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2015.08/09 未だ科学は発展途上(19)

中間転写ベルトのコンパウンドは、その道の一流メーカーで二軸混練機によりコンパウンディングされていた。また、コンパウンディング条件も設計者の希望を満たすように設定して行っている、と語っていた。
 
そこで、6ナイロン相にカーボンがすべて取り込まれてPPSに分散しているコンパウンドを製造してくれないか依頼した。回答はすぐに来た。「そんな物は二軸混練機でできない」という。考えていることが当たれば面白い材料となるが実用性の無い材料であることが分かっていたので、しぶしぶゴム会社で獲得した実践知を活用して、某社から借りたバンバリー(注)で目標とするコンパウンドを製造した。
 
そのコンパウンドで押出成形を行いベルトを製造したところ、周方向の抵抗偏差が0.5桁以下という、電気特性についてはスペックを満たしたベルトを製造することができた。但し、6ナイロン相にカーボンが分散しているため、その相の弾性率が高くなった。
 
一般に、樹脂へ大きな硬い粒を分散すると脆くなることが知られている。もともと脆いPPSへそのような硬い相が分散したので紙のような脆い材料になってしまい、これでは電子写真の中間転写ベルトとして使えない。
 
電気的品質特性を満たすが力学的品質特性を満たさないベルトができた。これは技術の知の形態から想定内の実体であった。このベルトは商品として使い道が無かったが、中間転写ベルト開発の方針変更のためには大切なベルトだった。
 
このベルトについて、相談者と同様に電子顕微鏡写真を揃え、解析した。コンパウンド段階でカーボン粒子はすべて6ナイロン相に取り込まれていたので、導電相は6ナイロンの島の数だけ数えれば良かった。解析の結果、周方向のどこをみても6ナイロン相の島の数はすべて等しかった。すなわち、ウェルド部分が他の部分と同一高次構造になれば、ウェルド部分の抵抗も他の部分と等しくなるのである。
 
(注)ゴムのコンパウンドは、バンバリーとロール混練で製造されているが、樹脂のコンパウンドはその技術が誕生以来一軸あるいは二軸押出機が進化した連続式混練機(多くは二軸混練機)で混練されてきた。最近低コストのゴムは二軸混練機でも製造されるようになってきたが、樹脂をバンバリーやロールで混練することは通常行われない。後日解説するがこれは樹脂の混練技術について考える時に落とし穴のようなものである。バンバリーやロール混練技術はおよそ二世紀の歴史があるが、連続式混練機の歴史はその半分もない。最近トリッキーな二軸混練機の使用方法によるフィラーのナノ分散技術やポリマーアロイの権威故ウトラッキーによるEMFがようやく登場してきた。そして10年近く前に二軸混練機による当方のカオス混合技術(第一世代)が登場したのである。今この技術について第三世代の開発を行っている。

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2015.08/08 未だ科学は発展途上(18)

(昨日からの続き)相談者は、科学的に推論してペレットの材料設計を行い、そのペレットを用いてベルトの押出成形を行ったところ、科学的な材料の分析結果では期待通りの中間転写ベルトができていたが、品質特性は改善されていなかった、と説明した。
 
成形された中間転写ベルトの周方向の抵抗データを見せていただいたが、ウェルド以外は、抵抗偏差は小さかった。相談者も6ナイロンの効果が出ている、と胸を張っていた。ウェルド部分について詳しく分析したのか尋ねたところ、電子顕微鏡写真や光学顕微鏡写真を多数見せてくれた。
 
百聞は一見にしかず、という科学的なアプローチだった。しかし、見せていただいた写真からは何も分からなかった。カーボンの個数を数えてみたか尋ねたところ、それは難しい、と言われた。
 
確かに質問した当方もその場で数える気にはならない数である。しかし、品質データに表れている結果は、カーボンの個数がウェルド部分で多くなっている、と解釈しなければ説明できない現象である(注)。
 
すなわち、このベルトの周方向における抵抗ばらつきの問題は、ウェルド部分でパーコレーション転移が起きて抵抗が下がっている現象と推定され、顕微鏡写真では分散状態が同じようなので、導電相の個数が変化している、と科学的に推論を進めることができる。
 
しかし、多数のカーボンの粒子を数えるのは至難の技であった。また、数えられるように拡大したならば、全体の現象を捉えることができなくなる。
 
このような解析の科学的限界以外に、PPSに6ナイロンとカーボンとを一緒に混練しているにもかかわらず、顕微鏡写真に写っている像では、6ナイロン相内部にカーボンが取り込まれていないことを奇妙に思った。
 
当方のゴム会社における実践知では、二相に分離した場合、カーボンと親和性の高い相の内部に一部カーボンが取り込まれたりする。技が必要だが、親和性の高い相にすべてのカーボンを分散させることも可能である。
 
1990年代に読んだ論文でマトリックスが二相分離したときのカーボンの分散状態を議論している研究があった。この研究でも相談者が見せてくれたカーボンの分散状態だった。
 
その論文の著者に学会でお会いしたときにカーボンの分散が不十分ではないかと尋ねたら、大学の実験用ニーダーで混練した結果だから、と愛想の無い簡単な回答だった。
 

アカデミアの先生は混練プロセスで高分子の高次構造が変わったり、フィラーの分散状態が変わったりする現象に無頓着なのかもしれない。しかし実務では重要なことなのである。コンパウンドのモルフォロジーを科学的に考察する時には、混練プロセスや混練条件との関係を科学的に考察することが重要になってくる。真理が一つの科学で高分子のモルフォロジーは扱いにくい分野だ。
 

 

(注)単身赴任後、部下にカーボンの個数を数えさせたら、ウェルド部では1割ほどカーボンが多い、という結果が得られている。1割の違いで生じる抵抗変化ではないので、カーボン粒子間の接触抵抗も疑うことになり、面白いアイデアがその後生まれた。
 すなわち導電性粒子の接触抵抗は粒子間にかかる圧力で二桁以上変化する。これは、粒子間がわずかに離れていても電子はホッピング伝導で流れることができ、距離で電流が大きく変化するからである。高分子に分散した導電性粒子の接触抵抗は、その密度を上げたり、ひっぱたりすると変化させることができる。かつて酸化スズゾルの帯電防止層を研究していたときに、延伸しながら帯電防止層の電気抵抗を測定したことがある。このときパーコレーション転移前後で変化の様子は変わる(日本化学会講演賞受賞)が、やはり2桁以上変化した。この機能を用いると、コンパウンドの段階で1桁程度抵抗がばらついても、押出成形段階で引き取り速度を調整することにより、抵抗をスペックにあわせることが可能になる。
 これはノウハウのように思えるが、科学的に考えれば当たり前の方法である。しかし、この方法が使えるためには、カーボンの分散がソフト凝集状態でうまくクラスターを生成している必要がある。そうでない場合には、常時引き取り速度を変化させながら押出成形を行うことになる。この理由は少し考えていただくと分かる。ソフト凝集したカーボン分散状態を作り出す混練技術がノウハウとして重要である。これはゴム会社でセラミックスとゴムのハイブリッドの研究を行っていたときに獲得した技術である。

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2015.08/07 未だ科学は発展途上(17)

昨日はレーザープリンターの仕組みを簡単に説明したが、中間転写ベルトの性能は、周方向の抵抗偏差以外に基材の誘電率や表面の濡れ性など様々な因子に左右される。押出成形ではつきもののベルト表面の凹凸は、画質に致命的な影響を与える。
 
一つ一つの特性と画質との関係は、科学的推論からおおよそ見当がつくが、一部のパラメーターを除き数値シミュレーションできるところまで解明されていない。おそらくすべてを科学的に完璧に記述するのは不可能だろうと思われる。だからベルト開発で問題が起きたときには職人的発想が科学的なそれよりも大当たりする可能性が高い。ところが、6ナイロンとPPSの組み合わせは前任者が科学的推論を行い考え出したアイデアで問題解決も科学的に行っていた。
 
6ナイロンを数%添加したPPSの材料設計は科学的ではあるが設計者の願望が強い考え方だ。しかしこの仕事を相談されたときに、6ナイロンを選んでいたことにとりあえず感心した。そしてすぐに、科学的に正しくないが技術のチャレンジテーマとして面白い、6ナイロンをPPSに相溶させるという発想がひらめき、サラリーマン最後の仕事として請け負いたい、と思った(注)。
 
ところで、設計者の考え方はこうだった。絶縁体であるPPSを半導体にするためにカーボンを添加したペレットを一流のコンパウンドメーカーに作らせて研究していた。しかし、カーボンの分散が安定しないために、押出成形工程でカーボンが暴れ、ウェルド部分における抵抗ばらつきが異常に大きくなり、ベルトの周方向の抵抗偏差が2桁近くになる問題に遭遇した。
 
そこで、改善策として次の案を考えた。PPSに相溶しない6ナイロンを分散したならば、PPSが海で6ナイロンが島となる海島構造に相分離した高次構造となるだろう。また、カーボン表面には酸化されて生成したカルボン酸があるから、6ナイロンの島に吸着されカーボンの分散安定化を期待できる(これは科学的な願望である)。
 
ここで、6ナイロンがPPSに相溶しないで島相になるという考え方は、教科書にも書かれているフローリー・ハギンズ理論から科学的に正しいといえる。さらに海島の相分離高次構造で島を小さくしたいので島成分を少量添加としたところもよく勉強していると思った。またカーボン粒子表面にカルボン酸が生成していることは論文などに書かれており、彼が採用しているカーボンでは、表面にカルボン酸の多い素材だったので科学に忠実な仕事をする人だと感じた。
 
科学的に正しいと思われる推論でコンパウンドの材料設計をしたにもかかわらず、押出成形で製造したベルトでは期待通りの成果が現れなかった。さらに科学に裏切られる悲劇は続き、電子顕微鏡でベルトの高次構造観察を行っても6ナイロンの海島構造はできており、きれいな均一な構造になっている。カーボンの分散も画像として均一に見えるので、ベルト周方向の抵抗ばらつきが発生している原因がわからない、と言うのだ。
 
形式知だけで成立していない世界において科学一本槍で突き進むと裏切られる現実をご存じない純粋な人だと思った。転職する原因となった電気粘性流体の増粘の問題を相談してきた人もそうだった。形式知だけで成り立つ世界、例えば入試の数学の問題などは、科学的に考えなければ正解は絶対に出ない。しかしそのような世界でもエレガントな解答は実践知で生まれる。
 
その昔大学入試の模擬試験で複素数で計算すると容易に証明できる図形問題を時間が無かったのでベクトルを使い、たった3行で解答して正解となりとんでもない偏差値がレコードされた時にはびっくりした。ところが開発の現場では、時間が十分あっても暗黙知や実践知をフル動員しなければ問題解決できない場合が多い。また、科学的に解決困難な仕事を科学的に進めると否定証明に陥る話を以前紹介している。
 
この相談者の尊敬できる点は、科学的に考え科学的に解析して見通しの暗い結論が得られていても否定的な答えを絶対に出したくないともがいている点である。なんとしても6ナイロンとPPSの組み合わせで技術を完成させたいと当方に相談している。初対面にもかかわらず、当方なら絶対できる、とまで言い切る一途さである。さらには当方が仕事をやりやすいように相談者の役割まで交代してくれるといってきた。
 
後日分かったことだが、開発管理がステージゲート法で行われており、すでにファイナルステージに至り配合処方を変更することができない状態だったのが真相で、これまでのマネジメントも含め、この開発に成功する以外その人の出世の可能性が無くなるという状況だった。二つの会社の合併直後で管理職のリストラが進められている最中だったので、自ら役割を交代してでも、と言いきった点は並の部長ではない、と感じた。
 
どのような事情があっても、科学に反する技術で問題解決しようと決心した当方にはどうでもよい話だった。それよりもゴム会社の指導社員(新入社員時代)から頂いた宿題を定年間近に解決できるチャンスが偶然訪れたのがうれしかった。問題は、残された時間が半年しかない、という点だけだった。ただ、この時間の少なさはこれまでの開発経験を一人部屋でまとめた「研究開発必勝法」を試すのに好都合であった。

 

(注)以前倉庫として使用されていた部屋で一人住まいの見るからに不遇な状況だった。このような処遇でも会社に大きな貢献をするために相談者の問題を他社が追従できないぐらい最も高いレベルの技術で完成することである、と真摯に考えていたのだ(某社で昨年追い出し部屋問題が新聞で騒がれたが、定年間近に退職を促すような扱いを受けても騒ぐ話ではないのである。このような場合にサラリーマンならば追い出し部屋と考えるのではなく、まだチャンスを残してくれた、ととらえるべきである。そのように考えられないならさっさと会社を辞めるほうが精神衛生上良い。成果を軽視する会社もあればゴム会社のように人材を大切にする会社もある。それぞれの組織の風土である。また、芸が身を助け、という言葉があるように、成果を出した評判があればここで書いているようなこともおきる。)。これが科学ではなく技術の視点で問題をとらえた本当の理由である。科学のような形式知だけで商品を完成しても、他社が科学的に解析を進めれば簡単にリベールできる。分析や解析は科学で問題解決すると簡単であることは既に述べた。ところが暗黙知や実践知の塊の技術ならば容易にリベールできない。今メーカ-が目指すべきはそのような技術である。 当たり前の科学技術を開発しても特許で守られるのはせいぜい20年である。

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2015.08/06 未だ科学は発展途上(16)

カラーレーザープリンターの仕組みは、YMCKの4色のデジタルデータをレーザーで4つの感光ドラムに書き込み、それぞれのドラムにYMCK各色のトナー画像を形成する。そしてこれらを一度中間転写ベルトと呼ばれるベルト上に転写してトナー画像を完成させ、その後ベルトから紙にその画像を再転写し、定着工程で紙にトナーを溶融固定する。
 
各プロセスにおいてトナーの受け渡しは静電気の性質を利用しており、画像品質は各プロセスに使用されている半導体の部材品質とトナー品質に大きく影響を受ける。全行程のモデル材料による機能の科学的解明はされているが、実際の系は均質ではないので各プロセスの細部の誘電体の機能は複雑に変化する。
 
例えばトナーには粒度分布が、各部材には誘電率のばらつきなどが存在するが、それらの細かいばらつきが画像品質にどのような影響を与えるかは、未だ不明であり、新製品開発では、職人的技術が要求されたりする。
 
ところで、中間転写ベルトの抵抗の均一性は重要な品質項目であるが、ベルト全体で抵抗偏差が0という部材を量産することは不可能で、市販されているカラーレーザープリンターの中間転写ベルトには少なからず抵抗ばらつきやその他誘電率のばらつきが存在する。
 
高級機の中間転写ベルトは、導電性カーボンを分散したポリイミド(PI)溶液(ドープ)をベルト状の型にキャストするプロセスで製造されている。ドープには有機溶剤が含まれているので、カーボンをPIに均一分散しやすく、ベルトの周方向の抵抗偏差を小さくできる。
 
PIベルトの周方向の抵抗偏差は、0.8桁未満であり、画像品質は高い。しかし、有機溶媒を使用するので環境負荷が大きいだけでなく、高価となる。もしPIを熱可塑性樹脂に置き換えることができれば、大幅なコストダウンを達成できるだけでなく、LCA的にも優れた技術になる。
 
そこで、安価なカラーレーザープリンターには、熱可塑性樹脂製の中間転写ベルトが使用されているが、これは高級機に比較して、要求される画像品質がやや低いから可能となった。ベルトの周方向の抵抗偏差は、0.8桁を多少越えても良いので、導電性カーボンを分散した熱可塑性樹脂をベルト状に押出成形して使っている。
 
しかし、高級機である多機能印刷機に用いられる中間転写ベルトでは、PI並の品質を満たすベルトを熱可塑性樹脂で製造することは難しかった。それを非科学的な新たな技術で可能にした。PIと同等品質を目標にしたPPSベルトの印字品質はPIよりも高かった。

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2015.08/05 科学は未だ発展途上(15)

技術の知の体系、あるいは形態、構造体から具体的に表現される実体は、技術の成果物として現れる。ところが、人間が生み出した実体であるにもかかわらず、科学の知の体系で理解できない場合がある。例えば6ナイロンを相溶させたPPSを用いたカラー複合印刷機(電子写真)の中間転写ベルトがそれである。実際に某学会の技術賞では審査員から嘘だろう、間違っている、などと言われた。しかし、これは10年近くたった今でも安定に生産されている技術の成果物でインチキな代物ではない。

 

審査会場にはアカデミアの先生方もいらっしゃったが技術内容を理解できなかったようだ。この成果は中間転写ベルトだけでなく他のポリマーアロイにも利用可能な応用範囲の広い技術であり考え方である、と説明したが、科学の知の体系では理解が難しかった。やはり現代は科学という形式知からかけ離れた技術というものは理解されない時代なのだろう。

 

6ナイロンを相溶させたPPSは、カオス混合で混練後急冷して製造している。アモルファス金属の製造方法と同じ着想である。相溶という現象がアモルファス相だけで生じるという科学の情報と、カオス混合という実践知を結びつけた技術の成果であるが、フローリー・ハギンズの理論という科学の形式知では理解できない現象が起きている。

 

それでも実践知に自信があったので、豊川へ単身赴任しこれを完成させた。この事例は、科学の知の体系と技術の知の体系の違いを説明するのに適当な実体なので、やや自慢話になるが数日にわたり、裏話を書いてみる。

 

まず、この技術を創造しなければいけなくなった背景について。この欄で以前にも書いたが、中間転写ベルト用のコンパウンドを外部に頼み、押出成形技術の開発を行っていた担当者が豊川にいた。その後任として業務を引き継いだときに、外部のコンパウンドメーカーから「素人は黙っとれ」と言われたことがきっかけである。

 

確かに二軸混練機で樹脂を混練した経験など無かったので素人といわれても反論できず、その時黙って引き下がる以外にすべがなかった。しかし、外部のコンパウンドメーカーは科学の知の体系でコンパウンド開発に取り組んでおり、それでは問題解決できない、と懸念して新技術の提案をコンパウンドメーカーへしたのである。提案を理解しようとしないばかりか、頭ごなしに否定されたので、彼らに提案した技術を自分で開発する決心をした。

 

ところで提案した技術内容の実体は、自分でも科学的に怪しい内容と思っていた。それ以外に世の中に類似技術が存在しないので、外部のコンパウンドメーカーの担当者が怒るのも仕方がないことだと同情していた。しかし、当方の立場では、成功しなければ給料が下がるので、外部の力を早急にあきらめる決断をしなければいけなかった。
 

しかし、コンパウンド技術を社内で開発するとなると社内の説得が必要になる。特に実用化のためには他の開発部門や品証部門に今すぐ実体を示さなければならない。また実体が無ければ会社から設備投資も引き出せない。外部のコンパウンドメーカーから協力を得られなかったことで、技術の知の体系からどのように短期間で実体を生成するのか、あるいは自然現象から機能をどのように取り出すかということについて真剣に考えなければいけなかった。

 

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2015.07/11 おもちゃ

事務所の窓際に鉢植えが3つ飾ってある。実は、この鉢植え、太陽光が当たると動くおもちゃである。100円ショップで見つけて飾ってみた。太陽電池とムーブメントがついて100円という価格に驚かされた。

 

機能性高分子の開発は、高分子でも面白い分野の一つである。ただ難しいのは、その応用となる出口である。多数のアイデアが生まれ消えていった過去の歴史を思うと、今更夢の機能性高分子の開発など特別に面白い分野には見えない。しかし、研究としては高分子材料の可能性を考えるときに面白いテーマで高分子の年会にゆくと新しいアイデア提案が一つや二つ必ずある。

 

技術の応用分野というとすぐに産業用途に目を向けるが、おもちゃも新素材や新技術の重要なマーケットの一つと思う。昔新素材だったシリコーンゴムは大人のおもちゃへすぐに展開されバカ売れしたそうだ。そんなある意味ショッキングな話を若いときに聞かされて材料の応用分野として産業用途だけでなくおもちゃも考える習慣となった。

 

ただ、おもちゃの泣き所は昔のダッコチャンのように売れるときと売れないときの落差が大きいことだ。また売り方も大事だ。楽しいと思わせる仕掛けが重要になってくる。さらに楽しい以外に癒やしもおもちゃに必要な要素だ。

 

工業用品の機能は明確でニーズに合わせた商品を企画すれば必ずある規模で売れる。しかし、おもちゃは顧客の「楽しい」とか「癒やされる」という機能が抽象的であり、その売れ行きを見込んだ商品企画は難しい。コンピューターゲームですらそのトレンドが大きく変わりつつあり、事業環境が厳しくなっているという。おもちゃを企業で新規事業として立ち上げるのは難しいが、大学であれば教材も兼ねて事業として立ち上げる方法がある。

 
 
 
 
 
 

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2015.07/10 シリコーンゴム(3)

シリコーンLIMSは、1980年代に急速に普及したシリコーンゴムの技術である。ポリウレタンのRIMとよく似ているが、ポリウレタンと大きく異なるのは、低分子量のシリコーン化合物をA液とB液の二成分にわけ、それを混合して用いる点である。

 

A液とB液の二つの成分をスタティックミキサーや二軸混練機、一軸混練機などで混合して射出成形したり、注型後加熱して成形する。ミラブルタイプのシリコーンゴムよりも生産性が高いので一気に普及した。また、シリコーンメーカーの間で激しい技術開発競争が起き、特許には各メーカーの棲み分けがくっきりと描き出されている。

 

例えば信越、東レ/ダウ、モメンティブの御三家のLIMSは、A液B液にそれぞれ特徴があり、その結果各社技術の限界が存在する。どのような限界があるのか弊社に問い合わせていただきたいが、科学と技術の違いを学ぶのに良い題材である。すなわち科学では真理は一つだが、技術における機能実現の方法は一つではない、という典型例である。

 

多機能複写機の定着ローラにおけるシェアは、上記の順番であり、信越化学がトップである。LIMSの設計に無理が無い点が優位に働いているのだろう。しかし、死角は存在し、他の二社はそこを攻めれば勝てる可能性がある。単身赴任早々福建に出張しなければいけなかったのは、まさにその死角が原因だった。

 

シリコーンポリマーの分野は、原料を安価に調達可能な御三家の寡占状態だが、最近伸びているシリコーン製食器のように素材の市場は今でも拡大しているので、新規参入可能な分野に思える。また、20世紀に開発された、特許の権利が切れた技術を用いても物性の良いシリコーンゴムを提供可能なLIMSを開発可能である。

 

中間転写ベルトの開発を行いながら、単身赴任という気楽さもあり、粘弾性の測定装置を買い込んで研究をしてみた。ワークライフバランスが叫ばれているが、研究が趣味の場合に仕事との境界が怪しくなり、バランスの取り方が難しくなる。単身赴任は家族と離れて寂しい環境であったが、家族に気兼ねなく研究のできる時間がたっぷりあった五年間でもある。シリコーンゴムは辛い単身赴任の状態で一服の清涼剤の位置づけとなった。

 
 
 

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2015.07/09 シリコーンゴム(2)

(昨日からの続き)シリコーンLIMSを使用した定着ローラで品質問題が発生した。問題を解析するには一つの真理が保証される科学的方法が便利である。そこで科学的に原因を推定すると可能性のある3つの原因が考えられた。真理は一つなので、発生している問題の現象を科学的に解析するとこの3つ以外に無い、と考えたが、定着ローラを製造している会社の技術者から、この3つの原因を否定された。製造現場で技術的に何か複雑な現象があるのかもしれないと推定した。そこで、急遽現場を見るために単身赴任してすぐに福建へゆくことになった。

 

福建の工場の現場で新たな発見があった。定着ローラメーカーの技術者がシリコーンLIMSと言う材料を単なる経験だけでとらえており、過去に問題が無かったので今も問題が無い、と経験主義の技術者がよく陥る誤りを犯していた。

 

加硫工程のトンネル炉の中を覗いたところ、空気のゆらぎがおかしい。温度が均一ならば対流は簡単な目視で観察されないはずだが、空気層に明確な境界が存在するかのようなゆらぎが観察された。あきらかに下側数cmの領域の温度が低い!と直感で思いつき、トンネル炉の出口に指を突っ込んでみた。

 

180℃に設定されている、と聞いていたが熱くない。おそるおそる指を高い位置に移動してみたところ、30cm程度の高さで我慢ができなくなった。コンベアベルトを触ってみたところ生暖かい。そこで思い切って腕を突っ込んだところ、現場監督者が慌てて飛んできた。

 

やけどはしなかった。直感が正しく、ベルトから15cm程度は生ぬるい程度である。トンネル炉内部にはファンがついており空気を攪拌しているのでそれはおかしい、と一度否定されたが、目の前でほほえみながら腕を突っ込んでいる当方を見て、それ以上の議論へ発展しなかった。

 

なぜだ、ということになり、現場観察を行ったところ、エアコンの風向きが怪しい、と言うことになった。エアコンはその年の始めから設置されていたらしい。反対側にあるトンネル炉の入り口のコンベアベルトは、きわめて冷たかった。

 

トンネル炉内部の温度分布が不均一のため、定着ローラの端部において加硫不足が起きる現象を考慮しなければいけない。加硫不足は科学的に推定していた原因の一つだったが、技術者の経験では起こり得ない現象だった。エアコンが技術者の経験を狂わせていたのだ。定着ローラの品質故障が必ず端部で起きているという市場の問題と一致し、さらに故障した端部が濡れたようになっている現象を裏付ける大発見である。

 

科学で真理は一つだが、その真理を技術者の経験から否定したくなる場合がある。その時は現場で、科学の真理を頼りにその原因を探ると早く見つけることが可能となる。データとともに確定している科学の真理は揺るぎない。トンネル炉を覗いたら技術者の経験のように空気が揺らいでいた。

 
 
 

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2015.07/08 シリコーンゴム(1)

主鎖がSiOで構成されているシリコーンゴムは無機高分子の代表的素材である。工業的に使用されているのは、ミラブルタイプとLIMSタイプの二種類である。前者は、高分子量のシリコーンを架橋したゴムで、後者は低分子量体を反応させて高分子量化するとともに架橋を同時に進行させて製造したゴムである。

 

1980年代に普及が始まったシリコーンLIMSは、瞬く間にシリコーンゴムの主流になった。身近に接するシリコーンゴムの大半はシリコーンLIMSである。ただやっかいなのは、この分野の情報は特許情報が最先端であり、最近は科学論文であまり取り上げられない。理由は過去のシリコーンの科学でその理解ができるぐらいに20世紀に研究が進んだからである。

 

但し理解はできるが、技術内容が複雑なため誤解も多い。退職前の5年間PPS・ナイロン中間転写ベルト事業立ち上げのため、豊川へ単身赴任したが狐にだまされて転写ベルト以外に様々な仕事をすることになった。このシリコーンゴムの仕事もその一つだが、単身赴任してすぐに福建へゆくことになりびっくりした。

 

福建はウーロンティーで有名であるが中国マフィアの巣窟とも言われている。そこで定着ローラーを生産している日系企業の指導をすることになった。高分子学会の無機高分子研究会でシリコーンゴムについて勉強していたので予備知識があり苦労はしなかったが、困ったのは現場技術者の無理解である。技術として長年開発をやり続けてきた自信から、科学的知識を馬鹿にする。

 

科学では真理は一つだが、技術では技術者の数だけ真理が存在する。機能が実現できれば、その機能を支える自然現象の理解は自由だ。科学で理解を進めれば真理は一つになるが、技術者の勘と経験の世界からの理解では真理は技術者の数となる。当方は技術者の真理を尊重しているのに相手は科学の真理を馬鹿にする。これでは話が進まない。それで現場で説明をすることになり、福建へ急遽ゆくことになった(続く)。

 

 

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2015.07/05 ついでに昨日の続き

昨日高分子自由討論会で頭がすっきりした話を書いた。すっきりしたのはポリカーボネートの問題だけではない。ほかにもいくつかあるが、母校の名古屋大学の先生が発表された3元系の共重合体ブレンドの講演は、先日この欄で紹介したラテックス生産プロセスでひしゃくを使った問題の理解に役だった。

 

今は使用されていないが、30年以上前に開発された写真会社のラテックスAは4元系で奇妙な分子設計だった。勝手な想像だが、3元系ラテックスの混合物ができているのではないか、と疑っていた。

 

20年前当方が担当して開発したラテックスBも少し難しい4元系のラテックスだった。しかし、これは必ず4元系になるようにいろいろと工夫した。過去に開発されたラテックスがあまりにも複雑であり、自分が担当したからには、と意気込んだが、特許を回避しようとしていたら結局4元系の複雑なラテックスになってしまった。

 

ラテックスAの製造釜を覗くと、表面に光が当たった時にいつもきれいな模様が観察される。ゴム会社に勤務していたときに出席した塗料のセミナーで人間の目はナノオーダーまで見ている、という話を聞いた。実際にナノオーダーが見えているのかというとそうではなく、ナノオーダーレベルの構造を変化させたときに表面の模様の変化として人間の目が認識するという意味だ。

 

ラテックスAでは偶然結晶構造のラテックスが一部できていたのかもしれない。名大の先生の講演は開会直後の最初の講演でまだ眠くなるような位置づけではないが、難解でありさらに技術としてどのような応用が考えられるのか分からない科学の講演だった。しかし、一つの真理を示しており、その真理のおかげで、ひしゃくを使った思い出が居眠りをしている頭の中に描かれた。

 

昨今では技術として応用できない研究を軽視する風潮があるが、自然界の新しい真理を生み出す科学の研究は実用性が無くても重要である。なぜなら技術は自然界の現象から人間に有用な機能を取り出し活用する行為であり、自然界の理解が不可欠だからである。

 

技術では、必要であれば科学で理解できていない現象から取り出された機能でも使わなければいけない状況もある。そのような状況における技術開発では新たな科学が生み出される可能性があるのだが、ラテックスAの事例から分かるように、たいていはほったらかしになっているのが現実である。

 

そして開発した担当者が行方不明になれば、技術は単なる行為として伝承されるがその意味が不明のためノウハウとして生かされなくなる。以前科学と技術で書いたが、技術を正しく効率よく伝承するためにはその科学的理解が大切である。そのために真理を導き出してさえいれば、科学の研究はそれだけでも価値がある、というとらえ方はいつの時代でも必要ではないか。

 

ひしゃくの使用回数を5回とした昔の技術者が直感で優れた人物と感じたのは間違っていなかった。ラテックスAでは、ラテックスBよりも規則正しい構造ができる可能性が極めて高い。ラテックスBよりもラテックスAでは必然的に捨て材が多かったはずだ。

 

(補足)ラテックスの合成を経験されていない方にはさっぱり分からない内容かも知れない。またその経験のある方でも4元系などの複雑怪奇な系を合成されていない方には馬鹿な話に見えるのかもしれない。技術開発で組み立てられ機能を発揮しているシステムの中には、その機能がなぜ発揮されているのか不明の技術が製品に使用されている例、として読んでいただければありがたい。当方は半導体用高純度SiCの技術を開発後、このような技術について科学で説明できることと説明できないことを分類しながら技術開発を行ってきたが、材料技術には科学で説明できないことが大変多いことにびっくりしている。最後に担当した電子写真システムは帯電現象を情報の書き込みに利用している。すべての部品を単純化したシステムではそのメカニズムの説明に成功しているが、実際に使用されている部品は複合材料であり、その帯電現象は複雑怪奇である。例えば当方の開発に成功した中間転写ベルト(PPS/ナイロン/カーボンの設計は前任者。当方はプロセシング設計と立ち上げを担当)は、押出成形で製造されているにもかかわらず、キャスト成膜で製造されるPI並以上の性能を発揮している。なぜ性能が良いのか不明である。科学で未解明な現象から機能を取り出し利用するという行為は、科学成立以前、すなわちニュートンが生まれる前の時代に人間が営みとして行っていたヒューマンプロセスである。弊社ではこのヒューマンプロセスの見直しを行っている。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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