ある皮革加工会社から依頼されて、皮革を難燃化した。予算が少ないので2日間の特別作業だが、何とか技術開発できた。
実は昨年、1年間の契約で同様の依頼を受け、ホスファゼンを使用し革の鞣し工程に使用可能な新技術を開発して特許出願を完了している。
しかし、その後使用したホスファゼンの生産が中止になったため今回は別の技術を開発する必要があった。しかし、予算が無いので2日間の限定で、と依頼されたので、なりふり構わず既製品のハロゲン系難燃剤を使用し、技術を作り上げた。
既製品と言っても、革の鞣し工程用の薬剤が販売されているわけではないので、うまく既存の工程に合うようそれなりの技術開発が必要になる。
あらかじめ界面活性剤を数種用意して取り組んで、無事1日で技術を作り、残り一日で効果の再確認をおこなって引き渡しした。
昔先端技術で高偏差値の研究者が数名一年間取り組み技術開発は不可能と結論が出された電気粘性流体の増粘問題を一晩で解決した「技術開発の方法」を今回用いている。
ただ、昨年は環境対策が技術開発目標としてあったので難燃剤の選択に時間が必要だったが、今回は昨年度の経験を使用でき、そこでなりふり構わず、昨年検討から外したハロゲン系難燃剤を検討することにした。
中部大学武田教授も指摘されているが、ハロゲン化合物+三酸化アンチモンの組み合わせは強力でおそらく何でも難燃化でき、今回も3時間程度でその機能最適化までできた。
ところが、昨年開発したホスファゼンシステムでは、燃焼時に煙が少なく難燃化できたのに、今回の系はいかにもの色をした煙が大量に出る。
カテゴリー : 一般 高分子
pagetop
A,B2種類の物質が固体なり液体の場合、両者に必ず界面が生じる。この時それぞれの表面における分子の自由エネルギーは、内部に存在する分子の自由エネルギーよりも大きい。この状態から系全体のエネルギーを最小にするように形状が決まる。(この捉え方は間違っていない。)
物理化学では、溶解状態と分離状態の取り扱いについて理想溶液を前提にしている。すなわち混合はランダムに生じ、エントロピー項はモル分率だけで表現できる、と仮定して溶解について議論を進める。(高分子についてこの仮定が不十分であることは明らかである)
この低分子の溶解理論において最初からすでに誤差が入っていることに注意する。さらに溶質と溶媒との間の凝集力が分散力(ファンデルワールス力)だけで議論できる、とする正則溶液(regular solution)という前提も出てくる。
有名なHildebrandの溶解性に関する概念では、液体の凝集エネルギー密度を溶解性パラメーター(Solubility Parameter:SP)と定義している。
この時の熱力学的前提条件として、溶液は正則容液であること、また、分子間力は分散力に基づく分子間力のみ、となっている。
そして、モル凝集エネルギーをE、モル容積をVとして、溶解性パラメーターδ = (E/V)1/2を表現している。この定義により、δの近い物質同士では、理想溶液の混合を前提にして相互に溶け合う。
これに対して、Hansenが、分子間力の相互作用について分散力成分のみで処理できないとし、分散力相互作用(d)、極性相互作用(p)、水素結合性相互作用(h)の総和が溶解性パラメータ、すなわち(δtotal)2=(δd)2+(δp)2+(δh)2 であるとした。
その後も、この概念の拡張は行われているが、拡張された概念であっても皆正則溶液という制限がついていることを忘れてはいけない。一般に行われる高分子の混練においてそのような系は存在しないのである。
混ざる議論について基本的にこのような原則で現象を眺めている、ということを忘れてはいけない。おかしな現象が現れてもおかしくないのである。
混練で起きている現象は、科学で論じられた教科書の内容をはみ出すことがあるのだ。それならば、アイデアも大胆に展開したほうが新たな技術を生み出すチャンスが増える。
PPSと6ナイロンを混練したところ、科学の真理に反する透明な樹脂液が出てきて、腰を抜かした人がいたが、当方はカオス混合の成功で飛び上がって喜んだ。
但し、目の前の現象は、科学を否定しているのではない。科学で解明されていない領域の現象が起きているにすぎないのだ。それは、混合に関する科学が大変狭い領域の現象について真理を明らかにしただけで、科学で解明できていない現象がまだあることを示している。
余談だが、実験を何のために行うのかについて、諸説あるが、新しい現象を見出すために行うのも実験の目的の一つであり、またこれは実験の最大の楽しみである。
仮説を確認するために行う実験は大切かもしれないが、その実験が新しい現象を生み出さないようでは、面白みが無い。単なる自己満足で終わる場合もある。
誰も見たことのない新しい現象が目の前に現れたとき、人生最大の興奮状態になる。最近は実験をするときに命を心配するようになった。
カテゴリー : 高分子
pagetop
高分子のブレンドや添加剤について机上で検討するときに、SP値が使われることが多い。
SP値は、例えば高分子や添加剤に含まれる官能基の引力定数表の値を用いてSmallの方法やOCTAなどで計算もできる。
しかし、このような計算値ではなく、SP値が既知の溶媒を用いて、高分子なり添加剤をその溶媒に溶解して、その溶け具合から決定する方法が良い。
なぜなら、Smallの方法で得られたSP値の信頼度について、筆者の経験ではせいぜい60%程度だからである。
また、SP値が既知の溶媒を用いて評価する方法では、無機フィラーの表面についてもSP値という概念に展開可能である。
すなわち、混練では、高分子へ微粒子を分散する場合があり、その時に微粒子の表面と高分子の濡れで分散効率は変わる。これは混練機の性能よりも大きく影響する場合がある。
余談だが、混練のシミュレーターを使ってみて理解できたことだが、シミュレーターには配合成分の相互作用に関する情報を入力できないものもある。また入力できたとしても、不十分な情報しか入力できないソフトウェアーも存在する。
混練のシミュレーション結果ぐらい当てにならないものはない、というのがそれを使用した印象である。
さて、計算により求められたSP値の信頼度が低い理由として、低分子の溶解理論から高分子の相溶に至る理論の拡張に原因がある、と思っている。
カテゴリー : 高分子
pagetop
このとき、添加剤の分散状態をどのように評価するのかが問題となる。よく行われる方法が、顧客と成形条件をすり合わせて、サンプリングしたコンパウンドの評価をその成形条件でテスト成形して確認する方法がある。
この時の評価結果が、うまく後工程の成形体の評価結果と相関がとれて品質管理できるならば、これは一つの方法として採用できる。
しかし、同じ成形加工条件でも機能がばらついたり、あるいは成形体のスペックが機密情報扱いとなっており、組立てメーカーの実験データがすべてコンパウンドメーカーに提供されない場合には、このような方法で品質管理していると品質問題を生じるリスクをコンパウンドメーカーは抱えることになる。
そこで、コンパウンドのままで後工程の製品である成形体の機能を予測するパラメーターを見つけ、それを用いて品質管理を行う努力がコンパウンドメーカーに求められる。
そのために、成形体の機能と相関するコンパウンドの因子を明確にする必要があり、これはコンパウンドメーカーにとって貴重なノウハウとなるが、その技術開発は大変難しい。
この技術には、顕微鏡観察技術、粘弾性測定評価技術、インピーダンス測定評価技術、ストランド形状での極限酸素指数測定評価技術に関する形式知以外のノウハウが求められる。
すなわち、形式知として知られた方法以外のトリッキーと思われるような技術まで必要となる場合がある。
このような技術をコンパウンドメーカーが獲得すると、混練条件の開発を次工程から独立して行うことができるようになる。また、次工程のばらつきについて、その原因と責任の所在を明確にできる。
カテゴリー : 高分子
pagetop
混練で得られたコンパウンドの粘度(流動性)を簡便に計測するために、ヒーターで加熱された円筒容器内で一定量のコンパウンドを定められた温度で加熱・加圧し10分間当たりの押し出された量(g/10min)を指標にしたMFR(Melt Flow Rate)あるいはMFI(Melt Flow Index)が用いられるが、できれば粘弾性測定装置で計測される動的粘性率で品質管理を行いたい。
ただ粘弾性装置は1式揃えると1000万円前後かかるので150万円前後で購入可能な流動性測定器であるMFR装置がコンパウンドの粘度管理に使用されているのが実情である。
機能性高分子材料の混練では、成形体で求められている機能を混練プロセスで十分に創りこむ必要がある。
可能な限り、コンパウンド段階の評価結果で成形体の機能まで品質管理できる体制を構築したい。
高分子材料に求められる特殊な機能として、半導体機能もしくは熱伝導性機能、難燃性機能がある。
高分子材料は一般に絶縁体であり熱伝導性も悪く、可燃性なので、これらの機能実現のためには、その機能を一次構造で実現された高分子を用いない限り、導電性もしくは熱伝導性、あるいは難燃性などの機能を付与する添加剤を添加することになる。
カテゴリー : 高分子
pagetop
試料に規則正しい振動を与え、センサーで試料を伝わった信号を検知して、それを記録する装置である。
この時、時間をそろえて入出力のデータを比較すると応答の遅れ角を計算できる。それをδとするとtanδという値が求まる。
この値は損失係数と呼ばれるもので、試料内部でどれだけのエネルギー損失があったのかを示している。
二枚の円盤の力学的パラメーターと、試料に入力された信号、そこで発生した応力及び歪量(変位量)から剪断弾性率G’が求まる。
エネルギー損失が試料内部の粘性により生じていると考え、その値(弾性率の次元を有する)をG’’とすると、G’’=G’ tanδ として求めるのは経験知として違和感は無い。
レオロジーの教科書では、複素弾性率G*なるものを次のように定義し、tanδを実部と虚部の比率と定義し、実部を貯蔵弾性率G‘と呼び、虚部を損失弾性率G’‘と呼んでいる。
G*=G‘ + iG’’ tanδ = G’‘/G’
レオロジーについては後述するが、粘弾性測定装置を混練や成形条件を調べるために活用するには、G‘もしくはG’‘、tanδの温度分散を調べるとよい。
また動的粘性率は、動的粘弾性においてG’‘を角振動数ω(周波数をfとするとω=2πf)で除したものであり、毛管粘度計などで測定される絶対粘度を密度で除する動粘度とは異なるので注意が必要である。
カテゴリー : 高分子
pagetop
ところで、TGAはコンパウンドの組成を簡便に調べる方法として利用できる。例えば添加剤を計量できる場合がある。
また、DSCで観察される高分子のTgやTc,Tm以外の変曲点には、添加剤の情報が隠されている場合がある。
Tg以上の温度領域に観察されるTMA曲線には高次構造の情報が現れる。
使用方法に習熟してくると、この3種の計測結果から品質問題のヒントが得られる。
TGAとDSC、TMAについて実務で活用するときには、測定原理を参考に高分子の形式知を活用して測定された結果を十分考察したい。
熱分析装置として一般に分類されないが、高分子の状態についてその熱的変化を調べるのに便利な装置が粘弾性測定装置である。
カテゴリー : 高分子
pagetop
連続式混練機では、混練機から吐出された組成物を水で冷却しストランドの形態で引き出し、粉砕してペレットにする場合がある。
この時、結晶成長速度が、何らかの要因で変化すると、ストランドの形状変化が起きる。その結果、ペレット形状がばらつくことになる。
例えば結晶性高分子をコンパウンディングしている時に、水槽の温度管理が不十分であると、円柱状のペレットが扁平な断面あるいは歪んだ星形断面のペレットになったりする。
この現象は成形プロセスまで影響しなければ異常として扱う必要はないが、仕様として「円柱状ペレットであること」と決められていた場合には品質規格外となる。結晶成長速度の問題が、このような品質問題として現れる場合もある。
ペレットのDSCを計測してやると、ペレットの断面がきれいなサンプルと、歪んだ形状のサンプルでは、異なるデータが得られる。
しかし、TGAを計測してみても差異が無い。歪んだペレットだけを集めて射出成形をしたサンプルについてTMAを計ってみても断面がきれいな丸形のペレットとの差異が無い、ということがある。
大切な注意として、TMAとTGA,DSCの3種類もしくは2種類のデータをそろえて比較したいときには、昇温速度を揃えて測定しなければいけない。
この3種の分析装置で昇温速度を揃えてデータ収集する場合には10℃/minの昇温速度が良いのではないか。
但し、DSCについては一般に20℃/minの条件が推奨されている。TGAでは、2から5℃/minの昇温速度が推奨される。
先に述べたように昇温速度は熱分析で得られる曲線の形状に影響を与えるので、運用にあたっては注意する必要がある。
カテゴリー : 高分子
pagetop
高分子材料のDSC測定で生じるTg曲線の昨日のような変位が現れるのを避けたいならば、DSCの昇温速度を変えて期待通りのTg曲線が得られるように条件を探す作業が必要になる。
このような変位以外に、現れるはずのTgが観察されない、といった現象も時折発生する。この現象では、Tgが現れる直前のところで昇温をいったん止めてその温度で2-5分程度保持後測定を開始すると、きれいなTg曲線が現れる。
これは、アニールと同じ効果を応用したDSC測定のコツであるが、なぜか分析関係の教科書に書かれていない。
やや胡散臭い方法に思われる方もいるかもしれないが、測定データについて不安がある時には、複数の試料を計測してTg曲線の異常の原因を探る必要がある。ただ、混練の実務でこの努力の優先順位は低い。
TGA同様にDSCを用いて動力学的解析を行うことが可能である。例えば結晶化速度の評価にDSCを使用できる。
ちなみに、無機材料の結晶成長に関する速度論では、結晶成長機構が多数存在するので速度式の解析は複雑になるが、高分子では核生成を仮定したアブラミ式だけが知られている。
これは、球晶の生成機構が必ず核の生成を伴うからである。すなわち紐の一部が局所的に規則正しく並び、そこから結晶成長が始まる。
そしてラメラが生成し集合体となり球晶となる。あたかもラメラの生成と球晶への成長との二段階で進んでいるかのように思える。
無機材料で一段階の結晶成長機構について速度論的解析を行うと、80%以上成長する領域までうまく解析できる。
ちなみに、高分子と同じように核生成機構で結晶成長が進行するシリカ還元法のSiC生成機構解析では、95%前後の結晶成長までグラフは直線になっていた。
ただし、高分子のこのようなグラフでは、30%過ぎたあたりからずれてくることもある。ここまでの指摘にとどめる。
カテゴリー : 高分子
pagetop
DSCの測定装置の試料室には、独立に制御されるヒーターが3組存在する。
Aのヒーターで、Bのヒーターの上に置かれた試料(アルミナ粉と混ぜ合わせるとよい)とCのヒーターの上に置かれた参照試料(一般にアルミナ粉を用いる)が常に同じ環境で加熱されるように設計されている。
Aのヒーターで炉の温度が制御されているときに試料に熱的変化が無ければ、チャートに変化は現れない。しかし、試料が吸熱的変化をした場合には参照試料との間に温度差が生じないようBのヒーターで試料を加熱する。
この時チャートには吸熱側へヒーターに流れた電流変化が現れる。試料が発熱的変化をした場合には、同様の動作として参照試料側のヒーターCに電流が流れそれがチャートに発熱変化として記録される。
測定結果の概念図を描けば、結晶化温度(Tc)と融解温度(Tm)は、それぞれ相転移に伴う熱量変化を示し、ガラス転移温度(Tg)は、単なる比熱変化によるベースラインの移動現象として記録されている点に注意してほしい。
なお、Tgについては、試料の熱履歴とDSCの昇温速度との関係で、吸熱ピークが現れたりする。まず、DSCで測定されたTgにこのような現象が生じる理由を説明する。
徐冷ガラスあるいは急冷後アニールされたガラスでは、昇温した時に、徐冷ガラスのT-V曲線に従い体積は膨張してゆく。
この時、溶融状態から冷却した時のT-V直線との交点や、さらに急冷ガラスのガラス転移温度よりも高い温度で急激に体積膨張し、溶融状態のT-V直線に合流する。
この急激な体積の増加では、徐冷あるいはアニール処理により生成した安定な構造を壊すために過剰な熱が必要になり、高い温度でガラス転移を起こすことになる。
カテゴリー : 高分子
pagetop