(昨日からの続き)そして、高分子材料というものをいろいろな角度から眺め、計算をしてきた実績がある。
形式知として問題があるかもしれないが、優れた研究者達による豊富な考察を経験知として借用したくなる魅力がそこにある。
現在の形式知で歯が立たない混練分野では、このような経験知でも構わないから少しでも「知識」を身に着けていたほうが、目の前で起きる現象に対して理解しやすい。
ラテン方格を使用した実験を行う時にも、制御因子の取り上げ方に、このような経験知の有無が影響を受ける。
すなわち、高分子の科学的研究には役立たないかもしれないが、ダッシュポットとバネのモデルによる現象の捉え方は、その限界を知ったうえで活用すると、実務では便利なツールとなる。
もう一つ高分子の理解を難しくしている原因をあげるとしたならば、レオロジーの教科書に書かれた説明である。
高分子を粘弾性体として捉える考え方は、弾性変形について固体力学の形式知を、粘性については流体力学という形式知を利用している。
この両者の形式知を動員して高分子の変形を考えようとしたのが、過去のレオロジーである。
しかし、困ったことに高分子には塑性という変形様式が存在する。金属やセラミックスにも塑性は存在し変形を考えるときの形式知が完成しているが、高分子ではこの塑性が分子1本1本の絡み合いや運動で引き起こされ、大変複雑な現象となって現れる。
それを解明しようとソフトマターの物理学が新たに提案されている。おそらく10年後にはこの形式知が反映された今よりもわかりやすいレオロジーの教科書が出てくるかもしれない。
今月下旬に発売予定の書では、このようなレオロジーの現状を考慮したうえで、混練を考えやすいよう高分子の運動に力点を置き、その考え方を説明したい。
カテゴリー : 高分子
pagetop
高分子へ導電性微粒子を添加した時に生じる体積固有抵抗の急激な変化について混合則を用いて考察を進めていた時代があった。
その後、浸透理論による考察すなわちパーコレーション転移の閾値を評価してその現象を理解しようとした変化以上に、高分子のレオロジーに関する研究の内容は20世紀末に大きく変わった。
そもそもレオロジーとは、物質の変形及び流動一般に関する学問で、その現象論的目的は、応力(力/面積)と歪(変形量/元の寸法)と時間(周波数=1/振動数)の関係を調べることにある。
ところが、高分子の融体は、原子が共有結合でつながった紐状の分子、それも長い分子や短い分子、さらには枝分かれした分子など様々な構造の分子を含んでおり、それぞれの構造の制約を受けながらその場のエネルギー状態に応じてそれらが運動している複雑な物質である。
すなわち、一組成の高分子であっても分子一個一個に着目すれば多成分系であり、さらに、その運動を考慮すると分子量や分子の形態に基づく分散を考慮しなくてはいけない多分散系である。
そのような複雑な状態の物質が引き起こす現象をダッシュポットとバネのモデルを組み合わせて解析していたのだから、説明できない現象が出てきたとしても当然であるが、形式知としてこのような事態は許されない。
まず、高分子のレオロジーについては、今新たな研究が展開されている状況である、という認識を持つ必要がある。
すなわち、レオロジーの教科書を読むと粘弾性体についていろいろと難しい理論や計算式が並んでいるが、それらを無理に理解する必要はなく、とりあえず教科書全体を流し読みすればよい。
ダッシュポットとバネのモデルは、形式知として時代遅れのモデルであり忘れてしまってもかまわない。
ただし、かつて多くの研究者がこのモデルを使って高分子材料を理解しようとした知の遺産と認識し、経験知としてうまく生かして使おうという努力は無駄ではない。
このような表現をすると叱られるかもしれないが、そもそも、以前のレオロジー研究者は、ダッシュポットとバネのモデルをいろいろ組み合わせて現象を再現しようと試行錯誤していた。
すなわち、それは、あたかも手探りでモデルを探していたような「おさわり感覚」の学問である。
カテゴリー : 高分子
pagetop
半導体高分子を製造する方法として、導電性微粒子を高分子に分散する材料設計法がある。この時のパーコレーション転移の制御には高度な技術と材料設計技術が必要になる。
酸化第二スズゾルを用いた薄膜導電層の設計では、(1)酸化第二スズゾルが、水溶性コロイドの状態で超微粒子のクラスターを形成しており、形状の異方性が期待されたこと及び、(2)形状の異方性とバインダーの組み合わせでパーコレーション転移の閾値が変化すること、この2点を制御因子として超微粒子の添加割合が18vol%という低い値でパーコレーション転移を安定に実現している。
導電性微粒子のアスペクト比(長径/短径)が変化した時のパーコレーション転移について、微粒子の導電性を100Ωcmと仮定した時のコンピューターシミュレーションを行ったが、統計的確率に制御されてパーコレーション転移が起きている場合には、アスペクト比が、大きくなる、すなわち異方性が大きくなるほど導電性微粒子の添加率が少ない領域でパーコレーション転移を起こすようになることが明らかとなった。
ちなみに、酸化スズゾルクラスターの見かけのアスペクト比は4であり、コンピューターのシミュレーションでは、アスペクト比4の場合に0.175(17.5vol%に相当)に閾値が現れているので、実験値をシミュレーションはほぼ再現している。
カテゴリー : 高分子
pagetop
アルビントフラーの第三の波はあっというまに過去の著作となり、バブル崩壊から30年近くたった。そのような状況で5Gが注目を集めている。
この変化の時代に新材料の技術が求められており、来年にかけて招待講演を依頼されましたセミナーでその内容を公開してゆく。すでに取り組んでいるメーカーも注目していただきたい内容である。
各セミナーではテーマを明確に設定し解説するので、全部参加していただければ、今起きている材料技術のイノベーションを学べる。
まず、下記セミナーでは、情報通信の切り口で解説する。希望者は弊社へ問い合わせていただきたい。
開催日時:2019年11月27日(水)10:30~16:30
会 場:ちよだプラットフォームスクウェア ミーティングルーム B1F
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-21 → 会場へのアクセス
受 講 料:45,000円 + 税 ※ 資料・昼食付
*弊社へ申し込まれますと割引価格になります。
カテゴリー : 一般 学会講習会情報 宣伝 電気/電子材料 高分子
pagetop
短時間でコンパウンドが吐出される二軸混練機において、混合状態の不安定さが原因となる。この時、深刻な問題となりやすいのが、パーコレーション転移という現象である。
これは、高分子にカーボンの様な導電性微粒子を分散し半導体高分子材料を製造しようとしたときに必ず遭遇する現象であるが、導電性だけでなくフィラーによる弾性率の改良を行う時にもこの現象は発生している。
しかし、パーコレーション転移による弾性率変化は、導電率変化よりも小さいのであまり問題となっていない場合が多い。
パーコレーション理論とは、クラスターの数と性質を取り扱う、少し難解な形式知である。その理論的な扱い方には、クラスター生成を格子点のつながりとして扱うボンドパーコレーションと、格子で囲まれた領域の中心(立方体であれば、その中心を面心という)が形成するクラスターとして扱うサイトパーコレーションの二通りがあり、二次元から多次元まで拡張されてきた。
そして、無限につながったクラスターが生成しはじめるときのクラスターの割合をパーコレーション転移の閾値(Pc)と呼び、1950年代に数学者によりその値が議論されてきた。
ところが、モデルにより一定とはならないので数学者以外に閾値の理解は難しい。門外漢には、クラスター形成過程で、急激に何かが染み出したように系の性質が変化する現象として、この転移を理解できればよい。
そもそも、パーコレーション理論の名前は、コーヒーのパーコレータが由来であり、「ある閾値で物性が急変する現象」という概念こそが重要である。
パーコレーション転移は数学の世界ではかなり古くから知られていた理論であるが、その取扱いの難解さだけでなく概念の意味が材料技術者に理解されず、高分子材料に応用されたのは1990年前後からである。
昭和35年に開発された非晶質SnO2ゾル薄膜を用いた透明導電薄膜技術を温故知新により現代に蘇らせたフィルムの帯電防止技術では、薄膜のインピーダンス評価を行い、パーコレーション転移の閾値を見積もっている。
そして18vol%という低添加率でパーコレーション転移を生じさせる技術開発に成功した。この技術の考え方は、混練により、半導体コンパウンドを開発するときに参考になる。
現在パーコレーション転移シミュレーションプログラムを作りながら学ぶPython入門PRセミナーの受講者を募集中です。
PRセミナーについてはこちら【無料】
本セミナーについてはこちら【有料】
カテゴリー : 高分子
pagetop
MFRとはMelt Flow Rateの略であり、高分子の流動性の指標として使われ、大きいほど流動性が良いとされている。
コンパウンドのスペックにも使われたりするが、ばらつきが大きい指標である。同じロットのサンプルでも2-3割程度ばらついている。
興味深いのはバッチ式混練機で条件を大きく変えてもこの程度のばらつきの時と2倍以上のばらつきを示すケースがあることだ。
例えば、混練時間を横軸にとり、MFRのばらつきデータをあるポリオレフィン樹脂について混練したところ、5分間の混練では2倍以上のばらつきを示したが、30分混練したところ2-3割のばらつきに落ち着いた。
この結果は、次のようなことを示唆している。すなわち、一般に使用されている二軸混練機では、乾式混合された原料が投入されてから4-5分でコンパウンドが吐出されるので、コンパウンドが十分安定化しないで吐出されているのではないか。
参考までにこの実験で得られたポリオレフィン樹脂のについてデータをまとめると、200℃で混練した場合にMFRが1.4付近で安定化するまでには30分ほど混練が必要である。
しかし、融点以下に温度設定して混練を行う剪断混練では、MFRは10分ほどの混練で1.4を越えばらつきも減少する。
混練温度を高分子の融点以下に設定する剪断混練は、加硫ゴムの混練条件として一般に採用されているが、熱可塑性樹脂の混練では、あまり使われていない。しかし、コンパウンドの流動性を向上できる長所があるので検討するとよい。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
ブリードアウトの問題は、高分子中の物質の拡散速度で決まる、と単純に理解している人が多い。
ブリードアウトの問題を考えるために高分子中の低分子の拡散速度を測定すると、フィックの拡散理論に沿った結果が得られる。
多少グラフが外れていても、仮説としてそれなりのモデルを組み立て考えてやると、うまく仮説に沿ったグラフが得られるから誤解するのも仕方がない。
しかし、実験室で得られたカーブを信じて配合設計を行い製品を市場に出したにもかかわらず、ブリードアウトという品質問題を経験すると、技術者ならば慌てないが、科学者は頭を抱えて悩み始める。
ここで秘策を一つ無料で教える。実験室で正しく評価し、添加量を科学的に導いても市場で品質問題が起きていたなら、思い切って添加量を半分にしてみるとよい。
おそらく半分にした結果、ブリードアウトの問題は解決するが、添加剤の添加量で制御されていた物性が破綻するかもしれない。この物性が製品の重要品質でなかったら、こっそりと市場に出してみる。
そしてその製品の品質問題が解決されたなら、少しずつあるいは「えいやっ」で添加量を増やしてみる。すなわち市場で品質問題を解決可能な添加量を探るのだ。
QMS上このような方法が許されない場合には、開発をやり直すしかない。そのときどのようなことを考えなければいけないのかは相談して欲しい。
ところで、実験室で科学的に添加量を決めても何故市場でブリードアウト問題が起きるのか。これは高分子の自由体積の量がばらつくためである。
このばらつきの偏差は、高分子の種類により異なる。だから実験室で決められた添加量を実現している自由体積の量が実験室で最大値を示していた時、量産ではばらつきが避けられず、たまたまその自由体積量が少なくなってブリードアウトがおきることになる。
科学的に添加量を決めたのに製品でブリードアウトが起きてしまう原因は他にもあるが、これはここで書きにくい。しかし、機会を見て書き残したいと思っている。
ブリードアウトという現象について、拡散の視点で科学の世界における問題として扱うことは可能だ。しかし、市場の品質問題は、技術で解決することを忘れてはいけない。
ブリードアウト現象に遭遇したら、悩まず科学と技術の違いを理解できる良い機会と喜んでいただきたい。面白いのは、ここで悩み落ち込むと問題解決に時間をかけることになるが、喜んで対応すると短時間で解決できたりする。
人間の営みについて科学ですべてを記述できない。しかし、不易流行という言葉が示すように時代を越えて変わらないものがある。残念ながら、経験しなければ理解できない問題は、いつまでも残り続ける。
AIの時代でも生き残れるのは科学者ではなく技術者だ。形式知だけを頼りに生きている人はAIで置き換えられることになる。ブリードアウトの問題を拡散だけで考えている人は必要のない時代になった。
カテゴリー : 高分子
pagetop
あるポリオレフィン樹脂(Tgがほぼ135℃で融点は195℃)だけを二軸混練機を模したバッチ式混練機で混錬した時の経験である。
バッチ式なので長時間の混練が可能である。200℃以上の温度では10分間の混練でTg付近のエンタルピー変化が安定化しているように見えた。しかし、そのエンタルピーは190℃以下の低温度で混練した時よりも高い。
すなわち、溶融温度よりも高い温度で混練するとこのエンタルピーは、ある一定値よりも下がらなかった。
但し、190℃以下の低温度における混練(未溶融剪断混練あるいは剪断混練)では、30分以上の混練でTgのエンタルピーは低くなり安定化している。
Tgのエンタルピーは高分子の自由体積の量とも関係しており、この値の低い系が高い系よりも安定しているとみなせるので、30分以上混練をしないと安定化しない、と思われる。
また、溶融温度(Tm)以下の混練では、溶融温度以上の混練よりもエンタルピーが低下する傾向がみられ、このポリオレフィン樹脂を安定な状態まで混練するには、30分以上剪断混練を行う必要がある、とおもわれるような実験結果が得られている。
これは、ポリオレフィン樹脂だけを長時間混練した結果である。二軸混練機では原料の投入から5-6分でストランドが出てくるので、高分子の混練状態が非平衡であるだけでなく、十分な緩和もしないまま、すなわちその状態が訳も分からないまま吐出されている。
これが理解できると少しは二軸混練の技術に対して見方が変わる。この部分を読み、カオス混合装置が欲しくなった技術者は頭の回転が速い。そして弊社へ問いあわせのメールを出した技術者は、仕事が速く良くできる人だ。
カテゴリー : 高分子
pagetop
微粒子(無機フィラーや有機フィラー)とともに高分子を混練した時の分散・分配モデルは、よく整列した白黒の球の配列で示される。
ところが、二軸混練機で混練後のコンパウンドを押し出すと、混練後であってもマトリックスが緩和するまで分散状態は変化する。
例えば、無機微粒子を分散したコンパウンドを押出後、混練機の中で均一に分散していても、押し出したフィルムの冷却速度を変えると分散状態が変化することがある。
この現象は、混練後に組成物が平衡状態になっていないことを意味している。例えば、組成物の自由エネルギー変化を混練時間変化のイメージとして頭に描いてほしい。
あるレンズ用ポリオレフィン樹脂をバッチ式のニーダーで混練した実験では、ポリオレフィン樹脂だけを混練し、一定時間ごとに取り出して、直後に液体窒素で冷却し、冷却後の試料についてTgのエンタルピー変化(ΔH)を測定している。
この実験結果では30分以上混練をしないと、これが一定値にならないという実験データが得られた。すなわち、試料投入後4-5分で吐出される二軸混練機では、1PASSで平衡状態まで混練することができないことを示している。
その結果として、コンパウンドのペレット一粒一粒で分散状態が変化している。極端な場合には、電子顕微鏡でその様子を観察することが可能だが、成形体物性がばらつくことからもおおよそ想像がつく。
中間転写ベルトでは、周方向の抵抗ばらつきが一定でないだけでなく、時々刻々と周期的な変化をすることもあった。単純な押出成形のばらつきでは説明できない現象をコンパウンダーに説明しても分散分配理論で固まった頭では理解できない。
カテゴリー : 高分子
pagetop
ゴム会社では、ゴム材料の配合設計技術や混練技術以外に、高分子の難燃化技術、電気粘性流体、Liイオン二次電池、切削工具、高純度SiCの合成技術、焼結技術、樹脂発泡体技術などを12年間に経験している。
この中で、ゴム材料の担当期間は3ケ月と短いが、最も高いスキルを得ることができたのではないかと思っている。
それは、写真会社を早期退職する5年前に中間転写ベルト用コンパウンド工場を基盤技術0の会社において立ち上げることができた実績から証明されている。
その工場はカオス混合技術の実用化を基礎研究無しで、20年以上前の形式知と経験知だけで成功している。材料技術では、このようなことが可能である。
電気電子回路技術などのシステム思考が要求されるような技術開発ではこのようなことは難しい。
セラミックスから高分子材料まで扱ってみるとわかるのだが、形式知として体系化されている領域が偏っている。開発業務における実務の世界で接する材料というのは、まず非平衡状態であることが問題だ。
未だに非平衡状態を完璧に扱える形式知は存在しない。ゆえに時として形式知で理解できない現象に接する場合がある。
そのような現象に接した瞬間が材料技術では重要で、形式知で扱えるようにモデル化するのか、形式知で扱えない現象として素直に受け入れることができるのか判断しなければいけない。ただし、後者ができるためには経験知が体系的に整理されている必要がある。
カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子
pagetop