで最初に開発されたPPSであり、分子量を高くすることができなかったので、酸素架橋して分子量を伸ばし、射出成型用樹脂として上市されたポリマーだ。
リニアタイプというのは、その後技術が向上し、高分子量のPPSを製造できるようになって上市されたポリマーで、射出成形にも押出成形にも使用可能である。
プロセス性の違いで表現すれば、リニアタイプの高分子量PPSでは糸を製造できるが架橋タイプPPSでは紡糸ができないと言われている。
ただし、この点について当方の開発した添加剤を用いると紡糸できなかった架橋タイプでも紡糸できたので、簡単な話ではない。
架橋タイプにせよリニアタイプにせよDSC測定すると278℃から290℃の間にTmが観察される。Tgは90℃前後にあり、用途により耐熱性がこのTgで制約をうける場合もあるので、耐熱性樹脂としては使い方に注意する必要がある。
冷結晶化温度は120-130℃であり、結晶化できれば用途によりその耐熱性が270℃近辺まで期待できる場合もある。
ガラス繊維補強すれば、Tgの影響を小さくできるので、その樹脂の難燃性を活かして使うと、最近コストが下がってきたので便利な樹脂である。
さて、このPPSの融体は面白い挙動を示す。何が面白いか問い合わせていただきたいが、例えば粘弾性試験機で得られたデータをそのまま信じていると製造過程で、特に押出成形において発生する品質故障の原因について悩むことになる。
弊社で開発されたPH01を用いるとTmが少し低下するがTgを下げない効果があり、耐熱性樹脂としての特性を損なわないだけでなく、融体としての性質も安定化する。その効果は、先に説明したように架橋性PPSに添加した場合には紡糸できたりする。
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高分子を加熱すると流動性を示すようになる。未加硫ゴムならば加熱しなくても室温で流動性がある。
この流動性を示す温度は、カタログにはTmで標示されるが、Tm未満の温度でも高分子が流動性を示すことを御存じない方が多い。
Tm未満における高分子の流動性については、改めて説明するが、とりあえずTm以上に晒された高分子の流動性について考えてみる。
この状態における高分子融体の物性については、粘弾性測定装置で計測するのが一般的で、多くの高分子では再現よく物性測定される。
ただし高分子の中にはその再現性が乏しい場合もある。また、その再現性がわずかな測定条件のばらつきに依存するのではなく、材料の製造ロットにより影響を受ける場合がある。
高分子の製造ロットに依存して粘弾性がばらついているときには、製造ロット間の差異を分析し、その原因を探ることになるが、この時、ロット内のばらつきがさらにロット間に依存しているときには話が複雑になる。
そもそも高分子融体の物性ばらつきは、高分子の一次構造の性質と絡み合いに大きな原因がある。
分子量分布は高分子の一次構造の性質の一つとして考えているが、一次構造の性質として分子量分布の寄与が大きい場合と小さい場合が存在する。
分子量分布についてはGPCでその差異を確認できるが、その他の一次構造情報について完璧に収拾するのはコストがかかる。
射出成形では、高分子融体のばらつきの影響は小さいが、押出成形では品質問題として現れたりする。
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人の動きを80%削減できるのか。今日本全国の会社でそれが始まったが、生産ラインあるいは実験など会社に行かなければ仕事ができない人は困っているかもしれない。
しかしせっかくの機会だから2週間ほど仕事を放りだすのも悪くない。今ならコロナのせいにして堂々と仕事を辞めることができる。
実は、このような発想は不謹慎でもなんでもなく、コロナが収まっても時々実行すると、日々の仕事のやり方を変えることができる。
当方は30数年間研究開発業務を担当したが、時々仕事を放りだしたくなる処遇にあい、好まなくても仕事のやり方を変えてきた。
その結果、どのような環境でも材料に関して発明ができるようになった。実験が必要になったら100円ショップへ行き、適当な材料を揃えて実験を行っている。
この習慣が役立ったのは、ある皮革メーカーから皮革の難燃化技術開発を頼まれた時。この時、その工場へ行き驚いた。電子機器は電子天秤だけで、あとは木製の機械が動いているような現場だった。そこで皮革の難燃化技術開発をやってほしい、と言われたのだ。
仕方が無いので100円ショップへ出かけ、材料を揃えて目標を達成したが、高純度SiCの前駆体ポリマーの開発では、ポリエチレンカップと撹拌機だけで開発したことを思い出した。
30年も続いたその事業は、フェノール樹脂天井材開発が終了し、原材料の廃棄処理を担当して技術開発を行っている。すなわち、技術の種を生み出した費用は人件費1日分である。しかし、この1日分の人件費で廃棄物処理も行っているので実質0円で高純度SiCの技術の種が生まれた。
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退職前中間転写ベルトと呼ばれる複写機用機能部品の生産技術を担当した。製品化まであと半年という状況で歩留まりがとんでもなく低い状態だった。
コンパウンドは外部の一流メーカーから購入しているのであとは押出成形技術の完成だけ、というのが前任者から当初説明されていた内容だった。
(簡単な仕事であれば前任者は最後まで担当していただろう。頭のいい前任者は失敗が見えてきたので窓際にいた当方に依頼してきたことは十分にわかっていた。しかし、どのような優秀な技術者でも成功するには時間が少なく、成功できるとしたら写真会社には当方しかいないことを前任者は知っていた。)。
しかし、PPS/6ナイロン/カーボンという配合において6ナイロンをPPSに相溶させて単相としなければ解決できない問題、と現場を観察していて気がついた。
これは直感ではなく、日本化学工業協会から技術特別賞を頂いたパーコレーションのシミュレーションの経験知のおかげである。
しかし、PPSと6ナイロンを相溶させる、という現象はフローリー・ハギンズ理論から否定される。すなわち科学で否定される現象を技術で成功させない限り、事業の成功はない状況と理解した。
ただし、科学で否定されるので、国内一流メーカーの技術者からは馬鹿にされて当方のコンパウンド改良提案など却下されただけでなく、部下の課長からも事務所で仕事をしていてください、と優しく言われる始末だった。
すぐに上司のセンター長にこのままでは必ず開発に失敗します、と申し出た。すると、センター長は失敗しないためにはどうすればよい、と聞かれたので、コンパウンドを当方が作る以外にない、と応えている。
横で聞いていた、気楽な前任者は、生産まじかなのでQMS上それはできないよ、と余計なことを言ってきたので、それでは子会社でラインを立ち上げ、外部からコンパウンドを購入するシナリオで開発しましょう,と提案している。
センター長はすぐに、いくら必要か、と聞かれたので2億円の見積書を出したら、8000万円でできないか、と言われた。
できる見通しは立っていなかったが、すぐに中古機を集めればできると思います、と応えて、その日に行動をはじめ、3か月後、センター長から決済がおりるや否や1か月後には子会社の敷地の隅にラインが出来あがっていた。
その混練ラインから、PPSと6ナイロンが相溶したコンパウンドが生産されたのだが、この成功までに周囲の誰も業務の実態を知らなかった。また当方も進捗の詳細よりも社内のQMSに反しないように根回しを行っていた。
科学で説明できない現象の仕事であり、その進め方も試行錯誤となり到底周囲から賛同される内容ではなかった。
ただ、部下の課長が、外部から供給されるコンパウンドとして、一流メーカーのコンパウンドと同等に厳しい評価をしてくれたおかげで、歩留まり100%の技術が出来上がった。
科学で説明できない内容について周囲に理解を求めるのは極めて難しい。しかし、ラインが立ち上がれば皆信じてくれるのである。この技術の成功要因は、当方が走り始めたときに周囲から批判がでなかったことである。
高純度SiCの事業開発で経験(注)しているが、このような場合にとかく周囲は小姑の如くどうでもよいことまで上げ足とりをするような発言をするものである。それが分かっていたので、ラインが立ち上がるまで黙々と仕事を3か月行った。
ところが、この仕事では、量産まじかで基盤技術も何もない新技術を導入するという禁じ手を使っていた。これは承知のことであったが、そうしなければ成功しなかった仕事である。
ゆえにQMS上問題が起きないように外部からコンパウンドを購入するという開発シナリオに沿って子会社でラインを立ち上げている。
(注)半導体治工具のJV(ゴム会社と住友金属工業との契約による事業)を立ち上げるまでの5年間研究所内では批判の声が多かった。JV立ち上げ後は静かになったと思ったら信じられない事件が起き、そして当方は転職している。企業内で新しいことをする、という時にはいつでも「覚悟」が必要であり、その覚悟に対して組織はどこまで共感してくれるのか、が重要である(当方はJVを開発スタート時のシナリオ通りに別会社として起業する予定でいた。)。
カオス混合ラインの立ち上げでは、半信半疑の部下の課長も含め、豊川にいるメンバー皆の成功を祈っている気持ちが業務中に伝わってきた。ゆえに業務に集中でき短期間で成功させることができた。アイデアとか仕事のスキルは個人に依存するが、事業の成否は組織のパワーなり風土なりがどのようなものであるかが影響する。これを理解していない経営者なり管理者は弊社にご相談ください。また、財務省の問題では自殺者が出たり、過去にも組織風土の問題で自殺が後を絶たないが、死ぬ勇気があるならば、転職すべきである。これは、問題から逃げるのではなく、問題解決のためである。自殺による解決はさらに別の問題を引き起こす。また、生きておればおもしろい光景を見ることができる。ゴム会社から写真会社へ転職した時には送別会の雰囲気など無かったが、数日後某カントリークラブで1泊2日のゴルフ送別会が開かれ記念品としてゴルフバックを頂いた。これは意外だった。写真会社の退職送別会は2011年3月11日だったので吹き飛んだが、退職後元の職場のメンバーによる焼き肉屋パーティーが開かれている。組織で働く、とは、そこに人の交流があり、人間らしい無形の財産が必ず蓄積される。死んでしまったら永遠に無形のまま(遺族が裁判で有形にするという方法もあるが、これは不幸の連鎖である)だが、生きておれば何らかの形でその財産を見ることができる。
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負の誘電率については1967年にロシアの学者ヴェセラゴが予見しているが、科学の形式知では誘電率や屈折率は正の数で取り扱う。
しかし、最近このような負の誘電率を示す材料はメタマテリアルとして研究が活発に行われるようになった。
また、特許も出願されるようになってきたが、PPS/6ナイロン/カーボンの配合でカオス混合を用いてコンパウンドとし押出成形でフィルムを製造した時にメタマテリアルが偶然できて困った経験がある。
また、PETフィルム表面に300nmほどの膜厚で形成した酸化第二スズゾル薄膜、すなわち写真感材の帯電防止層だが、この薄膜でも面白い発見があった。
このマトリックスにはアクリル系ラテックスを用いており、酸化第二スズゾルは18vol%添加され、パーコレーション転移を生じた黒いネットワークの電子顕微鏡写真が観察された。
このフィルムをアルカリ性と酸性の水溶液へ連続的に通過させたところ、フィルムは負の誘電率を示した。
たばこの灰付着テストとインピーダンスとの相関を調べていて発見した現象だが、あまりのキワモノデータなので、インピーダンスを絶対値として扱い処理した。
面白いことにインピーダンスの絶対値とタバコの灰付着距離とは相関しただけでなく、パーコレーション転移の現象との関係も見出すことができた。
パーコレーションとインピーダンスとの関係について、福井大学客員教授時代にモデルを立案し数値計算でモデルの妥当性を確認しているが、そこでの計算ではあくまでも誘電率は正を前提に証明している。
科学の研究として実施したためだが、ときとして科学は自然の現象を排除する不気味さを体感した。
自然界を理解するために科学は重要であるが、それで自然界のすべてを語れるわけではない。これは女心を永遠に理解することは難しい、という文学的な意味ではなく、技術者が心がけるべきことだ。
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本屋に行っても実務で必要な高分子の知識について最初に学ぶ良い本が無い。プロセシングについてはなおさらだ。高分子について少し知識があれば、この本はプロセシングについて初歩から応用技術まで学ぶことができる。応用技術については、高度な知識まで獲得できることを目次から確認していただきたい。Wパーコレーションについて触れている本はまだ無い。この技術はカーボンを添加して半導体高分子を製造しようというときには重要である。
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ホスファゼンは当時先端素材であり、ホスファゼンのジアミノ体とイソシアネートとの反応物は、正真正銘の新規化合物だった。
1990年に当時の研究結果をアメリカの学会誌へ投稿しているが、フルペーパーで簡単に掲載されている。分析データもゴム会社の分析チームが行っており完璧で研究内容も新鮮さを失っていなかった。
またこのころ、臭素系の難燃剤の開発競争が激しくなってきた時代であり、環境にやさしいホスファゼン変性ポリウレタンは、世界初であると同時にそれなりの価値を持っていた研究だった。
だから1980年では発泡反応と重合反応とのバランスをどのようにとるのかといった研究データなど無かった。ホスファゼンの反応に関する研究でさえこの研究の3年後に発表されている。
ゆえに、すぐに発泡反応とのバランスをとることをやめて、重合反応だけ完璧に進行する条件を見出し、変性量と極限酸素指数との関係を求める研究に切り替え、指導社員から指定された日に目標を達成したグラフを提出している。
すなわち、機能がうまく働いているのかという点だけに着眼し、開発を進めたのだ。この時の体験で、科学で開発を進める手順以外に、機能の最適化を進める手順があることを開眼している。
科学では、真理が一つであることが重要で論理学を完璧に用いてそれを示すことが求められる。その時の推論の進め方は前向きとなる。
分析や解析業務では、これは合理的なプロセスを約束する。すなわち、分析結果が真理であることと同一となるからだ。
しかし、モノを創るときには、科学的に真理であることと求めるモノとが一致するとは限らない。これは明日エジソンの弟子の失敗による大成功を事例に説明する。
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ホスファゼンで変性した発泡ポリウレタンの工場試作に成功したのは1980年6月である。企画と同時に研究開発を1980年1月にスタートしている。
研究開発管理では、現在普及しているSTAGE-GATE法など採用されていなかったので、加速度的に工場試作まで進んだ。
1979年12月末までの3ケ月間防振ゴム用樹脂補強ゴムの開発を担当していたが、1年間の新入社員テーマを3ケ月で仕上げたので、樹脂研究グループから高分子合成研究グループへ異動となった。
指導社員も男性から女性に代わった。30手前の既婚女性で美人かつ優しかった。単純な当方は、おそらくサラリーマン生活で最もモラルが上がっていたと思う。高純度SiC合成の企画もこの時生まれている。
混練の神様のような男性指導社員の優れたマネジメントでは、1年の予定のテーマを3ケ月で完成する能力と高分子に関する専門性を向上できたが、自己の能力というよりも指導社員の能力の賜物である。
自分で考え行動したというよりも指導に対して真摯に応えた結果だった。だから防振ゴムの配合を短期に見いだせても満たされていないものを感じていた。
女性指導社員は当方に優しく何でも相談してくださった。これも指導社員としての一つのスタイルだろう。美人から優しく相談されて活性化しない若い独身男性は少ないだろう。
これが男性の上司なら、それを考えるのはあんたの仕事だろう、という気持ちが芽生えてしまう。
それが積み重なれば上司不信となるので、部下育成をもくろみ相談形式でマネジメントを行う方法は、管理職研修で奨励されても同性同士ではうまくいかないケースが多い(これをうまく実践するにはコツがある。弊社にご相談ください。)。
当方の世代は、フーテンの寅さんにあこがれ、男性はたくましくなくても強くありたいという価値観で女性から相談されれば、無理をしてでもそれに本能的に応えようと努力する男が多かった。
その結果頓珍漢な事件が起きるのは寅さんのパターンだが、このホスファゼン変性ポリウレタンの開発の時も始末書を当方が書くことになるおかしなことになっている。ただ、当方は真摯に相談内容に応えていただけだが。
例えば、何か新規に合成して軟質ポリウレタン発泡体を難燃化できないかしら、と相談されてすぐにホスファゼンの新規誘導体で変性する技術を提案している。
さらに、いつごろできるのかしら、と言われて来週月曜日にはできていますと答えて、金曜日にホスファゼンのジアミノ体とイソシアネートの反応したオリゴマーの分析結果を提出していた。
相談内容は次第に難しくなっていった。来週には発泡体の極限酸素指数データぐらい出てるのかしら、と言われて、必死になってポリウレタン発泡体を合成しようとしたが、これが極めて難しく、うまく発泡体ができない。
イソシアネートとポリオールの反応はうまくいっていたが、発泡と重合反応とのバランスを取るのが難しいのだ。
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高分子材料を学ぼうとするときにそのプロセシングから学び始めるとよいように思っている。当方はゴム会社に入社した時に樹脂補強ゴムの開発をバンバリーとロール練りで行っているが、高分子技術を体得するために大変役立った。写真会社へ転職し、混練プラントを半年で立ち上げなければいけない状況になった時にこの時学んだ知識でフローリーハギンズ理論に反するようなプロセスを開発できた。この書にはその時活用したゴム会社の暗黙知を退職後に経験知と形式知へ具体化した。本書にその一部を公開している。特に二重のパーコレーション転移制御をシミュレーションした結果は高分子材料開発に携わる技術者には参考になると思う。学会発表も論文発表もしていない最近シミュレーションした内容である。
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八年ほど前に電子ブックとして高分子のツボを出版しましたが、そのリクエストの問い合わせがありました。実は混練り活用ハンドブックにはその6割ほどが盛り込まれています。すなわち高分子のツボについてプロセシング部分を膨らませたような構成です。ご一読ください。
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