科学者は科学という哲学を頼りに仕事をしているが、技術者は第六感も含めたすべての感覚を働かせながら自然を眺めている。この時必ずしも科学という哲学は必要ではない。
科学者と技術者とがコラボした結果、うまく発展している分野がある。高分子である。当方が大学で高分子を学んだ時に一次構造、すなわち分子レベルの構造が重要と習った。
また、高分子の歴史的認識において、その分子の大きさが着目されてきたこともあり、ノーベル賞を受賞したフローリーの研究もずばり高”分子”に関する基礎研究であり、実用性の乏しい研究成果だった。
この一次構造に対して高分子の塊として現れる現象や機能性については、おおざっぱにとらえられて高次構造と呼ばれていた。
DNAの二重らせんを二次構造と呼ぶ科学者もいたが、当時はこれも高次構造の一つとして扱われた。
研究の着眼点として高分子を階層的に取り扱おう、という動きが出てきたのは技術者からである。技術者が高分子の機能と高次構造の関係の重要性に気がつきアカデミアへ相談するようになったのである。
当方が社会に出た1980年前後のころ、企業の技術者はすでに高分子を階層的にとらえていた(注)。アカデミアでは一次構造と高次構造だけであったが、技術者は、高分子材料物性の細かい機能性を取り出す必要性から、自然とその階層性を問題にしなければいけなくなった。
このモノの見方にアカデミアが飛びついたのだ(注2)。2000年の精密制御高分子プロジェクトや、20世紀末に行われた土井プロジェクトは高分子の階層性について一定の成果を出した重要なプロジェクトである。
高分子物理は、多少のおおざっぱさをその論理に認めつつ、素粒子物理とは少し異なる哲学で発展している科学として稀な分野である。
一方技術者は高分子物理の科学体系がうまくできていなくても自然を経験知や暗黙知で階層的に眺めることにより、上手に機能をそこから取り出すことに成功している。
(高分子科学は技術を科学が追いかけている状態だ。当方の開発したカオス混合機の機能については、いまだに科学で説明できない。しかし、この装置を使うとポリマーアロイをナノオーダーで美しくできる。当方が自然現象眺めていたのは科学という哲学とは異なる方向からで、それを具現化したのがこの装置である。)
恋は人を盲目にして既婚者も独身者も区別せず許される、というのが瀬戸内寂聴氏の見解であるが、仏教も科学同様の倫理と異なる哲学なのだろう。倫理という人の自由を束縛する考え方を排除しているのかもしれない。
高分子科学者はその昔、素粒子物理学者と同様に高次構造を区別せず細かくなる方向で眺めていた。しかし、40年ほど前まで一次構造を重要と言っていたことを忘れ、今はその階層性に心をときめかせている。
(注)当方の新入社員時代に担当した樹脂補強ゴム(一年間のテーマだったが)では、最も高次の構造は、ゴム相で島が形成され樹脂相で海となっていた海島構造が観察された。さらにその下位の構造として樹脂の結晶性が物性を支配していた。さらにゴムの架橋密度も他の力学物性に効いており、この階層性と機能の関係が商品設計の重要なツボであり、これを3ケ月でまとめた。指導社員は大変優秀な人で午前中座学で形式知の伝承を、午後は実技で経験知の伝承という指導方法だった。指導社員は定時退社される人だったので、翌朝までは自分の暗黙知を蓄積する時間となった。
(注2)セラミックスフィーバーで固体物理の分野が急速に発展した。強相関物質という概念が誕生し、これを高分子に応用した、という説もある。しかしセラミックスと高分子の両者の研究をしてきた立場から見ると、固体物理の強相関物質という分野をご存じない先生もおられる。それゆえ科学という哲学の視点よりも技術者の影響が強いと思っている。
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ゴム練りをやっているときに、フェノール樹脂とポリエチルシリケートのリアクティブブレンドを思いついたのだ。ただ、その時はそのようなことを言えない。ほかのことを考えながら仕事をしていたのか、と叱られるのがおちである。
ほかのことを考えていたわけでなく、何も考えず言われたことだけ素直に作業していた(注)ので、思いついたのである。肉体は動いていたが、頭など働いていなかった。天秤でゴムを秤量し、バンバリーを運転するぐらいは、無意識にできた。だから、便利に使われていたことも理解していた。
自分の仕事だけが唯一ゴム会社に貢献している、と思いあがった年上の研究者は、上司も通さず、その自分の職位のパワーで便利な当方を時々小間使いとして使っていた。ただ、そのおかげで、いくつかアイデアが生まれていたので、煩わしいと思っていても手伝っていた。
ゴム練りをテーマとして担当したのは3ケ月しかないが、このような小間使いをやっていたおかげで、スキルだけは上がっていった。
さて、リアクティブブレンドのアイデアは生まれたが、フェノール樹脂の難燃化プロジェクトの仕事として実施する時間は無かった。ゆえにプロジェクトが終了した時に、余った原材料の片付け仕事を率先して申し出た。
余ったフェノール樹脂や検討に用いた触媒の処理のために一日とり、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂の反応条件を調べながら、失敗した反応物を次々とごみ袋へ廃棄していった。このような実験は気楽である。ごみ処理過程で高純度SiCの前駆体反応条件の手掛かりが見つかっている。
(注)転職するきっかけとなった電気粘性流体の増粘問題の仕事では、お手伝いではなく、その問題解決が主の仕事になるといわれた。高純度SiC事業立ち上げのため住友金属工業とのJVを検討し始めていた時である。さらに、電気粘性流体はゴムに封入して用いるので、ゴムに配合剤が入っていなくても耐久性のあるゴムを開発するのが当方の仕事だという。
経験知から判断して不可能と思われた仕事なので、人事が発令される前に問題解決しようと一晩で問題解決できる界面活性剤を見つけた。あとから知らされたのだが、増粘問題は界面活性剤では解決できない、というマル秘の報告書が提出されていた。一年ほど検討されたらしいがプロジェクトにとってあまりにも致命的な結果なので研究所内にその結果は知らされていなかった。
界面活性剤で問題解決できたのだが、やがて上司となる方が、界面活性剤ではまずいから第三成分と呼びなさい、と言われた。配合剤の入っていないゴム開発という非常識なテーマから解放され、第三成分による電気粘性流体の増粘問題解決がテーマとなった。一応第三成分とその後の会議では言っていた。しかし、研究所内の発表会では、過去の報告書をマル秘という理由で見せていただいていなかったため、第三成分すなわち界面活性剤で問題解決した、と丁寧に説明してしまった。
それから不可思議な事件が起き始めたが、住友金属工業との高純度SiCのJVが立ち上がり、一人で二つの難度の高い仕事をしていたので、雑事を無視して真摯に仕事に邁進していた。当時新婚ほやほや状態で、何があっても幸福感という状態だったのが良くなかったのかもしれない。
今から思えば定時退社でありながらよくあれだけの業務をこなせたと感心している。電気粘性流体の第三成分による実用化と高純度SiCのJVの二つの仕事を一人でこなしていた。また、高純度SiCの研究について役員からの指示で学位論文にまとめていた。
会議では基礎データが不足している点を指摘する人が大勢いたが、新しく上司になられた方がたった一人の部下をかわいがってくださり、会議の場ではそれらの批判をうまくかわしてくださった。
基礎データなどとる時間は無かったが、実用化に向けて毎日着実に進歩し、さらに電気粘性流体用難燃性油や高性能電気粘性流体用粉体3種の構造理論と実際、などという怪しいテーマ提案をしていた。どこが怪しいのかというと、突然変異的に、それまで存在しなかった高い性能で機能するすぐに実用化できそうな電気粘性流体が会議の席で提示されたのである。
これは電気粘性流体実用化プロジェクトの会議でありながらその基礎研究に重点が置かれ、なかなか実用に耐えうるモノが見えていなかったので、会議の方向を変えるため当方が頭に思い描いた構造の物質を作って見せたのだ。2億4千万円の先行投資でスタートした高純度SiCの技術は、当時先端素材をすぐに作り出せるレベルまで上がっていた。
実際に出来上がったモノ(製品)を示していたので、基礎データが無い点を指摘する人はしだいに減っていった。
実際にモノを示していたので、一部の科学者が行うようなデータねつ造など不要であった。技術では実際に再現よく機能するモノが必要なのだ。美しい理論ではない。
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昨日の続きだが、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂とのポリマーアロイについて合成条件を探索する仕事は、サラリーマンを続けるためにあきらめなければいけない妄想だった。無機高分子でフェノール樹脂を変性するアイデアは、当時特許も公開されていない画期的アイデアだったが、フェノール樹脂発泡体の開発は、このポリマーアロイの検討を計画からはずし、常識的な手段で実用化している。
この仕事を担当していたある日、終日他の人の仕事のお手伝いをすることになった。企業の若手研究者は、ときどきこのように小間使いとして使われる。ここで嫌な顔をしていてはサラリーマンとして失格だ。
他の人の仕事の手伝いなので何も考えなくてよいメリットがある、ぐらいの気持ちは許されると考えた。ここで、つまらない仕事を手伝わされている、自分だったらもう少し気の利いた方法でやるぞ、などと考えるようではいけない。ひたすら頭を空っぽにして手伝っておれば、依頼した側は、それで満足している。
学生時代ならば、このような依頼に対して一言二言言っていたが、社会に出て半年もすればそのような言動は、例え有益なアドバイスであっても嫌われることを自然に学ぶ。いわゆる忖度などということよりも、せっかく良いアイデアが浮かび、相手にとってメリットのある一言であったとしても、その後自分が傷つくむなしさを味わいたくないだけである。
年を重ねた今、当方のアドバイスでうまくいったかもしれない仕事が幾つか思い出され、どうせお手伝いだからと黙って失敗する仕事を手伝っていたのは少し不誠実だった、と反省したりする。
その現象が起きるメカニズムを理解すれば、用途が限定されるつまらないデバイスと思っていた電気粘性流体の増粘問題が起きたときに、高純度SiCの事業化を進めていた当方にお手伝い仕事が回ってきた。この時は早く仕事を片付けたかったので、お手伝いを頼まれてすぐに問題解決した結果、FDを壊されたような経験をしてもこのような気持ちになれるのは、ドラッカーが著書で述べている「貢献」の意味を本当に理解できたからかもしれない。
しかし、当時は社会で身についたわずかに素直さの欠けたこのような態度が、頭を空っぽにする機会を作りアイデアを生み出すのに役だっていたのかもしれない。一言二言言いたくなる自分を押し殺すために何も考えず、ただひたすら他人の仕事を手伝う時間は、当方にとって脳の休息時間だったのだろう。
バンバリーでゴムを練っていた時に、危険作業という理由でその作業に注意を払っていたが、それは職人のように身についた自然な行動であり、頭の中は全くの空っぽになっていた。すなわち、ほかのことを考えていては危険なので、作業以外のことを考えていなかったが、その作業は定常作業だったので脳を働かせる必要はなかった。
このような状態で、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂をリアクティブブレンドするアイデアが突然ひらめいた。アイデアと無関係な他人の仕事を手伝っていて、失敗もしていないのに突然「あっ!」と叫んだものだから、手伝いの依頼をした人はびっくりしていた。実験室では大きな声を出してはいけない。
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高純度SiCの前駆体は、フェノール樹脂とポリエチルシリケートとのポリマーアロイである。このポリマーアロイは、有名なフローリー・ハギンズ理論に反するブレンド物だ。すなわちこの理論によれば絶対に混ざり合わない組み合わせである。
ゆえに高分子の形式知を重視する優秀な科学者は、絶対に思いつかないアイデアであり、もしそのアイデアが、成功したりしたら、嫉妬にとどまらず恨みまで買いそうなキワモノ技術となる。実際にこの発明やその他形式知にとらわれないアイデアの成功でFDを同僚の研究者に壊されている。
この発明の原点は、フェノール樹脂発泡体の難燃化技術開発である。フェノール樹脂発泡体は、特定の反応条件で合成すれば、それ自身で高い難燃性を有する材料である。しかし、製造技術が無い場合には、LOIが21前後の発泡体しか得られず、かろうじて自己消火性を示す材料しか得られない。
開発スタート時に、無機物質とのハイブリッドにすれば、ハイブリッドの製造条件を満たす限り高い防火性を兼ね添えた発泡断熱材になるのではないかと考えた。ただ、これはひらめきではなくて、当方が無機高分子研究会の運営委員を当時担当していたので、その研究会の発表ネタとして考えた企画である。
詳細は省略するが、この時は、可能性のありそうな無機高分子を手当たり次第でフェノール樹脂と混ぜてみて、フェノール樹脂と無機高分子の両者の良溶媒存在下で混合すると均一に混ざることを見出した。ただし、これは両者のSP値が一致している高分子を混ぜているのでフローリー・ハギンズの理論通りの結果である。
ただ、得られたポリマーアロイは高い防火性と力学強度の優れた材料となった。しかし、製造プロセスは多段階となり、さらにジオキサンを用いていたので、実用化できるプロセスではなかった。その結果、無機高分子研究会で発表するための研究となった。
実用化できない材料ではあったが、水ガラス抽出物とフェノール樹脂とのポリマーアロイはケイ酸とフェノール樹脂が分子レベルで混合された魅力的な構造をしていた。だからこれを何とか経済的なプロセスで合成できないか、と考えるようになった。「君の名は」と問いたいが、初対面ではなかなか言い出せない、そんな気持ちと通じる、毎日が悶々とした欲求不満状態だ。
ポリエチルシリケートとフェノール樹脂との組み合わせが一つの正解だ、とわかっていたが、形式知であるフローリー・ハギンズ理論が邪魔をして、第一線を越えられないのだ。とりあえず形式知を総動員し、無機高分子研究会発表データを得るために水ガラスからケイ酸を抽出する実験を繰り返してみた。
抽出物を安定化する有機溶剤とともにフェノール樹脂と混合し、有機溶剤を真空蒸留で取り除き、同時に発泡体に仕上げる技術は、実用化は難しいが、面白い材料を生み出した。しかし、実験をやりながら、ホスファゼン変性ポリウレタンフォームの開発で始末書を書かされたことを思い出した。欲求不満の上に、これをテーマ提案した時に受けるパワーハラスメントが頭に浮かんだ。
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高分子材料の中には、耐熱性が高く難燃性の優れた高分子が存在する。例えばPPSは難燃剤を添加しなくても空気中では自己消火性を示す。ゆえに電子機器に普及している。
耐熱性が高ければ難燃性も優れているかというとそうではない。耐熱性が優れていても可燃性の高分子が存在し、さらに基本的な骨格(一次構造)は難燃性がありそうに見えても製造プロセスにより高次構造が変化すると一気に燃えやすくなる高分子も存在する。
例えばフェノール樹脂は、硬化触媒の種類や製造条件で、LOIは30以上から19前後まで変化するから要注意の高分子材料だ。
40年近く前、初めてレゾール型フェノール樹脂発泡体を合成してびっくりした。ポリウレタン並みによく燃えたのだ。しかし、熱分析すると窒素中の耐熱性は高い。空気中の耐熱性はポリウレタン並みである。
自主研究でいろいろと調べ、ある結論にいたり、フェノール樹脂とポリエチルシリケートの相溶した高分子を発明したのだが、これは高純度SiCの前駆体として発展した。
小生が講師をする高分子の難燃技術の講演会では、これまでこの周辺技術を話してこなかったが、次回の講演会ではフェノール樹脂の難燃性について経験知としてお話する。論文にも公開されていない話である。
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2月13日に高分子難燃化技術に関する講演会(弊社へお申し込みの場合には参加費30,000円)を行います。詳細は弊社へお問い合わせください。経験知伝承が第一の目的ですが、形式知の観点で整理したデータも使用します。形式知のデータは、30年以上前高分子学会や無機高分子研究会、高分子の崩壊と安定化研究会で発表した内容です。経験知につきましては、中国ローカル企業を指導しながらその再現性を確認した結果で、樹脂の混練技術も講演会の中で説明致します。高分子の知識が無い技術者でもご理解いただけるよう、テキストには初心者用の説明も付録として添付します。形式知よりも経験知の進歩が著しい分野です。
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高分子に難燃剤を添加するときに問題となるのは、その分散状態だ。直感的に考えて理解できるように難燃剤の分散が不均一であると難燃剤の機能発揮の効率が悪くなる。
具体例を示すとポリエーテル系軟質ポリウレタンでは、塩ビと三酸化アンチモン微粉をポリエーテルポリオールに分散させて使用する。この時、ポリエーテルポリオールにうまく分散できたとしても、工程で沈殿する問題がある。
沈殿を防止するためにポリエーテル系ポリオールのタンクの中では、ノウハウが必要な攪拌が行われている。この攪拌がうまくゆかないと、所定の処方で自己消火性の発泡体が得られない。
分散がどの程度影響するのか調べたことがある。分散状態の数値化が難しいので、ポリエーテルポリオールに塩ビと三酸化アンチモンを添加して攪拌時間を変えた実験を行い添加量の影響を調べた。
およそ5wt%程度の違いがあった。すなわち分散時間が長いほうが添加量が少なくてポリウレタンを難燃化できたのだ。同様に、ホスファゼンと呼ばれる化合物に反応性の基を導入して反応型難燃剤として用いたときと添加型で用いたときと調べてみた。
こちらは5-10wt%程度の差が現れた。反応型のホスファゼンのほうが少ない添加量でポリウレタンを難燃化でき、難燃性能のばらつきも小さかった。
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高分子にはポリフェニレンサルファイドのように空気中で燃えにくい材料もあるが、多くの高分子は空気中で燃える。
高分子の燃えやすさを材料の燃焼雰囲気における酸素濃度で指数化したLOI(極限酸素指数)で表現したときに、この値が21以下の高分子は一度着火すると長時間燃え続け、材料をすべて燃やすまで燃焼が止まらない。
炎が小さいと火が消えることもあるので、LOIも含め各種燃焼試験法では着火するときの炎の大きさを規定している。
高分子材料を各種燃焼試験に通過できるよう変性する方法には、1.燃焼面を炭化促進する方法と、2.燃焼熱で材料を溶融させ火を消す方法が知られている。
2の方針で設計された材料は、LOIが21以下でも、空気中で火が消える。しかし、1の方針の場合には、難燃剤を添加してLOIが21を超えるように材料設計する必要がある。
いずれの方針にしても形式知では扱いにくい。例えば、リン原子の含有率とLOIとは、注意深い実験を行うと良好な線形性が観察されるが、実験者によりその傾きが変化したり、ひどいときには線形性が観察されないこともある。
これらのばらつきや再現性の問題は、経験知としてプロセシングの問題が大きいと考えている技術者は多い。プロセシングを十分に管理し、データをとると、リンの含有率とLOIとは、LOIが21以下の領域で極めて高い相関を示す。
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三酸化アンチモン微粉と塩ビ粉の難燃剤システムには、軟質ポリウレタン発泡体に使用したときに難燃剤が沈殿する問題があった。これ以外に、分散不良であると難燃性能が著しく低下するという扱いにくいシステムだった。
当時セラミックスフィーバー直前であり、セラミックス粉体の微粉化技術が進歩していた。三酸化アンチモン超微粉や表面処理した微粉などの売り込みがあり、当方はそれらを評価する担当だった。
この時面白い現象を発見した。三酸化アンチモンの粒径に難燃性能が依存し、さらに粒径が小さくなりすぎると難燃性が低下するという現象である。
この現象は、粒径が小さくなりすぎると凝集しやすくなり、その凝集体が一度できると工程で採用されているような分散システムで再分散できないからと説明可能だが、超微粉を塩ビ粉と前処理したりして凝集粒を小さくする努力をしてみても、データに影響は無かった。
このシステムについては、ハロゲン系化合物についても検討を加えた。フッ化ビニリデンとの組み合わせには難燃効果が現れなかったが、低分子臭化物との組み合わせ効果は塩ビ並み以上の効果が観察された。
1990年代に臭素系難燃剤が数多く登場しているが、三酸化アンチモン粉と組み合わせることで高い難燃効果が得られる。また、塩ビ粉のように沈降の問題も無い。
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アンチモンとハロゲンの組み合わせ難燃剤システムが最強と武田先生はその研究から結論を出されている。しかし、軟質ポリウレタン発泡体では1980年代に、アンチモンとハロゲンの組み合わせシステムが新技術に置き換わっている。
1970年代のゴム会社で販売されていた難燃性軟質ポリウレタン発泡体には、三酸化アンチモン粉と塩ビ粉が難燃剤システムとして使用されていた。この技術はGT社から導入された技術で、ポリオールにそのシステムを分散した材料をGT社から購入していた。
このシステムは、当時販売されていた難燃性軟質ポリウレタンの分野で最も優れた技術と評価されていた。ただし、塩ビ粉や三酸化アンチモン微粉を用いていたので、製造プロセスでこれらが沈降する問題を抱えていた。
プロセス適性に問題はあったが、商品物性のバランスが良かったので1980年代に新技術が開発されても一部の商品で使われていた。後日説明するが、1980年代に開発された新技術とは、燃焼時にガラスを生成して難燃化する当方の発明した技術である。
この技術は、以前この欄で紹介しているが、新技術でありながら、特許出願してすぐに学会発表されている。今から考えると少しもったいない発表のタイミングであったが、このおかげで、当方は高分子の難燃化セミナーにたびたび招待されるようになった。
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2月13日に高分子難燃化技術に関する講演会(弊社へお申し込みの場合には参加費30,000円)を行います。詳細は弊社へお問い合わせください。経験知伝承が第一の目的ですが、形式知の観点で整理したデータも使用します。形式知のデータは、30年以上前高分子学会や無機高分子研究会、高分子の崩壊と安定化研究会で発表した内容です。経験知につきましては、中国ローカル企業を指導しながらその再現性を確認した結果で、樹脂の混練技術も講演会の中で説明致します。高分子の知識が無い技術者でもご理解いただけるよう、テキストには初心者用の説明も付録として添付します。
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1980年前後は、高分子の難燃化技術の体系化が進み始めた時代である。しかし、日本のアカデミアの関心は低く、もっぱら欧米の研究成果が目立っていた。日本では高分子学会内の高分子の崩壊と安定化研究会と無機高分子研究会で難燃化研究のテーマが扱われていた。そのため、高分子の難燃化技術の体系化は、各企業の研究開発の努力に依存していた。
アカデミアの先生の中にも難燃材料に造詣の深い先生はいらっしゃったが、その先生曰く、アカデミアでは扱いにくい分野という発言をされていた。その先生は、難燃化技術の体系化された著名な書籍を翻訳されていた。
その後、名古屋大学武田先生がこの分野の研究を始められ、中部大学に移られても続けていた。そしてハロゲンとアンチモンの組み合わせを越える効率の良い難燃化システムは無い、といった一つの結論を出されている。
1980年代のアメリカではUL規格が普及し始め、日本ではLOIがJIS化されたりと評価技術の進展はみられたものの、欧米ほど積極的な科学的研究は武田先生が登場するまで成されていない(建築研究所が建築規格を策定するための研究は成されていて、若かった当方もそのお手伝いに駆り出された)。
武田先生の出された結論は、1980年前後に企業の研究者達が経験知(ポリウレタン発泡体では1970年頃に塩ビと三酸化アンチモン粉末を用いたGT処方が注目された)として蓄積しており、研究開発の中心は環境対応のノンハロゲン系難燃化システムへの関心が高まってきた。
この環境対応のノンハロゲン系難燃化システムへの関心は、1990年代に環境関連法案が次々と成立していた時期と重なり、環境技術の流れの中で取り上げられることが多いが、実は1980年前後から建築火災における有毒ガスの問題としてクローズアップされていた。このときハロゲン系の難燃剤の問題として刺激性の高い燃焼ガスが発生する問題が指摘されている。
また、欧米でもハロゲン系難燃剤の発煙や煤発生量が指摘されており、ノンハロゲン系難燃剤研究の潮流ができあがり、ホスファゼンが新素材として扱われオールコックらの研究が当時注目を集めている。
欧米の論文を読んでいて感心したのは、ノンハロゲン系システムを探索するために様々な化合物が難燃剤として検討されたことである。そしてアラパホ社が開発した簡易煙量測定器は、ホスファゼン系難燃剤の優れた性能を容易に証明できる評価装置だった。
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