PPSの溶融状態については奇妙な現象が観察された。二枚の円盤に樹脂を挟み、粘弾性の温度変化を調べる実験を行ったときの体験。
樹脂を円盤に乗せて300℃の温度をかけて溶融する。溶融したことを確かめて温度を低下させながら粘度特性を観察した。このとき300℃における溶融時間を変えると異なる粘度特性のデータが得られたのだ。
すなわち、円盤の上で溶融状態になってもさらに長時間300℃で保持してやると、どんどん粘度が下がるのだ。みかけはそれほど変わっていないが、粘度特性だけ変化している。すなわち、未溶融状態の物質が存在しているかのような挙動を示す。
PPSと6ナイロンを二軸混練機で混錬したコンパウンドでも同様の現象が観察されるが、これがカオス混合を行ったコンパウンドでは観察されなくなる。
高分子学会賞の審査会でもこのデータを示したが、おかしなデータとされた。当方は、相溶が進行した結果の証拠として示したつもりだったが、6ナイロンとPPSの相溶はフローリーハギンズの理論では否定される現象だ。
科学で否定される現象のため信用されなかった、と言えばそれまでだが、その後コンサルティングで同様の実験を中国企業で確認させたが、やはり再現した。STAP細胞はその再現が難しく騒動になったがカオス混合の結果については再現性のある技術的結果である。
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混練は剪断流動と伸張流動で進行し、ナノオーダーの高次構造制御には伸長流動が有効である、として考案された装置は伸長流動装置である。
ウトラッキーの発明によるこの装置の問題点は生産性が悪い点である。ウトラッキーのアイデアを参考に二軸混練機の先にお弁当箱ぐらいの装置をつけて行うのが当方の発明によるカオス混合装置である。
ウトラッキーのアイデアでは鋭利なスリットを通過する時に発生する伸張流動を利用して混練を進めようとした。
これに対して、当方の発明は平行なスリットに樹脂を流動させて、このスリット壁面近傍で発生する剪断流動と中央部の急激な伸長流動、そしてスリットの10倍以上の空間へ押し出されたときの樹脂の折れ曲がりを利用してカオス混合を行う仕組みである。
この平行スリットのアイデアは、乳化分散装置にも転用可能で、この特許が出願されてから、構造を特殊な形に設計した乳化分散装置の特許がいくつか公開されている。
平行スリットは、ややカーブをつけて非平行とすることにより、より機能しやすくなる。この発明も同時期に特許出願されている。量産には、非平行スリットが有利でその設計についてはご相談ください。加工業者も含め技術周辺情報を提供させていただきます。
カオス混合は、ゴム会社へ入社したときに指導社員から混練技術について伝承されたときに、それを実現するのが当方の宿題とされた。30年考えいくつか実現手段をメモっていたのが、PPSと6ナイロンの混練で役立った。
本来はゴム会社でその技術が生まれるはずだったが、当方は高純度SiCの事業化に邁進したためにしばらくそのアイデアを練る時間が無かった。しかし頭の中では十分に練りこまれ、混練の基盤技術のかけらもない写真会社で実用化する機会が訪れ、アイデアが具現化された。
非科学的な発明というものの面白さである。科学的な発明であれば、このような頭の中でアイデアを長時間寝かせている間に誰かが実行していた可能性が高い。ところがシンプルなスリット構造で混錬ができると科学的に考えられる人はいなかったと思われる。
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PPSと6ナイロン(例えば10wt%前後)をPPSの融点以上で混練すると、溶融したPPSと6ナイロンの粘度差が大きい状態で剪断流動あるいは伸長流動を生じる。
その結果、EFMかL/Dが大変大きな二軸混練機を用いない限り、6ナイロン相の島相を小さくできずに大きなサイズの高次構造となる。このコンパウンドを用いて押出成形を行うとやはり6ナイロン相の大きな島相ができたフィルムとなる。
スクリューセグメントを工夫すればこの組成を260℃前後という低い温度で混練可能である。PPSという樹脂をご存じの方はこの話を聞くとすぐに「ウソだ」と言いたくなるらしい。某発表会の席で混練条件を説明したときに、非常識にも「ウソだ」と一言言われた。
しかし、この温度領域で10年近く実際にコンパウンドを製造しているメーカーも存在し、そのコンパウンドの分子量分布を計測してもGPCレベルで分子量の低下は起きていない。
当方がこのような低い温度で混練することを思いついたのは、バンバリーの運転で剪断混練がうまくいったからである。その実験を行った動機はなぜ樹脂は融点以下で混練を行わないのだろう、という素朴な疑問からである。
このような低い温度領域で混錬すると剪断流動でも6ナイロン相のサイズを少し小さくできる。この温度領域でも二成分の粘度差は大きいはずだが、PPSが溶融した状態よりも小さいために混練が進み小さな高次構造となる。
この状態でカオス混合装置へ通過させるとPPSと6ナイロンが相溶して単一相となる。本日の内容について質問のある方は弊社へ問い合わせてただきたい。
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PPSと6ナイロンの2成分系で混練を行うと、少ないほうの成分が島となる。不思議なことにバンバリーで混練したときに二軸混練機で同様の組成を混練した場合に比較して島が少し小さくなるのだ。
但しこれはバンバリーの運転条件にもよる。バンバリーの運転は経験知と暗黙知により、最適条件が左右される、ノウハウの部分が大きいプロセスである。
バンバリーには基本的な運転方法が存在する。しかし二軸混練機に比較してかなり自由度の高い混練プロセスである。ロール混練プロセスも同様であり、バンバリーとロールで混練を行う加硫ゴム技術はノウハウの有無がその製品性能を大きく左右する。
二軸混練機を用いたときに、融点以下の温度条件で混練するとバンバリーに近い自由度が生まれる。高分子学会賞の審査会で企業審査員の発言を聞いて驚いた。融点以下で樹脂を混練すると必ず分子の断裂が起きると信じている人がいる。
融点以上で混練していても分子の断裂は起きているのである。また融点より低い温度条件ではスクリューセグメントの工夫をしない場合に分子の断裂は激しくなるかもしれないが、スクリューセグメントのデザインさえうまく行えば、混練前と混練後で分子量低下はほとんど起きない。
PETボトルのリサイクル樹脂を開発したときに特許調査を行ったところ、剪断混練と称して、リサイクルPET樹脂をPETの融点以下で混練する技術に関する特許が開示されていた。
このような特許が成立する背景を考えると、樹脂の混練を融点以上で行うことが常識であり、融点以下で行うのは驚くべき技術と言うことになるが、ゴムでは昔から融点以下で混練が行われてきた歴史がある。
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PPS・6ナイロン・カーボンの3成分をそのまま同時に投入して二軸混練機で混練するとPPS相と6ナイロン相にカーボンが分散したコンパウンドが得られる。
このコンパウンドを用いて丸ダイで押出成形を行うと、コートハンガーダイではウェルド部の抵抗が大きく変動する。また金型の温調がうまく制御されていなければ、ウェルド部以外も抵抗が変動する。
これは導電性微粒子の分散で問題となるパーコレーション転移という現象のためで、それを制御できる技術を開発しない限り、周方向で抵抗が安定したベルトを製造できない。
あらかじめ6ナイロンにカーボンを二軸混練機で分散し、その後PPSを投入すると6ナイロン相の島にカーボンが分散し、PPSにほとんどカーボンが分散していないコンパウンドを製造可能である。
但し、このコンパウンドを用いてベルトを製造すると周方向の抵抗を安定化できるが紙のように脆いベルトとなる。
バンバリーを用いても同様のコンパウンドを製造可能で、二軸混練機との違いは、6ナイロン相だけに選択的にカーボンを分散させることが可能である点と、カーボンが分散した6ナイロン相の島が少し小さくなる現象である。
このコンパウンドを用いても紙のように脆いベルトしか得られない点は、二軸混練機の場合と同様である。
このように混練機をうまく使い分けると高次構造を制御可能である。しかし、既存の混練機ではその制御可能な範囲に限界があるので新技術の開発が必要になった。
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PPSと6ナイロン、カーボンの3処方を混練し、外部のコンパウンダーよりも高性能で高品質のコンパウンドを製造する技術は、半年で完成したが、10年近く生産に使用されトラブル0である。
高分子材料の開発では、いくら時間をかけても、また科学的に開発を進めたとしてもうまくいかないことがある。これは、科学で解明されている事柄がいろいろ制約のついた現象に限られているからである。
科学論文の中には、その実験以外では成立しない現象を論じているものも存在する。これは高分子材料に限らずセラミックスでも同様である。すなわち科学としては正しくとも実務では役立たない論文である。
一方で、学会では評価されていなくても実務の観点では涙が出てくるくらい感動する論文に稀に出会う。このような時に著者が日本人であれば直接お会いして話を聞くことにしている。
高分子材料に関する研究報告では、自分の実験結果しか信じない、と言われた研究者もいるが、もっともな発言である。研究のための研究という論文を読むと脱力感さえ生まれる。
カオス混合技術は、科学の形式知だけでなく経験知と暗黙知を動員した成果である。また、高分子学会賞や経産省の補助金申請で幾度も落ちた世間で信じてもらえない非科学的技術でもある。しかし実際の生産で順調に稼働している。
このような技術はAIで作り出すことはできない。人間の手だけで初めて作り出される技術だ。すなわち、AIの時代の技術開発では、形式知だけでなく経験知や暗黙知を如何にうまく活用してゆくのかが差別化技術開発のために重要となってくる。
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PPSと6ナイロン、カーボンのバンバリーによる混練は試行錯誤の繰り返しであったがPPSと6ナイロンが相溶したかもしれない、という現象を発見した。ただバンバリーでは量産化が難しいので二軸混練機をどのように使用したらよいのか、バンバリー作業をしながらあれこれ考えている。
たまたま無端ベルトの押出成形でPPSの金属音が消えている現象を不思議に思い、押出成形に着眼した話は以前この欄で詳しく書いた。これは単なるひらめきではなく、経験知による成果である。
バンバリーの運転と押出成形における疑問、さらに過去の経験がかさなりカオス混合装置の開発につながった。
外部のコンパウンダーに提案したアイデアが却下されるやいなや、単身赴任した日にたまたま転職してきた若者と成形現場で使えない職人の二名を車に乗せ、子会社のある袋井に豊川から通う日課が始まった。
カオス混合装置の開発は難しい仕事ではあったが、完成すれば半導体無端ベルトの技術を完成させることができ組織に大きく貢献できる。また転職したばかりの若者は事前に情報を何も持っていなかったのでこのような訳の分からない仕事に最適だった。
運がよかったのは、この若者に期待していなかった大変高い基礎学力があり、具体的な指示さえ出せば的確な解析結果が瞬時に出てきたことである。これには一緒に仕事をした職人の技が役立っていた。彼が若者の実験をサポートしたので、カオス混合装置の開発は順調に進んだ。
「すごいですね、本当に透明になった。大学の研究よりも面白い。」これは、カオス混合装置が完成したときに、PPSと6ナイロンだけを混練し出てきたストランドを見た若者の感想である。理学部の物理化学を専攻した若者には泥臭い仕事だったが、毎日が感動の連続だったそうである。
なお、この開発は小型の二軸混練機と中古で購入した大型二軸混練機の二台を用いて静岡と東京で行われた。すなわち、東京で生産ラインを組み立てながら静岡でその基礎データを集めるというコンカレントエンジニアリングで進められた。カオス混合技術ができるや否やコンパウンド工場の投資について経営陣に稟議書を回議している。
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PPSと6ナイロンのχパラメーターは正となるので、高分子の教科書に書かれていることが正しいならば、両者の混練物の高次構造は海島構造となるはずだ。
しかし、バンバリーを運転していて両者が相溶したように見えた瞬間があった。実験は仮説を設定して行え、というのは科学を重視した業務プロセスでは効率的で重要な姿勢である。
バブルがはじけたときにホワイトカラーの合理化が叫ばれ、実験について如何に効率的に行ったらよいのか、各企業でCTOが腐心し徹底し仮説に基づく実験を推進した会社もある。
ただしそこに落とし穴があった。すなわち科学で正しいと思われる現象だけを重視して技術開発が進められるようになったのだ。しかし高分子材料には未だ科学で否定されるが時々発現してしまう非科学的現象が存在する。
あたかもSTAP細胞のようなことが高分子の研究開発で起きる。理研のSTAP細胞の騒動では否定証明で結論が出され、STAP細胞は存在しないとされた。しかしその後ドイツの研究者からSTAP現象の報告がなされた。
科学的方法で技術開発すべき、という考え方を否定するつもりはないが、高分子材料の開発では非科学的方法も新しい技術を見つけるために重要だと思っている。
この欄で、電気粘性流体の増粘問題を科学で否定証明された方法、すなわち解決できない手段と結論された界面活性剤を用いて解決した事例を紹介しているが、科学という哲学で完璧に証明できたとしても、それに反する現象が現れたなら真摯にその現象と向き合う謙虚さが大切である。
このあたりはイムレラカトシュの「方法の擁護」にも書かれていない科学的思考法の盲点である。高分子材料の開発ではこのような科学的思考方法の盲点を知ったうえで科学を技術開発に適用しなければいけない。そして時には科学のなかった時代の技術者のような開発を試みて、新発見のチャンスを創り出さなければいけない。
PPSと6ナイロンを相溶させることに成功したカオス混合の発明は、ゴムの混練経験を基に生み出した成果である。科学的ではなく30年前の体験を懐かしく思い出しながら、時には情緒的な思考(注)を重ねヒューマンプロセスで開発している。
(注)PPSと6ナイロンでは溶融温度が大きく異なり、両者を溶融状態で混練する場合には、極めて粘度差が大きい高分子を練り上げなければいけないことになる。それをうまく実現できたコンパウンドメーカーR社の技術は、例えベルト用のコンパウンドを完成できなくてもコンパウンダーとして高いレベルにあったと尊敬していた。しかし、せっかくのアイデアの申し出に対して、「素人はだまっとれ」という謙虚さの無い態度では、お客も新しい技術や成功の機会も皆逃げてゆく。ドラッカーは誠実真摯であれ、とその著書でよく説いているが、マネジメントだけでなく技術開発を推進する当事者にとっても大切な心構えである。もし外部のコンパウンダーが適切に対応してくれたなら、当方が休日返上の過重労働をしなくても済んだのである。ただ貢献と自己実現を目標にかかげ努力した成功体験が過去に何度もあったので、苦労を楽しさとして味わうつもりで素人でも黙っていることができず行動した。苦しい仕事と予想されるなら、それを実行しようとする自分を褒めてやることが大切である。オリンピックの女子マラソンで二位となり、インタビューで「自分を褒めてやりたい」と発言した美人ランナーがいるが、本当の苦労の仕方を知っている人である。大変リスクが高いが自分以外は成功の可能性が見えていないという状況は人生で時々現れる。そのようなリスクの高い状況でも結果が組織に対して大きな貢献となるならばたとえ報われることが無くても、チャレンジすべきである。そのチャレンジしようとしている自分を、さらにチャレンジした自分を本当に褒めてくれるのは神と自分しかいない。周囲には成功したときに妬みすら持つ人がいるのが人間社会である。電気粘性流体や高純度SiCの事業化を成功に導きながらゴム会社から転職しなければいけなくなった状況を思うたびに美人ランナーの言葉の意味を考えてしまう。
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試行錯誤で見出したバンバリーの運転条件で混練されたコンパウンドは、PPSの海に浮かぶ6ナイロンの島とその島に偏在し分散するカーボンという高次構造の特徴があった。
そして、このコンパウンドを用いて無端ベルトを押出成形したところ周方向で抵抗のばらつきが極めて小さい半導体ベルトが得られた。ただしカーボンを抱きかかえている6ナイロン相のサイズはベルトの靭性に影響を与えるに十分な大きさだった。
中間転写ベルトの開発において問題となっていた周方向の抵抗ばらつきを無くすことに成功したが、紙のように脆い力学物性では実用化できない。ちなみにMIT値は100前後だった。
開発部隊メンバーの落胆は大きかった。このままでは開発の士気に影響するので、「今までできていなかったことがうまくいったので安心しろ、あとは6ナイロン相の島をPPSに相溶させてカーボンの凝集をソフトにすれば完成だ」とゴールの姿を示した。
しかしこれは高分子科学を無視したはったりだった。フローリー・ハギンズの理論によればPPSと6ナイロンが相溶する現象はSTAP細胞同様に非科学的な妄想に過ぎない。
非科学的な妄想かもしれないが、バンバリーを用いた実験でその非科学的現象を実現できる自信ができた。すなわち高剪断力で6ナイロンとPPSが相溶したように見えたのでロール混練あるいはカオス混合を行えば6ナイロンとPPSを相溶できると科学的根拠は無いが体験から得た自信があった。
科学的には否定される妄想になぜ自信を持つことができたのか。それは科学という哲学の限界を幾度も経験し、そしてその限界を超えて成功した体験をしていたからである。
ゴム会社で開発した高純度SiCの前駆体合成技術や電気粘性流体の増粘問題の解決、さらに写真会社では酸化スズゾルの導電性発現、ゾルをミセルに用いたラテックス重合技術など科学的アプローチでは成功できなかった仕事を非科学的問題解決法で成功に導いている。
科学でその姿を100%記述できていない高分子材料分野では科学に頼らない技術開発が時には必要となる。科学とKKDのバランスをどのようにとるかは重要で、科学バカの仕事のやり方ではAIの普及が近い近未来に技術者として生き残ることはできない。
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PPSと6ナイロン、カーボンをある条件でバンバリー混練したときに、押出成形でウェルドの出ないコンパウンドができた。
そのプロセス条件は、バンバリーで混練しながら考えた条件である。すなわちバンバリーで混練しているときの温度やトルク変化、混練物の状態などを観察しながら手探りで条件を探し見出した。
まさに心眼を用いたKKDによる条件探索である。まったく科学的ではないこの方法でたった一つだけのプロセス条件を見出すことができた。一日で見いだせたのでタグチメソッドよりも効率が良い。
科学の知識という形式知と経験という暗黙知をうまく組み合わせて開発を進める手法はAIの時代にコンピューターに負けない唯一の手法である。もし形式知だけで研究開発を行っているならば、その研究開発組織はAIですべて置き換えることが可能で、あとは作業者がおればよい。
AIに負けないためには暗黙知を如何にうまく育て継承し成果に結びつけるというマネジメントが重要になる。このあたりのマネジメントノウハウは弊社にご相談いただきたいところだが、バンバリー混練のコンパウンドには、科学の知識を中心に非科学的手順でくみ上げた処方ゆえに致命的な問題があった。
このコンパウンドの高次構造は、PPSが海となり6ナイロンが島となる相分離構造である。そしてその島の面積から推定される割合よりも多い6ナイロンが添加されていた。
すなわちフローリーハギンズの理論では相溶しないはずの6ナイロンが相溶していたのだ。また、カーボンはすべて6ナイロン相に偏在し、PPSの海にはまったく存在しなかった。
それは、科学に反する現象と科学的に当たり前の現象とが共存する問題だった。一番大きな問題はカーボンが偏在している6ナイロンの島が大きく硬い(注)ために紙のように脆いベルトになったことである。
<注>面積比率からカーボンが分散している6ナイロン相の体積分率を計算することが可能である。カーボンは今回のプロセス温度280℃以下で絶対に溶けないので全量電子顕微鏡で見えているはずである。6ナイロンはフローリーハギンズの理論に反するがPPSに相溶する場合もありうる。このような考え方で、カーボンの分散するナイロン相を考察すると、カーボンが55vol%ナイロン相に分散している、との計算結果が出た。
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